変形性膝関節症

関節軟骨
変形性関節症とは、関節軟骨の老化や磨耗によって起こる軟骨と骨の進行性の変性疾患(加齢的変化、老化現象)です。体重がかかる荷重関節(膝関節、股関節足関節脊椎)は、体重がかからない非荷重関節肩関節肘関節手関節)に比べ、変形性関節症の発生を多く認めます。関節軟骨とは、骨と骨が接する部分にある軟骨で、関節の動きを滑らかにし、衝撃を吸収する役割があります。関節軟骨は、軟骨細胞と軟骨基質(水分+プロテオグリカン+U型コラーゲンなど)よりなります。

関節軟骨には血管や神経がありません。したがって、軟骨の栄養源は血管からではなく、関節の袋の滑膜から分泌される関節液です。関節液には、ヒアルロン酸やタンパク質などの栄養素をたくさん含んでいます。ヒアルロン酸は潤滑作用を有し、摩擦を軽減させ、軟骨細胞の形成や修復を促しています。関節液は適度な圧迫(歩行や運動など)により、軟骨の中に浸潤して行きます。

人は加齢とともに骨はもろくなり、筋肉は弱くなり、靭帯は緩んでいきます。さらに、軟骨が摩耗すると、関節液からの栄養が途絶えて変性(老化)がはじまります。やがて、骨も変形し、変形性関節症になります。

 変形性膝関節症
 全身の関節の中で、膝は最も負担がかかりやすい関節です。歩行時は体重の2〜3倍、階段を降りる時は体重の8〜10倍、膝に負担がかかると言われております。そのため、膝は容易に変形性関節症を発症します。明らかな原因がない一次性と、明らかに原因のある二次性に分かれます。大半は一次性です。
●一次性:加齢(老化)を基盤として肥満や機械的刺激、環境因子、遺伝的因子など色々な要因が加わって発症すると考えられています。多くは中高年の女性で年齢と共に進行して行きます。
●二次性:関節の中に原因があって発生するもの(半月板損傷靭帯損傷関節内骨折など)と、関節の外に原因があって発生するもの(大腿骨近位部骨折大腿骨骨折下腿骨骨折など)に分かれます。

 症状
 変形性膝関節症の経過を車に例えると、エンジンの故障(エンジンオイルの汚れ、ブレーキパットの磨耗、ノッキング現象)やタイヤの磨耗現象によく似ています。新車はトラブルなく快適に走っていますが、中古車になるとエンジンの異常やタイヤの摩耗、外装の老朽化(塗装が錆びる)が進み、やがて廃車になる過程に似ています。

初期の症状は、歩行開始時の痛みです(早朝、車のエンジンのかかりが悪い状態です)。大半が膝の内側の痛みです(左右、どちからのタイヤが摩耗する状態です)。やがて、歩行時痛や階段を降りる時に痛みを訴えます。また、関節水腫を認めます(エンジンオイルが汚れた状態です)。さらに、正座が出来なくなったり、膝が伸びなくなったりします(ノッキング現象です)。次第に、ぐらぐらした不安定な膝となり、歩行が困難となります(廃車前の状態です)。最後に、ロコモになります(事故を起こす寸前の状態です)。これらの変化は肥満によって加速度的に進行します(一人乗りと違って、多人数が乗るとエンジンやタイヤの摩耗が進行する状態です)。

 診断
 レントゲン検査です。変形の所見として、関節裂隙の狭小化(軟骨が磨り減り、関節のすき間が狭くなる)、骨棘形成(骨のとげ)、硬化像(骨が変に硬くなる)を認めます。大半がO脚です。膝の内側の軟骨、骨が壊れて、進行すると外側の軟骨、骨や膝蓋骨(お皿)も破綻していきます。時に、X脚を認めることもあります。詳細な情報取集(軟骨、骨、半月板、靭帯などの状態)にはMRIが必要です。

 治療
(リハビリテーション・注射療法・薬物療法・手術的療法
リハビリテーション
リハビリテーションは変形性膝関節症の治療であり予防です。リハビリテーションには物理療法運動療法(運動器リハビリテーション)があります。物理療法は、疼痛緩和や血行改善、筋肉の緊張を緩和することが目的です。運動療法は、膝周りの筋肉(特に大腿四頭筋)をストレッチと筋力強化を行い、関節軟骨や骨への負担を軽減することが目的です。膝関節を鉄筋コンクリートに例えると、コンクリートは筋肉、腱、靭帯です。鉄筋は骨、軟骨です。

鉄筋コンクリートが壊れる際は、まず最初に、コンクリートにヒビ(亀裂)が入ります。その後、雨水がその亀裂を通じて鉄骨に侵入します。鉄骨は雨水によって酸化され腐ります。やがて建物は壊れます。したがって、この破壊を防ぐために、雨漏りの修理(コンクリートの補強)が必要です。変形性膝関節症に置き換えると、コンクリートの補強は大腿四頭筋のストレッチングと筋力強化です。大腿四頭筋を強化することで軟骨、骨の破壊や進行を予防できます。それゆえ、運動療法は変形性膝関節症の治療や予防に非常に大切です。日々、股関節のストレッチング膝関節のストレッチング股関節の筋力強化膝関節の筋力強化を行って下さい。

また、内反膝のある症例では進行防止にインソール、装着式装具(靴の中に入れる中敷きで、痛みのある内側の関節に、出来る限り体重が乗らないようにする装具)を使用していただきます。さらに、最も大切なことは肥満解消です。全身の関節の中では、膝は最も負担がかかりやすい関節です。歩行時は体重の2〜3倍、階段を降りる時は8〜10倍膝に負担がかかると言われております。肥満のある方は解消して下さい。
注射療法
注射療法はヒアルロン酸注射とステロイド注射に分かれます。ヒアルロン酸注射は、関節軟骨の保護や関節の動きの改善、関節水腫(水が溜まる状態)の改善、疼痛緩和の目的で使用されます(車に例えると車のエンジンオイルの交換です)。ステロイド注射は、炎症が強いときに一次的に使用されます。ただし、膝関節は荷重関節であるため、体重による機械的刺激で、さらに軟骨の損傷を増悪させますので、出来るだけステロイド注射の使用は控えます。
薬物療法
疼痛緩和にアセトアミノフェン、炎症緩和に非ステロイド系抗炎症剤外皮用薬などを処方します。効果がなければトラマドール塩酸塩デュロキセチンなどを検討します。
手術的療法
手術的療法は高位脛骨骨切り術、人工関節単顆置換術、人工関節全置換術があります。
@高位脛骨骨切り術とは、内反膝の症例に行われます。内側の関節軟骨が傷めば、正常な外側の関節で体重を支えようという発想です。O脚を多少X脚に矯正する手術です。ただし、体格指数(BMI)35以上の高度肥満者は、骨切り術の長期成績があまりよくないと言われています。(なお、BMI22が正常です)。
A人工関節単顆置換術とは、人工関節を片側のみ行う人工関節です。外側の関節が正常で、内側のみ高度に傷んでいる症例に行われます。
B人工関節全置換術とは、内側、外側ともに高度な変形を認める症例に行われます(車に例えると、エンジン交換や全タイヤ交換のようなものです)。しかし、人工関節には耐用年数があります。適応は年齢や職業、趣味、基礎疾患、環境因子、体格指数を考慮して決定されます。

 たはら整形外科