上腕二頭筋長頭腱炎(断裂)
解剖と役割
上腕二頭筋長頭腱は、肩関節の関節唇(関節窩の縁を取り囲む線維性の軟骨組織で骨頭を安定させる役割を果たしています)から発し、結節間溝(大結節と小結節の間にある溝)を通り、上腕二頭筋短頭と合流して上腕二頭筋となります。上腕二頭筋長頭腱は他の筋肉や腱と強調して肩の全ての運動に関与します。そのため、上腕二頭筋長頭腱は絶えず上腕骨頭から機械的な圧迫や刺激を受けています。このような解剖学的特徴から、上腕二頭筋長頭腱は慢性的なストレスを受けやすく、炎症を起こしやすいと考えられます。

上腕二頭筋長頭腱炎とは、使い過ぎによって長頭腱が結節間溝内で摩擦、摩耗が生じ、炎症を起こした状態のことを言います。肩の挙上を繰り返す単純な作業する方や野球やテニス、バレーなどの投球動作を繰り返すスポーツ活動でよく見られます。また、年齢とともに変性(摩耗、摩擦)が進み、断裂してしまうこともあります。症状は肩の前面の痛みと運動障害です。時に、作業中やスポーツ中に雑音(コクコクと言う音)を訴えられる方もおられます。

診察結節間溝に圧痛を認め、肩関節の内旋、外旋(内側に回す、外側に回す)運動で、肩の前面の痛みや雑音を聞き取ることがあります。また、長頭腱が肥厚するとインピンジメント徴候(肩を挙上していくと、肥厚した長頭腱が烏口肩峰アーチに圧迫されて痛みを訴える)が陽性になります。その他、Speed testが陽性。Yargason's testが陽性となります。時に、上腕二頭筋長頭腱炎が長期にわたると上腕二頭筋長頭腱断裂を起こすこともあり、Popeye singが確認できます(ポパイサインと言われ、断裂した末梢の上腕二頭長頭筋が肘に向かった垂れ下がる状態)。

レントゲン検査では、結節間溝の形態や大結節、小結節の変形、骨棘などをチェックします。 超音波検査やMRIで腱鞘内に水腫を認めます。上腕二頭筋長頭断裂では結節間溝での長頭腱の消失上腕下部で長頭筋断裂が確認できます。診断は診察所見で容易に診断できます。また、検査として上腕二頭筋長頭腱内に局所麻酔剤を投与し、痛みが軽快すれば確定です。なお、同様な症状を呈する疾患としてインピンジメント症候群肩関節周囲炎腱板損傷などとの複合損傷がありますので注意を要します。

治療物理療法や運動療法として肩のストレッチング肩の筋力強化訓練を指導します。疼痛緩和にアセトアミノフェン、炎症緩和に非ステロイド性抗炎症剤外皮用薬を処方します。難治例に対してはステロイド腱鞘内注射を試みます。これらで改善されない症例は、長頭腱固定術や関節形成術などの手術的治療が検討されます。

 たはら整形外科