関節リウマチ

関節リウマチとは
関節リウマチは免疫の異常により関節の滑膜に炎症を起こし、軟骨と骨を破壊する病気です。時に他の臓器(血液や皮膚、眼、肺臓、腎臓、神経など)に炎症を引き起こすこともあります。原因は明らかではありませんが、遺伝的要因60%に加え+αとして外的環境因子40%(細菌やウイルス感染、喫煙、ストレス、手術、出産や閉経時のホルモン異常、歯周病など)を契機に免疫異常が生ずる自己免疫疾患と考えられています。

免疫とは細菌やウイルスなどの外敵と戦う生体の防御反応を言います。免疫異常とは自分の細胞を敵とみなし、自身の細胞を痛めてしまう状態を言います。遺伝的要因+α=免疫異常反応→関節リウマチが発生するようです。


免疫異常により炎症性サイトカイン(TNFαやIL-6など)が関節の滑膜(関節の袋)に発生し、滑膜炎を起こします。さらに滑膜炎が長期におよぶと、軟骨や骨に波及し関節全体を破壊します。その結果、関節は変形や機能障害を起こして日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下をまねきます。

現在、関節リウマチの患者さんは80万人(2022年)存在すると試算されています。全年齢に認められますが、女性に多く(男性の3~4倍)、30~50歳代に発生のピークを向かえます。最近では65歳以上の高齢者の発症も見かけます。発症時期は冬から春にかけて多く、夏の発症は少ないようです。なお16歳以下の若年者に発生した場合は若年性特発性関節炎と言います。


症状と経過
初期症状の大半は関節炎(関節痛や関節の腫れ、朝のこわばり)で、時に微熱や倦怠感、食欲不振、体重減少、リンパ節の腫れを訴えることもあります。発症時の関節炎は対称性であることは少なく、経過とともに関節炎の数が増え数週間から数ヶ月間かけて左右対称性の多発性関節炎となります。

手指の
PIP関節やMP関節で第2指や第3指に多い傾向がありますが、足趾などの小さな関節から膝や股、肘などの大きな関節へと進みます。時に膝などの大関節から初発することもありますので要注意です。

また関節リウマチは、全身性の炎症性疾患ですから関節以外の症状が現れることもあります。血液(貧血など)や皮膚(皮下結節など)、眼症状(上強膜炎、強膜炎など)、肺疾患(胸膜炎、間質性肺炎、肺線維症など)、心疾患(心膜炎など)、腎疾患(アミロイドーシスなど)、末梢神経障害(手根管症候群など)を合併することがありますので要注意です。関節リウマチの症状は寛解と再燃(良かったり悪かったり)を繰り返すといわれますが、一般的に3つのパターンがあります。
1)初期に炎症を認めるも、次第に症状が軽快するタイプ
2)長年にわたり炎症を呈し、寛解と再燃を繰り返すタイプ
3)炎症が持続し、次第に悪化するタイプ
早期診断し適切な早期治療がなされれば、治る症例も沢山あります。以前のような不治の病気ではなくなりました


検査
炎症の検査
①末梢血液:赤血球、白血球、血小板などで炎症の状態を評価する。
②血沈:組織の炎症や破壊を評価する。
③CRP:組織の炎症や破壊を評価する。
④MMP-3:滑膜で産生される酵素で関節滑膜炎と高値になります

自己抗体検査

①リウマトイド因子:IgGに生じた自己抗体です。関節リウマチの80%程度認められます。関節リウマチの活動性や治療効果の判定になります。
②抗CCP抗体:抗CCP抗体は、炎症を起こした滑膜のあるシトルリン化ペプチドと言うたんぱく質に対する自己抗体です。関節リウマチの人の90%この抗体をもっています。抗体陽性例は、関節破壊が進行性で予後不良と考えられています。
③抗核抗体
④免疫グロブリン:補体検査 IgG、IgA 、IgM、 C3、C4
⑤感染症検査:HBs抗原、HCV抗体
⑥間接性肺炎検査:KL-6、SP-D
なお、リウマトイド因子や抗CCP抗体が陰性の関節リウマチ(血清反応陰性リウマチ、ゼロネガティブのタイプも10~20%ありますので要注意です

画像検査
①レントゲン検査:骨びらん、骨委縮、関節裂隙狭小化のチェック。
②超音波検査:関節腫脹、滑膜炎のチェック。
③MRI:骨炎、骨髄浮腫のチェック。


診断
米国・欧州リウマチ学会の診断基準(2010)が一般的です。
罹患関節数 (症状がある関節の数)
①大関節1か所:0点
②大関節 2~10か所:1点
③小関節1~3か所(大関節の有無を問わない):2点
④小関節4~10か所(大関節の有無を問わない):3点
⑤11か所以上(1か所以上の小関節を含む):5点
※大関節とは:肩、肘、股、膝、足
※小関節とは:手、2~5指PIP、MCP、母指IP、2-5趾MTP

血清学的検査
リウマトイド因子や抗CCP抗体
①ともに陰性:0点
②いずれか低値陽性:2点
③いずれか高値陽性:3点
※低値陽性:正常の3倍以下
※高値陽性:正常値の3倍以上

急性期炎症反応
CRPや赤沈値
①ともに正常:0点
②どちらか異常:1点

症状の持続期間
①6週未満:0点
②6週以上:1点
罹患関節数や血清学的検査、急性期炎症反応、症状の持続期間を点数化し合計点数で診断します。合計6点以上で関節リウマチと診断されます。鑑別診断に膠原病や脊椎関節炎、リウマチ性多発筋痛症各種の変形性関節症乾癬性関節炎痛風・偽痛風などがります。


参考までに、以下のような診断基準がありました。
アメリカリウマチ学会(1987年)
①朝のこわばり:1時間以上、6週間以上続く
②3箇所以上の関節炎:6週間以上続く
③手関節、中手関節、近位指節間関節の関節炎:6週間以上続く
④左右対称性に関節炎:6週間以上続く
⑤レントゲン異常:手関節、指関節の骨びらん
⑥リウマトイド結節
⑦血清リウマトイド因子
以上の7項目の内4項目以上で診断されていました。しかし、この診断基準は早期関節リウマチの診断に不向きで、日本リウマチ学会や厚労省研究班からあらたな基準がでました。

日本リウマチ学会(1994年)
①3つ以上の関節の圧痛と運動痛 
②2つ以上の関節の腫れ 
③朝のこわばり 
④リウマトイド結節 
⑤CRP陽性・血沈値が20mm以上 
⑥血液検査でリウマトイド因子がある
以上の6項目の内、3項目以上で早期関節リウマチと診断されていました。

厚労省研究班による早期関節リウマチ診断基準(2005年)
①抗CCP抗体、またはリウマトイド因子(2点)
②対称性手、指滑膜炎をMRIで確認(1点)
③骨びらんをMRIで確認(2点)
以上の3項目の内、3点以上あて早期関節リウマチと診断されていました。


薬物療法
MTX ・csDMARDs・boDMARDs・tsDMARDs
1)MTX(商品名:リウマトレックス、メトレート、メソトレキセートなど
薬物療法の基本はMTXです。MTXは葉酸拮抗剤です。MTXはDNAの合成に必要な葉酸代謝酵素を阻害し細胞増殖を抑える作用があります。関節リウマチにおいては炎症細胞の増殖を抑え、関節炎を鎮静化する目的で使用されます。

MTXは1週間に1錠(2mg)~8錠(16mg)まで使用されます。一般的に3錠~4錠より開始します。症状に応じて増減します。しかし用量依存性に副反応も出現します。要注意です。

高齢者や低体重、低アルブミン血症、腎機能障害のある方は、副反応の発現頻度が高くなります。禁忌は妊婦や授乳中、妊娠の可能性のある方や重症感染症、血液やリンパ系疾患の有ある方、著しい白血球減少(3000以下)や血小板減少(5万以下)の方、ウイルス性肝炎、肝硬変のある方、腎障害を有する患者(eGFR30以下)さんなど方です。


なお、葉酸は細胞増殖に必須なビタミンです。MTXの投与により葉酸の作用が抑えられると口内炎や吐き気、下痢、肝機能障害などの副作用が出現することがあります。そのため、副作用防止に葉酸(フォリアミンなど)を飲んでいただくことになります。

2)csDMARDs(抗リウマチ薬)
csDMARDには、サラゾスルファピリジン(商品名アザルフィジンEN)やブシラミン(リマチル)、イグラチモド(ケアラム)、金塩類(シオゾール)、ペニシラミン(メタルカプターゼ)、ロベンザリット(カルフェニール)、アクタリット(オークル)、ミゾリビン(ブレディニン)、レフルノミド(アラバ)、タクロリムス(プログラフ)などがあります。

3)bDMARD(生物学的製剤)
bDMARDは、関節に炎症を引き起こす原因となる炎症性サイトカイン(TNFやIL‐6など)の発生作用を抑える薬です。免疫異常を正常化し関節の炎症を沈静化させ、関節破壊を抑える薬でサイトカイン阻害薬と言われます。TNF阻害薬、IL-6阻害薬、T細胞活性化調節薬などがあります。現在、3種類9製薬があります。

なお、サイトカインには炎症性サイトカイン(炎症を引き起こすサイトカイン)と抗炎症性サイトカイン(炎症を抑えるサイトカイン)とがあります。健常者では両者のバランスが保たれていますが、関節リウマチでは炎症性サイトカインが優位産生されています。TNFは免疫や炎症に関与しているタンパク質で、IL- 6は骨を破壊する破骨細胞を活性化させる役割をもつタンパク質です。ともに関節の炎症や破壊の原因になります。
①TNF阻害薬
インフリキシマブ(商品名レミケード)やエタネルセプト(エンブレル)、アダリムマブ(ヒュミラ)、ゴリムマブ(シンポニー)、セルトリズマブペゴル(シムジア)、オゾラリズマブ(ナノゾラ)があります。

②IL-6阻害薬
トシリズマブ(商品名アクテムラ) 、サリルマブ(ケブザラ)があります。

③T細胞活性化調節薬にはアバタセプト(オレンシア)があります。
これらのお薬は高額です。最近では、安価な後発品bsDMARDs(バイオシミラー)にインフリキシマブやエタネルセプト、アダリムマブなどがあります。安いもので3割負担で月に15000円程度です。

4)tsDMARD(JAK阻害剤)
トファシチニブ(商品名ゼルヤンツ)やバリシチニブ(オルミエント)、ペフィシチニブ(スマイラフ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、フィルゴチニブ(ジセレカ)などがあります。

生物学的製剤(TNF阻害薬や IL-6阻害薬)などは、一つのサイトカインに働いて炎症を抑えるのに対して、JAK 阻害薬は複数のサイトカインに対して細胞内にあるJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素の働きを抑えて炎症や関節破壊を抑えるお薬です

生物学的製剤は高分子の蛋白質のため、飲んでも消化され効果が発揮できません。点滴か皮下注射での使用となります。それに対してJAK 阻害薬は低分子化合物なので経口摂取が可能です。患者さんにとって利便性があります。また効果発現が比較的早いことや有効性が高いと言われています。なお、経口薬ですから腎機能障害や肝機能障害に注意を要します。


日本リウマチ学会の治療指針(2024年)
1)フェーズ1
MTX単独やcsDMAED単独、 MTX+csDMAEDの併用で治療します。6か月以内に治療目標が達成できなければフェーズ2に移行します。

2)フェーズ2
MTX併用する場合と、MTX併用しない場合に分かれます。
➀MTX併用する場合
MTX+bDMARDやMTX+JAK阻害薬、 MTX+bDMARD+csDMARD、 MTX+JAK阻害剤+csDMARDで治療します。
②MTX併用しない場合
bDMARDやJAK阻害薬、 bDMARD+csDMARD、 JAK阻害薬+csDMARDで治療します。治療目標が達成できなければフェーズ3に移行します。

3)フェーズ3
フェーズ2で効果のない例はMTX併用と非MTX併用にかかわらず、他のbDMARDかJAK阻害薬に変更します。


手術的療法
関節リウマチの治療は薬物療法が主体です。しかし薬物療法に効果がない症例(関節の痛みや運動障害、変形を認める症例)は手術的治療を検討します。手術的治療には滑膜切除術や人工関節置換術、関節形成術、関節固定術などがあります。

滑膜切除術は早期の症例(軟骨や骨が傷んでない症例)に適応があります。指関節や手関節、肘関節、膝関節などに行うと痛みが軽減され患者の満足度も高いようです。一方、骨の破壊や関節の変形を有する進行例で四肢の機能が失われた症例には人工関節置換術(股関節や膝関節、肩関節、肘関節など)や関節形成術(手指や足趾、肘関節など)、関節固定術(指関節や手関節、足関節、脊椎など)が行われます。手術は年齢や患者さんの生活環境や趣味、炎症の程度、リウマチのstage(関節の破壊度)などを詳細に検討し決定されます。


見落としやすい脊椎病変
関節リウマチは四肢の関節(手足の関節)を破壊するばかりでなく、脊椎にもリウマチ病変を発生させます。特に環軸関節(首の1番目と2番目の関節)には多数の滑膜が存在するためリウマチ病変の好発部位となります。

病変が進行しますと、環軸関節が破壊され
環軸関節亜脱臼(首を前に倒すと頚椎の1番目と2番目がずれる状態)を生じ、頚部痛や後頭部痛や頚部運動時の雑音(首の動きによって「コツコツ」と音がする)、頚部運動障害(首の動きが悪い)などの局所症状を訴えます。

中には
脊髄が圧迫されて四肢麻痺(手足の麻痺)を来たすこともあります。時に軽微な外傷で脊髄損傷を生じ「突然死」に至ると言う報告もありますので要注意です。手術的治療は長期に渡り局所症状を認める症例や亜脱臼の程度が強く、将来、麻痺が予測される症例に対して検討されます。


 たはら整形外科