耳鼻科疾患


突発性難聴にゼラチン療法

耳が突然聞こえなくなる「突発性難聴」に対して、京都大の伊藤壽一教授と田畑泰彦教授らのグループが、薬を特殊なゼラチンに混ぜ、鼓膜の奥にある内耳にくっつける新しい治療法を開発、動物実験で効果を確かめた。 内耳は手術が難しく、服薬や点滴では薬がほとんど届かないが、新治療法ではゼラチンから薬が少しずつ溶け出す。突発性難聴は毎年3万5000人が受診しているとされ、多くは、何らかの原因で音を電気信号に変えて脳に伝える内耳の神経機能が低下していると考えられる。ステロイドを大量点滴する治療法があるが、ステロイドが使えなかったり、効かなかったりすることも多い。これまで内耳の神経細胞を活性化させる薬が見つかっても、患部に届ける方法がなく、有効な治療法は確立していない。そこでグループでは、田畑教授らが開発した体の中で少しずつ溶けて薬を放出する特殊なゼラチンを利用。ゼラチンに、神経細胞の成長を促す働きのあるメカセルミンという薬を混ぜ、小さな塊を人工的に難聴を起こしたラットとモルモットの内耳の膜にくっつけた。すると2週間後には大部分のラットとモルモットで、聴力が正常に近い状態に戻り、内耳の神経細胞が働きを取り戻していた。ゼラチンをくっつけるのは中耳と内耳の境にある膜で、鼓膜に小さな穴を開けて通す。伊藤教授は「内視鏡を使えば安全に治療が可能」と話している(平成18年9月13日 朝日新聞)

小児のいびきは多動発症の予測因子

いびきをかく小児はそうでない小児と比べて、注意力や多動(活動過剰)に関する問題を来す可能性がはるかに高いことが知られている。米ミシガン大学睡眠障害センター所長のRonald D. Chervin博士は「両者の関係はきわめて強く、因果関係があると言える」とした上で、いびきや他の睡眠障害は将来的な多動の発症あるいは悪化を占う強い危険因子となるとの見解を示した。 ミシガン大学およびワシントン大学の研究者らは、4年前に実施した小児科領域の調査対象とした866例から、現在6〜17歳の小児229例を抽出し評価した。このうち、多動であると考えられたのは30例であった。4年前の調査でいびきが日常的に認められた小児は、今回の調査までに多動を来していた確率が約4倍であった。さらに、4年前の調査時での、いびきの習慣や大きないびき、眠気または睡眠を損なう呼吸の有無によって多動が予測されることがわかった。 ただし、どのようにしていびきが多動を引き起こすかについてはまだ明らかではない。ジョンズ・ホプキンズ大学小児センター小児睡眠障害プログラムのAnnHalbower博士は「証拠はまだ得られていないが、少なくともいびきと多動との間に因果関係が強く示唆される」とした上で、何らかの基礎疾患によっていびきと多動の両者が生じるということも考えられると指摘する。 いびきは、学校生活に支障を来すなどさまざまな問題との関係が明らかにされている。Chervin博士は、保護者が睡眠の問題を深刻に受け止め、症状の詳細を知るため小児専門医を受診するよう勧めている。 現在、いびきの治療として最も頻繁に実施されるのは扁桃(へんとう)およびアデノイドの切除である。(平成17年7月8日 日本経済新聞)

咽頭がん格差、薬の選択で2倍以上 

のどの周辺にできる「咽頭(いんとう)がん」について、使われる抗がん剤の組み合わせが45種類もあるなど治療方針が病院によってばらばらで、方針次第で3年生存率に2倍以上の差がつくことが、厚生労働省の研究班の調査で分かった。結果をまとめた報告書は98年と00年に発表されたが、その後も治療方針は統一されていないという。 研究班(班長=斉川雅久・国立がんセンター東病院頭頚(とうけい)科医長)は、全国のがんセンターや大学病院など主要な15病院について、咽頭の一部にできた「上咽頭がん」で85〜95年に最初の治療を受けた患者396人のデータを調べた。その結果、病院によって患者の3年生存率は約30%から約65%まで差があった。上咽頭がんは手術しても再発しやすいため、調査では患者の97%が放射線や、数種類の抗がん剤で治療されていた。しかし使われていた抗がん剤の組み合わせは、15病院で計45種類に及び、放射線だけで治療する病院もあった。世界的に標準とされる抗がん剤の組み合わせ(シスプラチンと5FU)とそれ以外では、死亡率が約1.7倍違うことも分かった。これとは別に、手術が治療の主な中心になる「下咽頭がん」について、各地のがんセンターや大学病院など12病院から、85〜94年に最初の治療を受けた患者893人のデータを分析した。こちらも3年生存率は病院によって約30%から60%以上まで差があった。対症療法にとどまり、がんを取り切る手術(根治手術)など根本的な治療を受けなかった患者の割合を調べると、病院によって5%程度から、40%近くまで違いがあった。しかも「対症療法だけ」の割合が高くなるほど、生存率が低かった。このため研究班は「根治手術ができると判断する基準が病院によって違う。生存率の低い病院は、本来は根治手術などができるのに対症療法しかしていない場合が多い」と結論づけた。斉川医長は「これまでは各病院が、自分たちの治療方法を最善と信じてきた。今後は各病院が協力して治療方針を統一する努力が必要だ」と話している。(平成16年4月27日 毎日新聞)

花粉症にDNAワクチン、3回投与で数年間効果

スギ花粉症のアレルゲンを作る遺伝子を注射して完治を目指すDNAワクチンを、国立感染症研究所の阪口雅弘主任研究官らが21日までに開発した。犬の実験で、3回の投与で症状を数年間抑えることに成功した。DNAワクチンは、重い病気に限って臨床研究が認められている遺伝子治療の一種。人間の花粉症への利用が今すぐ認められる見通しはないが、阪口主任研究官は「まずはペット用に実用化したい」と話している。 

花粉症は花粉に含まれるアレルゲンに刺激された免疫細胞が、アレルギー反応を引き起こす抗体を作るのが原因。同主任研究官らは、この細胞とは別タイプの免疫細胞ができやすくなる塩基配列を持つ環状DNAに、アレルゲンの遺伝子を組み込んでワクチンにした。マウスに3週間、週1回ずつ注射すると、別タイプの免疫細胞が優勢になり、花粉に刺激された時にできる抗体の量が低下。さらに精製したアレルゲン遺伝子を使うと、原因抗体はワクチンを投与していないマウスの約4分の1に減少した。

花粉症で皮膚炎になった犬に使うと、月1回、3カ月の投与で数年間症状が出なかった。スギ花粉症に悩むのは、人間だけではない。犬は皮膚炎やかゆみを起こし、猫やニホンザルは鼻水、くしゃみなど、人と同じような症状が出る。同主任研究官は「花粉症のペットを心配する飼い主に、ワクチンの需要は高いと思う」と話す。花粉症の完治を目指す療法には、アレルゲンそのものを少量注射する減感作療法もある。しかし、治療に数年かかることが多い。DNAワクチンは、注射した遺伝子が体内で長い間アレルゲンを作り続けるので、短期間の投与で効果が望めるという。

■DNAワクチン
通常のワクチンは、不活性化した病原体やその断片などを投与し、体の免疫の働きを利用して病気を予防したり治療したりする。DNAワクチンは、病原体などの遺伝子の一部を投与する方式。通常のワクチンより、強力な効き目が期待できるとされる。米国では、ブタクサ花粉症のDNAワクチンの臨床試験が始まっている。(平成16年2月22日 日本経済新聞)

睡眠時無呼吸症候群、症状の計測容易に

居眠り運転事故などの原因として問題となっている睡眠時無呼吸症候群の診断に有効な簡易計測システムの開発が活発だ。産業技術総合研究所は圧力センサーを備えたベッドを開発、何も装着しないでベッドで眠るだけで観察可能。法政大学や慶応義塾大学も同様のシステムをそれぞれ開発。来年度中にも相次いで実用化されそうだ。 産総研の西田佳史研究員が開発したシステムは、1人用ベッドの下に200個の圧力センサーを敷いたのが特徴。ベッド上で眠る人の体の振動から症状を測定する。健康な人の場合は規則正しく振動するが、無呼吸症候群の患者は呼吸が止まった後に大きく息を吸い込むため、大きな振動が起こる。 40例以上の実験で、ほぼ100%診断できた。(平成15年12月26日 日本経済新聞)

難聴遺伝子を発見

先天的な難聴の原因となる遺伝子を、東大医科学研究所の中村祐輔教授と阿部聡子研究員らが突き止めた。 新たに開発した手法で、疑わしい遺伝子を約50種類見つけ出し、このうち1つが実際に難聴の原因であることを確認した。この遺伝子(CRYM)に変異があると、音を聞き分ける内耳の中で音を伝えるリンパ液の圧力調整に異常が出ると見られる。 日常生活に支障を来すような難聴の患者は1000人に1人といわれ、その半数は遺伝的な原因があるとされる。 研究チームは、内耳で働く遺伝子に変異が起きると難聴が起こると推測。約2万3000個の遺伝子の働きを臓器ごとに比べ、肺や心臓などほかの組織よりも内耳で活発に働く遺伝子を約50種類見つけた。 このうち際立って働きの強いCRYMを、難聴患者で実際に調べたところ、この変異を持っていた。 中村教授は「ほかの疑わしい遺伝子も機能を解明していけば、難聴の治療に道が開ける」としている。(平成15年2月4日 読売新聞)