前・後十字靭帯損傷
十字靭帯
膝関節は前後の動揺(ぐらつき)を防ぐために、十字の形をした2本の十字靭帯、すなわち前十字靭帯後十字靭帯が存在します。後十字靭帯は親指程度の大きさで、前十字靭帯は小指程度の大きさです。前十字靭帯の方が小さく、強度も前十字靭帯が弱いため、前十字靭帯の損傷例をより多く認めます。

前十字靭帯損傷はバレーボールやバスケットボール、スキー、体操などあらゆるスポーツ活動中に発生します。一方、後十字靭帯損傷は交通事故や労災事故の際に生ずる強い外力で損傷します。また、十字靭帯損傷は他の靭帯損傷半月板損傷をよく合併します。

前十字靭帯損傷(ACL損傷)
前十字靭帯は、大腿に対して下腿が前方に移動する動きを制御しています。したがって、前十字靭帯が損傷すると、下腿が大腿に対して前方へ移動することになります。スポーツ活動中の損傷の大半はジャンプで着地した時や急な減速や方向転換の時に起こります(膝に外反ストレスと下腿の内旋に前方移動が加わった時に発生します)。女性に多く(解剖学的な特性による)。男性の2〜3倍です。

症状:受傷時に雑音(ポキッ、ブチュ、グキッ)を認め、痛みや腫れ、運動障害、歩行障害を訴えます。陳旧例(時間が経過した症例)は、関節の不安定性や膝崩れ現象(膝が抜ける感じ)、脱臼感を訴えます。診察は膝の不安定性の検査(ラックマンテスト前方引き出しテストなど)が陽性です。関節を穿刺すると関節内血種(関節の中に血液)を認めます。なお、スポーツ活動で関節血腫を認めた際は、4分の3にACL損傷を認めると報告されています。

診断:レントゲン検査で下腿を前方へ引き出すようなストレス撮影で不安定性が確認されます。時に、靭帯の付着部で脛骨剥離骨折を認めることもあります。診断はMRIです。診断率は90%前後と言われています。大半は内側側副靭帯損傷半月板損傷を合併しています。詳細な情報収集には関節鏡が必要です。

治療:保存的治療(手術しない方法)と手術的治療に分かれます。保存的治療は、部分損傷例や小児や高齢者の症例です。軟性サポーター硬性装具を着用していただきます。早期より筋力強化訓練を行います。ただし、前十字靭帯損傷は自然治癒能力が弱いため、将来、半月板損傷変形性膝関節症の発症を招きます。保存的治療には限界があります。青壮年やスポーツ愛好家の症例は積極的に手術が行われる傾向にあります。

手術的治療は、関節鏡視下自家腱再建術(自分の膝周囲の腱である半腱様筋腱や薄筋腱、骨付き膝蓋腱)を用いた靭帯再建術が検討されます。移植した腱が靭帯化するまで6ヶ月〜1年程度を要します。スポーツ復帰は1年前後となります。また、手術後の再断裂や反対側の断裂が30%程度に発生すると報告されています。なお、小児例では骨端線(成長線)の存在のため、手術の適応には慎重を要します。


後十字靭帯損傷(PCL損傷)
後十字靭帯は、大腿に対して下腿が後方に移動する動きを制御しています。したがって、後十字靭帯が損傷すると下腿が大腿に対して後方へ移動することになります。交通事故の際にダッシュボードで下腿前面を強打した際、ラブビーなどのスポーツで下腿前面にタックルされた際に、前方からの強い外力で損傷します。

症状:打撲した下腿前面の痛みや膝の後面(後十字靭帯の付着部)の痛み、腫れ、運動障害、歩行障害です。陳旧例では関節の不安定性や脱臼感を訴えます。診察では下腿が後方に落ち込み、関節の不安定性検査(後方引き出しテストなど)が陽性です。関節を穿刺すると血腫を認めます。レントゲン検査で下腿を後方へ押し込むストレス撮影で不安定性が確認されます。時に、靭帯付着部に剥離骨折を認めることもあります。診断はMRIです。詳細な情報収集には関節鏡が必要です。

治療:保存的治療と手術的治療に分かれます。後十字靭帯損傷は前十字靭帯損傷に比べて日常生活動作にあまり支障を来たすことはありません。大半は保存的治療します。安静目的でギプス包帯装具療法を行います。早期から筋力強化訓練を行います。青壮年で動揺性(ぐらつき)の激しい症例は後十字靭帯再建術が検討されます。

 たはら整形外科