十字靭帯 膝関節は前後の動揺(ぐらつき)を防ぐために、十字の形をした2本の十字靭帯、すなわち前十字靭帯と後十字靭帯が存在します。前十字靭帯は小指程度の大きさです。後十字靭帯は親指程度の大きさです。前十字靭帯の方が後十字靭帯より強度も弱いため、前十字靭帯の損傷を多く認めます。 前十字靭帯損傷はバレーボールやバスケットボール、スキー、体操などあらゆるスポーツ活動中に発生します。一方、後十字靭帯損傷は強い外力(交通事故や労災事故など)で発生します。また、十字靭帯損傷は他の靭帯損傷や半月板損傷をよく合併します。 ●前十字靭帯損傷(ACL損傷) 前十字靭帯は大腿に対して下腿が前方に移動する動きを制御しています。したがって前十字靭帯が損傷すると、下腿が大腿に対して前方へ移動することになります。大半はスポーツ中のジャンプの着地時や急な減速や方向転換の際に、膝関節に外反ストレスと下腿の内旋、前方移動が加わって発生します。解剖学的特性より女性に多く、男性の2〜3倍程度と言われています。 症状 受傷時に断裂音(ポキッなど)を認めると同時に痛みや腫れ、運動障害、歩行障害を訴えます。陳旧例(時間が経過した症例)は関節の不安定性や膝崩れ現象(膝が抜ける感じ)、脱臼感を訴えます。 診察 膝の不安定性の検査(ラックマンテストや前方引き出しテストなど)が陽性となります。関節が腫れているので穿刺すると関節内血種(関節の中に血液)を認めます。なおスポーツ活動中に起こる関節内血腫は70%程度、前十字靭帯損傷を認めると報告されています。 診断 レントゲン検査で下腿を前方へ引き出すようなストレスをかけると不安定性が確認されます。時に靭帯の付着部で剥離骨折を認めることもあります。診断はMRIです。診断率は90%と言われています。大半は内側側副靭帯損傷や半月板損傷を合併しています。確定診断は関節鏡です。 治療 保存的治療(手術しない方法)と手術的治療に分かれます。 1)保存的治療 急性期はライスの処置を行います。保存的治療は部分損傷例や小児や高齢者の症例です。軟性サポーターや硬性装具を着用をすすめます。早期より筋力強化訓練を行います。ただし前十字靭帯損傷は自然治癒能力が弱いため成績はあまりよくありません。また将来、半月板損傷や変形性膝関節症の発症を招くことがありますので、保存的治療には限界があります。青壮年やスポーツ愛好家は積極的に手術が行われます。 2)手術的治療 関節鏡視下自家腱再建術(自分の膝周囲の腱である半腱様筋腱や薄筋腱、骨付き膝蓋腱)を用いた靭帯再建術が検討されます。移植した腱が靭帯化するまで8ヶ月〜1年程度と言われています。スポーツ復帰は1年前後となります。また、手術後の再断裂や反対側の断裂が30%程度に発生すると報告されています。なお小児の症例では骨端線(成長線)があるため手術の適応に慎重を要します。 ●後十字靭帯損傷(PCL損傷) 後十字靭帯は大腿に対して下腿が後方に移動する動きを制御しています。したがって後十字靭帯が損傷すると下腿が大腿に対して後方へ移動することになります。交通事故の際にダッシュボードで下腿前面を強打した際やラブビーなどのスポーツで下腿前面にタックルされた時に前方からの強い外力で損傷します。 症状・診断 打撲した下腿前面の痛みや膝の後面(後十字靭帯の付着部)の痛み、腫れ、運動障害、歩行障害です。陳旧例では関節の不安定性や脱臼感を訴えます。診察では下腿が後方に落ち込み、関節の不安定性検査(後方引き出しテスト)などが陽性となります。関節穿刺すると関節内血腫を認めます。レントゲン検査で下腿を後方へ押し込むストレス撮影で不安定性が確認されます。時に靭帯付着部に剥離骨折を認めることもあります。詳細な情報収集にはMRIやCT、関節鏡が必要です。 治療 保存的治療と手術的治療に分かれますが、後十字靭帯損傷は前十字靭帯損傷に比べて日常生活動作にあまり支障を来たすことはありません。大半は保存的治療です。安静の目的でギプス包帯や装具療法を行います。さらに早期より筋力強化訓練を行います。なお、青壮年で動揺性(ぐらつき)の激しい症例は後十字靭帯再建術が検討されます。
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