癌について



がん発見技術を開発

群馬大の竹内利行らの研究グループは、有機物を使った発光技術「有機EL」(エレクトロ・ルミネッセンス)に用いられる素材を使って、がん組織を可視化する技術を開発したと発表した。マウス実験では直径2ミリのがんも検知しており、早期発見に役立つことが期待される。この素材は「イリジウム錯体」という化合物で、低酸素状態で光を当てられると発光する特性をもつ。研究グループは、がん組織は酸素の補給が不足し、低酸素状態になっていることに着目。イリジウム錯体の活用を試みた。実験では、がんを移植したマウスに、イリジウム錯体の水溶液を静脈から注入。その5分後から、がん細胞に届いたイリジウム錯体の発光が確認され、がんの場所を特定できた。当初は、臓器などの表面から深さ4ミリまでのがんしか検知できなかったが、イリジウム錯体を改良して深くまで到達する長波長の光に反応するようにし、表面から1センチまでのがんを調べられるようにした。理論上は、2センチ程度まで可能になるという。胃や大腸のがん、乳がんやぼうこうがんなど、部位の表面や近くにできるがんの発見に役立つ。エックス線や磁気で調べるよりも検出機器が安価なため、検査を低コスト化するという利点もある。(平成22年6月4日 読売新聞)

放射線治療、誤差1ミリ

山形大医学部は、国内最高精度のがんの放射線治療装置を導入。既存の装置では放射線照射の誤差が最大で10ミリ程度あったが、最新設備ではほぼ1ミリ単位で立体的にがん組織に照射可能で国内でも4、5台しか導入されていない。肺の中皮腫など疾患部分の形状が複雑でこれまで放射線治療が難しかったがんにも対応できるようになり、同大がん臨床センターは「放射線治療の需要が高まる中、東北のがん診療拠点の役割を果たしたい」としている。新たに導入するのは、米・独社製の「強度変調放射線治療(IMRT)装置」と、患部の位置を正確に測定する「イメージガイド」を組み合わせた設備。国の助成を受け、約12億円かけて周辺機器と治療室を整備する。最新のIMRTは、2方向から600万〜1000万ボルトのX線を当て、誤差2・5ミリレベルで複雑な3次元の立体形状に照射することが可能。新型イメージガイドは、呼吸による患部の動き(位相)も想定しIMRTの照射に合わせるように台が微妙に動くことで、照射精度が飛躍的に高まる。2つの装置を組み合わせることで、精度の誤差は1ミリ程度にまで向上した。これまでは、皮膚に印を付けて放射線を当てる治療法で最大10ミリ程度の誤差があり、がんの周辺の正常な細胞や組織を傷付ける恐れがある場合は、外科的手術や設備の整った他県の病院に依頼するなどしてきたという。また、横隔膜の周辺に湾曲した形で広がる中皮腫や、頭蓋骨に沿った骨転移など、がんが正常組織を取り囲むように位置する場合、十分量の照射をすることは事実上不可能だったが、対応できるようになる。新設備では、事前に撮影したMRIやCTの画像をもとに10〜20時間かけて治療プログラムを組むが、手術時間は10〜15分程度で済み、患者の負担も大きく軽減されるという。付属病院2階に治療室を設け、試験運用を経て早ければ7月中に稼働させる。同大がん臨床センターによると、全国で放射線治療を受ける新規がん患者は、1990年に年間約5万人だったが、近年は20万人を超える。局所治療効果が高く臓器の温存が可能なことや、2008年4月から、IMRTが保険診療となったことも要因。同センターは、「患者にとってより安心できる治療法を追求していきたい」としている。IMRT がん組織の機能を低下、停止させる放射線治療機器。周囲への副作用を減らすため、がんの形状に合わせて様々な角度から立体的に放射線を照射する。イメージガイド 患部に弱いX線などを当てて3次元で正確な位置を計測する。(平成22年6月4日 読売新聞)

iPSで免疫力強化、皮膚がんマウス大幅に延命

iPS細胞(新型万能細胞)を使って免疫力を高め、皮膚がんのマウスを大幅に延命させることに、理化学研究所が成功した。人に応用できれば、がんの新しい治療法になりそうだ。免疫細胞の一種である「ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)」に着目し、マウスの脾臓からNKT細胞を集めてiPS細胞に変え、体外で培養して約1万倍に増やした後に、そのほとんどをNKT細胞に戻すことに成功した。こうして増やしたNKT細胞を、悪性黒色腫というがんを移植したマウスに注射すると、通常は1か月程度で死ぬマウスが半年後まで生存した。 (平成22年6月2日 読売新聞)

子宮頸がんワクチン

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は子宮頸がんを予防するワクチン「サーバリックス」の承認を了承した。10月に正式承認される見通し。このワクチンはオーストラリアなど95ヵ国で承認されているが、国内で子宮頸がんワクチンが承認されるのは初めて。2007年9月にグラクソ・スミスクライン社が承認申請していたもので、10歳以上の女性が接種対象となる。子宮頸がんは、性的接触によって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が主な原因とされている。今回のワクチンを感染前に接種すれば、子宮頸がんの原因の7割を占める2種類のHPVの感染が予防できると期待される。国内では毎年約7000人が子宮頸がんになり、約2500人が死亡している。特に20〜30歳代の若い女性で増えつつある。(平成21年9月1日読売新聞)

日焼けマシン、発がんリスク最高レベル

世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、日焼けサロンやスポーツジムで使われ、人工的に紫外線を出す「日焼けマシン」の使用は発がんリスクを確実に高めるとして、発がんリスク分類でもっとも危険性の高い「グループ1」に引き上げた。IARCは、日焼けマシンと皮膚がん(メラノーマ)との関係を調べた19論文を分析。30歳未満で日焼けマシンを使った経験のある人は、使ったことのない人より75%もリスクが高いことがわかった。日焼けマシンの使用による、眼球の色素細胞にできるがんのリスクも高かった。従来、紫外線のうちB紫外線(UVB)にだけ発がん性があると考えられていたが、A紫外線(UVA)もUVBと同じように発がん性があることもわかったという。地上に降り注ぐ紫外線の95%がUVAだ。日焼けマシンは5段階の発がんリスク分類で危険性が2番目に高いグループだった。危険性が一番高いグループにはアスベストやたばこ、X線、太陽光などがある。紫外線に詳しい名古屋市立大の森田明理教授は、「黄色人種は白人に比べて紫外線によるがんのリスクは数分の1だとされるが、油断はできない。屋外で浴びる紫外線の量が、欧米の多くの都市よりもかなり多いからだ。外出のときは、皮膚が赤くなるような日焼けをしないように、日焼け止めや日傘で予防すべきだ」と警告する。(平成21年7月30日 朝日新聞)

「トロイの木馬」微小細胞でがん退治 

オーストラリアの研究者らがこのほど、細菌から作った薬剤入りの微小な細胞を「トロイの木馬」として、がん細胞に直接送り込んで殺す手法を開発したと発表した。ネズミなどの動物実験では明確な効果を上げており、がん治療に新たな道を開く可能性がある。開発したのは豪バイオ技術ベンチャー、エンジェネイック社の研究者ら。薬剤入りの微小な細胞は、がん細胞がそれを取り込んでしまうよう表面が偽装されている。治療は2段階で、最初に「トロイの木馬」でがん細胞の薬に対する抵抗力を失わせ、第2波の抗がん剤で殺す。同社の研究者らは「ヒトのさまざまながん細胞を移植したネズミでの実験では、100%の生存率が得られた」と効果を強調、近く臨床試験を開始するという。今後、ヒトへの有効性や安全性が確認されれば、化学療法でがん細胞が薬剤への耐性を持つ問題を回避するとともに、副作用も軽減できると期待されている。(平成21年7月4日 朝日新聞)

国内初のがんワクチン外来

国内初の「がんワクチン外来」を開設した久留米大医学部が資料請求の受け付けを始めたところ、申し込みが殺到、受け入れ可能な患者数を超えることが予想されたため、約1時間半後に中止した。担当者は「反響があまりにも大きく、受け入れ態勢をオーバーした。治療を希望する患者に迷惑を掛けて申し訳ない」と話している。半年後に受け付けを再開する予定。めどが付き次第、大学のホームページや専用電話で案内する。大学によると、HPと自動応答による電話で受け付けをしたが、午前11時半までに1600人を超え、大学の代表電話もつながらない状態になった。第1期で受け入れられるのは約60人で、受け付けを中止した。同外来は患者の免疫特性に合わせてがんワクチンを投与する。自由診療扱いで治療費は高額だが、抗がん剤や放射線治療などに比べて体の負担が軽いという。臨床試験に当たり、治療は主治医の承諾や大学側の審査を経る必要がある。(平成21年4月1日 中国新聞)

肝がんリスク、肥満は2倍超 

厚生労働省研究班は高血糖や肥満などメタボリック症候群の関連要因を抱えている人について、肝臓がんにかかるリスクが2倍以上に高まるとの大規模疫学調査の結果を発表した。肝がんは大半が肝炎ウイルスに感染して発症するが、生活習慣に気をつければ発症を回避できる可能性があるという。井上真奈美・国立がんセンター室長が、40−69歳の男女1万7590人を13年間追跡調査。 期間中に102人が肝がんにかかった。調査開始時点の健診結果をもとに、血圧や血糖値、中性脂肪、体格指数(BMI)などのメタボリック関連要因が、肝がんリスクと関連するか調べた。高血糖(1デシリットル当たり140ミリグラム以上、または空腹時で同100ミリグラム以上)のグループは、そうでないグループと比較し、肝がんになるリスクが1.75倍になった。また肥満度を示すBMIが25以上の人は、そうでない人と比べて肝がんリスクが2.22倍になった。(平成21年3月10日 日本経済新聞)

大豆、女性は食べ過ぎないで

大豆製品をたくさん食べる女性は、あまり食べない女性に比べて肝臓がんになる危険性が3〜4倍に高まることが、厚生労働省の研究班の大規模調査で分かった。大豆に含まれるイソフラボンは、乳がんのリスクを減らすことが知られており、研究班は「食事を通して適度に取るのがいい」としている。研究班は93年から05年まで、6府県の男女約2万人(開始時40〜69歳)の健康状態を追跡した。うち101人(男性69人、女性32人)が肝臓がんになった。アンケートで大豆食品をどれぐらい食べるかを尋ね、イソフラボンの2成分の摂取量と発症との関連を調べた。その結果、摂取量とリスクの関連が明らかになったのは女性だけで、摂取量が最も多い群(1日あたり豆腐80グラム以上、納豆3分の2パック以上)が肝臓がんになるリスクは、最も少ない群(同豆腐40グラム未満、納豆3分の1パック未満)のリスクの約3.2〜3.9倍だった。研究班の倉橋典絵・国立がんセンター予防研究部研究員によると、イソフラボンの分子構造は、女性ホルモンのエストロゲンに似ている。エストロゲンは乳がんのリスクを高める半面、肝臓がんには予防作用があり、イソフラボンの過剰摂取がこうした作用を妨げると考えられる。倉橋研究員は「肝臓がんの最大のリスク要因はB型、C型肝炎ウイルス。女性の場合、まず感染の有無を調べ、感染が分かれば大豆製品の取りすぎに注意してほしい。感染していなくても過度の取りすぎには注意が必要」と指摘する。(平成21年3月10日 毎日新聞)

前立腺がん、尿検査で早期発見

尿中のアミノ酸代謝物の濃度を調べることで、前立腺がんの進行状況をより正確につかめる可能性があることが、米ミシガン大学などの研究でわかった。米国立がん研究所も「がんの進行度をみる優れたマーカー(指標)になりうる」と評価している。英科学誌ネイチャーに発表した。前立腺がんの早期発見のため、いまは血液中の「前立腺特異抗原(PSA)」というたんぱく質の量を調べる方法が検診などで使われている。しかしPSA検査は、がんではないちょっとした異常にも反応したりするほか、ゆっくりと進むがんに対して過剰な手術や放射線治療をしてしまう問題も指摘されている。研究グループは、前立腺がんの患者から集めた組織、尿、血清から分離される化合物を対象にがんの指標になる物質を調査。サルコシンというアミノ酸代謝物の一種が転移性のがんに多く見られることを見いだした。サルコシンは良性の組織ではほとんど見られなかったのに対して、局所がんの42%、転移性がんでは79%で見つかった。がん細胞を使った実験ではサルコシンを加えるとがんの進行が早まった。前立腺がんが疑われる患者の尿を調べた調査では、PSA値が低いときはPSAより正確に判定できるという結果が出た。(平成21年2月16日 朝日新聞)

ピロリ菌、全員除菌を

胃がん予防のため、胃の粘膜に細菌ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)がいる人は全員、薬で除菌することを勧める新指針を日本ヘリコバクター学会が発表した。新指針では、ピロリ菌が胃粘膜にいる状態を「ヘリコバクター・ピロリ感染症」と位置づけ。除菌は胃潰瘍の治療や胃がん予防に役立つなど、「強い科学的根拠があり、強く勧められる」とした。除菌の効果については、浅香正博・北海道大教授らが昨年、国内患者を対象とした臨床研究をもとに「除菌すれば胃がんの発生が3分の1になる」と英医学誌で発表。これを受け同学会で指針改定を検討していた。現在、除菌が保険適用されるのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者。日本では約5000万人がピロリ菌の感染者といわれる。除菌には通常、抗菌剤など3種類の薬を1週間のむ。(平成21年1月23日 朝日新聞)

胃がん、染色し部位浮き上がらせる

色素に酢(酢酸)を混ぜ、胃がん部位を浮き上がらせる検診技術を岡山大学病院光学医療診療部の河原祥朗助教らが発見、日本消化器内視鏡学会の英文誌「DigestiveEndoscopy(消化器内視鏡)」に発表した。胃がんの正確な診断や早期発見につながる手法として期待されている。胃がんの治療は近年、患者の負担が少ない内視鏡手術が発達。患部の根元に薬剤を注入し、がんを持ち上げて切り取る「内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術」が普及し、内視鏡で切除可能な胃がんは直径約2センチから10センチ以上になった。一方、通常胃がんの診断には、インジゴカルミンという青色の着色料で胃内部を染め、凸状になった患部を浮き上がらせる手法が用いられる。しかし、胃壁は元々起伏があるためがんと見分けがつきにくく、正診率は約70%という。取り残しは再発につながるため、がん部位を正確に把握するための検出技術が求められていた。河原助教らは胃の細胞は粘液で胃酸から身を守り、がん細胞は粘液をつくる力を失う点に着目。内視鏡検診時は胃の中が空で胃酸、胃粘液とも分泌されないため、検診時にインジゴカルミン溶液に0.6〜0.8%の酢酸を混ぜることで胃を刺激し、粘液を分泌させた。その結果、着色料は正常組織の粘液と結合して青く染まり、胃がん部分だけが浮き上がって正診率は90%以上に向上したという。河原助教らは既に日本の特許を取得し、科学技術振興機構の支援を受けて海外でも特許を出願する予定。河原助教は「特殊な機器が不要で、低コストで正確な診断ができるようになった」と話している。(平成21年1月14日 毎日新聞)

蛍光物質、生きたがんだけ光らせる

生きたがん細胞だけを光らせる蛍光物質を、日米の研究チームが開発した。1ミリ以下の小さながんを見つけられるうえ、がん細胞が死ぬと光が消えるため、治療効果を確認しながら手術や内視鏡治療ができるという。開発したのは、浦野泰照・東京大准教授(薬学)、小林久隆・米国立衛生研究所主任研究員ら。生きた細胞内では「リソソーム」という小器官が弱酸性、死んだ細胞では中性になることに着目。乳がん細胞に結びつきやすく、酸性のときだけ光る物質を開発した。また、マウスの肺に乳がんが転移したという条件を再現したうえで蛍光物質を注射すると、1ミリ以下の肺がんが検出され内視鏡で切除することに成功した。さらに、がんを殺すエタノールをかけたところ、約30分後に光が弱まり、がん細胞の死を確認した。米国で臨床試験の準備に入ったという。PET(陽電子放射断層撮影)など現在の画像検査では、1センチ以下のがんを見つけることや、抗がん剤の投与後の効果をすぐに確認することは難しい。浦野准教授は「他の種類のがんに結びつく蛍光物質を開発することも可能だ。小さながんを見過ごさず切除できるので、誰もが名医になれるだろう」と話す。(平成20年12月8日 毎日新聞)

がん細胞を光らせて観察 

光を当てると発光する酸化亜鉛の微粒子を使い、生きた組織内でがん細胞などの観察を可能にする新たな蛍光物質を、島根大の中村守彦教授らのチームが19日までに開発した。中村教授は「将来は検診の際に蛍光物質を投与し、画像装置でがん組織を見つけるなどの応用が可能になるかもしれない」と話している。チームは、直径約10ナノメートル(ナノは10億分の1)の酸化亜鉛の微粒子を合成し特殊な処理で蛍光物質としての性質を持たせた。これを生きた細胞に取り込ませることに成功。がん細胞の膜タンパク質にくっつく抗体に結合させれば、がん細胞だけを見分けることができるという。蛍光物質には、今年のノーベル化学賞の対象になったクラゲ由来の蛍光タンパク質や別の化合物もあるが、分子が大きすぎたり、毒性があったり、生体利用の面で欠点を抱えていた。中村教授は「粒子が小さく、細胞活動を邪魔しないのも強みだ」としている。(平成20年11月19日 中国新聞)

子宮頸がん、新ワクチン開発

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの新たなワクチンを、国立感染症研究所などが開発した。日本人は欧米人と異なるウイルスの型での感染例が多いことも確認した。欧米などで使われているワクチンは一部の型しか効かないが、新ワクチンは日本人に幅広く有効となる可能性が高い。ウイルスは遺伝子の型の違いから約100種に分類され、このうち15種類に発がん性がある。 欧米では16型と18型が発症原因の約70%を占めるが、日本の患者では16型42%、18型7%と半数にとどまる。製薬企業が厚生労働省に16型と18型に対応したワクチンの承認を申請している。研究チームは15種類に共通する構造があることに注目。この構造を作るアミノ酸配列を特定し、その特徴からワクチンを開発した。ウサギに接種し16型と18型を含む6種類で感染防止を確認した。日本人の患者の76%が6種類による感染だったことも突き止めた。 日本では毎年1万2000人以上が発症。(平成20年10月19日 毎日新聞)

カルシウム+ビタミンD、大腸がんのリスク低減

カルシウムとビタミンDをともに多く摂取すると、大腸がんにかかるリスクを下げる可能性があることが、九州大などの調査でわかった。古野純典・九大教授らのグループが、福岡市とその近郊に住み、大腸がんと診断された836人と、同じ年代で大腸がんではない861人から食事や生活習慣を詳しくたずね、関連を調べた。1日あたりのカルシウム摂取量が平均約700ミリグラムと最多の人たちが大腸がんになるリスクは、同400ミリグラムで最も少ない人たちと比べ、3割ほど低かった。しかし、カルシウムを多くとっても、ビタミンDをあまりとらない人では、違いははっきりしなかった。そこで、カルシウムを平均約700ミリグラムとり、かつビタミンDを多くとる人(1日10マイクログラムかそれ以上)で比べると、大腸がんリスクは、カルシウム摂取が少なくビタミンDをあまりとらない人より、6割低かった。ビタミンDはサンマやサケといった魚類やキノコ類に多い。日本人のカルシウム摂取量は1日あたり平均540ミリグラム余で不足ぎみ。ビタミンDは8マイクログラムほど。大腸がんは肥満や飲酒でリスクが高まることがわかっている。牛乳を飲んでカルシウムを多くとると、大腸がんリスクが2割ほど下がることは、欧米グループが報告している。今回の結果をまとめた溝上哲也・国立国際医療センター部長は「ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるので、大腸がんの予防効果を高めるのかも知れない。さらに効果を調べたい」と話す。(平成20年9月22日 朝日新聞)

子宮体がん、「毎日コーヒー」で減 

コーヒーを毎日1〜2杯飲む女性は、週に2日程度しか飲まない人に比べて、子宮体がんの発症率が4割少ないことが厚生労働省研究班の大規模調査で分かった。飲む量が多いほど、発症率は低い傾向がみられた。研究班は、9府県の40〜69歳の女性約5万4000人を05年まで追跡調査。約15年間に117人が子宮体がんを発症した。コーヒー摂取量と発症率との関係を調べると、コーヒーを毎日1〜2杯飲むグループは、週2日以下しか飲まないグループに比べ、子宮体がんの発症率は4割少なかった。毎日3杯以上飲むグループは6割も少なかった。緑茶の摂取量も調べたが、発症率に関連はみられなかった。子宮の入り口にできる子宮頸がんは、ウイルス感染が原因と考えられている。一方、子宮の奥の内膜にできる子宮体がんは、女性ホルモン「エストロゲン」や血糖値を調節する「インスリン」との関連が指摘されている。担当した国立がんセンター予防研究部の島津太一研究員は「コーヒーを飲むと、エストロゲンやインスリンの濃度が下がることが知られている。この作用が発症率に影響している可能性がある」と話す。欧米ではコーヒー摂取と子宮体がんの関連がみられないとの研究が多い。その理由として、ホルモン補充療法が日本より広く行われ、コーヒーの影響が表れにくいと考えられているという。(平成20年9月2日 毎日新聞)

胃がん、大動脈リンパ切除は無益

標準的な胃がん手術で行われるリンパ節切除に加え、大動脈周辺のリンパ節まで切除する拡大手術を行っても、患者の生存率がほとんど向上しないとする臨床試験結果を、国内のがん臨床医グループが7日までにまとめ、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに発表した。国内では進行性の胃がんの患部と、転移の恐れがある胃の周辺や胃につながる血管周辺のリンパ節を切除する手術が標準。場合によって大動脈周辺まで切除範囲を広げることもあるが、こうした手術は無益との証拠が示された形だ。この結果を受け日本胃癌学会も治療ガイドラインを改訂した。研究代表者の笹子三津留兵庫医大教授は「今後は手術に伴う無益な患者の負担を避けるようになるだろう」と話している。グループは1995−2001年、全国24病院で胃がん患者523人の同意を得て臨床試験を実施。標準的な手術を受けた患者と、加えて大動脈周辺のリンパ節切除を受けた患者の5年後の生存率を比べると、前者が69.2%、後者が70.3%と変わらなかった。再発の度合いにも目立った差はなかった。(平成20年8月7日 中国新聞)

ビタミンC投与でがん半減

ビタミンCをマウスに大量投与することで、がん細胞の増殖を半分に抑えることができたとの実験結果を、米国立衛生研究所(NIH)の研究チームが4日、米科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。実験ではまず、43種類のがん細胞と5種類の通常細胞に、ビタミンC(アスコルビン酸)の溶液を加えると、通常細胞に変化はなかったが、がん細胞のうち33種類では細胞の半分以上が死滅した。次に、腹腔内にそれぞれ子宮がん、膵臓がん、脳腫瘍の細胞を植え付けたマウスに、体重1キロ当たり4グラムという大量のアスコルビン酸を毎日投与すると12−30日後に、投与しなかった場合に比べてがんの重さが41−53%に抑えられた。副作用もみられなかった。アスコルビン酸から発生した過酸化水素ががん細胞に作用したとみられるという。(平成20年8月5日 産経新聞)

ピロリ除菌で胃がん3分の1

胃の粘膜にいる細菌ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を薬で除菌すると、胃がん発生が3分の1になるとの研究結果を浅香正博・北海道大教授(消化器内科)らがまとめた。2日付の英医学誌ランセットで発表する。 胃がん予防目的の除菌は現在、公的医療保険の適用外。適用に向けた議論が活発化しそうだ。研究は国内51病院で実施。早期胃がん患者505人の協力を得た。内視鏡で治療した後、半分の患者に除菌の薬を飲んでもらった。半分は除菌しなかった。治療したがん以外の胃がん(2次胃がん)ができるか調べた。3年間に2次胃がんができたのは、除菌した群で9人、除菌しない群で24人。詳しく計算すると胃がんリスクは、除菌しない場合を1とすると、除菌した場合は0.34だった。効果が明らかだったため、除菌しなかった群も後ほど除菌した。これまで、除菌で「前がん状態」が改善したなどの研究結果はあったが、除菌するか否かの割り当てをくじ引きで決める「無作為化比較研究」で除菌による胃がん予防効果を示したのは世界初。初発の胃がん減少も期待できる。国内の胃がん新規患者は年約11万人、死亡は約5万人。富永祐民・愛知県がんセンター名誉総長(疫学)によると「胃がんの8割以上はピロリ菌感染が原因と考えられる」。感染率は若い世代は低いが、50歳以上は7〜8割。団塊世代ががんを発症しやすい年代に近づき、患者は増える可能性が高い。浅香教授は「除菌で胃がん発生を大幅に減らせる」と、現在は、胃潰瘍(かいよう)か十二指腸潰瘍の患者に限られている除菌の保険適用を、ピロリ菌感染者全体に広げ、胃がん予防に役立てるべきだとしている。保険適用外だと薬代と検査代で1万数千〜2万円ほど。日本ヘリコバクター学会も今回の研究結果をもとに今秋、指針を改訂し、除菌を勧める予定だ。(平成20年8月1日 朝日新聞)

がんワクチン臨床研究、6割に効果 膵臓・大腸がんなど

膵臓がんなどを対象に全国10ヵ所以上の大学病院で行われている、がんワクチン臨床研究の中間的な解析が明らかになった。従来の治療が効かなかった患者約80人の6割強で、がんの縮小や、一定期間悪化しないなどの効果があった。対象は食道がん、膵臓がん、大腸がん、膀胱がんなど10種以上で、国内過去最大規模。研究を重ね、新薬の承認申請を目指した治験に入る。 がんワクチンを注射した82人について解析。進行・再発で標準的な治療法が無効だった大腸がんで、27人中15人にがんの縮小やそれ以上進行しない効果があった。膀胱がんでは6人中3人でがんの縮小が認められた。膵臓がんでは抗がん剤との併用で利用したが、患者27人中18人で何らかの効果がみられた。82人の経過をみると50人でがんの縮小や、進行しない効果が認められた。注射した部分が腫れたり硬くなったりする副作用はあったが、重い副作用はなかったという。がんワクチンは、がんに対する免疫反応を特に強め、やっつけるのが狙い。中村教授らが人の全遺伝情報を調べ、がん細胞で活動しながら、正常細胞ではほとんど働いていない遺伝子をみつけた。その中から強い免疫反応を引き起こす17の抗原を特定し、複数のがんワクチンを作った。がんワクチンは副作用が少なく通院治療ができるうえ、最近の抗がん剤より費用が低いと期待されている。開発は米国などが先行し、前立腺がんでは年内にも承認される見通し。(平成20年7月16日 朝日新聞)

ベータカロテン不足で胃がんリスク2倍に

厚生労働省研究班は、ニンジンやカボチャといった緑黄色野菜に多く含まれる「ベータカロテン」が足りないと胃がんにかかるリスクが約2倍になるとの疫学研究結果を発表した。男性の方が女性よりも不足しがちで、「喫煙や飲酒の習慣がある人は、野菜や果物を積極的に取るようにしてほしい」としている。全国の40―69歳の男女約3万7000人を対象に、10年前後の追跡期間中に胃がんにかかった511人と、そうでない511人を比較分析した。調査開始時の血中ベータカロテン濃度をもとに4グループに分け、胃がんの発症リスクとの関連を調べた。ベータカロテン濃度が最も低いグループは、ほかの3グループと比べ胃がんリスクが約2倍だった。必要量を満たしていれば、多く取っても胃がんリスクは下がらないことも分かった。(平成20年7月17日 日本経済新聞)

よく動く人、がん遠ざける

仕事か余暇かにかかわらず体をよく動かす人は、そうでない人より、がんになりにくいことが厚生労働省研究班の調査で明らかになりった。男性は大腸、肝臓、膵臓のがんで、女性では胃がんでそうした傾向が目立った。詳しい原因は解明されていないが、研究班は、運動で肥満が改善されたり、免疫機能が高まったりすることなどが関係しているのではないか、と推測している。調査は、岩手から沖縄まで9府県の45−74歳の男女約8万人を約8年にわたり追跡。期間中に約4300人が何らかのがんにかかった。激しいスポーツをした時間や、歩いたり立ったりした時間、睡眠時間などをアンケートし、対象者の平均身体活動量を算出。その量の多さによって4グループに分け、がんとの関連を分析した。その結果、身体活動量が最多のグループは最少グループに比べ、がんになるリスクが男性で13%、女性で16%低かった。(平成20年7月13日 中国新聞)

がん予防、運動が効果 

こまめに体を動かしている人ほど、がんにかかりにくいことが厚生労働省研究班の大規模疫学調査でた。男性の場合、がんのリスクが最大13%、女性は同16%低かった。特に消化器系のがんは体を動かすことによる予防効果が期待できるという。研究班の井上真奈美・国立がんセンター室長が、全国の45―74歳の男女約8万人を対象に約8年にわたって追跡調査した。アンケートをもとに、通勤や仕事などで1日に体を動かしている量を算出して男女別に4グループに分類。がんになるリスクとの関係を調べた。期間中に約4300人が何らかのがんと診断された。 身体活動量の算出には「メッツ時」という単位を使った。例えば筋肉労働や激しいスポーツは4.5メッツで、1時間続けたときの活動量が4.5メッツ時になる。歩いたり立ったりしているときは2メッツ。(平成20年7月10日 日本経済新聞)

前立腺がん細胞増殖、遠赤外線が抑制

遠赤外線が前立腺がん細胞の増殖を抑制する効果があることを、兵庫医科大の島博基教授が突き止め発表した。遠赤外線を発する特殊加工ゴムをがん細胞の近くに置くと、がん細胞の自滅(アポトーシス)を促す遺伝子が活性化し、がん細胞が減少。抗がん剤と併用すると、がん細胞が死滅したという。ヒト前立腺がん細胞を移植したマウスをカゴに入れ、周りを大阪市の化学メーカーが開発した、微弱な遠赤外線を放射する金属などを混ぜた特殊加工ゴムで囲って、マウスのがん細胞増殖の推移を観察した。その結果、遠赤外線を当てられたマウスの体温が0.36度上がり、マウスに移植されたがん細胞内の遺伝子にあるアポトーシス回路が活性化。約70日後に、がん細胞の増殖が半分以下に抑制された。これに加え、がん増殖抑制機能があるとして米国で抗がん剤として使われている腸管内物質「酪酸ナトリウム」を3種類の前立腺がん細胞に投与したところ、いずれも死滅したという。島教授は「原理的にはすべてのがんに効果があるはず。臨床応用を進めて、治療法を確立したい」と話している。(平成20年6月27日 産経新聞)

NK細胞で移植後の肝がん防ぐ

正常な肝臓にある強い抗がん作用を持つナチュラルキラー細胞(NK細胞)を培養・投与することで、肝臓がんで臓器移植を受けた後の患者で、再び肝がんができるのを防ぐことに、広島大の大段秀樹教授らが成功した。肝臓がん患者に移植を行った後、体内に残るがん細胞で、移植した肝臓に再びがんができる場合がある。大段教授らは2年前、移植用の肝臓に通した後の保存液から、強い抗がん作用を持つNK細胞を発見。2日間培養し、肝臓がんを殺す能力を高めたNK細胞の投与を移植患者に始めた。その結果、2000〜2006年に移植を受け、NK細胞を投与されなかった患者42人のうち4人に再びがんができたが、細胞を投与した14人には現在、がんはできていない。培養したNK細胞の表面には、肝臓がんを殺す働きを持つたんぱく質が多数生成されるという。また、肝臓がん患者の7割以上がC型肝炎だが、培養したNK細胞は肝炎ウイルスの増殖を抑えるインターフェロンを作り出す働きも持つ。大段教授らが移植後の患者にNK細胞を投与したところ、何もしない場合と比べ、ウイルスの量を一時100分の1まで減らすことが出来たという。(平成20年6月1日 読売新聞)

たばこ吸って飲酒も多いと…肺がんリスク1.7倍

たばこを吸うと肺がんになりやすくなることが知られているが、飲酒が加わるとさらに危険度が1.7倍に増大するとの調査結果を、厚生労働省研究班がまとめ発表した。飲酒によって体内で活発に働く酵素が、たばこの発がん物質を活性化していると考えられるという。全国の40―69歳の男性約4万6000人を14年間にわたって追跡調査した。喫煙者と非喫煙者に分け、飲酒と肺がんリスクとの関係を調べた。期間中に651人が肺がんを発症した。聞き取り調査をもとに飲酒量で「飲まない」「時々飲む(月に1―3回)」の2グループと、毎日飲む人については日本酒換算で「1日1合未満」「1日1―2合」「1日2―3合」「1日3合以上」の4グループ、合計6グループに分けた。喫煙者の場合、飲酒量の多い2グループは、「時々飲む」グループと比べて肺がんになるリスクが1.7倍だった。非喫煙者では、飲酒量が増えても肺がんリスクは上がらなかった。日本酒1合のアルコール量は、焼酎で0.6合、ビールで大瓶1本、ワインでグラス2杯、ウイスキーならダブルで1杯に相当する。(平成20年5月30日 日本経済新聞)

乳がん家系は前立腺に注意 リスク4倍

乳がんの多い家系に生まれた男性は前立腺がんの発症リスクが高いことをオーストラリアなどの研究チームが19日までに突き止めた。家族性乳がんのリスク因子として知られるBRCA2遺伝子の変異が前立腺がんの因子でもあることが確認でき、2つのがんの関連が初めて分かった。BRCA2遺伝子に変異を持つ男性の前立腺がん発症リスクは、変異がない男性の4倍になるという。成果は米医学誌クリニカル・キャンサー・リサーチに掲載された。家族性乳がんや卵巣がんの研究を続けてきたチームは、一部の家系では前立腺がんも多いことに気付いた。BRCA2遺伝子の変異が家族性乳がんのリスク因子となることは過去の研究で分かっており、チームは前立腺がんでもこの遺伝子変異が起こっているかどうかを調べ、確認にこぎ着けた。チームは「乳がんの多い家系に生まれた男性は検査を。BRCA2遺伝子変異による乳がんを克服した女性は、兄弟や息子に注意を呼び掛けてほしい」としている。(平成20年5月19日 中国新聞)

がん細胞、増殖加速遺伝子を解明

がん細胞がエネルギー源であるブドウ糖を取り込む一連の仕組みを、日本医科大の川内敬子助教と田中信之教授らが発見した。この仕組みを遮断する薬剤を開発すれば、「兵糧攻め」でがん細胞の増殖を抑えられることになる。研究チームは、細胞が、がん化するのを抑制する遺伝子「p53」に注目。マウスの細胞でp53を除去すると、がん化するだけでなく、別の遺伝子「NFκB」の働きが活発になっていることに気付いた。調べると、NFκBが、ブドウ糖を取り込む別のたんぱく質を増やし、がん細胞の増殖を加速させることを突き止めた。p53が働かなくなると、NFκBが活性化し、がん細胞へのエネルギー供給が進み、増殖するという流れを解明した。田中教授は「p53の機能を回復したり、NFκBの機能を抑えれば、新しいがん治療薬の開発につながるだろう」と話している。(平成20年4月21日 毎日新聞)

前立腺がん、学会が集団検診のPSA検査推奨

日本泌尿器科学会は前立腺がんの集団検診として普及しつつあるPSA(前立腺特異抗原)検査を推奨するガイドラインを発表した。学会のガイドラインでは、PSA検査を積極的に実施した地域では、前立腺がんで死亡した人が予測された数の半分以下になった事例を報告した米国の最新データを紹介。「検査をすれば、明らかに転移する(悪性の)がんにかかる危険率が下がる」とした。PSA検査は採血で、前立腺がんになると増えるたんぱく質の濃度を測定する。日本では06年1月現在、全国の約4割の957市区町村が住民検診に導入している。(平成20年4月4日 毎日新聞)

ミトコンドリア異常でがん悪性化

がん細胞にあるミトコンドリアの遺伝子に異常が起こると、がん細胞が悪性化し、転移しやすくなることが、筑波大、島根大、千葉県がんセンターのチームの研究でわかった。治療法開発につながると期待されている。 林純一・筑波大教授によると、細胞のエネルギーになるATP(アデノシン三リン酸)をつくるミトコンドリアの酵素に遺伝子変異があると、活性酸素が過剰にできる。マウスの肺がん細胞を使った実験で、活性酸素によって、細胞増殖を調節する物質が異常に増えることを突き止めた。酵素に変異があるがん細胞をマウスに注射すると肺に転移したが、マウスに活性酵素を抑える薬を飲ませると、転移は減った。人の乳がん細胞でも、同じ酵素に異常があると活性酸素が過剰に生み出され、悪性化することを確かめた。(平成20年4月5日 朝日新聞)

大豆食品成分、乳がんリスク抑える


大豆食品に多く含まれるイソフラボンの一種「ゲニステイン」の血中濃度が高い女性は乳がんになるリスクが最大で3分の1に下がるという調査結果を、厚生労働省研究班がまとめた。研究班の岩崎基・国立がんセンター室長は全国の40―69歳の女性2万5000人を10年半にわたって追跡調査した。この間、乳がんになった144人に、ならなかった288人を加えた計432人について、血液中のゲニステイン濃度と乳がん発症リスクとの関連を調べた。血中濃度が高い順に4つのグループに分けて乳がん発症リスクを比較すると、最も濃度が高いグループは最も低いグループの3分の1にとどまった。閉経前の女性に限ると7分の1まで低下した。最も濃度が高いグループのゲニステイン摂取量は、豆腐だと1日100グラム、納豆なら同50グラムに相当するという。(平成20年3月7日 日本経済新聞)

難治性疼痛に抗うつ薬有効


異常な痛みが続く慢性の病気で、治療法がなかった「神経因性疼痛」に、既存の抗うつ薬が有効であることが、美根和典福岡大教授(心身医学)や井上和秀九州大教授(神経薬理学)らの研究で明らかになった。神経因性疼痛は痛みの直接の原因がなくなった後も激痛が続き、患者数は世界で約1500万人。開発に時間もお金もかかる新薬ではなく、既存の薬による治療に道を開く成果として注目される。治療効果が確認された抗うつ薬は「パロキセチン」(商品名パキシル)。神経細胞から放出された神経伝達物質セロトニンが再び細胞に吸収されるのを妨げる「SSRI」というタイプの薬だ。神経因性疼痛の発症メカニズムは長年の謎だったが、井上教授は2003年、脊髄にあるミクログリアという細胞の表面で情報伝達にかかわるタンパク質「P2X4」が、発症に関与していることを明らかにした。P2X4の働きを抑える薬を探し、パロキセチンの効果を発見。 神経因性疼痛の状態にしたラットに投与すると痛みが大幅に軽減することを確かめた。(平成20年2月18日 中国新聞)

胃がん早期診断技術、「がん」部位だけ赤に着色


岡山大学の河原祥朗・助教らのチームは、胃がんを正確に診断できる新技術を開発した。がんの部分だけ赤く染められる色素を内視鏡で胃の内部に噴射する。小さな早期がんも見逃さずに発見できるほか、手術時に切除すべき範囲が明確に分かる。減少傾向にあるとはいえ年間5万人が命を落とす胃がん。診断・治療の両面で大きな威力を発揮しそうだ。胃がんの診断では、内視鏡を使うことが多い。胃をのぞくだけではなく「インジゴカルミン」という色素を胃壁に噴射、凹凸を目立たせてからがんを探す手法が普及している。ただ、表面が平たんながんを見つけにくいなど限界もある。(平成20年2月29日 日本経済新聞)

米がん患者2%が「CTが原因」

コンピューター断層撮影法(CT)検査の急増に伴い、検査で放射線を浴びることが原因でがんになる人は米国で将来、がん全体の2%に達する、との試算がまとまった。米コロンビア大の研究チームが米医学誌に報告した。研究チームによると、1回のCT検査で2〜3回放射線を浴び、その放射線量は 30〜90ミリ・シーベルトに達する。これは胸部エックス線撮影の最大9000倍に上る。CT検査は使い勝手が良く、米国民がCT検査で放射線を浴びる回数は、1980年の300万回から2006年の6200万回へと大幅に増えた。この影響を調べるため、研究チームは、原爆の被爆者の発がんリスクと比較した。その結果、91〜96年にはCT検査による被ばくが、米国のがん発症者の原因の0.4%にとどまっていたが、将来は1.5〜2.0%に高まるという。研究チームは「特に子供は放射線でがんが引き起こされる危険性が高く、代替策を講じて、CT検査の回数を減らすべきだ」としている。CT検査の3分の1は不要とする研究もあり、必要のない検査を受けないよう訴えている。日本の場合、がんにかかる人の3.2%は、放射線診断による被ばくが原因と推定される、との報告が、英国オックスフォード大グループの国際調査で2004年にまとまっている。日本はCTの設置台数が多く、国民が受ける検査回数が、調査対象の15か国の平均に比べ1.8倍と多いことが背景となっている。放射線を浴びると、正常細胞を傷つけることにより、がんを引き起こすとされている。(平成20年1月27日 読売新聞)

胆石の病歴、胆道がんになる確率2.5倍

胆石を患ったことがある人は、そうでない人に比べて胆道がんになる危険性が2〜3倍に高まることが、厚生労働省の研究班の大規模調査で分かった。また、胆道がんの一種の肝外胆管がんは、体格指数(BMI)が27以上の人は、23未満の人に比べて1.8倍も発症の恐れが高いなど、太っているほど危険性が高まることも分かった。BMIは体重を身長で2回割り算して算出する。調査は、当初40〜69歳だった秋田、茨城県などの男女10万人を10年以上にわたり追跡調査。この間に235人が胆道がんと診断され、内訳は胆のうがんが93人、肝外胆管がんが142人だった。こうした患者と、胆石の病歴、肥満などとの関連を調べたところ、胆石の病歴を持つ人は、2.5倍ほど胆道がんになる確率が高く、特に女性では3.2倍高まることが判明。胆のうがんは3.1倍、肝外胆管がんは2.1倍、それぞれ危険性が高まっていた。胆石が胆道がんになる危険性を高める一因だという指摘は以前からあったが、大規模調査で確かめたのは初めて。(平成20年1月11日 読売新聞)

ピロリ菌から発がんたんぱく質
 

人の胃にすみ着くピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)がつくるたんぱく質にがんを引き起こす働きのあることを、北海道大遺伝子病制御研究所の畠山昌則教授らのグループがマウスの実験で明らかにした。今週の米科学アカデミー紀要電子版に発表する。胃がんなどを起こす仕組みの解明につながる成果だ。ピロリ菌が胃の粘膜の細胞にくっつくとCag(キャグ)Aというたんぱく質を細胞内に打ち込むことが知られている。畠山さんらはCagAを作るピロリ菌の遺伝子を取り出してマウスの受精卵に組み込み、全身の細胞にCagAが入るとどうなるかを調べた。すると、約200匹のマウスの半数以上は生後3カ月までに胃の粘膜の細胞が異常増殖して胃壁が厚くなり、その後約20匹で胃にポリープができた。さらに1年半以内に2匹が胃がん、4匹が小腸がんを発症。白血病になったマウスも17匹いた。これまでの細胞レベルでの研究で、CagAが細胞内で別のSHP-2というたんぱく質と結びつくと細胞のがん化が起きることを突き止めていたため、SHP-2と結合しないように細工したCagAをつくらせてみると、マウスはがんにならなかったという。畠山さんは「CagAががんを起こすことが、個体レベルで証明できた。将来、CagAとSHP-2との相互作用を妨げる薬の開発ができるかもしれない」という。(平成20年1月8日 朝日新聞)

夫の喫煙で危険性2倍 吸わない女性の肺がん

自分はたばこを吸わないのに夫が吸う女性は、夫も吸わない女性と比べ肺腺がんになる危険性が約2倍高まるとの疫学調査結果を厚生労働省研究班が発表した。夫の1日の喫煙量が20本以上だと、リスクがさらに高まるという。同センターの最新の推計値によると、2001年に肺がんを発症した女性は2万1000人あまり。 別の調査では、肺がんの女性の約70%は非喫煙者とのデータもある。調査は岩手、秋田など全国8県の40−69歳のたばこを吸わない女性約2万8000人が対象。平均13年間の追跡調査で109人が肺がんと診断された。このうち肺腺がんだったのは82人で、さらに夫が喫煙者、もしくは以前喫煙者だった女性は67人。統計学的な計算によると30人は受動喫煙がなければ肺腺がんにならずに済んだはずだという。(平成19年12月12日 中国新聞)

太り過ぎでがん危険高まる

世界がん研究基金は太り過ぎが少なくとも6種類のがんを引き起こす危険性があると発表した。研究者は、がんの危険性を下げるためには体格指数「BMI」は25未満が望ましいとの考えを示した。報告書は1960年代以降の7000件以上の研究結果を分析。太り過ぎと、食道がんや膵臓がん、腎臓がんなどの間には明確な関連があると結論付けた。報告書は、わずかな体重超過でもがんの危険性が高まると警告。ベーコンなどの加工肉は腸がんの危険性が高まるため避けるべきだとし、食べる量は牛肉などの赤肉を週500グラム以内にすべきだと勧告している。ファストフードや甘い飲料、過度のアルコールも勧めないとしている。(平成19年11月1日 中国新聞)

膵臓がんリスク、喫煙男性は1.8倍

たばこを吸っていたり、糖尿病と診断された男性は膵臓がんのリスクが約2倍高くなることが厚生労働省研究班の大規模調査でわかった。調査は、1990年と93年に、茨城や長野、大阪など9府県に住んでいた40〜60歳代の男女約10万人が対象。喫煙や病歴、運動などについてアンケート調査を実施。その後、2002年まで膵臓がんになるリスクとの関連を調べた。その結果、喫煙していた男性は、非喫煙者に比べて、膵臓がんになるリスクが1.8倍高かった。また、過去に糖尿病と診断された男性は、そうでない男性よりも、リスクが2.1倍高かった。女性では、男性と同じ傾向が確認された。一方、膵臓がんの発症リスクを高めると考えられていた肥満のリスクは確認されなかった。運動による予防効果も認められなかった。(平成19年10月6日 読売新聞)

がんワクチン「効果あり」 

進行した膵臓がんや食道がんなどを対象にしたがんワクチンの臨床研究で、患者34人のうち22人に病状の悪化を防ぐ効果が確認された。日本癌学会総会で、東大医科学研究所ヒトゲノム解析センターの中村祐輔教授が発表した。目立った副作用は出ていないという。新薬として開発を進める方針だ。がんワクチンは、がん細胞に狙いを絞って免疫反応を高め、がんをやっつけようという手法。中村教授らが、正常細胞ではほとんど働かないのに、それぞれのがん細胞で特徴的に活発に働いている遺伝子を特定。その中から強い免疫反応を導くものを選び出し、複数のワクチンを作った。膵臓、食道のほか、肺、肝臓、膀胱、大腸の各がんを対象に、岩手医大や福島県立医大、山梨大、和歌山県立医大、九州大などが昨秋から順次、臨床研究を始めた。今はワクチン自体に毒性がないかどうかを確認している段階で、標準的な治療法がないと判断された患者らに説明し、同意を得て研究に参加してもらっている。9月末までに投与した患者は67人おり、このうち、計画通り投与し、3カ月以上過ぎた34人について分析した。がんが縮小したと評価された人は膵臓、膀胱、大腸の各がんだった5人。がんが大きくならずに安定していた人が17人で、計22人で効果があったと判断した。がんに対する免疫反応が高まっていることも確認され、特に比較的若い人で顕著だった。また、投与の結果、半年以上、病状が安定している患者がいた一方、効果のみられないケースもあった。グループが、がんワクチンに期待するのは、手術後の再発予防。実用化にはさらに研究を重ねる必要があるが、新薬の承認申請を目指し、臨床試験(治験)を担当する厚生労働省の関連組織と相談に入りたい考えだ。(平成19年10月5日 朝日新聞)

コーヒー派に膵臓がん少ない

コーヒーを1日に3杯以上飲む男性は、ほとんど飲まない男性に比べ、膵臓がんになる危険度が低いとの疫学調査結果を、厚生労働省研究班がまとめた。コーヒーは膵臓がんの危険を高めるとの調査が1981年に米国で発表されたが、異論も出てはっきりしていなかった。今回は男性だけで予防効果がある可能性が示されたが、研究班は「コーヒー以外の生活習慣や体質の影響もあるのかもしれない」としている。調査は、全国9府県の40−69歳の男女約10万人が対象。1990年から平均約11年の追跡期間中に233人が膵臓がんになった。年齢や喫煙などの影響を取り除いてコーヒー摂取量との関係を調べたところ、ほとんど飲まない男性が膵臓がんになる危険度に比べ、1日に1−2杯飲む男性の危険度はやや低く、3杯以上の男性はさらに低いとの結果で、よく飲む男性ほど危険度が下がる傾向があった。(平成19年10月5日 中国新聞)

肺がん発見率9割 血液検査で精度3倍

血液検査で肺がんを高精度で見つける新たな腫瘍マーカーの組みあわせを、東大医科学研究所ヒトゲノム解析センターが開発した。発見率は約9割で、いま診療で主に使われている3種類に比べて1.5〜3倍高いという。また、手術後の経過を予測する組織検査の組み合わせも考案しており、肺がんの早期発見や術後の治療法選択に役立ちそうだ。肺がんで死亡する人は年に5万人を超え、がんによる死亡で最も多い。早期発見が難しく、発見時にはすでに悪化していて手術不可能な例の多いことが一因という。グループは、肺がん細胞で特異的に作られるたんぱく質で、血中に分泌されているものを複数見つけた。このうち2つと、肺がんの指標として従前からあるCEAというマーカーを加えた3つの組み合わせで、肺がん患者と健康な人の血清を対象に検出精度を確かめた。その結果、肺がんの8割余りを占める非小細胞肺がんの場合、89.1%の感度で検出できることが分かった。小細胞肺がんの場合も、別の3つのマーカーの組み合わせによる血液検査で87.5%の検出率だった。さらにグループは、肺がんは同じ早期で手術をしても、経過に差があることに着目。術後5年以上追跡している約400人の患者の肺がん組織を分析し、特定のたんぱく質3つの内いくつ検出されるかで、「5年後の生存率が8割程度」と経過の良い場合から、「生存率2割程度」と悪い場合まで4段階で判別できる方法を開発した。経過が予測できれば、抗がん剤などの治療方法や開始時期の選択に役立つ。(平成19年10月4日 朝日新聞)

乳がんリスク遺伝子診断、親族と比較

自分が遺伝的に乳がんや卵巣がんになりやすいかどうかを調べる検査が国内で受けられるようになった。国立がんセンターなどの臨床研究で、米国で普及してきた遺伝子検査の有効性が確認された。リスクが高いとわかれば検診を欠かさないなどの対策がとれる。ただ、将来の発症におびえることにもなりかねないため、精神的サポートを含めた遺伝カウンセリングが必須条件となる。両親や兄弟姉妹らの血縁者内で多く発症しているがんは「家族性腫瘍」と呼ばれる。このうち乳がんや卵巣がんの一部には、「BRCA1」「BRCA2」という遺伝子の変異が原因で起こるものがある。この遺伝子を血液から採取し、変異の有無を調べる検査は米国で約10年前から一般に行われ、のべ約100万人が受けている。変異がある人は将来、5〜8割が乳がんに、1〜3割が卵巣がんになるとされている。この検査が日本人にも有効かどうかを調べるため、国立がんセンターほか4病院(癌研有明病院、聖路加国際病院、慶応大病院、栃木県立がんセンター)が03年から臨床研究を実施。家族性の乳がん・卵巣がんが疑われた計135人のBRCA遺伝子を調べた。変異があったのは36人(27%)。血縁者の乳がんの発症年齢が若い場合に変異率が高いなど結果は米国の傾向とほぼ同じで、研究の総括責任者をつとめた栃木県立がんセンターの菅野康吉医師らは、日本人にも検査は有効と判断した。 検査を受けたい人は、まず乳がんや卵巣がんの病歴がある血縁者の情報を医療機関に提供。家族性腫瘍の疑いが強いと判断されれば受けられる。血縁者と本人のBRCA遺伝子を調べ、遺伝的な発症リスクが高いかどうか診断される。(平成19年8月20日 朝日新聞)

大腸がん対策に"最新兵器" 

大腸がん対策に、画期的な武器が現れた。ヘリカルCTで撮った映像をコンピューターで三次元に処理する「仮想内視鏡」だ。大腸がんは増加が予測される一方、検査への抵抗感などから検診の受診率が低迷している。仮想内視鏡は、検診を受ける側の抵抗感も低く、精度も高まることから、大腸がん検診の受診率アップに貢献しそうだ。実用化を進めているのは、国立がんセンターの森山紀之・がん予防・検診研究センター長ら。仮想内視鏡は、肺がん検診に使われるヘリカルCTを使い、映像をコンピューター処理することで、まるで内視鏡で腸内を診るようにチェックできる。従来の大腸内視鏡検査は、医師の技量によっては腸内を傷つけてしまったり、死角で病巣を見落としたりするケースがあるが、そうしたリスクはほぼ解消される。厚生労働省などのデータによると、大腸がんは現在、日本人のがん罹患率のトップを占めている。しかし、早期発見に有効な大腸がん検診の受診率は約18%と低迷している。便潜血の検査で陽性でも、内視鏡による精密検査を受ける率は6割にとどまる。これは検診を受ける側が、肛門から内視鏡を入れることに抵抗感が強いためだといわれている。仮想内視鏡は、外部から10秒程度撮影するだけ。集団検診でも、1人5分程度で済むとみられ、内視鏡と比べて検診の効率化も期待される。被曝(ひばく)リスクはあるが、X線撮影による大腸検査に比べると、5分の1から8分の1に抑えられる。国立がんセンターでは試験的に仮想内視鏡による検診を実施しているが、実用化に向け、来年度からは米、英、中、各国と臨床例を増やしていく。森山氏は「5ミリ程度の大腸がんを100%見つけることを目指す。実用化されれば、検診率が飛躍的に上がることが予想され、早期では治癒率の高い大腸がん対策に大きく寄与すると思われる」と話している。(平成19年8月8日 産経新聞)

大腸がん、生活習慣上の予防策を大規模調査

大腸がんと生活習慣の関係が、国立がんセンターや群馬大などでつくる厚生労働省究班の大規模調査で明らかになった。男性はビタミンB6摂取、女性は1日3杯以上のコーヒーで発症の危険性が下がり、適度な日光浴は男女とも直腸がん予防につながる可能性があるという。研究班は9府県の40〜69歳の男女約9万6000人を調査。コーヒーを1日3杯以上飲む女性は、ほとんど飲まない女性に比べ、大腸がんになる危険性が約3割低かった。粘膜を越えて進行する結腸がんに限ると、3杯以上の女性は飲まない女性より56%も低い。男性では、関連は見られなかった。一方、男性では、魚やナッツに含まれるビタミンB6が効果を示した。同様の男女約8万人を調査。1日当たりのB6摂取量で男性を4グループに分け、大腸がんとの関係を比べた。 その結果、最も摂取量が少ないグループは、他のグループより危険性が30〜40%高かった。週に日本酒約7合(エタノール換算で150グラム)以上飲む男性でも、B6摂取は効果があった。女性ではB6との関連は見られなかった。また、男女約4万人を対象に、体内のビタミンDの貯蔵量別に4グループに分け、直腸がんとの関係を調べたところ、最も少ないグループは最も多いグループに比べ、男性で約4.6倍、女性で約2.7倍も直腸がんになりやすかった。ビタミンDは紫外線によって多く合成されるため、適度な日光浴が、直腸がん予防につながる可能性があるとみられる。(平成19年8月1日 毎日新聞)


電話相談、がん患者らの心をサポート開設

がんになって気分が落ち込む、がんになった家族にどのように接すればよいかわからない、そんな悩みを抱えるがん患者や家族の相談に応じようと、日本サイコオンコロジー学会は「こころのサポートホットライン」を開設する。電話番号は03−5218−4776、03−5218−4771で、午前10時〜午後6時まで。 相談は無料。サイコオンコロジー(精神腫瘍学)は、がん患者の心理などを研究する精神医学。がん告知後の精神的サポートが重要視される中、70年代に欧米で始まった。当日は精神科医を中心に臨床心理士ら18人が相談に応じる予定。同会常任世話人の明智龍男・名古屋市立大准教授は「再発の不安など、気持ちの問題ならば何でも相談してほしい。役に立てれば今後も続けていきたい」と話している。(平成19年7月5日 毎日新聞)

乳がん検診、発見2割

乳がん患者のうち、乳房のエックス線(マンモグラフィ)などを使った検診でがんが見つかったのは2割に過ぎず、4人に3人は、検診を受けずに自分で、しこりなどの異常に初めて気づいて病院を受診したことが、日本乳癌(がん)学会の大規模調査でわかった。自分で発見する場合、早期がんより進行している例が多く、専門家は「早期がんの発見には、マンモグラフィ検診が有効だ。乳がんの死亡率を下げるには、低迷する集団検診の受診率を上げることが不可欠」と指摘している。同学会は、乳がんの診断や治療を行う全国226か所の医療機関から、2004年度にがん登録した乳がんの新患者約1万4800人(平均年齢57歳)のデータを集計。これは全国の年間新患者数の約4割にあたる。その結果、患者が乳がんに「自分で気づいた」と答えたのが73・8%に上った。検診で見つかったのは20・4%で、このうち自覚症状が全くなかった人は、14・7%だった。直径2センチ以下の早期がんで見つかったのは45%に過ぎず、43%は2・1〜5センチに達していた。発見時にリンパ節に転移していた人も、3分の1を占めた。リンパ節に転移しない乳がんの10年後の生存率は約9割と高いが、転移をしていると7割以下に落ちるという。(平成19年6月15日 読売新聞)

乳癌の放射線治療期間が短縮

放射線を正確に標的に当てる強度変調放射線治療(IMRT)の利用で、1日あたりの照射線量を増やし、乳癌患者の治療期間を従来の6〜7週間からわずか4週間に短縮できるとの研究結果が米Fox Chaseフォックス・チェイス癌センターのGray Freedman博士による報告があった。少なくとも腫瘍が小さい乳癌患者では、腫瘍摘出術と放射線治療の併用で、乳房切除術と同等の生存率および治癒率を得られることが十分に裏付けられている。しかし、放射線治療には6〜7週間を要することから二の足を踏む女性が多く、期間の短縮が重要課題となっている。いくつかの研究では、体外からの照射と放射性シードの埋め込みを併用する1週間の治療について検討されているが、この治療は腫瘍の極めて小さいごく一部の患者にしか適さない。今回の研究では、乳癌の女性75人(平均52歳)を対象に、IMRTを用いて1日当たりの線量が通常より高い治療を実施し、その副作用を調べた。従来に比べて線量の総計が多くなるわけではなく、通常の6〜7週間の治療で計60Gy(グレイ、吸収線量を示す単位)を照射するのに対して、この4週間治療では56Gyだという。IMRTでは、コンピューターが制御するX線加速器を用いて腫瘍または腫瘍内の特定部位に極めて正確に放射線を照射でき、周辺組織の被曝を最小限にとどめることができる。短期の結果は良好で、従来の治療を超える副作用は出ていない。一部の患者に皮膚障害が認められたが、6週目までには治まり、治療終了から6週間後には、皮膚の外観が治療前と同じに戻った。今後、長期的な問題の有無を確認するため5年間の追跡が行われる。過去の研究から、1980年代に放射線治療を受けた女性の心疾患リスクが高いことがわかっているが、IMRTを用いれば心臓の被曝が少なくなり、リスクも軽減できるはずだという。ただし、IMRTには利用できる施設が限られるという欠点があることをFreedman氏も認めている。また他の専門家からは、今回の研究が小規模で、さらに検証する必要がある点や、長期的な毒性と再発の可能性について疑問が残る点も指摘されている(平成19年6月7日 日本経済新聞)

患者の意思あれば延命中止 

死期が迫ったがん患者の延命治療中止手続きについて、厚生労働省研究班がまとめた。対象となる終末期を「余命3週間以内」と定義し、患者本人の意思を前提に中止できる医療行為の範囲を「人工呼吸器、輸血、投薬」などと明記する一方、意思確認できない場合は除外するなど慎重な判断を求めている。試案をまとめたのは初めてで、今後、医療現場の声を反映させながら内容を詰める。ただ、全国約1500の病院が回答した同研究班の調査では、がん患者への病名告知率は平均で65・7%、余命告知率は29・9%にとどまり、患者の意思確認が容易でない実情にどう向き合うかが課題となりそうだ。試案は末期がん患者の終末期を、複数の医師が繰り返し診察するなどした結果「余命3週間以内と判定されたとき」と定義。指針の目的を「終末期の患者が、尊厳ある死に至るプロセスを選択すること」とした。患者の意思確認の方法は(1)2年以内に書かれた文書(2)口頭での患者の意思表示(3)家族による患者意思の推定と同意―のいずれかとした上で、中止や差し控えの対象は「人工呼吸器、人工心肺、栄養や水分の補給、輸血、投薬などすべての治療」とした。患者の意思が確認できない場合や、認知症や知的障害で判断が困難な場合などは、対象から除外するとしている。同研究班は今後、植物状態など、がん以外の病気についても指針を検討するとしている。林班長は「がんは3人に1人が亡くなる日本人の最大の死因だが、病状の経過がある程度予測可能で、患者や家族と治療方針を検討する時間的余裕もあるケースが多い。 今回の試案を、終末期医療をめぐる議論を一歩進めるきっかけにしたい」と話している。(平成19年6月6日 中国新聞)

がん細胞、0.1ミリでも光らせる物質

がん細胞に取り込まれると光り続ける蛍光物質を、米国立衛生研究所と東京大の研究チームが開発した。マウス実験では、従来の検査では見つけにくい小さながんでも強い光を発することが確認された。微小ながんを正確に見つける新しい診断薬の開発につながる可能性があるという。研究チームは、がん細胞に取り込まれると光るスイッチが入り、スイッチが入っている間は、がん細胞の中やがん細胞表面にとどまる物質の開発に取り組んだ。その結果、(1)がん細胞に取り込まれると分解されて光り始め、光ると水に溶けにくくなって細胞から排出されにくい(2)事前にがん細胞が取り込んだ酵素で処理されると光り始め、水にも溶けにくくなる (3)がん細胞表面に張り付けた結合分子と結びつくと光り始め、結合が長く続くという性質を持つ3種の蛍光物質を開発した。いずれも従来の蛍光物質に比べ光が強いという。研究チームは、マウスの腹部に多数のがん細胞を植え付け、これらの蛍光物質を散布して観察。0.8ミリ以上のがんの9割以上を見つけることができ、0.1ミリのがんまでとらえることができたという。がんの詳細な画像診断法には、がんに集まる性質を持つ造影剤を使う陽電子放射断層撮影(PET)などがある。ただ、PETで見つかるがんは現在3ミリ程度までで、解像度には限界がある。蛍光物質を使えば、微小な変化もとらえられるが、体の深い部分にあるがんの場合、蛍光物質の光は体外から確認することができない。研究チームの小林久隆・米国立衛生研究所主任研究員は「最近は内視鏡や腹腔鏡を使う検査や手術が主流になっており、それらを使って患部に近づけば、がんか否かを正確に確認できるだろう。開発した蛍光物質は、すでに眼科の検査で使われているものに近いので、新たな検査技術への活用も可能。卵巣がんの臨床研究から始め、5年程度での実用化を目指したい」と話している。(平成19年4月30日 毎日新聞)

海外新薬、1年半で承認

厚生労働省は患者の要望が強い新薬などを使いやすくする仕組みを整える。使用の承認に必要な治験(臨床試験)を製薬会社が素早くできるよう、複数の国で同時に効能を検証する「国際共同治験」を推進。海外で開発された薬などの承認までの期間を現在の約4年から1年半程度に短縮する。患者の選択肢を増やし、国内医薬品の質の向上につなげる。厚労省は月内に詳細を詰め、医薬品の質の向上に関する5カ年計画をまとめる方針だ。日本は新薬承認に時間がかかり、欧米で一般に使える薬が国内では使えない「ドラッグラグ(薬の時間差)」と呼ばれる問題が深刻化している。(平成19年4月19日 日本経済新聞)
肝臓がん、進行の仕組み解明

C型肝炎ウイルス(HCV)が引き起こした慢性肝炎が肝臓がんに進行する仕組みを、人やマウスの細胞を用いた実験で京都大らのグループが解明した。HCVに感染することにより、本来は免疫細胞にしか存在しない遺伝子編集酵素の一種「AID」が肝細胞に発現し、がんにかかわる遺伝子異常を継続的に引き起こすことを突き止めた。国内のHCV感染者は約200万人といわれる。HCVが引き起こす慢性肝炎は肝硬変を経て、肝がんに進行することが分かっており、肝がんの約4分の3はHCV感染が原因。HCVが未発見で対策が不十分だった時代に感染した人が、10〜40年後に発がんする例が多い。グループが行った培養細胞の実験などから、HCVに感染すると肝細胞内に発現したAIDにより、がんに関連するさまざまな遺伝子に変異が生じることが分かった。(平成19年4月12日 毎日新聞)

飲酒ですぐ赤くなる人、食道がんにご用心

世界保健機関(WHO)は、アルコールと癌の因果関係についての見解を発表した。飲酒で顔が赤くなりやすい人の食道がんの発症率は、赤くならない人に比べて最大で12倍。エタノール(アルコール)は、癌を引き起こす元凶と指摘。アルコールの分解過程で重要な役割を果たすアルデヒド分解酵素の一部が欠損し、働きの悪い人は、飲酒量に比例して食道癌になる危険が高まり、酵素が正常な人の最大12倍になるとした。20年前、飲酒との関係を認定したのは食道がんと肝臓癌など限られたが、今回は乳癌、大腸癌との間にも「因果関係があるのは確実」とした。アルコールを毎日50グラム(ビール大瓶2本程度)摂取した人の乳癌発症率は、飲まない人の1・5倍。大腸癌の発症率も飲酒しない人の1・4倍になるという。(平成19年4月2日 読売新聞)

ピロリ菌、がん発症の仕組み

京都大大学院のグループは、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃がんを発症させる仕組みを明らかにした。ピロリ菌が、胃粘膜細胞をがん化するために、通常は免疫細胞にしかない「AID」と呼ばれる酵素を利用していたことを突き止めた。細菌が原因でがんができる唯一の例。早期のピロリ菌除菌が胃がん予防に効果的だといえる」と話す。ピロリ菌は幼児時に経口感染し、胃に数十年すみ続け、慢性胃炎を起こす。日本では40代以上の7割が感染しているという。胃がんでは最も重要な発がん因子であることが判明していたが、具体的な仕組みは分かっていなかった。グループは人体の免疫機能を担うAIDが、本来は免疫細胞のBリンパ球にしかないはずなのに、慢性胃炎を起こした細胞に多く現れていることに着目。ピロリ菌を人為的に感染させた胃粘膜細胞にはAIDが多く現れ、重要ながん抑制遺伝子を変異させるなど、がん化する一連の仕組みを確認した。AIDの働きを抑制するなどの新治療法開発の道も開けそうだという。(平成19年4月2日 毎日新聞)

がんの痛み、薬剤師も管理 

欧米に比べて遅れているとされる痛みの緩和ケアに薬剤師も積極的にかかわろうと、「日本緩和医療薬学会」が結成された。モルヒネなど医療用麻薬の効果的な使い方の普及に、「薬の専門家」として一役買いたい考えだ。将来的には専門薬剤師の認定制度をつくることも検討している。 緩和ケアは、患者の生活の質(QOL)を高める手段として積極的に導入する医療機関が増えており、このチームに薬剤師を加える医療機関も増えてきている。さらに自宅で療養するがん患者らの間でも緩和ケアのニーズは高まると予想される。このため保険薬局の薬剤師も、緩和ケアについて理解を深め、往診する医師や看護師らと連携する必要性が高まっている。 がんを専門とする薬剤師としては、日本病院薬剤師会が今年度から認定試験を始めた「がん専門薬剤師」制度がある。しかし、抗がん剤を専門とする薬剤師の育成が大きな目的のため、新たに発足する緩和医療薬学会は、モルヒネなどによる緩和ケアに特化した専門薬剤師の育成を目指す。(平成19年3月19日 読売新聞)

人工リンパ節、免疫力20倍

人工的に作成したリンパ節を免疫力の低下したマウスに移植し、免疫機能を正常マウスの約20倍に高めることに理化学研究所が成功した。高い免疫力は1カ月以上持続した。免疫力の強化は、エイズなどの重症感染症やがんなどの治療に有効だという。リンパ節はわきの下や頚部などにあり、ヒトの体に入ったウイルスなどの異物(抗原)が運ばれてくる組織だ。リンパ節中の免疫細胞が異物と結合すると免疫反応が始まり、異物を排除する抗体を作り出す。研究チームは、たんぱく質の一種のコラーゲンを3ミリ角のスポンジ状にし、免疫反応に重要な2種類の細胞を染み込ませた。これを正常なマウスの体内に移植すると、リンパ節に類似の組織ができた。複数の免疫細胞が本物と同じ比率で存在し、血管も形成された。この人工リンパ節を、免疫不全症を起こしているマウスに移植したところ、異物に対する血中の抗体量が正常マウスの約20倍にも高まり、1カ月以上持続した。(平成19年3月19日 毎日新聞)

CT定期診断、肺がんの死亡率低下に無効果

肺がんの早期発見が期待されるコンピューター断層撮影法(CT)による定期診断は、肺がんによる死亡率を低下させる効果がなく、不必要で有害な医療行為にもなりかねないという調査結果を米メイヨー・クリニックなどの研究チームが発表した。研究チームは「より決定的なデータが得られるまで不必要なCTの診断を受けるべきでない」と提言している。調査は、肺がんのリスクの高い喫煙者と元喫煙者3246人を対象に、4年間、毎年1回CT診断を実施。この間、肺がんで亡くなったり、進行性の肺がんと診断された患者の割合を、過去のデータをもとに算出したCT診断を受けない場合と比較した。その結果、死亡率、進行がんに発展する率とも、診断を受けた場合と受けない場合に大差がないと判明。小さながん細胞を早期発見し、早く治療することで死亡率を引き下げるという、CT診断に本来期待される効果がほとんど得られないとわかった。研究チームは「CT診断で肺がんを早期発見することはできるが、治療しないと急速に悪化するがんは見逃している可能性がある」としている。ただ、米国では、CT診断が「がん予防に役立つ」との調査結果もあり、死亡率の集計など、この研究のデータ解釈に疑問を投げかける専門家の声も出ている。肺がんのCT診断の効果とリスクについては、米国立がん研究所などが同国とオランダで疫学調査を実施している。(平成19年3月8日 読売新聞)

がん細胞、自滅させる酵素を発見

がん細胞を自滅に導く酵素を、吉田清嗣・東京医科歯科大研究チームが発見した。酵素の働きを高められれば、抗がん剤の投与量を減らして副作用を軽減する効果が期待できるという。遺伝子の本体であるDNAが紫外線や放射線などの影響で変異することで、細胞はがん化する。変異が大きいと、細胞中のp53遺伝子が働き、細胞はアポトーシスと呼ばれる自滅現象を起こす。p53は酵素の働きで活性化すると考えられていたが、その酵素が何かは特定されていなかった。研究チームは、ヒトのがん細胞を使い、p53が活性化する時にDYRK2という酵素が働いていることを突き止めた。さらに、薬剤で細胞のDNAを傷つけると、この酵素が細胞質から核の中に移動してアポトーシスが始まることを確認。酵素が働かないようにすると、アポトーシスが起きなくなることから、p53にスイッチを入れる働きを持つと断定した。吉田助教授は「抗がん剤や放射線治療は正常な細胞にもダメージを与える。DYRK2が必要な時に必要な細胞で働くよう工夫できれば、患者の負担を小さくする治療につながる」と話す。(平成19年3月9日 毎日新聞)

膵臓・スキルス胃癌の治療に手がかり

抗癌剤を入れた極小カプセルと癌の血管形成を妨げる薬の併用が、難治性の膵癌やスキルス胃癌の治療に有効であることを、東京大と大阪市立大が動物実験で突き止めた。これらの癌は早期発見が難しいため、外科手術ができない場合が多く、今回の研究成果が新たな治療法に道を開くと期待される。研究チームは、抗癌剤をくるんだ直径約65ナノ・メートル(ナノは10億分の1)の球状カプセルを、大量に静脈注射する癌治療法を開発している。癌が延ばす血管には、普通の血管にはない約100ナノ・メートルのすき間がたくさん開いていて、そこから漏れた抗癌剤カプセルを、癌細胞に蓄積させ、癌をたたくやり方だ。ところが、膵臓癌やスキルス胃癌は他の癌より血管の数が少ないため、この手法ではカプセルが癌全体に行き渡らず、うまくいかなかった。このため癌の血管形成に必要な因子「TGF―β」の阻害剤をマウスにごく少量投与した結果、癌細胞の血管壁がきちんと形成されず、すき間がより大きくなった。カプセルを注射すると、血管が少なくても、癌をたたくのに十分な量のカプセルが、がん細胞内に流れ込むようになった。何もしないマウスと比べ、膵臓癌の大きさは6分の1、スキルス胃がんは半分まで小さくなった。(平成19年2月23日 読売新聞)

高身長・未出産の女性、乳がんリスク高い

日本人で乳がんのリスクが高い女性は、身長160センチ以上、出産経験がない、初潮年齢が早いなどの傾向があることが、厚生労働省研究班の約5万5000人を対象にした疫学調査でわかった。乳がんの発生には女性ホルモンの分泌が関与しているとされ、大規模な調査で裏付けられた形だ。同研究班は1990年と93年に40〜60代だった全国の女性を対象に追跡調査を実施。閉経の前か後か、体格、初潮年齢などの条件で集団に分け、2002年までに乳がんを発症した人数から、各集団の危険性を比較した。閉経後の場合、身長160センチ以上の女性は、同148センチ未満の女性に比べ、乳がんのリスクが2・4倍に高まった。また48歳未満に閉経した人に比べ、54歳以上で閉経した人のリスクは2倍になった。出産経験がない女性は、ある女性に比べ2・2倍だった。閉経前の場合、初潮年齢が16歳以上だった女性は、14歳未満だった人に比べ、リスクが約4分の1に下がった。出産経験がない閉経前の女性は、ある女性に比べて1・7倍に増えた。 (平成19年2月21日 読売新聞)

よく運動する男性、大腸がんリスク3割減


男性で運動や肉体労働などで体をよく動かす人は、ほとんど体を動かさない人に比べ、大腸がんになるリスクが3割も低いことが、厚生労働省研究班の大規模な疫学調査でわかった。研究班は1995年と98年の2回、全国の45〜74歳の中高年男女約6万5000人を対象にアンケート調査を実施した。それぞれが一日に運動する時間と運動の強さを調べ、活動量を計算。活動量の差で4集団に分け、2002年まで追跡調査し、大腸がんを発症する危険度を比較した。その結果、男性では活動量が多い集団ほど大腸がんになるリスクが下がる傾向があり、激しい運動などで最も体を動かす集団は、最も体を動かさなかった集団に比べ、31%も低かった。結腸がんのリスクの差は42%もあった。体を動かすと、がんの危険因子である肥満や糖尿病の予防につながるほか、腸の発がんにかかわる生理活性物質を少なくする効果があると考えられる。(平成19年2月20日 読売新聞)
手術後の癌再発ワクチン

全国13の大学病院やがん専門病院などが、がんを攻撃する免疫細胞を活性化させる「がんワクチン」の臨床研究ネットワークを作った。一部で患者への接種も始まった。対象とするがんは膵臓や食道、肝臓、胃、肺、膀胱など多岐にわたる。安全性を確かめた後、手術後の再発を予防する目的で接種。数年後の実用化をめざす。 がんワクチンはこれまでいくつかの大学病院で個別に臨床研究されてきたが、これほど規模が大きく、組織だった研究は初めて。東大医科学研究所ヒトゲノム解析センターが開発した約10種のワクチンを使う。同センターは、人の遺伝情報をつぶさに調べ、正常細胞のもとではほとんど働かないのに、がん細胞の中だと活発に働く遺伝子を特定。それらを基にワクチンを作り、がんに対する免疫細胞を活性化させるかどうかを実験で検証した。 臨床研究は、まず人での安全性を調べる第1段階から始める。((平成19年2月6日 朝日新聞)

便秘と大腸がんは無関係


便秘と大腸がんは関係ありません。便に含まれる有害物質が腸に長くとどまるため、古くからあった「便秘がちな人は大腸がんになりやすい」という俗説が、厚生労働省研究班の疫学調査で否定された。調査は全国6地域に住む40〜69歳の男女約6万人を対象に93年から実施。開始時に便通の頻度などを聞き、平均8年間、追跡調査して大腸がんを発症したか調べた。その結果、便通が「週2〜3回」しかない便秘の人たちは、「毎日1回」「毎日2回以上」する人たちと比べても、大腸がんを発症する危険度は変わらなかった。また、普段の便の状態との関連では、「下痢」の人は、大腸がんの一つである直腸がんのリスクが高い傾向が出たが、対象人数の少なさなどが影響した可能性もあり、今後も検討が必要という。(平成18年12月20日 朝日新聞)

胃がん手術後の抗がん剤「有効」

進行胃がんで胃を切除した患者は、手術後にTS―1(ティーエスワン)という経口抗がん剤を服用した方が、手術単独に比べて死亡の危険性が3割低くなることが、千人以上を対象とした国内の臨床試験で明らかになった。胃がん手術後の抗がん剤治療の有効性が大規模な試験で証明されたのは初めて。今後、この方法が進行胃がんの標準治療になるのは確実だ。試験の対象は、がんの進み具合を表すステージ(1が最も早期、4が最も進んだ段階)が2と3の進行がん患者で、胃を手術で切除した1000人余。このうち約半数の患者には手術後に何もせず、残りの半数にはTS―1を1年間服用してもらった。その結果、抗がん剤治療を受けた群は、手術後3年の生存率は80・5%で、手術単独群の70・1%を10ポイント上回った。死亡の危険性は手術だけの群より32%低かった。副作用は食欲不振が最も多く(6%)、重いものは少なかった。(平成18年12月15日 読売新聞)

更年期障害ホルモン療法 乳がんリスク6割減


女性の更年期障害の治療に「ホルモン補充療法(HRT)」を実施しても乳がんになるリスクは上がらず、逆に6割ほど下がることが、厚労省の調査でわかった。HRTは、米国の臨床試験で「乳がんのリスクを高める」とされて以来、国内でも敬遠されがちだったが、研究班は「更年期障害に悩む日本人にとっては、利益の方が大きい」としている。大阪府立成人病センターなど全国7施設で、過去10年以内に乳がんの手術を受けた45〜69歳の女性(3434人)と、がん検診を受けに来た人で、乳がんでなかった同年代の女性(2427人)の2グループに対し、HRTの経験など21項目をアンケートした。その結果、乳がん患者グループではHRT経験者が5%で、もう一方のグループは11%。統計上、HRT経験者の方が、乳がんになるリスクは57%低かった。女性ホルモンのエストロゲンを単独で使った場合と、エストロゲンと黄体ホルモンを併用した場合ではリスク差はなく、HRT経験者の半数近くは、期間は1年未満だった。経口薬などで女性ホルモンを摂取するHRTは、欧米では一般的な治療法。だが、米国国立衛生研究所が91年から15年計画で始めた大規模臨床試験で、乳がんや脳卒中などのリスクが高まることが指摘され、02年に試験も中止された。 日本国内では更年期障害の治療は普及しておらず、HRTに関する大規模な調査もなかった。米国での試験中止以降は副作用を恐れる人も多く、現在、HRTを受けている人は数%とされる。日本人の乳がんリスクが低かった原因について佐伯教授は、米国人と異なり乳がん発症のピークが閉経前の45〜49歳にあること、HRTを何年も続ける米国人に比べて、使用期間が短いことなどを挙げている。 「欧米のように閉経後の乳がんが増えれば、状況は変わるかもしれない。HRTを受けたから乳がんにならないというわけではなく、同時に検診を受けることが必要だ」と話している。(平成18年12月10日 朝日新聞)

がん死の原因、男性たばこ4割 

がんで死亡した男性の約4割、女性の5%が、たばこが原因と考えられるとする推計を厚生労働省の研究班がまとめた。年間約8万人がたばこでがん死したことになる。対象は調査開始時40〜79歳の男性13万9974人、女性15万6796人の計29万6770人。調査開始時の喫煙経験率(たばこを吸っている人と過去に吸っていたがやめた人の割合)は男性79.5%、女性10.5%。平均9.6年追跡した結果、がんで死亡したのは男性6503人(うち喫煙経験者5668人)、女性3474人(同499人)。年齢を調整して解析した結果、喫煙経験がある人は、ない人に比べ、男性で1.79倍、女性で1.57倍、死亡率が高かった。食事や運動など喫煙以外のリスクが同じと仮定すると、がんで死亡した男性の38.6%、女性の    5.2%がたばこが原因となった。人口動態統計にあてはめると、年間に男性約7万4000人、女性約7000人がたばこが原因でがん死した計算になる。男性では、吸ったことがない人に比べ、調査開始時に喫煙していた人の死亡率は1.97倍、過去に吸っていたがやめた人は1.5倍で、禁煙の効果もうかがえた。(平成18年11月15日朝日新聞)

たばこも酒も習慣、食道がんリスク10倍 

喫煙するのに加えてほぼ毎日飲酒する男性は、どちらの習慣もない人たちと比べて食道がんになるリスクが9〜11倍あることが、宮城県の約2万7000人を対象にした調査でわかった。たばこの関与が特に大きく、患者の約7割は喫煙しなければ、がんにかかるのを避けられた計算になるという。84年に約9000人、90年に約1万8000人のいずれも40歳以上の男性に食生活などを尋ね、それぞれ9年間と7年7カ月間追跡したところ78人が食道がんになっていた。そこで喫煙や飲酒、緑茶を飲む習慣が食道がんのリスクとどうかかわるかを調べた。たばこを吸う人のリスクは吸わない人と比べて5倍、ほぼ毎日飲酒する人のリスクはほとんど飲まない人と比べて2.7倍あった。緑茶を1日5杯以上飲む人は飲まない人と比べて1.7倍リスクがあった。理由ははっきりしないが、研究チームは「緑茶を熱い状態で飲む人が多かったのかも知れない」と推測する。熱い飲食物は、食道がんの危険を高めるとされている。こうした個別の解析とは別に、「たばこを吸わず、お酒も緑茶もほとんど飲まない」人たちのリスクを1として計算すると、喫煙と飲酒の習慣がある人ではリスクが9.2、さらに1日3杯以上の緑茶を飲む習慣も加わると11.1になった 食道がんと診断されるのは年に1万5000人ほどとされ8割以上を男性が占める。今回の調査をまとめた栗山進一・東北大助教授は「食道がんは生活習慣で予防できる代表的ながん。禁煙が何より大事で、酒を飲みながらのたばこは最悪です」としている。(平成18年11月1日 朝日新聞)

内視鏡で1ミリの食道がんも発見

昭和大学横浜市北部病院の井上晴洋助教授らは、早期発見が難しいとされる食道がんを直径1ミリの初期段階で見つけることができる手法を開発した。病巣部を拡大して見る内視鏡を使い、がんになると特徴的に表れる毛細血管の形状変化を観察、がんかどうか判別する。食道がんは進行してから見つかることが多いが、早期発見できれば治るケースが大幅に増える。食道がんは食道の内面を覆う粘膜の表面にある上皮から発生する。 上皮には先端部がループ状になった毛細血管がいくつもある。井上助教授は食道がんの病変部を詳しく観察し、がんが発生すると同時に、毛細血管の形状が微妙に変化することを突き止めた。がんの進行度に応じて、血管が特徴ある形を示すことも分かった。(平成18年10月3日 日本経済新聞)

前立腺がん細胞にザクロが劇的効果

果物のザクロに、前立腺がんの細胞を死滅させる成分が含まれていることが、名古屋市立大の朝元誠人助教授らの研究で分かった。朝元助教授らは、人間の初期の前立腺がん細胞を培養し、濃度5%のザクロ果汁の溶液に入れて影響を調べた。すると、わずか30分で激しい反応を起こし、がん細胞が死滅した。前立腺がんにこれほど強く作用する天然物質は例がないという。他のがん細胞には効果がなかった。また、前立腺がんのラットに、5%濃度のザクロジュースを飲ませたところ、がん縮小効果がみられた。ザクロの何の成分が効いているかは不明。朝元助教授は「普通の食品に、こんな作用があるのは珍しい。成分が分かれば、前立腺がんの予防や治療への応用が期待できる」と話している。(平成18年9月29日 読売新聞)

30代の女性は乳がん・子宮がんの発症が2倍に急増

日本人女性は20代後半から乳がんや子宮がんの発症が急増し、30代のがん罹患率は同世代の男性の2倍以上とした分析結果を、厚生労働省研究班がまとめた。10代後半から30代のがんは、比較的治療成績が良いため死亡データなどから把握しにくく、詳しい罹患傾向が分かっていなかった。育児や働き盛りの世代の実態が明らかになったことで、社会的損失を減らすためのきめの細かいがん対策が可能になるのではと指摘された。研究班は、大阪府など15府県が1993年から2001年まで、地域がん登録で集めた約137万人の患者データを解析した。1年間に新たにがんと診断される人は、年齢が上がるとともに増加。男性では30代前半は人口10万人当たり27人、同後半は50人だったのに対し、女性は30代前半に67人、同後半が115人となっていた。これに伴い30代では、女性の罹患率は男性の2・3−2・5倍だった。乳がんや子宮がんが20代後半から急増しているためで、30代では女性がかかるすべてのがんのうち乳がんと子宮がんが約60%を占めていた。45歳以降は、たばこや食生活などと関連が深い胃がんや肺がんが増加傾向となり、がん全体の罹患率は男性が上回った。(平成18年9月29日 中国新聞)

がん「最初にたんぱく質損傷」発症メカニズムで新説

がんは遺伝子の変異が積み重なって起きるとされるが、それ以前に、たんぱく質が損傷することで、細胞が「がん」特有の性質を持つとする新たな説を、渡辺正己・京都大学原子炉実験所教授らがまとめた。がん細胞は死なずに無限に増殖する。がんの原因を遺伝子の変異と考えた場合、変異の頻度と、細胞が"不死化"する頻度は比例するはずだ。しかし両者は一致しない場合が多い。渡辺教授らも以前、ハムスターの細胞に放射線を当てたが、不死化する頻度は、遺伝子変異の頻度より500〜1000倍も高かった。渡辺教授らは、遺伝子以外の、放射線で傷ついた部分に謎を解くかぎがあると考え、放射線照射後の細胞を詳しく調べた。その結果、染色体を安定させる役割を担うたんぱく質や、細胞分裂で染色体の動きを誘導するたんぱく質に多くの異常が見つかった。染色体数も増えており、不死化する頻度は遺伝子変異の頻度の1000倍以上だった。たんぱく質を傷つけるのは、放射線など様々な要因で細胞内にできる有害物質「ラジカル」とされる。渡辺教授らは、寿命の長いタイプのラジカルを培養細胞から化学的に除去。すると細胞が不死化する頻度が減り、関連が示唆された。渡辺教授は「がんの大半は、染色体にかかわるたんぱく質が傷つき、染色体が異常化して細胞分裂が正常に行えない細胞から生まれると考えた方が矛盾がない」と話している。(平成18年9月26日 読売新聞)

糖尿病にかかると、がんリスク3割増

糖尿病にかかっていると、がんを発症する危険が2〜3割高まるとする結果を、厚生労働省の研究班が約10万人を対象に調べた研究からまとめた。90年から94年にかけて、40〜69歳の男性約4万7000人、女性約5万1000人にアンケートし、糖尿病の有無や生活習慣などを聞いた。その後の経過を03年まで追跡すると、男性で3907人、女性2555人が何らかのがんにかかっていた。糖尿病になっていた人ががんを発症するリスクを糖尿病でない人と比べると、がん全体では男性で27%、女性でも21%上回っていた。 男性では、糖尿病の人はそうでない人と比べて肝臓がんで2.24倍、腎臓がんで1.92倍、膵臓(すいぞう)がんで1.85倍とリスクが高まっていた。 女性では肝臓がんで1.94倍、胃がんで1.61倍だった。 一般的な糖尿病では、病気が進む過程でインスリンが過剰分泌状態になる。この状態だと、細胞の増殖が刺激され、がんにつながりやすいことが実験で知られている。ただ、肝臓がんを招く慢性肝炎などを抱えていることが、逆に、糖尿病の危険を高めている可能性も考えられるという。(平成18年9月26日 朝日新聞)

カルシウム多量に取ると大腸がんリスク3割減

牛乳や小魚に含まれるカルシウムを毎日たくさん取ると、大腸がんになる危険性が約30%低下することが九州大学と国立国際医療センター研究所の大規模な疫学調査で分かった。大腸がんは欧米型の食生活が浸透し国内でも患者が急増、毎年約9万人が発病し、約4万人が死亡する。がんの部位別死亡数で見ると女性でトップ、男性だと第4 位。明確な予防効果が確認された食物はこれまでなかった。調査は2000年から03年にかけ、福岡市と近郊にある8病院に入院中の大腸がん患者840人と同地域で暮らす健康な住民833人を対象に実施した。普段食べている食品の種類と量を聞き取り、カルシウムやそのほかの栄養素の摂取量と大腸がんとの関係を調べた。(平成18年9月23日 日本経済新聞)

便のDNA検査で大腸がん発見、確率8割

大腸などの消化管の壁からはがれ、便に含まれる細胞のDNAを調べることで、がんを効率よく発見する方法を松原長秀岡山大助手らが開発した。松原助手によると、米国の統計では、現在の便潜血反応検査で見つかる大腸がんは最大2割程度。この方法は8割程度になると期待できるという。松原助手らは、大腸など消化器がんの患者らの細胞を調べ、がん細胞では遺伝子に特定の分子がくっつくメチル化という現象が起きていることを突き止めた。大腸がんの場合は、6カ所でメチル化が起きているケースが多かった。(平成18年9月16日 日本経済新聞)

メタボリックで胃がんリスク高まる

内臓の周りに脂肪がたまる内臓脂肪症候群(メタボリック・シンドローム)に陥ると、動脈硬化や糖尿病だけでなく、胃がんのリスクも高まることが、東大腫瘍外科の北山丈二講師らの研究でわかった。肥満解消が、がんの予防や再発防止にもつながる可能性を示す成果と言えそう。北山講師らの研究チームは、脂肪細胞から分泌される「アディポネクチン」というホルモンに着目した。脂肪の燃焼を助ける働きなどをするが、内臓脂肪症候群になると、分泌量が減り、血液中の濃度が下がる。チームが突き止めたのは、アディポネクチンに強力な抗がん作用があること。ヒトの胃がん細胞を移植したマウスにこのホルモンを投与すると、腫瘍が最大で9割も減少した。さらに、胃がん患者75人の血液中のアディポネクチン濃度を調べたところ、がんの進行した患者ほど濃度が低かった。このホルモンは、胃がん細胞と結合しやすい構造をしており、結合したがん細胞を殺す働きがあるとみられる。抗がん作用は、血液1ミリ・リットルあたりの量が0・03ミリ・グラムを超えると強まる。内臓脂肪症候群の人の濃度は、その5分の1〜6分の1という。がん増加原因として、脂肪の過剰摂取が挙げられるが、がんを引き起こす仕組みは十分に解明されていない。(平成18年9月19日 読売新聞)

胃がん、リンパ節広く取る手術と標準手術に差なし

進行胃がんの治療で、胃の周囲のリンパ節を広く切り取る「拡大手術」と、一定範囲の切除にとどめる標準的な手術(D2郭清)では、治療効果にほとんど差がないという結果を、日本の国立がんセンターがまとめた。報告した同センター中央病院の笹子三津留・副院長は「リンパ節を多くとったことで、患者の状態を悪化させている可能性もあるのではないか。標準治療はD2郭清と考えるべきだ」と話した。 同センター中央病院など全国の24医療機関が共同で調べた。がんの進行度(4段階)が2〜4の進行胃がん患者で、95〜01年に拡大手術をした260人と、D2郭清をした263人について、治療効果を比べた。その結果、3年生存率はともに76%。5年生存率は拡大手術が70%、標準的な手術は69%で、ほとんど差はなく、「延命上の利点はない」(笹子副院長)としている。 日本胃癌(がん)学会の治療ガイドラインは、進行度2〜3の患者については基本的に「胃の3分の2以上の切除とD2郭清」を標準治療とし、拡大手術の実施は、がんの転移が進んだ進行度4の患者などに限っている。(平成18年6月7日 朝日新聞)

骨粗しょう症薬、乳がん抑制にも効果

世界最先端のがん研究成果を報告する米臨床腫瘍学会で、米研究グループが、特定の骨粗しょう症治療薬が乳がん抑制にも効果を発揮したとの実験結果を発表した。年末までに乳がん抑制剤としても承認申請する方針を明らかにした。骨の代謝を促す体内のエストラゲンという物質は、不足すると骨粗しょう症にかかりやすいが、乳腺に対してはがん発生のリスクを高めるマイナス効果もある。閉経後の骨粗しょう症の女性に、治療薬として塩酸ラロキシフェンを投与すると、骨に対してエストラゲンの働きを高める一方で、乳腺への作用は抑制する効果もあることが分かった。発表した米研究グループによると、5年間投与した治験結果では、進行がんの抑制効果はがん専門薬とほぼ同等で、副作用の面でも大きな差はみられなかった。(平成18年6月6日 日本経済新聞)

抗がん剤、病巣だけ治療 大阪府立大が微小カプセル開発

がんができた部位を体外から温めることで、病巣だけに抗がん剤を働かせることができる微小カプセルを、大阪府立大の河野健司教授(生体高分子化学)らの研究グループが開発した。 抗がん剤が正常な組織も傷つけてしまう副作用を減らすことができるという。 24日から名古屋市で開かれる高分子学会で発表する。 カプセルは直径100ナノメートル(ナノは10億分の1)で、生体内にもあるリン脂質とコレステロールでできている。 温度に反応しやすい高分子を表面に組み込み、40度以上になるとカプセルが壊れるようにした。 がんができた部位の毛細血管は、正常な部位の血管に比べ、血液中の物質が血管の外に漏れ出しやすい性質がある。 このため、体内に入った微小カプセルは、毛細血管から漏れ出てがん細胞の周辺にだけたまる。 がんを外から温めてやると、カプセルが壊れて抗がん剤が放出される仕組みだ。 河野教授らは、後ろ足にがん組織を移植したマウスで効果を調べた。 カプセルの投与から12時間後に、高周波加温機で体外からがんを45度で10分間温めたところ、8日たってもがんはほとんど成長しなかった。 一方、温めなかったりカプセルを投与しなかったマウスでは、がん組織の体積は5倍以上になった。 河野教授は「医療の分野と連携し、がん組織だけを攻撃する治療の実現を目指したい」としている。(平成18年5月22日 毎日新聞)

関節リウマチ薬とがん

関節リウマチの治療で高い効果が知られる「生物学的製剤」が、悪性リンパ腫など、がんのリスクを高める可能性が指摘されていることから、日本リウマチ学会は長期の安全性調査に取り組むことを決めた。 これらの薬をめぐっては17日、がんのリスクが約3倍高まるという米英グループの新たな報告が米医師会雑誌に掲載された。 関節リウマチは免疫細胞が信号物質を過剰に出すことで、全身の関節の痛みや骨の破壊を招く。 「TNF」という信号物質の働きをじゃまする生物学的製剤は、国内では2剤が販売され、2万人ほどが使っている。 約9割の患者で効果がみられる一方、免疫力にかかわるTNFを抑えることで、感染症やがんになる確率が高まることも心配されている。 「関節リウマチ自体ががんのリスク要因」との報告もあり、結論は出ていない。 学会調査の中心になる宮坂信之・東京医科歯科大教授は「海外とは薬の用量も異なり、米英の報告をそのまま国内にあてはめることはできない。 やはり日本人でのデータが必要だ」と話す。(平成18年5月18日 朝日新聞)

乳がん手術後の乳房を再建

九州中央病院(福岡市)は12日、乳がん手術後に乳房を再建する新手法の臨床研究を始めると発表した。患者自身の脂肪を採取し、一部含まれる脂肪などに成長する未熟な細胞を濃縮してから移植する方法で体に定着しやすくする。 従来は背中の筋肉などを使っていたが、脂肪は採取しやすく、患者の肉体的な負担を軽減できるとみている。 (平成18年5月13日 日本経済新聞)

抗体併用で"大型がん"消滅

免疫の働きを強める3種類のたんぱく質を組み合わせた「カクテル免疫療法」で、大型の固形がんを高率で消滅させることに、順天堂大医学部の奥村康教授(免疫学)らのチームが成功した。 マウスの実験だが、人間への応用も期待できる成果で、8日付の専門誌「ネイチャー・メディシン」電子版に発表する。 奥村教授らは、がん細胞に結合すると、これを自滅させる「アンチDR5抗体」と呼ばれるたんぱく質を人工的に作成した。 ただ、この抗体は一部のがん細胞にしか結合できないため、単独では効果が小さい。 このため、体内にもともとある免疫細胞が、がん細胞を見つけやすくする「アンチCD40抗体」と、免疫細胞の攻撃能力を高める「アンチCD137抗体」を併用したところ、強力な抗がん作用を発揮させることが分かった。 マウスを使った実験では、5ミリ・メートル角の乳がんや腎臓がんが、10匹中7匹で消滅した。人間だと、握り拳大のがんが消滅したことに匹敵するという。 奥村教授は「がん細胞を移植したマウスを治療したのでなく、『自家がん』と呼ばれる自然に近いがんを消滅させた点で、意義は大きい。 これらの抗体の作用は人間でも同じと考えられるため有望だ」と話している。(平成18年5月8日 読売新聞)

がんワクチン臨床研究

大阪大グループが進める「WT1がんワクチン」の臨床研究が、年内にも全国20医療機関に広がる見通しになった。 がんワクチンでは過去最大規模だ。 肺がんや脳腫瘍(しゅよう)などを対象にした安全性試験で、現在まで目立った副作用がなく、がん縮小などの効果が見られているためで、今後効果が確認されれば、実用化に向け大きく前進する。 WT1は、細胞増殖にかかわり、様々な種類のがん細胞に多く現れるたんぱく質。 杉山治夫・大阪大教授(機能診断科学)らのグループはWT1の特定の断片(ペプチド)が、免疫反応の目印になることを発見。 がん細胞にWT1が見つかった患者であれば、人工的に合成したこのペプチドを注射することで、患者の免疫系にがん細胞を攻撃させることができると考えた。 大阪大病院で01〜04年に、主に安全性確認の目的で実施した20人(白血病10人、乳がん2人、肺がん8人)では、3人でがん組織が小さくなったり、進行が止まったりしたほか、9人でがん細胞の指標とされる腫瘍マーカーの値が下がった。 その後、対象のがんを拡大。 04年に始めた脳腫瘍でもがん組織が小さくなったり、進行が止まったりする例が確認された。 白血病の一部で白血球や血小板が減る症状が認められたが、それ以外に目立った副作用は確認されていない。 拡大臨床研究には東北から九州までの20医療機関が参加予定で、大阪大病院、高知大病院、愛媛大病院、広島赤十字原爆病院、大阪府立母子保健総合医療センターではすでに始めている。(平成18年5月3日 朝日新聞)

がん医療の中核拠点、都道府県ごとに指定

厚生労働省は今夏をめどに、がん診療の中核となる医療機関を各都道府県ごとに指定する。各地域にあるがん医療機関の医師や看護師の研修拠点にするほか、診療データの分析・評価機能を持たせる。昨年から始まったがん医療の「第3次対がん10か年総合戦略」に基づいて実施するもので、指針を満たす医療機関を厚生労働省が指定する。がん医療の地域間格差を解消し、患者が全国どこでも質の高い医療サービスを受けられるようにするのが狙い。厚生労働省は「がん診療連携拠点病院の整備指針」を改定。これまで、各都道府県の主要都市などを中心にがん医療拠点の整備を進めてきたが、新指針は都道府県単位でより高度ながん診療の拠点を置くことにした。指定を受けた医療機関は各都道府県内のがん医療機関のとりまとめ役となり、他の医療機関からの患者の病状相談にも応じる。データ分析などを手掛ける専門組織も設置する。(平成18年2月2日)

がんセンターに「対策情報センター」設置へ

厚生労働省は今秋、国立がんセンター(東京都中央区)に「がん対策情報センター」を設置、全国135カ所の「地域がん診療拠点病院」とネットワークで結ぶ体制を整える。患者や家族、地域の医療機関にがんに関する情報提供を行うのが目的。がん治療は専門性が高く、地域間の医療技術格差が問題になっているが、情報の共有によって格差の是正を目指す。同省は06年度予算案にシステム整備費など15億3000万円を計上。拠点病院に順次、患者や家族の相談窓口となる「相談支援センター」を新設するほか、拠点病院を最終的には360カ所に増やす方針だ。情報センターは相談支援センターで、がん治療に関する指針や医療機関の治療成績などの情報を提供。国立がんセンターの専門医が、ネットワークを通じて送られてくる画像を診断したり、拠点病院の医師らの研修、国内外の抗がん剤に関する情報収集も行う。13日に国立がんセンターを視察した川崎二郎厚労相は「がん治療の水準は知事にとっても大きな課題。 国立がんセンターが蓄えてきたノウハウや医療技術を情報センターを使って地方に伝えていきたい」と語った。(平成18年1月16日 毎日新聞)

がん促進遺伝子、転移抑制効果も 京大助教授ら発見

膵臓がんや肺がんなどを引き起こす遺伝子「N−ras」に、がんを悪性化させたり、転移を抑える働きもあることを、京都大の高橋智聡・特任助教授と米ハーバード大のマーク・ユーイン博士が発見した。新しいがん治療開発の手がかりとなる可能性がある。N−ras遺伝子は、突然変異が起きたり、「Rb」と呼ばれるがんを抑制する遺伝子がなくなると、さまざまながんを引き起こすことが知られていた。高橋助教授らは、マウスの体に二つずつあるN−rasとRbの遺伝子を一つ、あるいは二つ欠損させ、体のどの部位にどんながんができるかを調べた。Rbだけを二つとも欠損したマウスは脳下垂体に悪性のがんができたが、Rbに加えてN−rasもすべて欠損すると、がんは良性腫瘍になった。しかし、同じマウスで、のどの甲状腺にできたがんの場合は、Rbが二つ、N−rasが一つ欠損すると良性腫瘍ができ、さらにN−rasもすべてなくなると、他の臓器に転移を起こす悪性のがんに変化した。高橋助教授は「N−rasは従来言われていた単純ながんを促進する遺伝子ではなく、組織によって正反対の働きもすることが分かった。 N−rasの機能を制御すればより効果的ながん治療法を生み出せるだろう」と話している。(平成17年12月19日 毎日新聞)

肝がん患者 生存期間2倍に

肝臓がんの治療で、病巣部への強力な放射線の集中照射と抗がん剤投与を組み合わせることで、患者の生存期間を大幅に延ばすことができることを米ミシガン大学の研究チームが確認し、米医学誌に発表した。研究チームは、手術できない肝臓がん患者128人に対し、カテーテル(細い管)で肝臓に直接、抗がん剤を投与。同時に、がん細胞に放射線を集中させるため、様々な角度から照射する「三次元照射」という放射線治療を行った。照射は1日2回、2週間続けた。その結果、患者の平均の生存期間は15・8か月と、従来の進行がん患者の平均8〜9か月に比べ、向上した。副作用がみられたのは3分の1以下だった。多くの血管が集まる肝臓は、放射線に敏感で、重い副作用が出るなど放射線治療が難しいとされてきた。(平成17年12月5日読売新聞)

人工食道、ぜん動運動が可能 

食べ物を胃に送る蠕動運動が可能な人工食道の開発に、病態計測制御分野が専門の山家智之・東北大加齢医学研究所教授らの研究グループが成功した。内視鏡での手術が可能になるため患者への負担が軽く、食道がん患者への治療法として5年以内の実用化を目指す。同グループは24日、特許庁に特許申請した。山家教授らは、熱を加えると縮まる形状記憶合金の輪を利用。食道のぜん動運動の仕組みを参考に、この輪を1センチ間隔に配列し、規則的に縮めたり緩めたりすることで、食べ物が一定方向に進むようにした。輪を温めるための磁気コイル(長さ約5センチ)を胃の中に置き、外部から別の磁気コイルを当ててエネルギーを供給。輪は新たに開発したポリビニールアルコール(PVA)の管にくくりつけた。PVAの摩擦係数は通常の人工臓器用シリコンの1割で、食べ物をスムーズに送ることが可能だ。さらに、人工食道を設置するため食道を広げるステント(管)も、外から電磁気を当てると温まる素材を開発。温めることで、熱に弱いがん細胞を殺すことができ、治療につながるという。 食道がんは国内で年間1万人がかかるとされている。胸や腹を開くなど大掛かりな手術が必要で、切除できない場合は食べ物を飲み込めるよう金属製ステントを設置する治療をしてきたが、不都合も少なくなかった。山家教授は「胆道や尿道、大動脈などの手術への応用も考えていきたい」と話している。(平成17年11月25日 毎日新聞)

がん幹細胞、消化器などから発見


九州大学生体防御医学研究所の森正樹教授(50)の研究グループは2日、消化器の癌の「幹細胞」とみられる細胞を、食道や胃、肝臓などから見つけたことを明らかにした。癌の幹細胞が見つかれば、これをたたくことでより効果的な治療ができると考えられている。成果は米国の専門誌「ステムセルズ」に掲載される。 幹細胞は、臓器などを構成する細胞のおおもとになる細胞を指し、さまざまな種類の細胞に変身(分化)する能力を持っている。これまでがんは「幹細胞が分化した後の、普通の細胞ががん化する」と考えられていた。 しかしがん患者に抗がん剤を投与したり、放射線治療をすると、いったん腫瘍が小さくなっても再びがんが増殖を始めることが多い。これは「がんの中に死滅しにくい幹細胞が存在し、これががんを作り出す」と考えれば説明がつき、実際に白血病や乳がん、脳腫瘍ではがん化した幹細胞が見つかっている。森教授と九大医学系学府大学院3年、原口直紹さんらは、手術で摘出された人間の消化器がん(食道、胃、大腸、肝臓、すい臓)の組織を使い、がん幹細胞を探した。その結果、(1)抗がん剤に強い耐性を持つ(2)自分と同じ細胞を作る複製能力以外に、自分とはやや違った細胞を作る分化能力もある(3)動物に移植すると、普通のがん細胞に比べて100倍以上の腫瘍を作るという性質を持った細胞を発見した。がん幹細胞の可能性が高いという。 放射線医学総合研究所は今年2月、人間の食道がんの組織からがん幹細胞とみられる細胞を発見したと発表している。九大グループの研究は多くの臓器で幹細胞の可能性がある細胞を見つけたのが特徴だが、森教授は「幹細胞を見つける方法論や条件設定に詰めなければならない問題があり、現段階でがん幹細胞と確定したとまではいえない」と話している。                       (平成17年11月3日 毎日新聞)

ブロッコリーの新芽で胃がん予防

ブロッコリーの新芽に、胃がんの原因と注目されるヘリコバクター・ピロリ菌を殺傷し、胃炎を抑える効果があることを、筑波大の研究グループが突き止めた。米国で開催中の米がん学会主催の国際会議で2日発表する。 同大の谷中昭典講師らは、ピロリ菌に感染している50人を2つのグループに分け、一方にはブロッコリーの新芽を、残り一方には、アルファルファのもやしを、それぞれ毎日約70グラムずつ、2か月間、食べ続けてもらった。成分で見ると新芽、もやしは、ほぼ同じだが、ブロッコリーの新芽には、スルフォラファンという成分(抗酸化物質)が多く含まれる。実験前後で、ピロリ菌の活性の強さを比較したところ、新芽を食べたグループは、活性が約30%〜60%減少。さらに、胃炎も抑えられた。もやしを食べたグループは、こうした変化は見られなかった。マウスでは確認されていたが、人間で確認されたのは初めて。谷中講師は「スルフォラファンは、特にブロッコリーの新芽に大量に含まれる。ピロリ菌を除菌しなくても、胃炎を抑え、胃がんを予防できる可能性がある」と話している。(平成17年11月1日 読売新聞)

がん増殖止めるカギ、たんぱく質発見 

がん細胞の増殖を止める鍵になるたんぱく質を、米ハーバード大の中谷喜洋教授らの研究チームが発見した。がん細胞内で、このたんぱく質「p600」の合成を妨げたところ、がん細胞は増殖を止め、次々と自滅したという。子宮がんや骨肉腫など、様々ながん細胞で効果を確認しており、新しい抗がん剤の開発につながると専門家は期待している。今週発行の米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載される。 体内では、役目を終えたり、異常が見つかったりした細胞が増殖を止めて自ら死に、新しい細胞が生まれることで新陳代謝が繰り返されている。この細胞の自殺(アポトーシス)がうまく働かなくなると、細胞は無秩序に増殖し、がんになる。中谷教授らが発見したp600は、アポトーシスに深くかかわっているとみられる。 同教授によると、培養したがん細胞内のp600は、正常細胞と比べて異常に増えており、「自殺機能」が働かなくなっていた。そこで、p600の合成を妨げる特殊な手法で培養細胞中のp600の量を減らすと、がん細胞は次々と死んでいった。正常細胞には影響がなかった、という。 子宮頸(けい)がん、骨肉腫、乳がん、直腸がんの細胞で、がん細胞は10%以下になった。胃、小腸、大腸、肺、卵巣、前立腺の各がん細胞では、同様のp600の異常増加が起きていることが分かった。このため、中谷教授は「ほとんどすべてのがんで効果が期待できる」とみている。 ただ、人体への臨床応用には、p600に結びついて過剰な働きを抑え、しかも毒性のない物質の開発が必要になる。その後、健康人での安全性の確認、患者への治験などの段階を踏むことになる。従来の抗がん剤の多くは、細胞のDNA合成を妨げるもの。正常細胞のDNAにも影響を及ぼすため、副作用が強い。 効果も限定され、薬だけで治癒可能なのは、血液やリンパ球などごく一部の特殊ながんだけで、より一般的な胃がんなど固形のがんを治癒する薬は、ほとんどないのが現状だ。(平成17年10月4日 朝日新聞)

肝がんへの抗がん剤併用療法

国立がんセンター中央病院は、転移のある肝臓がんに対して抗がん剤の併用療法が有効なことを確かめた。患者の1年後の生存率は43.5%だった。特に、肝障害の軽い患者や、おなかに組織液がたまる腹水のない患者で効果が高かった。患者の数を増やして長期的な効果を調べるほか、治療効果の予測方法の開発などに取り組む。肝臓がんはC型慢性肝炎などが原因で発病することが多く、国内の死亡者数は年間約3万5000人。大半は肝細胞が悪性化した肝細胞がん。肺やリンパ節への転移のある肝臓がんは手術による治療が難しい。また、抗がん剤を使った有効な治療法もない。 現在、複数の抗がん剤を組み合わせた治療法が試されており、研究グループは「5FU」、「ミトキサントロン」、「シスプラチン」の3種類の抗がん剤の併用療法を試みた。肝臓がんの患者82人の治療後の経過を調べた結果、治療後の平均生存期間は11.2カ月で、1年生存率は43.5%だった。単独の抗がん剤を使った場合の1年生存率は20%以下という。(平成17年10月10日 日経産業新聞)

毛髪の金属元素濃度でがん発見

毛髪中のカルシウムなど金属元素の濃度が、乳がんや肝臓がんの患者で異常な値になっていることが、兵庫県立先端科学技術支援センターや京都薬科大、千葉大などの研究で示された。今後、数千人規模で他の病気との関連も調べて、髪の毛を使った簡易検査法の確立を目指すという。同センターなどのチームは毛髪に含まれる金属元素の濃度と、病気との間に関係があるかどうかを調べた。特殊な光で微量な元素を分析できる、大型放射光施設「スプリング8」で測定した。毛髪は1カ月で平均1センチ伸びるため、12センチほどあれば、1年分の変化を分析できる。乳がん患者17人では、がん発見より8〜12カ月前からカルシウムの濃度が、通常の5〜10倍も高い値を示し、その後はゆっくり正常値に近づいていた。カルシウムの代謝が乱れることが原因らしい。 肝臓がん患者11人ではカリウム濃度が、健康な人に比べ10分の1以下だった。健康な人で見つからない、食物からのゲルマニウムも検出された。今後、検査法を充実させるための会社を立ち上げ、アルツハイマー病、骨粗鬆症、糖尿病などと、毛髪中の元素濃度との関係も調べる予定だ。千川純一・同センター所長は「この手法で異常が見つかった人が詳しい検査を受けるようにすれば、毛髪をさまざまな病気を見つける手がかりにできる可能性がある」と話す。(平成17年9月29日 朝日新聞)

がん専門薬剤師を養成へ

厚生労働省は23日までに、2006年度から、がんの薬物療法についての専門的な知識や技能を持つ「がん専門薬剤師」を養成する方針を決めた。がんの医療現場では薬物療法の重要性が高まる一方で、副作用の可能性も大きくなるため、薬物療法に精通した薬剤師の存在が求められている。同省は一定の実務経験がある病院勤務の薬剤師を対象に研修と試験を行い、年間約300人を目標にがん専門薬剤師を認定する。 厚労省によると、がんの治療法は手術療法、薬物療法、放射線療法があるが、これまで国内では手術療法が中心で、薬物療法や放射線療法は手術療法との組み合わせで補助的に行われることが多かったという。(平成17年9月24日 日本経済新聞)

抗がん剤投与量200分の1に、胃がん治療で新技術

愛知県がんセンターは、胃がんに投与する抗がん剤の量を200分の1に減らせる新技術を開発した。薬の入った微小カプセルを体内に入れ、がん細胞だけに効率よく作用させる。動物実験段階だが、少量の薬でもがん細胞が小さくなった。抗がん剤を減らすことができれば副作用を緩和できる可能性がある。3年後をメドに臨床研究を目指す。研究成果は14日、札幌市で始まった日本癌(がん)学会で発表した。新技術は胃がん患者の中でも転移した患者や再発した患者を想定している。同センター研究所の池原譲主任研究員らは、胃がんの抗がん剤を大きさ1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの特殊なカプセルに封入し、体内に入れると免疫細胞が取り込むように工夫した。免疫細胞は胃の中のがん細胞に集まるが、その際に抗がん剤がカプセルから飛び出す仕組みになっている。(平成17年9月15日 日本経済新聞)

女性ホルモン、肺がんリスク高める

女性ホルモン剤が肺がんのリスクを高めることが、厚生労働省研究班(主任究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の大規模疫学調査で分かった。研究チームは今回の調査結果を肺がんが発症する仕組みの解明につなげたい考え。 成果は札幌市で開催中の日本癌(がん)学会で15日、発表する。研究班は喫煙経験がない40―69歳の女性4万5000人を8―12年追跡調査した。このうち肺がんになった153人を詳しく調べたところ、子宮筋腫などの手術を受けて人工的に閉経し、エストロゲンなどのホルモン剤を多く使用した人は、使用していない人に比べて肺がんにかかるリスクが2倍以上高いことが分かった。(平成17年9月15日 日本経済新聞)

血液で膵臓がんを早期発見

国立がんセンターは、血液1滴で膵臓(すいぞう)がんを発見できる診断法を開発した。精度は90%以上で、従来難しかった早期がんも見つけることができる。膵臓がんは発見、治療が難しいが、この診断法で早期発見すれば手術治療も可能となる。10月から全国規模で臨床研究を始める予定で、14日から札幌市で始まる日本癌(がん)学会で発表する。同センター研究所は、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一島津製作所フェローらが開発した高精度のたんぱく質解析技術を応用。膵臓がん患者の血液を調べたところ、4種類のたんぱく質の量が微妙に変化していることを突き止め、がん診断の指標にした。 78人から採血して調べた結果、大きさが2センチ以下の早期がんも含め90%以上の高精度で膵臓がんかどうかを判別できた。腫瘍(しゅよう)マーカーと呼ぶ既存の診断法を組み合わせると100%になった。(平成17年9月14日 日本経済新聞)

肥満男性は大腸がんリスク増 BMI27以上で1.4倍

肥満の男性は大腸がんにかかるリスクが高くなるという結果が、厚生労働省研究班(主任研究者=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)の大規模な疫学調査で出た。8日発表した。肥満は心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中などの危険要因にもなるが、大腸がんとの関連も今回示された。岩手、秋田、新潟、茨城、長野、大阪、高知、長崎、沖縄各県の40〜60代の男女計約10万人に90〜93年、アンケート。その後、9〜12年間追跡調査した。男性は4万9158人中626人が大腸がんにかかっていた。肥満指数「BMI」(体重÷身長÷身長、単位はキログラムとメートル)によって分類。年齢や喫煙、飲酒などの影響を除いて分析した結果、BMIが25未満の群に比べ、27以上30未満の群は、大腸がんのリスクが1.4倍だった。30以上の群は、対象数がやや少ないものの、1.5倍になった。日本ではBMI25以上が肥満で、22が標準とされる。 欧米の研究では、男性の場合、高身長でもリスクが高まるとされるが、日本人の男性では、身長による統計上の明確な差は出なかった。女性は、肥満指数、身長ともに関連が見られなかった。 肥満だとインスリンが多く分泌され、がん細胞が増殖しやすい、と細胞レベルの実験で出ている。分析を担当した大谷哲也・同センター研究員は「BMIが27以上ならば、運動や食事で減量した方がいい」と話す。ただ、日本人は欧米に比べて肥満者の割合が低く、肥満だけで大腸がんが国内で大幅に増えている説明にはならず、「別の危険要因についても調べる必要がある」と言う。(平成17年9月8日 朝日新聞)

がん、満腹が招く?遺伝子に悪影響 

満腹するまで食べる習慣のある男性は、がん化を抑える遺伝子の働きが弱まっている率が高く、逆に、キャベツやブロッコリーなどを多く食べたり、緑茶を多く飲む男性ではこの率が低いことが、東京医科歯科大(東京都文京区)の湯浅保仁教授=分子腫瘍(しゅよう)医学=らの研究で分かった。14日から札幌市で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。がんに関連した遺伝子の働きが食生活で変化することが分かったのは初めてという。湯浅教授らは、同大病院などで手術を受けた男性の胃がん患者58人にアンケートし、がんになる以前の食事の量や内容などを聞いた。一方で患者ごとに、手術で切り取ったがん細胞を多数分析し、がん化を抑えると考えられている遺伝子「CDX2」の働きを調べた。「満腹するまで食べていた」と答えた22人のうち10人(45%)では、細胞の一部でこの遺伝子が「メチル化」と呼ばれる化学変化を起こし、働かなくなっていた。これに対し「腹八分」または「食事の量を少なくしていた」とした35人では、メチル化が起きていたのは10人(29%)にとどまった。無回答が1人いた。ほうじ茶を含めた緑茶を飲む量では、日に6杯以下と答えた43人のうち17人(40%)にメチル化がみられた。7杯以上飲んでいた14人では2人(14%)と少なかった。無回答は1人。またキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーのどれかを食べる回数でみると、週に2回以下とした32人中14人(44%)にメチル化があったのに対し、3回以上と答えた26人中では6人(23%)だった。湯浅教授は「研究が進めば、食生活の改善でメチル化を抑えたり、がん抑制遺伝子の働きを強めてがんを予防したりできるのではないか」と話している。(平成17年9月4日 毎日新聞)

がん転移“誘導”たんぱく質発見

がん細胞が他の細胞に侵入したり、転移したりするのに重要な役割を果たす新しいたんぱく質を、名古屋大大学院医学系研究科の高橋雅英教授らの研究チームが発見した。このたんぱく質の働きを抑制することで、がんの進行を食い止める治療薬の開発に道を開く可能性がある。米科学誌「デベロップメンタル・セル」の5日号に発表する。がん細胞内には、「Akt/PKB」と呼ばれる酵素が多くあることが知られていた。しかし、この酵素が存在すると、なぜ、がん細胞が他の細胞の間に侵入(浸潤)し、広がっていくか謎だった。研究チームは、この酵素によって、リン酸化される未知のたんぱく質があることを発見。このたんぱく質によって、がん細胞が、他の細胞間に浸潤する能力が高まることを突き止めた。このたんぱく質は、他の細胞に浸潤していくがん細胞の先端部分に多く存在し、このたんぱく質が、がん細胞を“誘導”していると見られる。高橋教授は、このたんぱく質を「Girdin(ガーディン)」と命名した。 がん細胞は、増殖と浸潤を繰り返すが、高橋教授は「他の細胞への浸潤を抑制できれば、がん進行を食い止めることができるかもしれない」としている。(平成17年9月6日 読売新聞)

平凡・無害なウイルス、実はがんキラー 

誰でも感染経験をもつ平凡で無害なウイルスが、実は、がん細胞だけを狙って殺せる「すぐれもの」だと分かった。米ペンシルベニア州立大のチームが発表した。新たな治療法への発展も期待できるという。アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)という病原性のない小さなウイルスで、日本の専門家によると、成人の85%が感染経験をもっている。 チームは、AAV2に感染している女性がウイルス性の子宮頸(けい)がんにかかりにくい、という現象に着目。子宮頸がんのほか、乳がんや前立腺がんなどの細胞とAAV2を培養したところ、がん細胞が6日後にすべて死滅したという。 AAV2はがん細胞に侵入した後、DNAに何らかの細工をするとみられる。チームのメヤーズ教授は「正常な細胞には悪影響がなかった。AAV2はがん細胞を見分けているらしく、新たな治療法になる可能性がある」といっている。(平成17年7月18日 朝日新聞)

がん拠点病院

全国どこでも質の高いがん治療が受けられることを目指した「地域がん診療拠点病院」について、厚生労働省は6日、指定要件を見直し、整備を促進する方針を決めた。 近く有識者による検討会を立ち上げる。指定がなかなか進まず地域間格差が出ている現状を踏まえ、病院間の役割分担や連携が進むようにするほか、指定を受ける病院側の意欲を高めるため、診療報酬の加算など経済的な支援策も検討する。 地域がん診療拠点病院は01年に厚労省が始めた制度。 大学病院などに行かなくても、日常の生活圏内で手術や治療を受けられる「がん医療の標準化」を目指しており、都道府県知事の推薦をもとに厚労相が指定する。 厚労省は06年までに2次医療圏(全国で約370カ所)に1カ所程度を目安に整備を進めているが、今年1月現在、指定は135カ所にとどまり、7府県では1カ所も指定されていない。 従来の指定要件は、がんの専門的医療体制ができていることや、緩和医療を提供できることなどが条件だった。 しかし、「数値が明確になっておらず不透明だ」との指摘があった。 また、高度な先進医療を提供し、がんにも対応できる「特定機能病院」(81カ所)が、拠点病院として指定されていない▽拠点病院の機能にばらつきがあり、役割分担、連携が想定されていない、などの課題も挙げられていた。 こうした指摘をもとに、検討会は、指定要件の数値化や特定機能病院を指定対象に加えることなどを検討。 また、患者のデータを管理するシステムを、拠点病院間で連携しやすいように共通の標準様式で実施していることなどを指定要件に加えることも検討する。 さらに、拠点病院を、早期発見・治療に力点を置くものと、診療や進行期のがんの治療や教育研修、情報発信などで高い機能を持つものに役割を分担し、連携態勢も明確にしたい考えだ。(平成17年7月6日 朝日新聞)

コーヒー党、肝臓がん少なく

コーヒーを1日に1杯以上飲む人が肝臓がんになる危険性は、全く飲まない人の6割程度。東北大の辻一郎教授(公衆衛生学)らが21日までに、約6万1000人の追跡調査結果をまとめた。大津市で開催の日本疫学会で22日発表する。辻教授によると、コーヒーに含まれるどんな物質が作用するかはよく分かっていないが、肝硬変の発症リスクを低下させる可能性があるほか、動物実験では成分のクロロゲン酸が肝臓がんの発生を抑制したとする報告もあるという。1984―97年に40歳以上の男女を7―9年間追跡調査。計約6万1000人のうち、調査期間中に新たにがんになったのは117人だった。年齢や性別などの要因を考慮して解析した結果、全く飲まない人の危険度を「1」とした場合、1日平均1杯以上飲む人は0.58、1杯未満の人は0.71だった。 がん以外の肝臓疾患を経験した人や60歳以上の人、過去に喫煙経験がある人では、こうした傾向が特に強かった。辻教授は「年齢や性別、飲酒状況などで分けて解析しても傾向は変わらなかった。ただし、コーヒーに砂糖などを入れすぎると体に良くないので注意してほしい」としている。(平成17年1月21日 日本経済新聞)

がん「兵糧攻め」たんぱく質を発見、血管形成を抑制

がん細胞に栄養や酸素を運ぶ血管の形成を抑制するたんぱく質を、東北大加齢医学研究所(仙台市)と塩野義製薬(本社・大阪市)の研究グループが発見した。がん細胞への栄養などの補給路を断ち、「兵糧攻め」にすることで、がんの進行や転移を阻止することが期待できるという。 がんは、細胞から分泌する物質が、近くにある血管に働きかけて新しい血管を作り、栄養や酸素を取り込み増殖する。同研究所の佐藤靖史教授(血管生物学)らが発見したのは、血管を作っている血管内皮細胞にあるたんぱく質で、がん細胞から分泌される物質で新たな血管が過剰に作られないようにブレーキをかける役割をしていた。佐藤教授らは、このたんぱく質を「バソヒビン」と命名。マウスを使った実験では、バソヒビンを大量に作るよう遺伝子を改変した肺がん細胞の大きさを、通常の肺がん細胞に比べ、半月後、4分の1以下に抑えることに成功した。同グループは、バソヒビンをもとに、がん治療の新薬や新しい診断法の開発を進めることにしている。 このたんぱく質の発見は、米医学雑誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション」の10月号で発表される。 がん細胞に栄養などを補給する血管ができるのを阻止するがん治療法は、最近注目されており、佐藤教授らの「バソヒビン」とは別の方法で、大腸がんを兵糧攻めにする治療薬が米国で今年2月に世界で初めて認可されている。(平成16年10月2日 読売新聞)

癌のリンパ節転移抑えた

がん細胞は自分でリンパ管を新しく作って「転移」するが、京都大大学院の久保肇・特任助教授らのグループが「リンパ管新生」と呼ばれる、この現象を抑えて転移を防ぐことに世界で初めて成功し、福岡市で開会中の日本癌(がん)学会で報告した。 がん細胞は、新しいリンパ管を通じて小さな細胞が運ばれ、リンパ管などが密集するリンパ節に転移する。この過程では、リンパ管を増やすVEGF―Cという特殊な物質を分泌する。 研究チームは、リンパ管がこの物質を受け取って増殖しないようブロックする「抗体」を合成し、胃がんの細胞をネズミに移植して実験。抗体を使わなかったネズミでは16匹中12匹(75%)の高率でリンパ節に転移したのに対し、抗体を使ったネズミは16匹のうち3匹(19%)しか転移しなかった。(平成16年10月1日 読売新聞)

入れ歯は口内がんの危険因子

入れ歯は、口の中の粘膜表面にできる扁平(へんぺい)上皮がんの危険性を高めるとの研究結果を、新潟大の朔敬教授(口腔=こうくう=病理学)らが25日までにまとめた。同教授は「長年の使用で変形して擦れることや、アレルギー、手入れの悪さが原因だろう」として、定期的な受診を勧めている。福岡市で29日から開催される日本癌(がん)学会で発表する。朔教授らは、新潟大病院で受診した扁平上皮がん患者80人と、通常の浸潤性口腔がん患者100人を比較した。上皮がんは、歯の治療を受けた人に多い傾向があり、入れ歯の周囲などでの再発は平均約3回と、通常のがんの3倍だった。また、口内のがんの主な危険因子とされる飲酒、喫煙の量は、上皮がん患者は通常のがん患者よりかなり少なかった。こうしたことから朔教授らは「入れ歯などは上皮がんの危険因子の一つ」と結論づけた。(平成16年9月25日 日本経済新聞)

血液で肺がん診断

血液の分析だけで肺がんかどうかを80%の精度で診断できる方法を東京大学医科学研究所のチームが考案した。患者の血中に多く健康な人には少ないたんぱく質を発見、これらを検出することで判定する。肺がんは国内で最も死亡者の多いがんで、年間約5万6000人に達する。簡単な血液検査で診断できれば、有力な肺がん対策になりそうだ。研究チームは肺がん細胞の表面に特殊なたんぱく質が伸びていることを発見。一部が切れて細胞の周囲に散らばるほか、血液に混ざるという。このたんぱく質を目印に患者105人、健康な人72人の血液を調べたところ、63%の精度で患者を正しく判定できた。さらに、肺がんのほか大腸がんの患者に多い別のたんぱく質も組み合わせて診断すると、80%まで高まった。肺がんは初期症状が表れにくく、検査で発見したときは転移している恐れがある。最新のCT(コンピューター断層撮影装置)でも小さな病巣は診断が難しい。(平成16年9月25日 日本経済新聞)

よく食べると乳がんリスク4割減

魚を多く食べる人はあまり食べない人に比べ、乳がんにかかるリスクが4割以上低いことが、文部科学省の研究班の調査でわかった。魚に含まれる脂肪の成分で、脳の働きをよくすると言われるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の働きによるものらしい。29日から福岡市で開かれる日本癌(がん)学会で発表される。 DHAやEPAは動物実験では、がんの抑制効果があることが確かめられている。だが、人間での効果はこれまではっきりしなかった。 研究班は88〜90年に、全国の40〜79歳の女性約2万5400人を対象に、魚をどのぐらいの頻度で食べるかなど食生活についてアンケートした。その後7年半にわたって健康状態を追跡したところ、127人が乳がんになった。 魚に含まれる魚介性脂質に注目した場合、魚を「週1〜2回以下」とあまり食べないグループに比べ、「ほとんど毎日」食べるグループは、乳がんの発生率が43%低かった。植物性脂質の摂取量は関連性がなかった。 調査を分析した愛知県がんセンター研究所の若井建志・がん予防研究室長は「脂肪の摂取量が多いと乳がんにかかりやすいと言われるが、魚に関しては逆のことが言える。日本人の乳がん罹患(りかん)率が欧米に比べ低いのは、魚を多く食べることも関係あるのでは」と話している。(平成16年9月17日 朝日新聞)

特殊なRNAで乳がん増殖抑制 

特殊なリボ核酸(RNA)を使って遺伝情報の伝達を阻害し、乳がんの細胞増殖を抑制することに、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)と東京大の研究チームが成功し、15日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に発表した。がん治療薬の開発に結び付くと期待される。RNAは、DNAが持つ遺伝情報をたんぱく質に伝達するのが主な役目。 最近開発された特殊なRNAは、遺伝情報の伝達を阻害する働きがある。研究チームはこの働きに着目。 がんの転移などに関与する因子を標的とする特殊なRNAを設計したこれをヒトの乳がん細胞核内に注入すると、RNAを作るたんぱく質やDNAが化学反応を起こして変形。RNAが作られにくくなり、結果的に細胞増殖が抑制された。今回、細胞核内での遺伝子制御が可能になったことで、がん遺伝子や悪性ウイルスの生成を根本から防ぐことが可能になったという。 多比良和誠・同研究所ジーンファンクション研究センター長は「今後はたんぱく質が変形する詳しい過程や、このRNAがほかのがんにも有効か調べ、日本の製薬会社に売り込みたい」と話した。(平成16年8月16日 毎日新聞)

抗がん用薬物送達システム開発

神奈川科学技術アカデミー(KAST)と星薬科大学は共同で、抗がん剤の投与後約24時間にわたり血液中に残存し、患部に的確に届く薬物送達システム(DDS)を開発した。薬を包むカプセルの材質を工夫し、通常の投与法より残存時間を約20倍長くした。 微小なカプセルが溶けずに毛細血管の先まで行き渡るため、治療効果の向上が期待できる。 製薬会社と組んで3年後の臨床試験を目指す。薬を包み込むカプセルに高分子材料のポリエチレングリコールやポリアスパラギン酸を使った。カプセルは直径約80ナノ(ナノは10億分の1)メートルの球状。カプセル自体が小さいため、毛細血管まで入り込み、血管の壁の数十―100ナノメートルのすき間をくぐり抜けてがん細胞近くまで到達できる。(平成16年8月12日 日経産業新聞)

やせた男性、がんに注意

日本人男性は、やせているほどがんになりやすく、標準かやや太めに比べ、がん発生率は14―29%高いことが、厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の大規模疫学調査で分かった。米国のがん専門誌に11日までに発表した。 研究班は、40―60代の男女約9万人を1990年から約10年にわたって追跡し、がんの発生率や死亡率と体格指数(BMI)との関係を調べた。 BMIは、体重(キロ)を身長(メートル)の二乗で割った値。 標準は22で、25以上が肥満とされる。BMIが21―29の男性ではがんの発生率はほとんど変わらなかったが、やせとされる21未満で増加傾向が顕著だった。 23―24.9の人の発生率と比較すると、19―20.9の人は14%、14―18.9の人は29%、それぞれ発生率が高かった。 女性では、こうした傾向はみられなかった。 研究開始から数年でがんになった人を除いて分析しても同様の結果となり、がんが原因でやせたとは考えにくいという。(平成16年8月11日 日本経済新聞)

牛乳1日250cc以上飲むと…大腸がんの危険性下がる?

欧米の約53万人の健康状態を6―16年間にわたり追跡調査したところ、牛乳を1日に250cc以上飲む人たちは、大腸がんの危険度が15%低く、カルシウムを1日700ミリ・グラム以上摂取する人たちも危険度が20%程度低かったことが、米ハーバード大学チームの研究でわかり、米国立がん研究所誌で報告した。 米国、カナダ、オランダ、スウェーデン計4か国で行われた10件の追跡調査を詳しく分析した。 それぞれの追跡調査では、自己記入の質問票でふだんの食生活を調べた。 回答にもとづいて、カルシウムや、その他の栄養素の1日摂取量を計算した。 対象者の4992人が大腸がんになったが、牛乳を1日70cc未満しか飲まないグループを1とすると、飲む量が増えるごとにがんの発生割合は下がり、250cc以上飲むグループでは0・85だった。 また、カルシウムの1日摂取量が500ミリ・グラム未満のグループを1とすると、摂取量が増えるにつれて、大腸がんの発生割合はおおむね0・8より低く、700ミリ・グラム(丸干しイワシ2匹相当)以上摂取したグループだと0・74だった。(平成16年8月9日 読売新聞)

ビタミンK2で肝がん抑制

ウイルス性肝硬変の患者がビタミンK2剤を何年も飲み続けると、肝がんに進行する確率が標準的な治療のみの患者に比べ約5分の1にまで下がる。塩見進・大阪市立大教授らのグループがそんな研究結果を米医師会誌(21日発行)に発表する。ビタミンK2剤は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の薬として普及しており、同グループは「副作用が少ない安価な薬で肝がん抑制の可能性を示せた」という。 ビタミンK2は納豆などに多く含まれる成分。研究の対象となった患者40人は皆、男性より骨がもろくなりやすい女性で、骨粗鬆症と早期のウイルス性肝硬変を併発していた。96年から約8年間、経過を追った。 21人は肝臓を保護する薬剤を使う標準治療に加え、ビタミンK2剤「メナテトレノン」を毎日45ミリグラム飲み、19人は標準治療だけを続けた。その結果、肝がんに進行したのは、K2を飲んだ患者では2人、飲まなかった患者では9人だった。 この結果をもとに1年間に発がんする確率を計算すると、飲んだ患者は1.6%になる。飲まなかった患者は8.8%で、ウイルス性肝硬変になった患者の全国平均(8%前後)に近かった。 小俣政男・東京大教授(消化器内科)は「ビタミンK2が肝がんの再発を抑えることを示す研究が別のグループから発表されているが、今回は肝がんへの進行を抑える効果もうかがわせる。 ただ、抗がん剤のように劇的には効かないだろう」と話す。(平成16年7月21日 朝日新聞)

胃がんの内視鏡治療、取り残し6% 

内視鏡による早期胃がん切除が広まる中、消化管内視鏡治療研究会は10日、患者の6%でがんの取り残しや再発があり、2%では胃に穴があく問題が起きているとする調査結果を発表した。23施設を対象にした調査の途中集計だが、こうした実態が定量的に明らかになったのは初めて。日本胃癌(がん)学会は今回の結果も参考に、来春から大規模な全国調査を実施する計画だ。 同研究会代表世話人の斉藤大三・国立がんセンター中央病院内視鏡部長らが、国立がんセンターや神戸大付属病院など23施設で00〜01年に治療を受けた2288症例を分析して分かった。男女比は3対1、平均年齢は69歳。 ただ、約3分の1の施設が未回答。また再発した時期が確認できていないなどの限界がある。斉藤さんは「数字が独り歩きしては困るが、大体の傾向はつかめた。 回答を促し、来春までには正確な数字を出したい」と話している。 胃がんの内視鏡治療では、内視鏡でがんを見ながら、先端の器具で胃表面のがんを切除する。開腹して胃を切除する必要がないため体への負担が小さい一方、視野が悪い中で治療するため高い技術が要求される。 普及するにつれ、不完全な治療や、胃に穴があくなどの合併症が問題になり、内視鏡治療の適応範囲の見直しや、手がける医師の限定などが課題になっている。(平成16年7月11日 朝日新聞)

陽子線でがん治療、2例目の保険適用

副作用の少ない陽子線によるがん治療が、兵庫県立粒子線医療センター(新宮町、50床)で高度先進医療と認められ、一部に健康保険が適用できる見通しとなった。中央社会保険医療協議会の専門家会議が9日までに了解したためで、8月にも実施される。 昨秋承認された国立がんセンター東病院(千葉県柏市)に続く2件目で、治療の広がりが期待される。 X線など従来の放射線は病巣以外にも影響を与えてしまうのに対し、陽子線はがんの位置や大きさに合わせて線量を調節し狙い撃ちできる特徴がある。1回の治療が短時間で、通院治療も可能。手術が難しい頭頸(とうけい)部のがんや肝臓などの臓器のがんの治療に期待され、筑波大陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市)や静岡県立静岡がんセンター(長泉町)などでも実施されているが、医療費が高額(約400万円)で、患者の負担が課題だった。 兵庫県立粒子線医療センターは03年に陽子線がん治療を始め、これまで約320例実施した。高度先進医療の基準の病床数(300床以上)を満たさないが、政府の規制緩和方針を受け、厚生労働省が周辺病院との連携などから判断する方針に転換し、可能になった。 高度先進医療が認められれば、医療費のうち入院・検査料など約100万円が健康保険の対象となり、残りが自己負担となる。(平成16年7月9日 朝日新聞)

牛乳に大腸がん危険低下の効果 

牛乳やカルシウムには大腸がんの危険を低下させる効果があることが分かったと、米ハーバード大などのグループが7日付の米国立がん研究所雑誌に発表した。欧米5カ国で行われた10の疫学調査(計約53万人が参加)のデータを分析した結果、1日当たり500グラム(200ccのコップ約2杯半)の牛乳を飲むと、大腸がんの危険が12%減少することが明らかになったという。カルシウムの大腸がん予防効果は動物実験では指摘されていたが、人への効果が大規模調査で判明したのは初めて。調査は主に1980年代に行われ、6−16年にわたって追跡。牛乳とヨーグルト、チーズの摂取と大腸がんの関係を調べたところ、ヨーグルトでも予防効果を示す傾向がみられたが、統計データで予防効果が確認されたのは牛乳のみだった。カルシウムについては、摂取量が1日1000ミリグラム以上になると、それ以下の場合に比べ女性は15%、男性は10%、大腸がんの発生が減るとしている。(平成16年7月7日 産経新聞)

がん治療専門医の認定開始へ 

がん治療に携わる医師らでつくる日本癌(がん)治療学会(理事長=北島政樹・慶応大医学部長)は、外科医や内科医らを対象に、抗がん剤を使う治療にたけた「がん治療専門医」の認定を来夏から始める。副作用が強い抗がん剤を、安全で効果的に使うには知識や経験が必要だが、専門知識の不十分な医師らによるミスが後を絶たない。今年度始まった国の「第3次対がん10か年総合戦略」でもうたわれるなど専門医の育成が急がれている。 癌治療学会の会員は約1万4000人で、外科医が7割を占める。抗がん剤は手術前や術後に使うことが多いことから、学会は「切った後の治療」にも責任が持てる医師の養成を目指す。外科と内科のほか放射線科、婦人科なども含める。 がん治療の臨床試験の経験が5年以上あること、論文発表、学会の教育セミナー参加などを条件に認定試験を行う。資格は5年おきに更新する方針。 初年度で約1千人の認定を見込んでいる。 さらに学会は併用してはいけない抗がん剤を一緒に使ったり、量を誤ったりするミスが相次いでいることから、ミスの報告制度を近く開始。 データベースを作ってミス防止に役立てる一方、ミスが起きた時の適切な治療法の指導などを行う。 抗がん剤は、がんの種類や病状によって使い方や使う量が異なる。それを間違えたり、副作用への対応を誤ったりすると患者の命にかかわる。内科医らでつくる日本臨床腫瘍(しゅよう)学会(約2000人)も2年後をめどに専門医の認定を目指している。 北島さんは「がん治療を行う医師は化学療法を含めてトータルな治療ができるのが理想。 国民が納得して治療を受けられるシステムを作りたい」と話す。(平成16年5月30日 朝日新聞)

肺がん、手術後の抗がん剤投与で生存率が向上

早期肺がんの手術後に抗がん剤を経口投与すると、生存率が向上することを東京医科大の加藤治文教授(呼吸器外科)らが約1000人対象の臨床試験で確認し、25日発表した。 肺がん手術後の抗がん剤投与の効果を大規模に実証した例は極めて少なく、新たな治療法として期待されるという。臨床試験は94年1月〜97年3月、全国の大学病院など110施設で実施。対象はリンパ節などへの転移がない早期の肺がん「1A」(がんの大きさ3センチ以下)と「1B」(同3センチより大)で、手術でがんが完全に切除された患者。インフォームド・コンセントを得たうえ、抗がん剤「テガフール・ウラシル」を2年間投与する群491人と、非投与群488人に分け、追跡調査した。5年間の生存率を比べた結果、「1」期全体では投与群87.9%、非投与群85.4%だったが、「1B」期では、投与群84.9%、非投与群73.5%と差が開いた。統計学的にはこの差は、1年間の平均死亡リスクを52%低下させることになるという。軽い肝機能異常や食欲不振などの副作用がみられたという。 「テガフール・ウラシル」は、がん細胞のDNA合成を阻害する抗がん剤。加藤教授らは、手術によって、肺のがん細胞は取り除けても、血液を通して全身に散らばったがん細胞や、発見できない微小ながん細胞の、転移や再発を防ぐ効果があったのではないかとみている。 同大の坪井正博助手は「肺がん手術後の治療はこれまで、がんの進行度にかかわらずほぼ同じだったが、今回の結果で、1B期の患者さんは、この抗がん剤を飲むという選択が生まれるだろう」と話している。(平成16年5月25日 毎日新聞)

乳がん、超音波で焼き切る 傷つけずに乳房温存

乳房に傷をつけずがん細胞だけを超音波で焼き切る新治療法を宮崎市の「ブレストピアなんば病院」(難波清院長)が導入し、英国の施設などと共同で国際臨床試験を始めると、20日発表した。MRI(磁気共鳴画像化装置)で位置を確かめながら、超音波をがん細胞に集中して当てる方法で、治療効果や副作用を確認するという。この治療法は米ハーバード大のヨーレス教授らが開発した。数百本の超音波を虫眼鏡の原理で1点に集め、60〜80度の熱でがん細胞を焼く。エネルギーを集中させた部分以外は低温のため、乳房を傷つけることはないという。対象は2センチ以内の乳がん

患者はMRIと超音波照射装置が組み合わされたベッドの上にうつぶせになり照射を受ける。1カ所につき約20秒照射し、約90秒冷却する。これを30〜40回繰り返し、がん細胞を焼く。手術時間は約2時間半で、全身麻酔は必要ない。臨床試験では、焼き切れないがんが残るかどうかや、やけどなどの副作用がないかなどを確認する。同病院は4月、患者の同意を得て、通常の乳房温存手術でがんを摘出する前に新治療法を実施した。がんのあった部分を手術で取り出して検査したところ、がん細胞は見つからなかったという。難波院長は「保険診療の適用には5年以上必要かもしれない。自費であれば約150万円かかるが、今すぐにも実施できる」と話している。(平成16年5月20日毎日新聞)

1日にたばこ10本で肝臓がん再発率2倍

治療して肝臓がんの病巣が消えても、1日にたばこを10本以上吸う習慣があると、がん再発の危険性が約2倍に高まることが、北里大医学部の渋谷明隆講師の調査で分かった。 同大病院で1991―2002年に肝臓がん治療を受け、見かけ上がん病巣が消えた131人を追跡調査。再発した73人について、性別、年齢、治療法、生活習慣など様々な角度から分析し、再発を招いた原因を探った。その結果、毎日10本以上の喫煙習慣がある人が肝臓がんを再発する確率は、そうでない人の1・8倍だった。 最も強い関連があったのはC型肝炎ウイルス感染の有無で、感染者の再発率は非感染者の約3倍。肝臓に複数のがん病巣があった場合も、再発率は約2倍だった。 それ以外に目立った差のある要因はなかった。渋谷講師は「三つの再発要因のうち、喫煙だけは自分の努力で解決できる。肝臓がんの治療をした人は、禁煙した方がいい」と話している。(平成16年5月17日 読売新聞)

がん検診、MRIで全身を一度に

全国に普及しているMRI(磁気共鳴画像化装置)を使い、全身のがんを一度に調べる手法を、東海大の今井裕教授(画像診断学)らの研究グループが開発した。同じ目的で使われるPET(陽電子放射断層撮影装置)よりも画像が鮮明で、放射線被ばくがない。 費用もPETの約6分の1で、早期がん発見のための集団検診への応用が期待されている。 MRIの撮影方法のうち、脳こうそくの初期診断に使われている拡散強調画像法を利用した。この方法は水分子の動きの強弱を画像化する。

がん細胞は正常細胞に比べて密集する傾向があり、がん細胞では水分子の動きが鈍くなる。同グループはこの性質に着目して、MRIの拡散強調画像を繰り返し撮影することで、全身のがん細胞を一度に画像化することに成功した。これまで、胸や腹部を撮影する場合、呼吸に伴う動きの影響で正確な画像が得られないと考えられてきた。同グループは撮影中に息をしても影響がないことを確かめ、技術的な工夫を重ねて実用化した。 体の断面は3ミリ程度の幅で撮影される。撮影に要する時間は準備を含めて約30分。 肝細胞がんはやや写りにくいものの、その他の多くのがんは5ミリ程度の大きさでもとらえられるという。同大は昨年秋から、この手法をがん患者の検査に導入した。最初にがんができた原発部位や、がんの転移先を見つけるなどの実績を上げている。 同グループの高原太郎講師は「PETと違って被ばくがなく、費用も安いので、がんの集団検診に応用できる」と話している。(MRIとPET) MRIは巨大な磁石の中に人間を入れ、体内の水などに含まれる原子の状態変化を利用して、コンピューターで画像化する。 PETは陽電子を出す放射性同位体で標識をつけた薬剤を注射して体内に取り込ませ、その分布を画像化する。 通常の検査では見つけられない小さながんを発見できるとして注目されているが、普及率は低い。(平成16年5月3日 毎日新聞)

がん診断、遺伝子から抑制薬剤を生成 

がんを見つけて治す機能を持つ遺伝子のDNA(デオキシリボ核酸)製の「DNAコンピューター」を、イスラエルのバイツマン科学研究所の研究チームが発明し、英科学誌「ネイチャー」に発表した。試験管内で、がんの遺伝子診断からがんを抑制する薬剤生成までを実現したのは世界初。研究チームは「将来は、生体内のDNAコンピューターが病気を診断し、治療可能になるかもしれない」としている。研究チームは、特殊な酵素を組み込んだDNAコンピューターを作り、がんの遺伝子が新たな細胞を作るための情報を伝えるメッセンジャーRNA(リボ核酸)の有無に反応する性質を持たせた。反応があれば、「がん」と診断。コンピューターのDNAの一部を切り離し、がん細胞の増殖を抑制、破壊するDNAの断片を作り出す。研究チームはこのコンピューターを使い、外から手を加えず、試験管内で肺がんと前立腺がんの小さな細胞の診断から薬剤生成までの流れを確認した。DNAコンピューターに詳しい陶山(すやま)明・東京大大学院教授(生物物理学)は「外から制御せずに自律的な処理を実現しており評価できる。しかし、実用化に向けては、材料となるDNAや酵素の改良、複雑な診断の実現などが課題になるだろう」と話している。(平成16年5月3日 毎日新聞)

初期大腸がん、8割判定可能・がんセンターが新技術

国立がんセンターは大腸がんを高い精度で発見できる新しい検診技術を開発した。便に混ざった細胞を調べてがん遺伝子の有無を判定する。大腸がんは早期発見が難しいが、新手法を使えば初期がんの約8割を見つけられるという。今夏に大規模な評価試験を実施し、日立製作所と組んで来年にも実用化する。大腸がんは食生活の変化で患者数が急増。国内で年間約3万8000人が死亡し、がんの中では肺がん、胃がんに次いで多い。便に付着した血液(潜血)で判定する検査法があるが、初期がんや大腸の奥深くのがんは発見が難しかった。 開発した手法は約10グラムの大便を採取し、腸内ではがれ落ちた細胞を特殊な微粒子やフィルターなどでふるい分ける。この細胞の遺伝子を装置内で増殖させ、悪性腫瘍(しゅよう)に特有の遺伝子の有無を調べる。 同センター研究所支所がん治療開発部の松村保広部長らが開発した。(平成16年4月21日 日本経済新聞)

がん放射線治療、設備で生存率に3倍の差

放射線治療が有効とされる子宮頸(けい)がんや食道がんでは、適切な機器を使えるかどうかや機器の性能によって生存率に最大で約3倍の格差があることが、厚生労働省の研究班(班長=手島昭樹・大阪大教授)の調査で分かった。予算不足で病院側が十分に機器を備えていない例が少なくないという。研究班は放射線治療をする約700病院から75施設を選び、95〜97年に放射線治療を受けた患者の治療成績を調べた。進行した子宮頸がんの場合は手術をせず、子宮内に入れた管から放射線で治療する「腔(くう)内照射」をすることが多い。この治療を受けた患者の5年後の生存率は進行度3期で64%、より進んだ4期で38%。一方、機器がないなどの理由で受けていない患者だとそれぞれ23%、13%だった。腔内照射をするには、1億円前後する専用機器が必要になる。体の奥にできる食道がんでは、エネルギーの高い放射線機器で治療を受けた患者の3年生存率は、3期で18%。低エネルギーの機器だと5%だった。最近は1台で高低のエネルギーを選べる機器が出ており、価格は2億〜3億円ほど。放射線が外部に漏れないようにする工事費も必要になる。手島教授は「放射線治療の対象となるがん患者は増え続けている。より適切な治療ができるよう、病院や行政は装置の充実に向けて努力するべきだ」と話す。(平成16年4月22日 朝日新聞)

緑茶カテキン、がん細胞の増殖半減

緑茶に含まれるカテキンの主成分が、がん細胞表面のたんぱく質にくっついてがん細胞の増殖を抑えていることを、九州大学の研究グループが突き止めた。緑茶2―3杯から血液に吸収される程度のごくわずかな量でも、がん細胞の増殖力を半減させる。抗がん剤など新薬開発につながる成果として注目されそうだ

九大大学院農学研究院の立花宏文助教授らは、緑茶のカテキンのほぼ半分を占める物質「EGCG」と、悪性度の高いがん細胞にみられる転移関連たんぱく質との関係に注目した。乳がんや肺がんの細胞に微量のEGCGを加えたところ、転移関連たんぱく質を持つがん細胞は、そうでない細胞に比べ、増殖がほぼ半分に抑えられた。実験結果から、EGCGが転移関連たんぱく質を標的として結合し、がん細胞に作用していることがわかった。緑茶成分にがん細胞の増殖を抑える働きがあることは知られていたが、仕組みが一部でもわかったのは初めてという。今後、動物実験などで抗がん効果を詳しく検証する。(平成16年3月15日 日本経済新聞)

癌が気になる人は「減煙」より「禁煙」を

癌にはなりたくない、でもたばこは止められない。そんな人の多くが取り組むのが「減煙」。せめてたばこの量を減らして、少しでも発癌物質を体に入れないようにしようというわけだ。だが、米国で行われた研究で、たばこを吸う本数を減らしても、体に取り込まれる発癌物質の量は意外と減らないことがわかった。研究結果は、米国国立癌研究所(NCI)が発行するJournal of the National Cancer Institute誌1月21日号に掲載された。たばこが関係する癌というと、真っ先に頭に浮かぶのが肺癌。しかし、実は肺癌のほかにも、胃癌や肝臓癌、頭頚部癌、膵臓癌など様々な癌にかかるリスクが喫煙により増えることがわかっている。ちなみに、一昔前に「たばこを吸う人では乳癌が少ない」との発表があったが、その後の大規模な調査で、身内に乳癌の人がいない(乳癌の家族歴がない)人ではやはり、たばこで乳癌にかかるリスクが増えることが判明している。

たばこには様々な発癌物質が含まれているが、なかでもNNALと呼ばれる物質は、尿検査でどれだけの量が体内に取り込まれたかがわかる。そこで、米国Minnesota大学のStephen S. Hecht氏らは、153人の「わかっちゃいるけどやめられない」喫煙者に協力してもらい、ニコチン補助療法などを使って、半年かけてたばこの量を4分の1にまで減らす実験を行った。たばこを減らすと、NNALの量も減るかどうかを調べる実験だ。すると、153人中65人は、実験開始から1カ月でたばこの量をほぼ半分に減らすことに成功。2カ月目には目標である「4分の1まで減煙」を達成、半年後もそのペースをキープできた。1日1箱(20本)吸っていた人なら、1日5本にまで減らしたというわけで、なかなかのもの。ところが、尿に含まれるNNALやその代謝物の量は、最初の1カ月で3割減ったが、その後は全く減らなかった。たばこの本数をがんばって減らしたのに、努力が報われなかったわけだ。

どうしてこんなことになってしまうのだろうか。Hecht氏らはその原因の一つが、「たばこの吸い方の変化」にあるとみる。たばこの本数を減らした人では、1本のたばこを以前よりもフィルターに近いところまで吸ったり、煙を深く吸い込んでしまう。減煙に意味が無いわけではないが、この「代償行動」のため、思ったほど効果が出ないらしい。癌が気になる喫煙者は、たばこを減らそうとするよりも、思い切って止めた方がいいようだ。(平成16年1月22日 Medwave)

ドセタキセルが食道癌に適応拡大

アベンティス・ファーマは1月19日、同社が販売する抗癌薬「タキソテール」(一般名:ドセタキセル水和物)が、食道癌に対する効能・効果の追加承認を同日付で獲得したと発表した。ドセタキセルは1996年に乳癌と非小細胞肺癌の治療薬として承認、胃癌、卵巣癌と頭頚部癌に対し適応拡大が行われていた。今回の食道癌に対する適応取得で、6種類の癌種に対する適応を持つこととなる。食道癌は、毎年およそ1万人が死亡する、予後の悪い癌の一つ。早い段階で見付かれば手術が第一選択の治療法となるが、進行・再発癌では化学療法が行われることが多い。また、最近では、化学療法と放射線療法の併用(化学放射線療法)が、手術に代わる治療法として注目されている。今回の承認根拠となった臨床試験は、日本で進行・再発食道癌患者52人を対象に行われた後期第2相試験。固形癌の治療効果判定基準であるRECIST基準で20.4%の腫瘍縮小効果が、単剤投与で認められている。同社ではドセタキセルと放射線療法の併用に関し、2004年2月から2008年3月までの約4年間、200例について安全性情報を収集する特別調査を実施する予定だ。(平成16年1月20日 medwave)

タキソテール術前投与有効、乳がん患者生存率向上

乳がん手術前に抗がん剤を投与する術前化学療法で、5年生存率や腫瘍(しゅよう)縮小効果は、タキソテール(成分名ドセタキセル)が他の抗がん剤を上回るとする臨床試験結果を、英アバディーン大などのグループが、米国で開かれているサンアントニオ乳がんシンポジウムで3日(日本時間4日)発表した。治癒の目安である5年後の生存率の比較結果が出たのは初めて。発表資料や発表を聞いた東京都立駒込病院の戸井雅和・乳腺外科部長によると、試験はアンスラサイクリン系抗がん剤による標準的治療で腫瘍が縮小した患者102人を、2群に分け実施。一方はアンスラサイクリン系、もう一方はタキソテールを、3週間おきに投与する治療を4回繰り返したあと、手術をした。その結果、5年後の生存率は、タキソテールが97%、アンスラサイクリン系が78%だった。がん細胞が消えた患者はタキソテールで31%、アンスラサイクリン系で15%と、タキソテールの方が成績が良かった。(平成15年12月4日 日本経済新聞)

重粒子線治療、一部保険に

肺がんなどに対する放射線医学総合研究所(千葉市)の重粒子線治療について、厚生労働省が高度先進医療に承認、1日から入院費の一部などの費用が保険適用になった。対象は肺がん、頭頚部(けいぶ)がん、前立腺がん、骨・軟部組織がんの4種類で、転移のないもの。診断、検査、投薬、入院費用は健康保険が適用され、一連の重粒子線照射の費用314万円が患者負担となる。放射線の一種である重粒子線による治療は、炭素イオンを加速して患部に照射し、がん細胞をたたく。ほかの放射線治療と比べ周辺の正常組織への影響が少なく、痛みや副作用の少ない治療とされる

同研究所は1994年の臨床試験開始以来、約1600人の患者に実施、手術をした場合と同等の成績を挙げている。 同研究所は今後、がんが骨に浸潤して手術は危険が伴う患者や、手術すれば歩けなくなるなどの副作用が出る患者を中心に、年間300人程度を受け入れる方針。(平成15年11月1日 中国新聞)

がん抑える野菜、キノコ

ブロッコリーや白菜などのアブラナ科野菜や、シメジやナメコなどのキノコを多く食べる人は、あまり食べない人に比べ、胃がんや大腸がんになりにくい。国立がんセンター研究支所(千葉県柏市)などの調査でこんな傾向がわかった。

長野県内の4か所の医療機関で、胃がんや大腸がんにかかった患者計364人と、人間ドックを受診した健康な517人に、日ごろどんなものを食べているか詳しく尋ね、年齢など、さまざまな条件を考慮して統計的に分析した。 すると、ブロッコリーや白菜、小松菜などアブラナ科の野菜を週3回以上食べている人は、週1回未満の人に比べ、大腸がん、胃がんになりにくいことがわかった。特にブロッコリーをよく食べる人で、その傾向が顕著だった。 キノコでも同様で、ブナシメジを週1回以上食べる人は、食べない人に比べて胃がんになりにくかった。

アブラナ科野菜やキノコ類は、がんを抑える可能性が以前から指摘されていた。花岡知之・同支所臨床疫学研究部室長は「統計的にも、ある程度は裏付けられたと思う」と話している。(平成15年10月21日 読売新聞)

信州大など、細菌を運び役にがん狙い撃ちできる治療技術

信州大学と京都薬科大学のグループは腸内細菌を薬の運び役にしてがんを治療する技術を開発した。細菌ががん組織内で集中して増えるので、薬を病巣だけで作用させがんを“兵糧攻め”にすることが期待できる。 アレルギー反応が起きないことを動物実験で確認した。副作用の少ないがん治療用の薬物送達システム(DDS)技術として実用化を目指す。 乳がんや肺がんなど固まりを作るがんは、組織内部の酸素が乏しい。 研究グループは、酸素が乏しい状態を好む腸内細菌のビフィズス菌に注目。この細菌に、がんへの栄養補給路を断つ血管新生阻害薬の「エンドスタチン」を作る遺伝子を組み込んだ。 乳がんなどの細胞を移植したネズミの血中にビフィズス菌を注入すると、菌はがん組織の中だけで繁殖。1週間後にはがん以外の部分からは菌がいなくなる。モルモットの血中に注射してもアレルギー反応が起こらず、生体には無害という。(平成15年10月7日 日経産業新聞)

がんの重粒子線治療、高度先進医療に承認

厚生労働相の諮問機関「中央社会保険医療協議会」(中医協)は1日、放射線のひとつ、炭素イオン線(重粒子線)を用いたがん治療を、医療費の一部が医療保険から給付される高度先進医療として承認した。 来月1日から実施される見通しで、この治療法の普及に道が開かれた。 承認を申請したのは、この治療法を行っている独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院(千葉市)。放射線のうち、X線やガンマ線は、体の表面近くで最も線量が強く、深くなるにつれ弱くなる。 一方、重粒子線は、がんの病巣がある部分で線量が最も強くなるようにコントロールできるのが特徴。 これにより病巣への集中的な照射が可能になるとともに、病巣の前後にある正常な組織へのダメージを最小限に抑えることができる。同病院では炭素イオン線を用いた重粒子線治療を94年6月に開始。 今年2月時点での症例数は1462となった。 治療費の総額は約400万円だが、今回の承認で、入院料や薬、検査などに保険が適用されることになる。 重粒子線治療にかかる費用約300万円は自己負担だ。(平成15年10月1日 朝日新聞)

最新機器でがん検診、受診者を公募 国立がんセンター

国立がんセンター(東京都中央区)は1日、がん予防・検診研究センターを開設し、来年2月から実施するがん検診の受診者の公募を始める。 先端の診断機器を組み合わせ、ほぼすべての臓器を対象にするのが特徴。 日本のがん研究の中枢にある同センターが検診に乗り出すのは初めて。 検診後、5年間の追跡調査でデータを集め、効果的な検診方法の確立や、がんと生活習慣との関係究明などをめざす。 検診は年間5000人の予定で、まず男女計2000人を公募する。 対象は男性が50〜69歳、女性が40〜69歳で、これまで「がんやがんの疑いがあるとされたことのない人」。 将来の遺伝子解析に備えた血液の保存など研究への協力が前提となる。今回公募分の検診は来年2月から6月の間に2日間かけて実施する。 食道、胃、乳房、前立腺など13の臓器を主な対象とし、内視鏡、超音波、MRIなどの検診方法を組み合わせる。 費用は自己負担で、男性が9万5000円、女性が13万円。 最新の画像診断「PET検査」も8万5000円で追加できる。応募の締め切りは31日で、定員を上回る場合は抽選する。 がん検診は、各自治体などで広く行われているが、検診後の生存率など基礎データはまだ不足しており、検診方法や治療の選択法も確立されていないのが実情。 同センターではこうしたデータの収集や、がん検診の教育・研修プログラムの作成をしたいとしている。 申込書などの請求は同センター事務局(〒104・0045 東京都中央区築地5の1の1)へ、はがきかファクス(03・3547・5304)で。(平成15年10月1日 朝日新聞)

ビール、乳がん抑制効果 

ビール成分に乳がんの発生を抑える働きがあることが、キリンビールと国立がんセンター、岡山大学の研究グループのラットを使った実験でわかった。ただしアルコールは乳がんの危険因子との報告もあり、研究グループは「適量の飲酒を心掛けてほしい」という。名古屋市で開催中の日本癌(がん)学会で25日発表された。研究グループは、生後6週目の雌のラット30匹に、凍結乾燥したビール粉末を4%入れた飼料を22週間にわたり食べさせた。人間では1日当たりビール大瓶1本を飲むことに相当するという。さらに、実験開始1週間後から3週間後にかけて、乳がん発生の原因となる発がん物質「PhIP」を合計8回経口投与した。 ビール粉末を食べさせない以外は、同様の飼育をしたラット30匹との間で乳がんの発生率を比較したところ、ビール粉末を食べたラットの乳がん発生率は38.5%で、食べていないラットの73.3%を大幅に下回った。これまでの研究で、PhIPがDNA(デオキシリボ核酸)と結合体をつくると、DNAに異常が生じ、がんになる危険性が高まることが分かっている。実験後の解剖で、ビール粉末を与えたラットの乳腺では、この結合体の数がビール粉末を加えなかったラットの約4分の1になっていた。ビール粉末がPhIPの作用を促進する酵素「CYP1A2」の働きを抑制することも分かった。研究チームによると、ビール原料のホップに含まれる苦味成分のイソフムロン類が関与しているとみられるという。乳がんの患者数は3万3676人(98年厚生省調べ)。 女性の部位別がん患者数も乳がんが15.8%と一番多く、年々増える傾向にある。(平成15年9月25日 毎日新聞)

チョウに抗がん物質 タンパク質が細胞破壊

モンシロチョウのサナギと幼虫に含まれるタンパク質に、がん細胞を壊す働きがあることが若林敬二・国立がんセンター研究所副所長らの研究で分かった。名古屋市で25日から始まる日本癌(がん)学会で発表する。このタンパク質は、種々の人間のがんにアポトーシス(細胞死)を起こす作用が実験で確かめられ、細胞レベルでは一般の抗がん剤を上回る効果があった。正常な細胞に影響しないようにする方法の開発など、患者への応用には課題が多いが、新たな抗がん剤につながる研究として注目されそうだ。同研究所はこのタンパク質を「ピエリシン1」と命名した。若林副所長らによると、がんの培養細胞を使った実験で、多種類のがんに微量で効果があった。特に子宮、胃、大腸のがんの増殖を強く抑えた。がん細胞のDNAに結合し、アポトーシスを誘発していた。ピエリシン1の量はモンシロチョウの生体内では、幼虫期後半に増加してサナギの初期に最多となるが、成虫ではほとんどなくなる。このため、変態に関与するか、外敵防御の役割をしていると考えられるという。類似の物質はオオモンシロチョウでも見つかった。同副所長は「ピエリシンの本来の働きや作用の仕組み、動物にも同様の物質がないか調べたい」と話している。《アポトーシス》 生物にとって有害だったり、不要になったりした細胞を除去するための仕組みで、プログラムされた細胞死といわれる。細胞が断片化、凝縮するとともにDNAも断片化する。(平成15年9月24日 産経新聞2003・9・24)

大腸がん、新手法で便から判定 精度80% 

日本人に増えている大腸がんを、便から見つける新しい手法を、国立がんセンターがん治療開発部の松下尚之医師と松村保広部長が開発した。集団検診で普及している「便潜血法」を上回り、80%以上の精度が期待できるという。26日、名古屋市で開かれている日本癌学会で発表する。がん患者の便の中には、がん細胞や、新陳代謝ではがれ落ちた正常細胞が混在している。松村部長らは、正常な細胞のほとんどが壊れているのに対し、がん細胞が細胞の形を保って生きていることに着目し、それだけを選別する手法を開発した。少量の便を特殊な溶液の中で砕き、フィルターでこした後、細胞と結合しやすい抗体を付けた磁気ビーズ(金属製、直径4・5マイクロメートル)を入れ、細胞が集まったところを磁石で回収する。これで、壊れた細胞は取り除かれ、がん細胞だけが残る。この試料中の細胞にがん遺伝子があるかどうかを調べて、がんの有無を判定する。大腸がんの患者14人を対象にした試験では、13人から狙い通りにがん遺伝子を検出できた。これに対し、健康な7人は全員「陰性」と出た。患者、非患者計約200人を対象にした比較試験が進行中で、がん遺伝子の種類を増やすことで、80%以上の精度を維持できるという。「便潜血法」は、大腸がんの症状である出血を試験薬で調べる。1回の検査で見つかる確率は6割程度と言われ、米国では7割以上が見逃されているとの報告もある。 一方、痔や良性腫瘍が「陽性」と判断され、精密検査の結果否定されるケースも少なくない。(平成15年9月25日 毎日新聞)

黒酢で大腸がん予防

タマノイ酢(大阪府堺市、播野勤社長)は24日、玄米を原料とする黒酢の濃縮エキスをラット(大型ネズミ)に長期間投与したところ、大腸がんを予防する効果を確認できたと発表した。金沢医科大学と京都大学との共同成果で、25日から名古屋市で開く日本癌学会で発表する。 ラットに発がん物質を投与した後、水を与えるグループと黒酢エキスを与えるグループに分けて、35週間後に大腸を調べた。 水を与えたグループでは20匹中、16匹でがんが発生したのに対し、濃度0.1%の黒酢エキスを与えたグループ群は7匹しか発生しなかった。 黒酢に含まれる成分が、がん発生を予防したとみている。今後は、この成分を特定する研究などを進める。(平成15年9月25日 日経産業新聞)

結腸がん、肥満女性は「死亡リスクが高い」

女性は肥満の度合いが高いほど、結腸がんで死亡する危険性が高くなるとの疫学調査結果を、名古屋大大学院の玉腰浩司講師(公衆衛生学)らがまとめた。一方、男性では、肥満と結腸がんとの間に明確な相関関係はみられなかった。25日から名古屋市で開催される日本癌(がん)学会で発表する。調査には国内の24研究機関が参加した。1988〜90年に40〜79歳だった全国の男女約10万人の身長、体重などを調べ、対象者を99年まで追跡した。その間に結腸がんで死亡した249人を特定し、肥満の判定基準(BMI)との関係を分析した。BMIは体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った数値で、22が「標準」、25以上が「肥満」、18.5未満が「やせ」と判定される。分析の結果、BMIが28以上の女性は、BMIが20以上22未満の女性に比べ結腸がんで死亡する危険性が3・41倍になっていた。26以上28未満の場合も同2.27倍、24以上26未満の場合も同2.23倍になった。20歳のころにBMIが高かった女性や、20歳を過ぎてからBMIが大きく増加した女性も結腸がんで死亡する危険性が高まるとの結果も出た。食生活の欧米化が結腸がんの増加につながっているとされるが、玉腰講師は「女性だけがこのような結果になった理由はよく分からない。 これからの研究課題だ」と話している。(平成15年9月24日 毎日新聞)

幹線道50m圏内、肺がん発症1.8倍

交通量が多い幹線道路から50メートル圏内に住んでいた人は、それより離れた地域の人より肺がんになる率が約1・8倍も高いことが千葉県がんセンターの三上春夫・疫学研究部長らの調査でわかった。ディーゼル車の排ガスに含まれる微粒子が、肺がんのなりやすさに関係するとの説はあるが、実際の患者データで裏づけられたのは初めて。 25日から名古屋市で始まる日本癌(がん)学会で発表する。三上部長らは、「トラック街道」と呼ばれる幹線道路が通っている同県内の1市で、1975年以降に肺がんになった患者622人の発症当時の住所を調査。幹線道路から50メートル圏内に住んでいた人と、500メートル圏内の人に分けて、発症率を比べた。その結果、85年以降、幹線道路から50メートル圏内での発症率が、500メートル圏内より高くなってきたことが判明。特に90―94年の5年間では、1・83倍(男性1・76倍、女性2倍)も、肺がんになる確率が高かった。(平成15年9月22日 読売新聞)

飲酒男性、結腸がんの危険は2倍


お酒を飲む習慣がある男性は結腸がんになる危険が約2倍になる。愛知県がんセンター研究所の若井建志主任研究員らが約5万8000人を約7年半追跡調査したところ、こんな関係が13日までに明らかになった。禁酒した人でも危険度は同様で、同主任研究員は「定期的に飲む人は、やめてもすぐにはリスクが下がらない」と指摘している。名古屋市で25日に始まる日本癌(がん)学会で発表する。同主任研究員らは、1988―90年に当時40―79歳の男女に生活習慣を尋ね、平均7年半、追跡調査した。この間に、結腸がんになったのは約420人。飲まない、禁酒中、飲んでいるグループごとに、結腸がんになった人の割合を調べた。飲まないグループを基準にすると、飲酒中の男性は結腸がんの罹患(りかん)率が2倍近くだった。禁酒中の男性も2倍をわずかに超えた。酒量と危険度に相関関係はみられなかった。女性では、禁酒中の人だけ、罹患率が約1.6倍と高かったが、理由はよく分かっていない。(平成15年9月13日 日本経済新聞)

肺がん手術5年後の生死、遺伝子で予測

肺がんの手術を受けた患者が、5年後も生きていられるかどうかを遺伝子から予測する方法を、愛知県がんセンター(名古屋市)が開発し、11日発表した。同センターは、予測で早くから再発対策を講じれば死亡率が下げられると期待している。96〜97年に同センターで肺がんの手術を受けた患者50人のがん組織から、約1万種類の遺伝子を取り出した。患者の5年後の状態と、遺伝子の関連をコンピューターで解析したところ、特定の遺伝子の使われ方をみることで、5年後の生存の可能性を約9割の確率で判定できることをつきとめた。 肺がんは、がんの中で最も死亡者が多く、年間5万人以上が亡くなっている。 この方法を使えば、手術後に再発・転移で亡くなる恐れのある患者には、これまでより早い段階で抗がん剤による補助療法を始めて生存率を上げられる可能性がある。 一方、生存の可能性が高い患者には不要な抗がん剤を使わないなど、個々の患者にあわせた治療が出来るという。 高橋隆・同センター研究所分子腫瘍(しゅよう)学部長は「できるだけ早く、病院で高度先進医療として患者さんにこの方法を使ってもらえるようにしたい」と話している。名古屋市で25日から開かれる日本癌(がん)学会で発表する。(平成15年9月11日 朝日新聞)

スイートコーンにがん抑制効果

スイートコーンには、がん抑制効果があります。キユーピーは弘前大学医学部の佐々木甚一教授と共同で、スイートコーンに含まれるフィトグリコーゲンに抗腫瘍(よう)効果があることをマウスを使った動物実験で確認した。来月中旬に東京都内で開催される日本農芸化学会関東支部大会で発表する。実験では、乾燥したスイートコーン1ミリグラムを1週間与えたマウス群と、与えなかったマウス群にそれぞれがん細胞を移植して違いを分析。スイートコーンを投与しなかったマウスは3週間後に100%腫瘍ができたのに対し、食べさせたマウスで腫瘍を形成したのは20%にとどまった。 フィトグリコーゲンをマウスの腫瘍に直接投与しても腫瘍は小さくなるが、スイートコーンそのものを食べさせるとより強い抗腫瘍効果が認められたという。(平成15年9月10日 日経産業新聞)

乳がん、視触診のみ廃止 

見落としが続いている乳がん検診のあり方について、厚生労働省は視触診のみの検診を廃止して乳房X線撮影(マンモグラフィー)を全面的に導入するなど大幅に見直す方針を固めた。近く専門家を集めた検討会を立ち上げ、今年中に結論を出して全国に通知する。 現在、半数近い市町村で、乳房を触ってしこりの有無を調べる視触診のみの検診が行われているが、このままでは見落としが頻発しかねないと、見直しに踏み切った。 厚労省が00年度にまとめたがん検診の有効性評価では、視触診だけの検診は「死亡率を減らす効果がない」とされた。だが、視触診だけの検診を受けた人は01年度に283万人に上るのに対し、「効果がある」とされるX線撮影と視触診の併用検診を受けた人は45万人にとどまっている。 産婦人科や整形外科など専門外の医師が視触診検診に携わることが多く、今夏、相次ぐ見落とし例が問題になった。厚労省は、05年度からの老人保健第5次計画を前倒しして、検診を見直す必要があると判断した。 まず視触診のみの検診については「効果がない」とし、事実上の廃止を求める。この指導は法的根拠はないが、「効果がない」とされた検診を続ける自治体は来年度からなくなるとみている。 従来、視触診検診にあたっていた専門以外の診療所などは、検診ができなくなる可能性がある。 一方、50歳以上を対象としていたX線撮影と視触診の併用検診については、40歳以上に引き下げる方向で専門家の意見を聞く。米国やオーストラリアなどは、X線撮影単独か、視触診との併用を40歳以上の検診に義務づけており、世界的な水準に追いつくことになる。 なお、30代の検診については、X線撮影よりも超音波(エコー)検査の方ががんを発見しやすいとする専門家もおり、どのような検診にするか、専門家の判断を仰ぐ。 今後、X線撮影の全面導入には解決すべき問題が少なくない。ひとつは技量だ。厚労省は、X線撮影検診について、乳房の撮影にたけた診療放射線技師や画像を分析する読影能力のある医師に限定していく方針だ。 現在、日本乳癌(にゅうがん)学会などでつくるマンモグラフィ検診精度管理中央委員会が、読影能力の高い医師や撮影技術の高い技師の資格制度を設けている。しかし、技量の高いA、B級の医師、技師は都市部や大病院に集中しており、さらなる有資格者の養成も検討していく。 また、財政的には1台3千万円以上するといわれるX線撮影の機器をどう整備するかの態勢づくりが課題だ。 厚労省は、そのための財源や、市町村の検診費負担などについて、地方交付税を握る総務省との折衝を始めている。 新たな財源が必要かどうかも検討する。<乳がん検診> 乳がんにかかる人は98年度に年間約3万3600人(推計)に達し、女性では胃がんを抜いてトップ。乳がん検診は87年から老人保健法に基づいて義務づけられ、30歳以上を対象に主に視触診が実施されてきた。 だが、視触診のみの検診はがん発見につながらないとし、厚労省は98年から法的な義務づけをはずすと同時に、補助金を廃止した。 現在は各市町村の判断で実施され、半数近い市町村で視触診のみの検診が続いている。 01年度の受診率は12・3%にとどまる。(平成15年9月8日 朝日新聞)

がん促進酵素、作用抑えるたんぱく質発見 

活性化すると細胞の異常分裂・増殖を誘発し、がんを促進する酵素「マップキナーゼ」の作用を抑えるたんぱく質を、神戸大大学院医学系研究科の杉浦麗子助教授(分子薬理・薬理ゲノム学)らの研究グループが発見した。がん抑制につながる研究として注目されそうだ。21日付の英国の科学雑誌「ネイチャー」で発表される。マップキナーゼは、微量ながら細胞の中に存在し、活性化(リン酸化)することで、さまざまな情報を細胞内に伝える作用をつかさどる。しかし、極端に活性化すると細胞の異常分裂を引き起こし、がんの促進を手助けする。研究グループはマップキナーゼを不活性化させる酵素に着目。人間と同じくマップキナーゼを持ち、細胞分裂も行う酵母を用いて実験したところ、RNA(リボ核酸)と結合したたんぱく質(Rnc1)がマップキナーゼの動きを抑えることを発見。 マップキナーゼが活性化した状態の方がRnc1も活発に働くことも分かった。杉浦助教授は「抗がん剤の開発などに応用が可能だろう」と話している。西田栄介・京都大大学院生命科学研究科教授(細胞生物学)の話 RNAに結合したたんぱく質がマップキナーゼの作用を安定化させることの証明は初めてで、興味深い研究だ。がん治療への応用には、今回の現象が人間でも成り立つかどうか証明する必要があるだろうが、そのきっかけとなる成果と言える。(平成15年8月21日毎日新聞)

製薬各社、ガン疼痛治療薬の品ぞろえ強化

製薬各社ががん疼痛治療薬の品ぞろえを強化する。塩野義製薬と大日本製薬が相次ぎ新製品を発売。 田辺製薬と協和発酵も海外企業から新型薬剤の開発権を取得して製品化する。持ち運びや服用管理の容易な製品や即効性のある製品を投入、海外に比べ小さい疼痛薬市場の拡大につなげる。 田辺製薬は米セファロン社から日本での開発販売権を取得、2007年発売を目指して新薬を開発中。約10センチメートルの棒の先に薬剤が付いており、歯茎と唇の間にこすりつける仕組み。粘膜から成分を吸収するため錠剤より早く効き目が出る。 協和発酵は舌の下で溶かす新薬を開発している。スウェーデンのダイアバクト社から開発権を取得しており、2009年の製品化を目指す。(平成15年8月16日 日本経済新聞)

肺がん診療指針作成、進行患者へ抗がん剤推奨 

肺がんの診断から治療までを含めた包括的な指針を厚生労働省の研究班(主任研究者=藤村重文・東北厚生年金病院長)が初めてまとめた。すでに転移し、手術が難しい肺がんへの抗がん剤治療を「生存期間を延長する」として強く推奨している。 がんの死因のトップを占める肺がんの治療のばらつきを減らすのが狙いだ。 日本肺癌(がん)学会や日本呼吸器学会、日本外科学会などの協力を得て、国内外約1千の論文を検討し、標準的な治療法をまとめた。 肺がんのほぼ8割を占める「非小細胞肺がん」は、自覚症状が出てからではすでに他の臓器などに転移していることが多く、その場合は手術ではなく抗がん剤での治療を強く勧めている。 治療しなければ10%以下の1年生存率が、15〜25%に高まるという。 痛みからの解放など生活の質の改善も期待できるとしている。 非小細胞肺がんでも、がんが肺の中にとどまっている早期に発見できれば手術が中心になる。 手術後に再発防止のためにする放射線照射は「体の状態が悪化するので行うべきではない」と指摘した。 同じ目的での抗がん剤使用も「根拠が乏しく推奨されない」とした。 がん細胞を狙い撃ちする新型の抗がん剤「イレッサ」については、有効性を示す論文があるもののデータが少ないとして推奨には至らなかった。 肺がんによる死者は00年で約5万3千人で、がん全体の2割弱を占める。 今後も、高齢化などで患者は増え続けるとみられる。 藤村病院長は「手術が最適ではないのに手術をするといった例が今もある。 患者が最適の医療を受けられるよう役立てて欲しい」と話している。<非小細胞肺がん> 肺がんには、小細胞がん、腺がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がんの四つがあり、がん細胞の性質などが異なる。 小細胞がん以外の三つをまとめて非小細胞肺がんと呼ぶ。 小細胞がんは放射線療法や抗がん剤が効きやすく、非小細胞肺がんとは治療方針が異なる。(平成15年7月30日朝日新聞)

喫煙は「たちの悪い」前立腺癌を増やす

前立腺癌にかかった中高年男性と、前立腺癌がない同年齢層の男性とを比較した米国の症例対照研究で、喫煙は前立腺癌の発症リスクだけでなく、より悪性度が高い前立腺癌をも増やす恐れがあることがわかった。 喫煙者では非喫煙者より1.4倍前立腺癌になりやすく、しかも、ヘビースモーカーは悪性の前立腺癌に2倍なりやすい計算になるという。 研究結果は、米国癌学会(AACR)の学術誌であるCancerEpidemiology, Biomarkers & Prevention誌7月号に掲載された。 この研究を行ったのは、米国Washington大学泌尿器科のLora A. Plaskon氏ら。 同氏らは、Washington州北西部のKing地区の住民から、1993〜1996年に生検で前立腺癌であることが確認された40〜64歳の男性753人と、同地区に住む同年齢層の男性で、前立腺癌にかかっていない703人を抽出。 両群を比較して、喫煙が前立腺癌の発症や悪性度に与える影響を検討した。 両群とも現喫煙者は16%前後で、非喫煙者は4割弱、過去に喫煙経験がある禁煙者は半数弱だったが、非喫煙者と比べた場合、喫煙者では前立腺癌の発症オッズ比が1.4(95%信頼区間:1.0〜2.0)になることが判明。 オッズ比は喫煙年数などと正の相関があり、1日1箱を40年間、あるいは1日2箱を20年間など、喫煙指数(1日の喫煙箱数と喫煙年数を乗じた数)が40以上のヘビースモーカー(禁煙者含む)では、このオッズ比が1.6(同:1.1〜2.2)と有意に高くなった。次に研究グループは、前立腺癌の病理学的悪性度を反映するGleasonスコアが7以下、あるいは腫瘍が限局性の場合を「非進行癌」、Gleasonスコアが8以上、あるいは腫瘍が浸潤性・転移性の場合を「進行癌」として、喫煙との関連を評価した。すると、「進行癌」にかかるオッズ比は、喫煙指数が40以上のヘビースモーカーで2.0(同:1.3〜3.1)と、有意に高くなることが判明。 喫煙には前立腺癌の発症リスクを高めるだけでなく、癌の悪性度も高める作用もあることが示唆された。 一方、たばこを止めてからの年数で見ると、現喫煙者より禁煙者の方が前立腺癌の発症率は低いが、たばこを止めて20年間は非喫煙者よりも高い傾向が保たれる。結局、20年以上たばこを止めている人で、ようやく前立腺癌の発症率は非喫煙者と変わらないとの結果になった。 喫煙が前立腺癌の発症率を高める機序は、喫煙者で血中の男性ホルモンレベルが高く、女性ホルモンレベルが低いためではないかと考えられている。 “禁煙効果”が現れるのに20年はかかることを考えると、前立腺癌が心配な人は、できるだけ早くたばこと手を切った方が良いと言えそうだ。(平成15年7月24日medwave)

ほうじ茶や麦茶に発癌性疑われるアクリルアミド多い

農林水産省は6月27日、茶類のアクリルアミド含有量の調査結果を発表した。ポテトチップやスナック菓子など、穀類を高温調理した食品に多く含まれるとして世界的な問題になったアクリルアミドの含有量を調査したところ、茶類の中では、ほうじ茶と麦茶に多く含まれることが分かった。スナック菓子などと比べてそれほど多いわけではなく、直ちに健康に影響がある量ではないが、ジュースやコーラを飲むよりはよいと、子ども用に常備する家庭も少なくないだけに、ちょっと気になる調査結果だ。既に2002年10月に、国立医薬品食品衛生研究所が各種食品や茶葉について分析結果を報告しているが、今回は、農水省が日本食品分析センターに依頼し、茶葉と茶の浸出液について調査したもの。それによると、茶葉では、緑茶(煎茶)と紅茶では不検出〜30ng/gと少なかったのに対し、ほうじ茶では4サンプルで190〜570ng/g、麦茶では3サンプルで180〜320ng/gと多かった。一方、通常飲む方法でいれた浸出液については、緑茶(煎茶、釜炒り茶)、紅茶、ウーロン茶では不検出か3ng/g以内だったのに対し、麦茶では3サンプルで5〜14ng/g、ほうじ茶では4サンプルで4〜11ng/gだった。上記サンプルの例で、自動販売機で販売される350ml缶でほうじ茶を2缶分飲んだ場合、アクリルアミドの摂取量は2.8〜9.8μgとなる。これはスナック菓子100g程度を食べたときの摂取量とほぼ同水準に相当する。アクリルアミドは土壌改良剤や接着剤などの原料として用いられる物質で、作業者などでの曝露では中枢神経系への影響があるとされる。また、国際癌研究機関(IARC)によると、ベンツピレンやディーゼル排気ガスなどと同じ2A(人に対しておそらく発癌性がある)に分類されている。農水省では、国民平均食品摂取量から試算したアクリルアミドの平均摂取量は成人1日当たり69〜118μgであり、「直ちに茶類の摂取方法を変える必要はないと思われる」としている。(平成)15年6月30日medwave)

みそ汁に乳癌の予防効果

みそ汁を毎日3杯以上飲む女性は、ほとんど飲まない人よりも、乳癌になる確率が4割少ない−−。そんな興味深いデータが、日本人の中高年女性約2万人を前向きに追跡したコホート追跡研究から明らかになった。みそ汁などの大豆食品に含まれる「イソフラボン」という成分に、乳癌を予防する効果があるためとみられている。研究結果は、Journal of the National Cancer Institute(JNCI)誌6月18日号に掲載された。この研究を行ったのは、国立がんセンター研究所がん情報研究部の山本精一郎氏ら。厚生労働省の多目的コホート研究「JPHC」(Japan Public Health Center-based prospective study on cancer and cardiovascular diseases)の参加者データに基づき、みそ汁や豆腐、納豆などの大豆食品の摂取量・頻度と乳癌発症率との関連を調べた。対象者は、日本の4地区に住む40〜59歳の女性2万1852人。1990年1月に、大豆食品を週にどれくらい摂取しているか、自記式のアンケートに回答してもらった。その後、1999年12月まで追跡したところ、179人が乳癌を発症した。アンケートでは、大豆食品を「みそ汁」と「大豆、豆腐、油揚げ、納豆」(みそ汁以外の大豆食品)に分けて、週当たりの摂取頻度を調査。みそ汁については、「ほぼ毎日」と答えた人に、1日何杯飲むかを尋ねた。大豆食品をたくさん摂る人は、あまり摂らない人よりも高齢で、食習慣にも違いがあったため、解析は年齢や食習慣などを補正した上で行った。その結果、みそ汁を1日3杯以上飲む中高年女性では、1日1杯未満の人よりも、乳癌の発症率が4割低い計算になることが判明。みそ汁とその他の大豆食品を合わせ、含有イソフラボン量で4群に分けて解析した場合も、最大摂取群は最小摂取群より乳癌発症率が54%低くなる計算になった。一方、みそ汁以外の大豆食品については、「週2食未満」より「ほぼ毎日」の人で乳癌発症率が2割低い計算になったが、この差は統計学的には誤差の範囲だった。大豆食品の中ではみそ汁だけに乳癌の予防効果がみられたとの結果だが、研究グループは、この違いが食品の差ではなく設問の違いによって生じたと考えている。みそ汁の「1食」(1杯)の量にあまり個人差はないが、他の大豆食品は、食品や料理の種類によって「1食」の量にばらつきが生じ、データが不正確になりがちだからだ。日本人は米国白人よりもイソフラボンを700倍多く摂取しているが、日本人の乳癌発症率は米国白人よりもはるかに低いことが知られている。また、イソフラボンには女性ホルモン様の作用があり、動物実験で乳癌を抑制する効果が示されている。調査開始時に閉経前だった人と閉経後の人とで分けて解析すると、閉経後の人で乳癌予防効果がはっきり現れており、研究グループは、今回みられた予防効果は主にイソフラボンによると考察している。(平成15年6月30日medwave )

非ステロイド薬服用で肺癌発症抑制の可能性

バイエル薬品は6月24日、アスピリンなどの非ステロイド系鎮痛薬を定期的に服用すると、肺癌の発症を予防できる可能性があることを示した研究結果が、医学雑誌「Cancer」に掲載されたと発表した。研究は、米国ヘルス財団の研究者が実施したもの。 研究には肺癌患者1038人と健常者1002人が参加。 同系鎮痛薬を1年以上にわたり週3回以上服用した参加者は、服用しなかった参加者に比べ、肺癌の発症リスクが32%低かった。特に喫煙者では発症リスクは40%も低減されたという。 同社によれば、アスピリンは大腸癌、肺癌、乳癌に対して予防効果を持つことが示唆されている。 ただ肺癌を予防する作用機序は、今後プロスペクティブ試験で解明していく必要があるとしている。(平成15年6月25日薬事日報)

抗がん剤の効き目、遺伝子異常で予測 札幌医大グループ

抗がん剤を使う前に効くかどうか予測する目安となる遺伝子異常を、札幌医科大の豊田実・助手(第1内科)と同大付属がん研究所のグループが突き止めた。 患者一人ひとりのがんの特徴を見分けて薬を選ぶオーダーメード治療につながる研究で、近く米科学アカデミー紀要に掲載される。 抗がん剤の効果は患者によって異なる。 抗がん剤はふつう、正常細胞にも影響を及ぼし、下痢や骨髄の働きの低下などの副作用が出る。 効かない患者には副作用だけが出ることになるので、事前に調べて抗がん剤を選択しようという研究が進んでいる。 グループは、大腸がんや口腔(こうくう)がんなどの患者160人のがん組織を対象に、ある抗がん剤が効いたがんと、効かなかったがんの違いを分析した。 その結果、効いたがん細胞では「Chfr」という、細胞分裂をチェックする遺伝子に異常が起きていた。 また、この異常のあるがん細胞に、抗がん剤が効くかどうか試したところ、がん細胞は死滅したという。豊田さんは「異常に応じて抗がん剤を選択すれば効果的な治療が可能となる。異常を分析する方法も研究中で近く特許申請したい」と話す。(平成15年6月13日朝日新聞)

赤血球肥大で食道がんの危険

貧血の指標として健康診断の検査項目にも入っている「赤血球のサイズ」が一定以上に大きくなると、食道がんのリスクが4倍近く高まることを、国立療養所久里浜病院や国立保健科学院などの研究チームが突き止めた。 アルコール依存症患者での調査だが、一般の人でも、食道がんになりやすいかどうかを知る手がかりになると期待される。 同病院の横山顕医長らは、アルコール依存症患者を治療中、食道がんのなりやすさに違いがあることに注目。 がんになった50人と、ならなかった203人の過去の様々な検査項目を比較。 平均赤血球容積(MCV、基準値83―100)が106以上になると、それより低い人に比べ3・7倍も食道がんになりやすかった。横山医長らは、赤血球肥大の背景に栄養状態の悪さがあり、赤血球の正常な成熟に必要なビタミン(葉酸)が不足しているのではないかと見ている。(平成15年6月3日 読売新聞)

皮膚がん「メラノーマ」転移の新診断法

皮膚がんの一種、メラノーマの治療で、「見張りリンパ節」と呼ばれる一部のリンパ節を調べて転移の有無を判定する新しい診断法が、国立がんセンター、熊本大など16施設の共同研究で開発された。 精度が高く、不必要な手術を避けることができそうだ。 がん細胞は体内のリンパ液内に流れ出し、がん病巣近くのリンパ節に転移することが多い。この1番初めに転移する部分を「見張りリンパ節」と呼ぶ。メラノーマのリンパ節検査は従来、リンパ節を大きく切除して診断していたが、患者は術後に手や足のむくみ浮腫(ふしゅ)に悩む場合が多かった。 たとえば足の付け根には10―15個のリンパ節がある。新たな診断法で、1―3個程度の見張りリンパ節の検査で転移がないことが確認できれば、これまでのように大きく切る必要がなくなる。 研究チームは312人を対象に、検出剤を注射して特殊カメラで撮影するなどの手法で見張りリンパ節の検出を試み、81―83%の患者の見張りリンパ節発見に成功した。見張りリンパ節に転移がないにもかかわらず、他のリンパ節に転移があったのは、3人(1%)だけだった。(平成15年6月3日 読売新聞)

末期大腸がん患者を大幅延命

がんの増殖に必要な新しい血管の発生を抑える新薬で、末期大腸がんの大幅な延命を図ることに、米企業が成功し、1日、シカゴで開かれた米がん治療学会で発表した。この薬は、バイオ企業「ジェネンテック」社が開発したアバスチン。 新しい血管を作る体内物質の働きを抑える。がん細胞は、自分専用の新たな血管を作って、増殖に必要な酸素や養分を引き込んでおり、新薬によって兵糧攻めとなる。米デューク大などが行った臨床試験には、再発、転移した大腸がんの末期患者925人が参加。 このうち約半数は標準の抗がん剤治療法を受け、平均生存期間が16か月だったが、新薬も併用した残り半数の患者は20か月に延びた。 高血圧などの副作用が出るが、通常の抗がん剤に比べると極めて軽いという。 同社は近くこの新薬を米食品医薬品局(FDA)に承認申請する予定で、認められれば、血管新生を抑える抗がん剤では初の実用化。 試験を担当した医師は「他のがんにも応用できる可能性があり、がん治療の新たな領域を開く薬だ」と期待している。(平成15年6月2日 読売新聞)

ES細胞、がん化遺伝子を特定

奈良県生駒市の国立奈良先端科学技術大学院大学の山中伸弥助教授(分子生物学らの研究グループがマウス実験で、あらゆる組織に育つ能力をもつ胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を移植した際に、がん化してしまう遺伝子を世界で初めて特定した。 染色体に異常のないES細胞ががん化するメカニズムはほとんど分かっておらず、この解明で、ES細胞をヒトに応用する可能性がさらに開けたとしている。 29日発行の英科学誌「ネイチャー」で発表する。 山中助教授らはマウスのES細胞内で働いている九つの遺伝子を新たに発見。 このうち一つの遺伝子をマウスの皮膚細胞に移植したところ、細胞はがん化し、腫瘍(しゅよう)が出来た。 しかしこの遺伝子を除去したES細胞を移植したところ、マウスの腫瘍は10分の1以下の大きさに抑えられ、あらゆる細胞へ分化する「万能性」への影響もなかった。 臨床応用への妨げを遺伝子除去でクリアできることになり、山中助教授は「臨床応用に向けて、ES細胞の大事なデータがそろった」と話している。(平成15年5月29日毎日新聞)

大腸がん予防、やはり食物繊維

食物繊維を多く取る人ほど、大腸がんになりにくいことが世界保健機関(WHO)の下部組織「国際がん研究機関」の調査で改めて裏付けられた。 研究チームは1992―98年に、英独仏など欧州8か国の約52万人(25―70歳)の協力を得て、最長で10年間にわたり健康状態を追跡調査した。この期間中、1065人が大腸がんになった。 食物繊維の摂取量によって5グループに分け、その発生率を比べたところ、最も多いグループ(1日当たりの平均摂取量が31・9グラム)は、最も少ないグループ(同12・6グラム)より25%も率が低かった。ほかの3グループも、6―24%低かった。食物繊維「10グラム」は、ゴボウなら100グラム、キャベツなら500グラムを食べれば摂取できる量。 食物繊維は主に植物性食品に含まれる。酵素では消化されず、腸の掃除役となるため、多く取れば大腸がんを予防すると考えられていた。 だが一方で、「食物繊維は大腸がんのなりやすさに関係ない」という疫学報告が欧米で最近相次ぎ、食物繊維の効果を巡る論議が高まっていた。この成果は英医学誌「ランセット」に発表された。(平成15年5月27日読売新聞)

凍結療法、肺がんでも有効 切らずに治療

肺に転移したがんを特殊な装置で凍らせて殺す凍結療法の効果を、慶応大の川村雅文講師(呼吸器外科)らのグループが確認した。 局所麻酔だけで繰り返し治療できるのが特徴。 8日から東京で開かれる日本呼吸器外科学会で発表する。 昨年秋から臨床試験を続けており、これまでに大腸がんなどが肺に転移した13人に実施したところ、11人でがんが消え、2人で縮小。 目立った合併症は起きていない。 肺がんの手術は、開胸手術のほか、体に何カ所か直径1センチほどの穴を開けて内視鏡でがんを切り取る胸腔鏡(きょうくうきょう)手術が一般的。 慶応病院の場合、開胸手術だと手術後7〜10日、胸腔鏡手術でも4〜6日の入院が必要だ。 凍結療法は、局所麻酔をして胸や背中の皮膚から直径4ミリの針を病変部に刺す。 その針先をアルゴンガスで零下約140度まで急冷して針先周辺の直径2〜3センチの細胞を凍らせ、がん細胞を殺す。 患者への負担は胸腔鏡手術より少なく、13人目の患者は手術後2日で退院できたという。 凍結療法は、肝がんや前立腺がんで試みられている。 肺がんは、肺に針を刺すため、呼吸障害が起こりやすいと考えられ、行われていなかった。 川村さんらは動物実験を経て臨床試験を始めた。 川村さんは「現時点では転移した肺がんが対象で、延命効果が主な目的。 将来は早期肺がんの治療にも使えるようにしたい」としている。(平成15年5月5日朝日新聞)

国際医療センター研など、がん温熱療法――効率よく電磁波で死滅

国立国際医療センター研究所や早稲田大学などの研究グループは、がん細胞を効率よく死滅させられる新しいがん温熱療法の基礎技術を開発した。 電磁波でがん細胞を熱する仕組み。がん細胞に熱がうまく伝わる超微粒子を利用した。 化学療法に頼ることの多い白血病をはじめ、様々ながんに応用できそうだ。 今後は民間企業をグループに加え、早期の実用化を目指す。 研究グループは同センター研究所のほか、早稲田大学理工学部の内山明彦教授ら、電力中央研究所で構成している。(平成15年4月18日 日経産業新聞)

2020年のがん患者数、1・5倍増?

2020年に発生する世界のがん患者の数は、現在の1・5倍にあたる1500万人になる恐れがある――。世界保健機関(WHO)は、このほどまとめた「世界がん報告」の中で、こんな予測を発表した。 急増する主な原因としてWHOは、先進国を中心に進んでいる高齢化の影響、喫煙者の増加などを挙げている。その一方で、たばこをやめ、果物や野菜を多く取るような食生活に変え、適度な運動をする習慣をつけることができれば、2020年時点での、がん患者を500万人減らす予防効果があるとしている。 WHOの統計によると、2000年の世界のがん患者は約1000万人(男約530万人、女約470万人)。このうち620万人が死亡し、死因の約12%を占めた。 部位別では、肺がんが約120万人で最多だった。WHOは、非喫煙者に比べて喫煙者が肺がんになる危険性は20―30倍も高く、「喫煙ががんの最大の原因だ」と指摘している。(平成15年4月15日 読売新聞)

肺がん治療薬イレッサ、効くかどうかを遺伝子で予測

肺がんの治療薬イレッサが効くかどうかを、使う前に遺伝子の働きぶりの違いで見分ける手法を東京大医科学研究所などのチームが開発した。まだ基礎研究の段階だが、今後、臨床試験を重ねて、効果を予測する方法として確立を目指す。副作用とみられる肺炎などで死亡する患者が相次いでいるが、効果が見込める患者だけに使えるようになれば、無用な副作用を回避できる可能性がある。 医科研、近畿大、徳島大などの関係者が1日に会合を開き、臨床試験の方法などを検討した。 イレッサが効くのは患者の約3割とされる。しかし、実際に使ってみないと効果は分からず、患者の過半数は、効果が期待できないのに副作用の危険にさらされる形になっている。 医科研の中村祐輔教授らは、近畿大、徳島大の協力を得てがん細胞を遺伝子レベルで分析。イレッサが効き、がんが半分以下になった患者7人と、効かずに25%以上増加した患者10人で、働きぶりが大きく異なる遺伝子を数十種類突きとめた。 例えばイレッサが効いたグループでは、がん細胞の増殖に関係する遺伝子が働かなくなっていた。一方、効かなかった10人のうち7人で、この遺伝子が活性化していた。細胞の自然死(アポトーシス)を邪魔する遺伝子にも同じ傾向があった。 こうした遺伝子数十種類のうち、働きぶりの差がとりわけ顕著な12種類を選定。統計的な解析で、効果が予測できると結論づけた。 今後、50〜100人の患者を対象に遺伝子の特徴を調べて、イレッサを使った経過との照合などを進め、効果予測法を確立させたい考えだ。 厚生労働省によると、2月末現在、イレッサの副作用とみられる報告は523例で、うち死亡は177例。(平成15年4月1日 朝日新聞)

がん判定、尿から10分…簡易診断法を開発

大腸がんや前立腺がんの簡易診断法を日本製粉、産業技術総合研究所などの研究チームが開発した。 がん細胞だけが作る物質を尿や便から検出する方法で、11日、この成果を発表したこのチームは、「従来の方法より確実で短時間でがんを発見できる」とし、来年末の実用化を目指す。 早期がんの発見には、大腸がんなら便の中に混ざる血液を調べる検査、前立腺がんでは血液中の特異物質を調べる方法が一般的。これらの方法は、がん以外の炎症などにも反応してしまい、がんでない人は結果的に内視鏡検査など体に負担のある余分な検査を受ける羽目になる。 研究チームは、大腸がんの研究中に、「ブラディオン」という特殊なたんぱく質を発見。手術や検査で取った組織を詳しく調べた結果、これが正常な細胞にはなく、大腸、前立腺、ぼうこう、腎臓のがん細胞だけにあることを突き止めた。このため従来の検査の弱点を克服して、確実にがんだけを検出できると判断、検査キット開発に乗り出した。 市販の妊娠検査薬と同様に、前立腺がんであれば尿を、大腸がんであれば便を小さな検査紙につけて10分で判定がつくという。 研究チームでは、今月から東京女子医大で前立腺がんを手始めに1か月に100人程度の臨床試験を行い、効果を実証する。がんの確定診断のために切除した小さな組織や、がん手術で切除したリンパ節への転移の有無の確認などには、ブラディオンの遺伝子を検出する手法もあるという。 永田浩一・愛知県がんセンター室長は「多くの受診者に試してどれほどの精度なのか確かめてからでないと評価は難しい」と、今後の試験に注目している。(平成15年3月11日 読売新聞)

英でサリドマイドを肺がん治療薬として臨床試験へ

胎児の奇形を引き起こす副作用が問題となって姿を消したものの、近年になって多発性骨髄腫への治療効果が注目されている薬のサリドマイドを、肺がんの治療薬として使う臨床試験が来月、英国で始まる。ロイター通信が報じた。 それによると臨床試験はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの医師たちが患者約400人に対し行う。英国のがん研究団体が27日に明らかにしたという。 試験では、サリドマイドの作用として推測されている<1>がん組織が栄養を補給するために新たな血管を伸ばすのを防ぐ<2>がん細胞を攻撃する免疫系を刺激する効果<3>がん組織以外の血管を安定させる効果――などに着目。既存の抗がん剤と併用することで、患者の生存率がどのぐらい高まるかを調べる。 これまでに行った小規模な実験では、サリドマイドを使った場合、患者の1年間の生存率は40%と、使わない場合の21%を大きく上回っており、効果が期待できるという。(平成15年1月29日 読売新聞)

がん転移を予測するDNAチップ

バイオベンチャーのリンク・ジェノミクスは山口大学などと共同で、がんの悪性度や転移の危険性を予測するDNA(デオキシリボ核酸)チップを開発した。来年初めにも病院やがんセンター向けに販売を始める。 がん細胞に含まれる特定のDNAが、その病状に応じて増減することに着目。100―130のDNAの異常の有無を調べ、その内容を分析し、進行度や数年後の生存率などを予測する。 これまで、がんの状態の判断は医師の経験に頼る部分が大きかった。がんの状態を客観的に予測することで、患者に合わせた治療がしやすくなるという。(平成14年12月18日 日本経済新聞)

米発がん物質リスト、女性ホルモンなど16種類を追加

米厚生省は11日、発がん物質に関する2年に1度の報告書を発表した。更年期障害の治療や避妊用ピルに使われている女性ホルモン(エストロゲン)など16種類が、新たに発がん物質リストに加えられた。 エストロゲンについて報告書は「更年期障害でホルモン補充療法を受けると、子宮内膜がんや乳がんのリスクが高まるとの疫学データがあった」と指摘。紫外線は、皮膚がんや目のがんにつながるとして登録。太陽光のほか、日焼けサロンなどの人工紫外線も例外ではないとしている。 木工作業で出る木くずも、鼻腔(びくう)や副鼻腔のがんとの関連でリスト入り。産業界で広く使われるニッケル化合物や「ベリリウムとその化合物」は、肺がんなどのリスクを高めるという。 同報告書は、科学的証拠の強さをもとに2段階に分けて登録している。以上の5物質はいずれも、より根拠の強い項目と判定された。(平成14年12月12日 朝日新聞)

日1回経口投与モルヒネ製剤を開発

英アマリン社の子会社アマリン・ディベロップメント(スウェーデン)は、同社が開発し特許を所有するDCV(Diffusion Controlled Vesicle/徐放性製剤技術・マルチポア技術)を田辺製薬に導出し、「硫酸モルヒネ製剤」の1日1回経口投与製剤の開発に成功したことを明らかにした。 同剤は、がん性疼痛に対して長時間の鎮痛効果を発揮し、1日1回経口投与とすることで患者のQOL向上に有益な製剤。同社のケン・ドウーニー国際営業部長は、モルヒネ製剤の使用はWHOも推奨していることや、田辺もこの開発成功を受けてモルヒネ製剤を核の一つに据えるとの方針を示したことから、「日本におけるこの領域での伸び(技術導出拡大等)を期待している」と述べた。なお、同剤は現在、田辺が承認申請中である。(平成14年11月21日 薬事日報)

結核菌攻撃の仕組み応用、腎臓がんの新免疫療法開発

結核菌を攻撃する人体の免疫のしくみを応用して、がんを治療する新しい免疫療法を京都大と東京女子医科大のグループが開発した。昔から「結核患者はがんになりにくい」とされる理由を探った成果だ。腎臓がん患者に対する臨床試験の実施を東京女子医科大の倫理委員会に申請中で、承認されれば来年早々にも臨床試験が始まる。 グループは京大の湊長博教授(細胞免疫学)や田中義正助手(同)、東京女子医科大の東間(とうま)紘教授(泌尿器科)ら。 田中助手らはリンパ球の一種、ガンマデルタT細胞に注目した。この細胞は結核菌が出すピロリン酸モノエステルという化合物を認識する。化合物ががん細胞にくっつくと、ガンマデルタT細胞は化合物を認識し、がん細胞を殺すことを発見した。化合物がなぜがん細胞につくのかは不明だが、大半のがん細胞につく。 東間教授らが腎臓がん患者の細胞を使って、人工ピロリン酸モノエステルを加える実験をしたところ、ガンマデルタT細胞が効率よく増え、がん細胞が死滅しやすくなることが分かった。 臨床試験では、腎臓がん患者の血液からガンマデルタT細胞を分離し、この化合物を加えて約2週間で10万倍以上に増やして患者の体内に戻す。これを週1回ずつ約10回繰り返す予定。 東間教授は「腎臓がんの病状は患者の免疫力に左右されるので免疫療法が向いている。ガンマデルタT細胞はがん細胞以外は攻撃しないので副作用は少ないだろう」と話している。(平成14年11月18日 朝日新聞)

発がん性指摘されるアクリルアミド調査

発がん性が指摘されるアクリルアミドが国内の食品にどれぐらい含まれているのか−−。厚生労働省は31日、初の調査結果を公表した。アクリルアミドは炭水化物を多く含む食品を揚げたり焼いたりすると発生することが分かっているが、ポテトチップスやフライドポテトで含有量が比較的高く、蒸したりゆでたりした食品からは検出されなかった。 国立医薬品食品衛生研究所が75食品137品目を調べた。最も高かったポテトチップスで1キロあたり最高で3544マイクログラムを検出。小麦粉や米を焼くなどした食品はおおむね400マイクログラム以下だった。マッシュポテトやご飯、豆腐などからは検出されなかった。 同種の食品の中で1品目しか調べていない例もあるため、原材料や調理法によっては数値がばらつく可能性もある。日本人の食生活の調査をもとに試算すると、一人あたりの平均摂取量は1日69マイクログラムになるという。 健康にどれだけ影響しているかの評価は定まっていないが、同省は「減らす努力は必要」とし、▽揚げ物などの過度な摂取を控える▽炭水化物の多い食品を焼いたり揚げたりする場合はあまり長時間高温で調理しない、といった対処法を消費者に呼びかける。併せて、発生量を減らす調理法の研究もすすめる。 アクリルアミドは工業原料として知られてきたが、食品に生じることが今年4月に報告され、6月には世界保健機関(WHO)などが緊急の専門家会合を開き各国での研究を勧告した。最近になって、ジャガイモなどに含まれるアスパラギンというアミノ酸とブドウ糖が百数十度以上の高温で反応して生じるとの研究結果が海外で報告されている。(平成14年10月31日 朝日新聞)

肺がん転移防ぐ遺伝子を発見

肺がんがほかの臓器に転移するのを防ぐ遺伝子を京都大などのグループが発見した。この遺伝子がないと細胞同士をくっつける「接着剤」が少なくなり、がん細胞がばらばらになって転移しやすくなるという。がんの進行状況の診断などに役立ちそうだ。14日から京都市で始まる日本生化学会大会で発表する。 このグループは京都大化学研究所の上田国寛教授や信州大学医学部の安達喜文・助教授ら。「LUN」というたんぱく質を作る遺伝子を見つけた。 LUNには細胞同士をくっつける接着分子「Eカドヘリン」が作られる量を増やす働きがある。Eカドヘリンがほとんどない肺がん細胞にLUNを加える実験をしたところ、Eカドヘリンの量は約100倍増えた。Eカドヘリンが作られるのを抑える物質はこれまで見つかっているが、増やす物質はほとんど見つかっていないという。 肺がんの中でも特に転移しやすいタイプの「肺小細胞がん」では、8割以上の患者のがん細胞でLUN遺伝子が含まれる領域が欠損している。この遺伝子がないために、ばらばらに離れたがん細胞がリンパ節やほかの臓器に転移しやすくなると考えられる。 安達助教授は「肺小細胞がん患者の細胞とLUN遺伝子の関係をさらに調べ、まず、がんの有無や進行具合などを調べる方法を開発したい」と話す。(平成14年10月12日 朝日新聞)

肝臓がんの再発を予測 山口大グループが診断法開発

肝臓がんが再発するかどうかを予測する診断法を山口大医学部の岡正朗教授らの研究グループが開発した。手術で切り取ったがん細胞に含まれる遺伝子の働き具合を調べ、1年以内の再発を約9割の確率で予測できるという。肝臓がん患者の生存率向上につながる可能性もある。3日まで東京で開催中の日本癌(がん)学会で発表された。 岡教授らは、肝臓がんで手術をした患者33人で、がん細胞の中の遺伝子約6000種類の働きを調べた。その中で再発に関係が深いとみられる遺伝子を12種類に絞った。 この遺伝子の働き具合を検査することで再発の可能性を予測する。別の27人の患者で調べたところ、25人(93%)で「1年以内に肝臓がんが再発する」か「再発しない」かを予測できたという。 岡教授によると、手術ではごく小さながんまで取りきれないため1年以内の再発率は20〜30%。「再発のリスクが高い人を判別できれば、個人のリスクに応じて頻繁に検査をするなど、再発予防策をとることができる」と話している。(平成14年10月3日 朝日新聞)

「お酒に弱い」遺伝素因、簡単な問診で9割が把握可能に

国立アルコール症センター久里浜病院、国立保健医療科学院などの研究グループは、お酒に弱い体質かどうかを9割近い感度・特異度で把握できる「簡易フラッシング質問紙」法を開発、10月1日のポスターセッションで報告した。現在と、お酒を飲み始めて1〜2年の間の二つの期間で、ビールをコップ1杯飲んで赤くなる(フラッシング)かどうかを尋ねるもの。食道癌との関連が知られる遺伝子変異を精度高く把握できるため、「外来診療や疫学研究の場などで、食道癌の高リスク者同定に役立つのでは」と研究グループはみている。この研究を行ったのは、厚生労働省「食道がん、頭頚部がんのリスクとアルコール代謝酵素の関連に関する研究班」。アルコール(エタノール)の代謝には、アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)が関与しているが、日本人の4割はこの酵素遺伝子が非活性型で、本来は「少しの飲酒でもすぐ顔が赤くなる」体質を持っている。しかし、飲酒習慣があるとALDH2が非活性型でも顔が赤くなりにくくなるため、本人はお酒に強いと思い込んでいるケースも多く、問診では正確な把握が難しい。また、ALDH2の活性を調べる簡便な検査として、アルコールパッチテストがよく行われるが、高齢者では皮膚に赤みが出にくく、精度が低くなるとの問題があった。そこで研究グループは、「現在」と「飲酒開始から1〜2年間」の二つの時期で、少量飲酒により顔が赤くなるかを尋ねる問診法を開発。40〜79歳の男性に質問を行い、どちらかに「はい」と答えた人を「フラッシャー」と判定して、ALDH2の遺伝子解析結果と比較、食道癌への罹患の有無が精度に影響するかについても評価した。解析対象は、食道癌(診断後3年以内の扁平上皮癌)患者が233人、年齢などをマッチさせた対照群が610人。その結果、食道癌に罹患していない人では、この二つの質問により、感度90.1%、特異度95.1%でALDH2遺伝子が不活性型の人を同定できることが判明。「現在赤くなるか」だけを聞いた場合の感度は74.3%、特異度は88.0%であり、「お酒を飲み始めた頃どうだったか」との質問を追加すれば精度を向上できることも明らかになった。一方の食道癌患者では、二つの質問による不活性型遺伝子の同定感度は84.0%、特異度は88.7%。「現在赤くなるか」だけを聞いた場合(感度:56.7%、特異度:82.3%)よりも、過去の情報追加で感度は大幅に向上したが、食道癌の非罹患者よりも感度・特異度がいずれも低いことがわかった。食道癌患者で精度がやや低くなる理由として、結果を発表した国立アルコール症センター久里浜病院消化器科医長の横山顕氏は「食道癌患者には大量飲酒者が多く、その分“慣れ”が進んでいるためではないか」と分析する。実際、今回の解析対象者でみても、週に18合以上飲む「大量飲酒者」は食道癌患者の45.1%を占め、対照群(14.0%)を大幅に上回っている。とはいえ、飲み始めた頃の体質を思い出してもらうことで、食道癌患者でも9割近い精度でALDH2遺伝子のタイプを判定できる「簡易フラッシング質問紙」の意義は大きい。「特に多人数を対象とする疫学研究では、遺伝子解析は予算的にも同意を得る上でも困難なことが多い。そうした場で質問紙を役立ててもらえれば」と横山氏は話している。(平成14年10月3日medwave)

がんが免疫逃れる機構解明

がん細胞の多くは、細胞が共通して持つ特殊な物質を使って身内である正常な細胞を装い、免疫システムの攻撃を巧妙に逃れていることを、京都大医学研究科の湊長博教授(免疫学)と本庶佑教授(分子生物学)らのグループがマウスの実験で確かめた。現在のがんの免疫療法は、免疫の作用を強めてがん細胞の増殖を抑制する考え方が主流だが、この研究により、“偽装”の働きを止めることで通常の免疫システムにがん細胞を攻撃、破壊させる新しい治療法の開発が期待できそうだ。成果は米科学アカデミー紀要に発表した。この物質は、正常な細胞ががん化した後も細胞膜に持ち続ける「PDL1」というタンパク質の一種。湊教授らは、PDL1を持つがん細胞をマウスに移植した上で、10匹ずつ2群に分け、1群ではPDL1に特殊な抗体で“ふた”をした。すると、何もしなかった群は30〜40日で10匹すべてが死んだのに対し、ふたをした群では4匹が完治した。異物を認識する見張り役のリンパ球は、がん細胞表面のPDL1を見つけると身内と認識し、免疫システムに攻撃をしないよう指令を出す。リンパ球からこの見張りの機能を奪うと、がんを移植したマウスはすべて生き残り、指令が伝わっていないことも確かめられたという。湊教授は「抗体の(ふたをする)効率を高めることが今後の課題。PDL1を持つがん細胞なら、どの部位のがんでも応用できるはずだ」と話している。(平成14年9月30日 産経新聞)

リンゴ成分にがん細胞死なせる効果

リンゴに含まれるポリフェノールの主要成分「プロシアニジン」に、がん細胞を死なせる効果がある、という研究成果を、リンゴの主産地・青森県弘前市の弘前大医学部保健学科の研究チームがまとめた。来月3日の日本癌(がん)学会総会で発表する。将来的にはリンゴから抗がん剤を作ることも可能とみて研究を進めている。 研究チームは2年前、リンゴのポリフェノールの抗がん効果に関する研究を始めた。途中からアサヒビールの未来技術研究所と協力。ポリフェノールを構成する成分のうち、どれが抗がん効果を持つのかを特定する作業を続けてきた。 リンゴから抽出したポリフェノールを精製して主要成分のプロシアニジンだけ取り出し、試験管の中のマウスの乳がん細胞に投与して反応を調べた。その結果、一定濃度以上のプロシアニジンを投与すると、がん細胞の自殺現象(アポトーシス)を誘発することがわかったという。 例えば1ミリリットルの培養液中に25マイクログラムという濃度でプロシアニジンを投与すると、24時間後には試験管のがん細胞は、ほぼ消滅した。正常な細胞の自殺現象は誘発しないことから、今後、臨床実験を経れば、「リンゴから天然の抗がん剤を作ることも可能」と研究チームの三浦富智講師は話している。(平成14年9月30日 朝日新聞)

肺の奥のがんも喫煙で増加 

肺の奥にできるがんで、喫煙との関連が比較的少ないとされてきた「腺がん」でも、喫煙者は非喫煙者に比べ男性で2・8倍、女性でも2倍もなりやすいことが、厚生労働省研究班の大規模追跡調査で分かった。肺がんに腺がんの占める割合は近年、世界的に増える傾向にあるが、アジアの状況を追跡調査で明らかにしたのは初めて。研究班は「普及している軽い低ニコチンたばこを吸う人は、ニコチン摂取量を増やそうと無意識に深く吸い込む傾向があり、原因のひとつではないか」としている。10月1日から東京で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。研究班は、全国11地域の40−60代の男女計約9万人を、7−8年間追跡。肺がんになった約420人について、最初の時点に調査した喫煙状況との関連を調べた。がんの種類別で喫煙者が発症する危険性が高いのは、太い気管支にできて喫煙と関連が深い「扁平(へんぺい)上皮がん」と「小細胞がん」で、合わせると喫煙者は非喫煙者より男性で12・7倍、女性で17・5倍もなりやすかった。肺がん全体では男性で4・5倍、女性で4・2倍。肺がん患者の男性の7割、女性の2割は、たばこを吸わなければ発病しなかったことになるという。日本人が喫煙で肺がんになる危険性は欧米に比べ低いが、非喫煙者の肺がんの傾向は逆に高く、相対的に喫煙者の危険性が下がった可能性もある。研究班は今後、受動喫煙や遺伝的要因などとの関係を検討するとしている。研究班の祖父江友孝・国立がんセンター研究所部長は「肺がんへの喫煙の影響は圧倒的だ。禁煙すれば何歳であっても、吸い続けた場合より肺がんの危険性は下がる」と話している。(平成14年9月21日 産経新聞)

食道がん治療効果、遺伝子診断で判定

食道がんの患者に対し、放射線照射と抗がん剤の併用治療が効くかどうか遺伝子診断で事前に判定する方法を、国立がんセンターの研究チームが開発した。 効果の有無が90%近い確率で予測できるといい、来春から患者数百人を対象に大規模な臨床試験に入る。来月1日から東京都内で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。 研究チームは、食道がん患者のうち、放射線と抗がん剤を併用して再発せずに3年以上生存した14人と、治療効果がなく1年以内に死亡した11人のがん細胞について、遺伝子の働きの違いを分析。その結果、放射線や抗がん剤の効きやすさに関連する遺伝子178個を見つけだした。 さらに、この遺伝子の働き具合を、別の食道がん患者で順次調べていったところ、放射線と抗がん剤の併用治療が効く患者と、まったく効かない患者とをほぼ9割の高率で事前に区別することができた。(平成14年9月14日 読売新聞)

がん細胞をウイルスで破壊

正常な細胞には影響を与えずがん細胞だけを破壊するウイルスをつくり出す実験に、岡山大医歯学総合研究科の藤原俊義助手=腫瘍(しゅよう)制御学=のグループが5日までに成功した。培養細胞での基礎的な成果だが、生きた体の中で同様の働きが確かめられれば、進行がん患者の遺伝子治療への応用が期待できる。10月1日から東京で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。藤原助手らは、遺伝子治療で遺伝子を細胞に取り込ませるのに使うアデノウイルスを利用。増殖機能にかかわる遺伝子をウイルスに組み込み、がん細胞に感染したときだけ増殖の“スイッチ”が入るようにウイルスを改良した。このウイルスをヒトの培養がん細胞に感染させると、3日で10万〜100万倍に増殖し、約1週間で細胞が死滅。正常細胞では100倍までしか増えなかったという。藤原助手は「がん細胞と正常細胞が混在する生体内でウイルスがどう働くか、今後、動物実験で効果を確認したい」と話している。(平成14年9月5日 産経新聞)

大腸がんの仕組み一端解明

大腸がんでは特定の酵素が増殖し、細胞を“不死化”させていることを、宮城県立がんセンターの研究チームが突き止め、30日付の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。同センター研究所の宮城妙子・生化学部長は「遺伝子治療や抗体で、この酵素の合成や働きを抑えられれば、新しいがんの治療法や診断方法を開発できる可能性がある」と話している。 無限に増殖するがん細胞では、生体機能に重要な役割を持つ、細胞表面の「糖鎖」が変形している。研究チームは「形質膜型シアリダーゼ」という、糖鎖を分解する酵素がこの変形に関与しているとみて、この酵素をつくる遺伝子の構造を解析した。 大腸がん患者50人の承諾を得て、解明した遺伝子情報を基に、手術で摘出したがん組織と正常な組織を比較した。その結果、どの患者でもがん組織で、この酵素が3―100倍も発現していることが分かった.。(平成14年7月30日 日本経済新聞)

乳がん細胞を増殖させる物質発見

乳がん細胞の増殖を引き起こすたんぱく質を、東京大学と埼玉医科大学の共同研究グループが発見した。20日付の英科学誌ネイチャーに発表する。従来のホルモン療法が効かなくなった進行乳がんに効く薬剤の開発に役立ちそうだ。乳がん細胞は女性ホルモンのエストロゲンが何らかの形で作用して増殖することが知られている。研究グループは、この増殖に「エストロゲン応答性フィンガーたんぱく質(Efp)」がかかわっていることをマウス実験で突き止めた。マウスにヒトの乳がん細胞を植え付けたところ、Efpが働かないようにしたマウスは、がん細胞が増殖しなかった。また、エストロゲンをださなくしたマウスに、Efpを大量に含む乳がん細胞を移植すると、がん細胞が増殖することを確かめた。乳がん治療には、これまでエストロゲンの働きを抑える薬(タモキシフェン)が使われている。しかし、長期間使用すると効かなくなっていた。研究グループの井上聡・東大医学部講師(加齢医学)は「Efpの働きを抑制する薬が開発されれば、従来のホルモン療法が効かない乳がん患者への新しい治療となる」と話している。(平成14年6月20日 朝日新聞)

乳がんの発症を抑制?調節遺伝子を発見

乳がんの発症抑制にかかわる新たな遺伝子を、滋賀医科大の岡部英俊教授らの研究チームが突き止めた。乳がん患者の2割で、この遺伝子の異常が見つかった。これが正常に働けば、細胞の無秩序な増殖が抑えられると見られ、この働きを支えることができれば、新たながん治療につながると期待される。17日付の米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に発表される。 がんの発症を抑える遺伝子として、これまでに「RB1」という遺伝子が発見されており、この遺伝子の働きにかかわる異常は、がんの約8割で見つかっていた。しかし、乳がん患者の場合、RB1の異常は4割以下にとどまり、RB1そのものではなく、その働きを調節する仕組みに異常があると考えられてきた。 研究チームは、「RB1CC1」という遺伝子が、RB1の機能のスイッチ役を果たしていることを発見。35人の患者でこの遺伝子を調べたところ、7人の患者で異常が見つかった。 岡部教授は「様々な原因で発症するがんで、2割の患者に異常が見つかったことは意義深い。今後、さらに詳しい仕組みを調べていきたい」と話している。(平成14年6月17日 読売新聞)

肺がんの新薬をスピード承認

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会は12日、新世代の肺がん治療薬ゲフィチニブ(商品名イレッサ)の輸入を承認した。ゲフィチニブは、既存の抗がん剤が効かないタイプの肺がん(非小細胞がん)を縮小させる効果があり、通常1年以上かかる手続きが約5か月に短縮された。承認にあたり、使用は手術不能例と、がん再発例に限定する条件が付いた。薬価の決定などを経て、秋ごろ使用開始の見込み。ゲフィチニブは、がん細胞の特定の部分に的を絞って働く「分子標的薬」の一種。正常細胞も区別せずに攻撃する既存の抗がん剤と違い、重い副作用がほとんど見られない。日本と欧州で行われた治験では5割の患者に効果があった。国内では肺がんで年間5万人以上が亡くなっており、諸外国に先駆けての承認となった。 (平成14年6月12日 読売新聞)

がん死が昨年度は30万人を突破

平成13年のがんによる死亡者数は30万人を突破し過去最高となったことが、厚生労働省のまとめで分かった。3人に1人は、がんにより死亡したことになる。死亡率でみると、死因で上位にくる疾患が横ばい傾向にある中で、高齢化の影響もあって、がんだけが突出した増加を示している。これは厚生労働省統計情報部がまとめた平成13年「人口動態統計月報年計」の概数によるもの。これによると、死亡者数は前年より8660人増え、97万0313人だった。死亡者の3大死因は例年通り、がん、心疾患、脳血管疾患の順。その中で、前年より5102人増の30万0568人に達した。部位別で最も多いのは、男性で肺がん(3万2262人)、女性で胃がん(1万7687人)というのはこれまで通り。ただ、女性で胃がんは減少傾向にあるのに対し、それに次ぐ大腸がん(1万6679人)が増加傾向にあり、平成14年にも大腸がんが死因別のトップにきそうな情勢にある。3大死因のうち、がんに次ぐ心疾患は1445人増の14万8816人、脳血管疾患は712人減の13万1812人だった。そのほか、これまで3万人台にあった自殺者は3万人を切り918人減の2万9333人になった。男性では50歳代、女性では60歳代の減少が目立っている。(平成14年6月10日 薬事日報)

アスピリンが大腸・肺がんのリスクを減少

バイエル社(ドイツ)はこのほど、アスピリンが大腸がん、肺がんのリスクを減少させるという2つの研究報告を紹介した。大腸がんの研究は、米国ニューハンプシャー州ダートマス医科大学で、ジョン・A・バロン氏が実施したもの。外科的切除を受けた1121人の患者を対象に、プロスペクティブな手法で行われた。大腸がんのリスクを40%減少させる可能性があり、大腸ポリープの再発リスクも19%減少させるとしている。肺がんに関しては、米国マサチューセッツ大学ロズウェル・パークがん研究所で実施されたもので、肺がんと診断された患者868人と、肺がんと診断されなかった患者935人を対象としたレトロスペクティブ試験。その結果、1年間以上、週に1回以上服用したグループは、服用しなかったグループに比べ、発病リスクが43%減少したという。(平成14年6月10日 薬事日報)

リンゴの生ジュースにがん抑制効果

「リンゴの生ジュースには、がんを抑える効果がある」。日本一のリンゴ産地、青森県・津軽地方にある弘前大の城田安幸助教授が23日、こんな研究成果を明らかにした。今秋の日本癌学会総会で発表する。「風邪には、すり下ろしたリンゴ」という生活の知恵が、がんにも応用できればと、リンゴの消費減退に悩む地元は期待している。研究は城田助教授が7年前から続けてきた。マウスを10匹ずつ5群に分け、(1)滅菌した水(2)2%リンゴ生ジュース(3)サナギタケ(冬虫夏草の一種)の煎(せん)じ液(4)リンゴ生ジュースとサナギタケ煎じ液(5)ホヤ抽出エキス−−と群ごとに違う飲み物を与え、45日後にがん細胞(マウスの繊維肉腫)を植え付けて経過を観察した。2%生ジュースの群は、がん細胞が小さくなったり消えたりして8匹が治り、残る2匹も23日現在で73日間生きている。水の群は7匹、その他の群は4〜5匹が死亡し、平均寿命は50〜40日だった。治った各群のマウスからマクロファージ(免疫細胞)を取り出し、がん細胞の代わりに乾燥酵母を与え、細胞が酵母をどれだけ食べるかを確かめた。生ジュース群は水群の約2倍の量の酵母を食べる能力があったという。リンゴから抽出したポリフェノールやペクチンの抗がん効果に関する報告はあるが、生ジュースは初めて。城田助教授は「マウスに与えた量は人間なら一日コップ1杯程度。副作用のある抗がん剤ではなく、取りやすい食品であることに意味がある。」と話している。(平成14年5月23日 朝日新聞)

乳がん 負担少ない放射線治療、外科手術と同じ効果

早期乳がん治療で一般的なわきの下のリンパ節をとる外科手術と、とらずに放射線をあてる体の負担が少ない治療を比べた場合、再発率や生存率にはほとんど差がない――大船中央病院(神奈川県鎌倉市)と慶応大学の共同研究でわかった。20日、オーランドで開かれた米国がん治療学会で発表した。研究グループは87年から、病巣の大きさが5センチ以下でわきの下のリンパ節にしこりがない早期の乳がん患者は、リンパ節をとるのをやめ、5週間放射線をあてることにした。87年以前にリンパ節をとった78人と、同年以後にとらなかった1400人を比べた。その結果、わきの下のリンパ節への再発率と5年生存率に有意な差はみられなかった。リンパ節をとる手術は、再発を防ぐために国内のほとんどの病院で行われている。しかし、リンパ節をとった2割程度の人に腕のむくみが生じる。大船中央病院の雨宮厚外科部長は「むくみは治らないことが多く、むくんだ手先が人目に触れて悩んでいる人は少なくない。今後はリンパ節をとらない治療法が広まっていくだろう」という。(平成14年5月22日 朝日新聞)

ビタミンDに直腸がん予防効果

魚肉や卵黄、キノコ類などに多く含まれるビタミンDに、直腸がんを予防する働きがあるらしいことが分かった。米テキサス大グループが米科学誌サイエンス17日号に発表した。グループは、小腸などの細胞にあるビタミンD受容体がリトコール酸という発がん物質と結びつくことを実験で確かめた。この結合によって、リトコール酸の分解酵素が小腸で増産されることもわかった。リトコール酸は食物中の脂肪からできる。脂肪の多い食生活を続けると、リトコール酸の分解が追いつかず、直腸がんの危険が増すとみられる。グループの一員で現在、大阪大学の槙島誠・助教授は「ビタミンDはとりすぎると副作用がある。ビタミンD受容体を活性化させる物質でがんを抑制できる可能性がある」という。(平成14年5月17日 朝日新聞)

サンゴから抗がん物質、抗がん剤の170倍の強さ

沖縄近海のサンゴから強力な抗がん作用を持つ新物質を、広島大歯学部の岡本哲治教授と名古屋大大学院生命農学研究科の小鹿一教授らの研究グループが発見した。既存の抗がん剤に比べ、抗がん作用は同濃度で最大170倍も強いとしている。16日から都内で開かれる日本組織培養学会で発表する。 同グループは、軟サンゴ類のシヌラリアから抗がん物質5種類を抽出。このうち3種類は未発見の物質で、いずれも脂肪の分解でできる物質に似ており、「アシルスペルミジン」と名付けた。がん細胞の細胞滅(アポトーシス)を引き起こす効果があるという。 新物質の抗がん効果を人間の口中の粘膜にできる上皮がん細胞と、だ液腺がん細胞で調べたところ、1ミリ・リットル当たり17ナノ・グラム(1ナノは10億分の1)という低濃度でがん細胞の増殖を半分に抑え、濃度を同40ナノ・グラムに上げると、がん細胞はすべて死滅した。これは既存の抗がん剤に比べ最大170倍の効果。今後、マウスを使った動物実験で効果を確認することにしている。 南方の海域ではよくみられる軟サンゴは、テーブルサンゴなど固い外骨格を持つ造礁サンゴと違い、軟らかい肉質の群体を作るのが特徴。新物質は軟サンゴ1キロ・グラム当たり約0・6グラムしか取れないが、岡本教授は人工合成にも挑戦する計画。(平成14年5月15日 読売新聞 )

細胞のがん化防ぐ仕組み解明

人間の体の細胞が無秩序に増殖せず、がんにならずにいる仕組みを、米ハーバード大医学部の中谷喜洋教授らの研究チームが初めて解明した。新しいがん治療の開発に役立つと期待されている。10日発行の米科学誌サイエンスに発表する。成人の体の細胞のほとんどは、増殖しない「静止期(G0期)」にとどまっており、死んだ細胞の補充の際などに増殖する。何らかの理由でG0期にじっとしていられず、無秩序に増殖し「暴走」状態に入ると、がんになる。中谷教授らは、これまで細胞内での役割がよく分かっていなかった、たんぱく質「E2F6」に着目し、細胞から取り出して働きを調べた。その結果、他の数種類のたんぱく質と一緒に巨大なたんぱく質複合体を作り、DNAと2カ所で結合して、細胞増殖にかかわる遺伝子を「封印」するロック役を果たしていることが分かった。この封印の仕組みはG0期の正常な細胞だけに見られ、がん細胞では働いていなかった。中谷教授は「がん細胞でどうして封印機構が働かないかを調べれば、がん研究に貢献できるだろう」としている。細胞がG0期にとどまる仕組みは、これまでほとんど分かっていなかった。国立がんセンター研究所の田矢洋一・放射線研究部長の話 細胞増殖機構の重要なポイントを明らかにした画期的な発見だ。これを手がかりに研究が進めば、新たながん治療法開発の可能性がある。(平成14年5月10日 朝日新聞)

FDAが乳癌腫瘍摘除後の放射線近接照射療法に用いる機器を承認

米国食品医薬品局(FDA)は5月6日、乳癌腫瘍摘除(ランペクトミー)後の放射線近接照射療法に用いる機器、MammoSite Radiation Therapy Systemを承認した。FDAによると、同機器が、他の近接照射療法に用いられる機器に比べ、安全性や効果の点で同等であるという判断から承認をしたという。だが、従来の乳房全体に外から放射線を照射する方法と比べ、その効果や安全性は不明であり、同治療法を代替するものではないとしている。近接照射法とは、乳房を摘出した部分に放射線源を埋め込み、内側から放射線を投与するもの。従来の放射線療法に比べ、治療期間が大幅に短縮できるという。MammoSiteの発売元は、米Proxima Therapeutics社(ジョージア州Alpharetta)。(平成14年5月9日 medwave)

妊娠中の体重大幅増に注意 乳がんの危険、40%増す

標準体重の女性が妊娠中に17キロ以上体重が増えると、閉経後に乳がんになるリスクが40%も高くなることが分かった。米ジョージタウン大などのグループが、約2万7000人の乳がん患者が含まれるフィンランドのがん登録制度を使って妊娠時の記録を調べ、その結果を9日、米がん研究学会で発表した。妊娠前の体重が標準なら、11〜16キロの増加が正常範囲とされるが、先進国では約3割の妊婦が太り過ぎている。妊娠時の体重の増え過ぎは、乳がんの危険要因である女性ホルモン(エストロゲン)の増加を招くという。 同グループは「乳房の組織が変化して、がん化しやすくなるようだ。リスクの増加は、閉経後の肥満に匹敵する」としている。出産後も体重の戻り方が悪かった女性ほど、乳がん発症のリスクは高かった。(平成14年4月11日 朝日新聞)

胃がん患者の6割、細胞増殖抑制遺伝子に異常

がん患者の約6割は細胞の増殖を抑えるブレーキ役の遺伝子に異常があることを、京都大学ウイルス研究所の伊藤嘉明前教授らが突き止めた。体の細胞は一定の速度で増殖しているが、ブレーキが利かなくなると異常増殖して、がん化するという。新薬の開発につながる成果で、5日発行の米科学誌セルに発表した。日本では胃がんは肺がんに次いで多いが、有力な原因遺伝子が見つかったのは初めて。 初期から末期までの胃がん患者計46人から採取した細胞を調べた。患者の約6割で消化酵素の分泌を促す「RUNX3」と呼ぶ遺伝子の活動が停止していた。末期に近いほど、その割合は高かった。遺伝子の周りに余分な分子が結合し、働けない状態になっていた。余分な分子を取り除けば、遺伝子が活動を再開して、ブレーキの機能を取り戻す可能性が高い。既にこの分子を除去する物質は見つかっているという。(平成14年4月5日 日本経済新聞)

男性の悪性新生物の年齢調整死亡率が25年ぶりに減少

厚生労働省は3月27日、「2000年都道府県別年齢調整死亡率の概況」を公表した。三大死因別に年齢調整死亡率をみると、男性の悪性新生物は25年ぶりに減少し、心疾患や脳血管疾患については、男女とも減少する傾向に変化はないことがわかった。年齢調整死亡率とは年齢構成を補正した死亡率で、同省が5年ごとに算出しているもの。人口10万人に占める死亡者数の割合を単純に示す粗死亡率と異なり、年齢構成の相違を気にせず地域比較や年次比較を行える。悪性新生物の年齢調整死亡率は、男性が214.0(対前回1995年比12.1減)で25年ぶりに減少に転じた。同じく女性は103.5(同4.8減)で、前回の1995年を除けば一貫して減少する傾向にある。地域別にみると、男性は中部で低く、九州北部や近畿、東北で高くなっている。女性は中部や九州南部で低く、九州北部や近畿、関東で高い傾向がある。心疾患については、男性が85.8(同13.9減)で20年間、女性が48.5(同9.9減)で30年間、それぞれ下がり続けている。地域別にみると、男女とも日本海側で低く、近畿や関東で高い傾向にある。脳血管疾患については、男性が74.2(同25.1減)、女性が45.7(同18.3減)でともに35年間低下している。地域別にみると、男女とも都道府県による差は小さいが、西日本に低いところが多く、関東北部や東北に高いところが多くなっている。また、人口10万人当たりの年齢調整死亡率は男性が634.2(同85.4減)、女性が323.9(同60.8減)で、算出を始めた1960年以降下がり続けている。一方、粗死亡率はこの20年間ほど上昇しているが、これは高齢化が進んでいる影響による。(平成14年4月2日 medwave)

抑制たんぱく質が多すぎると老化早める

米研究者が発表がんを抑制するたんぱく質が生体内に多くありすぎると老化が早まることを、米国の研究グループがマウスを使った実験で明らかにし、3日発行の英科学誌ネイチャーに発表した。がん抑制たんぱく質と老化の関連を明らかにしたのは初めてだという。テキサス州ヒューストンのベイラー医科大のローレンス・ダンハウアー博士らは、代表的ながん抑制遺伝子として知られるp53遺伝子が産生する「p53たんぱく質」が過剰に活性化している変異マウスの系統をつくり、経過を観察した。変異マウスは通常のマウスに比べてがん発生率は低かったが、平均生存期間は96週(約1年10カ月)で、通常のマウスの平均118週(約2年3カ月)に比べて約20%も短命だった。体重や筋肉量が少なく、骨がもろいほか、けがの回復に時間がかかるなどの特徴があった。p53たんぱく質はがん抑制作用がある一方、細胞分裂周期を停止させたり、細胞死を引き起こすことが知られている。研究グループは、変異マウスではp53たんぱく質が過剰に働いた結果、骨や筋肉に分化する元の細胞(幹細胞)の細胞裂が妨げられ、骨や筋肉の生成が阻害されたのではないかとみている。(平成13年1月31日 毎日新聞)