iPSで免疫力強化、皮膚がんマウス大幅に延命 iPS細胞(新型万能細胞)を使って免疫力を高め、皮膚がんのマウスを大幅に延命させることに、理化学研究所が成功した。人に応用できれば、がんの新しい治療法になりそうだ。免疫細胞の一種である「ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)」に着目し、マウスの脾臓からNKT細胞を集めてiPS細胞に変え、体外で培養して約1万倍に増やした後に、そのほとんどをNKT細胞に戻すことに成功した。こうして増やしたNKT細胞を、悪性黒色腫というがんを移植したマウスに注射すると、通常は1か月程度で死ぬマウスが半年後まで生存した。 (平成22年6月2日 読売新聞) ALS、新たな原因遺伝子発見 筋肉が次第に動かなくなる神経の難病、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)の新たな原因遺伝子を広島大、徳島大などの研究チームが発見し、英科学誌「ネイチャー」に発表した。ALSは年間10万人あたり2人程度の患者が報告され、9割は原因がはっきりしない孤発性、残りが遺伝性だ。研究チームは原因遺伝子を探るため、遺伝性のALS患者に着目した。父由来と母由来の遺伝子に同じ変異がある場合に発症する可能性を考え、近親婚の両親を持つ患者6人の遺伝情報を調べた。その結果、半数の3人が、緑内障の原因遺伝子「OPTN」に変異を持っていた。OPTNはがんや炎症に関与するたんぱく質が過剰に働くのを抑える役目がある。変異によってこの機能が失われ、運動神経に影響を与えたと推定された。広島大の川上秀史教授(分子疫学)は「孤発性の患者でも、この遺伝子が作るたんぱく質に異常が見られることから、この遺伝子は発症に関与していると思う」と話す。(平成22年6月1日 毎日新聞) 1遺伝子だけでiPS細胞 様々な細胞に変化する人の新型万能細胞(iPS細胞)を1個の遺伝子を導入するだけで作ることに、独マックスプランク分子医薬研究所などのチームが成功した。使う遺伝子が少ないほど、がん化の危険性を減らせるため、安全な再生医療につながると期待される。研究チームは、材料に中絶胎児の神経幹細胞を選択。この細胞に、京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作製に使った4個の遺伝子のうち、がん化の恐れの少ない遺伝子1個を導入した。その結果、10〜11週間後にiPS細胞ができ、筋肉や神経の細胞に変化することが確認できた。国立成育医療センターの阿久津英憲室長は「細胞の種類によって、iPS細胞の作りやすさが違うことが分かった。安全性の高い再生医療への応用に近づく」と話している。(平成21年8月29日 読売新聞) iPS細胞、肝がん細胞から作成 がん化せず肝臓細胞に再生人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、肝臓がんの細胞から作ることに森口尚史・米ハーバード大研究員らが世界で初めて成功した。できたiPS細胞から正常な肝臓の細胞も初めて作成した。 iPS細胞はさまざまな細胞になるが、その過程でがん化するのが課題になっている。研究チームは得られた細胞の分析から、がん化を防ぐ遺伝子の働きを解明したといい、再生医療の実現に向けた一歩になると注目される。8日からスペインで始まった国際幹細胞学会で発表する。チームは肝がん細胞を作る「肝がん幹細胞」を正常な肝臓細胞に戻す方法を模索。市販のヒト肝がん幹細胞に抗がん剤など2種類の化学物質を加えると、正常の肝臓細胞になった。またこの肝臓細胞に山中伸弥・京都大教授が発見した4遺伝子のうちの2つと別の2種類の化学物質を加えるとiPS細胞に変化。正常な肝臓細胞に戻すことにも成功した。そこで、正常な肝臓細胞に分化したiPS細胞を調べたところ、がん抑制遺伝子「p21」の働きが、別のがん抑制遺伝子「p53」よりわずかに活発になっていることを突き止めた。p21を働かさせず、p53だけにして分化させると、すべて肝がん細胞になった。このため、研究チームは両遺伝子の働きのバランスが、iPS細胞のがん化を左右していると結論付けた。(平成21年7月9日 毎日新聞) iPS細胞、「全細胞、iPS化可能」 体中のほぼすべての細胞が、さまざまな細胞に分化できる万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」になる能力を持っているとの考察を、開発した山中伸弥・京都大教授が英科学誌ネイチャーに発表した。iPS細胞は、体細胞に4種類の遺伝子を組み込むなどの方法で作る。現状ではiPS細胞が1個できるには元になる体細胞が1000個以上必要と作成効率が低く、ごく一部が万能化するとの指摘がある。山中教授は、世界中の研究を調べ、4遺伝子の働き方などが特定の状態になるとiPS細胞ができると分析した。(平成21年7月6日 毎日新聞) 「髪の元」細胞で神経修復 人間の髪の元になる細胞を使って、切断されたマウスの足の神経を修復することに北里大など日米の研究チームが成功した。脊髄損傷や事故で切断された手足の再生治療に応用が期待され、米専門誌に発表した。同大の天羽康之講師(皮膚科学)らは、体毛の周囲にあり、毛のほか神経や筋肉、皮膚の細胞に変化する能力を持つ「毛包幹細胞」に着目。この細胞を髪のそばから取って増やした後、マウスの末梢神経の切断部分に移植した。その結果、8週間後、切れた神経はつながり、足の付け根から電気刺激を与えると足が動いた。自然治癒にまかせたマウスに電気を流しても足は動かなかった。毛包幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)や新型万能細胞(iPS細胞)に比べ変化できる器官は限られ増殖能力も低いが、人間に移植した際のがん化の危険性は少ない。(平成21年7月2日 読売新聞) 免疫ブレーキ、仕組み発見 一部の細菌などに対し、抗体を作りにくくしている「免疫のブレーキ」と言える人体の仕組みを、筑波大大学院人間総合科学研究科の本多伸一郎講師と渋谷彰教授らが見つけた。「ブレーキ」を一時的に外す薬を作れば、ワクチン効果の増強などに応用できるという。15日付の米科学アカデミー紀要電子版に発表した。細菌などが人体に入ると、体内のリンパ球が「IgG抗体」を作って攻撃する。ただ、表面を「多糖類」という物質で覆われた肺炎球菌などにはIgG抗体ができにくく、ワクチンも効きにくい。だが、理由は謎だった。本多講師らは、働きがよく分からなかった別の種類の抗体「IgM抗体」に注目。リンパ球から、IgM抗体と結びつく受容体をなくしたマウスを、遺伝子操作で作った。マウスに肺炎球菌などと構造が似た化学物質を注射すると、普通のマウスの約10倍のIgG抗体ができ、化学物質を攻撃した。12週間後に再び、同じ物質を注射すると、IgG抗体の中でも攻撃力が強いものが、1度目の実験より約5割増えた。こうした実験から、IgMが多糖類に覆われた菌などへのIgG抗体の生産を抑えていると結論づけた。渋谷教授は「IgMは、免疫が過剰に働きすぎて体を傷つけるのを防いでいるのではないか。ワクチン注射の際だけIgMの働きを止める薬を作れば効果の増強につながるだろう」と話している。(平成21年6月16日 毎日新聞) おなかの脂肪から神経細胞 おなかの脂肪から取り出した幹細胞を脳の中に入れて神経細胞を作り出すことに、京都大学再生医科学研究所の中村達雄准教授らが動物実験で成功した。脂肪の利用は負担が少ないため、将来、脳梗塞や脳腫瘍の患者への再生医療の足がかりにしたいという。スイスの専門誌に発表する。脂肪の中には、体のさまざまな組織の細胞になりうる幹細胞が含まれていることが知られている。幹細胞そのままでは移植に使えないが、幹細胞を取り出してスポンジなどの「足場」にしみこませたものを、傷ついた組織に移植、再生をめざす研究が世界中で進んでいる。研究チームの中田顕研修員は、ラットのおなかの脂肪から幹細胞を取り出し、コラーゲンでできた数ミリ角のスポンジにしみこませた。幹細胞を大量にしみこませるために、3日間、幹細胞を培養しながら、スポンジを回転させ続ける工夫をした。このスポンジをラットの脳の中にあけた穴に移植した。1ヵ月後、幹細胞から神経細胞ができたことが確認できた。今後、この神経細胞が回路を作るか、ほかの種類の細胞が増えていないか、長期間、調べる。チームは、脳腫瘍の手術後や脳梗塞などで欠けた部分を補う治療法につなげる一歩にしたいという。(平成21年6月10日 朝日新聞) iPS細胞、がん化しにくい作製手法を開発 米ハーバード大学などの研究チームは、体のあらゆる細胞や組織になるヒトの新型万能細胞(iPS細胞)を、従来より安全に作ることに成功した。遺伝子を直接細胞に入れるとがんを引き起こす危険性が高くなるため、たんぱく質だけを使う方法で試みた。遺伝子を導入しない方法はすでに米国とドイツの研究チームがマウスの実験で成功しているが、ヒトの細胞では初めて。30日までに米科学誌「セル・ステムセル」(電子版)に発表した。研究チームは、京都大学の山中伸弥教授が最初に使った4遺伝子を、アミノ酸の一種であるアルギニンなどをくっつけて改造し、ヒトの培養細胞に入れた。こうして作ったたんぱく質は細胞膜を通り抜けやすく、ヒトの新生児の皮膚細胞からiPS細胞ができた。(平成21年5月30日 日本経済新聞) 抜け毛、原因にかかわる遺伝子発見 抜け毛の原因にかかわる遺伝子を国立遺伝学研究所と慶応大がマウスで見つけた。人も共通の仕組みを持つ可能性が高いという。この遺伝子がつくるたんぱく質「Sox21」は、神経細胞の発生や増殖に関係していることが知られている。遺伝研の相賀裕美子教授(発生遺伝学)と慶応大医学部の岡野栄之教授らは、生まれつきSox21遺伝子を持たないマウスを作った。このマウスは生後まもなく体毛が生えそろうが、生後15日ごろ頭部から脱毛が始まり、1週間で全身の毛が抜けた。その後は、25日周期で脱毛と発毛を繰り返した。 マウスの毛は25日周期で生え変わる。脱毛マウスも周期や発毛機能は正常だが、抜けるスピードが異常に速かった。体毛を詳しく調べたところ、毛の表面を覆い、うろこのような形で毛根とつながっているキューティクルがほとんどなかった。研究チームは、Sox21がキューティクルの材料のケラチンの生成にかかわっており、脱毛マウスはそれを持たないため抜け毛が早まると結論づけた。研究チームは人の毛髪のキューティクルにもSox21遺伝子が発現していることを確認。相賀教授は「薄毛の人はSox21遺伝子やSox21の働きに問題があると推測できる。詳しい仕組みが分かれば、治療薬開発の糸口になるかもしれない」と話す。(平成21年5月26日 毎日新聞) iPS細胞の高品質化に成功 パーキンソン病患者の皮膚からさまざまな細胞に成長する人工多能性幹細胞(iPS細胞)を高品質でつくることに、米国チームが成功した。従来の作製法と比べ、iPS細胞の性質のばらつきを抑え、がん化などの危険性も減らせるという。パーキンソン病は神経細胞が減って神経伝達物質のドーパミンが不足し、手足のふるえなどが起こる難病。米マサチューセッツ工科大などのチームは、53〜85歳の男女5人の患者の皮膚細胞に、iPS細胞をつくるのに必要な3つの遺伝子を導入した。遺伝子の導入には従来通りウイルスを使ったが、iPS細胞ができた後、特殊な酵素で導入遺伝子を取り除き、遺伝子が過剰に働かないようにする仕組みも加えた。すると、できたiPS細胞の遺伝子の働きぶりは、従来のiPS細胞より、もうひとつの万能細胞の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に近くなることがわかった。iPS細胞は、パーキンソン病などの難病治療に使えると期待されているが、導入遺伝子が残っていると性質がばらつくとされ、臨床応用への課題になっている。国立成育医療センター研究所の阿久津英憲室長は「技術改良が着実に進んでいる。導入遺伝子を残さない今回のような作製法は、今後の主流になる可能性がある」と話す。(平成21年3月6日 朝日新聞) 血液から新型iPS細胞できた あらゆる組織や細胞になりうる新型の万能細胞(iPS細胞)を、血液からつくることに、東京大医科学研究所の中内啓光教授らが成功した。人のiPS細胞はおもに皮膚を切り取ってつくるが、採血で可能になれば、患者の負担が軽い再生医療の実現につながる。iPS細胞は、患者の細胞からつくることができ、拒絶反応の少ない再生医療が期待される。患者の細胞はより簡単に入手できるほうがいい。皮膚の細胞は、針を使って採取するが、出血性の血液疾患の患者や子どもには向かない場合があるという。採血なら、患者、医師ともに負担が小さい。今回のiPS細胞は、山中伸弥・京都大教授らが使った4つの遺伝子を人の血液に導入して作製した。ただ血液中には、赤血球や白血球などの血液細胞以外の別の細胞も混じっており、できたiPS細胞が血液細胞がもとになったのか、はっきりしない。これを調べるため、マウスで実験をした。別のマウスの造血幹細胞を移植したマウスの血液からiPS細胞を作製し、遺伝子を調べたところ、別のマウスの遺伝子情報と一致した。血液中の造血幹細胞が変化した造血前駆細胞から作製されたとみられることが確認された。(平成21年3月5日 朝日新聞) 世界初、iPS細胞で新薬検査 様々な臓器や組織の細胞に変化する人間の新型万能細胞(iPS細胞)を使い、新薬の候補になる物質が心臓へ副作用を起こすかどうかを検査するサービスが、早ければ4月に始まる。実施するのはバイオベンチャー企業リプロセルで、iPS細胞を使って事業を起こすのは世界で初めて。新薬は、効能や副作用を動物実験などで確かめながら、数万種類の物質から絞り込んでいく。生死にかかわる心臓への副作用が、最終段階の臨床試験で初めて分かった場合、数十億〜数百億円に及ぶ開発費が無駄になりかねない。このため、早い段階で副作用を確かめる手法が求められていた。リプロセルは昨年、サルの胚性幹細胞(ES細胞)を利用し、心臓への副作用を検査する技術を確立。今回はこの技術を応用した。小さな電極60個を張り付けた皿に、iPS細胞から作った心筋細胞の塊(大きさ0.1〜0.3ミリ)を入れたところ、正常な心電図のパターンの検出に成功。心臓への悪影響が知られている化合物2種類をこの皿に加えたところ、不整脈のパターンを検出、副作用を確認できたという。(平成21年2月28日 読売新聞) 遺伝子1個使いiPS細胞 米独の研究チームが、いろいろな組織の細胞になる新型万能細胞(iPS細胞)を1個の遺伝子だけを用いて作り出した。使う遺伝子が少ないほど、がん化する危険が減るとされ、3個の遺伝子を要した京都大の山中伸弥教授らの研究をリードする成果だ。マウスを使った実験で、6日の米科学誌「セル」に発表する。ドイツのマックスプランク分子医薬研究所やボン大学、米国の民間企業などが共同で成功した。万能細胞を作る素材にはマウスの神経幹細胞を使った。この細胞では、必要な3個の遺伝子のうち1個は初めから働いている。研究チームは、残る2個のうち、発がんにつながる恐れの低い遺伝子のみを組み入れた。その結果、約4週間後にiPS細胞ができた。(平成21年2月6日 読売新聞) iPS細胞から血小板作製 様々な細胞に変化できる人の「新型万能細胞(iPS細胞)」から、血を止める役割を果たす血小板を作製することに、東京大学医科学研究所の研究チームが成功した。輸血に使われるが、保存期間が4日程度と短い血小板の大量生産につながる成果という。血小板は、がん治療中の患者の血小板生成の低下を補う目的などで輸血される。 献血で賄われるが、供給量の確保が課題になっている。他人の血小板を輸血すると免疫拒絶が起きる場合もあり、患者由来のiPS細胞からの血小板作製が期待されていた。中内啓光教授(幹細胞生物学)らは、人の皮膚から作ったiPS細胞を、増殖を助ける細胞とともに14日間培養。すると、袋状の構造物が生成され、中に血液の成分の元になる造血前駆細胞が詰まっていた。さらに、造血前駆細胞に成熟を促すたんぱく質を加えたところ、24日目に血小板が詰まった細胞ができた。中内教授は「5年後を目標に臨床治験までできるようにしたい」としている。(平成21年2月6日 読売新聞) iPS細胞から受精卵作り 産婦人科医や基礎医学などの研究者らでつくる日本生殖再生医学会は、人の皮膚などの細胞から作る人工多能性幹細胞(iPS細胞)から精子や卵子を作るだけではなく、作った精子や卵子を受精させ、着床前までの研究を認めるべきだとの見解をまとめた。見解によると、iPS細胞から精子や卵子を作り、受精させて染色体の異常が起こらないかなどを調べるため、約5日後まで成長させることを提言する。関係者は「生殖細胞を作るだけで受精させなければ、機能するかどうか分からない。不妊の原因を探るには生殖細胞が育っていく過程を調べることが重要」と話している。文部科学省の作業部会は、iPS細胞から精子や卵子を作る研究までは認める方向で議論しているが、「技術的にも倫理的にも時期尚早」として受精を認めていない。受精は命の始まりと密接にからむため、議論が多い。 同学会は、体外受精法で受精できない不妊の治療法の開発を目的にし、05年に設立された。約200人が定例の会合に参加する。昨年8月に委員会を設置し、人のiPS細胞から生殖細胞を作る研究について検討してきた。(平成21年1月28日 朝日新聞) ES細胞、脊髄損傷患者に注入 米バイオベンチャー企業「ジェロン」は23日、人間の胚性幹細胞(ES細胞)を応用した治療の臨床試験を、世界で初めて行うと発表した。脊髄損傷で歩けなくなった患者に、ヒトES細胞から作製した細胞を脊髄に注入、神経系細胞を再生させる。臨床試験の第1段階は今夏に開始。損傷から1〜2週間の患者8〜10人を対象に、中枢神経を保護する細胞に育つ細胞を注入する。治療の安全性を確かめるのが目的だが、マヒした感覚や運動機能の回復など、治療効果も同時に調べる。(平成21年1月24日 読売新聞) iPS細胞で血友病治療 新型万能細胞(iPS細胞)を成長させた細胞を肝臓に注入することによって血友病を治すことに、米ネバダがん研究所などがマウスを使った実験で成功した。血友病の根本治療につながる成果で、米科学アカデミー紀要電子版に13日掲載された。 研究チームはマウスの尾の皮膚からiPS細胞を作製。内皮の元になる細胞まで成長させたところ、血を止める成分が分泌されていることを確認。 この細胞を血友病のマウス6匹の肝臓に注入した。その結果、注入したマウスは尾を切って出血させても、人間なら20年間にあたる3ヵ月間も生きた。一方、細胞を注入しなかった血友病のマウス6匹は2〜8時間で死んだ。(平成21年1月14日 読売新聞) パーキンソン病の患者からiPS細胞 様々な細胞に変化できる新型万能細胞(iPS細胞)を、日本人の家族性パーキンソン病の患者から作ることに、慶応大の岡野栄之教授らが成功し、9日、大阪・千里で開かれた講演会で発表した。発症メカニズムの解明や治療法の開発につながると期待される。パーキンソン病の原因遺伝子の一つ「PARK(パーク)2」に異常がある60歳代の患者から皮膚細胞の提供を受けた。PARK2は、脳の神経細胞が信号を伝えるシナプスという部位の働きにかかわっている。iPS細胞を神経細胞に変化させ、正常な細胞と比較しながら発症のしくみを調べる。(平成21年1月10日 読売新聞) iPS細胞で症状再現 米大チーム初成功、新薬開発に応用 神経難病の患者の皮膚からつくった新型万能細胞(iPS細胞)を神経に成長させた後、病気のため神経が死ぬのを試験管内で再現することに、米ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らのチームがに成功した。 患者由来のiPS細胞を使い、症状の再現までできたのは世界初。病気の原因解明や新薬開発などの研究で強力な武器になると期待される。チームは、運動神経が徐々に減り乳幼児期に死亡することが多い、遺伝性の重症型脊髄性筋萎縮症(SMA)の男児の皮膚からiPS細胞を作製し、運動神経に分化させた。発症していない母親の皮膚からも同様に運動神経をつくり、両方を別々に培養して細胞の状態を比較した。(平成20年12月31日 日本経済新聞) サルからiPS細胞作製 中国の北京大学などの研究グループは、サルから新型万能細胞(iPS細胞)を作ることに成功した。ヒト以外の霊長類でiPS細胞を作ったのは初めて。 iPS細胞を使った再生医療の実用化を後押しすると期待される。研究成果は4日付の米科学誌「セル・ステムセル」(電子版)に発表する。研究グループはアカゲザルの皮膚細胞に、京都大学の山中伸弥教授らが使った4つの遺伝子を導入してiPS細胞を作った。神経や筋肉の細胞にも分化したという。(平成20年12月4日 日本経済新聞) 大脳皮質、ヒトのES細胞から作成 脳組織の一部で、思考や運動などを担う「大脳皮質」を、さまざまな細胞に変化できるヒトのES細胞から作ることに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの永楽元次研究員と笹井芳樹グループディレクターらが成功した。胎児の段階にあたる未発達な皮質だが、単独の脳細胞でなく、数種類の細胞が数多く組み合わさった脳組織を作ったのは世界で初めて。将来は、アルツハイマー病などの解明や薬の開発、脳梗塞の後遺症軽減などにつながる可能性があるという。永楽さんたちは、約3000個のES細胞を、直径約1センチのくぼみの中で培養液に浮かせ、細胞が自然に集まって固まりを作るようにした。必要な薬品を加えるなどすると、培養開始から46日で、中心が空洞の直径2ミリの球形組織ができた。できた組織は、4種類の神経細胞がそれぞれ層を作って重なった4層構造で、受精後7〜8週の胎児の大脳皮質とそっくりだった。神経細胞同士がネットワークを作り、各細胞が連動して同時に活動することも確かめた。成人の大脳皮質は6層構造。今回の皮質は、発達過程でいえば「40〜50%程度」の段階に相当すると考えられるという。(平成20年11月6日 毎日新聞) iPS細胞 ネズミの膵臓作製 新型万能細胞(iPS細胞)を利用して、マウスの体内で膵臓を作製することに、東京大医科学研究所の中内啓光教授らが成功した。研究が進んで、糖尿病患者のiPS細胞を作製し、動物の体内で膵臓を作らせることができれば、移植医療に使える可能性もある。実験では、膵臓の形成に必要な遺伝子を持たないマウスを使った。膵臓が欠損したこのマウスの受精卵を数日間培養。胚盤胞まで育った段階で、正常な遺伝子を持つマウスから作ったiPS細胞を注入した。その後、胚盤胞を代理母の子宮に移植し、誕生したマウスを調べたところ、膵臓が出来ていた。膵臓には、インスリンを分泌するベータ細胞も含まれ、血糖値を正常に保つ機能があることを確認した。注入したiPS細胞が、欠損するはずだった膵臓を補完したとみられる。研究チームは、別の万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)を使い、マウスの膵臓や腎臓を作ることにも成功している。今後、サルやブタで人間の臓器が作製できるか確かめる計画だ。動物の体内で移植用の臓器を作製する試みは、難病患者に福音となる可能性がある一方、未知の感染症に侵される恐れも指摘されている。(平成20年8月31日 読売新聞) 親知らずからiPS細胞 「親知らず」の歯の細胞から、様々な細胞に変化する新型万能細胞(iPS細胞)を作製することに、産業技術総合研究所の大串始・主幹研究員らが成功した。東京大学で21日開かれたシンポジウムで発表した。歯科医院などで抜いた親知らずを集めてiPS細胞の種類を増やせば、拒絶反応のない再生医療への応用が近づくと期待される。大串研究員らは、日本人の女児(10)から抜いた親知らずの歯の細胞に、世界で初めてiPS細胞を作った京都大の山中伸弥教授が用いた3種類の遺伝子を組み入れた。約35日間培養したところ、高い増殖能力を持つiPS細胞が出現。 様々な種類の細胞に変化できる能力も確認した。(平成20年8月日22 読売新聞) 難病患者からiPS細胞作製 高齢の神経難病患者の皮膚細胞からまず万能細胞(iPS細胞)を作製し、運動神経などの細胞まで作り出すことに、米ハーバード大のケビン・エガン准教授とコロンビア大の研究チームが成功した。健康な人の細胞から万能細胞を作った報告例はすでにあるが、患者の細胞を利用して万能細胞を作り出したとする論文は初めてという。病態の解明に大いに役立ちそうだ。患者は82歳と89歳の姉妹。運動神経が侵される遺伝性の筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)で、進行すると食べ物をのみ込んだり、手足を動かしたりしにくくなる。高齢者で遺伝子異常などを抱える患者の体細胞からでも、健康な人と同様に万能細胞ができるかどうか、そこから神経などの細胞を作製できるかは焦点の一つだった。エガン准教授らは、京都大の山中伸弥教授が開発した四つの遺伝子を皮膚細胞に組み込む方法を使って、iPS細胞を作製。さらに、受精卵から作る万能細胞(ES細胞)で開発された方法を使うことで、患者の遺伝情報を持つ運動神経(ニューロン)と中枢神経系のグリア細胞といった体細胞にまで分化させることに成功した。ALSは、発症の仕組みが分からず、まだ有効な治療法もない。これまで、病態解明や治療法の開発については、マウスやサルなどでの実験に頼らざるをえなかった。今回作製したiPS細胞は、治療法開発を視野に入れた病気の発症メカニズム解明につながる可能性がある。(平成20年8月4日 朝日新聞) 新型万能細胞の研究推進へ4拠点支援 文部科学省は新型万能細胞(iPS細胞)による再生医療研究について、今後の推進方策を明らかにした。研究者の新規参入を促すため、京都大学や理化学研究所など主要な4拠点が、細胞の成長や培養の技術指導を始める。iPS細胞は神経や筋肉など様々な組織に成長でき、失われた体の機能を取り戻す再生医療の切り札と期待される。京大の山中伸弥教授が作製に成功した後、世界的に競争が激しくなっており、日本も研究者層の拡大が急務となっていた。09年度に京大、理研、慶応義塾大学、東京大学による新組織「iPS細胞技術プラットフォーム」を設ける。同プラットフォームは、細胞技術の講習会を開くなどして研究者のすそ野拡大を目指す。また難病患者の細胞からiPS細胞を作り関連の研究機関に提供したり、研究成果の比較がしやすいようにiPS細胞の標準化を進めたりする。(平成20年7月31日 日本経済新聞) じゃまな脂肪で再生医療 おなかの脂肪から、様々な細胞になりうる幹細胞を取り出して心筋梗塞や肝臓病を治療することに、大阪大や国立がんセンター研究所のグループが動物実験で成功した。脂肪は採取しやすく移植時の拒絶反応も避けられる。厄介者扱いされがちな脂肪だが、再生医療に利用しようと研究が広がっている。大阪大未来医療センターの松山晃文・准教授らは、脂肪の中から心筋や肝臓、膵臓の細胞に効率よく成長する幹細胞を見つけた。この細胞を、特殊な薬剤で心筋のもとになる心筋芽細胞に変化させ、心筋梗塞のラットに移植した。治療しないと心臓の収縮率は30%に落ちたが、移植すると60%まで回復して4カ月維持した。この幹細胞から肝細胞の塊をつくり、慢性肝炎のマウスに移植すると、肝機能が改善した。膵臓のようインスリンを出す細胞もつくり、糖尿病のマウスに移植すると、3週間にわたり血糖値が下がった。同センターの澤芳樹教授は「動物実験を重ね、あらかじめ脂肪から幹細胞をとって将来に備える細胞バンクをつくりたい。テーラーメード型の再生医療が目標」という。国立がんセンター研究所の落谷孝広・がん転移研究室長らも、皮下脂肪から肝細胞をつくった。肝臓でしか合成されないたんぱく質を14種類以上検出。肝臓を傷めたマウスに注射すると、上昇した血中のアンモニア濃度が24時間後にほぼ正常に戻った。ただ、肝臓は500ほどの機能があり、すべて回復しているかどうかは分からない。メカニズムの解明もこれからだ。落谷さんは「胚性幹(ES)細胞から肝細胞をつくる効率が低いのに対し、必要な量を採取できる脂肪の利用に期待が集まっている。肝臓切除時に少量移植して機能回復を促す補助的な使い方が考えられ、数年内の臨床試験をめざしたい」と話している。(平成20年6月23日 朝日新聞) バイオ人工腎により急性腎不全の死亡率が減少 急性腎不全患者の生命を救うバイオ人工腎が数年以内に実用化される可能性が、新たな臨床試験によって示された。生体細胞を利用した尿細管補助装置によって腎細胞の機能を短時間補助することにより、腎損傷による急性腎不全患者の死亡リスクが有意に減少し、腎機能の回復が加速されるという。研究を行った米ミシガン大学医学部内科教授のH. David Humes博士らは、10年以上前にこのバイオ人工腎の開発を始めた。この装置には、従来の腎透析のように血液を濾過するカートリッジが含まれ、これが尿細管補助装置につながれている。尿細管補助装置は腎近位尿細管細胞と呼ばれる腎細胞の一種で裏打ちされた中空糸でできており、この腎細胞は生命維持に必須の電解質や塩、グルコース、水を再吸収し、感染症と闘うサイトカインと呼ばれる免疫システム分子の産生をコントロールする。今回の研究では、18〜80歳の極めて重篤な状態にある患者58人を対象とした。持続的静脈-静脈血液濾過と尿細管補助装置を併用した患者では28日後の死亡率が33%であったのに対し、従来型の持続的腎補助療法(腎透析)を受けた患者では66%であった。28日目の時点で尿細管補助装置群の53%に腎機能の回復が認められた。180日間の治療後、尿細管補助装置群での死亡リスクは従来療法群の半分(50%)であった。Humes氏は、今回の結果は非常に有望だと述べている。急性腎不全の死亡率の高さ(50〜70%)には長い間変化がみられなかったが、この方法によって優れた治療法の開発が期待できるという。さらに、生体細胞を利用するこの新しい取り組みは、あらゆる分野の新しい細胞ベースの治療法や組織工学を用いた治療法の開発の可能性をもたらす。慢性腎不全患者の治療用として、装着型人工腎のような装置の開発が促進される可能性もあるという。「細胞の生命維持プロセスを利用して、疾患によって障害された部分を回復させるこの能力は、医学の将来に大きな影響をもたらすものである。このような生体細胞の利用が成功したことで、われわれの取り組みの正当性が裏付けられ、幅広い疾患において細胞治療の研究が促進されると思われる」とHumes氏は述べている。(平成20年5月8日 日本経済新聞) 月経血から心筋細胞 慶応大など「幹細胞源として期待」 女性の月経血には、からだのさまざまな組織に変化する可能性がある幹細胞が豊富に含まれ、条件を整えると心臓の細胞(心筋細胞)に高い確率で変化して拍動もすることがわかった。慶応大と国立成育医療センターなどのチームが実験で示した。チームは「月経血は新しい幹細胞源として期待できる」としている。チームは、女性6人に協力してもらい、月経血をガラスの容器に採取して培養。人工的に心筋梗塞を起こしたネズミの心臓に移植したところ、症状の改善が確認された。また試験管内の分化誘導実験では、月経血に含まれる細胞の20%が心筋細胞に変わって、自ら拍動を始めた。現在、病気の治療に幹細胞を使うときは、赤ちゃんのへその緒に含まれる臍帯血や、骨髄から採ることが多い。しかし、さまざまな組織に変化できる有用な幹細胞が含まれる割合が低いうえ、目的の細胞に変化する割合も高くない。チームの実験では、心筋細胞に変化した骨髄細胞の割合は、0.3%だった。 チームの三好俊一郎・慶応大講師は「月経血は医療廃棄物で、使うことに倫理的な問題はなく、採取の際に痛みもない。将来、若いころに月経血を採って冷凍保存しておき、あとで心臓病になったときに使うことなどが考えられる」と話している。(平成20年4月17日 朝日新聞) 新型万能細胞応用 経済産業省は、さまざまな細胞に変化できる新型万能細胞(iPS細胞)の産業応用に向け、今月から産業界と大学など研究機関との間で対話の場を設けることを決めた。iPS細胞は再生医療への応用以外にも、新薬の薬効や毒性を調べる材料などとして有望視されており、製薬会社など産業界も注目している。同省は、iPS細胞の産業化でも日本が世界の主導的立場となることを目指す。産学対話では、大学などの研究機関からiPS細胞を円滑に産業界に提供する方法や知財などの取り扱いについて、両者の意見や要望を聞く。6月まで数回開催する計画で、同月に国の総合科学技術会議のiPS作業部会がまとめる研究推進策にも要望などを反映させる。(平成20年3月5日読売新聞) iPS細胞から視細胞 マウスの皮膚でつくった人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、網膜にあって光を感じる視細胞をつくることに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの高橋政代チームリーダーと京都大の山中伸弥教授らが2日までに成功した。人のiPS細胞でも同様の実験を開始。患者本人の細胞を使えば、移植しても拒絶反応が起きないメリットが期待できる。高橋リーダーは「網膜色素変性症などの再生医療実現につながる一歩だ」としている。理研はこれまで、人の胚性幹細胞(ES細胞)から視細胞を効率良くつくるのに成功している。今回は山中教授が作成したマウスのiPS細胞を使い、同様の手法で網膜の前駆細胞をつくり、さらに視細胞に分化させるのに成功した。他人の受精卵からつくられるES細胞と違い、iPS細胞には患者と同じ遺伝子を持たせることが可能で、移植時の拒絶反応が避けられる。高橋リーダーは「分化能力の点でiPS細胞とES細胞は似通っている。次は人のiPS細胞から網膜細胞づくりを試したい」としている。(平成20年3月2日中国新聞) 東大・慶大でもiPS細胞研究 さまざまな臓器・組織の細胞に変化できる新型万能細胞(iPS細胞)を早く再生医療に応用するため、文部科学省は、四つの研究機関を中心とするプロジェクトを4月に始めることを決めた。開発者である山中伸弥教授のいる京都大のほか、東京大、慶応大、理化学研究所が新たな研究拠点となる。文科省は4拠点に来年度約10億円を投入する。京大は、iPS細胞研究センターを中核として、大学病院や大阪大などとも連携。iPS細胞の基礎研究だけでなく、パーキンソン病などの治療技術の開発も推進する。東大は、4月に新設される幹細胞治療研究センターを軸に、血友病などの遺伝病患者の細胞からiPS細胞を作製し、さまざまな病気の仕組みの解明を進める。慶応大は血球の元となる細胞を豊富に含むへその緒の血液を集めて、iPS細胞を200種類作る。理化学研究所はiPS細胞から神経細胞や血球などを作製し、再生医療に使えるかを安全性も含めて検証する。(平成20年2月29日読売新聞) 新型万能細胞がん化しにくく 京都大学の山中伸弥教授らは、あらゆる細胞や組織に成長できる新型万能細胞(iPS細胞)をマウスの肝臓や胃の細胞から作ることに成功した。皮膚の細胞をもとに作ったiPS細胞よりもがん化しにくいことが分かった。研究成果をヒトのiPS細胞作りに応用して、より安全なタイプを作製できれば、損傷した臓器や神経などを回復させる再生医療の臨床応用に近づく。iPS細胞を皮膚以外の細胞から作れることを示したのは初めて。(平成20年2月15日 日本経済新聞) ES細胞、赤血球になる細胞株作成 あらゆる臓器や組織に育つ能力を持つマウスの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から、赤血球のもとになる細胞株を作ることに、理化学研究所の研究チームが成功した。細胞株は試験管内で長期間増殖させることができ、赤血球を効率よく大量に作ることが可能。チームは近く、ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った研究を始める予定で、成功すれば、献血に頼らず、感染症の心配のない輸血が実現する。骨髄液や臍の緒の血液に含まれる血液幹細胞から赤血球を作った例はあるが、効率の悪さが実用化への課題になっていた。理研バイオリソースセンター(茨城県つくば市)の中村幸夫・細胞材料開発室長(血液学)らは、8種類のマウスES細胞と、細胞増殖作用などがある6種類のたんぱく質を使って実験した。組み合わせを変えながら63回試み、三つの組み合わせで赤血球のもとになる赤血球前駆細胞株を作ることに成功した。この株を貧血のマウスに注射すると、マウスの体内で赤血球が増加し、症状を改善できることを確認した。がん化などの問題も起きていないという。中村室長は「一日も早い臨床応用を目指したい」と話している。(平成20年2月6日 毎日新聞) ES細胞、網膜細胞作成に高効率で成功 あらゆる細胞になる能力を持つヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から、目の網膜細胞を高い効率で作り出すことに、理化学研究所などのグループが成功した。病気で失われた網膜細胞を体外で再生させて移植する再生医療の実現に、大きく近づく成果。今後は、できた細胞の機能を調べるとともに、京都大で開発され、拒絶反応の問題を回避できる「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」での応用を試みるという。光を感知する視細胞や、網膜に栄養を与える網膜色素上皮細胞が、20〜30%の効率で作れた。マウスで05年に成功した際は未知の成分を含む牛の血清などを使ったが、今回は安全性に問題のない2〜4種類の物質で成功させた。ヒトのES細胞の例は海外でわずかに報告されているが、数%の効率だった。日本に約3万人の患者がいる網膜色素変性症や、欧米で高齢者の失明原因の1位の加齢黄斑変性症は、視細胞が徐々に失われる病気で、有効な治療法はほとんど確立されていないという。理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の笹井芳樹グループディレクターは「ES細胞と性質が同じiPS細胞に応用できるので、国内の研究機関に積極的に技術移転したい」と話している。(平成20年2月4日 毎日新聞) 他人の頭皮で毛髪再生 国循センターなど研究へ 美容外科手術などであまった他人の健全な頭皮で毛の生えやすい基盤をつくり、髪の毛が少ない人の頭髪をよみがえらせる再生医療の研究を、国立循環器病センター(大阪府吹田市)、神戸大学病院、大阪工業大のグループが始める。まず人の頭皮を利用した基盤づくりの共同研究をする。他人の細胞は、拒絶反応を引き起こす。拒絶反応を避けるため、国循センターがブタの心臓弁の再生で成功している脱細胞化処理法を用いる。これは、薬品を使わずに高い水圧をかけて組織の中にある細胞を壊し、洗い流して組織の「抜け殻」を移植するもの。新たにできる組織や臓器には患者自身の細胞が入り込み、拒絶反応を起こさないという。研究は、他人の頭皮をとりだし、1万気圧の水圧を約15分間かけて細胞を壊し除去する。残ったコラーゲンなどによる1センチ四方の基盤の性質を確認する。その後、臨床研究を検討し、基盤の上に毛根を包んでいる患者の毛包(もうほう)をつけ、患者に移植。毛根づくりの指令を出す毛乳頭(もうにゅうとう)細胞を患者からとりだして新たな頭皮に育った基盤に注射し、頭髪の再生を促す。(平成20年2月1日 朝日新聞) 「iPS細胞で心筋再生」 人間の皮膚から様々な細胞に変化できる万能細胞(iPS細胞)を作製した京都大の山中伸弥教授と、筋肉か作った細胞シートで重い心臓病の治療に成功した大阪大の澤芳樹教授が、iPS細胞を使った共同研究を始めることになった。世界初の二つの成果を組み合わせ、心筋の再生医療を目指す。一方、京都大は山中教授をトップとする「iPS細胞研究センター」の設置を正式に発表し再生医療の実現に向け、万能細胞研究が大きく動き出した。澤教授らは昨年、患者の足の筋肉の細胞をもとにシートを作製。心臓移植が必要だった患者の心臓の周囲に張り付け、心機能の回復に成功した。シートは心筋にはなっていないため、iPS細胞から変化させた心筋でシートを作り、治療に生かしたい考えだ。京大の研究センターは、昨年10月に開設された「物質―細胞統合システム拠点」の一部門。教授や研究員、技術職員ら10〜20人でつくる「専任チーム」と、京大再生医科学研究所などから参画する「兼任チーム」数チームで構成される。当面は、京都市内にある民間研究施設「京都リサーチパーク」内の研究室を借り、2年後をめどに専用研究棟を建設する。iPS細胞の研究は、国内の研究者を結集したコンソーシアム(共同体)を設け、オールジャパン体制で取り組む予定で、京大のセンターがその中心になる。山中教授はこの日の記者会見で「iPS研究は10年、20年と息の長い取り組みが必要なので、若い研究者を積極的に育てたい」と語った。(平成20年1月22日 読売新聞) ES細胞で筋ジス治療 筋肉の力が徐々に失われる遺伝性疾患の筋ジストロフィーの症状を示すマウスに、遺伝子操作した胚性幹細胞(ES細胞)を注射して、筋肉の機能を一部回復させることに成功したと、米テキサス大の研究チームが米医学誌ネイチャーメディシン電子版に発表した。筋ジストロフィーのマウスを、あらゆる細胞に分化する能力を持つES細胞の移植で治療したのは初めて。遺伝子を操作するため、すぐには人への応用はできないという。 筋ジストロフィーのうち患者の多いデュシェンヌ型は、筋細胞の形を保つタンパク質「ジストロフィン」が遺伝子変異のため作られず、筋力の低下や筋委縮が起きる。研究チームは、マウスのES細胞を培養し、筋細胞への分化を促進する遺伝子「Pax3」を人工的に導入。筋細胞になるよう分化し始めたものだけを取り出した。これを病気のマウスの大動脈に注射したところ、1カ月後には筋細胞になって筋肉に定着し、ジストロフィンも作られていた。通常のマウスほど強くないが、ある程度筋力が回復したという。ES細胞を注入する治療では、無限に増殖するがん化が懸念されるが、筋細胞に分化するものだけを厳選した結果、3カ月後にもがんは起きなかったとしている。(平成20年1月21日 中国新聞) 万能細胞「お分けします」 理化学研究所バイオリソースセンターは3月から、京都大学の山中伸弥教授のグループがマウスの皮膚細胞から世界で初めて作製した万能細胞(マウスiPS細胞)を希望する研究者に配布する事業を始める。iPS細胞を多くの研究者に利用してもらうことで、再生医療などの研究を加速させるのが狙い。iPS細胞は、さまざまな臓器・組織の細胞に変化する万能細胞の一種。山中教授らは人間でも同様にヒトiPS細胞を作製しているが、受精卵を使わず作製できることから世界的に注目されている。特許取得の手続きも済んだことから、細胞バンク事業に実績のある同センターは京大から依頼を受けて、希望する国内外の研究者に提供することにした。 今週にもiPS細胞の培養を開始し、3月から提供を始める。費用は約100万個の細胞が入った試験管1本で実費1万2000円。提供を受けた研究者が論文を発表する場合は、京大との共同研究になる。同センターはヒトiPS細胞についても4月以降配布する予定。(平成20年1月8日 読売新聞) 新型万能細胞で脊髄損傷治療 慶応大の岡野栄之教授と京都大の山中伸弥教授のチームは25日、山中教授が人の皮膚から世界で初めて作製した新型万能細胞(iPS細胞)のサルを使った治療技術の開発実験に着手、脊髄(せきずい)を損傷した患者に生かせる治療技術を2年後をめどに確立したいとの考えを発表した。 iPS細胞の研究者ら約1000人が参加して京都市内で開かれたシンポジウムで明らかにした。 研究チームは、すでにネズミのiPS細胞を神経細胞に成長させて、脊髄損傷を起こしたネズミの運動機能を一部回復することに成功。 来年から人のiPS細胞を神経細胞に成長させ、サルを使って患者に応用できる治療技術の開発に取り組む。(平成20年12月26日 日本経済新聞) 心筋こうそく患者に再生医療、幹細胞注射で血流改善 大阪大学の澤芳樹教授らは来年初めにも、心筋こうそくや狭心症など重い心臓病患者の治療に再生医療の新しい手法を応用する。詰まった血管の代わりにバイパスをつなぐ手術に合わせて、血流を改善する効果のある幹細胞を心臓に注射する。心臓病が重症化するのを防ぐ治療法として、有効性や安全性を検証する。厚生労働省のヒト幹細胞の臨床研究指針に基づき実施する。心筋こうそくや狭心症の患者は冠動脈バイパス手術を受けるケースが多いが、細い血管部分など血流の改善が難しい個所もあり、機能を十分回復できない場合もある。(平成19年12月21日 日本経済新聞) 新型万能細胞、貧血治療に成功・米チームがマウス実験 京都大の山中伸弥教授が手法を開発した皮膚からつくる「万能細胞(iPS細胞)」を使ってマウスの貧血を治療することに、米ホワイトヘッド研究所のチームが成功、米科学誌サイエンス電子版で発表した。山中教授らが昨年6月、世界で初めてマウスのiPS細胞づくりに成功してから約1年半という短期間で、治療に役立つことを証明した。この分野の研究の競争激化があらためて示された。実験に使ったのは、赤血球が鎌の形(3日月形)に変形し、酸素運搬能が低下する「鎌状赤血球貧血」と呼ばれる病気の原因遺伝子を組み込んだマウス。しっぽから採取した皮膚細胞に計4種類の遺伝子を組み込んで、まずiPS細胞を作製した。次に、iPS細胞に含まれる貧血の原因遺伝子を、特殊な方法で正常な遺伝子に置き換え、血球などのもとになる造血幹細胞にまで成長させてマウスの体内に戻した。(平成19年12月17日 日本経済新聞) 椎間板ヘルニア、原因遺伝子の一つを特定 国内で100万人以上が悩まされているとされる椎間板ヘルニアの原因遺伝子の一つを、理化学研究所などの研究チームが特定した。椎間板ヘルニアの発症への関与が判明した遺伝子は二つ目で、予防や治療法の開発につながると期待される。椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間でクッションの役割を果たす椎間板が変形し、神経を圧迫して腰痛や座骨神経痛を引き起こす病気。複数の遺伝子が関係するほか、後天的な要因も影響するとされている。患者と正常な人それぞれ約900人ずつの遺伝子を統計学的に調べた。その結果、COL11A1と呼ばれる遺伝子の差異によって、発症の可能性が最大1.4倍高まることが分かった。COL11A1は、椎間板を正常に保つ働きのある11型コラーゲン(繊維状たんぱく質)を作る遺伝子で、実際に患者の椎間板では11型コラーゲンが減少していることも確認した。このタイプの患者には11型コラーゲンを投与すれば治療できる可能性がある。遺伝的に椎間板ヘルニアになりやすいと分かれば、日常生活に注意することで予防にもつながる。(平成19年10月2日 毎日新聞) 膝軟骨の人工培養技術 従来は難しかったひざ軟骨の人工培養技術を東京大学などが開発した。体内と同じ高圧環境下で培養するもので、変形性膝関節症の患者などへの再生医療に道を開くと期待される。東大では軟骨がすり減るため、膝が痛み、歩行や階段昇降が困難になる変形性膝関節症の患者を3000万人と推計している。一部の患者には、膝から採取した健康な軟骨細胞を培養した後、患部に注入する治療が試みられているが、培養中に病的なたんぱく質を持つ異常細胞ができる問題があった。牛田多加志教授は、関節内で体液の入った袋に包まれた軟骨には、歩行時に約50気圧の圧力がかかることに着目。プラスチック製の培養袋にウシの軟骨細胞を入れ、体内と同じ水圧をかけて4日間培養したところ、球状の正常軟骨(直径1ミリ)ができた。ヒトの細胞で球状軟骨を多数作り、体内の軟骨と同じ形の型に詰めて成形すれば、移植可能な人工軟骨が作れるようになるという。東大病院整形外科・脊椎外科の中村耕三教授は「減量や運動が治療の基本だが、傷んだ軟骨を再生医療で治せるようになれば治療手段が増す」としている。(平成19年6月14日 読売新聞) 先天性免疫不全症、造血幹細胞移植 重症の「先天性免疫不全症」だった青森県在住の男児(4)が、弘前大付属病院で造血幹細胞移植を受け、快復した。免疫細胞の異常で生まれつき免疫力が低く、感染症を繰り返して幼児期に死亡する可能性が高い病気。症例が極めて少ないこともあり、移植の成功例は世界初という。男児のような免疫不全症が細胞内物質の「NEMO」の異常で引き起こされることは01年に解明されたばかり。日本国内で確認されている患者は10人に満たないという。伊藤悦朗教授は「過去にはこの病気であることがわからず、助からなかったケースもあっただろう。こういう病気があることと、移植で治ることが広く知られれば」と話している。男児は生後2カ月で敗血症を起こして弘前大付属病院に入院。重症の免疫不全症と診断された。2歳半ごろ、胃や腸の炎症で食事ができなくなるほど悪化。同病院の医師グループは血液を造るもとになる「造血幹細胞」を移植し、正常な免疫細胞をつくりだす効果を期待する以外、助かる方法はないと判断した。昨年1月に移植した後、男児は4カ月ほどで退院。現在は外出もできる。同病院は「造血幹細胞の定着も確認でき、経過も順調だ」としている。 造血幹細胞は大人の骨髄中にあり、赤ん坊のへその緒や母体の胎盤から採った「臍帯血」にも多く含まれる。男児への移植では、臍帯血を点滴で静脈から注入。骨髄に造血幹細胞を定着させる方法をとった。(平成19年6月1日 朝日新聞) どんな血液型もO型に変換 AとB、AB型の赤血球をO型の赤血球に変えることのできる酵素を米ハーバード大研究チームが開発した。O型の血液は、どの血液型の患者にも輸血できるため、実用化すれば、輸血用血液の血液型の偏りを解消できる。赤血球の表面は、毛のような糖鎖で覆われている。その糖鎖の先に結合している糖の種類によって、A、B、AB型に分かれ、何もついていないのがO型。結合している糖の種類が違うと輸血時に拒否反応が起きるため、O型以外の赤血球は輸血対象が限られる。緊急時など患者の血液型が不明な時はO型を使う。研究チームは、約2500種類の細菌などから、赤血球の糖鎖から糖を分断する能力を持つ酵素を複数発見。それぞれの特徴を遺伝子レベルで調べ上げ、効率を高めた酵素を開発した。この酵素でO型以外の赤血球200ミリ・リットルを1時間処理すると、ほとんどの赤血球がO型になった。(平成19年4月2日 読売新聞) 臍帯血から効率良く骨作成 赤ちゃんのへその緒や胎盤にある臍帯血から、様々な細胞に育つ可能性がある幹細胞を高い確率で取り出し、軟骨や骨を作ることに、東大医科学研究所が成功した。高齢化とともに、寝たきりの原因になる骨折や、膝が痛む変形性膝関節症などの患者が増えており、骨や関節を再生する治療につながると期待される。出産から5時間以内に採取した臍帯血から、25例中20例の高率で幹細胞を取り出すことに成功。薬剤とともに3週間培養したところ、コラーゲンなどを含む直径約3ミリの軟骨ができた。臍帯血から幹細胞を取り出したとの報告はこれまでにもあるが、実際に採取するのは極めて困難だった。軟骨細胞は骨髄や脂肪組織の幹細胞からも作れるが、臍帯血の幹細胞は、直径で骨髄の2倍近く、脂肪細胞の10倍以上大きく成長した。幹細胞などから、失われた組織や臓器を作る再生医療の研究が進んでいる。幹細胞を骨髄から採取するのは、体に大きな負担がかかるのに対し、臍帯血はこれまで廃棄してきたものを活用する利点がある。(平成19年3月27日 読売新聞) 歯の再生、マウスで成功 神経も、入れ歯代替に期待 歯のもとになる組織(歯胚)から、神経や血管を含め、歯をまるごと再生させることに、東京理科大と大阪大のチームが世界で初めて成功した。マウス実験での成功率は80%と高く、将来的に入れ歯やインプラント(人工歯根)に代わる方法として期待される。さらに、開発した技術は他の臓器や器官の再生医療にも応用できるという。研究チームは胎児マウスの歯胚から両細胞を採取。それぞれの細胞に分離したうえ、寒天状のコラーゲンの中に重ねるように入れ培養したところ、高さ0.25ミリの「歯の種」ができた。これを拒絶反応を起こさない種類の大人のマウスの抜歯部に移植すると、約2カ月後には長さ4.4ミリに成長。歯の内部には血管と神経があることを確認した。抜歯部に移植を試みた22回中17回で歯が再生した。一方、マウスの毛でも同様の方法で培養し、毛の再生にも成功した。人での実施には、胎児からの歯胚入手という倫理上の課題や、別人からの移植に伴う拒絶反応の問題もある。研究チームは、患者自身の口内や頭皮から、基になる細胞を探していくという。(平成19年2月19日 毎日新聞) 幹細胞で脳梗塞の新治療 札幌医大の研究グループは本人の骨髄の幹細胞を使って脳神経細胞の再生を促す国内初の脳梗塞の治療を発症後約2カ月の50代の女性に実施した。受精卵を壊してつくる胚性幹細胞(ES細胞)と比べ、倫理的に問題も少なく、拒絶反応が起きない利点がある一方、改善効果の詳しいメカニズムなど解明されていない点もある。国内の脳梗塞の発症者は年間約30万人に達していると言われており、今回の治療で期待した効果が得られるか今後の経過が注目される。治療を受けたのは昨年11月に脳梗塞を発症した北海道の女性。女性の骨盤から12月下旬に骨髄液を採取し、幹細胞を抽出した。この幹細胞を約2週間かけて培養し、細菌やウイルスに感染していないか検査した上で、12日午前に腕に点滴で投与した。拒絶反応は見られないという。脳に達した幹細胞から放出されたタンパク質の一種「サイトカイン」が血管や神経の再生を促す。回復が見られるのは数カ月後という。脳梗塞の症状を完全に治すことはできないが、生き残った神経細胞の保護や血管の再生を促すことで脳機能の促進が期待される。(平成絵19年1月12日 産経新聞) 羊水から万能幹細胞 体のさまざまな細胞に分化する能力を持つ胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に似た幹細胞を、人間の子宮の羊水から取り出すことに成功したと米ウェークフォーレスト大の研究チームが米科学誌ネイチャーバイオテクノロジー(電子版)に7日、発表した。 ES細胞は、病気などで機能を失った組織を人工的につくって移植する再生医療への応用が期待されているが、受精卵を壊さないと得られないという倫理的な問題が研究推進の障害になっている。 だが、今回見つかった羊水由来の幹細胞は通常の医療行為から得られるので、倫理的な問題は少ないという。(平成19年1月8日 中国新聞) 皮下脂肪から肝臓細胞を作製 国立がんセンター研究所と国立国際医療センターの研究チームが、人体の皮下脂肪から、肝臓細胞を作製することに成功した。肝炎や肝硬変など国内に350万人以上いる肝臓病患者の肝臓を修復する再生医療の実現に近づく成果として注目されそうだ。 チームは「数年以内に臨床応用を検討したい」という。同研究所は、皮下脂肪に含まれている「間葉系幹細胞」という細胞に着目した。さまざまな臓器や組織の細胞に変化する可能性を秘めており、皮下脂肪の細胞の約10%を占める。研究チームは、国際医療センターで腹部の手術を受けた患者7人から皮下脂肪を5グラムずつ採取、この幹細胞を分離し、成長を促す3種類のたんぱく質を加えて約40日間培養したところ、ほぼすべてが肝細胞に変化した。得られた肝細胞の性質を調べてみると、血液の主成分の一つであるアルブミンをはじめ、薬物代謝酵素など肝臓でしか合成されないたんぱく質が14種類以上検出された。人工的に肝機能不全に陥らせたマウスに、この肝細胞約100万個を注射で移植したところ、上昇していたアンモニア濃度が1日で正常レベルに低下した。皮下脂肪から再生した細胞は、乳房の修復などにも用いられているが、肝臓の持つ複数の機能が確認されたのは世界で初めて。再生医療の研究では、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)が有名だが、受精卵を壊して作るため批判を受けやすい。皮下脂肪を使えば倫理的な障害は少なく、患者自身から採取した細胞なので拒絶反応も起きないという利点がある。落谷室長は「皮下脂肪から作製した肝細胞は、機能などの点からみると、合格点ぎりぎりの60点程度。より本物に近い機能を持った肝細胞を作製したい」と話している。(平成19年1月6日 読売新聞) 幹細胞で脳梗塞治療 札幌医大の研究グループは、患者本人の骨髄の幹細胞を使って脳神経細胞の再生を促す国内初の脳梗塞の治療を実施する。この治療は受精卵を壊してつくる胚性幹細胞(ES細胞)と比べ倫理的に問題も少なく、拒絶反応が起きない利点がある。一方、改善効果の詳しい仕組みなど解明されていない点もある再生医療だけに臨床結果が注目される。治療は脳梗塞の患者の骨盤から骨髄液を採取し、幹細胞を抽出。この幹細胞を数週間かけて培養し、腕に点滴で戻す。脳に達した幹細胞から放出されたタンパク質の一種「サイトカイン」が血管や神経の再生を促すという。脳梗塞を発症して2週間後のラットに、幹細胞を移植した結果、運動機能が回復。移植しないラットに比べ約2、3割速く走った。実験では脳梗塞発症直後のラットほど効果があったという。採取した幹細胞を培養して増殖する過程で細菌やウイルスに感染する危険性もあるが、研究グループは「培養した幹細胞を体内に戻す前に検査を十分行うので安全性は確保できる」と話している。(平成18年10月10日 日本経済新聞) パーキンソン病遺伝子治療 自治医大病院は、運動障害を伴う難病パーキンソン病に対する国内初の遺伝子治療臨床研究を厚生労働省に申請した。パーキンソン病は、脳内の物質ドーパミンが不足して引き起こされる難病。脳内でドーパミンに変化する薬剤を内服する治療が有効だが、症状の進行に伴い、薬をドーパミンに変える体内の酵素が減少し、その効果が、薄れるという事態が避けられなかった。申請した治療法は、この酵素を作る遺伝子を特殊なウイルスに組み込み、脳に注入するというもの。(平成18年2月2日 読売新聞) 神経結合の目印を発見 再生治療に貢献も 複雑な脳の神経回路の中で、神経細胞同士がお互いを見つけ出して結合する際に目印となるタンパク質を、東京大や理化学研究所発生・再生科学総合研究センターなどのチームがショウジョウバエを使った実験で発見、19日付の米科学誌ニューロンに発表した。チームの能瀬聡直東大助教授は「目印を使って脳の神経回路を形成する仕組みは人間を含めて共通と考えられる。将来的には損傷した神経を再生治療する方法の開発に役立つかもしれない」としている。神経回路は、発生の過程で、神経細胞が決まった道筋に沿って正しい相手と結合して形成されるが、多数の細胞が密集している脳では、神経細胞がどのように特定の相手を探し出すかが、分かっていなかった。(平成18年1月19日 中国新聞) がん治療に遺伝子診断 乳がん患者に使う抗がん剤の効果や、白血病の治療薬の副作用を、遺伝子診断で事前に予測できることがわかり、財団法人癌研究会有明病院(東京都江東区)が患者の個性に合ったがん医療を今年から本格的に進める。 ヒトの遺伝子と薬の効果に関する研究は進んできたが、確実なデータは少なく、がんでの臨床応用は全国的にも先駆的なものになる。同会癌研究所の三木義男・遺伝子診断研究部長らは、乳がん患者51人の協力を得て、治療前に少量のがん細胞を取り出して約2万1000種類の遺伝子の働き方を網羅的に調べた。乳がん用に広く使われる抗がん剤パクリタキセル(商品名タキソール)が15人で良く効き、36人は効果が低かった。 分析の結果、3種類の遺伝子の働き方を調べれば、効くかどうかを51人全員で判定できることがわかった。判定の確実性が高いため、臨床応用に適しているという。事前判定ができると、抗がん剤でがんを小さくして手術をするという治療方針が立てやすい。効かない人には別の抗がん剤を使うなど選択肢がある。また、慢性骨髄性白血病の治療薬イマチニブ(商品名グリベック)についても、血液中の二つの遺伝子の型を調べれば、白血球の一種の好中球が減少する副作用が出やすい人を事前に予測できることがわかった。三木部長らは、がんが転移しやすいかどうかの予測などに遺伝子診断を使う研究も進めている。これらの成果をもとに有明病院では遺伝子診断を応用したがん治療に取り組む。まず、乳がんの抗がん剤の効果予測について約100人の患者の協力を得て、正確な診断のための検証を進める。遺伝情報を扱うことに倫理的問題もあるため、遺伝相談に詳しい医師も配置している。有明病院の武藤徹一郎院長は「研究と臨床を結びつけて患者さんに合った医療を進めたい」と話している。(平成18年1月10日 朝日新聞) 胎盤形成にかかわる遺伝子発見 東京医科歯科大学などのチームは12日、胎盤の形成にかかわる遺伝子を発見したと発表した。生物の設計図であるゲノム(全遺伝情報)のうち不要と思われていた情報の中にある特殊な遺伝子で、この遺伝子を持たないマウスは胎盤が正常にできなかった。生物進化の解明や不妊症研究などに役立つという。 東京医科歯科大、東海大、理化学研究所、三菱化学生命科学研究所のチームは、ヒトやイヌ、マウスなど哺乳類でだけ存在が確認されている遺伝子「Peg10」に着目。この遺伝子がないマウスを作って受精後の胎児の発育を調べたところ、妊娠10日目に胎盤の形成が異常になり成育しなかった。Peg10は、エイズウイルスや白血病ウイルスなどのような細胞内のゲノムに入り込む「レトロウイルス」の遺伝子が変質して出来上がった遺伝子と考えられている。哺乳類のゲノムの3分の1以上は役に立たない不要なごみ情報と見なされているが、その中にある。(平成17年12月12日 日本経済新聞) RNAでがん抑制、動物実験成功 がんの増殖にかかわる遺伝子の働きを止める物質を、微小なカプセルに入れて患部に送り込み、がんを抑える動物実験に東京大学の永井良三教授と協和発酵工業のグループが成功。新たながんの治療法の開発につながりそうだ。永井教授らは、動脈硬化やがんの増殖にかかわる「KLF5」という遺伝子を02年に発見、この働きをリボ核酸(RNA)で抑えられないかと考えた。RNAは、細胞の中でDNAの遺伝情報を写し取り、たんぱく質をつくる時に働くと考えられてきた物質だが、遺伝子の働きを抑えるためにも利用できる。「RNA干渉」と呼ばれ、この現象を使った治療法開発の競争が激しくなっている。グループは、血液中で不安定なRNAを患部にピンポイントで届けるために、直径100ナノメートル(ナノは10億分の1)のリポソームと呼ばれる脂質の膜でできた微小なカプセルを作り、KLF5を抑えるRNAを閉じこめた。このサイズにすると、がんのまわりのもろい血管からカプセルがにじみだし、がんに作用させることができる。がんのマウスに、この薬を与えると、がんに栄養を送る血管が新たにできるのを抑え、がんの増殖も抑えられることがわかった。(平成17年11月15日 朝日新聞) 臍帯血幹細胞の体外増殖に挑戦 赤ちゃんのへその緒に含まれる臍帯血(さいたいけつ)を使い、血液のもとになる造血幹細胞を体外で4倍程度に増やして白血病患者に移植する試みを、神戸市の先端医療センターが12月にも始める。細胞を供給する日本臍帯血バンクネットワークが5日、了承した。将来の「血液工場」の基盤技術にもつながるとみられている。先端医療センターは、ネットワークから提供された臍帯血に4種類のたんぱく質を加え、12日間培養する。これにより、造血幹細胞は4.3倍に、臍帯血移植の成功にかかわる細胞の全体では20〜30倍程度に増えることが確認されているという。造血幹細胞などを増やした臍帯血は、急性の骨髄性白血病とリンパ性白血病の患者計10人に移植する。1年間経過を観察し、安全性のほか、通常よりも臍帯血が早く患者に根付き、血液ができやすくなるかどうかを調べる。今年7月、ネットワークに研究利用を申請していた。白血病治療などを目的とした臍帯血移植は、これまでに国内で2500例以上実施されている。骨髄移植と違い必要に応じてすぐに移植できる、白血球型(HLA)の制約が緩やかなどの利点がある。造血幹細胞をもとに、白血球や血小板といった血液細胞に分化させる技術は確立しつつある。造血幹細胞を効率的に増やすことができれば、研究施設で血液細胞を工場のように大量生産することも可能になる。今回の試みが成功すれば、その第一歩になる。(平成17年11月6日 朝日新聞) オーダーメード医療実用化へ 患者一人ひとりの体質に合わせた医療(オーダーメード医療)の臨床での実現に向け、国立国際医療センターは7日から、外来・入院患者らの遺伝子情報などのデータベース作りに乗り出す。同センターは2〜3年後から実際の医療現場での治療、予防に活用していく方針。オーダーメード医療では、東大医科学研究所を中心とするグループが薬の効果などの研究を始めており、実用化を目指した研究が拡大していきそうだ。対象となるのは、糖尿病や高脂血症、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、白内障、がんなど122疾患。7日からまず外来患者への説明を始め、29の全診療科で患者の了解を得て血液や尿を採取する。その上で病気との関連が疑われる遺伝子のタイプ、尿中のたんぱく質や脂肪などを分析する。こうした遺伝子情報や臨床検査データなどをデータベースに登録する。3万人分の登録が目標としている。最も重要なのは遺伝子情報だ。遺伝子情報を調べると、個々人で少しずつ違う所があり、その違いによって薬の効果や副作用に違いが出る。この情報を知ることによって体質に合わせた治療や予防ができることになる。同センターは、患者の追跡調査も行い、遺伝子情報などから得られた治療法、投薬量が適切かどうかを検証する。東大医科研など14の研究機関と病院が2003年度から始めた「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」(5年間)では、約30万人の遺伝子から薬の効果、副作用などを調べ、データベース化を目指している。これとは別に、東大医科研では、2種類の抗がん剤について、効き目を遺伝子レベルで予測し、使い分ける外来診療を行っている。同センターは実際に医療現場で活用する段階では遺伝子情報はすべて匿名化する。同センター研究所の加藤規弘・遺伝子診断治療開発研究部長は「実用化のめどが立てば、個人情報の保護を万全にして他の医療機関にもデータを提供したい」と話している。国立国際医療センター:1993年、国立病院医療センターと国立療養所中野病院を統合して開設。 通常医療に加え、遺伝子治療や、エイズ、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)など感染症も研究。 発展途上国や災害発生地への医師の派遣、海外からの研修生受け入れも行っている。(平成17年11月5日 読売新聞) 親知らずから間葉系幹細胞 抜いた後の親知らずから、欠損した体の組織再生に利用できる「間葉系幹細胞」を採取し、大量に培養する研究に岐阜大学医学部のグループが取り組んでいる。親知らずは多くの場合、医療廃棄物として捨てられているのが現状で、廃棄物の有効利用としても注目されそうだ。 骨髄などに含まれる間葉系幹細胞は、脂肪や骨などいろいろな体の組織になる性質を持っており、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や重い骨折などで骨の形成を促す際などに用いられる。広島大学などが下あごの骨髄から間葉系幹細胞を採取し、培養する研究に取り組むなど、世界中で研究が進められている。柴田教授らの方法では、親知らずの内部にあるシリコン状の歯髄や、完全に生える前の親知らずの表面を包んでいる歯小嚢(しょうのう)を使う。 歯並びの矯正などの治療を受けた患者から、研究で使うことを断ったうえでもらい受けた親知らずを細かく刻み、間葉系幹細胞を採取する。 この方法で採取された間葉系幹細胞は、1〜2週間で約1万倍に増殖させることができる。親知らずは生えていこうとする「勢い」を持っているため、柴田教授は「骨髄から採取した間葉系幹細胞よりも活性度が高い」と指摘する。 また、零下180度ほどの液体窒素で親知らずを凍結させれば、半永久的に保存することもできる。現在、約30人分の親知らずから間葉系幹細胞の培養を行っており、歯の保存状態が良ければ、ほぼ100%の確率で採取が可能だという。間葉系幹細胞:人の骨髄の中に存在し、骨や筋肉、靭帯(じんたい)などの胞に分化する働きを持っている。このため、骨粗鬆症や重度の骨折の治療などに使われるケースもある。細胞の採取は比較的容易で、培養技術に関する研究が世界的に進められている。また近年では、心筋や神経細胞に分化する可能性も指摘されており、再生医療の分野で注目されている。(平成17年10月25日 朝日新聞) インスリン注射不要に 糖尿病の新治療法を目指して、インスリンを分泌するヒトの膵臓(すいぞう)の細胞を大量に作る技術開発に岡山大などのグループが成功した。マウスを使った実験で効果も確かめ、この細胞を利用した患者の体内に植え込む人工膵臓の開発も進めている。25日付の米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー電子版で発表する。 開発したのは同大医学部の田中紀章教授、小林直哉助手らを中心とする日米などの国際研究グループ。 膵臓のβ(ベータ)細胞はインスリンを分泌し血糖値を下げている。β細胞が破壊されたり、その働きが悪くなったりした糖尿病患者は、毎日、インスリン注射をしている。β細胞を作って患者に移植できれば、注射が不要となる利点がある。グループはヒトのβ細胞に、寿命をのばす遺伝子組み換え操作をして大量に増殖させた。ただ無限に増えるとがん細胞になる恐れがあるので、寿命をのばす遺伝子を後で取り除く操作もした。 増やしたβ細胞がインスリンを作ることを確かめた上で、糖尿病のマウスに移植すると、ぶどう糖を与えた後の血糖値を健康なマウスと同レベルにできた。移植しなかった糖尿病マウスは血糖値が高いままで、実験開始10週後までに死んだが、移植したマウスは30週以上生きた。 これまでヒトβ細胞の大量増殖は困難とされてきた。β細胞を含む膵島を提供者から移植する手術も試みられているが、実施例は少ない。 田中教授らは、増やしたβ細胞を小さな容器に入れて体内に植え込む人工膵臓を開発中だ。 効果や安全性の確認に課題はあるが、1〜2年後をめどに完成させて動物実験を進め、将来的な糖尿病患者への応用を目指す。(平成17年9月26日 朝日新聞 脂肪の幹細胞で骨髄再生 肥満の原因になる脂肪から、様々な組織のもとになる「幹(かん)細胞」を取り出し、骨髄を再生することに、日本医科大学のグループがマウスとラットの実験で成功した。骨髄は血液を作る働きをもち、将来は様々な血液疾患治療への応用が期待できる。10月の日本形成外科学会で発表する。 研究をしたのは、形成外科学(百束比古主任教授)と生化学第二講座(島田隆主任教授)のグループ。マウスとラットの脂肪組織を酵素で処理し、遠心分離器にかけて幹細胞を取り出して培養し、「足場」とともに皮下に移植したところ、骨髄をもつ骨が再生した。 幹細胞は骨や筋肉、神経など様々な組織や臓器になる可能性をもつ。再生医療では、受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)や骨髄にある幹細胞を使った研究も進められている。だが、血液疾患の多くは骨髄に原因があり、骨髄幹細胞を利用するのは難しい。また豊富にある脂肪を利用できれば、倫理的な問題や移植による拒絶反応、患者の負担などの軽減も考えられる。 同大形成外科の小川令助手は「骨髄が再生したことで、正常な血液を作る環境が整うと予測される。骨髄線維症や大理石病、白血病などの治療への応用が期待できる」と話す。(平成17年9月24日 朝日新聞) 再生医療で重い心臓病改善 埼玉医科大学は27日、重症の心臓病患者に患者の骨髄細胞を移植する再生医療を実施して、弱った心臓の機能を回復させることに成功したと発表した。患者は補助人工心臓をつけないと生命を維持できないほど重症だったが、日常生活を送れるまでに改善し、同日退院した。補助人工心臓をつけた重症患者が再生医療で退院できるまでに回復したのは、世界でも初めて。 治療を受けた患者は61歳の男性で、今年2月に心筋梗塞(こうそく)を起こし同大総合医療センターに入院した。一時的に心停止状態になったが、補助人工心臓を着けて命を取り留めた。持病の糖尿病が原因で腎臓の働きが低下し透析治療をしていることなどから、心臓移植も受けられる状況になかった。 許俊鋭教授らは患者の腰骨から骨髄液を採取し、赤血球などを除いた細胞などを冠動脈内に注入する治療を5月に実施した。その後、心臓の機能が回復し、6月には補助人工心臓を取り外すことができた。(平成17年8月27日 日本経済新聞) 人間の遺伝子組み込んだブタやヤギ クローン技術と遺伝子組み換え技術を使い、人間の遺伝子を組み込んだブタやヤギを相次いで誕生させたと、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)などの研究チームが24日、発表した。誕生したブタは、人間に移植しても拒絶反応が起きにくい臓器を持ち、ヤギは、人間に有用なたんぱく質を乳の中に分泌する。動物の体を医療に活用する新しい試みで、国内ではほとんど例がないという。研究チームは名古屋大医学部と協力し、このブタの臓器をサルに移植する試みに、今年度中にも着手。ヤギについても、3、4年後には薬品開発に向けた試験を開始したいとしている。研究チームは、拒絶反応にかかわる遺伝子をブタの胎児の細胞に、人の血液中に微量に含まれるたんぱく質の遺伝子をヤギの胎児の細胞にそれぞれ入れ、効率よく遺伝子が働く細胞だけを選出。この遺伝子組み換え細胞をもとにしたクローンのブタやヤギを、2003年8月から先月にかけて次々と誕生させた。(平成17年6月25日 読売新聞) 幹細胞移植で、マウスの腎不全を治療 腎臓の様々な細胞や組織のもとになる幹細胞を腎不全のマウスに移植して治療することに、菱川慶一・東京大助教授(腎臓内科)らのグループが成功した。20日付の米科学誌ジャーナル・オブ・セルバイオロジーに発表した。人の腎臓でもそれらしい細胞は見つかっており、慢性腎不全患者への新しい治療法として進展が期待されている。菱川さんらは、腎臓内の血管などに分化する腎臓の幹細胞の目印遺伝子を見つけ、この幹細胞が腎臓の間質(結合組織)に多数あることを確認した。健常なマウスから採取した幹細胞を、急性腎不全にしたマウスに静脈注射で移植したところ、回復が促進された。幹細胞が、腎臓を修復させたと考えられるという。菱川さんは「腎臓の幹細胞には様々な細胞に分化する能力だけでなく、組織を修復する能力もあることが分かった。患者の腎臓の幹細胞を体外で増殖させて戻したり、薬で幹細胞を活性化したりすることができれば、腎不全患者の治療につながる」といっている。(平成17年6月21日 朝日新聞) 自分の脂肪と血液で骨を再生 名古屋大学と協和発酵は患者自身のごく少量の皮下脂肪と血液をもとに、治療用に骨や脂肪組織を作る技術を開発した。骨髄液と動物の血液を使う従来法に比べ、体の負担や感染症などの危険性が低く、患者が高齢でも成功率が高いと期待される。骨折治療や乳がん摘出後の乳房再建など再生医療への応用を目指し、1年以内に臨床試験を始める。 新技術は患者の皮下脂肪から、骨や脂肪組織に成長するもとである「間葉系幹細胞」を取り出して使う。 従来この細胞は骨髄液に含まれる様々な細胞の中から採取するのが一般的だが、数万個に1個の割合でしかなく、十分な量を確保するには800ミリリットル近い大量の骨髄液が必要。 採取時の痛みなど体への負担が大きい。(平成17年6月3日 日本経済新聞) 末梢血幹細胞移植、提供後に健康悪化 健康な人から、血液のもとになる造血幹細胞を採取して白血病などの患者に移植する末梢(まっしょう)血幹細胞移植で、提供後に、くも膜下出血を起こすなど提供者の健康が悪化した例が52件あったことが日本造血幹細胞移植学会の調査で29日、分かった。 因果関係は不明だが、細胞を増やす目的で、提供前に投与する薬剤の副作用の可能性もあるという。 学会は移植の安全性を確認するため、病院に5年間、提供者の健康状態の報告を求めている。2000年から昨年末までの調査で、232施設から3143例の移植報告が集まり、1.7%に当たる52例の提供後30日以内の健康悪化例が報告された。症状別では血小板減少症が13人、肝障害が11人と多い。死亡例はなかったが、くも膜下出血(1例)、間質性肺炎(2例)など死につながりかねない症例もあった。30日を過ぎた後の中長期調査では、2例の白血病のほか、乳がん5例、甲状腺障害6例などが報告されたが、提供から発症まで時間がたっており、因果関係は低いと考えられるという。(平成17年1月29日 日本経済新聞) 薬効・副作用の個人差を遺伝子で診断 東京工業大学や東洋紡などの産学チームは、個人の体質を遺伝子から診断する基盤技術を開発した。それぞれの独自技術を結集した成果で、世界最高性能の診断機器を1年以内に試作する。あらかじめ体質を調べて患者ごとに最適な治療法を選ぶ「テーラーメード医療」を、外国製機器に頼らず純国産技術で実現できるめどをつけた。開発したのは、バイオ産業の育成を目指す国家的事業「ゲノムベイ東京プロジェクト」の産学チーム。東工大や東洋紡のほか、富士通九州システムエンジニアリング(福岡市)、日本農産工業、ゼリア新薬工業子会社のジーエスプラッツ(東京・中央)などが参加。 新技術は、血液などから遺伝子を効率よく抽出・分析し、薬の効き具合や副作用の程度を予測する。要となる抽出法や検出チップ、データ解析技術は海外企業が特許を押さえており、これらに抵触しないようなチップ設計や蛍光分析法、情報処理法などの独自技術を結集した。(平成16年12月24日 日本経済新聞) 「長寿型」遺伝子を発見 105歳以上の長寿者と一般の人で、遺伝子の個人差を比べると、インスリン受容体遺伝子のうち特定の型のものを長寿者が持っている傾向が強いことが分かった。共同研究した慶応大と理化学研究所、東京都老人総合研究所のグループは、「長寿型」遺伝子と見ている。動物ではこうした遺伝子は各種知られてきているが、ヒトでの報告は珍しい。 理研の小島俊男チームリーダーらが、105歳以上の長寿者122人と、19〜63歳(平均33歳)の一般人122人で比較した。動物実験で長寿との関連が指摘されていた6種の遺伝子で調べた結果、インスリン受容体遺伝子だけで統計的に意味のある差が出た。長寿者の57%が同遺伝子のうちの特定の型をもっていたが、一般人では47%だった。 インスリン受容体は、膵臓(すいぞう)から分泌されたインスリンと結びつき、細胞がブドウ糖を正常に利用できるようにする。今回の「長寿型」の受容体が、他の型の受容体とどう働きが違うかは未解明。研究グループの慶応大の広瀬信義講師(老年内科)は「インスリン系は動脈硬化などにも関連しており、詳しく調べたい」と話している。(平成16年12月17日朝日新聞) 骨に大量の幹細胞、安全に採取 骨内部の組織「海綿骨」に、様々なタイプの細胞に分化できる幹細胞が大量に存在することを、東京医科歯科大の運動器外科学教室(宗田大(たけし)教授ら)のグループが見つけた。幹細胞は再生医療で中心的役割を担い、骨髄液から採取して治療の試みが始まっているが、海綿骨からは1度でその約100倍も採れ、採取に伴う患者のリスクや負担を減らせるという。骨髄液に含まれる幹細胞は、骨や血液、脂肪組織などの細胞に分化する能力を持つため、失われた組織を再生するのに役立つと期待されている。 海綿骨は、骨組織のうち、内部にあるスポンジ状の多孔質組織。 同グループは、海綿骨の表面に付いている細胞を調べ、骨をつくり出す骨芽細胞や軟骨細胞、脂肪細胞などに分化できる細胞を発見。 骨髄液中の幹細胞とほぼ同じ特徴を備えていた。 体内に刺して微量の組織を採取する生検針によって、骨髄液からも、海綿骨からもほぼ同量の細胞が得られる。 だが、含まれる幹細胞の数は、海綿骨の方が約100倍も多かった。 関矢一郎助手は「骨髄液中の幹細胞は、海綿骨から供給されているのではないか」と話す。 骨髄液を得るには、多数の神経が通る背骨の中心近くまで針を刺さねばならない。 また、必要量を確保するために採取が数回に及ぶこともあり、再生医療を受けようとする患者にとってリスクと負担になっている。海綿骨からの採取なら骨盤などから安全に、1度で採取できる可能性が高いという。(平成16年7月19日 朝日新聞) へその緒で再生医療研究 幹細胞バンク稼働へ 赤ちゃんのへその緒の血液(臍帯血=さいたいけつ)を再生医療の研究に使う「幹細胞バンク」事業が、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)で本格的に始まる。同センターと東京大医科学研究所、全国に11ある臍帯血バンクのうち五つが参加して進める。臍帯血を利用した幹細胞バンクは世界でも珍しい。 臍帯血には様々な臓器や組織の細胞に分化する可能性を秘めた幹細胞が含まれ、白血病治療などに用いられている。 国内では日本さい帯血バンクネットワークに参加する各地域・大学のバンクが赤ちゃんの親から無償で提供を受け付けている。しかし、約6割は医学的な条件が合わないなどの理由で移植に利用されず、廃棄されているとみられる。 幹細胞バンク事業は、移植に使われなかった臍帯血を凍結保存するもので、倫理面などの条件を満たした研究者や研究機関に提供する。 赤ちゃんの親からは研究に使うことへの同意を文書で得る。 だれから提供を受けたかわからないように匿名化する。当面は、大学など非営利施設での研究用に限定する。 1単位を3万2000円の実費で提供する予定。 担当する中内啓光・東大教授(免疫学)は「再生医療の実現に向けて研究が加速することを願っている」と話す。(平成16年7月13日 朝日新聞) がん診断、遺伝子から抑制薬剤を生成 がんを見つけて治す機能を持つ遺伝子のDNA(デオキシリボ核酸)製の「DNAコンピューター」を、イスラエルのバイツマン科学研究所の研究チームが発明し、英科学誌「ネイチャー」に発表した。試験管内で、がんの遺伝子診断からがんを抑制する薬剤生成までを実現したのは世界初。研究チームは「将来は、生体内のDNAコンピューターが病気を診断し、治療可能になるかもしれない」としている。研究チームは、特殊な酵素を組み込んだDNAコンピューターを作り、がんの遺伝子が新たな細胞を作るための情報を伝えるメッセンジャーRNA(リボ核酸)の有無に反応する性質を持たせた。反応があれば、「がん」と診断。コンピューターのDNAの一部を切り離し、がん細胞の増殖を抑制、破壊するDNAの断片を作り出す。研究チームはこのコンピューターを使い、外から手を加えず、試験管内で肺がんと前立腺がんの小さな細胞の診断から薬剤生成までの流れを確認した。DNAコンピューターに詳しい陶山(すやま)明・東京大大学院教授(生物物理学)は「外から制御せずに自律的な処理を実現しており評価できる。しかし、実用化に向けては、材料となるDNAや酵素の改良、複雑な診断の実現などが課題になるだろう」と話している。(平成16年5月3日 毎日新聞) 抗がん剤治療で遺伝子レベルの効果予測 東京大学医科学研究所付属病院(東京・白金台)が抗がん剤の効き目を遺伝子レベルで予測して使い分ける外来診療に乗り出す。効果が期待できない患者には、別の治療法を選択することで、無益な副作用を避けることができる。患者一人ひとりの体質に合わせた「オーダーメード医療」の先駆けとして期待される。対象は慢性骨髄性白血病治療薬「グリベック」と肺がん治療薬「イレッサ」。がん細胞の遺伝子の働きを調べて、治療効果が期待できるか判定する。 診察は予約制で週1回。医科研ヒトゲノム解析センターの中村祐輔教授、古川洋一教授と同病院が協力。 医科研の倫理委員会に承認を申請し、早ければ来月にも開設したい考えだ。 イレッサは既存の薬が効かなかった肺がん患者の3割で患部が半分以下に縮小するなどの効果がある。一方で一昨年7月の発売以来、間質性肺炎を発症して亡くなる人が相次ぎ副作用が問題となっている。(平成16年4月8日 読売新聞) 花粉症にDNAワクチン、3回投与で数年間効果 スギ花粉症のアレルゲンを作る遺伝子を注射して完治を目指すDNAワクチンを、国立感染症研究所の阪口雅弘主任研究官らが21日までに開発した。犬の実験で、3回の投与で症状を数年間抑えることに成功した。DNAワクチンは、重い病気に限って臨床研究が認められている遺伝子治療の一種。人間の花粉症への利用が今すぐ認められる見通しはないが、阪口主任研究官は「まずはペット用に実用化したい」と話している。 花粉症は花粉に含まれるアレルゲンに刺激された免疫細胞が、アレルギー反応を引き起こす抗体を作るのが原因。同主任研究官らは、この細胞とは別タイプの免疫細胞ができやすくなる塩基配列を持つ環状DNAに、アレルゲンの遺伝子を組み込んでワクチンにした。マウスに3週間、週1回ずつ注射すると、別タイプの免疫細胞が優勢になり、花粉に刺激された時にできる抗体の量が低下。さらに精製したアレルゲン遺伝子を使うと、原因抗体はワクチンを投与していないマウスの約4分の1に減少した。 花粉症で皮膚炎になった犬に使うと、月1回、3カ月の投与で数年間症状が出なかった。スギ花粉症に悩むのは、人間だけではない。犬は皮膚炎やかゆみを起こし、猫やニホンザルは鼻水、くしゃみなど、人と同じような症状が出る。同主任研究官は「花粉症のペットを心配する飼い主に、ワクチンの需要は高いと思う」と話す。花粉症の完治を目指す療法には、アレルゲンそのものを少量注射する減感作療法もある。しかし、治療に数年かかることが多い。DNAワクチンは、注射した遺伝子が体内で長い間アレルゲンを作り続けるので、短期間の投与で効果が望めるという。 ■DNAワクチン 通常のワクチンは、不活性化した病原体やその断片などを投与し、体の免疫の働きを利用して病気を予防したり治療したりする。DNAワクチンは、病原体などの遺伝子の一部を投与する方式。通常のワクチンより、強力な効き目が期待できるとされる。米国では、ブタクサ花粉症のDNAワクチンの臨床試験が始まっている。(平成16年2月22日 日本経済新聞) 乳がん遺伝子診断、予防切除も検討 乳がんを手術する際、特定の遺伝子変異が関係しているとわかったら、健康な方の乳房も発がん予防のため切除す。こんな方法を選択肢に含めた乳がんと卵巣がんの遺伝子診断の臨床研究を、国立がんセンター(東京)など5医療機関が近く共同で始める。米国では発病していなくても遺伝子変異があれば乳房を予防切除するケースもある。 共同研究は発病した人だけを対象にするが、予防切除に踏み込むことに慎重な見方もある。 がんセンター中央病院のほか、癌研究会付属病院、聖路加国際病院(ともに東京)、栃木県立がんセンター。 慶応大学病院も加わる予定。 対象は、本人に加え、姉妹、母、祖母、叔母ら血縁者が発病したか、発病している「家族性乳がん・卵巣がん」の患者。日本には統計がないが、米国では乳がん・卵巣がんの7〜10%とされる。 調べるのは、BRCA1とBRCA2という遺伝子。これらの遺伝子の変異を親から受け継いでいると、そうでない場合より乳がんや卵巣がんになりやすいとされる。 これまで複数の医療機関で研究が行われたが、予防的治療に結びつけられたものはなかった。 今回の研究は日本人で変異がある人の割合や、変異が発病や治療の経過にどう影響しているかを分析するのが目的。5医療機関で計200人の患者を公募、2年かけて調べる。 検査は臨床検査会社ファルコバイオシステムズ(京都市)で行う。 患者が希望すれば検査結果を知らせる。変異があれば定期検診の強化を指導。米国では新たな発がんの予防のため、ホルモン剤を飲む方法があるほか、がんができていない方の乳房や卵巣の切除も行われていることを説明。患者が予防切除を強く望めば各医療機関の倫理委員会で是非を検討する。ただ遺伝子に変異があっても必ず発病するとは限らないし、発病するにしても、いつなのかはわからない。また、家族にどう伝えるかも問題だ。 患者には遺伝についてカウンセリングをし、詳しく説明する。 研究代表者の福富隆志・国立がんセンター中央病院外科医長は「検査後の患者支援として予防的治療も情報として伝える必要がある」と説明している。 研究のデータを分析して今後の診療にいかしたい考えだ。 米国人女性の場合、70歳までに乳がんになるのは一般に7%とされるが、両方の遺伝子に変異が見つかると87%に高まる。BRCA1に変異がある場合、卵巣がんになるのは2%以下から28〜44%に増えるなどと報告されている。(平成16年2月16日朝日新聞) ダウン症などの症状改善につながる遺伝子発見 住友化学工業は31日、ダウン症やアルツハイマー病の症状改善につながる働きがある遺伝子を発見したことを明らかにした。記憶や学習にかかわる脳神経組織に多く存在する遺伝子を見つけ、その機能を調べる過程でダウン症などとの関連を突き止めた。住友化学は、この遺伝子の働きを生かす物質の探索に着手しており、治療薬の開発を目指す。同社は、新たに発見した遺伝子を「NXF」と名付け、すでに特許を国内外で出願している。 ダウン症は、細胞の核内に含まれる21番染色体が通常より1本多いため、発症の原因となる遺伝子とされる「Sim2」も増え、神経機能が抑制されるとみられている。 住友化学の生物環境科学研究所が新たに発見した遺伝子の機能を解析したところ、原因遺伝子が神経活動に必要なたんぱく質の生成を抑制する働きをしているのに対し、正反対に促進する機能がみられたという。その働きを活性化させることができれば、ダウン症の症状を改善できる可能性があるとみている。 また、「NXF」を強制的に増やした細胞内でアルツハイマー病に関連する数種類のたんぱく質の発生量を調べたところ、アルツハイマー病特有のたんぱく質が減るなど、発生量が病気とは正反対の状態になることも分かった。 住友化学はこの研究成果を生かし、ダウン症やアルツハイマーの治療薬の開発に取り組む方針。脳疾患には未解明な部分も多く、ゲノム情報を基にして、症状を抜本的に改善する新薬の開発が期待されている。(平成16年2月1日 朝日新聞) 余分な脂肪から幹細胞取り出し豊胸手術 体の余分な脂肪から幹細胞という特殊な細胞を取り出し、乳房を大きくする手術に用いる臨床研究を東京大学病院のグループが近く始める。再生医療の研究の一つ。美容のために吸引された脂肪は捨てられていたが、その有効利用を目指す。乳がんで乳房を一部切除したり、事故で傷が残ったりした場合への応用が考えられるという。 幹細胞は、様々な臓器や組織になる可能性をもつ細胞。骨髄などにあることが知られ、再生医療の研究に使われている。脂肪の中にも含まれることがわかってきた。計画しているのは、形成外科の吉村浩太郎講師ら。幹細胞が脂肪や血管になって乳房を大きくする効果を期待する。当面の対象は3人で、最初は30代の女性に実施する。腹部から脂肪を吸引し、一部を胸に注入するが、この際に残りの脂肪から幹細胞を集め、注入する脂肪に混ぜて幹細胞の濃度を高める。従来の豊胸手術はシリコーンや脂肪をそのまま使うが、老化で皮膚が委縮して変形したり、体内に吸収されて効果が薄れたりすることが多い。 マウス実験では、幹細胞を用いると脂肪を使うより定着率が20〜50%ほど高まったという。このほか吉村さんらは脂肪から抽出したコラーゲンなどをしわや鼻筋に移植する治療も計画。すでにみけんのしわに注射する治療を行っている。 東大医学部倫理委員会は研究の承認の際、3人ずつ治療した時点で検討し継続について判断するという条件を付けた。 再生医療に詳しい森下竜一・大阪大学教授(遺伝子治療学)の話 脂肪組織は幹細胞の供給源として世界的に有望視され、ユニークな研究だ。ただ、入れた細胞がどう働き、どのくらい残るのかなど分かっていない部分も多い。生命を脅かす疾患でない領域への応用になる。研究段階にある再生医療をどの疾患に適用するかなど幅広い議論が必要だろ(平成16年1月20日 朝日新聞) 薬の効き目や副作用を簡単に遺伝子診断 薬の効き目や副作用など体質による個人差を、一滴の血液を使って2時間で調べられる遺伝子診断の検査法を、東北大学医学部遺伝病学分野の松原洋一教授と呉繁夫教 授が開発した。松原教授らによると、患者から採取した一滴の血液と合成デオキシリボ核酸(DNA)を含んだ特殊な液体を反応させて、健康診断で使う検尿用紙のような長さ10センチの細長い試験紙に垂らし、紫色の反応線が現れるかどうかで判定できる。 従来の検査法は数百万―数千万円もする機器や熟練したスタッフが必要で、数日から数週間かかるが、新しい検査法は一回の検査コストが300―400円。検査時間も2時間で済むという。 同じ薬でも人によって効き目が異なったり、副作用が出たりするのは、全遺伝情報(ヒトゲノム)の0・1%が個々人で異なるため。 今回、開発された検査法は、個々人に最適な治療法を提供する医療が一般の病院や診療所に普及する一助となりそうだ。 松原教授らは、旅客機のエコノミークラスのような狭い座席に長時間座ることなどで起きる「エコノミークラス症候群」を起こしやすいかなど16種類の遺伝子診断に応用できることを確認したとしている。(平成15年12月5日 読売新聞) 移植片が他の臓器に分化 ぼうこうや横隔膜などの一部が、胃や十二指腸に移植すると移植先の臓器と同じ細胞に分化することを、広島大原爆放射線医科学研究所の渡辺敦光教授(実験病理学)らが1日までにラットの実験で確かめた。近く国際学会誌に発表する。 多様な組織や臓器に分化、成長する能力を秘めた「幹細胞」を骨髄などから採取して再生医療に生かす研究は進んでいるが、今回の方法は各臓器にわずかに含まれる幹細胞を利用する試み。研究例は少なく、今後の進展が注目される。渡辺教授らは、生後8週間のラットから食道、気管、ぼうこう、横隔膜の一部を採取し、別のラットの胃と十二指腸に移植する方法で、5−10匹の移植ラットを3カ月後と6カ月後に調べた。 十二指腸に移植されたぼうこうの組織はすべてのラットで十二指腸の組織に分化。食道も胃や十二指腸の細胞に分化した。横隔膜は分化したかどうか確認ができなかったものの、胃や十二指腸の組織と見分けがつかなくなったという。(平成15年11月1日 中国新聞) 京大、ヒトES細胞を11月にも無償提供開始 京都大学再生医科学研究所は22日、人体のあらゆる組織や細胞になる能力を持つヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の無償提供を11月にも始めると発表した。同研究所で作製し50以上の国内研究機関に提供できるという。国産ヒトES細胞の供給体制が整ったことで、失われた組織や臓器を修復する再生医療の研究が本格化する。 国産ヒトES細胞は同研究所の中辻憲夫所長らが不妊治療で余った受精卵約20個を譲り受けて作った。国の承認を受けた研究機関にそれぞれ約200万個を提供する。京大内に22日設置した運営委員会で第三者への分配を禁止するなど提供を受ける研究機関を対象とした規則をまとめ、早ければ11月19日以降、希望を受け付ける。 国産ヒトES細胞を譲り受ける機関としては、理化学研究所や京大医学研究科などが名乗りを上げている。 理研はパーキンソン病などの治療に使う神経細胞、京大医学研究科は血管をそれぞれES細胞から作り出す計画だ。(平成15年10月22日 日本経済新聞) 自分の血で血管再生 神戸・先端医療センターが新治療法 自分の血液中にある血管のもとになる細胞を使い、病気の部分の血管を再生させる新しい治療法を、神戸市にある先端医療センターが始める。 細胞の発見から積み上げた研究の応用で、同センターの再生医療審査委員会が1日、臨床研究を承認した。 糖尿病などで足の血管がつまる「閉塞(へいそく)性動脈硬化症」の重症患者が対象で、体への負担が少なく、治療効果が期待できるという。 早ければ10月中にも実施する。 新治療を申請したのは同センターの浅原孝之・再生医療研究部長。 計画では、血管のもとになる血管内皮前駆細胞を薬で増やした後、血液を体外に循環させながらこの細胞を採取し、患部に注射する。 神戸市立中央市民病院と協力し治療を希望する患者を約15人募る。閉塞性動脈硬化症は歩行困難や足の壊死(えし)につながる病気。 浅原部長は97年、血管内皮前駆細胞が大人の血液中にあることを世界で初めて報告した。 ネズミやブタを使った基礎研究で、この細胞の注射が壊死を食い止めたり、血管を再生させたりする効果を確かめてきた。 この細胞は骨髄細胞の中にも含まれ、すでに複数の医療機関が同じ病気の患者に自分の骨髄細胞を注射する臨床研究を行っている。 しかし、骨髄採取には全身麻酔が必要で、患者の負担が重い。 骨髄細胞には骨や筋肉などのもとになるほかの細胞も混ざっている。 新治療ではこうした問題点が避けられる。 浅原部長は「薬の副作用などリスクはあるが、骨髄細胞と同等以上の効果が期待できると思う」と話す。 同様の方法で心筋梗塞(こうそく)の治療も近く申請する予定。 米国の大学でも、この方法での臨床研究を準備中という。 先端医療センターは神戸市が進める「神戸医療産業都市構想」の中核施設。 今春、全施設が整い、安全に細胞を扱える設備もある。再生医療の臨床応用や医療機器開発などに力を入れている。<再生医療に詳しい中畑龍俊・京都大大学院医学研究科教授の話>しっかりした基礎研究の手順を踏み、科学的根拠にのっとって計画されている。 慎重に進めるべきだが、新しい方法として評価できる。(平成15年10月2日 朝日新聞) パーキンソン病 治療に道 あらゆる組織や臓器に分化する能力があるサルの胚(はい)性幹(ES)細胞から作製した神経細胞を、人間のパーキンソン病と同じ症状を示すサルの脳に移植して症状を改善させることに、京都大学大学院医学研究科の橋本信夫教授(脳神経外科)らが世界で初めて成功した。 人間のパーキンソン病治療にもつながる成果で、仙台市で開かれている日本脳神経外科学会で3日、発表する。 パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが不足することで運動障害などが起こる。 橋本教授らは、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹ディレクターらが開発した方法を使って、サルの胚性幹細胞をドーパミンを分泌する神経細胞に分化させた。 この神経細胞を、パーキンソン病の症状を示すサルの脳の線状体と呼ばれる部位に移植したところ、3か月後、手のふるえや姿勢が改善した。 さらに、脳内に移植した細胞がドーパミンを分泌していることも確認した。 研究グループは「安全性を確認する必要がある」としている。《パーキンソン病》病名は1817年に初めて報告した英国人医師の名前からつけられた。 治療が困難な神経系の病気で、手足の震え、歩行が小刻みになるなどの症状が出る。 国内の患者数は人口10万人当たり約100人。 50代後半から60代での発症が多い。(平成15年10月2日 読売新聞) 直接移植可能な軟骨再生法 ひざ関節の動きに重要な役割を果たす軟骨の細胞を、体内環境に近い条件で自動的に培養する装置を、米ハーバード大医学部の水野秀一主席研究員と、ガス機器・電子機器メーカー「高木産業」(静岡県富士市)が共同開発し、再生した軟骨を治療に生かす臨床試験を米国で始めた。 この装置は、患者から取り出した微量の軟骨細胞をコラーゲン上で培養。その際、培養装置内に圧力をかけるのが特徴だ。歩行や運動で生じるのと同様の刺激を軟骨細胞が受けるので、細胞同士の結びつきが促進され、軟骨が再生する。 これまでの軟骨再生システムは、液体中に散らばる培養細胞を、患者のすねなどから取った骨膜に包んで患部に入れる仕組み。これだと、手術後は骨膜が破れないよう長期間患部を固定する必要があった。 これに対し、新しい装置では、軟骨そのものが再生するため、患部に直接移植することが可能で、安静期間やリハビリの時間を短縮できるという。 同社は今月、米国内の病院2か所と提携し、臨床試験を始めた。当初は、スポーツ事故などでひざ軟骨に障害を受けた患者が対象となるという。(平成15年8月26日 読売新聞) 神経成長に必要な遺伝子を発見 脳の中で、感情や記憶を生み出している神経細胞の成長に欠かせない遺伝子を、東京大学大学院の広川信隆教授(細胞生物学)らが、新たに突き止めた。 この遺伝子は神経細胞の形状を調整していて、この遺伝子の働きを止めたマウスは、生後まもなく死んでしまった。 26日付の米生物学誌「セル」に発表した。 神経細胞は、細胞の中心部から軸索(じくさく)という細長いさやを伸ばし、その先端から他の神経細胞に情報を伝えている。 今回解析した遺伝子(KIF2A)は細胞の中心部で作られるたんぱく質を軸索末端に運ぶ役目を持つと考えられてきた。 広川教授らが、この遺伝子の働きを止めたマウスを作り出したところ、不必要な軸索が多数伸びた特異な構造を取ることが分かった。 神経細胞には本来、効率的に軸索を伸ばす能力があるが、これが阻害されたと見られる。 この遺伝子は、たんぱく質の「運び屋」として働くだけでなく、軸索の先端で不必要な軸索を分解し、神経細胞同士の回路作りを担っているらしい。 この遺伝子(KIF2A)の働きが弱いことが原因で発症する神経疾患もあるとみられ、広川教授らは今後の研究で、病気との関連などを調べる計画。(平成15年7月29日読売新聞) 白血病に関連する遺伝子発見 慢性骨髄性白血病の発病にかかわる遺伝子を、京都大生命科学研究科の湊長博教授らが発見した。新しい治療薬の開発に役に立つという。22日付の米科学誌キャンサー・セルに発表する。 湊教授らは細胞の増殖に関係する「SPA1」という遺伝子を特定してその詳しい働きを研究。 この遺伝子が働かないネズミを作ったところ、生後1年を過ぎるころから慢性骨髄性白血病の症状を示し始め、さらに半年ほどたって急性骨髄性白血病になった。 中年以降に多く発病し、後に急性となる人間の慢性骨髄性白血病と同じような進み方だった。 SPA1が作るたんぱく質は、細胞増殖などの刺激を伝えるスイッチにかかわる。 これがないとスイッチが入りっぱなしになって細胞ががん化するとみられる。 人の慢性骨髄性白血病の9割以上は、染色体に異常が起きてできる異常たんぱく質が原因。 湊教授らは、この異常たんぱく質ができると、SPA1たんぱく質の量が減ることも突き止めた。 湊教授は「いま使われる薬は異常たんぱく質を標的にしているが、長く飲んでいると効かなくなることがある。 SPA1の働きを補う薬を開発すればより有効な治療ができるだろう」と話す。(平成15年7月22日 朝日新聞) 国内初のヒトES細胞を作製 京都大学再生医科学研究所(中辻憲夫所長)は27日、人間の様々な臓器や組織に育つ能力を持つヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を、国内で初めて作製したと発表した。10月にも研究機関への無償配布を始める 。ES細胞を利用して傷んだ臓器を修復する再生医療の実用化に一歩近づく。 不妊治療のために凍結保存されていた受精卵のうち、既に子供が誕生するなどして廃棄が決まったもの10個以内を譲り受けて、ES細胞作りに利用した。ある程度育てた受精卵から取り出した細胞を培養してES細胞を作った。 この細胞を分析したところ、ES細胞で活発に働く遺伝子がこの細胞でも盛んに機能しており、ES細胞の特徴を持っていた。 培養で神経細胞などに変えることもできた。同研究所は今秋以降の分配に向けて、今後、提供を希望する研究者向けの研修体制などを整える。 ヒトES細胞から作る神経やすい臓などの細胞を患者に移植すれば、傷ついた臓器を修復できる可能性がある。国内で提供を希望する研究機関は30―50カ所程度と同研究所はみている。(平成15年5月27日日本経済新聞) ES細胞から卵子、米の研究者らが成功 米ペンシルベニア大の研究者らが1日、世界で初めて、胚(はい)性幹(ES)細胞から卵子を作ることに成功したと発表した。 ES細胞はさまざまな組織、臓器になる能力があるが、卵子や精子を作ることは難しいと考えられていた。 生殖医療を進歩させる成果で、詳細は2日付の米科学誌サイエンスに発表される。 同大のハンス・シェラー教授らは、卵子のもとになる卵母細胞が発現する遺伝子に注目。 この遺伝子が発現していると蛍光色を発するように手を加えたES細胞を作成した。 培養したES細胞の中からこの遺伝子が発現したものを選び、培養を続けたところ、26日目に卵母細胞のような構造を確認、43日には卵子のような細胞ができたことを確認した。 ただ、この卵子は、これまでのところ精子との受精には成功していない。 シェラー教授は「人間の細胞でも同じ結果が出れば、治療に応用することができる」と話している。(平成15年5月2日読売新聞) 乳歯の中に幹細胞を発見 抜け落ちた乳歯の中に、歯や骨、神経など幅広い細胞に変身する能力を秘めた幹細胞が見つかった。 米国立保健研究所(NIH)の研究チームが21日、米科学アカデミー紀要のオンライン版に発表した。幹細胞が見つかったのは、乳歯の内部の歯髄という部分。 ここの組織を培養した結果、乳歯1本当たり12〜20個の幹細胞を分離できることが確かめられた。 培養する環境を変えてやると、歯の細胞にもなれば骨の細胞にもなる。 また、細胞表面のたんぱく質の特徴から見て、神経や脂肪の細胞に変身する能力をもつ可能性も大きいという。 一般的に乳歯は20本あり、生後6カ月くらいに生え始める。 6〜12歳で永久歯に生えかわるのがふつうだ。 研究チームは「へその緒に含まれる幹細胞と同じく、母胎内で体が形成されたときの名残だ。 さらに詳しく調べたい」という。(平成15年4月22日朝日新聞) ヒトゲノム解読 完了後の課題はたんぱく質解析 ヒトゲノムの解読が終わった。86年の提案から17年。最終的に日米英独仏中の24機関が参加、3500億円を超す巨費がつぎ込まれた。DNAの二重らせん構造が発表されてから50年。記念の年の解読完了宣言になった。 98年にデータを製薬企業などに販売する目的で米企業が独自に解読を始め、激しい競争を展開。これが解読完了を2年前倒しした。 ただ解読データは配列にすぎず、ゲノム解読後(ポストゲノム)の研究が課題だ。その一つが、たんぱく質の構造と機能の解析だ。遺伝子のつくるたんぱく質が生命活動を担い、その研究は新薬の開発につながる。米国立保健研究所(NIH)や理化学研究所などのチームが解析に着手した。 ヒトゲノム解読とは違い、たんぱく質解析は特許に直結し、膨大な利益をうむ可能性がある。可能な限り多くの特許を押さえようと、各国は協力しつつ競争もしている。 ほかにも個人差の研究や、病気の遺伝子の体系的な研究などポストゲノムのテーマは多い。ヒトゲノム解読で出遅れた日本だが、ポストゲノム研究は欧米と対等以上に戦いたい考えだ。 ヒトゲノム解読計画の日本側のリーダー役、榊佳之・理研ゲノム構造情報研究グループプロジェクトディレクター(東京大教授)は「今回の成果は文字の配列にしか過ぎない。やっとスタートラインに立ったところ。文字が意味する生命現象についての研究はこれから本格化する」と話す。(平成15年4月15日朝日新聞) 心臓に細胞の再生能力 米国の著名な医療研究機関として知られるメイヨークリニックの研究グループは、傷を治す力がないとされてきた心臓に細胞の再生能力があることを突き止めた。もとをたどると骨髄にあった細胞が血流に乗って心臓に達し、成長ホルモンなどの刺激を受けて心筋細胞に分化する。心筋細胞への分化を制御できれば、発作などで傷ついた心臓を治療する有効な手段になるとみている。 研究グループは男性のドナーから骨髄移植を受けた女性の白血病患者の心臓組織を採取した。特殊な染色法で心筋細胞を8万個以上調べたところ、425個に1個の割合で、Y染色体を含む男性ドナーの骨髄に由来する心筋細胞が混じっていたという。(平成15年3月13日日経産業新聞) 94歳骨髄から心筋細胞に、“細胞若返り遺伝子”使い 94歳の女性の骨髄細胞に、細胞の寿命を延ばす遺伝子を組み込み、心筋細胞に変化させることに国立成育医療センター(東京都)と慶応大医学部などのグループが成功した。様々な細胞になり得る骨髄中の幹細胞は年を取ると衰えるが、90歳代の細胞でも若返ることが確認できた。こうした細胞を移植して臓器や組織を再生させる医療の幅を広げる成果で神戸市で開かれている日本再生医療学会で12日発表された。研究グループは、女性や家族の同意を得て骨髄細胞を採取。これに、細胞の寿命を決める“回数券”といわれる「テロメア」という部分の長さを保つ働きのある遺伝子を組み込んだ。通常、骨髄細胞は20回程度で分裂を止めるが、遺伝子を入れた細胞は50回以上分裂し、寿命が延びていることが確認できた。 この細胞を増殖させると2日後に筋肉のような細胞になり、7日後には拍動を始めた。マウスの心臓に移植したところ、心筋として働いた。(平成15年3月12日読売新聞) 幹細胞から骨や筋肉を自在に育てる技術開発 幹細胞という特殊な細胞をマウスの骨髄から取り出して培養し、骨や筋肉などの細胞に自在に育てる技術を、東北大加齢医学研究所の帯刀(おびなた)益夫教授(細胞生物学)らのチームが開発した。再生医療の研究に役立つと期待される。帯刀教授らはベンチャー企業を設立。培養キットを年内にも販売する。 研究は、科学技術振興事業団(埼玉県川口市)のプロジェクトで、事業団が6日発表した。事業団は、この技術を将来、ヒトの細胞に応用することを検討している。 チームは、アカゲザルの腎臓がん細胞から、細胞が死ななくなることにかかわる遺伝子を採取。この遺伝子をマウスに組み込んで子どもを誕生させ、子どもの骨髄から幹細胞を取りだした。 幹細胞はさまざまな組織や臓器の細胞になり得る能力をもっているとされるが、ふつうは何度か細胞分裂を繰り返すとその能力が衰えるので凍結保存する必要があった。 しかし、チームがつくった幹細胞は、分裂を繰り返しても骨や筋肉になる能力が持続する特徴があった。この幹細胞を使って培養する物質の成分や温度をうまく工夫した結果、ある条件では骨の細胞に、別の場合には筋肉の細胞に――と自在に育てられたという。 事業団は、培養キットは新薬を開発する際の安全性チェックなどにも利用できると説明。ベンチャー企業は2010年に年100億円の売り上げを目指すという。(平成15年3月10日朝日新聞) 臍帯血から肝細胞、移植に代わる治療法に可能性 赤ちゃんのへその緒にある臍帯(さいたい)血に含まれる細胞を取り出して、肝臓の細胞に成長させることに、東京医科歯科大の寺岡弘文教授のチームが世界で初めて成功した。肝細胞を大量に培養して病気の肝臓に注入する手法が確立されれば、肝臓移植に代わる新しい治療法となる可能性がある。11日から神戸市で始まる日本再生医療学会で発表する。 重い肝臓病の完治には、肝臓移植しか手がない。しかし脳死移植は提供者が少なく、生体肝移植は、提供者の体に大きな負担を与える。様々な臓器に育つ胚(はい)性幹(ES)細胞の研究もあるが、受精卵を壊して作るため倫理的な問題が残る。 研究チームは、臍帯血に含まれる細胞群に、肝細胞を増やす物質などを加えて培養。すると、肝細胞に成長し、肝臓だけが作るたんぱく質(アルブミン)を分泌し始めた。一方、ネズミの肝臓に、細胞群を注入すると、約4週間で肝細胞に成熟。1年以上もアルブミンを分泌し続けた。 (平成15年3月9日読売新聞) 羊膜やへその緒から再生医療材料 妊娠中に胎児を包む子宮内の羊膜から神経や肝臓など様々な組織や臓器に成長する能力を持つ幹細胞を多数取り出すことに東邦大学などが成功した。東京医科歯科大学のグループはへその緒からとれるさい帯血の細胞から肝臓の組織を作ることに成功。いずれも移植した際の拒絶反応が少ないことが特徴で、再生医療の有望な材料になるとみている。10日から神戸市で開く日本再生医療学会で発表する。東邦大学の桜川宣男客員教授と臨床検査大手のエスアールエルの共同グループは羊膜の細胞1000万個から6万個という高い割合で幹細胞を取り出した。同様の幹細胞があるとされる骨髄と比べ6倍以上の頻度で存在する。(平成15年3月8日日本経済新聞) 心房細動起こす遺伝子異常発見 不整脈の一種で高齢者に多い心房細動の原因となる遺伝子異常を、中国とフランスの共同研究チームが突き止めた。症状が出る前に遺伝子検査で診断できる可能性もあり、新しい治療法の開発につながる成果という。10日発行の米科学誌サイエンスで発表する。 心房細動は、心房の筋肉が不規則に細かくふるえる病気。ひどくなれば心不全を引き起こす。脳梗塞(こうそく)の原因にもなる。65歳以上の20人に1人が心房細動を起こすともいわれる。 研究チームは、中国の山東省に住む遺伝的に心房細動になりやすい家系の44人について、遺伝子の塩基配列を比べた。心房細動がある16人はいずれも、11番染色体上にあるKCNQ1と呼ばれる遺伝子に異常があった。 KCNQ1は、細胞膜でカリウムイオンを通すポンプ役のたんぱく質を作ることがわかっている。不整脈の一種で、心電図の波形の周期が通常より延びるQT延長症候群も、この遺伝子の異常が原因で起きるとされる。(平成15年1月10日朝日新聞) 心肺能力高める遺伝子変異見つかる 走っても息切れしないほど体内で効率よくエネルギーを作り出す遺伝子の変異を東京都老人総合研究所の白沢卓二研究室長らが突き止めた。この変異がある人は、高地トレーニングで鍛えた陸上選手のような心肺能力を潜在的に備えていることになる。遺伝子を調べることで、優秀な長距離ランナーの卵を発掘できる可能性もある。 この遺伝子は、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンを作り出すもの。変異がある人のヘモグロビンは、普通のヘモグロビンに比べ、筋肉などに酸素を運ぶ能力が高いことがわかった。 実際に、この遺伝子変異を持つ東北地方の女性(29)の協力を得て行った研究では、急な坂道を10分間自転車で駆け上がる運動をしても、呼吸数は1分間に約20回と、運動前と変わらなかった。この女性の姉(31)に同じ運動をしてもらったところ、呼吸数は35回に跳ね上がり、息苦しさを訴えた。 研究チームはさらに、この遺伝子変異を持つマウスを人工的に作り出して実験。低酸素状態で飼育すると、通常のマウスは呼吸数が増えたが、遺伝子を改変したマウスは変わらなかった。走り回る距離も2倍に延び、運動好きになった。 狭心症など血液が十分に酸素を運べない病気の患者に対し、この変異を持つよう遺伝子治療を施したり、変異型ヘモグロビンを輸血したりするなど、治療への応用も期待できるという。(平成15年1月6日読売新聞) 幹細胞を効率分離――再生医療へ応用 慶応義塾大学の岡野栄之教授、松崎有未助手らは、臓器や組織へと成長の見込める幹細胞を各臓器・組織から効率よく分離することに成功した。幹細胞は損傷した組織などを補う再生医療に有望とみられているが、これまで一部の組織を除き採取する方法がなかった。幹細胞を利用する治療研究を促しそうだ。 色素で細胞を染色した後、色素をよく排出する細胞をレーザーを当てて自動的に選び出す装置を使い分離する方法を開発した。色素の排出率の高い細胞が幹細胞と考えられるという。 この方法でネズミの骨髄細胞約1万個の中に4個の造血幹細胞を見つけた。また腎臓や肝臓、膵臓(すいぞう)、小腸、前立腺、精巣などの臓器と筋肉や心筋、角膜、皮膚などの組織からも幹細胞の採取に成功した。(平成14年12月23日日本経済新聞) コラーゲン大量生産の可能性も 蚕から精製に成功 広島大と広島県産業科学技術研究所(東広島市)などの研究チームが、ヒトの遺伝子を組み込んだ蚕の繭からヒトのコラーゲンを精製することに成功した。医薬品や化粧品に使うコラーゲンは牛など動物から抽出している。これよりアレルギーが出にくく、大量生産も期待できる。米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジーのオンライン版で16日に発表される。 コラーゲンは皮膚や軟骨などを構成するたんぱく質で、ヒトの体を作るたんぱく質のうちの約3割を占める。 チームはコラーゲンを作るヒトの遺伝子を大腸菌で増やして蚕の卵に注射。これを育て、その次世代の蚕にも遺伝子が組み込まれたことを確認した。この蚕が作る繭には主成分の絹たんぱく質のほかにヒトコラーゲンが約1%含まれ、薬で処理するなどして抽出した。 ヒトコラーゲンの精製は、細菌や植物以外の生物では世界初という。(平成14年12月16日朝日新聞) 骨の再生医療に参入 オリンパス光学工業は27日、病気やけがで傷んだ骨を患者自身の細胞を使って治す再生医療に参入すると発表した。患者の骨髄液から骨に育つ細胞に分離培養する作業などを手掛ける。来秋をめどに臨床試験を始め、2006年末に培養細胞の発売を目指す。骨の再生医療の事業化に大手企業が着手したのは初めてで、人口高齢化による骨鬆(そしょう)症患者の増加などをにらんでいる。 オリンパスは医療機関から預かった患者の骨髄液から抽出した幹細胞を培養し、骨に育つ細胞に分化させて医療機関に戻す。患者に対し細胞を患部に移植して効果や安全性を確かめ、薬事承認を取得後に発売、2012年度に100億円の売り上げを狙う。 病気やけがで欠損した骨の治療にはこれまで患者自身の骨や人工骨を移植していたが、患者への肉体的負担が大きく、採取できる骨の量も限られる。オリンパスは欠損した骨を修復する骨補てん剤を発売しており、この主成分が骨に育つ細胞を培養する足場として活用できる。(平成14年11月27日日本経済新聞) 胎児組織の研究利用認める 再生医療研究等における幹細胞の研究利用に関する指針の策定を進めている厚生労働省の「ヒト幹細胞を用いた臨床研究のあり方に関する専門委員会」は15日に開いた会合で、人工妊娠中絶などで死亡した胎児の幹細胞を再生医療研究等に利用することを認めるとともに、利用に際しての指針を示すことを決めた。 政府が胎児組織の研究利用を公に認めたのは初めてで、今年度中に作成する「ヒト幹細胞等を用いる臨床研究に関する指針(案)」の中に盛り込む方針だ。研究利用の具体的なルールは、次回の専門委員会で検討される予定。 再生医療研究の活発化に伴い、国内ではヒト胎児組織の研究利用が盛んに行われており、治療が困難な脳や脊髄の再生治療研究などで一定の成果を上げている事例もある。国立大阪病院と慶應大学医学部による胎児組織由来の神経幹細胞を用い脳・脊髄の再生・修復方法を目指す研究を進めているほか、海外ではパーキンソン病の先進的治療として、ヒト胎児神経組織の移植が施行され、その有用性が報告されている。 その一方で、同委員会の中畑龍俊委員長(京大大学院医学研究科教授)は「胎児を用いた研究が爆発的に行われている中で、患者に対する有用性や安全性に十分配慮する必要がある」として、胎児組織の利用に関するルールを何らかの形で明示することが必要との認識を示した。(平成14年11月18日薬事日報) 阪大・東北大チーム、「ALS」進行抑制に成功 宇宙論で有名な英国のホーキング博士がかかっていることで知られる、運動神経が徐々にマヒして死に至る難病「筋委縮性側索硬化症(ALS)」の進行を、「肝細胞増殖因子(HGF)」を使って抑えることに大阪大の船越洋・助教授や中村敏一教授、東北大の糸山泰人教授らの研究チームが動物実験で成功した。 HGFは中村教授らが発見。肝臓に限らず、細胞死を防ぐ能力が大きいことがわかり、グループは、神経細胞の死滅を防ぐ作用もあるのではないかと考えた。 ALSの原因とされる遺伝子を神経細胞に組み入れたマウスと、神経細胞がHGFを出すよう遺伝子を操作したマウスを交配し、ALSの遺伝子を持ち、HGFを出すマウスを作製。ALSの遺伝子だけを持つマウスは、8か月後に神経細胞の数が40%に減り、歩行困難になったが、HGFも出すマウスでは70%が残り、運動能力にほとんど変化はなかった。寿命もHGFを出すマウスの方が約1か月長く、人間で言うと6年ほど長命だった。ALSの患者は日本だけで約5000人。進行を抑える手段は、なるべく体を動かすことぐらいしかない。船越助教授は「運動機能を保ちながら延命する効果が認められた。他の神経難病でも研究を進めたい」と話している。(平成14年11月1日読売新聞) 再生医療へ「幹細胞バンク」 病気やけが、老化で傷んだ体の一部を“修復”できる治療として期待される「再生医療」の基盤整備を目的に、文部科学省は来年度から5年計画で、臓器や組織に分化する能力を持つ幹細胞を作り、保存する「ヒト幹細胞バンク」を設立することを決めた。 白血病治療のために臍帯血(さいたいけつ)から作った幹細胞を利用するバンクはあるが、再生医療の幹細胞バンクは国内で初めて。 再生医療では、幹細胞と同じように、心臓や肝臓、皮膚、神経など様々な臓器・組織になる能力を持つ胚(はい)性幹(ES)細胞が注目されているが、受精卵を壊して作るため倫理的な問題が指摘されている。臍帯血から幹細胞を作製することはこの倫理問題を避けられる利点がある。 計画によると、幹細胞バンクは集めた臍帯血から、造血幹細胞や神経幹細胞などを取り出し、治療に必要な量に増やす技術を開発する。作った幹細胞は、医療機関に提供する。 臍帯血からはすでに造血幹細胞が見つかっているほか、東大医科学研究所がへその緒がつながっている胎盤から神経や骨などに変わる幹細胞を発見していることから、臍帯血からも同様の幹細胞が見つかるとみられている。 他人の幹細胞から作られる臓器や組織は、拒絶反応を起こす心配がある。しかし、「2―3万種類の臍帯血を収集すれば、日本人の8割には拒絶反応が出ないような体制が作れる」(文科省)としており、同省は数万種類の臍帯血の収集を目指す。さらに、拒絶反応を起こさない幹細胞を作製する手法を確立する方針だ。一連の研究開発は、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)を中心に、大学や製薬会社など産学官共同で進めていく。(平成14年7月27日読売新聞) 動脈硬化やがん増殖にかかわる遺伝子発見 血管の修復や生成の際に働き、動脈硬化やがんの増殖に関与している遺伝子を東大の新藤隆行助手、永井良三教授らが発見、8日、米医学誌ネイチャーメディシン(オンライン版)で発表する。動脈硬化などの新薬や治療法の開発につながると期待される。発見したのは遺伝子「KLF5」。動脈硬化などが起きる際に活発に働き、細胞の増殖や分化に関係する別の遺伝子のスイッチを入れる。研究チームは、マウスを使って両親から受け継いだ二つのKLF5遺伝子のうち一つだけが働くように遺伝子を操作。遺伝子が作り出すたんぱく質の量を半分にして、普通のマウスと比べた。血管に傷がつくと、普通のマウスは傷を修復するときに炎症がおこり、血管の壁が厚くなって動脈硬化の状態になる。ところが遺伝子操作をしたマウスは、こうした変化が抑えられた。また、普通のマウスにがんを移植すると、がんのまわりに新たに多数の血管ができ、がんに栄養を送るが、遺伝子操作マウスではこうした血管新生は、ほとんど起こらなかった。遺伝子がつくるたんぱく質の量が半分になったことで、動脈硬化や血管新生に大きな変化が生じたためとみられる。研究チームは、KLF5と一緒に働く遺伝子を突き止め、その遺伝子の働きを抑えることで動脈硬化や血管新生をえられることも確かめた。チームでは、詰まった血管を広げる治療の後に、再び血管が詰まることを予防する新たな治療法の開発を検討している。将来、心不全やがんなどの治療薬の開発につながる可能性もあるという。(平成14年7月8日朝日新聞) 人工神経使い欠損部分修復に成功 事故などで失われた神経を人工神経で修復する再生手術に、奈良県立医科大学(奈良県橿原市)と京都大学の研究グループが世界で初めて成功したことが17日分かった。体のほかの神経を利用する自家移植と違って、神経を切り取らずに済む画期的な治療法になる可能性がある。 この人工神経は京大再生医科学研究所の清水慶彦教授らが開発。体内で吸収される高分子で作った網目状のチューブに、豚皮から採ったコラーゲンというたんぱく質を塗って作る。コラーゲンには細胞増殖作用があり、神経の欠損部につなぐと本来の神経が伸びて両端がつながる仕組みだ。欠損部の長さが10センチの場合まで対応できる。(平成14年6月18日 日本経済新聞) 毛髪寿命、遺伝子操作で延びた 髪の毛を作る細胞の遺伝子を操作して細胞の寿命を延ばすことに、広島大学の吉里勝利教授らが成功した。この細胞が発毛促進能力を持つことも確認した。毛髪を増やす究極の遺伝子治療につながる基礎技術として注目される。 人間を含む動物の細胞には、一定の回数分裂すると、分裂が止まる仕組みがある。回数を数えているのは、遺伝情報が詰まった染色体の端の部分で、「テロメア」という。ここが短くなると、分裂しなくなる。 広島大の研究チームは、人間の毛髪の根元にある「毛乳頭」細胞に、短くなったテロメアを元に戻す酵素(テロメラーゼ)の遺伝子を組み込み、培養してみた。その結果、遺伝子を組み込んだ毛乳頭細胞は、組み込まないものに比べ、分裂回数が倍以上増えて、増殖を続けたという。 毛乳頭には、表皮細胞を毛髪のもとになる毛母細胞に変化させる機能がある。研究チームが、酵素遺伝子を組み込んだ人間の毛乳頭細胞をネズミの背中に移植したところ、移植した部分から毛が生えてきた。 吉里教授は「人間で実施するには、安全性を厳重に点検する必要があるが、細胞のがん化など問題となりそうな現象は今のところ見つかっていない」と話している。(平成14年6月3日 読売新聞) 体の節つくる遺伝子発見 脊椎(せきつい)動物の背骨や筋肉に見られる節構造をつくる遺伝子を、二階堂昌孝・埼玉大助手(生体情報学)らのグループが小型熱帯魚ゼブラフィッシュを使った研究で解明した。20日、米科学誌ネイチャージェネティクスのオンライン版で発表する。節構造は、ヒトを含む脊椎動物の共通の特徴。体のしなやかな動きに欠かせない。研究結果は、脊椎動物の体づくりの解明につながる。二階堂氏は水産総合研究センター養殖研究所(三重県玉城町)や国立遺伝学研究所(静岡県三島市)などとtbx24という遺伝子に注目。受精卵に薬剤を入れてtbx24の働きを止めると、2つの節に分かれるはずの骨が1つにつながるなど、背骨や筋肉の節構造が乱れた。ゼブラフィッシュでは従来、節構造が乱れた突然変異体が5種類存在することが知られている。原因遺伝子が分からなかった1種類のtbx24を調べると異常があった。人工的な手段による乱れと突然変異体の乱れの原因に矛盾がないことから、tbx24が節づくりに欠かせない遺伝子だと結論づけた。(平成14年5月20日 朝日新聞) マウス骨格筋から新タイプの幹細胞を発見 東海大学医学部の玉木哲朗講師(生体構造機能系生理科学)、安藤潔助教授(内科学)の研究グループは13日、マウス骨格筋から新しいタイプの幹細胞を、世界で初めて発見したことを明らかにした。ヒトで見つかれば、心筋梗塞や筋ジストロフィーなどに対する再生医療への道が開かれるものと期待される。研究成果は13日付の米国「ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー」に掲載された。今回発見された幹細胞は、骨格筋内の細胞から独立しており、今まで多くの幹細胞が発見されてきた、骨幹筋内の筋繊維に付着している筋衛星細胞とは異なり、筋繊維と筋繊維との間にある間質細胞に存在している。フローサイトメトリーでこの幹細胞を分離精製し、培養を行った結果、筋繊維や血管を構成する細胞になることを確認、さらに脂肪細胞に分化することも分かった。マウスとin vivo試験では、この幹細胞を移植することにより、筋肉を再生できた。ヒトでの存在はまだ確認されていないが、骨格筋は体重の約4〜5割を占めており、自家移植細胞の供給源としては有望視されている。今後、研究の進展によっては、心筋梗塞や難病といわれる筋ジストロフィーの治療、交通事故あるいは手術による大幅な筋欠損等の治療など、再生治療、細胞移植治療への応用が期待される。(平成14年5月13日 薬事日報 ) 放線菌のゲノム、英グループが解読 結核の薬のストレプトマイシンなど抗生物質や免疫抑制剤の生産に広く利用されている有用な放線菌の一種の全遺伝情報(ゲノム)を、英国のサンガーセンターなどのグループが解読、結果を9日付の英科学誌ネイチャーに発表した。未知の酵素を作る遺伝子も確認され、薬剤耐性菌にも効果がある抗生物質など、新たな薬剤を開発する上での基礎となるデータとして注目されそうだ。 グループが対象にしたのは、代表的な放線菌の一種で、各国で研究が進んでいるストレプトミセス・セリカラーという菌。 発表によると、ゲノムは約867万の塩基対で構成され、これまでに解読された細菌のゲノムの中では最も大きい。この中に含まれていた遺伝子の数も、約7800個と、他の細菌に比べてかなり多かった。 研究グループは「さまざまな機能を持つ土壌細菌の研究や、遺伝子工学によって新たな薬を作る際に、有用なデータが得られた」としている。(平成14年5月9日 日本経済新聞) ES細胞から精子作り受精、マウスで成功 体のどんな細胞にもなり得る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から精子を作って卵子と受精させる。マウスを使ったこんな実験に、三菱化学生命科学研究所(東京都町田市)の野瀬俊明主任研究員らが成功。受精卵がある段階まで育つのも確認した。ES細胞はその特質から万能細胞と呼ばれる。神経などさまざまな細胞が作られているが、次代に性質を引き継ぐ精子をつくって卵子と受精させたという報告はない。野瀬さんらは、精子や卵子のもとになる生殖細胞だけで働く遺伝子を見つけ、これを目印にして生殖細胞を見分ける方法を考え出した。さらに培養法を工夫、ES細胞を効率よく生殖細胞に変化させる技術も開発した。こうして作った生殖細胞を、生殖にかかわる別の細胞とまぜ、大人のマウスの精巣に移植。1〜2カ月で精子ができた。ES細胞からできた精子であることを確認して卵子と受精。受精卵はある程度分裂した。ES細胞は遺伝子を操作しやすいとされ、それを増やすことも容易。この研究は家畜の改良に結びつく可能性がある。人に用いれば遺伝子改変ベビーにつながる技術だが、人でこうした研究をするのは文部科学省の指針で禁じられている。野瀬さんは「人に応用する考えは一切ない。遺伝子改変が自由にできるようになる前に是非の論議が必要だ」と話す。(平成14年4月30日 朝日新聞) ES細胞使った京大の血管再生計画、文科省が承認 様々な細胞になる可能性がある人間の胚性幹(ES)細胞の研究について、文部科学省の専門委員会は23日、京都大学が申請しているES細胞から血管を作る計画を承認した。人間のES細胞研究では、同大再生医科学研究所の国産のES細胞を作る計画が承認されているが、使用計画では初めて。作製と使用が認められたことで、わが国での研究が本格的にスタートする。 研究を計画しているのは、同大大学院医学研究科の中尾一和教授らのグループ。3年計画で、ES細胞から血管の内皮細胞や外壁である壁細胞に分化できる細胞を取り出し、増殖物質を使って血管を再生させる。ES細胞は、国内では3月末に作製が承認されたばかりなので、オーストラリア・モナッシュ大が作ったものを譲り受ける。 専門委員会では、同グループがマウスや猿の動物実験で成果を上げるなど、十分に経験を積んでいる点を評価、科学的に合理性、必要性を要する計画と判断した。輸入するES細胞については、適切な手続きを経て作製されたもので、国の指針の基準とも合致すると認定した。この計画には、共同研究者の田辺製薬も国に研究計画を申請しており、今後、同委員会で審議する。一方、米国で作られたES細胞を使って神経や骨など、あらゆる細胞に分化させる研究計画を申請していた信州大学は、心筋と肝細胞に絞った計画に修正した。同委員会で「動物実験が十分でない」「範囲が広すぎる」などの意見が出たためで、17年先まで記載していた計画を3年間に変更するなど、内容を大幅に修正した。(平成14年4月23日 読売新聞) 抗がん剤にがん細胞への栄養止める働きを確認 がん細胞の遺伝子を標的にする抗がん剤として世界で初めて承認されたハーセプチンに、がん細胞に栄養を送る血管ができるのを食い止める働きがあることを米ハーバード大医学部の泉陽太郎研究員たちが見つけ、サンフランシスコで開催中の米国がん学会で発表した。抗がん剤を開発する上で重要な成果と注目され、泉研究員は同学会の若手研究者賞を受賞した。 ハーセプチンは、がん細胞の表面にできる「HER2(ハーツー)」という特殊なたんぱく質の働きを抑える。乳がんの約3割にはこのたんぱく質が過剰にできることが知られ、ハーセプチンは特効薬として日本など世界約40か国で使われている。ただその働きは未解明の部分が多い。(平成14年4月11日 読売新聞) ラットの「心筋シート」移植し拍動確認 体外で自動的に拍動するシート状の心臓の筋肉を新生児ラットの心筋細胞から培養し、心臓に移植して生着させることに東京女子医大の岡野光夫教授(再生医療)と大阪大の澤芳樹講師(心臓血管外科)のグループが10日までに成功した。 心筋の構造と機能を併せ持ち、心臓に張ると同調して動き出す心筋シートを培養作成したのは世界で初めて。研究グループは、ヒトでは新生児の細胞が使えないため、将来は多様な組織に分化する骨髄中の幹細胞や、万能性を持つヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)などの培養細胞から心筋シートを作成することを検討しており、新たな治療法の開発が期待できそうだ。 研究成果は、京都市で18日始まる日本再生医療学会などで発表する。(平成14年4月10日 日本経済新聞) 末梢神経の再生に新手法 慶応大グループが治療法開発 手足を動かしたり、痛みなどを感じたりする末梢(まっしょう)神経の傷ついた部分を2センチ以上再生させる治療法を、慶応大の仲尾保志・助手(整形外科)らが開発し、ネズミをつかった動物実験に成功した。10日から新潟市で開かれる日本手の外科学会で発表する。神経の成長を助けるたんぱく質を、神経の周りにあるシュワン細胞が分泌していることに着目。筏義人・鈴鹿医療科学大教授らと共同で、体の中で溶ける直径2ミリの高分子チューブをつくり、その中でシュワン細胞を立体的に培養させることに成功した。ネズミの足の神経に2センチの欠損部をつくり、この細胞入りのチューブで橋渡しをすると、8週間後、歩けなかったネズミが歩けるようになった。チューブの中で神経が成長し、つながっていた。チューブは次第に溶けてなくなる。長さ約1センチまでの神経の欠損は縫い合わせることができるが、それ以上の欠損は、体のほかの部分から神経を切り取る移植手術が行われている。今回開発した方法が実用化されると、健康な部分を傷めずに神経再生が可能になる。(平成14年4月8日 朝日新聞) 新薬開発に役立つ卵産むニワトリの生産に成功 ニワトリの遺伝子を組み換えて特殊なたんぱく質を含む卵を産ませることに、米バイオ企業アビジェニックス社などのグループが成功した。薬に役立つたんぱく質を作るため遺伝子を導入した羊やヤギなどを作る試みが世界的に進んでいるが、ニワトリは早く成長して卵をたくさん産む利点がある。すでに複数の製薬企業と契約を結び、ある種のたんぱく質生産にも着手しているという。 成果は、米科学誌ネイチャーバイオテクノロジー4月号に発表された。ニワトリにβラクタマーゼというたんぱく質を作る遺伝子を導入、卵にそのたんぱく質が含まれるかどうかを調べた。これらのニワトリは最高で年間330個の卵を産み、卵は17ミリ・グラム以上のβラクタマーゼを含んでいた。さらに、これらのニワトリ126羽が産んだ卵546個がかえった。だが遺伝子を受け継いだひよこは約10%だった。 薬の成分に役立つたんぱく質はこれまで、大腸菌などの微生物に遺伝子を入れて作らせるのが一般的だった。だが高等動物に作らせると、より質の良いものができるとしている。 (平成14年4月2日 読売新聞) |
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