(私の腰椎椎間板ヘルニアの経験) |
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腰の解剖 腰椎は5個の椎骨からなり前方部分と後方部分で構成されています。前方部分は椎体や椎間板、横突起よりなります。後方部分は椎弓根や椎弓 、椎間関節、棘突起で構成されています。前方部分と後方部分で囲まれたスペースを脊柱管(脊髄が入っている管)と言います。脊柱管内には馬尾や腰神経、仙骨神経が存在します。馬尾から左右5対の腰神経と仙骨神経が枝分かれします。腰神経は椎間孔(腰神経が出てゆく穴)より出て坐骨神経となり臀部〜大腿〜下腿〜足先へ下降します。 腰椎椎間板ヘルニア 腰椎椎間板ヘルニアは人口の約1%程度に認められます。20〜40歳代に多く、男性が女性の2〜3倍と言われています。原因は加齢的な変化(腰椎症性変性)に加え、軽微な外傷(捻挫や打撲など)や長時間にわたり一定の姿勢を強いられる作業やスポーツ傷害などが誘因となって発生します。中には、重いものを持った際や「くしゃみ」などをきっかけに発生することもあります。また、遺伝的要因や喫煙が関与しているとの報告もあります。好発部位は腰椎下部の第4‐5腰椎や第5腰椎‐第1仙椎の椎間板です。 腰椎の椎間板は椎体と椎体の間にあり、衝撃吸収作用(クッションの役割)を担っております。この椎間板は真中に位置した柔らかいゲル状、半液状の髄核とその周辺を取り囲んでいる線維輪で構成されています。椎間板は20歳代になると脱水化現象を生じ変性(加齢的変化)が始まります。 まず外側の線維輪に亀裂(ヒビ)が生じ、次第に内側の線維輪におよんで髄核の変性をもたらします。椎間板ヘルニアとは変性した髄核が後側方へ移動し脊柱管内に飛び出た状態です。ちょうど饅頭をつぶすと真中にある「あんこ」が周りに飛び出た状態を思い浮かべて下さい。その飛び出たヘルニアが神経を圧迫し腰部や臀部(お尻)や足に放散する痛みやシビレをもたらします。このような状態を根性(こんせい)坐骨神経痛と言います。 症状 腰痛やお尻の痛み、足先に放散する痛み、シビレです。病状が進行すると間欠性跛行(数10m〜数100m歩くと足に痛みやシビレのため休憩が必要となる状態)を認めます。さらに進行すると運動麻痺が現れて、足に力が入らなくなったり、直腸膀胱障害(尿や便の排出に異常を来たす状態)を訴えることもあります。 診断 診察でSLR テスト陽性(仰向けで膝を伸ばして足を持ち上げると、痛みのために足の挙上が困難となる状態)となります。また腱反射異常や知覚障害、筋力低下を認めます。レントゲン検査では椎間板の狭小化(正常な腰椎)を認めます。確定診断にはMRIが必要です。さらに詳細な情報収集に脊髄造影 (機能写) や椎間板造影、神経根造影などを行うこともあります。稀に胸椎椎間板ヘルニアを認めることもあります。なお、脊髄腫瘍や梨状筋症候群の鑑別(見極め)が必要です。 治療 1)保存的治療が原則です。 日常生活動作や睡眠時の姿勢などを指導します。腰部安静に簡易コルセットやダーメンコルセットを着用をすすめます。症状緩和に物理療法(腰椎牽引療法など)や炎症緩和に非ステロイド性抗炎症剤やビタミンB12製剤などを処方します。効果がなければ神経障害性疼痛薬やトラマドール塩酸塩、デュロキセチンなどを検討します。 また、トイガーポイントブロックや腰部や仙骨部硬膜外ブロック、神経根ブロック、坐骨神経ブロック、椎間関節ブロックなども検討されます。治療や再発予防のために腰部のストレッチングや股関節のストレッチング、腰部筋力強化訓練や股関節の筋力強化訓練などの運動療法を指導します。 近年ではMRIの普及にてヘルニアの病態や自然経過が解明されつつあります。一部のヘルニアでは自然に消退縮小することも解ってきました。したがって6か月程度は保存的治療(手術しない方法)で経過観察します。一般的に腰椎椎間板ヘルニアの90%程度は保存的治療で改善されると報告されています。 2)手術的治療 保存的治療で改善されなければ手術的治療を検討します。手術の適応は耐え難い痛みを認める症例や直腸膀胱障害を認める症例、運動麻痺を認める症例などが対象となります。術式は後方(背中)からヘルニアを摘出するLOVE法や鏡視下椎間板ヘルニア摘出術、経皮的椎間板摘出術、骨形成的椎弓切除術、などがあります。 2018年より椎間板髄核融解術が保険適応となりました。コンドリアーゼという薬剤を椎間板に注入して髄核を溶かす治療法です。手技は椎間板造影の要領で外来で容易に行える非侵襲的な治療法です。適応は後縦靱帯下の脱出ヘルニアで好成績を認めており、発症後6ヶ月以内の患者さんでMRIでヘルニア内に高輝度変化を有する症例に効果があるようです。また、レ−ザ−椎間板蒸散法は線維輪、後縦靭帯が壊れていない症例で椎間板内圧が高いタイプのヘルニアが適応です。すでに線維輪や後縦靭帯を破って脊柱管内に飛び出た症例には効果がないようです。 最新の情報 39回日本整形外科学会基礎学術集会より(2024年10月30日日経メディカル) 腰椎椎間板ヘルニアの手術は内視鏡下手術が主体となるなど低侵襲化が進んできたものの、髄核摘出後には内部が空洞化するため、組織再生が妨げられるという課題があった。そこで北海道大学整形外科のグループは、組織修復を促進する硬化性ゲルを独自開発、術後患者の空洞部に充填する手術を行ったところ、安全性に問題はなく、疼痛改善や変性の抑制が認められたことを明らかにした。
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