2002年〜2007年


大衆薬の販売方法、副作用リスクに応じて見直し

厚生労働省は、かぜ薬など薬局で売る大衆薬を副作用の程度で3つに分類し、リスクの高い薬は薬剤師がカウンター越しに手渡しする対面販売を義務づける方針を決めた。発毛薬や胃腸薬、水虫治療薬にも対象になる薬があり、陳列棚から購入者が自由に手にとって選んでいた薬局やドラッグストアの光景は様変わりしそうだ。 年明けの通常国会に薬事法改正案を提出、06年度中にも施行される見通しだ。大衆薬の販売制度の大幅な見直しは60年に薬事法が制定されてから初めて。新制度では大衆薬を主要成分に応じて、A分類=安全性の評価が確立していない、B分類=まれに入院以上の健康被害が起きる可能性がある、C分類=入院までは至らないが、身体に不調が起きる可能性があるに分類される。対面販売や薬剤師による文書説明について、Aは義務化、Bは「努力義務」とする。一方、リスクが低いCは電話相談窓口設置などを条件にインターネットなどでの通信販売を認める。また販売員の質を上げるため、副作用や薬事法など安全対策を中心にした試験を新設。薬剤師かどうか区別できるよう、着衣の色なども定める。副作用は、例えば胃腸薬ガスター10の主成分ファモチジンの場合、肝機能障害や呼吸障害などが報告されている。現行の薬事法は、医薬品を売る際には薬剤師や販売員が購入者にこうした副作用情報を伝えるよう義務づけている。しかし実際には薬剤師が不在だったり、情報提供が不十分なまま販売されたりする例が多く、薬害防止に向けて販売方法の見直しが課題となっていた。(A分類)リアップ、ファモチジン、ガスター10、ブテナロック(B分類)バファリンA、ベンザブロックIP、マキロン(C分類)イソジンうがい薬、ハイチオールC (平成17年12月30日朝日新聞)

新型インフルエンザに対する行動計画

東京都は26日、世界規模での流行が懸念される新型インフルエンザに対する行動計画をまとめた。予測を超えた大流行の際には、公立学校の体育館などを医療施設に転用することなどを盛り込んだ。都総務局などによると、都内では最大で約380万人が感染し、約1万4000人が死亡すると予測。国は人口の25%が感染すると想定しているが、都は人口集中を考慮し、約30%の感染を想定した。この予測を超えて大規模に流行した場合、知事が緊急事態宣言を出し、公共交通機関の運行縮小や野球場、劇場など集客施設でのイベント自粛を要請する。病床が不足する事態に対処するため、公立学校の体育館などの施設を臨時医療施設として使い、外来診療や入院患者の受け入れを行う。(平成17年12月26日毎日新聞)

インスリン調節の酵素発見

血糖値を下げるインスリンの分泌量を調節する酵素を富沢一仁岡山大助教授(細胞生理学)らが26日までに見つけた。血糖値が高くないときにインスリンが効きすぎると、低血糖となり意識障害を起こす場合があるが、この酵素の働きを抑制すると血糖値が高いときだけインスリンの分泌が促進される。 糖尿病の新たな治療薬開発につながる可能性があるという。富沢助教授らは、脳の神経細胞にある酵素「Cdk5」が、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)のベータ細胞にもあり、インスリン分泌量を制御していることを突き止めた。(平成17年12月26日 中国新聞)

おなかの風邪、今冬も急増中

「おなかに来る風邪」と呼ばれる感染性胃腸炎が急増中だ。昨冬には広島県の特別養護老人ホームなどで多くの死者を出しており、乳幼児や高齢者には、特に注意が必要だ。全国約3000の小児科を定点観測している国立感染症研究所によると、感染性胃腸炎の報告は10月半ばごろから増え始め、最新集計の11月28日〜12月4日の1週間では1医療機関当たり11.75人が受診。山口、佐賀、福井、福岡の4県では20人を超えた。昨冬のピークは12月20日〜26日で全国平均15.83人だった。 感染性胃腸炎は腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、発熱が主症状で、ウイルスや細菌、原虫などによって引き起こされる。今の時期はノロウイルスが大半を占めるとされており、昨年暮れから今年の年始にかけて広島県の特養で入所者7人が死亡したのもその集団感染だった。ノロウイルスは寒いほど長生きすると考えられている。通常は適切に水分補給すれば1〜3日で回復するが、乳幼児や高齢者では急激な脱水症状や吐物による窒息などに注意が必要だ。下痢止めは、病原体を腸内にとどめ、症状を悪化させかねない。予防には、例えばカキなどの食べ物を85度で1分以上加熱してウイルスを殺すほか、トイレ後などの手洗い徹底が大切だ。特に、保育施設や高齢者施設では、配膳や、吐物や便の適切な処理と消毒が重要だ。感染研の岡部信彦・感染症情報センター長は「感染の疑いがある人は入院・入所者の見舞いを避けるなど、うつさない配慮も必要。症状がなくなっても1週間程度はウイルスが出ているので油断しないで」という(平成17年12月24日 朝日新聞)

医療費、「包括払い」の病院拡大へ 

厚生労働省は来年度、医療機関への医療費の支払いについて、あらかじめ設定した一定額しか払わない「包括払い」(DPC)の対象病院を現在の82病院から拡大する方針を決めた。試行的に実施している62病院すべてを対象に加えるほか、調査に協力している228病院の多くにも広げる考え。また、現在「1日当たり」の金額設定を、将来的には「1入院当たり」に変更するよう検討を進めている。DPCは、例えば注射を打てば打つほど病院の利益になる現在の出来高払い制を改め、何本注射をしても一定額しか支払わないようにする制度。入院中の注射のほか、検査、投薬などを対象としている。医療費膨張に歯止めをかけるのが狙いで02年度に導入され、現在は大学病院などで実施されている。同省はDPC対象病院を今年7〜10月に退院した52万人について、平均入院日数を調査。02年同期に比べ2.81日減の17.56日に短縮されるなど、毎年着実に入院日数が短くなっているという。ただ、同じ病気で6週間以内に再入院した人の割合は毎年増加している。02年は2.54%だったのに対し、05年は4.26%に増えた。こうした点を日本医師会は「診療内容がよくなったとは言えない」と批判している。(平成17年12月23日 毎日新聞)

療養病床、介護型を2012年度めどに廃止

厚生労働省は21日、長期にわたり療養している高齢者が入院する療養病床への介護保険の適用を2012年度をメドにやめる方針を決めた。医療の必要性が薄いにもかかわらず長期入院する「社会的入院」を減らすのが狙い。同病床は医療保険の対象となる患者しか利用できなくする。すでに介護保険を適用している病床は老人ホームなど居住型の介護施設への転換を促す。療養病床は長期療養が必要な高齢者のためのベッドで、全国の医療機関に約38万床ある。入院費などが介護保険から給付される介護型(14万床)と医療保険が適用される医療型(24万床)に分かれている。(平成17年12月22日 日本経済新聞)

がん促進遺伝子、転移抑制効果も 京大助教授ら発見

膵臓がんや肺がんなどを引き起こす遺伝子「N−ras」に、がんを悪性化させたり、転移を抑える働きもあることを、京都大の高橋智聡・特任助教授と米ハーバード大のマーク・ユーイン博士が発見した。新しいがん治療開発の手がかりとなる可能性がある。N−ras遺伝子は、突然変異が起きたり、「Rb」と呼ばれるがんを抑制する遺伝子がなくなると、さまざまながんを引き起こすことが知られていた。高橋助教授らは、マウスの体に二つずつあるN−rasとRbの遺伝子を一つ、あるいは二つ欠損させ、体のどの部位にどんながんができるかを調べた。Rbだけを二つとも欠損したマウスは脳下垂体に悪性のがんができたが、Rbに加えてN−rasもすべて欠損すると、がんは良性腫瘍になった。しかし、同じマウスで、のどの甲状腺にできたがんの場合は、Rbが二つ、N−rasが一つ欠損すると良性腫瘍ができ、さらにN−rasもすべてなくなると、他の臓器に転移を起こす悪性のがんに変化した。高橋助教授は「N−rasは従来言われていた単純ながんを促進する遺伝子ではなく、組織によって正反対の働きもすることが分かった。 N−rasの機能を制御すればより効果的ながん治療法を生み出せるだろう」と話している。(平成17年12月19日 毎日新聞)

コンタクトレンズの定期検査、保険対象外に 

厚生労働省は、コンタクトレンズ購入後の定期検査や買い替え時の検査について、原則として保険給付の対象から外す方針を固めた。06年4月から実施したい考えだ。定期検査は義務ではないが、同省は推奨し、店頭でも検査を求められるケースが多い。このため、買い替え時などの検査が引き続き行われると、こうした費用は全額、利用者負担になる。一方で、検査を受けずにレンズを購入する人たちが増えることによる安全性の問題を指摘する声もある。14日の中央社会保険医療協議会に示した。同省によると、コンタクトレンズの使用者は約1500万人。使い捨てレンズなどの量販店に隣接して、レンズ処方のための検査に特化した診療所も増えている。平均すると購入時の初診で6610〜7460円、検査などの再診で1900円の医療費がかかっているという。同省は、レンズの購入は医師の処方箋がなくても可能として、買い替えなどの際の定期検査は保険対象外とする方針。レンズを初めて購入する際や、使用中に目の異常を感じたときの検査は、引き続き保険の対象とする。同省は00年、医療関係者に対する安全性情報の中で、自覚症状がないときでも定期検査を推奨。(平成17年12月15日 朝日新聞)

北海道稚内産のけい藻土を使った壁がアトピーに効果

北海道稚内産のけい藻土を使った壁がアトピー性皮膚炎に効果があることが、浜松医科大と大手住宅メーカー、パナホームの研究グループの調査で分かった。浜松医科大病院で稚内けい藻土を使用した病室を作ったところ、患者の症状が改善したという。けい藻土は海中の藻類(植物プランクトン)の死がいが、海底に長年にわたって堆積した粘土状の泥土。同社によると、稚内産のけい藻土は、地層が地圧と熱による圧力を受けたため変質し、細かい気孔が多数できている。このため、他に比べて、調湿性やガス吸着性が優れ、吸湿性は一般の3倍にも上る。同社は03年からリフォーム用建材として、稚内けい藻土をしっくいなどに混ぜて壁に塗布したところ、顧客から「アトピーが治った」との声が寄せられた。このため、同大と協力し、昨年10月から半年間研究した。稚内けい藻土を壁に塗布した病室で、患者6人に2週間入院してもらい、臨床データを測定し、病室外の患者6人と比較した。その結果、ストレスの指標には変化がなかったが、かゆみ、皮膚の発しんなど3項目で改善がみられたという。稚内けい藻土が室内の湿度を抑えたことで、アトピーの原因の一つであるダニ、カビなどを発生しにくくする効果があったとみられる。同大医学部皮膚科の滝川雅浩教授は「アトピー性皮膚炎に悩む人への朗報と考える。改善効果のメカニズム解明を進めていきたい」としている。同社は稚内けい藻土を塗った壁をリフォーム住宅だけでなく、新築にも広げていく方針。(平成17年12月14日 毎日新聞)

国内初のオーダーメード医療部新設

三重大学医学部付属病院は「オーダーメイド医療部」を国内で初めて新設したと発表した。 遺伝子配列の個人差に着目して無駄な投薬を減らしたり副作用や拒否反応を事前に回避したりするなど患者ごとに最適な薬物療法や、生活習慣病の早期診断システムの構築を目指す。 新設部署は遺伝子解析、治療薬物モニター、予防医療、臨床、研究開発、情報管理の6部門で構成する。専任スタッフは置かず、学内の検査部、薬剤部、看護部や付属病院の関連診療科など既設部署が横断的に連携する。(平成17年12月14日 日経産業新聞)

女性の足、太くていい

心臓病にならないためには、減量はしても足は細くしない方がいい。筑波大人間総合科学研究科の大蔵講師らが成人女性を対象に行った健康調査で、そんな結果が出た。腹部の内臓脂肪とは違い、足にある脂肪には心臓病を防ぐ働きがあるらしい。肥満気味の女性のための減量プログラムに参加した128人を対象に、体重や血圧、総コレステロール値などのほか、X線を使った装置で胴体や腕、足の体脂肪量の変化を調べた。減量は食事のカロリーを制限したうえ、有酸素運動を週に3回するなどした。14週間後、参加者の体重は平均で8キログラムほど減った。うち7キロ近くは体脂肪だった。血圧や中性脂肪の値など、心臓病のリスクを予測する指標は、胴体の脂肪がたくさん減るほど改善した。ところが、ももやふくらはぎなど足全体の脂肪については、少ししか減らない人の方がより改善する傾向だった。足の脂肪は平均2.1キロ減っていたが、例えば、脂肪の減り方が30グラム少ないと、最低血圧(拡張期血圧)が1ミリHg(ミリ水銀柱)低くなる計算だという。足の脂肪から、動脈硬化などを防ぐホルモンが出ている可能性が考えられている。大蔵さんは「内臓脂肪を落とすことが大切。健康の面からは『足やせ』はしない方がよさそうです」という。(平成17年12月12日 朝日新聞)

胎盤形成にかかわる遺伝子発見

東京医科歯科大学などのチームは12日、胎盤の形成にかかわる遺伝子を発見したと発表した。生物の設計図であるゲノム(全遺伝情報)のうち不要と思われていた情報の中にある特殊な遺伝子で、この遺伝子を持たないマウスは胎盤が正常にできなかった。生物進化の解明や不妊症研究などに役立つという。 東京医科歯科大、東海大、理化学研究所、三菱化学生命科学研究所のチームは、ヒトやイヌ、マウスなど哺乳類でだけ存在が確認されている遺伝子「Peg10」に着目。この遺伝子がないマウスを作って受精後の胎児の発育を調べたところ、妊娠10日目に胎盤の形成が異常になり成育しなかった。Peg10は、エイズウイルスや白血病ウイルスなどのような細胞内のゲノムに入り込む「レトロウイルス」の遺伝子が変質して出来上がった遺伝子と考えられている。哺乳類のゲノムの3分の1以上は役に立たない不要なごみ情報と見なされているが、その中にある。(平成17年12月12日 日本経済新聞)

HIVが熟年女性に拡大

50歳以降に初めてエイズウイルス(HIV)感染がわかる女性のうち、体調不良などで偶然見つかる場合が4割強に上ることが、エイズ治療の基幹的病院である東京都立駒込病院感染症科の調査でわかった。エイズは性行動の活発な若者の病気というイメージが強いが、調査を担当した看護師は「中高年にも新たな出会いが広がり、リスクが低いとされた熟年以降に感染が広がる懸念もある」と警告している。日本エイズ学会で発表した。1986〜2004年に、同病院でHIV感染が初めて確認された50歳以上の女性は14人で、50歳代が8人、60歳代が6人だった。このうち「夫などのエイズ発症、感染」をきっかけに感染がわかったのは57%。「自分の体調不良」「他の疾患の治療」がそれぞれ21%と、自ら進んで検査を受けた例はなかった。 閉経前後の女性は、寝汗、微熱などのエイズ関連症状を加齢に伴うものと医師も本人も判断しがちで、見落とされる可能性があるという。50歳を過ぎた女性のHIV感染は、日本ではまだ少ないが、欧米では増加傾向にある。感染予防に有効なコンドームも閉経後は「妊娠しないから」と使用継続が難しいのが実情だ。(平成17年12月12日 読売新聞)

インスリンの"出口"発見 分泌不全の糖尿病治療に

膵臓から分泌されるインスリンの量を"出口"部分で調節するタンパク質を山縣和也大阪大助手(内分泌・代謝内科学)らが見つけ、米医学誌セル・メタボリズムに7日、発表した。 糖尿病の新たな治療法につながる可能性があるという。 山縣助手らは、特定の遺伝子変異が原因でインスリンの分泌が著しく悪い糖尿病の膵臓細胞と正常な細胞を比較、従来腎臓だけで見つかっていた「コレクトリン」というタンパク質が膵臓にも存在するのを確認した。 マウスの実験で、このタンパク質はインスリンの分泌量に応じて増減していることが分かり、細胞膜の近くで細胞外に放出するインスリン量を調整していることを突き止めた。 山縣助手は「飲む薬でコレクトリンを増やすことができれば、インスリン注射と比べ患者の負担を減らせる」と話している。(平成17年12月7日 中国新聞)

鶏肉や卵の加熱「70度以上で」

国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は5日、鶏肉や卵は70度以上の高温で十分火を通せば鳥インフルエンザに感染する心配なく食べられるとの声明を発表した。 感染が広がっている地域で生産された家きんの肉や卵を生や半熟で食べないよう警告している。人間に感染する危険が高いのは死んだ鶏を始末したり鶏を食肉処理する時。 感染した鶏の肉や卵が市場に出回り、消費者が危険にさらされる可能性は小さいが、十分加熱して調理すれば、さらに安全性は高まるとしている。(平成17年12月10日 日本経済新聞)

肝がん患者 生存期間2倍に

肝臓がんの治療で、病巣部への強力な放射線の集中照射と抗がん剤投与を組み合わせることで、患者の生存期間を大幅に延ばすことができることを米ミシガン大学の研究チームが確認し、米医学誌に発表した。研究チームは、手術できない肝臓がん患者128人に対し、カテーテル(細い管)で肝臓に直接、抗がん剤を投与。同時に、がん細胞に放射線を集中させるため、様々な角度から照射する「三次元照射」という放射線治療を行った。照射は1日2回、2週間続けた。その結果、患者の平均の生存期間は15・8か月と、従来の進行がん患者の平均8〜9か月に比べ、向上した。副作用がみられたのは3分の1以下だった。多くの血管が集まる肝臓は、放射線に敏感で、重い副作用が出るなど放射線治療が難しいとされてきた。(平成17年12月5日読売新聞)

インフルエンザ、今冬はA型流行か

今年も各地でインフルエンザの患者が出始めた。昨シーズンにB型が大流行したため、今シーズンは免疫を持つ人が増えたB型より、A型が流行の主流になるとみられる。なかでもA香港型は短期間で多くの人がかかる可能性があり、専門家は注意を呼びかける。東京都は、「今冬はA型(Aソ連、A香港)を中心とした流行となる」とのインフルエンザ流行予想を公表している。昨シーズンに全国で分離されたウイルスをみると、例年半分以上を占めるA型が少なく、B型が56%を占めた。B型が半分を超えたのは8シーズンぶりだった。この結果、今年は例年になくB型の免疫を持つ人が多いとみられている。都による免疫の有無を調べる検査でも、過去15年でB型の抗体保有率が2番目に高く、A型は平年並みだ。国立感染症研究所感染症情報センターの安井良則主任研究官も「過去20年間、B型が2年連続で大流行を起こしたことはない」としている。インフルエンザウイルスは表面のたんぱく質が少しずつ変異するため、ワクチン用に次シーズンに流行しそうな株を同研究所が予想し、厚生労働省が決めている。今冬は、Aソ連型の「ニューカレドニア株」、A香港型の「ニューヨーク株」、B型の「上海株」の3種類だ。A型の中でも香港型が流行すると、若い元気な人もかかり、重症化する可能性がある。特に高齢者や小さい子どもは流行前にワクチンを受けておいてほしい。 不要な外出を避け、うがい、手洗いや規則正しい生活も忘れずに(平成17年12月2日 朝日新聞)

70−74歳の医療費窓口負担2倍に

政府・与党は1日の医療改革協議会で、患者負担増や75歳以上が入る独立保険の創設などを盛り込んだ医療制度改革大綱を正式に了承した。医療費の患者負担は2006年10月から段階的に引き上げ、2008年度には70―74歳の窓口負担が原則として現在の2倍になる。骨折の場合で同年代の負担額は2万4000円と今より1万2000円増える。政府は来年2月中旬をメドに関連法案を通常国会に提出する方針だ。まず来年10月に70歳以上の高所得者(夫婦で年収621万円以上)を現在の2割から3割に引き上げ、2008年度には高所得者を除く70―74歳を1割から2割に変える。また地方の個人住民税が非課税となっている低所得者を除き、高額医療費の自己負担上限を来年10月から引き上げる。最も影響が大きいのは70―74歳。低所得者の負担は変わらないものの、それ以外の所得層は軒並み負担増になる。例えば夫婦で年収620万円以下の一般所得者が風邪で1回診察を受けた場合、現在500円の窓口負担は2008年度には1000円に増える。(平成17年12月2日 日本経済新聞)

心臓マッサージ「強く、速く」

心臓発作などで突然倒れた人を救うための初歩的な蘇生(そせい)法について、米国心臓協会(AHA)は3日までに、心臓マッサージの有効性を強調した2005年版ガイドラインを発表した。5年前の旧ガイドラインでは、人工呼吸2回の後に心臓マッサージ15回のセットを繰り返すとされていたが、今回の改訂で、人工呼吸2回に対しマッサージを倍の30回に増やした。同協会によると、最近の研究で、間隔を置かずにマッサージを続けた方が血流が回復しやすいことが分かったといい、胸を「強く、速く」押すよう推奨している。 この蘇生法は「CPR」と呼ばれ、たまたま現場に居合わせた人でも簡単に行えるよう工夫されたもの。同協会は国際的なガイドライン作成の中心的な存在で、日本でも新ガイドラインが普及するとみられる。(平成17年12月3日 日本経済新聞)

内臓脂肪症候群、日本人の8%

動脈硬化などにつながるとされる状態「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)になっている人は、20歳以上の日本人の約8%を占めると推定され、小食や運動、禁煙、趣味によるストレス解消など健康的な生活習慣を多く持つ人ほどこの状態に陥る率は低いことが、東京慈恵会医大(東京都港区)健康医学センターの和田高士センター長らの研究で分かった。 大阪市で開催中の日本脈管学会で2日に発表する。メタボリックシンドロームは、男性はウエスト85センチ以上、女性は90センチ以上で、さらに(1)中性脂肪などの異常(2)高血圧(3)高血糖−−のうち2項目以上を満たす状態だ。それぞれの異常は軽くても、重なることで動脈硬化を起こしやすくなるという。和田センター長らは、00年1月から04年12月までの5年間に、同大で人間ドックを受けた男女計2万2892人について、メタボリックシンドロームだったかを調べた。 同時に「禁煙」「過食をしない」「飲酒は日に1合以下」「週に1回以上運動する」「仕事をしない日が月に6日以上ある」「打ち込める趣味がある」の6項目の「よい生活習慣」について、それぞれ実行しているかどうかをアンケートした。日本人の年齢分布などを考慮して結果を分析すると、メタボリックシンドロームの人は、成人男性の14%、成人女性の2.9%、平均では8.4%と推定された。「よい習慣」の実行数別にみると、受診者のうち、一つも実行していない人は、シンドロームに陥っている率が約21%に達した。しかし、実行数が一つ増えるごとに、率は2ポイント余り低下し、六つとも実行している人は7.2%だった。和田センター長は「メタボリックシンドロームは、生活習慣の改善でかなり防げる。高血圧など個々の異常を薬に頼って治す前に、複数の異常の共通原因となる生活習慣を変えてほしい」と話している。(平成17年12月2日 毎日新聞)

エボラ出血熱、コウモリが媒体か 

アフリカで散発的に流行が繰り返され、致死率は90%にも達する感染症のエボラ出血熱は、現地で食用にもされるコウモリが広めている可能性があることが30日、明らかになった。ガボンなどの国際チームが、症状が全くない3種類のオオコウモリからエボラウイルスの遺伝子や抗体を検出し、12月1日付の英科学誌ネイチャーに論文を発表した。エボラウイルスの自然宿主や感染ルートは謎だったため、有効な予防策が取れなかった。チームは「コウモリが感染源なら、食用を避けることで人への直接感染を大幅に減らせる可能性がある」と指摘している。(平成17年12月1日 毎日新聞)

白内障にかかわるたんぱく質の構造観察に成功

京都大学理学研究科の藤吉好則教授らは、目の水晶体(レンズ)が白く濁って視力障害を引き起こす白内障の発症に関係するたんぱく質の構造を、電子顕微鏡で観察することに成功した。水晶体の細胞をどのように接着しているかが分析できるようになり、白内障が起きる仕組みの解明につながる。12月1日付の英科学誌ネイチャーに掲載される。電子顕微鏡で立体構造を観察したたんぱく質は「アクアポリン0」。水晶体の細胞にあって細胞同士を接着すると同時に、水分の通り道にもなる。研究グループは試料を生きたままの状態で見ることができるように炭素の膜で挟む新手法を開発して、観察することに成功した。0.19ナノメートルという分解能(2つの点を見分けることができる最小距離)で、アクアポリン0の詳細な構造がわかるようになった。白内障は水晶体の細胞同士の接着力が弱まったり、水分の通りが悪くなったりして起こるのではないかという説があり、アクアポリン0の構造がわかれば、白内障の発症の仕組みが明らかになるのではないかと期待されている。(平成17年12月1日 日本経済新聞)

新型インフルエンザ、あらゆる型への対応目指す

科学技術振興機構は29日、新型インフルエンザの拡大に備え、あらゆるタイプのウイルス診断薬やワクチン開発を進めるための体制づくりを支援することを決めた。3年間に約1億円を投じ、この問題で世界の中核施設になっている北海道大人獣共通感染症リサーチセンターが世界に先駆けて完成を目指す。インフルエンザウイルスは、表面に分布する2種類の分子の型から144通りのタイプが存在する。このため、個々のウイルスに対応したワクチン開発が急がれている。センター長を務める喜田宏・北大教授は約30年前から、米アラスカやモンゴルなど世界中からウイルスを採取してきたほか、実験室でも作ってきた。その結果、ウイルスの型全体の約9割が保存され、世界保健機関などは同センターをウイルス対策の中核的な研究機関に位置づけている。今後、研究チームは保存されたウイルスを活用して、発病を防ぐワクチン開発のほか、ウイルスに感染した細胞が死んでしまうのを防ぐ薬剤開発にも取り組む。(平成11月30日 朝日新聞)

大動脈瘤、原因たんぱく質の異常究明

破裂すると大出血して多くの患者が死亡する大動脈瘤(りゅう)の原因となる細胞内のたんぱく質の異常を、山口大学医学部の松崎益徳教授、青木浩樹助教授らのグループが突き止めた。動物実験でこのたんぱく質の働きを抑える薬を与えると大動脈瘤が縮小したといい、同グループは「薬剤による治療の道が開けた」としている。成果は米医学誌「ネイチャー・メディシン」12月号に発表される。腹、胸部などにできる大動脈瘤は、血管の壁が弱くなり、血圧に押されて風船のように膨らむ病気。コラーゲンなど血管壁をつくる材料が分解されやすくなったり、材料を合成する能力が落ちることが血管壁を弱くすると考えられている。病気の進行を遅らせる薬は登場しているが、根本治療には患部を人工血管に置き換える手術が必要で、患者の負担も大きい。 松崎教授らは、患部で血管壁の材料を分解する酵素が増え、逆に材料を合成する酵素が減少することを確認。その原因が「JNK」というたんぱく質の働きが異常に高まることにあると考えた。大動脈瘤を持ったマウスにJNKの働きを抑える薬を与えたところ、血管壁をつくり直す能力が回復し、大動脈瘤が小さくなったという。研究グループは臨床応用に向け、さらに効果的な薬や投与法を開発中。松崎教授は「手術しか方法がなかった動脈瘤を薬で小さくできれば、治療の選択肢が広がる」と話している。(平成17年11月28日 毎日新聞)

アルツハイマー抑止に光、原因物質防ぐ化合物開発

アルツハイマー病の発症にかかわる体内物質「β(ベータ)アミロイド」の生成を防ぐ化合物を、木曽良明・京都薬科大教授と東京大、理化学研究所のグループが開発し、マウスの実験で効果を確認した。28日から大阪市で始まる日本薬学会の「メディシナルケミストリーシンポジウム」で発表する。アルツハイマー病は、大脳皮質にβアミロイドが蓄積し、神経細胞の維持に必要なたんぱく質の働きを妨げるのが直接原因と見られている。木曽教授によると、βアミロイドは、前段階のたんぱく質が2種類の酵素で切断されて生成する。このうち「γ(ガンマ)セクレターゼ」という酵素は動物の発生・分化に欠かせないが、「βセクレターゼ」は作れなくてもマウスに異常が見られないため、その作用を阻害する化合物を設計した。これを、脳内で記憶に関係する海馬という部位に注射した結果、遺伝的にアルツハイマーになりやすいマウス、野生のマウスの両方で、βアミロイドの生成が約半分に抑えられたという。木曽教授は「根本的な治療薬の開発につながる可能性がある。実用化に向けて動物実験で検証を重ね、経口投与できるよう改良したい」としている。(平成17年11月28日 読売新聞)

人工食道、ぜん動運動が可能 

食べ物を胃に送る蠕動運動が可能な人工食道の開発に、病態計測制御分野が専門の山家智之・東北大加齢医学研究所教授らの研究グループが成功した。内視鏡での手術が可能になるため患者への負担が軽く、食道がん患者への治療法として5年以内の実用化を目指す。同グループは24日、特許庁に特許申請した。山家教授らは、熱を加えると縮まる形状記憶合金の輪を利用。食道のぜん動運動の仕組みを参考に、この輪を1センチ間隔に配列し、規則的に縮めたり緩めたりすることで、食べ物が一定方向に進むようにした。輪を温めるための磁気コイル(長さ約5センチ)を胃の中に置き、外部から別の磁気コイルを当ててエネルギーを供給。輪は新たに開発したポリビニールアルコール(PVA)の管にくくりつけた。PVAの摩擦係数は通常の人工臓器用シリコンの1割で、食べ物をスムーズに送ることが可能だ。さらに、人工食道を設置するため食道を広げるステント(管)も、外から電磁気を当てると温まる素材を開発。温めることで、熱に弱いがん細胞を殺すことができ、治療につながるという。 食道がんは国内で年間1万人がかかるとされている。胸や腹を開くなど大掛かりな手術が必要で、切除できない場合は食べ物を飲み込めるよう金属製ステントを設置する治療をしてきたが、不都合も少なくなかった。山家教授は「胆道や尿道、大動脈などの手術への応用も考えていきたい」と話している。(平成17年11月25日 毎日新聞)

子供襲うインフルエンザ脳症、「疑い」も早期治療を

乳幼児に多く、死亡率が高いインフルエンザ脳症について、医師向けの初の診断・治療指針を厚生労働省の研究班(主任研究者=森島恒雄・岡山大教授)が作った。発症1〜2日目に治療を始めれば、死亡や重度の後遺症を大幅に減らせるとして、疑わしい段階でも抗ウイルス薬「タミフル」の服用やステロイドの短期集中投与をすぐに始めることなどが柱だ。家族にとっても対応などの参考になりそうだ。初期対応、診断指針、治療指針などの5項目で構成。初期対応では、明らかな意識障害がある場合、かかりつけ医らは救急対応ができる大規模な医療機関へ患者をすぐに紹介する、とした。けいれんや異常言動・行動は、脳症以外でも起きる。そこで、けいれんの持続時間が長く、左右非対称の部位で起きる場合は、大規模病院へすぐに紹介する。短時間で単純なけいれんの場合は、様子を1時間程度は見て、意識障害がないと確認できなければ紹介する。異常言動・行動が断続的でも1時間以上続く場合は同じだ。親が子どもをすぐに高度な医療機関へ連れて行くべきかの目安にもなる。 送られた医療機関は意識障害の程度や頭部CT検査で診断。インフルエンザ脳症と確定できない疑い例でも、治療を始める。体温が41度以上、下痢がある、症状を悪化させる一部の解熱剤を使用した、などの場合は特に注意が必要としている。治療では、ウイルスの増殖を抑えるタミフルを投与し、炎症を抑えるステロイド薬「メチルプレドニゾロン」の短期集中投与などを実施する。約200人を対象にした調査では、ステロイド投与は発症3日目以降に開始しても約8割の患者が死亡または重度後遺症を残してしまうが、1日目に始めれば、ほぼゼロに、2日目なら半分程度になる。タミフルは服用後の異常行動による死亡例が報告されているが、森島さんは「因果関係がはっきりしない。異常行動は脳症でよく見られる症状でもあり、タミフルが重症化を防ぐと期待される」とする。(平成17年11月25日 朝日新聞)

小学生のアトピー、昼休みシャワーで改善

アトピー性皮膚炎の小学生に学校の昼休みに数分のシャワーを続けてもらったところ、症状が大幅に改善したことが厚生労働省研究班の調査でわかった。アトピー性皮膚炎は10数%の小学生が悩んでおり、近年治りにくくなっているともいわれる。体育などで汗やほこりが皮膚に付いて、刺激でかゆみが増し、繰り返しひっかくことも悪化の原因の一つと考えられている。そこで、昨年と今年、症状が悪化しがちな6〜7月の6週間に、群馬県内の小学校7校の協力を得て、アトピー性皮膚炎の児童延べ53人(平均8.8歳)を対象に、平日の昼休みに3〜5分ほど温水のシャワーを学校で浴びてもらい、効果を調べた。いずれも症状が安定している児童で、期間中は治療内容を変更しなかった。全身を25の部分に分け、場所ごとに強い症状は2点、弱い症状は1点、症状なしは0点と、計50点満点で評価したところ、全員が改善し、シャワー実施前は平均11.2点だったのが6週間後には4.0点と、7.2点も症状が軽くなった。(平成17年11月20日 朝日新聞)

インフルエンザのウイルス除去装置

三洋電機と群馬県環境衛生研究所は空気中のインフルエンザウイルスを除去できるフィルターユニットを開発した。 電解水を滴らせたハチの巣構造に似たフィルターに空気を通過させてウイルスを吸着し殺滅する仕組み。 インフルエンザの大流行が心配される中で「なるべく今冬中に実用化したい」(三洋)という。 ユニットは水道水を電気分解し電解次亜塩素酸を発生。この電解水をフィルターの上から滴らせ、空気中に含まれるウイルスをとらえる。 フィルターの断面の一辺が2―3ミリメートルの三角穴を多数組み合わせたハチの巣構造に似た仕組みにし空気と接する表面積を広げた。 県衛生研究所によるインフルエンザウイルスの除去試験では、99%の除去を確認したという。 衛生研はスギ花粉などにも有効とみている。三洋がユニットを開発、衛生研が効果測定などで協力した。 大規模空間の浄化に活用できるのが最大の特徴という。学校の教室や病院などでの活用を想定している。(平成17年11月24日 日経産業新聞)

ぜんそく薬「テオフィリン」、乳幼児の使用制限へ

気管支ぜんそくや気管支炎の治療薬として国内で年間40万人以上に処方される「テオフィリン」の使用後に、乳幼児が重いけいれんや脳症を起こすなどの報告が相次ぎ、日本小児アレルギー学会は、小児気管支ぜんそく治療指針に5歳以下への使用制限を盛り込むことを決めた。新潟市民病院の医師らは、服用後に重いけいれんや脳症で運ばれた子供が1991〜2002年の間に54人おり、うち2人が死亡したと、03年10月の日本小児科学会誌に報告した。また、大阪市立総合医療センターの塩見正司・小児救急科部長によると、98〜04年に同センターに運ばれた服用後の子供のうち、11人に知的障害などが残り、別に1人が点滴による過剰投与のせいで死亡した。代表的なメーカーの三菱ウェルファーマの集計でも、シロップ剤を発売した93年以降、5歳以下でけいれん約160例、重症けいれん約80例、後遺症約20例の報告がある。テオフィリンは、治療に有効な血中濃度の値と、けいれんなど副作用の危険が高まる値が近く、薬の添付文書では血中濃度を測りながら使うよう求めている。日本小児アレルギー学会の新たな治療指針では、テオフィリンは第一選択にはせず、追加の治療で検討する薬とし、「ぜんそく治療に精通した医師が注意深く使うべきだ」とした。特に2歳未満には、最後の選択肢として使用を極力制限する。なかでも座薬は血中濃度が急激に上がる危険性が指摘されているため、「推奨しない」とした。指針作成委員長の森川昭広・群馬大教授の話「重いけいれんとの因果関係を示す十分な証拠はないが、体質的にけいれんを起こしやすい乳幼児への投与は、慎重になるべきだと判断した」(平成17年11月18日 読売新聞)

高脂血症薬に心臓病防ぐ効果 日本で8千人臨床試験

コレステロール値を下げる高脂血症薬を使うと、日本人で心臓病の発生を減らす効果があることが、約8000人の患者が参加した臨床試験で分かった。日本人を対象にこの薬を使う人と使わない人を比べた大規模臨床試験は初めて。中村治雄・防衛医科大名誉教授らが16日、米テキサス州ダラスで開かれた米国心臓協会学術集会で発表した。中村さんらは総コレステロール値が220〜270ミリグラム(血清1デシリットル当たり)の男女7832人(平均年齢58歳)の協力を得て、全員に食事療法をしたうえで、半分の人にはコレステロールを下げる薬を飲んでもらった。5年以上経過を追った結果、心筋梗塞(こうそく)や狭心症などの心臓病を起こす発症率は、薬を飲んだ場合が飲まない場合に比べて33%少なかった。これに脳梗塞を加えた動脈硬化性の病気全体の発症率でみても30%減った。今回の臨床試験で使われたのはメバロチンという高脂血症治療薬で、日本では89年、三共が発売し、医師が処方する薬として広く使われている。欧州で実施された大規模臨床試験では心臓病を予防する効果が確かめられてきた。欧米に比べて日本では心筋梗塞などによる死亡率が低く、食生活も違うため、日本人にも病気を防ぐ効果があるのかを厳密な臨床試験で確かめる必要があるとされてきた。(平成17年11月17日 朝日新聞)

魚の油、心臓病予防に効果 2万人規模の研究で確認

イワシやサバなどの青魚に多く含まれる油の成分をとると心臓病になるのを減らす効果があることが、日本人約2万人を対象にした大規模臨床試験で確かめられた。横山光宏・神戸大教授(循環器病学)らが、米テキサス州ダラスで開催中の米国心臓協会学術集会で14日、発表した。横山さんらは総コレステロール値が250ミリグラム(血清1デシリットル当たり)以上の男女1万8645人を対象にした。全員にコレステロールを下げる薬を処方した上で、半数の人には魚の油成分、イコサペンタエン酸(EPA、エイコサペンタエン酸ともいう)を抽出した高純度のカプセル薬も毎日飲んでもらった。約5年間の追跡期間中に心臓突然死や心筋梗塞(こうそく)などの心臓病が起きた人の割合は、EPA薬を飲まなかった人では3.5%、飲んだ人では2.8%。EPA薬の服用には、こうした心臓病のリスクを19%減らす効果があったという。 日本では欧米に比べて心筋梗塞などの死亡率が低い。魚を多く食べる食生活が一因と指摘されていたが、大規模な臨床試験で確かめられたのは初めて。今回の臨床試験に使われた薬はすでに、高脂血症などの治療薬として医療現場で医師が処方している。(平成17年11月16日 朝日新聞)

RNAでがん抑制、動物実験成功 

がんの増殖にかかわる遺伝子の働きを止める物質を、微小なカプセルに入れて患部に送り込み、がんを抑える動物実験に東京大学の永井良三教授と協和発酵工業のグループが成功。新たながんの治療法の開発につながりそうだ。永井教授らは、動脈硬化やがんの増殖にかかわる「KLF5」という遺伝子を02年に発見、この働きをリボ核酸(RNA)で抑えられないかと考えた。RNAは、細胞の中でDNAの遺伝情報を写し取り、たんぱく質をつくる時に働くと考えられてきた物質だが、遺伝子の働きを抑えるためにも利用できる。「RNA干渉」と呼ばれ、この現象を使った治療法開発の競争が激しくなっている。グループは、血液中で不安定なRNAを患部にピンポイントで届けるために、直径100ナノメートル(ナノは10億分の1)のリポソームと呼ばれる脂質の膜でできた微小なカプセルを作り、KLF5を抑えるRNAを閉じこめた。このサイズにすると、がんのまわりのもろい血管からカプセルがにじみだし、がんに作用させることができる。がんのマウスに、この薬を与えると、がんに栄養を送る血管が新たにできるのを抑え、がんの増殖も抑えられることがわかった。(平成17年11月15日 朝日新聞)

アルツハイマー病の原因物質の解明に成功

アルツハイマー病の原因とされるたんぱく質「ベータ・アミロイド」の主要構造をとらえることに、大阪大工学研究科のグループが世界で初めて成功した。高野助教授は「この主要構造が変化すると、ベータ・アミロイドが次々と線維状に固まっていき、病気を引き起こす」と推測。この変化を防ぐ化合物を見つければ、治療薬につながると期待している。ベータ・アミロイドは、線維状に固まりやすい性質が災いし、構造解析に適した結晶状態にするのが難しかった。高野助教授らは、線維化に関係すると見られている部分を、構造分析に適した別のたんぱく質に組み込む手法で、エックス線による解析に成功。この部分が折り畳まれて平面状になった形をしており、非常に分解されにくい構造であることが分かったという。ベータ・アミロイドは、正常な脳では酵素によって分解されるが、分解できなくなると、蓄積して「老人斑」という線維状物質を形成、アルツハイマー病を引き起こすと考えられている。(平成17年11月16日 読売新聞)

後発品の普及へ

厚生労働省は、医療費抑制の柱の一つとなる薬剤費の抑制案をまとめた。特許が切れた新薬(先発品)と同じ有効成分で売り出される安価なジェネリック医薬品(後発品)の使用を増やすため、医師の処方箋(せん)を変更することや、後発品がある先発品の価格の下げ幅を大きくする案を盛り込んだ。社会保障審議会医療保険部会に案を示した。後発品は患者負担も減るため厚労省が普及策をとってきたが、市場での割合は03年度で16%(数量ベース)。50%前後の欧米よりかなり低い。厚労省案では、処方箋に新たに「後発品へ変更可」「変更不可」のチェック欄を設け、医師が先発品名で処方しても、「変更可」にチェックすれば患者は後発品を選べるようにする。 後発品が出た場合の先発品の価格については、従来4〜6%引き下げていたが、さらに下げ幅を拡大する案と、後発品の市場価格に連動して先発品価格が下がる案を示した。ただ、財務省や与党の一部が提案する市販薬に類似した医薬品を保険対象外などとする案については「適用範囲を決めるのが難しい」とした。また厚労省は診療報酬改定について、小児科や救急医療など必要な分野への配分の必要性や、コンタクトレンズの処方に伴う検査のあり方を見直す考えなども示した。(平成17年11月14日 朝日新聞)

一定所得の高齢者3割負担に

06年度から実施する医療制度改革案を取りまとめる政府・与党医療改革協議会の2回目の会合が14日、首相官邸で開かれ、70歳以上の高齢者の窓口負担について、一定以上の所得がある人については現行の2割から3割に引き上げることで合意した。患者負担引き上げのうち、長期入院している療養病床患者に食費・居住費の負担を求める案についても異論はなく、基本的に了承された。いずれも06年10月から実施される見通しだ。一定以上の所得は、高齢者夫婦世帯の場合で、現在年収約620万円以上だが、06年からは制度改正で約520万円以上に変わるため、70歳以上の約11%(約200万人)が対象となる見込みだ。現在原則1割となっている70歳以上の一般の高齢者の窓口負担を一律2割に引き上げる案などには、与党側から「高齢者の多くは年金受給者であり、配慮が必要」と異論が出た。 長期入院患者の食住費自己負担は、厚労省が示した標準的なケースでみると、現在の食費の自己負担は材料費の月2万4000円だが、新たに調理コストが上乗せされ計4万6000円に。これに居住費として光熱水費相当の1万円も加わり、計3万2000円の負担増になる。介護保険制度の改正で、今年10月から介護保険での施設入所者の食住費が自己負担となっており、対応を合わせる。ただ、食住費負担を一般病床にも拡大する財務省の主張については、与党側から「慎重であるべきだ」との意見が出た。医療費の一定額を保険給付の対象から外す保険免責制度に対しては与党側から強い異論が出され、見送られる方向だ。一方、高齢者を対象にした新たな医療保険制度については、運営主体を市町村としていることから竹中総務相が「市町村の負担が重すぎる」と懸念を表明。ただ、与党側から「中長期的には避けて通れない課題だ。これを抜きにして改革したとは言えない」との意見も出された。 公明党は少子化対策の観点から、医療保険から給付される出産・育児一時金を大幅に増額することを提案。さらに予防対策の充実として、たばこ税を増税して健康増進の費用に充てることを求めた。(平成17年11月14日 朝日新聞)

新高齢者医療保険の検討

厚生労働省は医療制度改革で2008年度の新設を目指している高齢者医療保険について、財政基盤を安定させるために再保険制度をつくる検討に入った。新保険は市町村が運営するが、一定額以上の高額医療費は再保険の形で都道府県と国が負担する。都道府県ごとに基金も設置し、保険料の未納などで資金繰りが悪化した市町村に資金を貸す仕組みもつくる。厚労省は先月公表した医療制度改革試案で、高齢者保険の創設を医療費抑制策の柱に位置づけた。高齢者は今は現役世代と同じ医療保険に加入しているので、医療費がかさんでも本人の保険料負担には直接響かない。そこで現役世代とは別に75歳以上の人だけが入る保険を市町村単位でつくり、地域の医療費が増えると高齢者の保険料負担も重くなる仕組みで過度の診療を減らす考えだ。(平成17年11月13日 日本経済新聞)

高齢者の長期入院、調理・光熱費を自己負担

政府・与党は12日、医療給付費抑制策として、治療のため療養病床に長期入院する70歳以上の高齢者の食費・居住費の一部を保険適用外の自己負担とする方針を固めた。調理の経費と光熱・水道費が対象。12月上旬に策定する医療制度改革に関する大綱に盛り込み、2006年の通常国会に関連法案を提出して同年10月からの実施を目指す。 療養している高齢者の入院費用は現在、食費のうちの食材費は自己負担だが、治療費や居住費は保険対象で1割負担となっている。しかし、自宅で介護を受けたり、療養したりしている人は通常、食費・居住費とも全額を負担している。公平性を保つため、先の通常国会では、療養病床の入院者で介護を受けている人については、05年10月から調理費や光熱・水道費を自己負担とする介護保険法の改正が行われた。今回の措置は、治療のため療養病床に入院している人についても、対応をそろえるのが目的だ。食費のうち、献立の決定などの栄養管理の費用は、保険適用を維持する方針だ。厚生労働省が10月にまとめた医療制度改革の試案の中で、こうした方向を打ち出していた。同省は、月に2万4000円の食材費と他の費用の1割で計6万4000円を支払っている人のケースで、調理費の2万2000円と光熱・水道費の1万円が上積みされ、自己負担が9万6000円に増える試算を示している。最終的な増額幅は個別のケースで異なるが、低所得者には、自己負担の一部免除などの救済措置を設ける方針だ。(平成17年11月13日 読売新聞)

食欲抑制ホルモン、ラットの胃で発見

食欲を抑制する作用がある新たなホルモンを米スタンフォード大のチームがラットの胃で発見、「オブスタチン」と名付け、11日付の米科学誌サイエンスに発表した。オブスタチンは、日本で発見された食欲促進ホルモン「グレリン」ともとになる遺伝子が共通なのに、機能はほぼ正反対。こうした例は非常に珍しい。二つのホルモンの役割を解明することで、先進各国で深刻な問題になっている肥満の治療薬開発につながる可能性がある。チームはグレリンの遺伝子や、グレリンのもとになる前駆体のアミノ酸配列を、人間やマウスなど約10の哺乳(ほにゅう)類について調べ、同じ遺伝子からグレリンとは別のタンパク質がつくられている可能性が高いと予測。そしてラットの胃から予測通りにオブスタチンを発見した。合成したオブスタチンをラットに注射したところ、餌を食べる量が減ったうえ、消化にも時間がかかり、体重増加のスピードが鈍くなった。人間でも同様の効果があるかどうかの確認はこれからだという。(平成17年11月12日 毎日新聞)

40〜64歳の末期がん患者、介護保険対象

厚生労働省は、40〜64歳の末期がん患者に対する介護保険の適用範囲について、すべてのがんを対象にするとともに、「末期」かどうかの判断は、医師が「治癒困難・不可能」と診断した場合とする方針を決めた。 余命期間や、がん告知の有無などは問わない。医師ら専門家による研究班の検討結果を受けたもので、関係政省令を改正し、2006年4月から給付対象に付け加える。現行制度では、介護保険を利用できるのは原則65歳以上。40〜64歳は、初老期の認知症(痴呆(ちほう))など、加齢に伴う15種類の特定疾病に限定され、この中にがんは含まれていない。しかし、在宅の末期がん患者の間からは介護保険の適用を望む声が強く、政府・与党は今年2月に、末期がんを特定疾病に加える方針を決定。がんの種類や末期の定義をどうするかが懸案事項となっていた。同省では、がんを一つの疾患としてとらえた場合に、発症の状況などから、乳がんや子宮がんなども、「加齢に伴う疾病」と考えられると判断。また、余命期間を正確に予測することは困難であることから、進行性のがんで、医師が総合的に治癒が困難あるいは不可能と診断すれば、給付対象とすることが適当とした。(平成17年11月12日 読売新聞)

人工透析、負担上限引き上げ

厚生労働省は11日、人工透析を受けている慢性腎不全の患者のうち、月収53万円以上の人の自己負担上限を、月1万円から2万円へ引き上げる方針を自民党に示した。異論がなかったことから、厚労省は来年10月から実施したい考えだ。透析の必要な患者約25万人のうち、約1割にあたる2万5000人が負担増の対象となる見通し。透析患者は毎年1万人のペースで増えており、抑制が必要と判断した。患者団体は反発している。透析患者にかかる医療費(患者負担を含む)は推定約1兆円で、国民医療費の約30分の1を占めると見られる。例えば透析者数のうち約7万人を占める糖尿病患者では、1人あたり年約550万円の医療費がかかっている。人工透析は、自己負担額が一定額を超えた分を還付する高額療養費制度の特例により患者の負担上限は月1万円に抑えられ、残りは医療保険から支給されている。厚労省によると、透析技術の進歩で患者が働きやすくなり、高い収入を得る人も増えてきた。また、1万円に設定された透析患者の負担上限が84年から変わらず、一般の高額療養費制度では約2.6倍になっていることも考慮した、という。(平成17年11月12日 朝日新聞)

禁煙治療に保険適用へ

厚生労働省は8日、医師による禁煙指導を「治療」と位置づけ、公的医療保険の給付対象とする方針を固めた。 禁煙指導の促進により、喫煙率は今後15年間で最大、男性26%、女性9%程度まで下がると同省研究班は試算。肺がんをはじめ、心筋梗塞や脳卒中などの生活習慣病を引き起こすとされる喫煙を減らすことで、15年後の医療費は少なくとも約1846億円抑制できるとみている。禁煙はこれまで個人の意志や努力の問題とみられてきたが、「ニコチン依存症」という病気に対する治療ととらえて、積極的な対策に乗り出す。9日の中央社会保険医療協議会(中医協)で提案する。保険を適用する治療内容を検討し、06年4月の実施をめざす。対象は、禁煙治療プログラムを受けたいと希望する人で、ニコチン依存度テストで「依存症」と判定された人。同省のモデルでは、2または4週間に1回通院してカウンセリングを受けるほか、肌にはったパッチからニコチンを吸収する置換療法を受ける。約3カ月で初診も含め計5回ほどの通院を想定している。これまでも、一部の病院が独自に「禁煙外来」を設けていたが、保険の対象ではないために全額が患者負担で、1カ月あたり3万〜4万円かかっていた。保険の対象になれば、3割の窓口負担(70歳以上は1〜2割負担)で済むようになる。次期医療制度改革で厚労省は、生活習慣病対策で中長期的に医療費の伸びを抑制する方針を打ち出しており、禁煙治療の促進はこの一環。導入によって医療費は当初は増えるものの、生活習慣病や肺がんが減ることに伴う減少で、8年目から減少に転じると研究班では試算している。欧米ではすでに、ニコチン依存症を「繰り返し治療することで完治しうる慢性疾患」ととらえる動きが広がっている。英国では99年から禁煙治療を保険の対象としているほか、米国でも民間保険会社の8割超が禁煙のための薬剤費などを保険給付の対象にしているという。日本では、日本循環器学会など9学会が保険適用を要望していた。(平成17年11月9日朝日新聞)

紹介状ないと、大学病院は保険対象外

厚生労働省は9日、06年度診療報酬改定で、病院(20床以上)より診療所(20床未満)に対し高く設定している初診料を一本化し、現行水準よりも引き上げる考えを中央社会保険医療協議会の小委員会に示した。 病院の引き上げ幅を大きくし、外来患者を病院から診療所にシフトさせるのが狙い。診療報酬総額は引き下げる一方、メリハリをつける同省の改定方針に沿ったものだ。値上げ幅は今後詰めるが、実現すれば来年4月以降、診療内容によっては患者負担がアップする。病院は現在、初診料が2550円、再診料は580円なのに対し、診療所は初診料2740円、再診料730円と格差がある。病院が外来患者を診た場合の収入を低くし、患者を診療所に誘導する狙いがあった。しかし、患者が初診料の安い病院に集中するという、当初の想定とは逆の現象が生じていた。次期改定では初診、再診料とも、病院、診療所で一本化し、初診料は引き上げる一方、再診料は下げる。初診料のアップは、あらゆる疾病の可能性を考える必要があるなど、医師の負担が重い初診を重視する考えに基づいているが、患者の受診手控えによる医療費抑制も見込んでいる。また同省は、同じ日に同一病院内で複数の診療科にかかった場合、初診料負担は現在1科分だけだが、それぞれの診療科ごとに初診料を払う制度に改める方針を示した。このほか、大学病院などの大病院に紹介状を持たずに来た患者への初診料を保険対象外とする方針も提示した。大病院は保険外で初診料の上乗せ請求をできるが、実施が3分の1程度にとどまっているため。(平成17年11月9日 毎日新聞)

医師の処分、医業停止上限は3年、免許取り消しも 

医療事故の多発を背景に、厚生労働省の検討会は9日、医師の行政処分について医業停止期間の上限を3年とし、それを超えるような事案は医師免許を取り消す方向で一致した。これまで医業停止は上限5年で運用されており、事実上の厳罰化となる。厚生労働省は検討会の結論に沿った形で、医師法など関連法令を改正する方針。医師の行政処分は刑事罰が科されたり、医療ミスを起こしたケースが対象で、医業停止と免許取り消しの二つがある。検討会は免許取り消し後、短期間で免許の再交付を受けられないようにするため、5年間は再交付申請できないとすることでも一致した。さらに行政処分をするうえで事実関係を調査する権限を厚労省の部署に与えることも提言した。現状は任意の調査のため、病院側からの事情聴取や資料提出が拒否され、事実の解明に支障が出ている。調査権限は重大な不正の恐れがある場合に限定し、調査に協力しないケースは、罰則を科すべきだとしている。(平成17年11月9日 毎日新聞)

前立腺がん、ホルモン療法長期が有効

放射線治療を受けた進行性の前立腺がん患者に対し、長期にホルモン療法を併用すると、短期のホルモン療法の併用に比べ、生存率が向上することがカナダの医療チームの研究でわかった。米医学誌に発表した。研究の対象は、前立腺がんの進行度の指標となるPSA(前立腺特異抗原)の値(正常値は4以下)が20を超える患者307人。前立腺に放射線を照射した後、半数の患者には1年以上にわたって男性ホルモンを抑える注射を続け、残る半数は注射を1年未満で中止した。1年以上の長期にホルモン療法を受けた患者では、PSA値が正常値に戻った人は62・5%に上ったが、1年未満の短期療法の患者では37%と低かった。5年後の生存率も、長期のホルモン療法では87・5%と、短期療法の75%に比べて高かった。研究チームは、「長期のホルモン療法と放射線療法の併用が、がんの進行度に関係なく有効であることを示す研究は今回が初めて」としている。(平成17年11月7日 読売新聞)

脳腫瘍グリオーマ治療、放射線増量で生存率上昇

脳腫瘍の中でも悪性度が高いものが多い神経膠腫(グリオーマ)の治療で、放射線を従来の限界とされてきた総量より3〜5割多く照射すると、生存期間が大幅に延びることが東京大医学部脳神経外科の藤堂具紀講師らの解析でわかった。副作用も増えたが、藤堂さんは「腫瘍による死亡のリスクと比べた場合、許容できる副作用の範囲と考えられる」という。論文は、英医学誌「ランセット・オンコロジー」電子版に掲載された。グリオーマは脳腫瘍の約3割を占め、手術が難しい場所にできることも多い。放射線は治療の柱の一つだ。藤堂さんらは、東大病院の過去の記録から79〜89年に総線量60グレイの従来型治療を受けた94人と、90〜02年に総線量80または90グレイの照射治療を受けた90人の経過を解析し、比較した。グリオーマで最も多い「神経膠芽腫」は、2年生存率が従来型の11%が、照射が多い例は38%に改善。次に多い「退形成星細胞腫」では5年生存率が15%から51%に大幅に上がった。放射線による副作用が出た人は、従来型は94人中4人、照射の多いケースでは90人中23人と増えたものの、重篤なものは少なかったという。脳の正常細胞に影響を及ぼさない限度線量は理論上60グレイと考えられており、がん細胞への照射もこれをもとに計画されることが多い。今回のような照射は、専門の放射線治療設備があればどの病院でも取り組める治療で、その延命効果は国際的にも議論になっている。(平成17年11月7日 朝日新聞)

喫煙者の7割がニコチン依存症

たばこを吸う人の7割はニコチン依存症で、このうち7割は禁煙を試みながら失敗している。大阪府立健康科学センターの調査でこんな結果が出た。今年6月、全国の20〜79歳の喫煙者2600人にアンケートを郵送。回答があったうち、現在も喫煙をしている1666人(男性872人、女性794人)について分析した。「禁煙や本数を減らそうと試みてできなかったことがあったか」など10項目の「ニコチン依存症スクリーニングテスト」に答えてもらったところ、67.4%が依存症と判定された。男性は67.1%、女性は67.8%だった。 このうち、「禁煙したいですか」という質問に「はい」と答えたのは62.1%。また、70.6%が、今までに「試みたことがある」と答えた。いずれも、「依存症ではない」と判定された人の約1.7倍だった。また、過去1年間に医療機関を受診したうち、依存症と判定された人の32.3%は、禁煙を勧められていたが、実際に禁煙方法の説明を受けるなどの指導を受けたのは、その16%にとどまった。調査をまとめた中村正和・健康生活推進部長は「ニコチン依存を断ち切るのは難しい。禁煙治療を欧米のように医療保険の対象にし、普及を図る必要がある」と話す。(平成17年11月7日 朝日新聞)

臍帯血幹細胞の体外増殖に挑戦

赤ちゃんのへその緒に含まれる臍帯血(さいたいけつ)を使い、血液のもとになる造血幹細胞を体外で4倍程度に増やして白血病患者に移植する試みを、神戸市の先端医療センターが12月にも始める。細胞を供給する日本臍帯血バンクネットワークが5日、了承した。将来の「血液工場」の基盤技術にもつながるとみられている。先端医療センターは、ネットワークから提供された臍帯血に4種類のたんぱく質を加え、12日間培養する。これにより、造血幹細胞は4.3倍に、臍帯血移植の成功にかかわる細胞の全体では20〜30倍程度に増えることが確認されているという。造血幹細胞などを増やした臍帯血は、急性の骨髄性白血病とリンパ性白血病の患者計10人に移植する。1年間経過を観察し、安全性のほか、通常よりも臍帯血が早く患者に根付き、血液ができやすくなるかどうかを調べる。今年7月、ネットワークに研究利用を申請していた。白血病治療などを目的とした臍帯血移植は、これまでに国内で2500例以上実施されている。骨髄移植と違い必要に応じてすぐに移植できる、白血球型(HLA)の制約が緩やかなどの利点がある。造血幹細胞をもとに、白血球や血小板といった血液細胞に分化させる技術は確立しつつある。造血幹細胞を効率的に増やすことができれば、研究施設で血液細胞を工場のように大量生産することも可能になる。今回の試みが成功すれば、その第一歩になる。(平成17年11月6日 朝日新聞)

オーダーメード医療実用化へ

患者一人ひとりの体質に合わせた医療(オーダーメード医療)の臨床での実現に向け、国立国際医療センターは7日から、外来・入院患者らの遺伝子情報などのデータベース作りに乗り出す。同センターは2〜3年後から実際の医療現場での治療、予防に活用していく方針。オーダーメード医療では、東大医科学研究所を中心とするグループが薬の効果などの研究を始めており、実用化を目指した研究が拡大していきそうだ。対象となるのは、糖尿病や高脂血症、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、白内障、がんなど122疾患。7日からまず外来患者への説明を始め、29の全診療科で患者の了解を得て血液や尿を採取する。その上で病気との関連が疑われる遺伝子のタイプ、尿中のたんぱく質や脂肪などを分析する。こうした遺伝子情報や臨床検査データなどをデータベースに登録する。3万人分の登録が目標としている。最も重要なのは遺伝子情報だ。遺伝子情報を調べると、個々人で少しずつ違う所があり、その違いによって薬の効果や副作用に違いが出る。この情報を知ることによって体質に合わせた治療や予防ができることになる。同センターは、患者の追跡調査も行い、遺伝子情報などから得られた治療法、投薬量が適切かどうかを検証する。東大医科研など14の研究機関と病院が2003年度から始めた「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」(5年間)では、約30万人の遺伝子から薬の効果、副作用などを調べ、データベース化を目指している。これとは別に、東大医科研では、2種類の抗がん剤について、効き目を遺伝子レベルで予測し、使い分ける外来診療を行っている。同センターは実際に医療現場で活用する段階では遺伝子情報はすべて匿名化する。同センター研究所の加藤規弘・遺伝子診断治療開発研究部長は「実用化のめどが立てば、個人情報の保護を万全にして他の医療機関にもデータを提供したい」と話している。国立国際医療センター:1993年、国立病院医療センターと国立療養所中野病院を統合して開設。 通常医療に加え、遺伝子治療や、エイズ、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)など感染症も研究。 発展途上国や災害発生地への医師の派遣、海外からの研修生受け入れも行っている。(平成17年11月5日 読売新聞)

がん幹細胞、消化器などから発見

九州大学生体防御医学研究所の森正樹教授(50)の研究グループは2日、消化器の癌の「幹細胞」とみられる細胞を、食道や胃、肝臓などから見つけたことを明らかにした。癌の幹細胞が見つかれば、これをたたくことでより効果的な治療ができると考えられている。成果は米国の専門誌「ステムセルズ」に掲載される。 幹細胞は、臓器などを構成する細胞のおおもとになる細胞を指し、さまざまな種類の細胞に変身(分化)する能力を持っている。これまでがんは「幹細胞が分化した後の、普通の細胞ががん化する」と考えられていた。 しかしがん患者に抗がん剤を投与したり、放射線治療をすると、いったん腫瘍が小さくなっても再びがんが増殖を始めることが多い。これは「がんの中に死滅しにくい幹細胞が存在し、これががんを作り出す」と考えれば説明がつき、実際に白血病や乳がん、脳腫瘍ではがん化した幹細胞が見つかっている。森教授と九大医学系学府大学院3年、原口直紹さんらは、手術で摘出された人間の消化器がん(食道、胃、大腸、肝臓、すい臓)の組織を使い、がん幹細胞を探した。その結果、(1)抗がん剤に強い耐性を持つ(2)自分と同じ細胞を作る複製能力以外に、自分とはやや違った細胞を作る分化能力もある(3)動物に移植すると、普通のがん細胞に比べて100倍以上の腫瘍を作るという性質を持った細胞を発見した。がん幹細胞の可能性が高いという。 放射線医学総合研究所は今年2月、人間の食道がんの組織からがん幹細胞とみられる細胞を発見したと発表している。九大グループの研究は多くの臓器で幹細胞の可能性がある細胞を見つけたのが特徴だが、森教授は「幹細胞を見つける方法論や条件設定に詰めなければならない問題があり、現段階でがん幹細胞と確定したとまではいえない」と話している。                       (平成17年11月3日 毎日新聞)

ブロッコリーの新芽で胃がん予防

ブロッコリーの新芽に、胃がんの原因と注目されるヘリコバクター・ピロリ菌を殺傷し、胃炎を抑える効果があることを、筑波大の研究グループが突き止めた。米国で開催中の米がん学会主催の国際会議で2日発表する。 同大の谷中昭典講師らは、ピロリ菌に感染している50人を2つのグループに分け、一方にはブロッコリーの新芽を、残り一方には、アルファルファのもやしを、それぞれ毎日約70グラムずつ、2か月間、食べ続けてもらった。成分で見ると新芽、もやしは、ほぼ同じだが、ブロッコリーの新芽には、スルフォラファンという成分(抗酸化物質)が多く含まれる。実験前後で、ピロリ菌の活性の強さを比較したところ、新芽を食べたグループは、活性が約30%〜60%減少。さらに、胃炎も抑えられた。もやしを食べたグループは、こうした変化は見られなかった。マウスでは確認されていたが、人間で確認されたのは初めて。谷中講師は「スルフォラファンは、特にブロッコリーの新芽に大量に含まれる。ピロリ菌を除菌しなくても、胃炎を抑え、胃がんを予防できる可能性がある」と話している。(平成17年11月1日 読売新聞)

親知らずから間葉系幹細胞 

抜いた後の親知らずから、欠損した体の組織再生に利用できる「間葉系幹細胞」を採取し、大量に培養する研究に岐阜大学医学部のグループが取り組んでいる。親知らずは多くの場合、医療廃棄物として捨てられているのが現状で、廃棄物の有効利用としても注目されそうだ。 骨髄などに含まれる間葉系幹細胞は、脂肪や骨などいろいろな体の組織になる性質を持っており、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や重い骨折などで骨の形成を促す際などに用いられる。広島大学などが下あごの骨髄から間葉系幹細胞を採取し、培養する研究に取り組むなど、世界中で研究が進められている。柴田教授らの方法では、親知らずの内部にあるシリコン状の歯髄や、完全に生える前の親知らずの表面を包んでいる歯小嚢(しょうのう)を使う。 歯並びの矯正などの治療を受けた患者から、研究で使うことを断ったうえでもらい受けた親知らずを細かく刻み、間葉系幹細胞を採取する。 この方法で採取された間葉系幹細胞は、1〜2週間で約1万倍に増殖させることができる。親知らずは生えていこうとする「勢い」を持っているため、柴田教授は「骨髄から採取した間葉系幹細胞よりも活性度が高い」と指摘する。 また、零下180度ほどの液体窒素で親知らずを凍結させれば、半永久的に保存することもできる。現在、約30人分の親知らずから間葉系幹細胞の培養を行っており、歯の保存状態が良ければ、ほぼ100%の確率で採取が可能だという。間葉系幹細胞:人の骨髄の中に存在し、骨や筋肉、靭帯(じんたい)などの胞に分化する働きを持っている。このため、骨粗鬆症や重度の骨折の治療などに使われるケースもある。細胞の採取は比較的容易で、培養技術に関する研究が世界的に進められている。また近年では、心筋や神経細胞に分化する可能性も指摘されており、再生医療の分野で注目されている。(平成17年10月25日 朝日新聞)

カテキンに血糖値低下効果

花王はお茶に含まれるカテキンという成分に、血糖値を下げる効果があることを発見した。糖尿病の患者に高濃度のカテキン飲料を飲んでもらう実験で効果を確認した。甲子園大学の山本國夫助教授らのグループと共同研究した。 カテキンが340ミリリットルあたり576ミリグラム入った高濃度のお茶を毎日、糖尿病患者23人に12週間飲んでもらった。その結果、血糖値は平均で1デシリットルあたり約126ミリグラムと8ミリグラム下がり、正常値の同80―120ミリグラムに近づいた。(平成17年10月24日 日経産業新聞)

ファーストフードとアトピー性皮膚炎

妊娠後期と授乳期に揚げ物やスナック菓子、ファーストフードを多く摂取した母親から生まれた子供は、摂取しなかった母親から生まれた子供に比べアトピー性皮膚炎になる頻度が低い可能性が明らかとなった。10月22日に盛岡市で開催された日本アレルギー学会の一般口演「疫学」のセッションで、国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部アレルギー研究室室長の松本健治氏らのグループが発表したものだ。松本氏らは広島市の全公立小学校2年生の保護者を対象としてアンケート調査を行った。アンケートの配布数は1万1163、有効回答率は89.3%で、うち女児が4776人、男児が4878人であった。その結果、妊娠後期と授乳期に揚げ物やスナック菓子、ファーストフードを多く摂取した母親から生まれた子供は、アトピー性皮膚炎の発症頻度が有意に低く、特に4歳以降の発症が少なかった。ただし、食物アレルギーや喘息など他のアレルギー疾患には相関は見られなかった。また食べる頻度とアトピー性皮膚炎の間には、妊娠後期での摂取では相関関係はなかったが、授乳期の摂取では食べる頻度が高いとアトピー性皮膚炎を発症しにくい傾向があった。松本氏は、「ファーストフードに含まれる脂質が、それほど悪い過酸化脂質ではないのでは」と分析するとともに、「脂質を摂取したことで子供の皮膚に保護効果を与えているのでは」と推測している。(平成17年10月24日 medwave)

胃酸の逆流が不眠症の原因に

米国の多くの不眠症患者は、その原因として胃食道逆流症(GERD)を疑われることが、医学誌「Alimentary Pharmacology and Therapeutics」9月号に掲載された新たな研究で明らかにされた。米ジェファーソン大学医学部(フィラデルフィア)の研究者らは、医学的な原因を特定することができない睡眠障害がみられる患者16例を対象として、睡眠の状態を観察した。全例とも、過去にGERDと診断されたことも治療を受けたこともなかった。このうち8例には日中に酸逆流の症状が認められ、残る8例には何ら認められなかった。症状のみられる患者に2〜3週間にわたって、酸分泌を抑制する薬剤であるプロトンポンプ阻害薬オメプラゾール20mgを1日2回服用させた。その結果、重度の睡眠障害に酸逆流が伴う患者のうち、6例に著しい治療効果が認められ、残る2例では効果は認められたものの、その程度はそれほど高くなった。同大内科教授で消化器病学部長のAnthony DiMarino博士は、「これまでGERDと診断されたことのない患者でも、睡眠障害と酸逆流との間に何らかの関係が存在する可能性が示された。 この結果に基づいて、安眠を得るために睡眠薬を服用する前に、家庭医や胃腸病専門医を受診してGERDかどうかの診断を仰ぐ必要がある」と述べている。(平成17年10月21日 日本経済新聞)

グレープフルーツの香りで脂肪燃焼

グレープフルーツの香りをかぐことで脂肪が燃焼されることが、大阪大蛋白質研究所の研究で裏付けられ、13日、札幌市で開催されている日本肥満学会で発表された。これまでもグレープフルーツの香りにダイエット効果があるといわれてきたが、科学的な証拠はなかった。一方、ラベンダーの香りは正反対の作用を及ぼし、脂肪を蓄積させることも、同じ研究で明らかになった。永井教授らは、グレープフルーツから抽出した精油を10分間、実験用ラットにかがせた。その結果、脂肪が分解され血中のグリセロール濃度が2倍以上になった。また、体温が上昇し脂肪が燃焼されていることが分かった。同時に、交感神経の活動が弱まり食欲を低下させ、においをかいだラットはかいでないラットと比べ、体重が約5%減った。永井教授は「体温が上がることなどは人間でも分かっている。ただ、体内時計が乱れると効果がなくなるので、規則正しい生活を送ることが大切。またかぐ量にも注意する必要がある」と話している。(平成17年10月13日 産経新聞)

C型肝炎ウイルス増殖抑制、耐性出にくい薬剤開発に期待

C型肝炎ウイルス(HCV)に感染した細胞側の働きを抑えてウイルス増殖を止めることに、中外製薬創薬研究二部の研究チームが成功した。ウイルスを直接攻撃しないため、耐性を持つウイルスが出にくい薬剤の開発につなげることが期待できるという。17日、米科学誌ネイチャー・ケミカルバイオロジー(電子版)に発表する。 HCVが細胞内でどう増殖するかは解明されていない。HCVは細胞内に入ると特定の脂質と結合して増殖の「足場」をつくるが、須藤さんらはこの脂質でHCVと結合する部分を特定。この部分が欠けているとHCVが増殖できないことがわかった。 この部分が合成されないような物質を見つけ出し、人の肝細胞を使って試験管内で実験したところ、HCVの遺伝子の複製を抑える効果を確認できた。 C型肝炎ウイルスの国内感染者は100万〜200万人とされる。須藤さんは「ウイルスが取り付く細胞側の仕組みを標的にすることができれば、より効果の高い薬の開発が進むのではないか」と話している。 東京都神経科学総合研究所は「HCVは変異が多いのが問題点で、細胞にあるものを標的にできれば、耐性が出ないような薬ができる可能性がある。今後は動物実験などで効果だけでなく、細胞への影響がないかなどの副作用を確かめる必要がある」と話している。(平成17年10月17日 朝日新聞)

本人の骨髄から幹細胞移植

信州大医学部付属病院は12日、重い狭心症のため心臓を取り巻く血管の流れが悪くなった男性患者(61)の心筋に、本人の骨髄から採った幹細胞を移植した結果、心機能の改善に成功したと発表した。患者はこの治療から1カ月後の今月2日、退院した。重い心筋梗塞(こうそく)の患者が骨髄の細胞移植で回復した例は、8月に埼玉医大から報告されたが、心筋梗塞に至る前段階の狭心症患者での回復例は、国内では今回が初めての報告だという。 治療したのは、信大病院循環器内科の池田宇一、心臓血管外科の天野純両教授らのチーム。 男性は4年前から狭心症を患っていた。今年7月に胸の不快感を訴えたため検査すると、心筋に栄養を送る「冠動脈」3本が詰まっていた。9月1日にうち2本について、人工血管を使ったバイパス手術をした。詰まりのひどい残る1本がカバーする心筋部分には、同時並行で幹細胞を直接注射して移植する治療を採用した。 実際には、本人の骨髄液550ミリリットルを採取し、再生になんらかの働きをする幹細胞を集めて、計5ミリリットルを注射。手術後、付近の血流が改善したのを画像検査で確認した。 患者は退院後、以前と同じ日常生活を送っており、今のところ副作用も認められていないという。治療にあたっては、事前に患者の同意と、院内の倫理委員会の承認を得た。池田教授は「将来はカテーテルを使って心筋に直接、幹細胞を注入できるようにして、患者の負担を減らしたい」と話している。(平成17年10月12日 朝日新聞)

片頭痛、中学生の5% 

中学生の20人に1人程度が、頭がずきずきと痛む「片頭痛」を患っていることをうかがわせる初めての大規模な調査結果を、名古屋市立大小児科グループがまとめた。大人よりやや少なめだが、周囲の理解不足から「仮病」と誤解されることもある。的確な診断と治療が行われなければ学業にも支障が出ると、専門家は指摘している。11日、京都市で開かれた国際頭痛学会で発表した。愛知県春日井市の中学生6869人(13〜15歳)を対象にアンケートし、6472人(男子3346人、女子3126人)から回答を得た。 頭痛発作が1〜72時間続く、ずきずきと痛む、吐き気や光過敏があるなど、片頭痛の国際診断基準に当てはまったのは、男子110人(3.3%)、女子203人(6.5%)で、全体の4.8%だった。頭痛の継続時間は、過半数が1〜4時間未満。吐き気やめまい、耳鳴りなどを伴うことが多く、起こりやすいのは「睡眠不足のとき」や「ストレスがたまったとき」との答えが目立った。大人の片頭痛持ちは男性3.6%、女性13%で、全体の8・4%との報告がある。今回の結果はこれよりもやや低率だが、調査を担当した安藤直樹医師は「日本人は痛みを我慢させがちな上、子どもの頭痛があまり知られていないため、『仮病』だと思われることもある。それがストレスになり、学校生活に支障が出る可能性もある」と指摘する。藤田光江・筑波学園病院小児科診療部長は「子どもの頭痛は大人より軽いことが多く、痛みが始まって鎮痛剤をすぐ飲めば抑えられる。家族に片頭痛を持つ人がいる場合が7割を占めるので、心当たりがある場合は受診を」という。(平成17年10月12日 朝日新聞)

膵臓のたんぱく質がインスリン分泌抑制

群馬大生体調節研究所は11日、独立行政法人理化学研究所と協力し、膵臓のβ細胞内にあるたんぱく質「グラニュフィリン」が、糖尿病の原因となるインスリン分泌量を抑制していることを突き止めたと発表した。今後、さらに仕組みの解明を進め、グラニュフィリンに着目した糖尿病の新たな治療法につなげたいとしている。同大研究所の泉哲郎教授らによると、同大研究所は1999年、インスリン分泌にかかわっている可能性のある物質としてグラニュフィリンを発見。マウス実験で、グラニュフィリンがないとインスリンの分泌量が多くなることを確認したという。今回の研究は、米国の学術誌「ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー」の10月10日号に掲載された。糖尿病はインスリン不足などから、血糖値が高くなり様々な合併症を伴う。治療にはインスリン注射や、インスリン分泌を促進する薬の服用などがある。(平成17年10月12日 読売新聞)

飲む育毛剤

万有製薬は11日、医師の処方せんを必要とする国内初の「飲む育毛剤」の入承認を厚生労働省から取得したと発表した。11月後半にも発売する。保険適用外で、病院での診察料と薬代は全額が患者負担となる。発売するのは、親会社のメルクが60カ国以上で発売している男性専用の脱毛症治療薬「プロペシア錠0.2ミリグラム/1ミリグラム」(一般名はフィナステリド)。医療用医薬品で購入には医師の診断と処方せんが必要。原則1日1錠を飲み続ける。保険は適用されず、薬の価格はそれぞれの医療機関や薬局が決める。万有は参考処方価格として1錠250円(税抜き)に設定している。この薬は頭髪の成長の妨げとなる男性ホルモンの活性化を抑制する。額から頭部中央の脱毛を抑え、育毛などの効果を発揮するという。国内臨床試験では1年間服用した被験者の54―58%で脱毛症の改善が確認されたという。作用の仕組みが異なるため、一般用医薬品(大衆薬)である大正製薬の発毛剤「リアップ」との併用も可能という。(平成17年10月11日 日本経済新聞)

がん増殖止めるカギ、たんぱく質発見 

がん細胞の増殖を止める鍵になるたんぱく質を、米ハーバード大の中谷喜洋教授らの研究チームが発見した。がん細胞内で、このたんぱく質「p600」の合成を妨げたところ、がん細胞は増殖を止め、次々と自滅したという。子宮がんや骨肉腫など、様々ながん細胞で効果を確認しており、新しい抗がん剤の開発につながると専門家は期待している。今週発行の米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載される。 体内では、役目を終えたり、異常が見つかったりした細胞が増殖を止めて自ら死に、新しい細胞が生まれることで新陳代謝が繰り返されている。この細胞の自殺(アポトーシス)がうまく働かなくなると、細胞は無秩序に増殖し、がんになる。中谷教授らが発見したp600は、アポトーシスに深くかかわっているとみられる。 同教授によると、培養したがん細胞内のp600は、正常細胞と比べて異常に増えており、「自殺機能」が働かなくなっていた。そこで、p600の合成を妨げる特殊な手法で培養細胞中のp600の量を減らすと、がん細胞は次々と死んでいった。正常細胞には影響がなかった、という。 子宮頸(けい)がん、骨肉腫、乳がん、直腸がんの細胞で、がん細胞は10%以下になった。胃、小腸、大腸、肺、卵巣、前立腺の各がん細胞では、同様のp600の異常増加が起きていることが分かった。このため、中谷教授は「ほとんどすべてのがんで効果が期待できる」とみている。 ただ、人体への臨床応用には、p600に結びついて過剰な働きを抑え、しかも毒性のない物質の開発が必要になる。その後、健康人での安全性の確認、患者への治験などの段階を踏むことになる。従来の抗がん剤の多くは、細胞のDNA合成を妨げるもの。正常細胞のDNAにも影響を及ぼすため、副作用が強い。 効果も限定され、薬だけで治癒可能なのは、血液やリンパ球などごく一部の特殊ながんだけで、より一般的な胃がんなど固形のがんを治癒する薬は、ほとんどないのが現状だ。(平成17年10月4日 朝日新聞)

高齢者医療費、現役並み所得者80万人が「3割負担」に

医療費の窓口負担が一般高齢者の2倍の2割となっている70〜74歳の「現役並み所得者」が、06年度の税制改正で約80万人増えることが2日、厚生労働省の調べで分かった。同省は06年度の医療制度改革で「現役並み所得者」の窓口負担を現役と同じ3割に引き上げる方針。このため現在窓口負担が1割の80万人は税制改正で「現役並み」への移行を経て、一挙に負担が3割にアップする。同省は新「現役並み」の80万人について、段階的引き上げなどの激変緩和措置を導入する意向だが、高齢者層の強い反発を招きそうだ。現在、70歳以上の人の窓口負担は1割。しかし、厚労省は年間課税所得が145万円以上ある人を「現役並み所得者」と位置付け、2割負担を求めている。年金受給世代で課税所得が145万円となるのは、単身世帯なら年収484万円で、夫婦世帯は621万円。06年4月の税制改正で老年者控除が廃止となり公的年金等控除も縮小されるため、「現役並み」収入基準は単身世帯は約380万円、夫婦世帯は約520万円に下がる。これにより、現役並みの人数は現行の約110万人から約190万人に増え、70〜74歳層に占める割合も6%から11%に増加。 厚労省は医療制度改革関連法案に、現役並みの負担を3割にアップさせることを盛り込む考えだ。新たに現役並みとなる80万人の負担は、来年4月から現行制度に則して2割となり、同法案が成立すれば、来年10月にも制度上3割となる。 また、医療費の自己負担限度額は、一般高齢者が月額4万200円なのに対し、現役並みは「7万2300円+医療費の1%」。同省は自己負担限度額もアップさせる方針で、新「現役並み」は、窓口負担同様、負担増の幅が大きくなる。(平成17年10月3日 毎日新聞)

軽い病気「患者負担を」 

低額の医療費は公的医療保険の対象から外して患者の自己負担とする「保険免責制度」が、医療費抑制のための検討項目として、10月中旬に厚生労働省が公表する医療制度改革試案に盛り込まれることになった。1回の診療にかかる医療費のうち500円、1000円などの一定額を患者負担とし、保険の適用はそれを超える分とする方法。軽い病気から重い病気まで広くカバーする今の医療保険制度の根幹にかかわるだけに、政府・与党内でも大きな論議を呼びそうだ。 免責制度は、保険は生死にかかわるような重い病気の時にこそ必要で、風邪などの軽い病気には適用しないという考え方に基づく。自己負担を増やすことで患者にコスト意識を持ってもらい、過度な受診を防ぐ効果も狙う。 財務省が02年度の医療制度改革時に「外来1回、入院1日あたり500円」を提案。今年6月の政府の「骨太の方針」決定の際には経済財政諮問会議が検討課題として明記を求めたが、厚労省や与党側の反対で見送られていた。総選挙での圧勝を受け、小泉政権内で医療費抑制論が強まる中、厚労省も議論は避けられないと判断した。 今回の改革試案では、「免責額500円」「1000円」など複数のケースごとに患者負担や医療費抑制効果の試算を示し、導入の是非を議論する材料としたい考えだ。 ただ導入すると、高齢者ら受診回数が多い人ほど負担が重くなる。医療関係者の中には、症状が軽い間は受診を控えるため、重症になってから受診する人が増え、かえって医療費がかかるという指摘もある。 もともと医者にかかる機会が少ないサラリーマンら現役世代からは「保険に入っている意味がない」と不満が出ることも予想され、厚労省内にも慎重論が根強い。 さらに、サラリーマンの窓口負担を3割に引き上げた際の改正健康保険法の付則には、保険給付を「将来にわたり100分の70を維持する」と明記されている。免責制度を導入すれば実質的には7割給付を割り込むため、厚労省には実現性を疑問視する意見もある。 (平成17年10月2日 朝日新聞)

放射線治療増え、専門医は不足

がんを切らずに治す放射線治療が普及する一方で、治療を行う常勤の専門医が1人またはゼロの医療機関が半数を超えていることが、読売新聞が実施した全国調査で明らかになった。これらの医療機関には、大学病院や、厚生労働省が指定した「地域がん診療拠点病院」も含まれていた。不十分な体制での治療は医療事故にもつながりかねず、専門医の育成が急務だ。調査は、日本放射線腫瘍(しゅよう)学会認定施設など放射線治療を行う主な医療機関287施設が対象で、昨年1年間の治療実績を文書で質問、244施設(85%)から回答を得た。それによると、放射線治療専門の常勤医師が1人以下の施設は、128か所と52%を占めた。これには5大学病院と、全国に135か所ある地域がん診療拠点病院のうち33施設が含まれた。常勤専門医が1人もいない施設は8か所あり、うち1か所は地域がん診療拠点病院だった。放射線治療は、体力的に手術が難しい高齢者も治療ができる利点がある。最近では、がんだけに集中的に放射線を照射する新しい方法が開発され、副作用も減らせるようになった。こうした長所を背景に、日本放射線腫瘍学会の調査では、2001年に約13万人だった放射線治療の新規患者数が、2003年には約15万人に増えている。しかし、同学会が認定する専門医は500人に満たず、米国の専門医の10分の1に過ぎない。かつての放射線治療が外科に比べて根治が難しかった点が、放射線の診断医に比べて治療医の成り手が少ないことの一因とも言われている。東京大病院放射線科の中川恵一・助教授は「治療を安全に行うには、複数の医師による照射計画のチェックが欠かせないが、1人ではミスの懸念がある。学会として専門医を増やす努力が必要だ」と指摘している。(平成17年10月2日 読売新聞)

介護施設の居住・食費、きょうから全額利用者負担

改正介護保険法の一部が1日施行され、介護施設の居住費と食費が保険給付の対象外となり、全額利用者負担となる。在宅で暮らす高齢者との負担の公平を図るのが主な狙い。利用者の負担増は月額数万円程度と見られ、厚生労働省では、この改正により、年間3000億円の介護給付費の削減を見込んでいる。対象となるのは、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設に入所する約80万人。部屋代や光熱水費などの居住費と食事の調理費などが、全額自己負担の在宅と違って、施設では、これまで保険で賄われていた。新しい自己負担額は施設と利用者との契約によって決まり、施設ごとに異なる。低所得者については、居住費、食費それぞれに負担の上限が定められるため、自己負担額は現在とほとんど変わらない見通しだ。(平成17年10月1日 読売新聞)

高齢者の医療費2割負担、対象者が1.7倍に拡大

厚生労働省は28日、来年度の税制改正に伴って医療費の窓口負担が2割になる70歳以上の高齢者が現在の1.7倍の190万人に増えるとの試算を公表した。現在は年収ベースで夫婦2人世帯で621万円以上の場合が対象となるが、これが520万円以上の世帯に広がる。 厚労省は高齢者でも一定以上の所得があれば、窓口負担を2割としたい意向だが、激変緩和措置が必要かどうかについても検討する。(平成17年9月29日 日本経済新聞)

毛髪の金属元素濃度でがん発見

毛髪中のカルシウムなど金属元素の濃度が、乳がんや肝臓がんの患者で異常な値になっていることが、兵庫県立先端科学技術支援センターや京都薬科大、千葉大などの研究で示された。今後、数千人規模で他の病気との関連も調べて、髪の毛を使った簡易検査法の確立を目指すという。同センターなどのチームは毛髪に含まれる金属元素の濃度と、病気との間に関係があるかどうかを調べた。特殊な光で微量な元素を分析できる、大型放射光施設「スプリング8」で測定した。毛髪は1カ月で平均1センチ伸びるため、12センチほどあれば、1年分の変化を分析できる。乳がん患者17人では、がん発見より8〜12カ月前からカルシウムの濃度が、通常の5〜10倍も高い値を示し、その後はゆっくり正常値に近づいていた。カルシウムの代謝が乱れることが原因らしい。 肝臓がん患者11人ではカリウム濃度が、健康な人に比べ10分の1以下だった。健康な人で見つからない、食物からのゲルマニウムも検出された。今後、検査法を充実させるための会社を立ち上げ、アルツハイマー病、骨粗鬆症、糖尿病などと、毛髪中の元素濃度との関係も調べる予定だ。千川純一・同センター所長は「この手法で異常が見つかった人が詳しい検査を受けるようにすれば、毛髪をさまざまな病気を見つける手がかりにできる可能性がある」と話す。(平成17年9月29日 朝日新聞)

副作用の有無、血液1滴で判断

薬の副作用が出るかどうかなどを、患者の血液1滴で1時間半で解析するシステムを理化学研究所などが開発、27日発表した。多数の装置を使い、数日かかった解析を自動化、病院でも簡単に使えるようにした。2006年秋には臨床研究用の試作品を出す予定で、患者の体質に合わせた「オーダーメード医療」の実現に役立つと期待される。人間の遺伝情報は、約30億個の塩基が並んでできている。このうち、「SNP」と呼ばれる一部の配列の違いで、体内の酵素の働きなどが変化、病気のかかりやすさや薬の効き方が異なってくる。このSNPを簡便に調べることができれば患者に合った医療が実現できるとされていた。 従来の解析は、1日がかりで血液からDNAを分離して、精製。それを温度調節して増やし、蛍光検出装置で調べていた。理研は、DNAを分離・精製せずに血液のままで検査する方法を、島津製作所や凸版印刷などと共同開発した。この装置なら、血液1滴をプラスチックチップにたらして機械に入れるだけで、副作用を引き起こすかどうかなどを迅速に判定できるという。(平成17年9月28日 読売新聞)

インスリン注射不要に

糖尿病の新治療法を目指して、インスリンを分泌するヒトの膵臓(すいぞう)の細胞を大量に作る技術開発に岡山大などのグループが成功した。マウスを使った実験で効果も確かめ、この細胞を利用した患者の体内に植え込む人工膵臓の開発も進めている。25日付の米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー電子版で発表する。 開発したのは同大医学部の田中紀章教授、小林直哉助手らを中心とする日米などの国際研究グループ。 膵臓のβ(ベータ)細胞はインスリンを分泌し血糖値を下げている。β細胞が破壊されたり、その働きが悪くなったりした糖尿病患者は、毎日、インスリン注射をしている。β細胞を作って患者に移植できれば、注射が不要となる利点がある。グループはヒトのβ細胞に、寿命をのばす遺伝子組み換え操作をして大量に増殖させた。ただ無限に増えるとがん細胞になる恐れがあるので、寿命をのばす遺伝子を後で取り除く操作もした。 増やしたβ細胞がインスリンを作ることを確かめた上で、糖尿病のマウスに移植すると、ぶどう糖を与えた後の血糖値を健康なマウスと同レベルにできた。移植しなかった糖尿病マウスは血糖値が高いままで、実験開始10週後までに死んだが、移植したマウスは30週以上生きた。 これまでヒトβ細胞の大量増殖は困難とされてきた。β細胞を含む膵島を提供者から移植する手術も試みられているが、実施例は少ない。 田中教授らは、増やしたβ細胞を小さな容器に入れて体内に植え込む人工膵臓を開発中だ。 効果や安全性の確認に課題はあるが、1〜2年後をめどに完成させて動物実験を進め、将来的な糖尿病患者への応用を目指す。(平成17年9月26日 朝日新聞)

脂肪の幹細胞で骨髄再生

肥満の原因になる脂肪から、様々な組織のもとになる「幹(かん)細胞」を取り出し、骨髄を再生することに、日本医科大学のグループがマウスとラットの実験で成功した。骨髄は血液を作る働きをもち、将来は様々な血液疾患治療への応用が期待できる。10月の日本形成外科学会で発表する。 研究をしたのは、形成外科学(百束比古主任教授)と生化学第二講座(島田隆主任教授)のグループ。マウスとラットの脂肪組織を酵素で処理し、遠心分離器にかけて幹細胞を取り出して培養し、「足場」とともに皮下に移植したところ、骨髄をもつ骨が再生した。 幹細胞は骨や筋肉、神経など様々な組織や臓器になる可能性をもつ。再生医療では、受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)や骨髄にある幹細胞を使った研究も進められている。だが、血液疾患の多くは骨髄に原因があり、骨髄幹細胞を利用するのは難しい。また豊富にある脂肪を利用できれば、倫理的な問題や移植による拒絶反応、患者の負担などの軽減も考えられる。 同大形成外科の小川令助手は「骨髄が再生したことで、正常な血液を作る環境が整うと予測される。骨髄線維症や大理石病、白血病などの治療への応用が期待できる」と話す。(平成17年9月24日 朝日新聞)

お年寄り転倒予防 歩くより自転車こぎ効く

お年寄りが寝たきりになる大きな原因が転倒による骨折だ。大腿(だいたい)部や腰周辺の筋肉の鍛錬が転倒予防につながると言われているが、それにはウオーキングよりも自転車こぎの方が有効なことが東北大の研究でわかった。岡山県倉敷市で開会中の日本体力医学会で発表された。年を重ねると、ひざを高く持ち上げる腸腰(ちょうよう)筋や小臀(しょうでん)筋と呼ばれる筋肉が衰え、転倒しやすくなる。同大の伊藤正敏教授、藤本敏彦講師らは、これらの筋肉を鍛えるには、どんなトレーニングが効果的かを調べた。筋肉は疲労回復のために、盛んに糖分を摂取する特性がある。研究チームは20代の学生5〜7人に、30分〜1時間の様々なトレーニングをしてもらい、身体の糖の取り込み分布を画像化できる陽電子放射断層撮影(PET)装置で分析した。その結果、階段上りでは、ひざ上げに最も重要な腸腰筋、次いで重要な小臀筋が使われた様子が確認されたが、ウオーキングやジョギングでは、腸腰筋の活発な動きは見られなかった。腸腰筋の活動が盛んだったのは自転車こぎで、ペダルを踏み込む際は、大腿部に力がかかるものの、もう一方の脚は、股(こ)関節を曲げてひざを上げるため、腸腰筋を使っていると考えられる。藤本講師は「自転車こぎで鍛えられる筋肉は、お年寄りでも同じ。階段上りは疲労感が残るうえ、無理すると心臓や肺に負担をかけ逆効果」と話している。(平成17年9月25日 読売新聞)

がん専門薬剤師を養成へ

厚生労働省は23日までに、2006年度から、がんの薬物療法についての専門的な知識や技能を持つ「がん専門薬剤師」を養成する方針を決めた。がんの医療現場では薬物療法の重要性が高まる一方で、副作用の可能性も大きくなるため、薬物療法に精通した薬剤師の存在が求められている。同省は一定の実務経験がある病院勤務の薬剤師を対象に研修と試験を行い、年間約300人を目標にがん専門薬剤師を認定する。 厚労省によると、がんの治療法は手術療法、薬物療法、放射線療法があるが、これまで国内では手術療法が中心で、薬物療法や放射線療法は手術療法との組み合わせで補助的に行われることが多かったという。(平成17年9月24日 日本経済新聞)

母がディーゼルの排ガス吸引、胎児の脳に粒子蓄積

妊娠中のマウスにディーゼル排ガスを吸わせると、胎児の脳にディーゼル粒子が蓄積されることが、東京理科大薬学部の武田健教授らの研究で明らかになった。マウスの行動や脳内ホルモン濃度にも異常が見られることから、脳内に侵入したディーゼル粒子が影響を及ぼしている可能性があるという。東京都内で21日に開かれた内分泌かく乱物質(環境ホルモン)に関するシンポジウムで発表した。実験では、ディーゼル排ガスの濃度を環境基準値並みにした部屋で、母マウスを妊娠2日目から2週間、1日あたり12時間飼育した。誕生した子マウスの脳を調べると、脳内を清掃する働きがある「血管周囲細胞」の中に、黒い粒子が蓄積されている様子が観察された。一部の神経細胞が死んでいたり、血管内皮がはがれたりする異常もあった。ディーゼル排ガスを吸った子マウスは、普通はおとなしくなる朝によく運動するなど異常が見られたほか、一部の脳内ホルモン量が増えていることも確認された。ディーゼル粒子が脳活動に影響を及ぼしている恐れがあるとしている。脳組織の異常を調べた菅又昌雄・栃木臨床病理研究所長は「人間でもディーゼル粒子は体内に蓄積され、アレルギーなどさまざまな病気の発症につながっている可能性がある」と指摘している。(平成17年9月22日 読売新聞)

インフルエンザ薬「アマンタジン」、耐性ウイルス急増

人で毎年流行するインフルエンザウイルスが、比較的安価な治療薬「アマンタジン」に対する耐性を急速に獲得、中国や香港で耐性ウイルスの割合が約7割に及ぶ深刻な事態になっていると、米疾病対策センター(CDC)のチームが21日、英医学誌ランセット(電子版)に発表した。 アマンタジンへの耐性は、アジアで流行中の鳥インフルエンザ(H5N1型)ウイルスでも報告されていた。人と鳥のウイルスが交雑し、世界的に大流行する新型インフルエンザが出現する事態が懸念されているが、CDCは今回の人のウイルスでの耐性拡大を受け「この薬は新型ウイルスの治療にはもう役に立たないだろう」と警告。世界的な新型インフルエンザ対策にも影響しそうだ。(平成17年9月22日 日本経済新聞)

タクシー内喫煙、粉じん濃度9〜50倍に

タクシーの車内で1人の乗客が喫煙すると、窓を5センチ開けても粉じん濃度が環境基準(1立方メートルあたり0.15ミリグラム)の9倍に達することが、東京大の中田ゆり客員研究員(国際地域保健学)らの調査で分かった。濃度が元に戻るには30分以上もかかり、研究グループは「乗務員や、喫煙者の後の乗客は受動喫煙の被害に遭う恐れが高い。全面的な禁煙化が必要だ」と訴えている。中田研究員らは昨年5月、東京都内で走行中のタクシー車内で、乗客がたばこを1本吸った時の粉じん濃度の変化を測定した。窓を5センチ開けた場合、喫煙者1人で粉じん濃度が環境基準の9倍、2人で24倍、3人で31.6倍にまで上昇した。喫煙者1人でも濃度は30分以上、元に戻らなかった。さらに窓を閉め切った状態では、喫煙者1人で環境基準の12倍となり、1時間以上も濃度が戻らなかった。喫煙者が2人では32倍、3人では49.6倍だった。環境基準は、職場における粉じん被害の目安として、健康増進法に基づき厚生労働省がガイドラインで定めている。一方、東京都内のタクシー運転手372人に聞き取り調査した結果、1回の勤務で乗客がたばこを吸う本数の平均は10.6本だった。運転手の47%が不快と感じ、38%はのどや目の痛み、せきなどの症状の経験があった。54%はタクシーを禁煙化すべきだと回答した。(平成17年9月18日 毎日新聞)

血液1滴で早期の悪性胃がん診断

千葉大学と東京医科歯科大学、北里大学の研究グループは、悪性胃がんの血液診断法を開発し、札幌市で開かれていた日本癌(がん)学会で16日、発表した。血液1滴を分析するだけで、内視鏡で調べても見つからないような早期の悪性胃がんを見つけられるという。今後、大規模臨床研究に取り組み、検査精度を高める。 開発したのは、若い女性に多く、進行の早いスキルス胃がんなど低分化型の胃がんをうまく見つけられる診断法。こうした胃がんはレントゲン検査や内視鏡検査で見つかりにくい。スキルス胃がんでは、見つかったときは約6割が手術できない状態で、手術した場合でも5年生存率は15―20%と低い。 従来の胃がんの血液診断法は進行した状態でないと見つからなかった。 千葉大の根津雅彦助手と野村文夫教授らは低分化型胃がん患者16人と健康な人24人の血液を高性能な解析装置で調べた。がん患者は手術可能な早期の患者で、そのうち3分の2はスキルス胃がん。分析の結果、血液に含まれる6個のたんぱく質断片が診断に使えることが分かった。(平成17年9月16日 日本経済新聞)

日焼け、赤くなる男性、発がん危険度高い
 
日焼けで皮膚が赤くなる男性は、黒くなる男性に比べて、血中のDNAを損傷する率が高いことを、入江正洋九州大助教授(健康科学)らが突き止めた。DNA損傷は発がんのリスクを高めるため、赤く日焼けをする人は注意が必要という。札幌市内で16日まで開かれていた日本癌(がん)学会で発表した。入江助教授らは、日ごろ屋外スポーツをしない男子大学生27人に、8月の晴れた日の海辺で午前10時から午後4時までの6時間、水着姿で日光浴してもらった。日焼けで赤くなる人と黒くなる人がほぼ半々に分かれた。 それぞれ、血中の白血球DNAの損傷を示す指標物質(ヒドロキシデオキシグアノシン)の濃度を測定した。赤くなる人は実験前に白血球10万個当たり0.6個だった指標物質が、実験後には1.2個程度まで倍増した。黒くなる人は実験前後でほとんど変わらず0.2個だった。実験翌朝に再度測定したが、黒くなる人はほとんど変わらないのに、赤くなる人は0.8個で、実験前のレベルには戻っていなかった。一方、27人を日焼け止めクリームを塗る群と塗らない群に分けて同様に実験したところ、塗る群の指標物質は実験前後で微増にとどまったのに対し、塗らない群は0.4個から0.6個に増えていた。尿や血液中の、この指標物質が増えると、皮膚の老化を起こしやすくなるとともに、肺や肝臓、泌尿器などの発がん性を高めることが、これまでの研究で指摘されているという。入江助教授は「日焼けで赤くなる人にとっては皮膚がんだけでなく、他の発がんリスクも高めることになる」と話している。(平成17年9月18日 毎日新聞)

抗がん剤投与量200分の1に、胃がん治療で新技術

愛知県がんセンターは、胃がんに投与する抗がん剤の量を200分の1に減らせる新技術を開発した。薬の入った微小カプセルを体内に入れ、がん細胞だけに効率よく作用させる。動物実験段階だが、少量の薬でもがん細胞が小さくなった。抗がん剤を減らすことができれば副作用を緩和できる可能性がある。3年後をメドに臨床研究を目指す。研究成果は14日、札幌市で始まった日本癌(がん)学会で発表した。新技術は胃がん患者の中でも転移した患者や再発した患者を想定している。同センター研究所の池原譲主任研究員らは、胃がんの抗がん剤を大きさ1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの特殊なカプセルに封入し、体内に入れると免疫細胞が取り込むように工夫した。免疫細胞は胃の中のがん細胞に集まるが、その際に抗がん剤がカプセルから飛び出す仕組みになっている。(平成17年9月15日 日本経済新聞)

老人保健施設の入所長期化

リハビリなどの介護を受けるために入所する老人保健施設で、入所者の平均在所期間が長期化していることが医療経済研究機構の調査で明らかになった。自宅復帰への準備ではなく、「住まい」として入所する人が増えており、介護保険制度の想定と実態が食い違っていることが浮き彫りになった。介護保険制度では老人保健施設は、けがや病気で入院していた高齢者が自宅復帰前にリハビリなどを一定期間受ける施設という位置づけ。介護報酬もリハビリなどの医療ニーズを織り込んで特別養護老人ホームよりも手厚い。しかし、1―2月に医療経済研究機構が実施した調査では、入所者の73.6%は「医療ニーズは在宅で対応可能」。20.8%は「リハビリは必要ない」とされ、リハビリが終わった後も入所を続ける人が多かった。(平成17年9月15日 日本経済新聞)

女性ホルモン、肺がんリスク高める

女性ホルモン剤が肺がんのリスクを高めることが、厚生労働省研究班(主任究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の大規模疫学調査で分かった。研究チームは今回の調査結果を肺がんが発症する仕組みの解明につなげたい考え。 成果は札幌市で開催中の日本癌(がん)学会で15日、発表する。研究班は喫煙経験がない40―69歳の女性4万5000人を8―12年追跡調査した。このうち肺がんになった153人を詳しく調べたところ、子宮筋腫などの手術を受けて人工的に閉経し、エストロゲンなどのホルモン剤を多く使用した人は、使用していない人に比べて肺がんにかかるリスクが2倍以上高いことが分かった。(平成17年9月15日 日本経済新聞)

65人に1人「体外受精」で誕生

精子と卵子を体外で受精させて子宮へ戻す「体外受精」によって国内で生まれた子供が、2003年の1年間で過去最高の1万7400人に達したことが、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)の調査で13日明らかになった。調査したのは、同学会に体外受精の実施登録施設として届け出ている590施設。それによると、03年の体外受精による出生児数は1万7400人と、前年より2177人増加した。全出生数(112万3610人)に占める割合は1・5%で、この年に生まれた65人の赤ちゃんのうち1人が体外受精児になる計算だ。世界初の体外受精児は1978年に英国で誕生し、国内では83年に東北大が成功した。以来、体外受精は年々増え続け、同学会が調査を始めた86年以来の累積出生数は計11万7589人となった。調査を担当した久保春海・東邦大教授(産婦人科)は、「治療1回あたりの妊娠率はそれほど向上しておらず、不妊患者の数が増えた結果だろう。 安全に妊娠・出産できる年齢限界は35歳以下ということを認識してほしい」と述べ、体外受精件数を引き上げている高齢出産の増加に警鐘を鳴らしている。平成17年9月14日 読売新聞

血液で膵臓がんを早期発見

国立がんセンターは、血液1滴で膵臓(すいぞう)がんを発見できる診断法を開発した。精度は90%以上で、従来難しかった早期がんも見つけることができる。膵臓がんは発見、治療が難しいが、この診断法で早期発見すれば手術治療も可能となる。10月から全国規模で臨床研究を始める予定で、14日から札幌市で始まる日本癌(がん)学会で発表する。同センター研究所は、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一島津製作所フェローらが開発した高精度のたんぱく質解析技術を応用。膵臓がん患者の血液を調べたところ、4種類のたんぱく質の量が微妙に変化していることを突き止め、がん診断の指標にした。 78人から採血して調べた結果、大きさが2センチ以下の早期がんも含め90%以上の高精度で膵臓がんかどうかを判別できた。腫瘍(しゅよう)マーカーと呼ぶ既存の診断法を組み合わせると100%になった。(平成17年9月14日 日本経済新聞)

肥満男性は大腸がんリスク増 BMI27以上で1.4倍

肥満の男性は大腸がんにかかるリスクが高くなるという結果が、厚生労働省研究班(主任研究者=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)の大規模な疫学調査で出た。8日発表した。肥満は心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中などの危険要因にもなるが、大腸がんとの関連も今回示された。岩手、秋田、新潟、茨城、長野、大阪、高知、長崎、沖縄各県の40〜60代の男女計約10万人に90〜93年、アンケート。その後、9〜12年間追跡調査した。男性は4万9158人中626人が大腸がんにかかっていた。肥満指数「BMI」(体重÷身長÷身長、単位はキログラムとメートル)によって分類。年齢や喫煙、飲酒などの影響を除いて分析した結果、BMIが25未満の群に比べ、27以上30未満の群は、大腸がんのリスクが1.4倍だった。30以上の群は、対象数がやや少ないものの、1.5倍になった。日本ではBMI25以上が肥満で、22が標準とされる。 欧米の研究では、男性の場合、高身長でもリスクが高まるとされるが、日本人の男性では、身長による統計上の明確な差は出なかった。女性は、肥満指数、身長ともに関連が見られなかった。 肥満だとインスリンが多く分泌され、がん細胞が増殖しやすい、と細胞レベルの実験で出ている。分析を担当した大谷哲也・同センター研究員は「BMIが27以上ならば、運動や食事で減量した方がいい」と話す。ただ、日本人は欧米に比べて肥満者の割合が低く、肥満だけで大腸がんが国内で大幅に増えている説明にはならず、「別の危険要因についても調べる必要がある」と言う。(平成17年9月8日 朝日新聞)

がん、満腹が招く?遺伝子に悪影響 

満腹するまで食べる習慣のある男性は、がん化を抑える遺伝子の働きが弱まっている率が高く、逆に、キャベツやブロッコリーなどを多く食べたり、緑茶を多く飲む男性ではこの率が低いことが、東京医科歯科大(東京都文京区)の湯浅保仁教授=分子腫瘍(しゅよう)医学=らの研究で分かった。14日から札幌市で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。がんに関連した遺伝子の働きが食生活で変化することが分かったのは初めてという。湯浅教授らは、同大病院などで手術を受けた男性の胃がん患者58人にアンケートし、がんになる以前の食事の量や内容などを聞いた。一方で患者ごとに、手術で切り取ったがん細胞を多数分析し、がん化を抑えると考えられている遺伝子「CDX2」の働きを調べた。「満腹するまで食べていた」と答えた22人のうち10人(45%)では、細胞の一部でこの遺伝子が「メチル化」と呼ばれる化学変化を起こし、働かなくなっていた。これに対し「腹八分」または「食事の量を少なくしていた」とした35人では、メチル化が起きていたのは10人(29%)にとどまった。無回答が1人いた。ほうじ茶を含めた緑茶を飲む量では、日に6杯以下と答えた43人のうち17人(40%)にメチル化がみられた。7杯以上飲んでいた14人では2人(14%)と少なかった。無回答は1人。またキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーのどれかを食べる回数でみると、週に2回以下とした32人中14人(44%)にメチル化があったのに対し、3回以上と答えた26人中では6人(23%)だった。湯浅教授は「研究が進めば、食生活の改善でメチル化を抑えたり、がん抑制遺伝子の働きを強めてがんを予防したりできるのではないか」と話している。(平成17年9月4日 毎日新聞)

厚労省が初のアレルギー総合対策

国民の3人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱える状況を改善するため、厚生労働省はアレルギー治療の地域ネットワークづくりなど診療体制の整備に乗り出す。来年度からの5年計画で、国がアレルギーの総合対策に取り組むのは初めて。中でもぜんそく死対策に力を入れ、「患者カード」の普及を図る。9月中にも対策の指針を都道府県に通知し、方針を徹底したい考えだ。 同省のアレルギー対策検討会の報告書は、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなどのアレルギー疾患を持つ人は、国民の30%以上にのぼり、ますます増加傾向にあるとしている。中でも深刻なのはぜんそくで、03年には3701人が死亡し、アレルギー関連死の99%を占めた。 しかし、アレルギー疾患については、日常的に対応する地域のかかりつけ医が診療ガイドラインをよく理解していないケースが多いという。このため厚労省は、日常的な生活圏に設けられた「2次医療圏」(全国370カ所)ごとに専門病院を決め、地域の医師の教育を進めるとともに、都道府県に最低1カ所は基幹病院を決めてネットワーク化。重症患者にも対応できる体制にする。 ぜんそく死については、患者自身の認識不足や不定期な受診などが原因で、減らすことができるとしており、「ぜんそく死ゼロ作戦」と銘打って5年間で死者をなくすことを目標に掲げる。具体的には、発作が起きた時に適切な救急医療が受けられるよう、医療機関名や病歴、合併症の有無、治療状況、服用している薬の名前などを記入して常に身につける「患者カード」の普及や、アレルギーに対応できる救急病院の整備を都道府県に促す。都道府県ごとに、医師会や専門病院などで構成する協議会を設置してもらい、こうしたアレルギー対策を地域医療計画に盛り込むよう求める。(平成17年9月7日 朝日新聞)

がん転移“誘導”たんぱく質発見

がん細胞が他の細胞に侵入したり、転移したりするのに重要な役割を果たす新しいたんぱく質を、名古屋大大学院医学系研究科の高橋雅英教授らの研究チームが発見した。このたんぱく質の働きを抑制することで、がんの進行を食い止める治療薬の開発に道を開く可能性がある。米科学誌「デベロップメンタル・セル」の5日号に発表する。がん細胞内には、「Akt/PKB」と呼ばれる酵素が多くあることが知られていた。しかし、この酵素が存在すると、なぜ、がん細胞が他の細胞の間に侵入(浸潤)し、広がっていくか謎だった。研究チームは、この酵素によって、リン酸化される未知のたんぱく質があることを発見。このたんぱく質によって、がん細胞が、他の細胞間に浸潤する能力が高まることを突き止めた。このたんぱく質は、他の細胞に浸潤していくがん細胞の先端部分に多く存在し、このたんぱく質が、がん細胞を“誘導”していると見られる。高橋教授は、このたんぱく質を「Girdin(ガーディン)」と命名した。 がん細胞は、増殖と浸潤を繰り返すが、高橋教授は「他の細胞への浸潤を抑制できれば、がん進行を食い止めることができるかもしれない」としている。(平成17年9月6日 読売新聞)

脳脊髄液減少症

難治性むち打ち症の「真相」として「脳脊髄(せきずい)液減少症」が注目される中、新潟県が両症の関連性を念頭に、患者十数人を医療機関に紹介していことが分かった。また「学説が定まっていない」として有効とされる治療法に健康保険適用を認めていない国に対し、保険適用や研究推進を求める署名活動が19都府県に広がっていることも判明。痛みの原因が分からず「怠け病」などと誤解を受けてきたむち打ち症患者にとっては、追い風になる。新潟県は昨年6月、200床以上の30病院と15の県立病院を対象に、脳脊髄液減少症の治療への対応を調査し、3病院から「既に取り組んでいる」と回答があった。加えて、県内14保健所に患者団体が作成した同症のガイドラインなど資料を配布して周知し、これが疑われる症状の患者に医療機関を紹介する態勢を整えた。保健所を通じて同症を治療する医療機関を紹介した患者は十数人いるという。さらに、脳脊髄液減少症を医師に広めるため昨年12月、地元の患者団体と勉強会を共催。県医薬国保課は「少しでも苦しんでいる患者の力になれれば」としている。全国に10万人以上ともいわれる患者に対し、脳脊髄液減少症の治療をする医師は数十人しかいないとされ、近隣に医療機関がなかったり、数カ月間順番を待つ状態が続いている。「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)新潟支援の会」の青山優子さん(49)は「県の担当者は私たちの訴に耳を傾けてくれた。もっと多くの医師が治療に取り組んでほしい」と話す。署名活動も進んでいる。NPO法人鞭(むち)打ち症患者支援協会(和歌山市)によると、宮城、新潟、千葉、大阪など12府県の患者が (1)脳脊髄液減少症の研究推進と治療法の確立 (2)有効とされるブラッドパッチ療法への保険適用を求める署名を提出。 うち8府県議会が意見書を採択した。東京、福岡など7都県で署名集めをしている。(平成17年9月4日 毎日新聞)

血液からBSEやヤコブ病の原因物質検出

牛海綿状脳症(BSE)や変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の原因となる異常プリオンというたんぱく質を血液から検出する技術を、米テキサス大などの研究チームが開発した。試験管内でたんぱく質を1000万倍に増やすことに成功したためで、プリオン病の早期診断や拡大防止に役立つと期待される。28日付の米科学誌ネイチャー・メディシン(電子版)に発表した。 異常プリオンは体内に入ると正常プリオンを異常型に変え、脳や脊髄(せきずい)などにたまる。血液に含まれる量はわずかなため、検出が難しかった。 研究チームは、試験管内で異常プリオンに正常型を加えて培養するなどして、短時間で1000万倍以上に増幅させることに成功。プリオン病を発症したハムスター18匹をこの方法で調べると、89%にあたる16匹の血液から異常プリオンを検出できた。健康なハムスター12匹からは検出されなかったという。 同チームは異常プリオンに感染させた未発症の動物についても検出が可能か調べているという。 東京医大の金子清俊教授(神経生理学)は「この方法が確立されれば、牛を殺さずに、手早く生前診断ができるようになり、大きな意義がある。動物の種によって検出しやすさに差があると聞いており、人や牛でも可能か確認を進める必要がある」といっている。(平成17年8月30日 朝日新聞)

体になじみやすい血管・心臓弁

国立循環器病センター研究所と京都府立医科大学、ブリヂストンは共同で、体になじみやすい心臓弁や血管を作ることに成功した。これらを移植すれば、特別な薬を飲み続ける必要がなくなり、血が止まりにくくなる危険などを回避できるとみている。動物実験で性能の検証を進めており、動脈硬化による心臓病などの治療向けに3年以内に実用化する。研究チームは体内に異物が埋め込まれると、周囲の組織が異物をくるんで無害化しようとすることに注目。ブリヂストンを中心に高分子製の特殊な鋳型を開発し、この鋳型をウサギなどの体内に約1カ月埋め込んでから取り出して、管や弁の形をした特殊な組織を作ることに成功した。 できたこの管を使って同じウサギの血管をつないだところ、拒絶反応を起こさずに定着した。一方、弁は心臓の中と同等以上の圧力を加えても壊れないことを確認したという。(平成17年8月29日 日本経済新聞)

介護予防サービス支払い、定額と成功報酬を導入

厚生労働省は介護保険制度改革により来年4月から導入される介護予防サービスで、事業者に支払われる報酬に、1か月単位などの定額払い方式と、利用者の状態改善に応じた成功報酬の仕組みを導入する方針を固めた。定額払いと成功報酬を導入するのは、計16種類の予防サービスのうち、デイサービス、通所リハビリテーション、訪問介護の3種類。これらのサービスは、現行制度では、介護の必要度に応じ、時間ごとに報酬が支払われている。しかし、厚労省では、時間による出来高払いの仕組みでは、改善効果が低いサービスを長時間提供し続ける事業者が出かねないと判断。軽度の要介護者のみを対象とする予防サービスでは、サービス内容がある程度共通していることから、内容を標準化し、月ごと、またはサービスメニューごとの定額払いが適当と判断した。また、効率的なサービス提供を促すため、運動機能や栄養状態などで高い改善結果を出した事業者には報酬を加算。効果が出なかった場合は報酬を減算する。厚労省は30日夕方に開かれる社会保障審議会介護給付費分科会・介護予防ワーキングチームにこれらの方針を提示。 分科会で具体的な報酬額を検討し、来年1月に決定する。(平成17年8月30日 読売新聞

骨セメント:副作用で32人が死亡

骨折治療などに使われる「骨セメント」について、厚生労働省は25日、医薬品・医療機器安全性情報を出し、慎重な使用を呼びかけた。01年度から04年度までに、使用された患者32人が副作用とみられる血圧低下などを起こして死亡し、他に5人が意識障害などになった。同省は92年から3度、同情報を出しているが、改めて呼びかけた。心臓や肺に病気のある患者、高齢者、肥満の患者などはリスクが高いという。同省はまた、漢方薬「補中益気湯」で99年以降、5人の患者が副作用とみられる重い肺炎の一種「間質性肺炎」を起こし、うち1人が死亡していたと発表した。(平成17年8月26日 毎日新聞)

パーキンソン病、電流刺激で症状改善

パーキンソン病の運動症状などが、強さがでたらめに変わる雑音のような微弱電流で脳を刺激することによって改善できることを、東京大の山本義春教授(教育生理学)や郭伸・助教授(神経内科学)らの研究チームが実験で確かめ、米神経学会誌8月号に発表した。神経の電気信号が、微弱電流で強められる「確率共鳴」という現象が起き、低下していた脳の情報処理機能が改善されたとみられる。薬が効かない症状も改善したといい、体への負担が少ない新治療法としての実用化が期待される。症状が重いパーキンソン病などの患者計15人の耳の後ろと額に電極を付け、微弱電流を額の方向に流して、姿勢の調節にかかわる前庭神経を丸1日刺激し続けた。その間、体に装着したセンサーで体の動きと心拍を記録した。患者には、動作が鈍かったり、動作を始めるとなかなか止まらなかったりという運動症状がある。だが、電流刺激を受けている間はこうした症状が改善することが分かった。(平成17年8月27日 日本経済新聞)

再生医療で重い心臓病改善

埼玉医科大学は27日、重症の心臓病患者に患者の骨髄細胞を移植する再生医療を実施して、弱った心臓の機能を回復させることに成功したと発表した。患者は補助人工心臓をつけないと生命を維持できないほど重症だったが、日常生活を送れるまでに改善し、同日退院した。補助人工心臓をつけた重症患者が再生医療で退院できるまでに回復したのは、世界でも初めて。 治療を受けた患者は61歳の男性で、今年2月に心筋梗塞(こうそく)を起こし同大総合医療センターに入院した。一時的に心停止状態になったが、補助人工心臓を着けて命を取り留めた。持病の糖尿病が原因で腎臓の働きが低下し透析治療をしていることなどから、心臓移植も受けられる状況になかった。 許俊鋭教授らは患者の腰骨から骨髄液を採取し、赤血球などを除いた細胞などを冠動脈内に注入する治療を5月に実施した。その後、心臓の機能が回復し、6月には補助人工心臓を取り外すことができた。(平成17年8月27日 日本経済新聞)

寿命延ばす?たんぱく質発見

寿命を延ばす作用があるたんぱく質を、黒尾誠・米テキサス大助教授と東京大、大阪大などのチームがマウス実験で見つけた。こうした物質が、哺乳(ほにゅう)類で見つかったのは初めて。このたんぱく質は人間でもつくられており、将来、薬でこのたんぱく質を増やすなどして、寿命が延ばせるようになるかも知れない。米科学誌サイエンスの電子版に26日、論文が掲載される。 この物質は、黒尾さんらが8年前に見つけた遺伝子「クロトー」がつくるたんぱく質。遺伝子操作でクロトーたんぱく質が通常のマウスの2〜2.5倍できるマウスを作ったところ、通常のマウスの寿命が平均約700日なのに対して、平均で2〜3割長生きし、3歳に達したものも出た。 このたんぱく質は脳や腎臓でつくられる。一部が血液で体中に運ばれ、インスリンの作用を抑制するように働いていた。通常のマウスにこのたんぱく質を注射すると、血液中の糖を体の組織に取り込むインスリンの働きを打ち消し、血糖値が上がった。インスリンの働きを抑えすぎると糖尿病になるが、適度に抑えることで寿命を延ばすとチームは見ている。 クロトー遺伝子が壊れたマウスは、動脈硬化や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、肺気腫などで短命なことが知られていた。黒尾さんはこのたんぱく質がホルモンとして老化を制御するとしており、「人の老化や生活習慣病の治療・診断に応用できる可能性がある」という。 これまで、哺乳類の寿命を延ばす方法としては唯一、体に取り込むカロリーの制限食事制限)が有効なことが、多くの動物実験で確かめられており、インスリンとのかかわりを指摘する説もある。(平成17年8月26日 朝日新聞)

睡眠不足で仕事の能力低下、薬で回復

睡眠不足のために落ちた仕事の処理能力を薬で回復させる実験にサルで成功したと、米ウェークフォレスト大(ノースカロライナ州)などのチームが25日までに米科学誌に発表した。人で効果が確認できれば、パイロットや医療従事者ら、睡眠不足でも高い処理能力が求められる人の助けになりそうだという。研究は兵士の睡眠不足に関心が強い米国防総省の助成を受けた。カリフォルニア州のコーテックス製薬が開発中の「アンパカインCX717」という薬剤。記憶などにかかわる神経伝達物質グルタミン酸の働きを脳内で長持ちさせる働きがあるとされる。チームはアカゲザルに、最初に1枚の絵を見せ、後で複数の絵の中から同じものを選ばせるテストをした。徹夜させて寝不足の状態に置くと間違いが増え、時間もかかったが、薬を注射すると成績は平常時並みに。テスト中に脳の活動を調べると、寝不足時は脳の特定の場所の活動が低下したが、薬を与えると平常時のパターンに戻った。(平成17年8月26日 日本経済新聞)

劇症肝炎患者に肝細胞増殖因子

京都大学医学部付属病院は24日、劇症肝炎患者を対象とする臨床試験(治験)を始めると発表した。臓器・組織の再生作用を持つ肝細胞増殖因子(HGF)と呼ぶたんぱく質を16人の患者に投与し、肝機能の回復を目指す。2007年6月まで実施し、安全性や治療効果を確かめる。劇症肝炎はウイルス感染などが原因で肝臓の細胞が急激に壊れる病気。老廃物が浄化できず、血液を固める成分が作れなくなる。意識障害も起きる。正常な肝臓を移植する以外に有効な治療法がない。製薬会社による治療薬の開発は進んでおらず、京大は医師主導で治験を実施することを決めた。(平成17年8月24日 日本経済新聞)

関節リウマチ原因遺伝子新たに5種発見

製薬会社など約90社で構成する「バイオ産業情報化コンソーシアム」と産業技術総合研究所は、数10種類から百種類あると予測されている関節リウマチの原因遺伝子のうち、新たに5種類を発見した。他に40種類の原因遺伝子の手掛かりもつかんでいる。遺伝子の大半を確認できれば、関節リウマチのより正確な診断や新薬開発に役立つ。 共同研究グループは関節リウマチの患者と健康な人の計2000人の血液を分析。ヒトゲノム(人間の全遺伝情報)のわずかな個人差を手掛かりに、原因遺伝子が存在すると考えられる47カ所を突き止めた。 (平成17年8月25日 日経産業新聞)

中学生の7%、外反母趾に 

中学生の外反母趾(がいはんぼし)の割合は約7%で、「予備軍」も含めると女子は全体の6割で10年前の2倍以上に増えている。そんな結果が埼玉県立小児医療センターの佐藤雅人副院長(小児整形外科)らの調査で出た。男子でも患者や予備軍が約4倍の5割と急増。佐藤さんは「車社会の影響などで、子どもの足の運動能力が低下しているのが最も関係しているのだろう」と推測している。 佐藤さんらは、同県内の同じ中学校で、93年に男女846人、03年に287人から足形をとって、足の親指の曲がり具合(外反角)などを比べた。 その結果、女子では、外反母趾と定義した「外反角30度以上」が、93年には1.3%、20〜30度の「予備軍」を合わせると27.3%だった。それが03年には、30度以上が8.0%、予備軍も含めると61.1%に。男子は93年は30度以上は0.2%、予備軍を合わせると12.8%だったのが、03年にはそれぞれ6.7%、49.1%と急増していた。 大人の場合は、窮屈な靴で足を締め付けることや、指が曲がりやすい体質などが原因とされる。だが、子どもの場合は、ハイヒールなどの窮屈な靴を履く機会は少ない。調査では男女とも、外反角と体の成長などとの間に関連もみられなかったことから、佐藤さんは「小さい頃から運動不足だと、足が扁平(へんぺい)足になり内側に力がかかって外反母趾になりやすい」とみる。(平成17年8月24日 朝日新聞)

飲む育毛剤

万有製薬は年内にも国内で初めて「飲む育毛剤」を発売する。米製薬大手メルクが開発し米国など60カ国以上で発売中の男性専用の脱毛症治療薬で、医師の処方せんが必要な医療用医薬品として販売する。国内発売するのは「プロペシア」(一般名はフィナステリド)。額から頭部中央部分の脱毛を抑え、育毛・発毛に効果があるという。原則1日一錠を飲み続ける。女性は服用できない。万有は2003年に承認申請しており、29日、厚生労働省の医薬品部会で製造承認のめどがついた。(平成17年7月30日 日本経済新聞)

C型肝炎無料検査を40歳未満にも拡大

厚生労働省は27日、保健所で無料で受けられるC型肝炎ウイルス検査の対象者を来年度にも40歳未満に広げることを決めた。 血液製剤「フィブリノゲン」によるウイルス感染問題で、40歳未満でも感染する危険があることから、これまで40歳以上としていた年齢制限を撤廃することにした。 同省は専門家会議が同日、C型肝炎対策の報告書をまとめたのを受け、検診費用などを来年度予算の概算要求に盛り込む方針。C型肝炎はウイルスの感染によって起こり、患者は国内で150万人以上いるとされる。 治療せずに放置すると、10―30年で肝硬変や肝臓がんになる可能性が高い。 体内のウイルスが少ないほど治療効果が高く、感染の早期発見が重要となる。(平成17年7月27日 日本経済新聞)

タマネギに含まれるケルセチンの投与で骨密度の減少を抑制

フラボノイドの一種でタマネギに多く含まれるケルセチンを骨粗鬆症モデルマウスに投与したところ、4週間後、骨密度の減少が有意に抑制したことを、徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部の辻光義氏らが、「フラボノイド化合物ケルセチンの骨粗鬆症予防効果とその作用機構」と題したポスター演題の中で発表した。ケルセチンには、ガンや動脈硬化などの原因である活性酸素を抑える抗酸化作用と、花粉症やアレルギー性皮膚炎に対する抗炎症作用があることが報告されているが、骨量への影響に関してはまだはっきりしていない。この研究では、卵巣を摘出した骨粗鬆症モデルマウスを作成し、対照群には偽手術を行った。術後3群に分け、非投与群と対照群にはコントロール食を、他の2群にはそれぞれケルセチン0.25%および2.5%を添加した食餌を与えた。投与4週間後、第3腰椎の骨密度を測定したところ、ケルセチン2.5%群では非投与群に比べて有意に骨密度の減少が抑えられており、対照群とほぼ同じ程度の骨密度になっていた。一方、血清カルシウムやリンの濃度および子宮の重量には変化がなかった。 またケルセチンは植物エストロゲンとしての作用をもつとの報告があるため、辻氏らはin vitroでエストロゲン受容体(ERα、β)に対する活性を調べた。その結果、大豆由来の植物エストロゲンであるイソフラボン(ゲニステインとダイゼイン)はエストロゲン受容体に作用して活性が見られたが、ケルセチンでは活性は示さなかった。このことから辻氏らは、タマネギやホウレンソウ、パセリなど、ケルセチンを含有する野菜を積極的に摂取することが、骨粗鬆症予防に有効」であり、「イソフラボンとは異なる経路で生体に作用すると結論づけている。(平成17年7月28日 medwave)

骨を作る遺伝子を解明

東京医科歯科大学の高柳広教授らの研究グループは、骨が作られる仕組みを遺伝子レベルで解明した。国内に1000万人いるとされる骨粗しょう症患者の新しい治療薬の開発に道が開ける。体内の様々な骨は、骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞と呼ぶ2種類の細胞の働きで新陳代謝を繰り返している。このバランスが崩れると骨がもろくなって骨粗しょう症になる。 研究グループは破骨細胞を活性化させるNFAT遺伝子から作られるたんぱく質が、オステリックスと呼ぶ別の遺伝子から作られるたんぱく質と協調して、骨芽細胞を活性化することを突き止めた。(平成17年7月27日 日経産業新聞)

若い女性の骨を強くするのはビタミンDと運動

食事によるビタミンDの摂取量を増やし、歩行数を増やすことが、血中ビタミンDの濃度を上げ、さらには骨密度を高めることにつながることがわかった。東京女子医科大学医学部産婦人科教室の黒田龍彦氏らが、平均20歳の女性を対象にした調査をもとに7月23日の口演セッションで発表した。骨密度は加齢とともに生理的に低下し、特に閉経後はエストロゲンの減少で、骨密度は顕著に低くなる。このため若い頃に骨密度を上げておくことが、将来の骨粗鬆症を予防するといわれている。このグループでは別の口演発表の中で、同じく若年女性を対象にした調査から「血中25OH-ビタミンD濃度が25ng/ml以上であれば、高骨密度の獲得につながる」と述べている。このためビタミンDは骨密度の増加に寄与するという前提に基づいて、黒田氏らは、若い女性のライフスタイルと血中ビタミンDとの関係について調べた。対象は19〜25歳の健康な女性293人。採血サンプルからは25OH-ビタミンDを測定し、日常活動をライフコーダー(生活習慣記録機)や質問表で記録、さらに食行動を自記式質問表を用いて分析した。この結果、ライフコーダーによる総エネルギーは平均1819Kcal、運動のみのエネルギーは221Kcal、歩行数は8810歩だった。 また血中ビタミンD量との関係を調べると、運動エネルギーと歩行数は正の相関を示し、逆にテレビ鑑賞やゲーム時間などエネルギー消費が極めて低い運動とは負の相関を示した。また食事からのビタミンDの摂取量と血中ビタミンD量は相関しており、ビタミンDの摂取量と歩行数には相加的な効果もあったという。このことから、血中のビタミンDを高濃度に保つには、食事によるビタミンDの摂取と歩行数を増やすことが若い女性においても必要であり、これは非薬物的介入法の一つであると結論づけた。(平成17年7月27日 medwave)

「職場高血圧」にご用心 

健康診断では正常な血圧の人の中に、仕事の合間に測ると高血圧の人が2〜3割もいた。こんな「職場高血圧」に関する調査結果を東京都老人医療センターの桑島巌・副院長(循環器病学)らがまとめた。9月にある日本高血圧学会で発表する予定だ。桑島さんは「必ずしもすぐ治療を要するわけではないが、高血圧予備軍と考えられる」といっている。 桑島さんらは東京都内にある販売会社本社の事務部門に血圧計を置き、仕事の合間に血圧を測ってもらった。健康診断では正常血圧だった社員151人(平均年齢約40歳)のうち55人(36%)が、仕事中は上の血圧(単位はミリHg)が140以上または下の血圧が90以上で、高血圧と診断される血圧だった。 ある役所の事務部門でも、健康診断で正常血圧の職員267人(平均年齢約42歳)のうち62人(23%)が、仕事中は高血圧に分類された。 血圧はかなり変動があり、桑島さんは仕事中は一般の人でも10程度は上がる可能性があると見ているが、調査で見つかった「職場高血圧」では、健診時より40〜50も上がっていた人もいた。「仕事のストレスが血圧の変動に影響しているのではないか」という。国内では約3500万人が高血圧と推定されている。成人の約3人に1人の計算だ。仮面高血圧(隠れた高血圧)の人が国内にどれだけいるかは分かっておらず、一定規模の職場で実施された今回の調査は注目される。 血圧計は1万円以下で手に入るものもある。松沢佑次・大阪大名誉教授(内科)は「個人差もあるが、まずは職場や家庭で測り、変動が大きい人は生活習慣を見直し、改善してほしい。場合によっては専門医の診察を受ける必要もある」という。 高血圧は放置すると、動脈硬化が進み、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などの病気につながる。食塩制限や野菜・果物の積極的な摂取、運動などの生活習慣の改善や、薬の服用で治療する。(平成17年7月21日 朝日新聞)

脚付け根の骨折、1年以内の9%死亡

高齢者の寝たきりの原因の一つ、大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)(脚の付け根)骨折では患者の約9%が手術などの治療を受けてから1年以内に死亡していたことが、厚生労働省の研究班(主任研究者=萩野浩・鳥取大助教授)と日本整形外科学会による調査で明らかになった。特に高齢者では運動能力低下から持病の悪化を招く脅威と確認され、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防と転倒防止の重要性が指摘されている。治療後の寿命や日常生活動作能力(ADL)への影響を全国規模で調べたのは初めて。99〜01年の3年間に骨折した0〜111歳の患者1万2250人(平均79歳)のデータを分析した。2割強が80代後半で、入院期間は平均約2カ月。患者は女性が多く、男性の3.7倍。50代前半の閉経期を境に急激に増えており、骨粗鬆症の影響とみられる。 原因は単純な転倒が全体の4分の3を占め、おむつを交換しただけで折れた「おむつ骨折」も30件あった。 1年以内の死亡が確認されたのは1157人で全体の9.4%。1年後の生存率を年齢別に見ると、50代半ばまではほぼ100%だが、50代後半〜70代は9割台、80代は8割台、90歳を超えると7割台に落ち込んでいた。高血圧や心疾患、認知症(痴呆(ちほう)症)などの持病があると死亡率が高かった。一方、骨折前は「交通機関を利用して自由に外出できる」(29%)と「隣近所なら独力で外出する」(25%)が計54%だったが、骨折1年後にはそれぞれ17%と14%の計31%だった。調査をまとめた阪本桂造・昭和大教授(整形外科)は「大腿骨頸部骨折は、寝たきりだけでなく、持病が多いと死亡の間接的な引き金にもなる重い病気。適度な運動で骨が弱くなるのを防ぐことと、転倒防止対策の充実が必要だ」という。(平成17年7月19日 朝日新聞)

平凡・無害なウイルス、実はがんキラー 

誰でも感染経験をもつ平凡で無害なウイルスが、実は、がん細胞だけを狙って殺せる「すぐれもの」だと分かった。米ペンシルベニア州立大のチームが発表した。新たな治療法への発展も期待できるという。アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)という病原性のない小さなウイルスで、日本の専門家によると、成人の85%が感染経験をもっている。 チームは、AAV2に感染している女性がウイルス性の子宮頸(けい)がんにかかりにくい、という現象に着目。子宮頸がんのほか、乳がんや前立腺がんなどの細胞とAAV2を培養したところ、がん細胞が6日後にすべて死滅したという。 AAV2はがん細胞に侵入した後、DNAに何らかの細工をするとみられる。チームのメヤーズ教授は「正常な細胞には悪影響がなかった。AAV2はがん細胞を見分けているらしく、新たな治療法になる可能性がある」といっている。(平成17年7月18日 朝日新聞)

総コレステロール値と心筋梗塞の発症とは無関係

血液中の総コレステロールの値は心筋梗塞(こうそく)を発症する危険性とほとんど関係がないとの調査結果を、青森県立保健大の嵯峨井勝教授(環境保健学)らが15日、東京都内で開かれた日本動脈硬化学会で発表した。関係するのは血圧や「善玉」と言われるHDLコレステロールの値だった。嵯峨井教授は「総コレステロールより血圧に注意し禁煙と運動で善玉コレステロールを増やすべきだ」と訴えている。同学会は、血液1デシリットル中の総コレステロールが220ミリグラム以上を「高コレステロール血症」と定め、心筋梗塞の可能性が高まるとして、喫煙者や45歳以上の男性、55歳以上の女性は220未満に抑えるべきだとの指針を発表している。220以上は全国で2300万人と推定されるが、今回の調査は指針に疑問を呈する形となった。嵯峨井教授らは、04年度に青森県内で健康診断を受けた40歳以上の男女1491人について、総コレステロール値やHDL、血圧、年齢、性別、喫煙の有無を調査。全国の男女5万人を6年間追跡して心筋梗塞の発症率を調べた別の調査と比較した。総コレステロールが260程度でも、大半の人の発症率は1%未満にとどまった。180程度でも、喫煙などの影響で同約5%に達する人もおり、総コレステロール値と心筋梗塞の発症率にはほとんど関係がなかった。(平成17年16日 毎日新聞)

味覚障害、国内に24万人

国内の味覚障害患者は推定約24万人で、13年前の1.8倍に増加。そんな結果が日本口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)科学会の調査で明らかになった。社会の高齢化が進んだためとみられる。スウェーデンの専門誌の最新号に発表した。味覚障害は命に別条はないが、生活の質に影響する。学会は03年6月に全会員へアンケートを送り、441施設から00〜02年の患者数などの回答を得た。1施設当たりの1カ月の患者数は大学病院(83施設)で9.4人、一般病院(143施設)で5.3人、個人医院(215施設)で3.7人だった。これをもとに全国の耳鼻咽喉(じびいんこう)科施設数から推計すると、1年間の国内の患者数は24万4858人で、90年に調査した時の推計13万8575人の1.77倍に増えていた。治療については7割の医師が亜鉛の含まれる経口薬を使っており、うち4分の3強が有効であると答えた。441施設のうち27施設で味覚専門外来を開設していた。味覚障害は、降圧利尿薬など薬剤性によるものが多いほか、糖尿病や腎不全などで体内の亜鉛が排出されたり吸収が悪かったりする場合もある。お年寄りに多く、大幅増は高齢化が進んだ影響が大きいとみられる。調査をまとめた池田稔・日本大助教授は「グルメブームなどで微妙な変化に敏感になっている人も増えているかもしれない。味覚障害は生命の危機に直接は結びつかないが、生活の質を大いに損ねる。味がわからないような場合は、近くの耳鼻咽喉科や内科に相談してほしい」と話している。(平成17年7月17日 朝日新聞)

培養真皮

重い皮膚潰瘍(かいよう)ややけどの治療に、人の真皮細胞を培養してシート状にした「培養真皮」が基本的に安全で有効であるとする研究成果を、厚生労働省の研究班(主任研究者=黒柳能光・北里大教授)がまとめた。 00年度から5年間の臨床研究で404人に使われ、9割以上で患者の状態の改善につながったといい、製品化が期待されている。 皮膚は、厚さ0.1ミリの表皮と、その下の厚さ数ミリの真皮で成り立つ。 今回の培養真皮は黒柳さんらが独自に開発した。 提供してもらった人の皮膚から線維芽細胞を取り出して培養、それを皮膚の再生を促すコラーゲンとヒアルロン酸でつくった特殊なスポンジシートに組み込んだ。 10センチ四方のシートを、ガーゼのように患部に当てて皮膚の再生を促す。 北海道大や慶応義塾大、九州大など30の医療施設が参加した臨床試験で、使ったシートは5千枚近く。 患者の皮膚の再生ぶりや感染症が抑えられるかなどを、点数化して患者ごとに評価した。「安全」と評価されたのは、89.4%で、「安全に疑問」「安全でない」は合わせて1.7%だった。 総合評価は、62.6%が「極めて有用」で、30%が「有用」。 「有用でない」は1%に満たなかった。 培養表皮、真皮は米企業が製品化しているが、国内未承認。今回の培養真皮は、皮膚再生を促す仕組みが海外製品に勝ると黒柳さんはいっている。(平成17年7月11日 朝日新聞)

天然痘テロ

国内で天然痘ウイルスを使った生物テロが起きた場合に備え、専門家らでつくる厚生労働省研究班が、国家備蓄に必要な天然痘ワクチンの量を「5600万人分」と算出していることが分かった。 天然痘テロ対策として、科学的にワクチン備蓄量が提示されたのは初めてで、厚労省ではこの研究を参考にしながら、備蓄体制の整備に乗り出す。 研究班は国立感染症研究所や大学などの研究者らで構成。日本では1976年に天然痘の予防接種(種痘)を廃止しており、研究班では76年以降の出生者が約
3800万人、76年以前に生まれ、健康上の問題などで種痘を受けなかった人が約2割(約1800万人)いると推計した上で、「財政面も考慮し、合わせて約5600万人分があれば対応できる」とした。 備蓄するのは、副作用の少ない「LC16m8」と呼ばれるワクチンを提案。 現在、同ワクチンを製造できるのは熊本市にある財団法人化学及血清療法研究所だけで、研究班では、国と同研究所が契約を結び、常に一定のワクチン製造能力を保つよう求めている。 1人分のワクチンを約300円とした場合、研究班の提案通りに備蓄を進めればワクチン費用だけで168億円かかることになる。 2001年の米国炭疽(たんそ)菌テロ以降、生物テロに対する警戒は全世界で強まり、中でも致死率の高い天然痘は、欧米などで全国民分のワクチン備蓄や種痘を進める動きが出ている。 日本政府も、2001年に約300万人分のワクチン備蓄を決めたが、その後は「危機管理上、問題がある」として、備蓄計画などを明らかにしていない。 今回、国費による研究班の報告がまとまったことを受け、厚労省厚生科学課は「生物テロは依然として大きな脅威。報告を参考にしながら、備蓄や研究を進めていきたい」としている。 かつて世界保健機関(WHO)の天然痘根絶対策本部長を務め、今回の研究をとりまとめた蟻田功・財団法人国際保健医療交流センター理事長は「いつ起きるか分からないテロに備えるのは難しいが、事が起きてからでは遅い。 国は早急に備蓄を進めるとともに、ワクチンの効果や使い方についてさらに研究を進めることが重要」と話している。(平成17年7月1日 読売新聞)

小児のいびきは多動発症の予測因子

いびきをかく小児はそうでない小児と比べて、注意力や多動(活動過剰)に関する問題を来す可能性がはるかに高いことが知られている。米ミシガン大学睡眠障害センター所長のRonald D. Chervin博士は「両者の関係はきわめて強く、因果関係があると言える」とした上で、いびきや他の睡眠障害は将来的な多動の発症あるいは悪化を占う強い危険因子となるとの見解を示した。 ミシガン大学およびワシントン大学の研究者らは、4年前に実施した小児科領域の調査対象とした866例から、現在6〜17歳の小児229例を抽出し評価した。このうち、多動であると考えられたのは30例であった。4年前の調査でいびきが日常的に認められた小児は、今回の調査までに多動を来していた確率が約4倍であった。さらに、4年前の調査時での、いびきの習慣や大きないびき、眠気または睡眠を損なう呼吸の有無によって多動が予測されることがわかった。 ただし、どのようにしていびきが多動を引き起こすかについてはまだ明らかではない。ジョンズ・ホプキンズ大学小児センター小児睡眠障害プログラムのAnnHalbower博士は「証拠はまだ得られていないが、少なくともいびきと多動との間に因果関係が強く示唆される」とした上で、何らかの基礎疾患によっていびきと多動の両者が生じるということも考えられると指摘する。 いびきは、学校生活に支障を来すなどさまざまな問題との関係が明らかにされている。Chervin博士は、保護者が睡眠の問題を深刻に受け止め、症状の詳細を知るため小児専門医を受診するよう勧めている。 現在、いびきの治療として最も頻繁に実施されるのは扁桃(へんとう)およびアデノイドの切除である。(平成17年7月8日 日本経済新聞)

脳血管性認知症、演奏や運動で症状改善

脳卒中で脳の血流が悪くなって起こる脳血管性認知症(痴呆(ちほう))は、楽器演奏やゲームなどのレクリエーション活動により、症状が改善することを、国立長寿医療センターの研究グループが突き止め、米老年医学会誌に発表した。 認知症は、脳梗塞(こうそく)などの後に発症する脳血管性認知症と脳細胞が委縮するアルツハイマー病に大別される。 研究グループは、同センターに入院する脳血管性認知症45人、アルツハイマー病37人の計82人に、楽器演奏や、風船を使ったバレーボール、体操、踊りなどのレクリエーション活動を、週に5回(1回90分)ずつ続けてもらった。 その結果、脳血管性認知症患者の場合、活動を30回以上行った15人の記憶・認知テストの試験結果が、活動前より10%向上し、改善が見られた。 活動が30回より少ない人や、アルツハイマー病患者では試験結果に変化はなかった。同センターの長屋政博・骨関節機能訓練科医長は「レクリエーション活動で症状に改善が見られる人は、血流の悪い部分が、脳の特定部分(前頭葉)に限定している場合が多いようだ」と話している。(平成17年7月11日 読売新聞)

骨髄細胞から「筋肉のもと」

人間の骨髄にある細胞から、筋肉のもととなる細胞を大量に作る方法を、京都大の研究グループが世界で初めて開発した。全身の筋力が少しずつ衰えていく遺伝病の筋ジストロフィー患者への治療に応用が期待される。8日付の米科学誌サイエンスに掲載される。 骨髄には、血液のもととなる造血幹細胞と、造血幹細胞同士をつなぐ骨髄間質細胞がある。骨髄間質細胞は、神経や骨の細胞に変化することが知られていた。 研究グループは、人間から採取した骨髄間質細胞に細胞の分化にかかわる特定の遺伝子を入れ、細胞の増殖を促す4種類のたんぱく質を加えて培養する方法で、筋肉のもとになる「骨格筋幹細胞」を大量に作ることに成功した。 これを、人為的に筋ジストロフィーにしたマウスに移植すると、骨格筋幹細胞が筋肉に変化。病気のために筋肉が破壊されても、それを修復するように筋肉の再生を続けた。 鍋島陽一・京都大教授は「骨髄間質細胞は安全に採取できる。 数年以内に、筋ジス患者への治療応用を目指したい」と話している。(平成17年7月8日 読売新聞)

骨髄細胞から筋肉再生

人間の骨髄にある細胞から筋肉のもととなる細胞を大量に作る方法を、京都大の研究グループが世界で初めて開発した。全身の筋力が少しずつ衰えていく遺伝病の筋ジストロフィー患者への治療に応用が期待される。8日付の米科学誌サイエンスに掲載される。骨髄には、血液のもととなる造血幹細胞と造血幹細胞同士をつなぐ骨髄間質細胞がある。骨髄間質細胞は神経や骨の細胞に変化することが知られていた。研究グループは、人間から採取した骨髄間質細胞に細胞の分化にかかわる特定の遺伝子を入れ、細胞の増殖を促す4種類のたんぱく質を加えて培養する方法で、筋肉のもとになる「骨格筋幹細胞」を大量に作ることに成功した。これを、人為的に筋ジストロフィーにしたマウスに移植すると、骨格筋幹細胞が筋肉に変化。病気のために筋肉が破壊されても、それを修復するように筋肉の再生を続けた。鍋島陽一・京都大教授は「骨髄間質細胞は安全に採取できる。数年以内に、筋ジス患者への治療応用を目指したい」と話している。(平成17年7月8日 読売新聞)

ES細胞のがん化抑制成功

さまざまな組織や臓器に変化できる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)は、病気や老化で衰えた部位を治療する再生医療の主役と期待されている一方、がん化しやすいという弱点がある。埼玉医大ゲノム医学研究センターの西本正純講師らは、がん化に深くかかわるたんぱく質を見つけ、この量を抑えると、がんが減ることを確認した。安心して再生医療に使えるES細胞作りにつながる成果で、米専門誌に掲載された。西本講師らは、遺伝子の発現に深くかかわるたんぱく質「UTF1」に着目。通常のES細胞を注入すると特にがんが発生しやすいマウスに、UTF1が10分の1しか作られないよう遺伝子操作したES細胞を注入した。 その結果、マウスにできるがんの量は、通常のES細胞の場合に比べ8分の1まで減った。ES細胞は万能細胞ともいわれ、脳内の神経伝達物質ドーパミンを分泌する神経細胞やインスリンを分泌する細胞などに変化させることができれば、パーキンソン病や糖尿病の画期的な治療法となる。だが、がん化しやすい点がネックとなっていた。西本講師は「UTF1の量を抑えてもES細胞の能力には変化がなかった。 これをゼロにしても問題がないのかなど、研究を続け、再生医療の安全向上につなげたい」という。(平成17年7月3日 読売新聞)

脊髄損傷に自分の骨髄移植

交通事故などで脊髄を損傷した患者に、自分の骨髄の細胞を移植して神経細胞の再生を促す治療の臨床試験に、関西医科大病院(大阪府守口市)が取り組むことになった。骨髄には神経をはじめ様々な細胞に育つ幹細胞があり、現在、血管や心筋を再生させる治療が試みられているが、脊髄の損傷部周辺の神経幹細胞に働きかけることで、再生を促す治療は世界でも初めてという。1日、同医科大倫理委員会で承認された。同大の中谷寿男教授(救急医学)と鈴木義久・京都大助教授(形成外科)、井出千束・京都大名誉教授(解剖学)らの共同研究。2年間で23例の実施を目指す。今回の臨床試験は、交通事故や転落事故で首の骨が折れるなどした重度の脊髄損傷患者が対象で、慢性の患者には行わない。国内では、交通事故などで毎年5000人の脊髄損傷の患者が出ている。活用するのは、病院に搬送された直後に行う骨折治療で得られた腰骨の骨髄液。 間質細胞と呼ばれる成分を培養し、増えた細胞を患者の腰から脊髄内に注射する。移植した細胞は損傷部にまで移動、そこでとどまり、神経幹細胞の増殖・再生を促す物質を分泌するという。ラットの実験では、重度の後ろ足のまひが、移植後5週間で少し動くようになり、軽度では1週間ほどで動き出し、足を引きずって歩くまで症状が改善したという。中谷教授は「移植した細胞はなくなるので、異常増殖してがん化する心配はない。少し機能が回復するだけで患者の生活の質は格段に上昇する」と話している。(平成17年7月2日 読売新聞)

歯周病菌が血管の病気の原因に


手や足の血管が詰まる難病、バージャー病が歯周病菌と関連していることを東京医科歯科大の岩井武尚教授(血管外科)や石川烈教授(歯周病学)らが突き止めた。予防や悪化防止にもつながる成果という。米国の血管外科専門誌の7月号に発表する。 バージャー病の患者は国内に約1万人いるとみられる。手や足の動脈に炎症が起きて血流が悪くなり、ひどい場合は足の切断に至ることもある。岩井教授らは患者の同意を得た上で、病気になった動脈で歯周病菌に特有のDNAの有無を調べた。歯周病菌にはさまざまな種類があるが、今回は代表的な7種類で検査、患者14人中13人で歯周病菌が見つかった。また、14人全員が歯周病になっていた。バージャー病でない7人の動脈からは歯周病菌は見つからなかった。ネズミを使った実験では、歯周病菌が血管内に血のかたまりを作ることが分かった。 これらの結果から岩井教授らは、口の歯周病菌が血管の中に入り、バージャー病の発症や悪化に関係するとみている。バージャー病は喫煙者に多く、喫煙は歯周病を悪化させる。歯周病を抑えることや禁煙が、この病気の予防や悪化防止につながるという。(平成17年7月1日 朝日新聞)

産婦人科医、3割が「診療やめたい」

産婦人科医の3割近くが「分娩などの産科診療をやめたい」と考えていることが28日、厚生労働省研究班の調査で分かった。不規則な診療時間など仕事の負担が重いことや医療訴訟の多さが主因。希望する医師が少なく今後の医師不足が予想されるなど、産科診療を取り巻く厳しい実態が浮かび上がった。調査は研究班が昨年、全国の産婦人科医約2200人を対象にアンケート形式で実施した。内訳は男性が55%、女性が45%で、平均年齢は33.1歳だった。(平成17年6月29日 日本経済新聞)

リンパ球の働き変え拒絶反応抑制 

免疫をつかさどるリンパ球の働きを変え、腎臓移植後の拒絶反応を3年以上抑えることに、順天堂大医学部の奥村康教授(免疫学)らが、サルの実験で成功した。免疫抑制剤を使わない臓器移植や、自己免疫疾患の新たな治療法につながる可能性がある。札幌市であった日本肝移植研究会で発表した。人や動物には、細菌やウイルスなど「異物」から体を守る免疫がある。臓器植では、移植された臓器が、免疫をつかさどるリンパ球から「異物」とみなされ、拒絶反応が起きる。一方、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を使うと、感染症などにかかりやすくなる。 奥村教授らは、腎臓移植を受けるサルのリンパ球と、腎臓提供側のサルの細胞を取り出し、ある種のたんぱく質(抗体)を加えて試験管内で培養。臓器提供側の細胞に対する拒絶反応を抑えたリンパ球ができた。これを移植されるサルの体内に戻すと、移植を受けたサル6匹のうち、1匹だけに拒絶反応が起きたが、あとは免疫抑制剤で拒絶反応を抑える必要がなかった。移植した腎臓も正常に働き、2匹は3年以上生存した。 このサルたちは、細菌などに対しては正常に免疫反応が起き、感染症にかかりにくかった。体内に戻したリンパ球が移植臓器にだけ反応しないという性質は、他のリンパ球にも伝わったらしい。 奥村教授は「免疫制剤を減らせれば患者負担も減る」と話している(平成17年6月27日 朝日新聞)

胃がん、ピロリ菌が作り出す毒素が原因

ヘリコバクター・ピロリ菌が胃がんや胃かいようを起こす仕組みを畠山昌則・北海道大教授(分子腫瘍学)の研究グループが初めて突き止めた。ピロリ菌が作り出す毒素が原因で、予防や治療につながる新薬開発に役立ちそうだ。20日の米科学アカデミー紀要(電子版)で発表した。ピロリ菌は大きさ約3ミクロンで胃だけに存在する。胃がんや胃炎の原因とされるが、その仕組みは謎だった。研究グループは、ピロリ菌が出す「CagA」と「VacA」と呼ばれる2種類の毒性たんぱく質に着目。胃の細胞を取り出し、この二つの毒性たんぱく質を注入した。その結果、「CagA」の働きが活発になると、遺伝子の活動をコントロールする「NFAT」と呼ばれる別のたんぱく質の働きが活性化し、細胞が異常分化・増殖を始めた。「VacA」の働きが活発になると、「NFAT」の働きが弱まり、細胞の活動が抑えられた。細胞はがんでは異常増殖し、かいようでは死ぬ。このため、毒性たんぱく質の活動が変化することで、胃がんや胃かいようを引き起こすことが実験から示唆された。日本人の半数がピロリ菌を保有しているとされる。年間約10万人が胃がんを発症し、約5万人が死亡している。畠山教授は「抗生物質でピロリ菌を除去すれば、胃がんや胃かいようを防げるのではないか」と話す。(平成17年6月22日 毎日新聞)

研修医教える指導医も2割うつ状態 

病院で研修医を教える指導医の2割が「うつ状態」に陥っていることが、臨床研修での研修医のストレスを調べている文部科学省の研究班(研究責任者=前野哲博・筑波大助教授)の調査でわかった。同研究班の調査では、研修医の4人に1人がうつ状態に陥っていることがすでに明らかになっている。指導医が研修医に与える影響は大きく、研究班は「病院は指導医が余裕を持って気持ちよく指導できる態勢を整えるべきだ」としている。 調査は04年度に各地で開かれた指導医養成講習会などの参加者に実施。 「週3日以上直接研修医を指導している」実質的な指導者175人をみると、うつ病になる可能性が高い「うつ状態」と判断された人が37人(21%)にのぼった。 要因では、対人関係や仕事の質よりも「仕事量が多い」ことをストレスに感じている人が多かった。実際、1週間の平均勤務時間は75.7時間と多く、前野助教授は「通常の診療だけでも忙しい中、さらに指導もしなければならず、負担感が強い」と分析。一方で指導医の仕事の達成感は高く、「疲れてはいるがやりがいは感じており、熱意に頼っているのが現状」とみる。 同研究班が03、04年度に研修医を対象に行った調査では、初期研修開始後にうつ状態になった人が、1〜2カ月後の時点で約25%いたことから、今回は指導医を対象に調べた。 研究班では「研修医のストレスを緩和するには指導医の役割が非常に大きい。病院側は指導を業務としてカウントし、その分診療の負担を減らすなどすべきだ。 指導医のストレスが減れば研修医も精神面が安定し、ひいては良い医療の提供につながる」としている。(平成17年6月2日 朝日新聞)

幹細胞移植で、マウスの腎不全を治療

腎臓の様々な細胞や組織のもとになる幹細胞を腎不全のマウスに移植して治療することに、菱川慶一・東京大助教授(腎臓内科)らのグループが成功した。20日付の米科学誌ジャーナル・オブ・セルバイオロジーに発表した。人の腎臓でもそれらしい細胞は見つかっており、慢性腎不全患者への新しい治療法として進展が期待されている。菱川さんらは、腎臓内の血管などに分化する腎臓の幹細胞の目印遺伝子を見つけ、この幹細胞が腎臓の間質(結合組織)に多数あることを確認した。健常なマウスから採取した幹細胞を、急性腎不全にしたマウスに静脈注射で移植したところ、回復が促進された。幹細胞が、腎臓を修復させたと考えられるという。菱川さんは「腎臓の幹細胞には様々な細胞に分化する能力だけでなく、組織を修復する能力もあることが分かった。患者の腎臓の幹細胞を体外で増殖させて戻したり、薬で幹細胞を活性化したりすることができれば、腎不全患者の治療につながる」といっている。(平成17年6月21日 朝日新聞)

米で肝臓がん診断薬

試薬メーカーの和光純薬工業(大阪市、池添太社長)は20日(日本時間21日)、米国で肝臓がんの診断薬「AFP―L3%」と解析機器「LiBASys」を発売した。米国で初の肝臓がん診断薬となる。血液中の特定の物質を測定することで、画像診断に比べ肝臓がんを正確かつ早期に発見できる。米の診断薬市場は最大200億円まで拡大する可能性があるという。 肝臓がんを発症すると分子構造が変わる物質が発見されており、同診断薬はその物質の変化量を調べる。 血液を機器にかけると診断薬と混ざって反応する。(平成17年6月21日 日経産業新聞

C型肝炎ウイルス、世界初の培養に成功 

ヒトの培養細胞の中でC型肝炎ウイルスを作り出すことに、東京都神経科学総合研究所などの研究チームが世界で初めて成功した。同ウイルスは増える力が弱いため生体の外での培養は実現しておらず、ワクチンも開発されていない。 C型肝炎の患者は全国に200万人といわれ、ウイルスが作られる仕組みが明らかになれば、新しい抗ウイルス薬やワクチン開発に結びつくと期待される。 米科学誌「ネイチャーメディシン」電子版に発表された。C型肝炎は数十年かけて慢性肝炎から肝硬変、肝臓がんに移行することが知られる。インターフェロンなどが治療に使われているが、患者の半数は効果が十分でないとされている。C型肝炎のウイルスは複数確認されているが、ウイルスの遺伝子は複製力が弱く、生体外でウイルスは増えないと考えられていた。しかし、同研究所の脇田隆字副参事研究員らは、劇症肝炎を起こすウイルスは増える力が強いことに着目。劇症肝炎患者の血液から採取したウイルスを使い、培養したヒトの肝細胞に感染させウイルスを増やすことに成功した。脇田研究員は「ウイルスがどうやってできるかが解明できれば、それを抑える薬を開発できるし、ウイルスを使ってワクチンを作ることも考えられるのではないか」と話している。(平成17年6月14日 毎日新聞)

はげは母方から遺伝 

ドイツ・ボン大学の研究チームが「はげの遺伝子」の有力候補の一つを発見し、米専門誌アメリカン・ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティクス7月号(電子版)に発表した。はげに直結するとみられる遺伝子が見つかるのは初めてという。男性が母親から受け継ぐX染色体上にあるため、母方の祖父の頭髪で自分の将来を占えるかもしれない。 「はげは遺伝する」と経験的には知られているが、どの遺伝子が原因なのかについて詳細は分かっていない。研究チームは、40歳以前にはげ始めた男性のいる家系の血液を分析してみた。 その結果、若くしてはげ始めた人は、X染色体にある男性ホルモン(アンドロゲン)の受容体遺伝子に変異が目立つことが分かった。研究チームは「遺伝子変異のため頭皮でアンドロゲンの働きが強まって、髪の毛が抜けやすくなるのではないか」とみている。 男性はXとYの二つの染色体を持ち、X染色体は母親から受け継ぐため、母方の祖父がはげていれば、自分もはげる可能性がある。ただ、研究チームは「ほかにもはげの遺伝子があると思われるので、一概には言い切れない」としている。(平成17年6月13日 朝日新聞)

新薬開発へ、ヒトのたんぱく質解析

人間の体のたんぱく質のうち、がんや糖尿病、心臓病など病気に関係するものをターゲットに解析し、新薬の開発につなげる国家プロジェクトを、文部科学省が来年度から始める。日本はたんぱく質の基本構造の解析で欧米をしのぐが、新薬開発のカギになる複雑な人のたんぱく質の解析でもリードを目指す。10年計画で、年間100億円以上の予算化をめざし、産官学で取り組む。 たんぱく質には、細胞のアンテナのような働きをするものがある。細胞膜にある「膜たんぱく質」などだ。外からの信号に、これらがきちんと働かないと、細胞が異常な活動をし、がんなどの病気をひき起こす。 計画では、病気に関係する基本的な人のたんぱく質約1万個のうち、まず約500個の膜たんぱく質から解析を目指す。立体構造や働きが分かれば、悪さをする信号物質の結合を阻止したり、細胞の正常な働きを促したりする薬の候補を探し出せる。実際に絞り込み、新薬の開発を目指す。 理化学研究所を中心に、大学や製薬会社に参加を呼びかける。 日本は02年度から主に微生物のたんぱく質を解析し、これまでに1650個で成功し、米国の850個を引き離す。ただ、人では基本的な構造のたんぱく質だけで、300個以内。新薬開発には、膜たんぱく質など、より複雑なたんぱく質の解析が必要だ。 創薬は巨額の利益を生み、米国は国立保健研究所(NIH)などが今年から5年計画で、人の複雑なたんぱく質の解析をめざし、日本を追い上げる。(平成17年5月29日 朝日新聞)

血液で発電する電池を開発、体内埋め込み医療具に利用

東北大大学院工学研究科の西沢松彦教授らの研究グループは12日、血液に含まれる糖分で発電する燃料電池を開発したと発表した。実験では、血液を模した牛の血清(血液の成分)を使っての発電に成功。1円玉サイズの電極なら0・2ミリ・ワットに相当する。糖尿病患者が体内に埋め込んだまま血糖値を測定できる装置を作動させるには十分な発電量といい、医療機器メーカーなどと装置開発にも取り組むとしている。心臓ペースメーカーなど体内に埋め込む医療用具は、電池の寿命が近づくとその交換のために手術が必要なものもある。研究グループでは、「第一化学薬品」(本社・東京)との共同開発で、体内に埋め込んで半永久的に発電する燃料電池の開発を進めてきた。開発された燃料電池は、血液中の糖分であるグルコースを分解する酵素が塗られた炭素(電極)などを使用。酵素がグルコースを分解すると、電子が生じて電流が流れる仕組みだ。同研究グループは「発電量を増やし、体内埋め込み型の医療用具の電源などへの利用を目指したい」としている。(平成17年5月13日 読売新聞)

椎間板ヘルニア、原因遺伝子

理化学研究所の遺伝子多型研究センターは、激しい腰痛を引き起こす「椎間板ヘルニア」の原因遺伝子を突き止め、2日付の米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」電子版で発表した。椎間板ヘルニアの患者と健康な人計約1100人を対象に、軟骨形成にかかわる「CILP遺伝子」の配列のわずかな違い(一塩基多型)を統計的に解析したところ、特定の配列の型を持つ場合は、椎間板ヘルニアになる危険性が1・6倍に高まることが分かった。この遺伝子は軟骨の生成を抑制する役割があり、抑制作用が強く働き過ぎると、軟骨の再生が出来ず、発症につながるとみられる。 椎間板ヘルニアは、背骨の間にクッションのように挟まっている椎間板の軟骨の劣化に伴い、中の髄核が背骨の間から飛び出して神経を圧迫するため、腰痛に見舞われる病気。長時間同じ姿勢を強いられるトラック運転手に多いなど環境要因もあるとみられるが、遺伝の影響も強いとされてきた。日本では毎年約5万人が手術を受けていると推定される。 遺伝子多型研究センターの池川志郎チームリーダーは「発病のメカニズムが分かったことで、5年後には新たな治療薬が登場するだろう」と話している。(平成17年5月3日 読売新聞)

入院医療体制、診療所も病院並みに

厚生労働省はどんな診療所でも一律で定めている規制を大幅に見直す。いまは手術室などがなく医師が1人でも入院患者の受け入れは可能だが、複数の医師や看護職員の配置など病院並みの体制を義務付ける。一定以上の人員や設備がない状態では入院を認めないことで、診療所に質を高めるか、入院医療から撤退するかの選択を迫る。 2006年度の医療制度改革に法改正を盛り込む方向だ。利用者にとっては病院並みの質の高い入院サービスを受けられる診療所が増える。一方、設備や人材面で医療の質や安全度が低い診療所の入院サービスは消える。(平成17年5月1日 日本経済新聞)

未来の地方医、奨学金で確保

医師不足に苦しむ県が、医学部生や大学院生を対象に、地元で一定期間働くことを義務づけた奨学金制度を相次いで導入していることが、朝日新聞社の調査で分かった。多くのケースが国公立、私立を問わずどこの大学の学生でも対象で、授業料など月15万円から30万円を貸与する。今年度に6県で新設され、導入されているのは計13県。検討中も6県に上る。小児科医や産婦人科医など診療科を限定する制度も出てきた。なかなか進まない国の対策にしびれを切らした各県が、自ら医師確保に乗り出した格好だ。 都道府県の担当者に状況を聞き取りした。 「医師修学資金」などと呼ばれる制度で募集枠の合計は120人を超える。 奨学金は、授業料や図書購入費、生活費などに貸し付ける。 県が指定した診療所や病院に、貸与期間の最大2倍までの期間、勤務すれば返済が免除されることもある。例えば大学1年生から借りた場合、6年間から9年間の地元勤務が義務づけられるケースが多い。これまで導入されていたのは、岩手、長崎、青森、福島などの6県だった。今年度は、宮城、秋田、新潟(81年度以来の復活)、富山などの7県で制度が設けられた。うち、秋田は来年度から学生の募集を始める。「へき地に勤務する自治医大卒業生だけでは足りない」(宮城)、「奄美などの離島に勤務する医師が特に足りない」(鹿児島)などの事情がある。 さらに制度の拡充をしたのは、即戦力が期待できる大学院生の医師を対象に追加した長崎。青森は募集人員を10人程度から35人程度に増やした。 このほか、鳥取、愛媛では、来年度からの導入に向け検討さらに4県で導入の是非を検討している。県内に特に足りない診療科を限定する制度も登場。三重は、将来進む診療科を内科、小児科、産婦人科と限定した制度を04年度に全国で初めて導入した。さらに、今年度から富山で小児科、兵庫で産婦人科、麻酔科など、佐賀で小児科の限定で募集を始めた。 これらの背景には、過疎地の診療所だけでなく、中核病院や勤務が厳しい診療科で医師不足が急速に広がっている状況がある。「県立病院のなかで助け合いながらやりくりしてきたが、間に合わなくなった」(兵庫)などの声が出ている。 医師の偏在は、北海道や東北で全県的に医師数が少ないだけではなく、全国で県庁所在地に医師が集中する地域偏在も強まっている。小児科や産婦人科などでは、若い医師が集まらない診療科のばらつきも顕著だ。 これまで各県は地元の大学に医師の派遣を求めてきたがなかなか実効性があがらず、国の対策も決め手を欠いているため、切羽詰まった自治体が独自に医師確保策に乗り出しているのが現状だ。(平成17年4月21日 朝日新聞)

医学生「都市部」志向8割

医学生の約6割が専門医になることを望み、約8割が都市部で勤務していたいと考えていることが、自治医科大学の調査で分かった。へき地を希望する学生は5%にとどまり、学生の「専門医」「都市部」志向が裏付けられた。 同大地域医療学教室に在籍していた高屋敷明由美・現筑波大講師らが、02年9月〜03年1月、全国80大学の1年生、4年生、6年生の計1万9429人を対象にアンケートを実施。73大学1万3975人分を分析した。 「卒業15年後にどのような医師として働きたいか」という質問に対し、「専門的な医療に習熟した専門医」と答えた学生は、1年生9%、4年生9%、6年生13%。「幅広く対応できかつ専門的な医療ができる専門医」は1年生48%、4年生49%、6年生49%で、全体で59%の学生が専門医をめざしていた。総合的に診療する医師と答えた学生は合計で36%だった。高屋敷講師は、学生の専門医志向がなお強いことについて「大学の医学教育で専門医と出会う機会が圧倒的に多い」と指摘。「一般の人も専門医を判断基準に、病院選びをすることが影響している」とみる。 また、20大学の4641人を抽出して分析した結果、卒業15年後の勤務希望地は、大都市が32%、地方都市が51%、町村部が13%、へき地が5%。へき地と答えた学生は、1年生で6%だったが、4年生や6年生になると3%に減っていた。 厚生労働省は昨年度から、臨床研修(2年間の初期研修)を必修化し、特定の診療科だけでなく、複数の診療科を巡回して総合的な診断能力をつけることに力点が置かれた。地域医療の臨床研修も盛り込まれた。高屋敷講師は「総合診療医を育てるには、臨床研修を終えた後の受け皿を整備することが重要だ」と話している。 (平成17年4月18日 朝日新聞)

育毛促す大豆開発

卵白に多く含まれるタンパク質の成分を改良し、育毛を促す物質を作ることに吉川正明京都大教授(食品生理機能学)らのグループが13日までに成功した。 遺伝子組み換え技術を使い、この物質を含む大豆も開発。吉川教授は「安全性が確認できれば、大豆を食べることで育毛や脱毛防止が可能になる」としている。 吉川教授らは鶏卵の白身に含まれる「卵白アルブミン」を構成するアミノ酸化合物の中から、血管を広げて血圧を下げる作用がある「オボキニン」を発見。機能を強めるため、オボキニンのアミノ酸の一部を置き換えて改良した「ノボキニン」を人工的に合成し、オボキニンの約100倍強い血圧降下作用を持つことを確かめた。さらに、血管を広げて血流がよくなれば育毛を促す可能性があると考え、体毛をそったマウスに、ノボキニンを体重1グラム当たり1000分の1ミリグラム、餌に混ぜて毎日与えたところ、毛の伸びが早まった。投与量を3―10倍に増やすと、抗がん剤投与の副作用で起きる脱毛も防げることが分かった。(平成17年4月13日 日本経済新聞)

肥満防止のたんぱく質発見 

肥満を防ぐのに役立ちそうなたんぱく質を、慶応大学と山之内製薬の共同研究グループが発見し、21日付の米科学誌ネイチャー・メディシン電子版に発表した。糖尿病を防ぐ作用もあり、将来のやせ薬や血糖を下げる薬の開発につながる可能性があるという。 このたんぱく質は、血管が新たに伸びるのを促す因子として、同グループが人間の血液中にあることを03年に見つけ、AGFと名付けたもの。 AGFを作れないようにしたマウスに普通にえさを与えると、生後半年で通常マウスの約2倍の体重になり、内臓脂肪も著しく増えた。血糖値の調節もうまくできなくなり、糖尿病のような状態に陥った。 逆にAGFを多くつくれるマウスは、体重は通常の4分の3程度の「やせ」になり、解剖すると内臓脂肪が少なかった。さらに、高カロリー食を与えても肥満や糖尿病にならなかった。 AGFの働きは、肥満にかかわる従来知られている生理活性物質とは違うことも確認された。グループの尾池雄一・慶応大講師は「AGFそのものを人間に投与できる段階ではないが、詳しく作用を解明し、将来の治療薬の開発につなげたい」といっている。(平成17年3月21日 朝日新聞)

C型肝炎治療は新薬ペグイントロンが柱

国内で100万〜200万人とされるC型肝炎ウイルス(HCV)感染者への治療について厚生労働省の研究班は、昨年10月に認可された新薬「ペグインターフェロン(商品名ペグイントロン)」を柱に据える指針をまとめた。5日の報告会で発表した。臨床試験の結果からは、2人に1人は完治が期待できるとされている。 ペグイントロンはインターフェロンを改良して作られた。「B型及びC型肝炎治療の標準化に関する研究班」(班長=熊田博光・虎の門病院副院長)は新指針で、国内患者の大半を占める最も治療の難しいタイプのC型肝炎に対して、ペグイントロンと抗ウイルス薬リバビリンの投与を48週間続ける併用療法を第1選択とした。公的な医療保険が使える。 発売元のシェリング・プラウが実施した国内での臨床試験成績によると、薬の効きにくい型のウイルスでその量も多い「1型高ウイルス量」の患者でも、治療開始から1年後にウイルスが体内で検出できなくなる完治率が約48%。従来のインターフェロンとリバビリンの併用療法の約19%を大きく上回った。発熱や頭痛、抑うつなどの副作用があるとされている。 C型肝炎は国内の肝硬変・肝がんの最大原因で、不衛生な医療行為や輸血などで感染が広がった。厚労省は昨年、ウイルスの混入した血液製剤「フィブリノゲン」が過去に納入された可能性のある医療機関を公表して検査受診を呼びかける一方、すでに世界で始まっていたペグイントロン・リバビリン併用療法を8カ月のスピード審査で認可していた。 C型肝炎のインターフェロン療法は92年に始まり、当初の完治率は約2%だった。今回の指針では、これまでの治療が効かなかった人への「再投与」も、ペグイントロン・リバビリン併用療法を第1選択とした。一度は完治をあきらめた多くの患者にとっても朗報になる。

〈C型肝炎〉 C型肝炎ウイルス(HCV)による感染が原因で肝細胞が破壊される病気。年齢とともに発症リスクが高まり、感染から20〜30年で約3割の人が肝硬変になり、30〜35年で肝がんになるとされる。肝がん患者の8割はHCVに感染している。輸血や汚染血液を使った血液製剤を介して感染する。手術の際の大量出血を止めたりする際に使われた血液製剤フィブリノゲンを製造する際、94年まで、ウイルスの混入防止対策が十分にとられておらず、感染者が相次ぎ、薬害が問題化した。

〈ペグイントロン〉 インターフェロンにペグと呼ばれる合成高分子が結合させてある。発売元のシェリング・プラウによると、ペグの働きで体外に排出されにくくなり、治療効果が持続するという。注射回数が従来の3分の1の週1回ですむほか、治療中断に至るほどの副作用も減って、従来のインターフェロン・リバビリン併用療法の倍に当たる約1年の長期治療が可能になった。(平成17年3月5日 朝日新聞)

レーザー光でがん治療

慶応義塾大学理工学部の荒井恒憲教授は、特殊なレーザー光を使ってがん組織だけに活性酸素を発生させ、がん細胞を破壊する治療技術を開発した。体の表面だけでなく、深さ十数ミリにあるがんも狙い撃ちでき、動物実験段階で効果を確認した。正常な組織を傷つけないので患者の肉体的な負担を軽減できる。医療機器メーカーと共同で2年後の実用化を目指す。 開発したのは「光線力学的療法(PDT)」向けの基礎技術。同療法は早期肺がんや胃がんの患者の治療法として使われている。荒井教授らは薬剤が強い光や弱い光には反応せず、一定の範囲内の強さの光にだけ反応して活性酸素を発生することを発見。光が皮膚などを透過すると弱まることを考慮し、患部で最適な強さになるよう工夫した。(平成17年2月28日 日本経済新聞)

急性アレルギーの小児用「自己注射器」認可 

子どもの急性アレルギー反応に対処できる緊急用の「自己注射器」が今春、利用できる見通しになった。厚生労働省の薬事食品衛生審議会の医薬品第一部会が25日、輸入・販売を了承。3月にも正式承認される。そばや卵などアレルゲン(抗原物質)のために意識を失うなど、一刻を争う事態に大きな力になる。 この注射器は、携帯用「エピペン注射液0.15ミリグラム」(成分名エピネフリン)。医療品化学メーカーのメルク(本社・東京)が販売する。 重い急性アレルギー反応は「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、食物などで起きた場合に治療を受けるには医療機関に運ぶしかなかった。部会が了承した小児用はハチ毒、食物、薬物などに対する補助治療用で、医師が患者や保護者らを十分指導するよう注意がつけられている。(平成17年2月25日 朝日新聞)

糖尿病、進行させるたんぱく質、マウス実験で発見 

食べ過ぎや運動不足などの生活習慣が原因の2型糖尿病は、「p27」と呼ばれるたんぱく質の働きを抑えれば改善することを、神戸大大学院医学系研究科の春日雅人教授らがマウスを使った実験で突き止めた。糖尿病が進むと、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)のβ細胞が減少。p27がβ細胞の分裂にブレーキをかけているためとみられ、p27を抑える薬が開発されれば、β細胞の減少を食い止め、糖尿病を治療できる可能性があるという。 遺伝子操作で糖尿病にしたマウスのβ細胞を調べ、細胞分裂を抑える働きをすることが知られているp27が異常にたまっていることを見つけた。糖尿病で、生まれつきp27を作れない別のマウスと、糖尿病だけのマウスを比較すると、p27を作れないマウスの血糖値は4分の1で、正常に近かったという。2型糖尿病は、過食や運動不足でエネルギー(ブドウ糖)を消費しきれなくなって発症。初期段階では、ブドウ糖を筋肉などに取り込ませる働きをするインスリンの分泌も増え、高血糖とならないが、この状態が続くとβ細胞が疲弊し、糖尿病に至ると考えられている。(平成17年1月31日 毎日新聞)

コーヒー党、肝臓がん少なく

コーヒーを1日に1杯以上飲む人が肝臓がんになる危険性は、全く飲まない人の6割程度。東北大の辻一郎教授(公衆衛生学)らが21日までに、約6万1000人の追跡調査結果をまとめた。 辻教授によると、コーヒーに含まれるどんな物質が作用するかはよく分かっていないが、肝硬変の発症リスクを低下させる可能性があるほか、動物実験では成分のクロロゲン酸が肝臓がんの発生を抑制したとする報告もあるという。1984―97年に、40歳以上の男女を7―9年間追跡調査。計約6万1000人のうち、調査期間中に新たにがんになったのは117人だった。年齢や性別などの要因を考慮して解析した結果、全く飲まない人の危険度を「1」とした場合、1日平均1杯以上飲む人は0.58、1杯未満の人は0.71だった。がん以外の肝臓疾患を経験した人や60歳以上の人、過去に喫煙経験がある人では、こうした傾向が特に強かった。辻教授は「年齢や性別、飲酒状況などで分けて解析しても傾向は変わらなかった。ただし、コーヒーに砂糖などを入れすぎると体に良くないので注意してほしい」としている。(平成17年1月21日 日本経済新聞)

C型肝炎、乳成分が効果

インターフェロンなどの治療薬が効きにくいC型肝炎患者に、母乳や牛乳に含まれるたんぱく質「ラクトフェリン」の錠剤を投与したところ、患者の4人に1人はウイルスが消える効果のあることが、横浜市立大学市民総合医療センターの田中克明教授らの臨床試験でわかった。 ラクトフェリンは、食品としては粉ミルクなどに加えられている物質。田中教授らは、インターフェロンが効きにくいウイルス(1b型)に感染したC型慢性肝炎患者40人の協力を得て、臨床試験を行った。一つのグループには、治療薬のインターフェロンと抗ウイルス薬リバビリンに加えて、ラクトフェリン錠剤を投与、残りの患者には二つの治療薬と、ラクトフェリンの入らない偽薬を投与した。半年後に治療薬の投与をやめ、さらに半年経過した時点で効果を調べたところ、ラクトフェリン錠剤をのんだ患者の26%はウイルスが消失し、偽薬をのんだ患者のウイルス消失率(約15%)より1・7倍高かった。また肝機能改善にも大きな効果が見られたという。 ラクトフェリンは母乳100ミリ・リットル中に約0・1グラム、初乳には同1グラム含まれる。感染防御物質として注目され、最近は抗がん作用も報告されている。(平成17年1月14日 読売新聞)

神経修復、カギ握る酵素の機能を解明

神経が伸びるのを抑えている酵素を、名古屋大の貝淵弘三教授(神経情報薬理学)らが明らかにした。動物細胞を使った実験でこの酵素の働きを妨げると神経が伸びた。 けがなどで傷ついた神経を修復するなど、新しい治療につながる成果という。 神経細胞は軸索(じくさく)と呼ばれる長い糸のような「配線」を伸ばして、別の神経細胞に刺激を伝える。大人になると軸索はなかなか伸びないので、けがなどで軸索がいったん切れると修復が難しい。貝淵さんらは軸索が伸びるのを細胞の中で制御している物質を探した。ネズミの脳の神経細胞を使った実験で、GSK3ベータという細胞内の酵素の働きを抑えると、軸索がどんどん伸びた。逆に、遺伝子操作でGSK3ベータが常に活発に働くようにすると、軸索はどうやっても伸びなくなった。 このため、GSK3ベータの働きを抑えたり活発にしたりすることで、軸索の伸びを制御できる見通しが立った。 貝淵さんは「この酵素の働きを制御する薬を開発することも可能だ。脊髄(せきずい)損傷など傷ついた神経の治療につながる成果だ」と話している。(平成17年1月14日 朝日新聞)

脱法ドラッグ法規制へ

若者を中心に広がり、麻薬と同じような幻覚作用を持ちながら、法律の規制外にある「脱法ドラッグ」について、厚生労働省は、薬事法や麻薬・向精神薬取締法の改正を視野に、厳しく規制する方針を固めた。これまで、麻薬や医薬品成分が含まれている場合には規制してきたが、化学構造が少し違うだけで手が出せず、公然と売買されていた。今後は類似する成分も対象にすることで、法の網を広くかけることを検討する。専門家による検討会を2月につくり、06年の通常国会での法改正を念頭に今年10月までに結論を出す考えだ。 脱法ドラッグは、錠剤や瓶入りの液体という形をとり、数千円で売買されている。繁華街の路上や若者が音楽やダンスなどのために集まる「クラブ」、インターネットなどで簡単に手に入る。現在、100種類以上あるといわれている。 10〜20代を中心に広がり、昨年7月には3種類を飲み、一緒に住んでいた女性を殺したとして東京都内の20歳代の男が殺人容疑で逮捕されるなど、犯罪に結びつくことも多い。依存症などの健康被害も深刻で、抜本的な法整備が求められていた。麻薬取締法では麻薬を約140物質と厳格に決めているため、化学式が少し違うだけで同じ効果を持つ物質が脱法的にドラッグとして出回っていた。また、医薬品成分が含まれていないため薬事法の対象外で、芳香剤やビデオクリーナーなどとして売買されることもあり規制しづらくなっていた。このため、規制当局と販売業者との「いたちごっこ」が繰り返されてきた。 検討会は、医学や薬学の専門家のほか、刑法、少年問題などに詳しい識者ら十数人で構成。実態調査をしたうえで、幻覚作用があるものから、強壮効果をうたうものなど様々な形態がある脱法ドラッグの範囲について議論する。そのうえで、新たな規制のあり方を考える。脱法ドラッグの成分を、麻薬取締法でも規制できるように、類似する物質も含めて広く対象を指定できないか、検討する。広く網をかければ、同法で、売買、使用、所持を禁止できるようになる。また、薬事法で、脱法ドラッグ対策を明文化することも議論する。 また、規制対象となる成分の有害性を立証するため、どういう方法で動物実験を行い、どのようなデータが必要なのかも検討する。〈脱法ドラッグ〉厚生労働省監視指導・麻薬対策課によると、商品名で100種類以上、成分別で数十種類以上出回っているとみられる。「5−MeO−DIPT」(通称フォクシー)や「AMT」(デイトリッパー)などが知られており、厚労省は麻薬に指定する方針だ。東京都が「知事指定薬物制度」を創設し、製造、販売などを規制する条例の制定を予定している。 しかし、インターネットで売買されることも多く、全国的な対応の必要性が指摘されていた。(平成17年1月24日 朝日新聞)

女性に人気の「タトゥー」ご注意 C型肝炎の感染例も

若い女性の間で、花や幾何学模様のデザインを体に彫る「アメリカン・タトゥー」と呼ばれる入れ墨が急速に広まっている。専門のファッション誌も登場し、約80軒のサロンが紹介されている。厚生労働省は「医師以外が従事すれば違法」との立場だが、実態把握は難しく、事実上の黙認状態だ。針の使い回しが原因で肝炎に感染したとみられる例も相次いでおり、医師らは注意を呼びかけている。 東京・銀座のOL(33)は24歳の時、ハワイで入れたのが最初だ。腰に5センチぐらいのチョウの絵を彫った。「友人との記念に」のつもりだった。15分で50ドル。その後、東京都内にある個人経営のサロンで足首に花を入れた。「ファッションの一部。 朝の化粧も大変だから眉ずみもタトゥーにしている」 タトゥーは人気歌手やサッカー選手のベッカムに刺激され、若い女性の間で一気に広がった。一昨年6月には専門のファッション誌が登場。出版元によると、これまでに3号(各公称5万部)を発行した。同誌には、「スタジオ」と呼ばれるサロンが東京や大阪を中心に約80店掲載されている。美容院やエステサロン、ネイルサロンとの併設も目立つ。 都内でサロンを経営する女性は「客は20代後半から30代の女性が大半。花や天使、チョウをあしらった柄に人気がある」と話す。タトゥーは、針で皮膚を傷つける行為なので、医師免許を持たない者が従事すれば医師法に違反する。だが、ファッション誌の編集者は「眉ずみを入れるメークまで含めると、技術者と言える人は国内に千人近くいるのではないか」と指摘する。針を通してC型肝炎に感染したとみられる例が報告されている。 広島大大学院医歯薬学総合研究科の茶山一彰教授(消化器内科)は昨年6月の日本肝臓学会で、タトゥーを入れた若者4人がC型慢性肝炎などに感染した例を発表した。広島県内の20代男性の場合、風邪の治療で訪れた診療所で血液検査を勧められ、感染を知った。自分と同じサロンでタトゥーを入れた友人がC型肝炎に感染したことを知り、受診したという。若者らは茶山教授に「タトゥーの針で肝炎になるなんて考えてもみなかった」と、がっかりした様子だったという。 C型肝炎は肝硬変や肝がんなどに進行するまで20年以上かかる。 茶山教授は「C型肝炎は初期には症状がなく、異常を感じたときは手遅れとなるケースが多い。針の使い回しをしていた可能性のある所でタトゥーを入れた人は早めに検査を受けてほしい」と話している。(平成17年1月12日 朝日新聞)

変形性関節症、原因遺伝子を特定

手足の関節の機能が衰える「変形性関節症」の原因遺伝子を、理化学研究所遺伝子多型研究センター(横浜市)や三重大整形外科などの共同研究チームが特定し、10日付の米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」に発表した。この遺伝子が作るたんぱく質が軟骨を作りにくくするため、関節症が起こりやすくなるらしい。変形性関節症は年齢とともに増える生活習慣病で、手足の関節や背骨が痛み、正座や歩行が難しくなる。推定患者数は全国で700万人と、関節リウマチの約10倍。湿布を張ったり、関節にたまった水を抜くなどの対症療法が中心で、有効な治療法はない。研究チームは、患者の関節では、軟骨に「アスポリン」というたんぱく質が際立って多いことを見つけた。アスポリンの遺伝子の塩基配列を調べたところ、アミノ酸の一種であるアスパラギン酸の配列の繰り返し数に個人差があることが分かった。かかりやすい配列の人の有病率は、そうでない人の2倍だった。こうしたわずかな遺伝子の個人差は「遺伝子多型」と呼ばれる。研究チームは、関節症になりやすい遺伝子多型の人では、関節をスムーズに動かす軟骨の生成がアスポリンによって強く抑えられていると推定した。同センターの池川志郎チームリーダーは「遺伝子多型を調べると、関節症になりやすいかどうかが分かり、なりやすい人は生活習慣に気をつけることで予防できる。アスポリンの量を調節する薬を開発すれば、根本的な治療も可能になるだろう」と話している。(平成17年1月10日 毎日新聞)

受動喫煙で子供の成績低下

受動喫煙の機会が多いと、子供の読解や算数の成績が悪いとの研究を、米シンシナティ子供病院(オハイオ州)のチームがまとめ、4日、米公衆衛生専門誌に発表した。受動喫煙の子供の健康への害は知られているが、知的能力への影響ははっきりしていなかった。今回の研究で、子供がさらされるニコチンが低濃度でも危険なことも示され、たばこを吸う親に禁煙圧力が強まりそうだ。研究は、過去に米政府が全米で実施した健康調査の被験者になった6―16歳の子供で、たばこを吸わない約4400人が対象。ニコチンが分解されてできる「コチニン」という物質の血液中の量を測ったうえで読解、算数(数学)、論理的思考力、短期記憶力をテストした結果、人種や性差、経済状態などによる差を考慮しても、コチニン濃度が高いと読解、算数、論理的思考力の点数が低いことが判明。濃度が極めて低くても関連ははっきりしていた。(平成17年1月4日 日本経済新聞)

精巣細胞から万能細胞

精子になるもとの「精子幹細胞」から、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)のように、様々な臓器や組織の細胞になる可能性を持った細胞を作ることに、篠原隆司・京都大教授(生殖生物学)らのチームが動物実験で成功した。 ES細胞とは別の“万能細胞”として注目されそうだ。29日付の米科学誌「セル」に発表した。 篠原教授らは、誕生直後のマウスの精巣の細胞を培養。約1か月後にES細胞と形の似た細胞があるのを見つけた。これだけをES細胞と同じ条件で培養すると、分化せずに増やすことができた。細胞の性質や機能も似ており、ES細胞と同じ方法で培養条件を変えると血液や心筋、血管などの細胞になった。篠原教授は「受精卵を壊して作るES細胞より、研究や臨床応用に倫理的な問題が少ない」と強調。今後は、大人のマウスから、同じ細胞を作ることを目指す。(平成16年12月29日 読売新聞)

脳脊髄液減少症

交通事故などが原因で長期間にわたり、むち打ち症や慢性疲労を引き起こすとされる「脳脊髄(せきずい)液減少症」の理解と新たな治療法の普及を目指し、患者団体な
どが全国的な啓発活動を進めている。このほど厚生労働省に支援を要請する署名簿約10万人分を提出、「病名さえ知らずに苦しんでいる人も多いはず。国は研究や普及に力を入れて」と訴えている。「脳脊髄液減少症」は交通事故やスポーツなどによる衝撃で脳を覆う硬膜に穴があき、髄液が漏れることで起きるとされる。これまで一般的には強い衝撃で髄液が漏れるとは考えられておらず、むち打ち症後に頭痛などの症状が長く続いても、原因が分からず精神的なものと判断されるケースが多かったという。しかし、4年ほど前から患者自身の血液を背中から注入して穴をふさぐ「ブラッドパッチ」と呼ばれる新たな治療法の試みが一部の医師らの間で始まり、減少症の病態とともに注目されるようになった。(平成16年12月24日 日本経済新聞)

「要支援」の3割、状態悪化 

介護保険サービスを03年4月から1年間利用した高齢者のうち、最も軽い要支援と認定された人の3人に1人の介護度が重くなっていることが、厚生労働省の介護給付費実態調査でわかった。各都道府県の国民健康保険団体連合会が審査した介護給付費明細書などを集計した。調査結果によると、03年度にサービスを継続的に利用した人は202万人。要介護度別に1年後の変化をみたところ、要支援24万人(一部自立の施設入所者を含む)のうち、31.8%にあたる7万6000人が要介護1以上になった。要介護1(61万4000人)は18%が重度化した。要介護2は27.9%、要介護3は29.9%、要介護4は22%が重度化していた。要支援・要介護1で在宅サービスを利用している人の2人に1人は訪問介護を利用。このうち調理や掃除、買い物などの生活援助だけを利用している人は要支援で86.7%、要介護1で68.9%を占める。 厚労省は、加齢に加え、こうした家事代行サービスの利用で高齢者が体を動かす機会が減っていることも重度化の要因の一つと分析。05年の介護保険制度の改正では、痴呆(ちほう)症などを除き、要支援・要介護1の人は原則として筋力トレーニングや栄養管理などの介護予防サービスを受けてもらい、生活援助もホームヘルパーが利用者と一緒に行うようにする方針だ。(平成16年12月20日 朝日新聞)

血糖値下げる新たなホルモン発見

血液中のブドウ糖濃度(血糖値)を下げる働きがある新しいホルモンを大阪大医学系研究科の下村伊一郎教授らの研究グループが発見した。これまでは、膵臓(すいぞう)が作るインスリンだけが血糖値を下げると考えられており、医学界の常識を覆す成果。糖尿病になるメカニズムの解明や新しい治療薬の開発にも役立つと期待される。16日付の米科学誌「サイエンス」で発表された。糖尿病など肥満が原因の生活習慣病は、内臓に脂肪が蓄積した場合に発症しやすい。研究グループは、内臓脂肪から出る未知の物質が生活習慣病を引き起こすと考え、特に多く作られるホルモンを探し出し、新たにビスファチンと名付けた。 ビスファチンには、インスリンと同様に、血中のブドウ糖を筋肉や脂肪組織などの細胞に取り込ませて、血糖値を下げる働きがあった。一方、インスリンは血糖値の変化にあわせて濃度が変化するが、ビスファチンは変化しないなどの違いもあった。厚生労働省が02年に実施した調査で、糖尿病の疑いが強い人は約740万人、可能性が否定できない人は約880万人と推定され、社会問題となっている。(平成16年12月17日 毎日新聞)

肝障害3年間で95人

いわゆる健康食品の摂取後に肝障害を起こした患者が2001−03年で95人いたとする全国調査の結果を、厚生労働省研究班(主任研究者・各務伸一愛知医大教授)がまとめ、東京で開かれた日本肝臓学会東部会で10日、発表した。研究班は、食品や成分の毒性というより、アレルギー反応や肝臓の薬物代謝機能の個人差が原因の「薬物性肝障害」が幅広い健康食品で起きている可能性があると指摘。発表した石川哲也愛知医大講師は「何らかの病気があるなど健康に不安を持つ人は、安易に健康食品に頼らず、摂取前に医師に相談してほしい」と訴えている。研究班は、同学会の評議員(718人)のいる医療施設を対象に薬物性肝障害についてアンケート。回答した235施設のうち189施設が「診断歴あり」とし、このうち健康食品が原因と疑われた患者は95人だった。(平成16年12月10日 中国新聞)

比の医師、看護師になり海外へ 

日本への看護師の労働派遣が将来認められることになったフィリピンで、医師から看護師に転身する人が続出している。フィリピン人の看護師は米国や英国なども受け入れており、高収入の外国で働くためだ。フィリピンの医師の国家試験にトップで合格した成績優秀者も、看護師に転じて米国行きを宣言。拍車がかかるフィリピンの「頭脳流出」を物語る。 南部バシラン島生まれのエルマー・ハシント氏(29)で、1825人が受けた国家試験で1位だった。看護師の資格を持っていたが、米国の看護師の資格試験にも合格。来年春に看護師として米国に渡る予定だ。米国の病院が看護師として払う給与は1時間あたり21ドル(約2200円)だが、手当などを含めた収入は約30ドル。 フィリピンでの医師収入は1時間あたり千ペソ(約2千円)だった。「医師の給料は低すぎる。米国で看護師として認められれば、家族も米国で暮らせる。つらい決断だったが、安定した自分の将来を考え、米国に行く」という。同氏はルソン島中部の大学で、米看護師資格の講義をしている。生徒には、恩師だった40代の医師3人がいる。比国立保健協会によると、94年以来、海外に出た看護師は10万人を超す。過去4年間に5万人を超すなど、流出傾向は加速している。医師が看護師に転じるケースが目立ち、00年から3500人以上の医師が看護師として出国した。現在は約4千人の医師が看護学校に通っているという。「国内の医療システムの危機」(同協会のタン博士)との指摘もある。しかし、高収入をあてにした頭脳流出は今後も続きそうだ。日本政府はフィリピンの看護師に対して門戸を開くことを決めている。高校時代の4年間、東京郊外に住む日本人女性の援助を受け、ミンダナオ島の私学に通っていたハシント氏は「米国などよりもだいぶ遅れたが、新しく看護師になる人には朗報だ」と話している。(平成16年12月13日 朝日新聞)

サリドマイド、適正使用へ登録制

かつて深刻な薬害を引き起こした催眠鎮静薬「サリドマイド」が、血液のがんである多発性骨髄腫の治療に使われるケースが増えていることから、厚生労働省は10日、適正使用のガイドラインを公表した。学会認定の専門医を責任医師とし、責任薬剤師らとともに学会に登録するなど厳重な管理を定めている。ほかの疾患の治療でも準用するよう求める。同省が承認していない薬の使用指針を定めるのは初めて。作成は日本臨床血液学会に依頼、サリドマイドの被害者が協力した。ガイドラインではサリドマイド治療の対象を、再発したりほかの治療が困難な多発性骨髄腫に限定。使用は原則として日本血液学会が研修施設として認定する約530病院に限り、同学会認定の血液専門医が責任医師として管理する。医療機関の薬局と患者の家族からも責任者を選び、残った分の返却も徹底する。サリドマイドは胎児の奇形といった被害の表面化で、日本では1962年に販売が中止されたが、数年前から医師の個人輸入が急増。2003年度は53万錠と2年前の3倍以上に上った。(平成16年12月11日 日本経済新聞)

飲む内視鏡、長さ2.6センチ 

オリンパスは薬の錠剤のようにのみ込んで使うカプセル型の新型内視鏡を開発し、国内の医療機関で臨床試験を始めた。従来のチューブ型内視鏡で届かない小腸の検査向けで、早期の実用化をめざすという。カプセルは、長さ2.6cm、直径1.1cmのプラスチック製。小型カメラと無線送信装置を内蔵する。のみ込むと食道や胃を通り抜けて小腸まで到達し、小型ライトで照らしながらカメラで内壁などを毎秒2コマ撮影する。チューブ型をのみ込むときの吐き気も抑えられるという。使い捨てタイプで、のみ込んでから約8時間後に便といっしょに排泄(はいせつ)される。(平成16年12月4日 朝日新聞)

未承認薬の「混合診療」容認

厚生労働省は小泉純一郎首相が年内解禁を求めている混合診療について、国内未承認であっても米国などで承認されている先端的な抗がん剤など範囲を限って対象に含める方針を決めた。現在、国内未承認薬を使うと保険対象の医療費も患者の全額負担になるが、新方針を適用すると対象になった医薬品を使った場合に、全額負担になるのはその薬代だけで済む。年内にも具体策を詰める。首相指示を受けて同省はいくつかの分野で混合診療の実現を検討している。抗がん剤など先端薬は患者のために早急な解禁が必要と判断、ほかの分野に先行して具体策を詰める。海外で効能などが承認された医薬品を日本で保険適用する場合、改めて国内の承認手続きをとらなければならない。承認前に薬を使うと、その薬代以外の医療費もすべてが保険外の扱いになる。有効な薬とわかっていても負担が重くなり患者が使用をあきらめる場合もある。(平成16年12月3日 日本経済新聞)

歯垢が肺炎引き起こす

歯垢(しこう)の中に潜む細菌の中に呼吸器疾患や院内感染に関係する種類が含まれ、高齢者などに重い肺炎を引き起こすケースが起きている実態が、米バファロー大歯学部の研究で30日明らかになった。高齢者介護における歯科衛などの面からも注目されている。米国の胸部疾患専門誌の最新号に発表された。研究チームはニューヨーク州の高齢者向け長期療養施設の患者49人について歯垢を分析した。28人から肺炎を引き起こす黄色ブドウ球菌やグラム陰性菌、緑のう菌を検出した。うち14人が肺炎を起こし、DNA分析で少なくとも8人の歯垢と肺に潜む細菌が一致した。 これらの細菌は院内で感染した疑いがある。いずれの種類も、抗生物質の耐性を獲得して院内感染を引き起こす危険性を持っているため、研究チームは「高齢者を扱う施設では歯と入れ歯の双方の清潔を保つ必要がある」としている(平成16年12月2日読売新聞)

ウイルスで乳がん細胞破壊

ウイルスの増殖機能を利用し乳がん細胞を破壊して治療する臨床試験を大阪府立成人病センター(大阪市)の高橋克仁遺伝子治療室長らが計画、30日に同センター倫理審査委員会専門部会が大筋で承認した。同内容の臨床試験を名古屋大が昨年実施、がん細胞は30−100%消滅し、安全性も確認された。高橋室長らは名古屋大より観察期間を長くし、治療効果を詳しく調べる。患者6人を対象に、来年3月にも実施する。高橋室長によると、毒性が弱い特殊なヘルペスウイルスを腫瘍(しゅよう)に注射、4週間後に一部を切り取って検査し、さらに4週間経過をみる。ウイルスが増殖し、がん細胞を内部から突き破って破壊するほか、破壊されたがん細胞が攻撃対象の目印になり、患者の免疫力が上がることが期待できるという。このウイルスが正常な細胞で増殖する可能性は低いといい、患者にウイルスによるアレルギーがないかを事前に検査し試験終了後は抗ウイルス剤を服用する。高橋室長は「腫瘍を小さくし、乳房温存手術が可能な状態にするなどの治療につながるのではないか」と話している。(平成16年1月30日 産経新聞)

網膜再生に役立つたんぱく質を発見

高齢者の失明の大きな原因である加齢黄斑変性などの病気に対し、網膜を再生する治療法を実現するのに役立つたんぱく質がマウス実験で見つかった。東京大医科学研究所の後藤典子講師と米エール大のチームが近く米科学アカデミー紀要(電子版)で発表する。 同チームは、「FRS2α」というたんぱく質が、胎児の段階で網膜や水晶体(レンズ)のもとになる細胞を増やす役割を果たしていることを突然変異マウスをつくって突き止めた。人にも同じたんぱく質がある。 網膜の再生研究は盛んに進められているが、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)などからつくった網膜のもとになる細胞を効率よく増やすことが課題になっている。FRS2αでここを突破できる可能性があるという。(平成16年11月28日朝日新聞)

女性のがん専門医育成 

産婦人科医が中心の日本婦人科腫瘍(しゅよう)学会が、女性特有の卵巣がんと子宮がんの専門医育成に乗り出す。来年1月に暫定指導医を認定、06年から研修を始める。高度な知識や先進技術を持つ医師が必要とされていることにこたえる。患者が医師を選ぶ目安になりそうだ。卵巣がんは食生活の欧米化で罹患(りかん)率や死亡率が上がりつつある。子宮がんは若い患者が増え子宮温存を望む人の割合が高まっているという。 また、子宮頸(けい)がんの治療では、同じ進行度3期でも、子宮内に放射線源を入れて治療する腔内(くうない)照射を受けた患者は5年生存率が64%、受けなかった患者は23%と大差が生じるとの厚生労働省研究班の調査結果があるが、腔内照射の設備を持つ施設、技術を持つ医師は、ともにまだ少ない。 こうした状況に対応するため、当初は大学病院を中心に研修施設と暫定指導医の認定を始め、専門医をめざす医師らに認定施設で3〜5年の研修を積んでもらう。09年に第1陣の専門医が誕生する予定だ。(平成16年11月21日 朝日新聞)

インフルエンザ、全ウイルスを保存、データベース化

人類が流行を経験していない新型インフルエンザの発生に備えるため、自然界にある135種類すべてのA型インフルエンザウイルスを保存し、遺伝子配列をデータベース化する計画が北海道大で進んでいる。今年度中にほぼ完了する見通しで、来年4月には同大に「インフルエンザウイルス・遺伝子リソースセンター」を設置する。ワクチン開発などの新型インフルエンザ対策に不可欠な情報を世界に提供する。A型インフルエンザウイルスは野生動物や家畜、人がかかる人獣共通感染症で、ウイルス表面に感染、増殖に必要なヘマグルチニン(H)、ノイラミニダーゼ(N)という2種類のたんぱく質を持つ。 Hは15通り、Nは9通りあり、この組み合わせで135種類が存在する現在、人がかかるのはH1N1型とH3N2型だが、これ以外のウイルスでも変異して、人の新型インフルエンザになる恐れがあるという。北大の喜田宏教授(ウイルス学)は、全種類のインフルエンザウイルスを収集しようと、ロシア、モンゴル、中国、日本で自然宿主のカモなどの野鳥から計49種類を分離。残りの種類のウイルスも掛け合わせて作り出している。また分離した別種類のウイルスを卵に同時感染させ、55種類のウイルスを作り出した。この手法で来年3月までに残り31種類のウイルスを生み出し、135種類のウイルスライブラリーを完成させるという。喜田教授は「遺伝子配列をすべて解読し、データベース化して人類共通の財産としたい。保存されたウイルスはワクチンのもとにもなるため、新型インフルエンザの『先回り対策』として役立つ」と話している。(平成16年11月20日毎日新聞)

ヒト遺伝子、2万2000種を確認

日米など6カ国の国際研究チームは「人間の設計図」にあたるヒトゲノム(人間の全遺伝情報)の解読結果をもとに、3万―4万種と予測されている人間の遺伝子のうち約2万2000種を確認した。21日付の英科学誌ネイチャーに発表する。遺伝子の総数はなお不明だが、今回の成果から多くても3万種前後とみられ、他の動物と大差ない可能性が高いという全身の様々なたんぱく質を作る遺伝子の数は当初、10万種といわれていたが、コンピューター解析で3万―4万種と予測されている。研究チームは2003年に解読を終えたヒトゲノムのデータを、マウスなど他の生物の遺伝子とも比べながら詳しく分析し、約2万2000種を確認した。研究チームは、現在の解析手法ではまだ見つけられない遺伝子も多く、最終的には3万種前後が見つかるとみている。研究チームの理化学研究所の榊佳之・ゲノム科学総合研究センター長は「人間と他の動物の決定的な違いは遺伝子の数でなく、遺伝子を巧みに使い分ける仕組みにあることが明らかになった」と話している。(平成16年10月21日 日本経済新聞)

激痛走る神経障害

事故や手術の後遺症などで患部に慢性的な激痛が走る神経障害「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」を人工神経で治療する方法を、奈良市の開業医稲田有史さん(45)が開発した。 痛みをほぼ解消し成功率は90%以上で、来年中には厚生労働省に医療保険適用の認可申請をする。論文は神経外科で最も権威のある米国専門誌「ニューロサージェリー」9月号に掲載された。同症候群の患者は全国で約20万人とされる。手足などの神経の損傷で、脊髄(せきずい)や脳が痛みを過剰に感じるようになり、風に当たっても激痛を感じる。これまでは麻酔などで症状を一時緩和するのが限界だったが、稲田さんが開発した治療法は神経の損傷部を豚皮のコラーゲン繊維で作った直径0・7―13ミリの人工神経で包むことで、切れた神経を再生。神経は1日1ミリずつ再生してつながるという。2002年4月から35例の手術をして33例で成功したとしている。(平成16年10月6日 読売新聞)

脊髄損傷の新治療法開発

成人の鼻粘膜から採取した細胞を使った脊髄(せきずい)損傷の新しい治療法開発に、慶応大医学部の整形外科と生理学のチームが乗り出した。中絶胎児の鼻粘膜細胞を脊髄損傷患者に移植する治療は中国で行われているが、安全面、倫理面の問題が指摘されている。成人の細胞が使えれば、患者自身の細胞が移植可能で倫理問題や免疫拒絶を回避できる。研究チームは豪グリフィス大と協力し、成人の鼻粘膜細胞を同国から輸入した。細胞の安全性や増殖能力が確認できれば、近く脊髄損傷を人工的に起こしたサルの脊髄に移植し、握力や運動量など運動能力の回復を確かめる実験を始める。動物実験で治療効果が出れば、早ければ1年後にも実際の患者による臨床試験に入る予定。 治療効果が期待されているのは、鼻粘膜に存在する嗅(きゅう)神経鞘(しょう)グリア細胞(OEG)。この細胞は、神経細胞の突起の成長を促し、脊髄内の情報伝達を再生させると考えられている。これまで研究チームは、様々な神経の細胞のもとになる人間の胎児の神経幹細胞を脊髄損傷のサルに移植し治療効果を上げている。チームの中村雅也講師は「神経に分化する神経幹細胞と、神経細胞の成長を促進するOEGを両方移植すれば、大きな効果が出るかもしれない」という。 中国・北京の首都医科大では、中絶胎児のOEGを慢性期の脊髄損傷患者の病変部に移植する治療が行われており、これまで日本人11人も渡航した。 脊髄損傷 交通事故やスポーツ事故などで中枢神経が通る脊髄が傷つき、運動能力が著しく低下する病気。 年間5000―6000人が、新たに患者になる。有効な治療はなく、現状では運動能力をできるだけ低下させないためのリハビリしか対処法がない。(平成16年9月15日 読売新聞)

度重なる全身CTで癌リスクが上昇

全身CTスキャンは早期がんの発見方法として支持され、ますます一般的になっている。 しかし、放射線医学誌「Radiology」9月号掲載の先ごろの研究では、全身CTスキャンの有益性を示す証拠がない一方で、毎年、または2、3年に1度という頻繁な使用で、照射に起因するがんによって死亡する可能性が劇的に高まることが明らかになった。主任研究者で米コロンビア大学医療センター放射線腫瘍学および公衆衛生教授のDavid J. Brenner氏らは、全身CTスキャンの線量が第二次世界大戦中に日本の広島および長崎で生存者の一部が受けた原子爆弾の線量に近く、そのような生存者でがんリスクが高まっていることを認識していた。そこで、データを用いて全身CTスキャンが原因で致死的ながんが発生する危険性を算定した。その結果、45歳の人が1回のみの全身CTスキャンを受けた場合の死亡率は1200分の1(1200人中1人)であったが、30年にわたって毎年受けた場合には線量が蓄積して50分の1に高まり、また高齢者ほど照射に対する忍容性は良好であった。しかし、1回または一連のスキャンを受けたことで寿命や健康が改善することを示した研究は確認されなかった。米エール大学医学部予防研究センター長で公衆衛生臨床准教授のDavidL. Katz博士は、全身CTスキャンには危険性を上回る有益性がないとして推奨せず、医療企業が極めて説得力のある広告でこの技術を広めて収益を得ていることを指摘する。そのため、受けるべき、または避けるべき検査については信頼できる医療提供者に相談することが望ましい。(平成16年9月10日 日本経済新聞)

毛穴に幹細胞発見、毛髪の再生に期待

毛穴の組織の中に、様々な臓器や組織に成長する能力を持った幹細胞が存在することを、米ロックフェラー大学ハワード・ヒューズ医学研究所のチームがマウスで確認した。 発毛のほか、やけどなどによる皮膚の再生治療にも朗報となる。研究チームは「マウスにあるものが、人間にないはずはない」として、今後は人の毛穴から幹細胞を探す研究を進めるという。3日付の米科学誌セルに発表された。 研究チームは幹細胞の表面にある特有の物質を目印に、マウスの毛穴を取り巻く組織から幹細胞を探し出した。この細胞を生まれつき無毛のマウスの背中に移植したところ、毛根が形成され、通常のマウスと同じような白い毛がふさふさと生えた。 見つかった幹細胞は2種類あり、これらを組み合わせて、化学物質などで活性化させれば、毛髪などの再生が可能になるという。(平成16年9月5日 読売新聞)

抗がん用薬物送達システム開発

神奈川科学技術アカデミー(KAST)と星薬科大学は共同で、抗がん剤の投与後約24時間にわたり血液中に残存し、患部に的確に届く薬物送達システム(DDS)を開発した。薬を包むカプセルの材質を工夫し、通常の投与法より残存時間を約20倍長くした。 微小なカプセルが溶けずに毛細血管の先まで行き渡るため、治療効果の向上が期待できる。 製薬会社と組んで3年後の臨床試験を目指す。薬を包み込むカプセルに高分子材料のポリエチレングリコールやポリアスパラギン酸を使った。カプセルは直径約80ナノ(ナノは10億分の1)メートルの球状。カプセル自体が小さいため、毛細血管まで入り込み、血管の壁の数十―100ナノメートルのすき間をくぐり抜けてがん細胞近くまで到達できる。(平成16年8月12日 日経産業新聞)

骨に大量の幹細胞、安全に採取 

骨内部の組織「海綿骨」に、様々なタイプの細胞に分化できる幹細胞が大量に存在することを、東京医科歯科大の運動器外科学教室(宗田大(たけし)教授ら)のグループが見つけた。幹細胞は再生医療で中心的役割を担い、骨髄液から採取して治療の試みが始まっているが、海綿骨からは1度でその約100倍も採れ、採取に伴う患者のリスクや負担を減らせるという。骨髄液に含まれる幹細胞は、骨や血液、脂肪組織などの細胞に分化する能力を持つため、失われた組織を再生するのに役立つと期待されている。 海綿骨は、骨組織のうち、内部にあるスポンジ状の多孔質組織。 同グループは、海綿骨の表面に付いている細胞を調べ、骨をつくり出す骨芽細胞や軟骨細胞、脂肪細胞などに分化できる細胞を発見。 骨髄液中の幹細胞とほぼ同じ特徴を備えていた。 体内に刺して微量の組織を採取する生検針によって、骨髄液からも、海綿骨からもほぼ同量の細胞が得られる。 だが、含まれる幹細胞の数は、海綿骨の方が約100倍も多かった。 関矢一郎助手は「骨髄液中の幹細胞は、海綿骨から供給されているのではないか」と話す。 骨髄液を得るには、多数の神経が通る背骨の中心近くまで針を刺さねばならない。 また、必要量を確保するために採取が数回に及ぶこともあり、再生医療を受けようとする患者にとってリスクと負担になっている。海綿骨からの採取なら骨盤などから安全に、1度で採取できる可能性が高いという。(平成16年7月19日 朝日新聞)

痛み、血中マグネシウムに関係 痛がりの人は濃度低く

人より強く痛みを訴える「痛がり体質」の人は、そうでない人に比べ血液中のマグネシウム濃度が低いことが済生会神奈川県病院の調査で分かった。「痛がり」は従来、心理的なものと考えられていた。マグネシウムは痛みを伝える神経の働きを抑制する作用があり、「痛がり」の人はその働きが落ちていると見られる。慢性的な痛みの治療や予防につながる成果で、東京都内で開催中の日本ペインクリニック学会で17日発表する。 同病院整形外科の田島康介医師らの研究チームが調査した。03年5月から12月にかけ、骨折などで手術を受けた入院患者74人を対象にした。 (1)骨折後、骨がつながったのに痛がる (2)交通事故後、長期間首が痛いと訴える (3)X線撮影で異常がないのに長期間鎮痛剤を服用しているなどの条件に合う患者を、整形科病棟に勤務する看護師12人に選ばせた。9人以上が条件に合うと判断した患者を「痛がり」と分類した。 「痛がり」とされたのは21人(14〜89歳)で、それ以外は53人(12〜96歳)だった。 性別や年齢構成に差はなかった。一般的な血液検査項目のほか、血液中のカルシウム濃度などを比べた結果、マグネシウムだけ明らかな差が出た。「痛がり」群では1リットル当たり20.7〜25.5ミリグラム(平均23.2ミリグラム)に対し、それ以外の群では1リットル当たり21.9〜30.4ミリグラム(同25.6ミリグラム)だった。田島さんは「患者の血中マグネシウム濃度を管理すれば、痛みの緩和に役立つ可能性がある」と話している。(平成16年7月17日 毎日新聞)


陽子線でがん治療、2例目の保険適用

副作用の少ない陽子線によるがん治療が、兵庫県立粒子線医療センター(新宮町、50床)で高度先進医療と認められ、一部に健康保険が適用できる見通しとなった。中央社会保険医療協議会の専門家会議が9日までに了解したためで、8月にも実施される。 昨秋承認された国立がんセンター東病院(千葉県柏市)に続く2件目で、治療の広がりが期待される。 X線など従来の放射線は病巣以外にも影響を与えてしまうのに対し、陽子線はがんの位置や大きさに合わせて線量を調節し狙い撃ちできる特徴がある。1回の治療が短時間で、通院治療も可能。手術が難しい頭頸(とうけい)部のがんや肝臓などの臓器のがんの治療に期待され、筑波大陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市)や静岡県立静岡がんセンター(長泉町)などでも実施されているが、医療費が高額(約400万円)で、患者の負担が課題だった。 兵庫県立粒子線医療センターは03年に陽子線がん治療を始め、これまで約320例実施した。高度先進医療の基準の病床数(300床以上)を満たさないが、政府の規制緩和方針を受け、厚生労働省が周辺病院との連携などから判断する方針に転換し、可能になった。 高度先進医療が認められれば、医療費のうち入院・検査料など約100万円が健康保険の対象となり、残りが自己負担となる。(平成16年7月9日 朝日新聞)

心臓蘇生装置、「除細動器」を一般人でも使用可能に

停止した心臓を電気ショックで蘇生させる「除細動器」(AED)について厚生労働省は、緊急時には一般人でも使用できることを決め、今月中に全国の自治体や医療機関に通知する。従来は「除細動器の使用は医療行為に当たる」として医師以外の使える対象を救急救命士、航空機の客室乗務員などに限定してきた。通知によると、救急現場に居合わせた場合は講習を受けていない一般の人でもAEDを使えるとしている。また、常時AEDを使える対象者を講習を受けた公共施設の職員などに広げた。同時に不特定多数が利用する公共施設へのAED設置を促している。東京都済生会中央病院の三田村秀雄副院長によると、救急救命士による心臓突然死の救命率は約3%。救急救命士がAEDを使い始めるまでに10分以上かかっているという。「発症から1分ごとに救命率は10%ずつ低下する。病人が倒れてから3分以内にAEDを使えば4人中3人が救える可能性がある」としている。除細動器=心臓の筋肉が不規則に細かく震えて血液を送り出す機能が失われた「心室細動」時に、強い電気ショックを与えて心拍を再開させる装置。平成16年6月23日 毎日新聞)

抗がん剤ミス防止へ、がん専門薬剤師を来年度から認定

抗がん剤の誤投与が社会問題化している中、全国の病院に勤務する薬剤師でつくる日本病院薬剤師会(全田浩会長、約3万3000人)は2005年度から、がん専門の薬剤師の認定制度をスタートさせることを決めた。医師には分野ごとに学会による専門医認定制度があるが、薬剤師では初めて。同会では、その後も順次認定の分野を広げ、「薬のエキスパート」養成を進めていきたい考えだ。 現在、国内で実施されている抗がん剤による化学療法は、約300種類に上る。次々と新薬が開発されているうえ、効果や副作用は個人差が大きく、投与には高度な知識や経験が必要とされている。 一方で、抗がん剤の投与ミスは後を絶たず、2000年には埼玉医大で本来週1回投与すべきところを、誤って連続7日間投与された女子高校生が死亡。2001年以降も、福岡、山形などで過剰投与が起きている。埼玉医大のケースは主治医が医学書を読み間違えたのが原因とされており、同会は「薬の専門家である薬剤師がきちんとチェックしていればミスを防げた可能性がある」としている。

同会によると、各地のがんセンターなど専門病院以外では、薬剤師は主に内服薬の調剤を担当し、点滴で静脈注射を行う抗がん剤の調剤は看護師が受け持つケースが多いという。 こうした現状に対し、同会では、抗がん剤の薬理作用の知識や臨床経験を積み重ねた薬剤師が、自ら抗がん剤の調剤を手がけながら患者一人ひとりにマッチした投薬の方法を医師らに提案できるよう、「がん専門薬剤師」として認定する方針。がん病棟などで最低3―5年間の臨床経験があることを受験の条件として、来年度から年1回ずつ認定試験を実施する。 同会の「がん薬物療法小委員会」委員長を務める井上忠夫・聖路加国際病院薬剤部長は「医師の処方に疑問やミスがあれば、その場で指摘できるような人材を育てたい」と話している。 厚生労働省医薬食品局も「専門性の高い薬剤師が増えれば、医療全体にとって大きなプラスになる」と支援していく方針だ。

同会では、感染症や栄養管理、精神障害の薬物療法の各分野についても、将来的に専門薬剤師の養成を目指すとしている。埼玉医大の抗がん剤過剰投与で長女を亡くした古館恵美子さん(49)は「『投薬ミスは薬剤師の責任』というぐらいの気持ちで医師と対等に意見を交わし、患者と向き合ってくれることを期待したい」と話している。薬剤師=医師の処方せんに基づいて薬を調剤することを認められた国家資格。患者に対して服用法など必要な情報提供を行うことも義務づけられている。厚生労働省によると、全国の薬剤師数は22万9744人(2002年12月末現在)。(平成16年6月17日 読売新聞)

すい臓がん治療「血管移植」に効果

すい臓がんの再発を防ぐため、患部とともにすい臓を貫通する主要な動脈と静脈を摘出し、そこに太ももの血管を移植する方法が有効であることを、金沢大大学院医学系研究科の三輪晃一教授(消化器外科)のグループが初めて確認した。 10月に開かれる米国外科学会で発表される。再発確率が9割以上とされるすい臓がんの根治に道を開くものとして注目を集めそうだ。 三輪教授によると、この治療法が有効なのは、十二指腸に近い「すい頭」と呼ばれる部分のがん。すい臓がん患者の7割以上がこのタイプだという。手術ですい頭を切除する治療法が一般的だが、三輪教授らが再発例を分析したところ、すい頭近くを通る上腸間膜動脈と静脈に付着したがん細胞を除去しきれないことが再発の原因であることが突き止められた。 新たな治療法は、すい頭部の切除と同時に、この2本の血管の一部も切除し、代わりに患者自身の太ももの血管を移植するというもの。

太ももの血管は、一定の太さがあって移植に適しており、血管移植手術に広く用いられている。 初めて手術に成功した2002年1月以来、これまでに13例の手術を行い、うち6例は再発がなく、仕事に復帰した患者もいるという。残り7例は、すでに他臓器に転移するなどしていたケースだったが、すい頭の切除跡でのがん再発は見られなかった。 三輪教授は「これまで外科的な治療が難しかった進行がんも、手術による治療が可能となり、患者の福音となるはずだ」と話している。

すい臓がん:初期に自覚症状がなく、早期発見が難しいことから、5年生存率は5―3%。厚生労働省の統計によると、すい臓がんの死亡者数は2002年に約2万人と、食生活の変化によって30年前に比べて3倍以上に増加、がんによる死因の6位にある。(平成16年6月13日 読売新聞)

喫煙者の男性で平均13.2年、女性で平均14.5年、寿命が短縮

米国厚生省(HHS)は5月27日、喫煙は体のほぼ全ての臓器に対して悪影響があることを明らかにする報告書、「The Health Consequences of Smoking」を公表した。 報告書では、これまでの研究結果のエビデンスに基づき、喫煙が原因と考えられる多数の疾患を特定している。 HHSでは1964年に、初めて喫煙の健康に与える悪影響について報告書をまとめて以来、27回に渡り同様の報告書を公表している。今回、これまでの報告書で特定できなかった疾患で、新たに因果関係があると認めたものの例としては、胃癌、子宮頚癌、膵臓癌、腎臓癌、急性骨髄性白血病、肺炎、腹部大動脈瘤、白内障、歯周炎などがある。同報告書ではまた、喫煙者は男性で平均13.2年、女性で平均14.5年、早死にするとしている。米国では毎年、喫煙が原因で死亡する人は約44万人だという。さらに喫煙が原因となる疾患の治療にかかる医療費は年間750億ドルで、生産性が失われることによる損失は年間820億ドルに上るとしている。(平成16年5月28日 medwave)

麻酔ゼリー薬を注射針などへ応用も

麻酔の性質をもつゼリー状の薬を、国立循環器病センター研究所(大阪府吹田市)のグループが開発した。神経に直接塗って神経の働きを抑え、ふき取ると元に戻るため、麻酔の効果時間を自在に調節できる。 重度の虫歯や傷口の痛みを和らげる塗り薬、痛みのない注射針などへの応用が期待できるという。神戸市で25日から開かれる高分子学会で発表する。神経には、痛みを伝えたり、臓器や筋肉を動かすなど、それぞれ役割があり、電気信号で情報や命令を伝えている。グループは、麻酔薬と同じ成分を含むゼリー状の高分子を開発。薬を塗った神経部分で電気信号を止める性質を持つようにした。ウサギの動物実験では、神経に塗ってから約20秒後に電気信号が止まり、ふき取ると約10秒で信号が再開した。炎症などの副作用はなかったという。グループの中山泰秀・研究機器開発試験室長は「今後、長期間たってから現れる毒性がないか調べる必要がある。痛み止めのほか、急性心筋こうそくの後に、自律神経のバランスが崩れて起きる不整脈の治療にも使える可能性がある」と話している。(平成16年5月24日 毎日新聞)

がん検診、MRIで全身を一度に

全国に普及しているMRI(磁気共鳴画像化装置)を使い、全身のがんを一度に調べる手法を、東海大の今井裕教授(画像診断学)らの研究グループが開発した。同じ目的で使われるPET(陽電子放射断層撮影装置)よりも画像が鮮明で、放射線被ばくがない。 費用もPETの約6分の1で、早期がん発見のための集団検診への応用が期待されている。 MRIの撮影方法のうち、脳こうそくの初期診断に使われている拡散強調画像法を利用した。この方法は水分子の動きの強弱を画像化する。

がん細胞は正常細胞に比べて密集する傾向があり、がん細胞では水分子の動きが鈍くなる。同グループはこの性質に着目して、MRIの拡散強調画像を繰り返し撮影することで、全身のがん細胞を一度に画像化することに成功した。これまで、胸や腹部を撮影する場合、呼吸に伴う動きの影響で正確な画像が得られないと考えられてきた。同グループは撮影中に息をしても影響がないことを確かめ、技術的な工夫を重ねて実用化した。 体の断面は3ミリ程度の幅で撮影される。撮影に要する時間は準備を含めて約30分。 肝細胞がんはやや写りにくいものの、その他の多くのがんは5ミリ程度の大きさでもとらえられるという。同大は昨年秋から、この手法をがん患者の検査に導入した。最初にがんができた原発部位や、がんの転移先を見つけるなどの実績を上げている。 同グループの高原太郎講師は「PETと違って被ばくがなく、費用も安いので、がんの集団検診に応用できる」と話している。(MRIとPET) MRIは巨大な磁石の中に人間を入れ、体内の水などに含まれる原子の状態変化を利用して、コンピューターで画像化する。 PETは陽電子を出す放射性同位体で標識をつけた薬剤を注射して体内に取り込ませ、その分布を画像化する。 通常の検査では見つけられない小さながんを発見できるとして注目されているが、普及率は低い。(平成16年5月3日 毎日新聞)

腰椎ヘルニア治療、レーザー治療推奨せず

ひどい腰痛の多くを占める腰椎椎間板ヘルニアの治療指針を、厚生労働省の研究班がまとめた。近年、急速に普及したレーザー治療や骨格構造のゆがみを手で正すカイロプラクティックについては、論文など十分な科学的根拠が蓄積されていないなどとして、推奨しなかった。椎間板ヘルニアは椎間板の中のゼリー状の組織がはれたり、飛び出したりして神経を圧迫する。治療指針は強い痛みが続くなど重症の場合は、長期間痛み止めなどを使う保存療法より、手術をした方が成績が良いとした。また、手術法では、医師が顕微鏡を見ながらする顕微鏡手術が長期的な成績も優れている、として推奨された。

一方、レーザーでヘルニアを小さくする治療法は日帰りも可能として近年急速に広がっているが、有効率を顕微鏡手術などと正確に比較検討した科学的な報告が十分にない、周囲の骨や神経などへの副作用や合併症も報告されている、保険適用外で経済的負担も多い、などとして推奨しなかった。カイロプラクティックはさらに判断材料が乏しいとした。 最近、普及しつつある内視鏡手術については、まだ十分な症例報告がなく、言及しなかった。 研究班長の四宮謙一東京医科歯科大教授は「患者が治療法を選ぶ時の参考になるよう、今後患者向けのものも作りたい。今回は、分析のもとになった論文の多くが海外の事例で、限界もある。今後は日本整形外科学会が主体となって国内の症例分析を積み重ね、日本ならではの治療指針に育てていきたい」と話す。(平成16年4月25日 朝日新聞)

脳卒中やがんの治療に人工赤血球

東海大学医学部の川口章・助教授とテルモの研究グループは、人工赤血球を脳梗塞(こうそく)などの治療に利用する新手法を開発した。 人工赤血球は血液の代替用に研究されているが、“治療薬”としても有効なことが動物実験で分かった。 3大生活習慣病である脳卒中、心臓病、がんの治療向けに研究を進める。 人工赤血球は酸素を運ぶヘモグロビンを脂質の膜で覆った直径200ナノ(ナノは10億分の1)メートルほどの球体。 大きさが赤血球の25分の1と小さいため、梗塞などで狭くなった血管のわずかなすき間も通り抜け、酸素を届けやすいことに研究グループは着目した。(平成16年4月26日日本経済新聞)

急性心筋梗塞の新治療法

京都府立医科大学の松原弘明教授らは14日、急性心筋梗塞の患者の大腿から採った血液中の細胞を心臓の動脈に注入し、心臓血管をよみがえらせる新しい治療法の臨床試験を始めたと発表した。骨髄の細胞を採る従来法に比べ、患者の肉体的負担を軽くできるという。

急性心筋梗塞で倒れた京都府在住の男性(46)の大腿から採った血液から「血管内皮幹細胞」という細胞を10億個取り出し、この患者の心臓の冠動脈にカテーテルで注入した。この細胞が患部で新たな血管を作り、心筋梗塞を治療できるという。骨髄から幹細胞を取り出して心臓の血管をよみがえらせる治療が国内外で始まっているが、患者に負担がかかる。大腿なら採血時の負担が軽く、国内で推定年間約10万人が発症する急性心筋梗塞の約1割に適用できるとみている。(平成16年2月15日日本経済新聞)

クローン技術で万能細胞

人間のさまざまな組織になることができ、“万能細胞”ともいわれる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を、体細胞クローン技術を使って作ることに、韓国ソウル大学などのグループが世界で初めて成功し、12日付の米科学誌サイエンス(電子版)に発表した。この手法で作ったES細胞からは、移植しても拒絶反応を起こさない組織を作ることが可能で、パーキンソン病や脊髄(せきずい)損傷、糖尿病などの治療に役立つ。

一方、このクローン技術はクローン人間作りにもつながる技術とあって、日本では国の指針で人への応用を当面禁止としており、生命倫理を巡る国際的な議論が高まると見られる。体細胞クローン技術によるES細胞の作製は、マウスや牛では成功しているが、アカゲザルでは染色体異常を起こすという報告もあり、人間を含む霊長類では技術的に難しいとの見方もあった。研究グループは、同意を得た女性から卵子と、体細胞(卵丘細胞)を採取。核を除いた卵子に同じ女性の卵丘細胞の核を移植して作ったクローン胚を育て、ES細胞を採取することに成功した。

原理的には、体細胞は皮膚など何でもいいが、今回は成功率を上げるため、卵巣にある卵丘細胞が使われた。それでも、今回は16人の女性から計242個の卵子を採取し、ES細胞ができたのは1つだけだった。治療応用へ向けては、技術的にもES細胞作りの成功率をさらに上げる必要がある。また、狙った細胞に十分に変化していない細胞を移植するとがん化する恐れがあり、ES細胞を狙った通りに確実に変化させる技術も不可欠だ。クローン技術を使わず受精卵をもとにしたES細胞は、国内でも京都大学チームが作製に成功している。

体細胞クローン技術でヒトES細胞を作った研究は、自分の細胞を使って失われた機能を取り戻す「夢の治療」に道を開くものだ。可能性の実証という面では大きな一歩だが、同じ女性の卵子と卵丘細胞を使う特別な条件で、242個の卵子から1株のES細胞を作ったにすぎない。ES細胞はマウスや、人間の受精卵から作られ研究が進められているが、安全性を含め未知な部分も多く、治療への応用はまだ先という点で、専門家の意見は一致する。

クローン技術の人間への応用は、クローン人間作りにもつながるとの激しい反対がある。国連でも昨年12月、全面禁止を求める米国やカトリック諸国と、治療応用に含みを残す日本や英国、ドイツで意見が割れ、結論を1年先送りした。韓国では昨年末、クローン人間作りを禁止する生命倫理法が成立したが、難病研究目的のクローン胚作りは認めている。日本はクローン技術規制法の指針でクローン胚作りは当面禁止としているが、総合科学技術会議の生命倫理専門調査会の2年半に及ぶ検討作業の中でも、解禁派と慎重派の意見は平行線のままで、昨年末の中間報告は異例の両論併記となった。治療面での「恩恵」と、人間の尊厳を脅かしかねない「クローン人間作り」。これらを同時に可能とするクローン技術は、生命科学の進展が突き付ける重い課題だ。

体細胞クローン技術=皮膚など体細胞の核を、核を除いた未受精卵に移植。化学的刺激などにより細胞分裂させて個体に育つ可能性のある細胞の塊「クローン胚」などを作る技術。この胚は体細胞の提供者と同じ遺伝子を持つ。移植が必要な患者の体細胞からこの胚を育てて組織や臓器にすれば、遺伝子が同一のため、移植しても拒絶反応を起こさない。しかし精子と卵子が受精してできた通常の胚に比べ、出生に至る可能性は低い。(平成16年2月12日 読売新聞)

人工関節など「再利用控えて」 感染防止で厚労省指導へ

使い捨てのはずの人工関節や心臓弁、ペースメーカーなどの医療用具が使い回しされている実態を受けて、厚生労働省は病院などに対し、院内感染や事故につながる危険度の高い用具の再利用を控えるよう求める指導を近く通知する。再利用は法的には禁止されていないため、「再利用で事故が起これば病院の責任」と、自覚を促す意図もある。

再利用の実態は1月下旬、同省の医療安全対策検討会議で報告された。NTT東日本関東病院の小林寛伊名誉院長らが昨年実施したアンケートに、227病院から計282の手術部・材料部が回答。うち94%にあたる264部門で、使い捨てを前提に製造された用具を病院などで滅菌消毒し、複数回利用していた。同省が問題視するのは、人工関節や骨をつなぐための板、ねじ、ペースメーカー、脳に張り付ける人工硬膜など。患者の体内に埋め込むため、わずかな滅菌不足が感染事故につながる恐れがある。品目別に調べると、開封後未使用のものも含め、人工膝(しつ)関節で4.6%、心臓弁で1.8%、ペースメーカーで3.9%、ねじで29.1%にあたる病院部門が再利用していた。 再利用の背景には処理費用の高い医療廃棄物を増やしたくない、医療費が材料費込みで決められている場合に用具費を抑えたい、といった病院側の経営事情があるとみられる。

医師らは用具をつくることも医療行為として容認される。医療現場の工夫で用具が開発・改良されてきた歴史もある。再利用もこうした「工夫」にあたり、薬事法上、使い捨てと指定されていても、再利用を禁止することはできないという。使い捨てかどうかはメーカーの申請により、同省が薬事法上の審査をする。メーカーの添付文書に反して滅菌、再利用し、用具に不具合があった場合、責任は医師や病院に及ぶことになる。今回の通知ではペースメーカーなど「埋め込み型」の医療用具を事故危険度が高いとして「安全性や性能を病院として保証できない場合は再利用しない」よう注意を求める。一方で、
電気メスなどは「使い捨てと指定されるのが妥当か」という疑問も医療現場にある。今後、再利用による危険度が低い用具をより分け、利用回数を制限したり、適正な滅菌方法などを示したりすることも検討する予定だ。(平成16年2月7日 朝日新聞)

感染の不安ない人工血液、早・慶大などが開発

血液中に含まれるたんぱく質の一つ、アルブミンに酸素を運ぶ能力を持たせた「人工血液」を早稲田大、慶応大、熊本大などのグループが開発した。大量生産と長期保存が可能で、ウイルス感染や血液型不適合の心配のない安全な輸血に道を開くと期待されている。グループは動物実験で効果を確認しており、2年後の実用化を目指す。

酸素は赤血球に含まれるヘモグロビンというたんぱく質に結合し体内組織へ運ばれる。米国ではヘモグロビンを加工した人工血液が作られたが、血圧上昇などの副作用があり、人への使用は認可されていない。土田英俊・早大名誉教授らのグループは、血圧を維持し、様々な物質を体内に運ぶ役割を持つアルブミンに着目。ヘモグロビンと同様に鉄を中心に持つヘムという分子を組み入れたアルブミンヘムを作り、肺で酸素を吸収し、体内の組織で放出する機能を持たせることに成功した。赤血球より小さいので、血栓のできた部分にも酸素を供給でき、脳こうそくなどの治療に使える可能性もある。 アルブミンを遺伝子組み換えで作る手法を日本の医薬品会社が開発して臨床試験を終えており、アルブミンヘムの量産にもめどが立っているという。研究グループの小林紘一・慶応大教授は「室温で長く保存でき、いつでも使える。献血不足を解消できるだろう」と話している。(平成16年1月25日 読売新聞)

心静止例ではバソプレシンがエピネフリンを上回ることが判明

病院外心停止患者1200人を対象とした欧州3カ国の多施設共同無作為化二重盲検試験で、救命処置開始時の心電図波形が心静止(asystole)状態だった人では、バソプレシン投与による救命率、生存退院率が共にエピネフリン投与群を有意に上回ることがわかった。当初波形が心室細動(VT)や無脈性電気活動(PEA)の場合も救命率は同等で、今回得られたデータは、バソプレシンを心肺蘇生補助の第一選択薬に位置付ける有力なエビデンスとなりそうだ。研究結果は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌1月8日号に掲載された。

対象は、オーストリア、ドイツ、スイスの3カ国33カ所の救急救命ユニットに、心停止状態で搬送されてきた成人患者1219人。無作為に2群に分け、バソプレシン40単位またはエピネフリン1mgを静脈内注射、心拍が再開しなかった場合は3分後に再投与した。2回の試験薬投与でも心拍の再開がみられなかった場合は、エピネフリンを投与した(投与量の中央値:5mg)。解析は、割り付けデータが紛失した33人を除く1186人について行った。

患者の平均年齢は66歳、7割が男性で、2割弱は居合わせた人から心肺蘇生術(CPR)を受けている。心停止の原因(疑い)は心筋梗塞が6割弱、不整脈が2割強、肺塞栓が1割強。救命処置開始時の心電図波形は、VFが4割、心静止が4割強、PEAが2割弱だった。こうした患者背景に群間の差はなかった。

救急救命ユニットでの救命率(生存入院率)は、バソプレシン群(589人)が36.3%、エピネフリン群(597人)が31.2%で、有意差はないもののバソプレシン群で高い傾向があることが判明(p=0.06)。心電図の当初波形別では、心静止例で、バソプレシン群の救命率が有意に高くなった(29.0%対20.3%、p=0.02)。心静止例の生存退院率も、バソプレシン群で有意に高かった(4.7%対1.5%、p=0.04)。

解析対象を、最初の2回の試験薬投与で心拍再開がみられなかった732人に限定すると、その差はさらに顕著になった。救命率はバソプレシン群(373人)が25.7%、エピネフリン群(359人)が16.4%とバソプレシン群で有意に高く(p=0.002)、生存退院率も同様だった(6.2%対1.7%、p=0.002)。

論文に対する論説では、一般に心停止患者の2〜4割を占め、最も救命が難しい心静止例に対し「バソプレシン単独、あるいはバソプレシン2回投与後のエピネフリン投与で高い救命効果が得られるとの結果は、心肺蘇生上の重要なブレークスルーになる」と評価。この知見は臨床現場に遅延無く反映されるべきだと強調している。(平成16年1月9日 MedWave)

子供の救急相談、全国共通の短縮番号に

子どもが夜、急に具合が悪くなったら「#(シャープ)××××」へ電話。小児科医による夜間の電話相談事業を来年度から全国で支援する厚生労働省は、利用者の利便性に配慮し、全国共通の短縮番号で受け付けることを決めた。4けたの数字は来月中に決定する。相談は各都道府県で実施されるため、スタートしていないところではつながらないが、厚労省は「早くすべての都道府県で整備したい」と話している。 電話相談では、夜間に子どもが発熱したり、けがをしたりして、すぐに救急病院へ行くべきか、朝まで待っても大丈夫かなど判断に迷った親たちが、電話で小児科医から助言を受けられる。厚労省は「通常の電話番号ではなかなか覚えてもらえないし、急いでいるときに困る」と、全国共通の短縮番号にすることにした。NTTの交換機から都道府県の転送器につながり、相談に応じる小児科医へ転送される仕組みだ。 小児科医の夜間電話相談は現在、広島と三重、大分が独自に実施。準備を進めている自治体も複数あるという。(平成15年12月28日 朝日新聞)

救急救命士、薬剤投与容認

救急救命士の業務拡大に関する厚生労働省と総務省消防庁の合同検討会(座長、松田博青・日本救急医療財団理事長)は26日、医師にしか認められていない薬剤投与の一部を救急救命士にも一定の条件で初めて認める方針を決めた。政府は06年4月実施をめどとして関係法令改正に着手する。検討会が投与を認めたのは、心肺停止患者などの心拍を促す強心剤の一種「エピネフリン」。救急救命士が薬理作用や投与手順などの講習・実習を受ける。投与時に、携帯電話などで医師から個別の指示を受けるなどを条件に挙げている。検討会のワーキンググループが今年4〜10月、千葉県船橋市など8地域で調査したところ、心肺停止患者がドクターカーで医師からエピネフリンを投与された場合は、投与できない救急車で運ばれた場合より、その後1カ月の生存率が3.4ポイント高かった。別の強心剤の併用で生存率はさらに高まるため、誤投与や合併症などのリスクを見極めながら今後、救急救命士が投与できる薬剤の拡大を検討する。救急救命士の業務を巡っては、秋田市などで01年、患者の口からチューブを気管に入れる気管内挿管を救急救命士がしていた医師法違反問題が発覚。だが救急現場では蘇生術のニーズが高いため、救急救命士の業務を広げる方向にある。除細動(電気ショック)は今年4月から、マニュアルに基づき医師の個別指示なしで認められている。気管内挿管も実習を受けたうえで医師の個別指示に基づいて認める方向で作業が進んでいる。(平成15年12月27日 毎日新聞)

がん、1センチでも位置特定、高度診断装置

米ゼネラル・エレクトリック(GE)は子会社を通じ、早期がんを高精度に発見できる画像診断装置「PET/CT」を日本で発売する。1センチメートル弱のがん組織の有無と位置を正確に検出できる。 製品名は「DISCOVERY LS」。 がん細胞が放射性薬剤を代謝する様子からがんの有無を調べる「陽電子放射断層撮影装置(PET)」と、エックス線を使ってがんの位置を透視する「コンピューター断層撮影装置(CT)」を組み合わせている。 GEが75%出資するGE横河メディカルシステム(東京都日野市)が来年1月から出荷を始める。 定価は12億円。 初年度25台の販売を目指す。(平成15年12月23日 日本経済新聞)

成人の生体肝移植にも保険適用

厚生労働省は12日、16歳以上を対象とした生体肝移植について保険適用の対象とする方針を決めた。これまでは、1000万円以上の自己負担が必要なケースがあり、患者には朗報だ。生体肝移植は、既に小児への移植については保険が適用されており、これで生体肝移植は一般医療として認められたことになる。16歳以上については、C型肝炎の悪化による肝がん患者らに対する移植が急増。

同省は、主に成人を対象とした移植の実績が1000例を超え、5年生存率が約70%と好成績を収めていることから保険適用することにした。これまで保険適用だった、先天性胆道閉鎖症などの先天性疾患に加えて、新たに16歳以上の肝硬変や劇症肝炎、肝細胞がんを対象疾患とする方針肝細胞がんについては、がんの直径が5センチ以下のものが一つ、または3センチ以下が3個以内の場合に限定した。ただ、一般医療化したことで、倫理的に問題のある移植や無謀な手術が増える恐れがあるため、保険適用の条件として臓器売買などを禁じた世界保健機関(WHO)や日本肝移植研究会の指針を順守するように求めた。(平成15年12月12日 産経新聞)

炎症部分を狙い撃ち 薬を運ぶナノ粒子開発

病気で炎症を起こしている部位に薬を効率的に運ぶドラッグデリバリーシステムとして利用できるナノ粒子の作製に世界で初めて成功したと、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)と大阪大の研究グループが13日、発表した。目に炎症を起こしたマウスに注射したところ、炎症部位だけに取り込まれることを実証した。同研究所は通常の炎症だけでなく、リウマチ、アルツハイマー病などの治療にも応用可能としている。

開発したナノ粒子は直径約100ナノメートル(ナノは10億分の1)。脂質人工膜のリポソームを利用して作り、表面に糖が鎖状につながった糖鎖を付けた。糖鎖は炎症部位近くの血管内側だけにあるタンパク質と結び付くように作られており、ナノ粒子に薬を入れて利用すると患部に集中的に薬を運ぶことができる。同グループは「医薬品メーカーとの共同研究を進めたい」としている。(平成15年11月13日 中国新聞)

携帯の長期使用、脳腫瘍に影響なし 

携帯電話の電波による健康影響を調べている総務省の生体電磁環境研究推進委員会(委員長・上野照剛東京大教授)は10日、「長期にわたる携帯電話の使用が脳腫瘍(しゅよう)発生に及ぼす影響は認められない」とする報告書を公表した。委員会はこれまでも影響を否定する見解を出しているが、多数のネズミを使った2年間の実験で裏付けをした。 脳腫瘍を発生しやすくしたネズミに、電波を1日1時間半(週5日)、ほぼ一生にあたる2年の間浴びせた。浴びせる電波の強さは、携帯電話で認められている最大限とその3分の1。100匹ずつで実験した。電波を浴びせない300匹と、浴びた計200匹を解剖して比べた結果、脳腫瘍の発生率に差はみられなかった。 同委員会は旧郵政省が97年に設置。01年1月に、短期間の動物実験、脳腫瘍患者と携帯電話使用との関係についての疫学調査をもとに、「健康に悪影響を及ぼす証拠は認められない」との中間報告を公表した。引き続き、眼球への影響をみる動物実験や疫学調査を続ける。(平成15年10月10日 朝日新聞)

歯科医の救命救急研修再開へ 

歯科医師に気管挿管などの救命措置を教える救急救命研修が2年ぶりに復活しそうだ。 研修中の歯科医師による資格外の医療行為をめぐって告発があって以来中止されていたが、厚生労働省が6日までに方針を修正して容認に転じたためだ。 歯科でも麻酔のショックなどで患者の容体が急変する場合があり、医師、歯科医師らが再開を求めていた。 厚労省が研修のガイドラインを作り、同日までに日本医師会や日本歯科医師会、都道府県などに通知した。 厚労省研究班(主任研究者=前川剛志・山口大医学部教授)がまとめたガイドラインでは、研修を受けられるのは歯科の臨床経験が1年以上あり、全身麻酔を20例以上手がけた歯科医師。 気管挿管や気道の確保などの特別講習を受けたうえで、病院の指導医に学ぶ。 研修は67項目で、実際に患者を処置するのは53項目。 触診や気道確保、心臓に電気ショックを与える手動の除細動、呼吸を確保するための気管切開などで、難しさや必要度に応じてA〜Cに分類。 「指導医の監督下で自分で判断もできる」「指導医に付き添われながらできる」「指導医を手伝うのみ」と、項目ごとに指導医の関与を指定した。 内視鏡検査など14項目は見学にとどめる。 歯科医師の救急研修をめぐっては01年秋、札幌市立札幌病院で、救命救急センター部長の医師が、研修を受けていた歯科医師に資格外の医療行為をさせたとして医師法違反の疑いで保健所から告発され、今年3月に札幌地裁で罰金6万円の判決が出た。医師は控訴している。 それまで20カ所以上の医療施設が独自の研修内容で受け入れていたが、告発を機に多くが中止した。 告発後、厚労省は「歯科でない領域の疾病で、単純な補助的行為以上のことをするのは医師法違反」としていた。今回その方針を修正、ガイドラインを定めて研修を認めた。 歯科でも舌がんやあごの手術などを担当する口腔(こうくう)外科では、全身麻酔をするため、救命救急の必要度が高く、歯科麻酔で急性心不全などが起きる危険性もある。(平成15年10月7日 朝日新聞)

生体移植の適用「16歳以上」に拡大

日本移植学会(深尾立理事長)は7日、親族間を原則としていた、肝臓や腎臓などの生体臓器移植の適用範囲を拡大する倫理指針の改正案を公表した。 親族以外からの提供に道を開くほか、特例として16歳以上20歳未満の未成年からの提供も認める。今月27日の同学会総会で正式に決定する。 改正案によると、親族以外から提供を受ける場合は、実施する医療機関の倫理委員会で個別に承認を受けるのが条件。16歳以上の未成年が提供者となる場合、十分な説明を受けた上で精神科医などが成人に匹敵する判断能力があることを認定することなどを条件とした。(平成15年10月8日 読売新聞)

骨髄腫の骨破壊の物質を発見

国立大阪南病院の佐伯行彦臨床研究部長らは血液のがんの一種、多発性骨髄腫による骨の破壊にかかわる物質を突き止めた。この病気では効き目の高い薬がなく、腰や背中の骨の痛みや骨粗しょう症、骨折などに苦しむ患者が多い。成果をもとに骨の破壊を防ぐ新薬を開発すれば、患者の症状改善が期待できるという。 生体内で情報の伝達を担う「オステオポンチン」という物質が骨の破壊にかかわっていることがわかった。 この物質は慢性関節リウマチで起こる軟骨の破壊の原因としても最近注目されている。 多発性骨髄腫の患者ではオステオポンチン血中濃度が普通の人より高く、その値は骨の破壊の程度と関係していた。(平成15年9月29日 日本経済新聞)

一般人の除細動器使用を容認

心肺が停止した患者に電気ショックを与えて回復させる「自動体外式除細動器(AED)」について、厚生労働省は8日、来春にも一般の人による使用を認める方針を固めた。 医師らを探しても見つからない場合で、必要な講習を受けていることなどを条件とする。一般の人が使えるようになれば、突然死対策として除細動器が広く活用されることになる。 自動体外式除細動器を使うのは医療行為のため、医師法の規定で医師以外は使用できないことになっていた。だが一刻も早い使用が救命率の向上につながるため、厚労省は今年度から救急救命士の使用を認めている。また航空機内で心肺停止に陥った患者には、医師がいない場合は客室乗務員が使用しても医師法違反に当たらないという見解を出している。(平成15年8月9日日本経済新聞)

慢性疲労症候群、患者から特殊たんぱく質

強い疲労感や筋肉痛、微熱などが長期間続く原因不明の病気、慢性疲労症候群の患者の半数で、特殊なたんぱく質が血液中に出ていることが、関西福祉科学大と大阪大の共同研究で分かった。このたんぱく質は脳や心臓などで神経の情報伝達を妨げる働きをする。 病態の解明と治療法開発への手がかりになるという。 国際医学専門誌の8月号に報告した。 関西福祉科学大の倉恒弘彦教授(内科学)らは患者60人と健康な人30人の血液を採り、神経の情報伝達に関係する4種類のたんぱく質を調べた。すると、CHRM1抗体という特殊なたんぱく質が、患者の53%にあたる32人から見つかった。健康な人からは見つからなかった。 患者のうち、このたんぱく質があった人は「筋肉の脱力感」の程度が、なかった患者より1.5倍強く、「ぼーっとする」という訴えも1.2倍強かった。 また、たんぱく質の量が多いほど、症状の程度も重かった。 大脳や神経、心臓などには、意欲や思考力に関係するアセチルコリンという情報伝達物質を受け取る「受け皿」役のたんぱく質がたくさんある。 研究チームは、CHRM1抗体がこの「受け皿」に強く結びつき、アセチルコリンの働きを阻害していると見ている。(平成15年8月5日朝日新聞)

骨髄の幹細胞使った新治療法

骨髄に含まれる幹細胞で、詰まった血管を再生する新しい治療法が「高度先進医療」制度の適用対象になり、医療保険から医療費の一部が給付されることが確実になった。 4日の中央社会保険医療協議会(中医協)の審議を経て厚生労働省が正式承認する見通しだ。 さまざまな種類の細胞になる幹細胞を使った「再生医療」への保険適用は初めてで、一般的な医療に一歩近づいたことになる。 承認されるのは関西医科大病院、久留米大病院、自治医科大病院。足などの細かな血管が詰まって血流が悪化する糖尿病患者に多い「閉塞(へいそく)性動脈硬化症」や、原因不明の「バージャー病」の患者が対象だ。 痛みで歩行が困難になり、組織が壊死(えし)することもある。 新治療法は患者自身の骨髄液を濃縮して患部に注射。骨髄液中の幹細胞が新たな血管ができるのを促す。 関西医大が00年に初めて開始した治療法で、これまで3施設で計65人が治療を受け、8割程度で改善がみられた。 この治療法には百数十万円の治療費がかかり、これまでは原則自己負担で病院が研究目的で肩代わりしてきた。 保険が適用されれば、自己負担は30万〜50万円程度になり、治療を受けやすくなる。 高度先進医療は、検査費や薬剤費など一般的な医療の部分を保険の対象にする制度で、3施設は昨年7月に適用を申請していた。(平成15年6月4日 朝日新聞)

救急救命士による除細動、4月1日から容認

3月26日付けで救急救命士法施行規則が改正された。救急救命士が医師の包括的指示のもとで除細動を実施できるとするもので、厚生労働省は同日、省令を公布し、都道府県に通知した。省令は4月1日から施行される。除細動は特に迅速な処置が不可欠であることから、医師の具体的な指示が必要とされる行為から除外したもの。通知では留意事項として、医師の指示なく実施を認める主旨ではないことを強調している。このため、1.事前・事後のメディカルコントロール体制の整備、2.除細動の実施する救急救命士は、救急救命士の国家試験に合格し、包括的指示下での除細動に関する講習(4時間以上)を修了していること、を必要条件としている。秋田県などで、救急救命士による違法な気管挿管が行われていた問題が発覚。これを機に、「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」が設置され、2002年12月に報告書をまとめた。検討会の結論では、除細動の包括的指示化に伴い、より安全で有効性の高い新型除細動器を救急隊に早期導入すべきであるとしている。なお、同検討会で並行して議論が進められてきた気管挿管は、2004年7月をめどに、必要な講習・実習を修了した救急救命士に限定的に認められる予定。薬剤投与については、今年内をめどに安全性などの検討を終了する予定としている。(平成15年3月31日medwave)

脚に骨芽細胞移植、低身長の少女が10センチ伸びる

名古屋大医学部整形外科教室(石黒直樹教授)の骨再生医療グループは、骨再生術(誘導骨芽細胞移植術)で、低身長の女性の身長を10センチ伸ばすことに国内で初めて成功した。将来、交通事故などで欠損した手足の骨の再生にも応用が期待される。 今回治療を受けたのは、身長が128センチ(標準身長156センチ前後)と低身長で悩んでいた愛知県在住の14歳の女性。軟骨無形成症のため、足の成長が止まっていた。 骨再生術は、患者自身の骨髄から、骨を再生させる能力のある骨芽細胞を採取した後、培養液を入れた培養皿で、3週間培養し、この骨芽細胞を用いて治療するもので、培養した骨芽細胞を両大たい骨に、2回移植した。 移植後の骨芽細胞は順調に再生し、半年間で両足の骨が10センチ伸び、身長は138センチまで伸びた。(平成15年3月13日読売新聞)

ロボット手術初の訓練施設、九州大が開設へ

医師に手術用ロボットを操作する技術を学んでもらおうと、九州大医学部付属病院が近く、トレーニングセンターを全国で初めて開設する。2000年に手術用ロボットを導入し、臨床応用を続けた成果を生かすための試み。開業医にも門戸を広げて操作ができる外科医を養成し、ロボット時代の到来に備える。 同病院では、手術用ロボット「ダビンチ」ですでに62例の手術の実績がある。同じ機能を持ち、より軽量の「ゼウス」の臨床研究も、同学部倫理委員会で承認されたばかりだ。 両ロボットは、直径5ミリの「手」2本と内視鏡でできており、「手」の先端には、電気メスや鉗子(かんし)を取り付けることができる。医師が装置の前で、患部の画像を見ながら切除、縫合をするように手を動かすと、患者の体内に挿入された「手」がそれに従って動く仕組みだ。 トレーニングセンターでは、胸・腹部外科の医師を対象に、人体モデルや動物などを使い、手術の技術を研修してもらう。 当面は1回当たり、学内外から20人を受け入れる。将来は心臓外科にも広げる考えで、センターでの成果をロボットの研究開発にも役立てるという。(平成15年3月10日読売新聞)

人工神経使い欠損部分修復に成功

事故などで失われた神経を人工神経で修復する再生手術に、奈良県立医科大学(奈良県橿原市)と京都大学の研究グループが世界で初めて成功したことが17日分かった。体のほかの神経を利用する自家移植と違って、神経を切り取らずに済む画期的な治療法になる可能性がある。 この人工神経は京大再生医科学研究所の清水慶彦教授らが開発。体内で吸収される高分子で作った網目状のチューブに、豚皮から採ったコラーゲンというたんぱく質を塗って作る。コラーゲンには細胞増殖作用があり、神経の欠損部につなぐと本来の神経が伸びて両端がつながる仕組みだ。欠損部の長さが10センチの場合まで対応できる。(平成14年6月18日 日本経済新聞)

たばこは腰痛にもいけません


たばこを吸う人ほど腰を痛めやすい、という喫煙と腰痛の因果関係を、日本大学医学部の松崎浩巳教授(整形外科)らのグループが突き止めた。背骨でクッションの役目を果たす椎間板(ついかんばん)がニコチン摂取によってつぶれやすくなることを、動物実験で確認。6日から宮崎市で始まる日本脊椎(せきつい)脊髄(せきずい)病学会で発表する。実験は、たばこを1日20本吸う人とほぼ同じ血中濃度のニコチンを、ウサギの体に4〜12週間続けて注入した後、解剖して椎間板の変化を調べた。ニコチンを長く与えたウサギほど、椎間板は弾力を失うことがわかった。弾力のない椎間板は弱い力でもつぶれやすい。つぶれた椎間板は背骨周辺の神経を刺激して腰の痛みをもたらす。これまで米国の大学の調査などで、腰痛患者の喫煙率が高いことは指摘されていた。だが、その理由は詳しくわかっていなかった。松崎教授は「椎間板の変化は、ニコチンによって血流障害が起き、コラーゲンが破壊されたためだろう。たばこへの疑惑は『灰色』から『クロ』に近づいた。腰痛に悩む人は、ぜひ禁煙を」と話している。(平成14年6月6日 朝日新聞)

ニューキノロン系抗菌薬による腱障害、高齢者で多いことが判明

フルオロキノロン系(ニューキノロン系)抗菌薬によるアキレス腱障害の発症頻度が、高齢者では若年者のおよそ3倍になる恐れがあることがわかった。英国の一般医診療データベース「UK MediPlus」の解析で判明したもの。比較的まれな副作用だが、高齢者に処方する際は、アキレス腱障害に対する一層の注意が必要となりそうだ。研究結果は、British Medical Journal(BMJ)誌6月1日号に掲載された。ニューキノロン系抗菌薬の服用者では、まれにアキレス腱炎や腱断裂などの腱障害が、副作用として生じることが知られている。しかし、実際の臨床現場でこの副作用がどの程度の頻度で生じているのかや、副作用の危険因子については明確なデータがなかった。そこで、オランダErasmus医療センター薬理疫学部門のP. D. van derLinden氏らは、英国の一般医(GP)を受診した患者の症状や処方などが記録された「UK MediPlus」に着目。このデータベースから、過去にニューキノロン系薬が処方された人を抽出し、アキレス腱障害がどの程度の頻度で起こっているかを調べた。1992年7月〜1998年6月までの6年間で、ニューキノロン系抗菌薬が処方されていたのは4万6776人。一方のアキレス腱障害は、外傷など要因が明らかなものを除くと、704人に腱炎、38人に腱断裂が起こっていた。次にvan der Linden氏らは、同じデータベースから、アキレス腱障害を生じた人と年齢、性別やニューキノロン系抗菌薬を含む服薬状況などをマッチさせた対照群1万人を抽出。症例と対照させて、どのような人でニューキノロン系抗菌薬服用によるアキレス腱障害が起こりやすいかを検討した。その結果、60歳未満の若年者では、「ニューキノロン服薬」と「アキレス腱障害」とには特に関連がみられないことが判明。一方、60歳以上の高齢者では、アキレス腱障害の発症に影響し得る諸因子(年齢、性別、受診年、受診頻度、ステロイド使用、筋骨格障害の既往、肥満の有無)で補正後も明らかな相関が認められた。服薬歴がない人と比較すると、服薬30日以内にアキレス腱障害を発症するオッズ比は3.1倍(95%信頼区間:2.0〜4.8)。特に、ステロイド薬を併用している人では、オッズ比が6.2倍(同:3.0〜12.8)となったという。ニューキノロン系抗菌薬の服薬者がアキレス腱障害を1年間に発症する頻度は、今回の検討では1000人当たり3.2人と、副作用としては極めてまれなものだ。明確な発症機序も不明だが、「1回服用しただけで突然発症したケースも報告されており、コラーゲン線維に対する直接的な毒性がある恐れもある」とvan der Linden氏らは考察。「特にステロイドを併用している高齢者にニューキノロン系抗菌薬を処方する際は、こうした副作用が起こり得ることを念頭に置くべき」と注意を喚起している。(平成14年6月3日 medwave)

ノバルティス ゾレドロネートに骨合併症発現遅延効果

ノバルティス ファーマは、ビスホスホネート製剤「ゾレドロネート」(海外での発売名・ゾメタ)が、非小細胞肺がんをはじめとする固形がん患者の骨転移による骨合併症(骨関連事象)の発現を2か月以上遅らせることがわかったと24日発表した。進行性がん患者の生存期間(中央値)は約6か月といわれていることから、同社は「治療上の大きな利益を意味する」と評価している。試験結果は、第38回米国がん治療学会(ASCO)で発表された。(平成14年5月28日 日刊薬業)

骨折早く治るかも…京大で再生促す物質の働き解明

骨の再生を促す物質の働きを、京都大医学研究科の成宮周教授らのグループが明らかにし、動物実験で効果を確認した。この物質を刺激して骨折の回復を早める薬も開発され、現在、臨床試験が行われている。国内には骨がもろくなる骨粗しょう症の患者が約1000万人もいると推定されており、その予防や治療にも応用できそうだ。この物質は、「EP4」と呼ばれるたんぱく質で、骨の形成にかかわる生理活性物質「PGE2」が結びつく四つの受容体の一つ。マウスのEP4の遺伝子を壊し、この受容体を作れなくすると、PGE2の作用による骨の形成がうまく進まないことがわかった。骨粗しょう症にしたラットに、EP4を刺激する薬を投与すると、3分の1に低下していた大腿(だいたい)骨内部の骨密度が約2か月後には、正常に戻り、骨組織の形や強度も健康な骨と変わらなくなったという。(平成14年4月28日読売新聞)