膝の滑液包炎 ベーカーのう腫・膝蓋前滑液包炎・鵞足滑液包炎
膝の周囲には15個程度の滑液包があります。滑液包は関節内の滑膜に似た組織です。滑液包の作用は、腱や靭帯から受ける衝撃を吸収し、摩擦を軽減し、機械的な刺激や圧迫を緩衝しています。しかし、何らかの原因で滑液包が炎症を起こすと、反応性に滑液が増え、脹れや痛みを引き起こします。

大半の原因は、打撲などの外傷やスポーツ傷害、使い過ぎ、変性(変形性膝関節症半月板損傷)などが誘因となって起こります。しかし、中には、感染疾患や炎症性疾患(痛風関節リウマチなど)によって起こることもあります。膝周辺の代表的な滑液包炎として、ベーカーのう腫、膝蓋前滑液包炎、鵞足滑液包炎などがあります。

べーカーのう腫
ベーカーのう腫とは、膝窩部(膝のうら)の腓腹筋、半膜様筋滑液包が何らかの原因で炎症を起こし、関節包内に異常に滑液を産生する疾患です。症状は膝窩部の脹れです。痛みを訴えることは少なく、膝の屈曲時に圧迫感や違和感を訴えることがあります。時に、巨大化して周囲の血管や神経を圧迫すると痛みや腫れ、下腿静脈炎などを起こすこともあります。

症状がなければ治療しません。しかし、痛みや運動障害を認めれば穿刺して滑液を取り除きます。手術的治療は、のう腫摘出術です。しかし、手術侵襲が大きく、時に、再発を認めることもあります。大半のベーカー嚢腫は、膝の関節腔とつながっており完全に取り除くことが困難なことがあります。手術の適応は慎重にされて下さい。

膝蓋前滑液包炎
膝蓋前滑液包炎とは、打撲や機械的な刺激(膝立ちやお皿をこする作業)などで膝蓋前滑液包(お皿と皮膚の間にある滑液包)が炎症を起こし、滑液が溜まる疾患です。大半は腫れを認めるのみで痛みはありません。しかし、巨大化すると、握り拳程度の大きさとなり、外見上や日常生活動作に支障を来します。

治療は保存的療法(手術しない方法)が原則で、滑液を穿刺で経過観察いたします。しかし、頑固な症例はドレナージ法(小さな切開を加え、チューブを滑液包内に挿入し、常に滑液を排液することで滑液包を癒着させる方法)や滑液包摘出術を検討します。時に、化膿性膝蓋前滑液包炎を経験することがあります。このような症例は洗浄して抗生物質の投与を行ないます。効果がなければ切開排膿(切って膿を出す手術)や病巣掻爬術(滑液包摘出術)を行ないます。

鵞足炎、鵞足滑液包炎
鵞足(ガソク)は大腿部後方にある縫工筋と薄筋と半腱様筋の3つ腱から構成され、脛骨粗面の内側部に付着しています。あたかも「ガチョウ足」に似ていることより鷲足と命名されました。鵞足炎はスポーツ活動や外傷(ケガ)後や膝の変形(変形性膝関節症O脚X脚)や腫瘍(脛骨外骨腫ガングリオン)などにより鵞足部が炎症を起こした状態です。鷲足の下部には鵞足滑液包が存在するため、大半が鵞足滑液包炎を合併しております。症状は鵞足部の痛みや腫れで、運動で増悪します。

治療は保存的治療が原則です。物理療法(スポーツ後はライスの処置を勧めます)や鷲足のストレッチングを指導します。急性期は痛みを誘発するような動作を控え、炎症緩和に非ステロイド性抗炎症剤外皮用薬などを処方します。効果がない症例はステロイド腱内、滑液包内注射を試みます。再発を繰り返す慢性例は、鵞足部に負担がかからないインソールを試みます。なお、原因が外骨腫やガングリオンなどの症例は、腫瘍摘出術を検討します。

 たはら整形外科