神経内科疾患


パーキンソン病に遺伝子治療

パーキンソン病患者の脳にウイルスを使って遺伝子を組み込む国内初の遺伝子治療を実施している自治医科大学で、治療を行った患者6人のうち5人の運動機能が回復した。ウイルスの安全性についても確認できたという。症例が少なく、まだ一般的な治療としては使えないが、患者の生活を大きく改善する可能性をもつ成果だ。パーキンソン病は、手足にふるえなどが生じる神経難病で、国内に約12万人の患者がいる。脳の「線条体」で神経伝達物質ドーパミンが不足することが原因と考えられており、現在はドーパミンの元になる「L―ドーパ」を投与する薬物治療が主流。だが、病気が進行するとL―ドーパからドーパミンを作る酵素が不足し、薬効が低下していくことが問題だった。そこで中野今治教授らは、2007年5月から08年9月にかけて、ドーパミンを作る酵素の遺伝子を組み込んだ特殊なウイルス約3000億個を、パーキンソン病患者6人それぞれの線条体に注入した。半年後に運動機能を調べたところ、5人に改善が見られた。体を動かせなかった患者が、日常生活に支障がないまでに回復したケースもあった。(平成21年8月14日 読売新聞)

「多発性硬化症」治療に光

手足のまひや視覚障害などが起きる神経難病「多発性硬化症」の治療のカギとなる、神経の再生不良の原因を慶応大医学部の中原仁講師らが解明、国際医学誌「ジャーナル・オブ・クリニカルインベスティゲーション」1月号に発表した。多発性硬化症は、神経を覆う「さや」が壊れ、電気信号がうまく伝わらなくなる病気。
健康な人の場合、「さや」が傷つくと、オリゴデンドロサイトという細胞が成長して、自然に傷が修復されるが、多発性硬化症では、この自然な再生がうまくできない。中原講師らが多発性硬化症の患者の脳で、オリゴデンドロサイトに成長する過程を詳しく調べたところ、その成長を妨げる「TIP30」という分子が病変部分で異常に増えていることを発見した。中原講師は「この分子を抑える薬を開発すれば治療につながる可能性がある」と話している。(平成21年1月23日 読売新聞)

アルツハイマー、さい帯血で予防 

へその緒の血液(さい帯血)を静脈に注射する手法で、アルツハイマー病の原因物質を脳内で蓄積しにくくすることに、埼玉医科大総合医療センターの森隆准教授と米国・南フロリダ大のチームが成功した。さい帯血移植は白血病などの治療に広く使われているが、高齢社会で増加しているアルツハイマー病の治療にも有効である可能性がでてきた。成果は、米医学誌「ステム・セルズ・デベロップメント」に掲載された。アルツハイマー病は、脳にアミロイドベータ(Aβ)と呼ばれるたんぱく質が異常に蓄積することで神経細胞が死に、認知障害が出る病気。そのため、Aβの蓄積を抑える薬の開発が世界中で進められている。研究チームは、生まれつきAβが蓄積しやすいマウス10匹の静脈に2〜4週間おきに人のさい帯血細胞を10万個ずつ計8回注射した。すると、さい帯血細胞を注射しなかったマウスに比べ、脳内のAβ量は約7割減少した。(平成20年4月29日 読売新聞)

ALS、新たな原因遺伝子

筋肉が次第に動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の新たな原因遺伝子を、新潟大の小野寺理准教授らが発見した。この遺伝子による「TDP43」というたんぱく質の異常が症状を引き起こすとしている。異常は約9割を占める非遺伝性ALSでもみられることから、原因究明が大幅に加速すると期待される。 ALSは遺伝性と非遺伝性があり、運動をつかさどる神経が侵され、症状が進むと自力呼吸も難しくなっていく難病。非遺伝性ALS患者の神経細胞には、TDP43というたんぱく質が蓄積することがわかっている。しかし神経細胞が侵された結果として蓄積するのか、蓄積によって神経細胞が侵されるのかは不明とされていた。小野寺准教授らは、TDP43の異常がみられる一部の遺伝性患者を研究。TDP43をつかさどる遺伝子に異常が見つかったことから、TDP43が神経細胞を侵す原因であるとした。(平成20年4月29日 毎日新聞)

パーキンソン病のiPS細胞治療、ラットで成功

新型の万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」から作り出した神経細胞を使い、パーキンソン病のラットを治療することに、米マサチューセッツ工科大のルドルフ・ヤニッシュ教授らのグループが成功した。iPS細胞が神経病の治療に使えることを初めて示した成果。研究グループは、マウスの皮膚からiPS細胞を作り、神経伝達物質のドーパミンを分泌する細胞に分化させた。パーキンソン病を人工的に発症させたラット9匹の脳に移植したところ、8匹の症状が改善、特有の異常動作がなくなった。パーキンソン病は、ドーパミン細胞の異常で手のふるえなどが起きる難病。移植した細胞がラットの脳内に定着し、ドーパミンを正常に分泌し始めたらしい。(平成20年4月8日 読売新聞)

アルツハイマー病、たんぱく集合体が原因

大阪市立大学の森啓教授と富山貴美准教授らは、代表的な認知症であるアルツハイマー病の発症の原因は、アミロイドベータと呼ばれるたんぱく質の小さな集合体が脳の中にたまることとする研究結果をまとめた。このたんぱく質が繊維状になって脳にできる老人斑が原因とする通説を覆す成果で、新薬開発につながると期待される。25日付の米神経内科学誌(電子版)に発表した。アルツハイマー病患者の脳には、しみのような老人斑がみられる。主成分のアミロイドベータは通常は分解されるが、高齢になるとうまく分解されないケースが出てくる。老人斑がたくさんできると神経細胞が破壊され、記憶障害などが起こると考えられてきた。(平成20年2月27日 日本経済新聞)

難病ALS、進行関与の細胞特定

全身の運動神経が侵される難病「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)」の進行に、神経細胞のネットワーク作りに重要とされるグリア細胞のうちの2種類が関係していることを、理化学研究所などのチームが突き止めた。治療法の開発につながる可能性がある。理研脳科学総合研究センターの山中宏二・ユニットリーダーらは、特定の細胞から遺伝型のALSに関係する遺伝子変異を取り除けるモデルマウスを作った。このマウスを使い、グリア細胞のうち、神経細胞を支え養う働きがあるアストロサイトから、変異型遺伝子を取り除いた。すると病気の進行が大幅に遅れた。また、傷んだ神経細胞を修復する働きがあるというミクログリアが病巣で神経細胞に障害を与えていることもわかった。ALSの進行を遅らせる有効な治療法として、この二つのグリア細胞を標的とした幹細胞治療法や薬剤の開発が考えられる。(平成20年2月4日 朝日新聞)

パーキンソン病、国内初の遺伝子治療

自治医大付属病院はパーキンソン病患者に国内で初めて遺伝子治療を行った。病気は脳内の神経伝達物質ドーパミンの減少で発病する。治療はドーパミンの生成を促す酵素の遺伝子をウイルスベクター(運び屋)に組み込み、脳内の線条体に注入した。薬物への依存度や副作用が低い治療が期待できるという。発病後約11年が経過した50代の男性患者に、「L−アミノ酸脱炭酸酵素」の遺伝子を注入した。この治療法は米国で6例実施され、重大な副作用は確認されていないという。同病院は今後、6カ月かけて安全性と効果を検証する。同病は手足の震えなどを引き起こす。進行すると転倒しやすくなり、最後には寝たきりになる。国内の推定患者数は約12万人。従来は「L−DOPA」と呼ばれる薬を服用してドーパミンに変換させる薬物療法が行われてきた。(平成19年5月7日 毎日新聞)

月経血から筋ジストロフィー治療へ

女性の月経血に含まれる細胞をマウスに注射し、不足すると筋ジストロフィーを引き起こすたんぱく質を作ることに、国立成育医療センター研究所が成功した。筋ジストロフィーは、筋肉を動かすジストロフィンと呼ばれるたんぱく質の不足や異常が原因で発病する難病。 同研究所生殖医療研究部は、女性の月経血に含まれる細胞に着目、ボランティアの女性から提供を受けた月経血を、試験管の中で約3週間培養したところ、筋肉細胞を作ることに成功した。続いて「月経血に含まれる細胞を注射すれば、体内で筋肉細胞に変化するのでは」と考え、ジストロフィンを先天的に作ることのできないマウスの足に、この細胞を注射した。その結果、約3週間後にマウスの筋肉細胞と注射で移植した細胞が融合し、ジストロフィンを分泌していた。梅沢部長は「月経血に含まれる細胞は子宮内膜細胞と思われ、筋肉細胞に非常になりやすい性質を持っている。できるだけ早く筋ジストロフィーの治療に利用できるように研究を進めたい」と話している。(平成19年2月6日 読売新聞)

多発性硬化症、血液検査で再発予測

国立精神・神経センターの研究グループは、免疫に関係する病気「多発性硬化症」の再発を血液検査で予測する技術を開発した。「症状はないが、再発が心配で旅行に行けない」といった患者も多かったが、新技術で患者の生活環境の改善につながりそうだ。多発性硬化症は脳や脊髄に炎症が起きる病気で、国内の患者数は1万人以上といわれる。若い人や女性に多い。症状が安定してから再発するまでの期間は1カ月―数年とばらつきがあり、予測する方法がなかった。研究グループは患者の血液中にある免疫細胞「NK細胞」の「CD11c」というたんぱく質を調べた。症状の安定した23人の患者のうち、たんぱく質の測定値が低い患者は4カ月以内の再発率が15%だったが、値が高い10人では60%が再発し、予測に応用できることが分かった。研究グループではCD11c以外の分子を利用する方法も開発中で、予測率の向上をめざす。(平成18年10月4日 日本経済新聞)

学習は午前中に、記憶妨げる物質の発生が少い

北海道大の伊藤悦朗客員研究員らが貝を使って学習の実験をした結果、記憶形成を妨げるタンパク質は午後よりも午前中の方が少ないことが分かった。伊藤研究員は「このタンパク質は人間にもある。午前中の学習は記憶形成を妨げるタンパク質を減らすのに効果が期待できる」と話している。実験では脳の神経細胞数が人間に比べ数十万分の1と単純で解析しやすいヨーロッパモノアラガイを使用。記憶形成にかかわることが知られるタンパク質が学習でどのように変化するかを調べた。実験は午前と午後に分け、それぞれ約80匹の貝を使用した。好物の砂糖水と苦手な塩化カリウムを15秒間隔で交互に10回繰り返し与えた後に砂糖水を与えた。 その結果、午前中に実験した貝のすべてが次に塩化カリウムが与えられることを学習して何も口にしなくなった。午後に実験した貝で口に入れなくなったのは7、8割だった。(平成18年9月16日 日本経済新聞)

パーキンソン病、電流刺激で症状改善

パーキンソン病の運動症状などが、強さがでたらめに変わる雑音のような微弱電流で脳を刺激することによって改善できることを、東京大の山本義春教授(教育生理学)や郭伸・助教授(神経内科学)らの研究チームが実験で確かめ、米神経学会誌8月号に発表した。神経の電気信号が、微弱電流で強められる「確率共鳴」という現象が起き、低下していた脳の情報処理機能が改善されたとみられる。薬が効かない症状も改善したといい、体への負担が少ない新治療法としての実用化が期待される。症状が重いパーキンソン病などの患者計15人の耳の後ろと額に電極を付け、微弱電流を額の方向に流して、姿勢の調節にかかわる前庭神経を丸1日刺激し続けた。その間、体に装着したセンサーで体の動きと心拍を記録した。患者には、動作が鈍かったり、動作を始めるとなかなか止まらなかったりという運動症状がある。だが、電流刺激を受けている間はこうした症状が改善することが分かった。(平成17年8月27日 日本経済新聞)

神経修復、カギ握る酵素の機能を解明

神経が伸びるのを抑えている酵素を、名古屋大の貝淵弘三教授(神経情報薬理学)らが明らかにした。動物細胞を使った実験でこの酵素の働きを妨げると神経が伸びた。 けがなどで傷ついた神経を修復するなど、新しい治療につながる成果という。 神経細胞は軸索(じくさく)と呼ばれる長い糸のような「配線」を伸ばして、別の神経細胞に刺激を伝える。大人になると軸索はなかなか伸びないので、けがなどで軸索がいったん切れると修復が難しい。貝淵さんらは軸索が伸びるのを細胞の中で制御している物質を探した。ネズミの脳の神経細胞を使った実験で、GSK3ベータという細胞内の酵素の働きを抑えると、軸索がどんどん伸びた。逆に、遺伝子操作でGSK3ベータが常に活発に働くようにすると、軸索はどうやっても伸びなくなった。 このため、GSK3ベータの働きを抑えたり活発にしたりすることで、軸索の伸びを制御できる見通しが立った。 貝淵さんは「この酵素の働きを制御する薬を開発することも可能だ。脊髄(せきずい)損傷など傷ついた神経の治療につながる成果だ」と話している。(平成17年1月14日 朝日新聞)

脳機能障害、発症から1年未満のリハビリで改善

交通事故で脳に外傷を受けるなどして思考や記憶力などの知的機能に支障をきたす「高次脳機能障害」は損傷を受けてから早い時期にリハビリに取り組むと改善する確率が高いことが、国立身体障害者リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)の調査で分かった。01〜03年に12道府県の拠点病院などで同障害により、記憶を取り戻す訓練などのリハビリを受けた173人を分析した。その結果、外傷から半年以内にリハビリを受けた41人中18人(44%)で障害がかなり改善した。外傷から6カ月〜1年以内では25人中8人(32%)で改善、1年以上になると42人中6人(14%)の改善にとどまり、早い時期のリハビリの重要さが裏付けられた。同センターは国内の同障害の患者数が現在約30万人と推定し、診断基準や具体的なリハビリ、社会復帰や生活支援のプログラムなどを策定した。今回の調査をもとに、国は今後2年間で行政としての支援策を確立させる方針だ。(平成16年5月24日 毎日新聞)

RNA、神経細胞生成促す新種発見 

産業技術総合研究所(茨城県つくば市)などの研究グループは18日、マウスの脳内にある神経幹細胞から神経細胞が作られる際に、その命令を出す信号の役割を果たしている新種のリボ核酸(RNA)を発見したと発表した。交通事故などの際の神経組織の再生医療へ応用が期待できるという。3月19日発行の米科学誌「Cell」に掲載された。同研究所と米国のソーク研究所(カリフォルニア州)は、RNAが神経幹細胞内に生まれると、神経細胞になるために必要な遺伝子の働きを抑えていたたんぱく質の性質が、働きを促すものに変わり、その結果、神経細胞が生まれることを突き止めた。これまでRNAは、DNAが持つ遺伝情報を写し取って、人の体を形成するさまざまなたんぱく質を作る働きなどがあるとされてきた。今回見つかった新種のRNAは、遺伝子のスイッチを入れる役割があり、働き自体がまったく新しいものとされている。(平成16年3月19日 毎日新聞)

たんぱく質、頭を柔軟にするものを発見

頭を子どものように柔軟にして、視覚能力を発達させるたんぱく質を、ヘンシュ貴雄・理化学研究所チームリーダー(神経回路発達研究)らがマウスを使った実験で発見し、12日付の米科学誌「サイエンス」に発表した。言語でも同様の物質が存在する可能性が高まった。ヘンシュさんは「大人になっても容易に外国語を習得できる新薬ができるかもしれない」と期待する。脳の発達過程には、とくに言語や視覚などの能力が発達する「敏感期」と呼ばれる時期がある。研究グループは、入力信号を弱めて出力する働きをもつ脳の「抑制性の神経細胞」が敏感期の出現にかかわることに着目。その神経細胞の表面にある約20種類のアンテナ役の受容体たんぱく質のうち、どれが敏感期にかかわるかを一つ一つ調べてみた。その結果、神経伝達物質「GABA」と結合する受容体たんぱく質の一つが、敏感期の出現の鍵を握ることが分かった。(平成16年3月12日 毎日新聞)

「嫌な記憶消せ」と前頭葉が指令

嫌な記憶は早く忘れ去りたい。精神分析学者フロイトが「抑圧」と呼んだこの心理現象が脳内で実際に起こり、それがどのような仕組みで行われているかを、米の研究グループが明らかにした。積極的に記憶を失う仕組みが脳には備わっているようだ。嫌な記憶で苦しむ「心の傷」の治療法開発の基礎につながる可能性がある。9日付の米科学誌「サイエンス」に発表する。 研究グループは脳活動を外側から観察できる機能的MRI(磁気共鳴画像装置)を用いた。 24人の被験者にまず一対の言葉を記憶してもらう。次にそのうちの片方を提示している時、もう一方の言葉を思い出す、または意識的に考えるのを避けるように指示した。 その結果、意識的に考えないよう記憶を抑圧している時、脳の前頭葉の1部で活動が高まり、逆に記憶を作るのに重要な「海馬」の活動は下がった。実際にこうした状態では記憶が損なわれていることも示され、記憶が形成されないように前頭葉が海馬へ指令しているらしい。研究グループは「記憶の抑圧によって記憶が永久に消えるかどうかは分からない」という。 東京大医学部の宮下保司教授(生理学)の話「1度記憶した出来事を思い出さないように抑制する脳内メカニズム解明に手掛かりを与える研究だ。より詳しい理解には多方面から解析が必要だろう」。(平成16年1月9日読売新聞)

頭大けがで「植物状態」、ケアで6割意識回復

頭に大けがをして「植物状態」になった患者でも、十分なケアをすれば約6割の人が意識を回復できることが、大阪大病院救命救急センターのまとめで分かった。約7年間続けてきた調査結果で、同様の長期研究は世界的にも珍しいという。31日、大阪市で開かれた厚生労働省研究班の会合で報告された。

96年10月以降に同センターで治療を受け、けがの1カ月後の段階で植物状態だった患者34人の経過を調べた。これまでに、21人(62%)が家族らの声に応えて体を動かしたり、会話をしたりできるまでに意識が回復した。このうち、男性2人(10代と20代)が仕事に復帰したほか、けがをしてから3年以上たってから話ができるようになった人が6人いたという。一方、亡くなったのは7人。治療時に意識状態の悪い人は、回復するのが難しい傾向があった。 調査の中心になった同センターの塩崎忠彦助手は「当初、意識回復は2割程度だと思っていたので驚いた。植物状態が続いても医療スタッフや家族はあきらめずに治療やリハビリに取り組むことに意義があることが分かった」と話す。 回復例が多くなっているのは、入院中の感染症を防ぐなど患者をケアする技術が進んだためとみられる。 かつては肺炎などで亡くなる例が多かった。

阪大によると救急医療のレベルは全国でそれほど大きな差はなく、他の救命救急センターで治療を受けた患者でも、今回と同等の回復率になる可能性がある。 今後、全国の救命救急施設が加わって調査数を増やす予定。回復した例を詳しく調べ、より効果的な治療法に結びつけたいという。(平成15年11月1日 朝日新聞)

神経成長に必要な遺伝子を発見

脳の中で、感情や記憶を生み出している神経細胞の成長に欠かせない遺伝子を、東京大学大学院の広川信隆教授(細胞生物学)らが、新たに突き止めた。 この遺伝子は神経細胞の形状を調整していて、この遺伝子の働きを止めたマウスは、生後まもなく死んでしまった。 26日付の米生物学誌「セル」に発表した。 神経細胞は、細胞の中心部から軸索(じくさく)という細長いさやを伸ばし、その先端から他の神経細胞に情報を伝えている。 今回解析した遺伝子(KIF2A)は細胞の中心部で作られるたんぱく質を軸索末端に運ぶ役目を持つと考えられてきた。 広川教授らが、この遺伝子の働きを止めたマウスを作り出したところ、不必要な軸索が多数伸びた特異な構造を取ることが分かった。 神経細胞には本来、効率的に軸索を伸ばす能力があるが、これが阻害されたと見られる。 この遺伝子は、たんぱく質の「運び屋」として働くだけでなく、軸索の先端で不必要な軸索を分解し、神経細胞同士の回路作りを担っているらしい。 この遺伝子(KIF2A)の働きが弱いことが原因で発症する神経疾患もあるとみられ、広川教授らは今後の研究で、病気との関連などを調べる計画。(平成15年7月29日読売新聞)

神経繊維の膜「ミエリン」形成仕組み初解明

国内に1万人近い患者がいる神経難病の多発性硬化症などで異常が起きる、神経繊維の膜「ミエリン」ができる仕組みを、慶応大医学部の中原仁医師(解剖学)らが世界で初めて解明、2日発売の米専門誌「デベロプメンタル セル」に掲載された。 ミエリンの形成機構が分かったことで、神経難病をはじめ、精神疾患など有効な治療法が欠けていた病気の治療へ道を開くと期待される。 多発性硬化症は、神経を覆うミエリンが原因不明で壊れてしまうために神経の障害が生じ、手足のまひや、言語障害、知覚障害、視神経炎による失明といった重い障害が起きる。 30歳前後の女性に多発、欧米には100万人以上の患者がいる。 これまで、ミエリンができる過程には、脳に固有の物質が働いていると考えられ、その物質の特定が注目されていた。ところが、中原医師と東京都老人総合研究所のグループは、マウスを用いた研究によって、ミエリン形成の引き金となっているのは、脳固有の物質ではなく、白血球などの免疫細胞が共通に持っている受容体(免疫グロブリンFc受容体)であることを突き止めた。この受容体は神経幹細胞がミエリンを作る細胞(オリゴデンドロサイト)へと分化する過程で働いている。 今後の研究で、この引き金となる受容体を有効に働かせることができれば、残された細胞からミエリンを再生する治療法につながる可能性がある。 三浦正幸東大大学院薬学系(遺伝学)教授は「脳内での免疫由来物質の働きを明らかにした世界的な発見」と評価する。 また多発性硬化症治療が専門の山村隆国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部長は、「実際の治療に応用できるまでには、まだ多くの段階が必要だが、今後の研究に期待したい」と話す。(平成15年6月3日 読売新聞)

右脳と左脳の違いたんぱく質に起因、分子レベルで解明

右脳と左脳とは機能に違いがあるが、こうした左右差をもたらしていると見られるたんぱく質を、九州大大学院の伊藤功・助教授らの研究チームがマウスを使った実験で見つけ出した。 右脳と左脳の違いを分子レベルで突き止めたのは世界で初めてで、右脳と左脳の謎解明に向けた足がかりになるという。この成果は9日付の米科学誌サイエンスに掲載される。 左脳は言語処理や論理的な思考をつかさどり、右脳は直感的な状況把握に優れているが、なぜこうした違いが生まれるのかは、ほとんどわかっていない。 研究チームは、神経細胞がほかの神経細胞から信号を受け取る時に、受け皿の役目を果たす細胞表面のたんぱく質(NR2B)に着目。 海馬という部分を調べたところ、右脳と左脳では神経細胞にあるNR2Bの分布に明らかな違いがあった。 このたんぱく質は、記憶の形成に欠かせないと考えられており、分布の違いが左右の脳で記憶する情報の違いに結びついていると見られる。 NR2Bたんぱく質が多い部分は、記憶が形成されやすい性質を持つことも確認できた。 言語処理、論理的思考などの様々な左右差を、NR2Bで説明できるのかは今後の研究課題。 伊藤助教授は「今回の発見を手がかりに、左脳と右脳の違いにどのような仕組みや意味があるのか、分子レベルで迫っていきたい」という。(平成15年5月9日読売新聞)

パーキンソン病に新治療法

手足の震えなどの運動障害が起きるパーキンソン病の症状が、神経細胞の成長を促す特殊な物質を脳に注入することで、大幅に改善することを英フレンチェイ病院などの研究チームが突き止めた。 この病気には根本的な治療法がなく、英国では「極めて有望な成果」と報じられた。 研究チームは、患者5人の腹部にポンプを埋め込み、脳の細胞が作り出す生理活性物質の一種で、神経細胞の成長にかかわる「GDNF」を継続的に脳に注入した。 パーキンソン病は、脳内で神経の信号を伝える物質ドーパミンを分泌する神経細胞が死滅することが原因とされる。 この治療を受けた5人全員が、1年半後に脳内のドーパミン量が増え、症状が改善した。 ほとんど歩けなかった患者が毎日散歩できるようになった例もあるという。GDNFが神経細胞を保護したらしい。重い副作用はなかった。 この病気は進行すると最後は寝たきりになる。 ドーパミンの元になる薬を補充する治療法が一般的だが、効果が次第に低下する欠点がある。 日本の発病率は約1000人に1人。 成果は米医学誌ネイチャー・メディシン(インターネット版)に発表された。(平成15年4月22日読売新聞)


脳神経伝達援助のたんぱく質発見

脳の神経細胞で刺激が伝わる際、スイッチを入れる物質を助けるたんぱく質を、大阪大学産業科学研究所の黒田俊一・助教授らが発見した。脳を活発にしたり、興奮を抑えたりする薬の開発につながるという。米専門誌ネイチャー・ニューロサイエンスのオンライン版で31日、発表される。 脳の神経細胞では、PKCという物質がスイッチ役になって、刺激の伝達をスタートさせる。 黒田助教授らは、もともと心筋細胞にあるENHというたんぱく質の遺伝子とPKC遺伝子をラットの脳神経細胞に人工的に組み込んだ。その結果、PKC遺伝子だけを組み込んだ脳神経細胞より、刺激を伝える反応速度が2倍速くなり、ENHが神経の伝達を活発にすることがわかった。 黒田助教授は「脳神経を制御する基本的な仕組みがわかり、創薬などに生かせると思う」と話している。(平成15年3月31日朝日新聞)

脳内のセロトニン産生、冬季にやはり減少

健常ボランティア101人を対象とした研究で、日照時間が減る冬季には、脳内のセロトニンの代謝回転(ターンオーバー)速度が落ちていることがわかった。セロトニンは、冬になるとうつ状態になる「冬季うつ病」と深い関係があるとされるが、剖検例以外で脳内のセロトニン量を直接評価できた研究は初めて。研究結果は、Lancet誌12月7日号に掲載された。セロトニンは神経伝達物質の一つで、気分や意欲などの情動に関与しており、これが減少するとうつ病やうつ状態になるとされる。「冬季うつ病」患者には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がよく効き、かつ明るい光を一定時間浴びる光線療法でも気分が改善することから、「日照時間が短くなると、脳内のセロトニン量が減り、うつ状態を引き起こす」との発症機序が考えられてきた。しかし、こうした患者の脳脊髄液などを用いた検討では、セロトニンだけでなく、ドーパミンやノルエピネフリンなど他の神経伝達物質に関しても、正常者と代謝物量が変わらない。つまり、発症機序モデルの根幹を成す「セロトニン量の季節性減少」については、確たる証拠が得られていなかった。オーストラリアBaker心臓研究所のG. W. Lambert氏らは、過去の研究で季節変動を見出せなかったのは、脳以外の部位で作られたセロトニンの影響を排除できなかったからではと考察。脳内セロトニン量を最も直接的に反映すると考えられる内頚静脈から採血し、セロトニンやその代謝物量と、採血の季節や日照時間との関連を評価した。研究に協力したのは、健康でうつ病などに罹患していない、18〜79歳のボランティア男性101人。採血は、一晩絶食した翌朝に行った。セロトニン量に影響を与え得る、喫煙やカフェイン含有飲料の摂取は、採血12時間前から控えてもらった。その結果、脳内でのセロトニン代謝回転速度は、冬季に最も遅くなることが判明。脳内セロトニン代謝回転速度と関連が認められたのは、気候を構成する要素のうち日照時間のみで、気温や気圧など他の要因との相関はなかった。一方、他の部位で産生されるセロトニン量(内頚動脈血中のセロトニン代謝物量で評価)や、セロトニン以外の神経伝達物質には、季節変動は認められなかった。以上から研究グループは、冬季うつ病患者を対象とした検討を加える必要はあるものの、「今回の研究結果は、太陽の光線量が脳のセロトニン産生活性に影響し、季節による気分の変動や季節性の疾患に関連していることを示唆している」と結論付けた。なお、興味深いことに、脳内セロトニン代謝回転速度は採血を行った当日の日照時間と強い相関があったが、前日の日照時間とは相関がみられなかった。この点について、研究グループは「採血当日の朝の光の強さで、セロトニン代謝回転速度がすばやく調節されるのでは」とみている。(平成14年12月11日medwave)

脳の神経細胞死滅させる遺伝子発見

脳の神経細胞を死滅させたり、成長させたりするのに関係する遺伝子を、東京大学医科学研究所の荒川博文助教授(腫瘍医学)の研究グループが見つけた。3日まで東京で開かれた日本癌(がん)学会で発表した。脳腫瘍やアルツハイマー、パーキンソン病の治療に応用が期待できるという。 見つけたのは「p53RDL1」という遺伝子。癌を抑制する遺伝子のp53から指令を受け、神経細胞を自殺(アポトーシス)させる役割を持つ。ヒトの脳にできた癌細胞を取り出して培養し、この遺伝子を組み込んだところ、癌細胞が死滅した。 p53遺伝子を使った遺伝子治療は臨床研究として実際に患者に施されているが、思うように癌細胞をやっつけられていない。研究グループでは、p53RDL1を体内に組み込めば脳の癌細胞が増殖するのを抑えられるとみている。 また、この遺伝子がつくるたんぱく質が別のあるたんぱく質と結びつくと、アポトーシスが抑制され、神経細胞が逆に成長することも突き止めた。神経細胞が死滅するアルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬の開発につながると期待される。 荒川助教授は「マウスで実験し、効果と安全性が確かめられれば、ヒトへの臨床応用に取り組みたい」と話している。 国立がんセンター研究所の田矢洋一・放射線研究部長(分子腫瘍学)の話 これまで治療法がなかった脳腫瘍などの新たな治療になる可能性がある。従来にない手法で興味深い。(平成14年10月4日 朝日新聞)

知ってるのに思い出せない」 東大チームが脳の働き解明

「知っているのに、思い出せない」。日常生活で経験するこんな脳の働きをつかさどる場所を特定したとする論文を東京大の桔梗英幸研究員、宮下保司教授らが26日発行の米専門誌ニューロンで発表する。 ヒトは何かを思い出すことができなくても、その答えが自分の記憶の中にあるかどうかは分かる。これは記憶の「在庫状況」を管理しているメタメモリーと呼ばれる脳の働きがあるためだと考えられていた。東大チームはメタメモリーを担う脳の場所が前頭葉下部にあることを見つけた。 チームは、東大の学生ら15人を対象に「エベレストに最初に登った人は誰?」など知ってそうな質問を用意。思い出せない人に、ヒントや時間があれば「絶対思い出せる」「たぶん思い出す」「絶対知らない」の3段階で自己評価してもらった。 この間の脳の働きを機能的核磁気共鳴断層撮影(fMRI)で調べたところ、「絶対思い出せる」と自己評価した場合ほど強く活動する場所が、前頭葉下部にあった。答えがわかってすぐに解答できる場合は、この場所はほとんど働かなかった。(平成14年9月26日 朝日新聞)

幽体離脱!

右脳のある部分に電気刺激を与えると、意識だけが肉体の外に出たように感じる「幽体離脱」を引き起こすことを、スイスのジュネーブ、ローザンヌ両大学病院の研究チームが発見した。19日発行の英科学誌ネイチャーに発表した。 チームは、43歳の女性のてんかん患者の治療のため、発作の原因となっている部位を特定しようと脳に電極を差し込み、電気刺激を与える実験をした。 右側頭葉にある聴覚野の後ろを刺激すると、患者は「ベッドの中に沈んでいるような」感覚を訴えた。刺激を強くすると、「横たわっている自分の下半身を上から見ている」「ベッドの上2メートルほどのところに浮かんでいるような感覚がする」と話した。 腕を伸ばしていた場合には、左腕だけが短くなったように感じたという。 こうした結果から、チームでは、平衡感覚と自分の体の部位をイメージする感覚を脳でうまく処理できない時に、「幽体離脱」を感じるようだとしている。(平成14年9月19日 読売新聞)

脳梗塞後も戻る記憶や学習機能 神経細胞4割再生

脳梗塞(こうそく)で神経細胞が死んだ後、神経のもとである前駆細胞を神経細胞に分化させ、学習機能も回復させることに、東大の中福雅人助教授、大学院生の中冨浩文さんらのグループがネズミで成功した。23日発行の米専門誌セルで発表する。神経細胞は再生しないとされてきたが、近年、脳に神経前駆細胞があることが知られ、再生力の潜在性が注目されていた。病後に機能まで回復させたのは初めて。 神経前駆細胞は、まだ分裂増殖する能力を維持しており、さまざまなタイプの神経細胞に分化していく。 ネズミの脳への血流を一時的に止めて人工脳梗塞の状態にすると、「海馬」の神経細胞が死ぬ。同グループは、血流停止の2〜5日後、脳内に、前駆細胞に増殖を促すと考えられる成長因子(たんぱく質)を注入した。 すると4週間後、海馬の神経細胞が、失われた数の約4割まで回復していた。死滅した部位と別の場所の前駆細胞が神経細胞に分化し、海馬まで移動したうえ、そこで新たに神経回路も形成していた。 海馬は記憶や学習に重要。その神経細胞が死んだネズミは、水槽の中の足場を覚える能力が落ちるが、この「治療」後にはかなり回復する。 同グループの桐野高明・東大教授は「自分の脳細胞を再生させ、機能まで回復させられる可能性を示せた」と話す。 脳細胞が損傷された場合の治療法としては、胎児の細胞や胚(はい)性幹(ES)細胞から神経細胞を分化させて移植する方法も研究されているが、倫理上や拒絶反応などの課題がある。(平成14年8月23日 読売新聞)

簡単な計算でお年寄りの脳が活性化

簡単な計算などを続けると、お年寄りの脳の働きが高まる――東北大の川島隆太教授(脳科学)らのグループは3日、こんな研究結果を、仙台市で開かれている脳に関する国際会議で発表した。川島さんらは、福岡県内の特別養護老人ホームに入っている痴呆(ちほう)のお年寄りら44人(70〜98歳)の協力を得て研究。1日20分間、「2+3」といった簡単な足し算などの計算をしたり、絵本を読んだりする学習を半年以上続けてもらった。この間、思考や行動・情動の抑制など高次な活動にかかわる前頭葉の機能を検査したところ、3カ月後に結果がよくなり、介護度も改善する傾向が見られたという。学習が週に2日以下では半年後にやや結果が下がったものの、週5日以上ではさらによくなった。川島さんは「読み書き計算で脳が活性化し、それが直接、機能の改善につながっているのではないか」と話している。(平成14年6月3日 朝日新聞)

体外でも時刻む!…体内時計をつかさどる脳内細胞

生命のリズムを作る体内時計。その働きを担っている脳内の細胞が体外に取り出してもしっかりと時を刻んでいることを、神戸大学の岡村均教授と山口瞬助教授らのグループが確認した。生体には不可欠なホルモン量などを調節する体内時計の仕組みの解明に結びつくとしている。 体内時計は、大脳の下にある「視交叉(しこうさ)上(じょう)核(かく)」と呼ばれる部分が、1日周期で活動が変化することで生まれる。研究チームは、このリズムを作り出す遺伝子に、ホタルの遺伝子を組み込んで、細胞が刻む「時間」を発光量でとらえる手法を確立。マウスの視交叉上核の細胞を体外に取り出し、4か月以上も24時間周期のリズムを取っていることを、超高感度のカメラで突き止めた。(平成14年5月19日 読売新聞)

脳神経内の情報の運転手役発見 記憶の仕組み解明も

ヒトの記憶や感情をになう脳内の神経細胞で、情報を受けたり送ったりする物質を運ぶ運転手役のたんぱく質を東大の廣川信隆教授、瀬藤光利助手らのグループが解明した。将来は、物忘れの仕組みを明らかにすることも期待できるという。神経細胞は、細胞の中心部から軸索という細長い腕を1本伸ばし、次の神経細胞に情報を伝える。情報を受け取る部分は樹状突起と呼ばれ、多数ある。情報の受け渡しに必要な物質(荷物に相当)を運ぶ車役のたんぱく質は同じで、振り分けの仕組みが分からなかった。研究チームは、車役にGRIP1というたんぱく質がくっつくと樹状突起に向かい、JSAP1がつくと軸索に向かうことを突き止めた。この2種類のたんぱく質はいわば、車の運転手役を務め、それぞれの場所に荷物を運んでいた。廣川教授は「全くわからなかった振り分けの仕組みの一つを解明した。年をとると物忘れがひどくなることや記憶の仕組みなど、脳の機能の解明にもつなげたい」と話している。(平成14年4月28日 朝日新聞)

ALS患者のたん吸引、ヘルパーに容認

全身の筋肉が動かなくなる難病のALS(筋委縮性側索硬化症)患者について厚生労働省の検討会は13日、患者のたんの吸引を医療従事者や家族以外にも「当面やむをえない措置」として例外的に認める報告書をまとめた。 たんの吸引は家族の負担が大きかったが、ホームヘルパーでも実施できるようになる。 ALS患者は多くが人工呼吸器を装着しており、24時間介護のもと、平均して30分に1度の間隔でたんの吸引が必要。 同省は家族による吸引は容認していたが、ヘルパーに対しては「医師法で規定された医療行為にあたる」として認めていなかった。 報告書では「吸引は、その危険性を考慮すれば、医師または看護職員が行うことが原則」としながら、家族の負担軽減が求められていることを重視。「今回の措置は在宅ALS患者の療養環境の現状にかんがみ、当面はやむをえない措置として実施」として、ホームヘルパー業務としては認めなかった。(平成15年5月14日日本経済新聞)


ALS治療、メチルコバラミンの大量投与で鈍化 

全身の筋肉が次第に動かなくなる難病、筋委縮性側索硬化症(ALS)の進行を、ビタミンB12に似た物質・メチルコバラミンの大量投与で遅らせられる可能性があることが分かり、徳島大医学部の梶龍兒教授らのグループが13日、発表した。 副作用も小さいといい、同グループは、今後も研究を重ね、薬としての実用化を目指す。ALSは発症後2、3年で呼吸筋がまひし死亡するか、人工呼吸器の使用を余儀なくされる。 多くが40歳以上で発症、全国に患者約5000人がいる。運動神経細胞間の情報伝達物質・グルタミン酸の過剰分泌が原因の一つと指摘されている。 同グループは95年3月〜02年10月、グルタミン酸の毒性を軽減するメチルコバラミンを、患者18人に週2回(1回当たり50ミリグラム)、筋肉注射で投与。 非投与の患者16人と比較した。 この結果、非投与の患者全員が観察開始から32カ月以内に死亡または、人工呼吸器を使わなければならなかったが、投与した患者は観察期限の02年10月を過ぎても11人が人工呼吸器なしで生存できた。 同グループによると、ALSの唯一の薬、リルゾールは吐き気やむかつきなど副作用が大きい。これに対し、メチルコバラミンは元々ビタミンB12と近い物質のため、副作用は軽度の肝機能障害や皮膚の発しんに限られている。(平成15年5月14日毎日新聞)