胸郭出口症候群

頸椎の構造
頚椎は7個の椎骨からなり、前方部分と後方部分で構成されています。前方部分は椎体と椎間板、ルシュカ関節、横突起よりなります。後方部分は椎弓根と椎弓、椎間関節、棘突起より構成されております。前方部分と後方部分で囲まれたスペースを脊柱管(頚髄が通っている管)と言います。脊柱管の中には頚髄首の脊髄)が存在し、頚髄から左右8対の頚神経が枝を出しています。頚髄から枝分かれした一部の頚神経は、一塊となって腕神経叢を形成します。

胸郭出口症候群とは、この腕神経叢と周囲の血管(鎖骨下動脈、鎖骨下静脈)が胸郭出口部で、骨(頚肋、鎖骨、第一肋骨)や筋肉(前斜角筋、中斜角筋)によって、圧迫および牽引されて起こる症状を言います。分かりやすく言いますと、胸郭出口部とは、首の神経(頚神経)が腕神経叢に移行して上肢(腕)に下る際の関所のような場所と考えて下さい。この関所の入り口や出口が狭いと、神経や血管が圧迫されて首の痛みや肩の痛み、腕の痛み、背中の痛み、頭痛、肩凝り、しびれ、冷感など様々な症状を発生させます。

さらに、腕神経叢は周囲の交感神経と複雑なネットワークを構築しています。そのため自律神経様症状を訴えることもあります。女性では20〜30代に多く、なで肩で頚部周辺の筋肉の発育が悪い人によく認められます。頚部周辺の筋力が弱いと、腕神経叢が腕の重さに耐えかねて胸郭出口部で引っ張られ神経炎を発生させます。逆に、男性の場合は中高年で、怒り肩や筋肉質の首の短い人に多く認められます。この様な方は、腕神経叢や血管が周囲の組織で圧迫され、神経炎や血行障害が生じて起こると考えられています。

診断:誘発テストです。すなわち、胸郭出口部が最も圧迫や牽引されるポジションにして、症状の再現性をチェックするテストです。Morley test 、Adson test 、Eden test 、Wight test 、Roos testなどがあります。レントゲン検査では骨の形体異常(頚肋)や頚椎の不良姿勢を検討します。一般的に十分な問診や視診、症状の再現性の有無により診断は比較的容易です。なお、頚肩腕症候群頚椎症などの鑑別(見極め)が必要です。

治療:まず日常生活動作の注意点を指導します。すなわち、腕を下げて行う作業や首の不良姿勢で行う作業は出来るだけ避けて頂き、重たい物を持ったり、挙げたりしないように指導します。リハビリテーションとして物理療法頸椎牽引など)と運動療法(ストレッチング筋力強化訓練)を指導します。また、装具療法として肩甲帯支持バンドを着用させ、腕神経叢の緊張を取り除きます。疼痛緩和にアセトアミノフェン、炎症緩和に非ステロイド性抗炎症剤外皮用薬を処方します。自律神経様の症状には短期間の抗不安剤を検討します。頑固な症例には神経障害性疼痛薬を使用します。また、神経ブロック療法として星状神経節ブロック肩甲上神経ブロック腕神経叢ブロックを考慮します。

しかし、これらの治療で改善されなければ手術的治療の適応となります。近年、鏡視下手術で神経や血管、筋肉の癒着剥離と第一肋骨摘出術が行われます。10〜30歳の患者さんで良好な成績が報告されています。

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