睡眠について


寝る子は育つ、睡眠中も脳は学習

成績を上げるためにはよく寝ること。そんな教訓が得られそうな実験結果を、渡辺武郎・米ボストン大教授らのグループが発表した。学習中に活動する脳の領域が睡眠中にも活動しており、その活動が活発なほど学習効果が高い傾向があることを、機能的磁気共鳴画像(fMRI)で脳の活動の様子を調べて確認した。学習後に寝るほうが学習効果が高まるといわれているが、その仕組みはよくわかっていない。そこで、グループは、7人の被験者に、複雑な画像を素早く識別する訓練をしてもらった。訓練中は、脳の視覚情報を処理する特定の場所が活動する。学習した後、fMRIの中で寝てもらったところ、その場所が活発に活動することがわかった。寝ないで同じ訓練をすると識別の正答率は上がらなかったが、寝た後は正答率が上がった。睡眠中の活動が活発な人ほど、睡眠後の正答率が上がる傾向があることも明らかになった。睡眠中に学習した脳活動を繰り返して、脳の中に学習内容を「固定」していると推定されるという。「睡眠によって疲れがとれるから学習効果が高まるように見えるという考えもあったが、脳が活動して、学習を固定化していることがわかった」と渡辺教授は話している。(平成21年8月27日 朝日新聞)

高脂血症治療薬に早起き効果

高脂血症の治療薬「フィブレート製剤」に、睡眠のリズムなどを刻む「体内時計」を調節する働きがあることを、産業技術総合研究所生物時計研究グループが突き止めた。睡眠障害を持つマウスにこの薬を飲ませたところ、いつもより早起きし、正常マウスと同じように活動することがわかった。研究チームは今後、この治療薬を飲んでいる患者に早起きの傾向があるか調べ、睡眠障害の治療薬の開発につなげていきたいとしている。 研究チームは、薬を飲む時間帯と効き方との関係をマウスを使って調べた際、薬を飲むマウスが早起きになっていることに気付いた。 薬を含むエサを食べたマウスは3時間ほど活動する時間帯が早くなり、起きる時間が遅くなる「睡眠相後退症候群」の症状を持つマウスに与えたところ、症状が改善したという。薬が体内時計を調節する仕組みは不明だが、同研究グループの大石勝隆・主任研究員は「時差ぼけの改善にも効果が期待できる」としている。(平成19年4月26日 読売新聞)

胃酸の逆流が不眠症の原因に

米国の多くの不眠症患者は、その原因として胃食道逆流症(GERD)を疑われることが、医学誌「Alimentary Pharmacology and Therapeutics」9月号に掲載された新たな研究で明らかにされた。米ジェファーソン大学医学部(フィラデルフィア)の研究者らは、医学的な原因を特定することができない睡眠障害がみられる患者16例を対象として、睡眠の状態を観察した。全例とも、過去にGERDと診断されたことも治療を受けたこともなかった。このうち8例には日中に酸逆流の症状が認められ、残る8例には何ら認められなかった。症状のみられる患者に2〜3週間にわたって、酸分泌を抑制する薬剤であるプロトンポンプ阻害薬オメプラゾール20mgを1日2回服用させた。その結果、重度の睡眠障害に酸逆流が伴う患者のうち、6例に著しい治療効果が認められ、残る2例では効果は認められたものの、その程度はそれほど高くなった。同大内科教授で消化器病学部長のAnthony DiMarino博士は、「これまでGERDと診断されたことのない患者でも、睡眠障害と酸逆流との間に何らかの関係が存在する可能性が示された。 この結果に基づいて、安眠を得るために睡眠薬を服用する前に、家庭医や胃腸病専門医を受診してGERDかどうかの診断を仰ぐ必要がある」と述べている。(平成17年10月21日 日本経済新聞)

睡眠不足で仕事の能力低下、薬で回復

睡眠不足のために落ちた仕事の処理能力を薬で回復させる実験にサルで成功したと、米ウェークフォレスト大(ノースカロライナ州)などのチームが25日までに米科学誌に発表した。人で効果が確認できれば、パイロットや医療従事者ら、睡眠不足でも高い処理能力が求められる人の助けになりそうだという。研究は兵士の睡眠不足に関心が強い米国防総省の助成を受けた。カリフォルニア州のコーテックス製薬が開発中の「アンパカインCX717」という薬剤。記憶などにかかわる神経伝達物質グルタミン酸の働きを脳内で長持ちさせる働きがあるとされる。チームはアカゲザルに、最初に1枚の絵を見せ、後で複数の絵の中から同じものを選ばせるテストをした。徹夜させて寝不足の状態に置くと間違いが増え、時間もかかったが、薬を注射すると成績は平常時並みに。テスト中に脳の活動を調べると、寝不足時は脳の特定の場所の活動が低下したが、薬を与えると平常時のパターンに戻った。(平成17年8月26日 日本経済新聞)

シャンプーを変えると、ぐっすり眠れる

不眠に悩む人が増えている。 そんな人にとって、興味深い研究成果が報告された。夜、入浴時に、いい香りやいいデザインのシャンプーを使うと、その晩はよく眠れる、というもの。この実験を行ったのは、杏林大学医学部精神神経科教授の古賀良彦氏ら。19〜24歳の8人の女性を対象に、1日は香りが良く、泡立ちが良く、ボトルデザインも美しい「快感刺激系(嗅覚、触感、視覚を刺激する)」のシャンプーとコンディショナーを、もう1日は快感刺激系の要素を含まないシャンプーとコンディショナー(対照品)を使用して洗髪してもらい、その夜の睡眠中の脳波をポリソムノグラフという装置で測定した。入浴は午後8時。 その際、シャンプーは1分30秒、トリートメントは1分間行った。午後11時にベッドに入ってもらい、午前7時に起こした。この結果、「快感刺激系」のヘアケア剤を使ったときは、対照品のときに比べてベッドに入ってから入眠までの時間が8分間早まり、睡眠中の1時間当たりの中途覚醒の回数は8.8回少なかった。睡眠効率(就寝時間に対する睡眠時間の割合)は、「快感刺激系」は97.7%で、対照品は80.8%と、「快感刺激系」でシャンプーすると睡眠効率が高かった。このことから、シャンプーやトリートメントを「快感刺激系」に変えるだけで、眠りが改善する可能性がある。ただし、自分が好まない香りやデザインだと、睡眠改善効果は得られないだろうという。というのも、シャンプー後に実施した心理評価で、「爽快感」「リフレッシュ感」「うっとり感」といった項目を高く評価した人は睡眠効率が改善し、そうした項目に変化がなかった人は、睡眠効率が改善しなかったという。この結果は、5月に開催される日本睡眠環境学会と、6月に開催される日本睡眠学会で発表する予定という。 シャンプーをすると、頭皮へのマッサージ効果で血流がアップするため、リフレッシュ効果も期待できる。お気に入りの香りやデザインのシャンプーを見つけて、さっそく試してみてはいかが。(平成17年4月28日 medwave)

睡眠不足は肥満のもと 米研究「危険、最大7割増も」

睡眠時間が短い人ほど太る傾向が強く、最大で73%も肥満の危険が増す。そんな研究結果を米コロンビア大のチームがまとめ、18日まで開かれていた北米肥満学会で発表した。米政府の健康栄養調査に参加した1万8000人(32〜59歳)のデータを分析。睡眠が7〜9時間の人に比べ、4時間以下しか眠らない人は73%も肥満の危険度が高かった。 睡眠5時間程度の人でも50%、6時間程度では23%、それぞれ太りやすかった。 睡眠不足だと、体内で食欲を抑える物質レプチンが減り、逆に、高める物質グレリンが増えるとされる。 起きている時間が長ければ食べ物を口にする機会も多く、こうした体内状態が食べ物の摂取を促進するらしい。起きている時間が長いと消費カロリーも多いものの、摂取が消費を上回っている実態が、今回の大人数のデータから浮かび上がった。 研究チームは「生物は食物の豊富な夏季に栄養を蓄え、冬に備える。睡眠時間が短い人の体は、夜が短い夏と同様の状態が続くので太りやすい」と見ている。(平成16年11月19日 朝日新聞)

眠れないあなた

寝つきの悪い学生ら5人に、それぞれ38度、40度、42度の3通りの温度の風呂に、半身浴してもらった。入浴時間(5―10分)や、入浴時間帯を変えながら1か月間続け、寝つくまでの時間、睡眠の深さ、直腸の深部体温、皮膚温なども測定した。その結果、夕食後1時間半前後、つまり食後に上昇した体温がピークを迎える時に入浴し、直腸の体温が0・5度―1度上昇した場合、睡眠までに30分以上かかっていた寝つきの悪い学生でも5分から15分で入眠するなど、顕著に改善することがわかった。 さらに全被験者で、〈1〉眠りの深さを示す脳波が睡眠の前半に集中するようになる 〈2〉睡眠途中に目覚める覚醒(かくせい)の回数が減少するなども明らかになった。 体温は夕刻から宵にかけて上昇のピークを迎える。入浴で体温を上げると、体温の低下が加速され、入眠がうまくゆくという。入浴の適温や時間に個人差はあるが、小林教授は「直腸温が0・5度上がると体の芯からぽかぽかする。入浴後2―3時間で睡魔が来るので、その時すぐに床につくことがこつ」と話している。(平成16年7月2日 読売新聞)

指の脈で睡眠の質を評価 

就寝中に指の脈を測るだけで、熟睡ができているかどうか睡眠の質を評価するシステムを社団法人の人間生活工学研究センター(大阪市)が開発した。脳波をとらずに家庭で自分の睡眠状態をチェックできるのが特徴。脳波が示す睡眠状態との一致度は7割と改善の余地があるので、今後、精度の向上とセンサーの小型化を進め、商品化につなげたいという。利用者は、指輪状のセンサーを指にはめ、無線データ送信機を手首に装着して寝る。脈拍はデータ受信装置付きのパソコンに無線で送られ、パソコンソフトが睡眠状態を9段階評価する。脈拍数(心拍数)は自律神経によって調整されており、睡眠状態によって変動することが知られている。深い睡眠では心拍数が少なく変動も少ない。浅い睡眠では心拍数が上がり、夢をみると考えられているレム睡眠だと心拍数が上がって変動も大きくなる。同センターでは、脈拍数の変動から覚醒(かくせい)、レム睡眠、浅い睡眠、深い睡眠の4段階に睡眠状態を分類できるソフトを開発。寝入るまでの時間と4段階の睡眠状態の割合を自動的に検出し、9段階評価につなげた。計測を続けることで、普段の自分の睡眠と比べてよく眠れているかどうかの評価も示せるようになっている。正答率7割とはいえ、睡眠状態は専門の施設で脳波などを測定しないと診断できないのが現状。自宅で簡単に測定できる利点は大きいという。 システム開発には、松下電工の研究者が同センターに出向してかかわった。(平成16年3月21日 朝日新聞)

長生きしたいなら7時間睡眠

7時間寝る人が一番長生き?日本人10万人を対象にした10年間の大規模追跡調査で、こんな結果が明らかになった。米国での調査でも、同様の結果が出ており、睡眠は必ずしも長いほど良いというわけでもなさそうだ。名古屋大学の玉腰暁子助教授(予防医学)らが、今月の米睡眠学会誌に発表した。文部科学省助成を受けて行われたこの調査は、40歳から79歳の男女約10万人を対象に、睡眠時間や飲酒、喫煙、運動の生活習慣、ストレス度などを問診票に記載してもらい、10年間追跡した。

睡眠時間を尋ねた回答で最も多かったのは、男性8時間、女性7時間で、平均は男性7・5時間、女性7・1時間だった。死亡率が最も低かったのは、男女とも睡眠時間が7時間と答えたグループで、睡眠が長くなっても短くても、死亡率は高かった。 睡眠時間が4時間以下の人は、7時間の人に比べて男性で62%、女性で60%、死亡率が高かった。 また10時間以上の人も、それぞれ73%、92%高く、男女とも睡眠時間が減少するほど、あるいは増えるほど死亡率が高くなるとの結果。従来言われてきた「8時間睡眠」は、7時間睡眠に比べて、男性で11%、女性23%、それぞれ死亡率が高いという結果が出た。 睡眠の短い男性の場合、仕事上のストレスが、睡眠と死亡率の両方に悪影響を与えている様子もうかがえた。

睡眠に詳しい国立精神・神経センターの内山真・精神生理部長は「『8時間睡眠が良い』という神話があるが、睡眠は必ずしも長いほど良いというわけではない。自分に合った睡眠を取るのが大切。睡眠時間は年齢や季節によっても変化するので、『7時間睡眠』にもこだわる必要はない」とアドバイスしている。(平成16年2月26日 読売新聞)

日本人成人の睡眠薬服用率は7.4%、多量服用者には日中過眠や意欲低下多い

日本人成人の7.4%が睡眠薬を服用しており、その半数以上が週に3回以上服用している。若年者よりも高齢者、男性よりも女性の服用率が高く、70歳以上の女性では実に4人に一人が睡眠薬を服用している。男女各2800人を対象とした全国調査の結果、満足な眠りを得ようと薬剤に頼る人々の実態が浮かび上がった。国立保健医療科学院疫学部の土井由利子氏(写真)が報告した。土井氏の発表は、1997年に実施した睡眠に関する健康調査の調査データを基に、睡眠薬使用の実態を解析したもの。1995年の国勢調査に基づいて全国から二段無作為抽出法によって抽出した一般成人の男女各2800人に対し、1997年に自記式質問票を郵送し、回答を得た。回収率は67.5%で有効回答数は男性920、女性951だった。

成人全体では年齢調整済みの睡眠薬使用率は7.4%で、14人に一人が使用している計算になった。服用率は一般に年齢が高いほど多く、20代では2.6%なのに対して40代では6.8%、60代では12%、70代では19.2%、80歳以上では24.8%だった。30代と40代では男性の服用率が高かったが、それ以外の年代では女性の服用率が高く、70代女性では24.8%、80歳以上の女性では32.4%で、70歳以上の女性では4人に一人が睡眠薬を服用していることが判明した。男女とも多くの年代で半数以上が週に3回以上服用していたが、男性の40代、50代と女性の20代では週3回以上の服用者は少なかった。

睡眠薬自体が基本的には処方薬であるため、服用者の87.9%は医療機関を受診していた。服用者と非服用者を比較すると、服用者は複数の診療科を受診する比率が高く、特に精神神経科と内科を受診する傾向が多く、疾患別では糖尿病、心疾患、消化性潰瘍を罹患している傾向が強かった。また、服用頻度が多いほど不眠や日中活動低下の訴えが多い傾向があった。非服用者と比較した相対危険度を見ると、入眠困難については、週1回未満の服用者では1.28倍、週1〜2回では4.2倍、週3回以上では6.5倍と、服用頻度が多いほど有意に訴えが多かった。

 一方、日中の過眠も、週1回未満の服用では1.1倍、週1〜2回服用では1.74倍、週3回以上では2.79倍と多くなり、日中の意欲低下も同じく、1.62倍、3.85倍、5.52倍と服用頻度が高いほど有意に訴えが多かった。ただし、日中過眠や意欲低下が睡眠薬の副作用であるか否かについて土井氏は、「睡眠薬処方の対象となる抑うつの症状などとも考えられ、本研究だけでは判断できない」とした。(平成16年1月27日 Medwave)

乱れた睡眠、脳の発達に悪影響

寝起きの時間がバラバラで睡眠リズムが乱れた幼児ほど、問題行動を起こしやすく、三角形の模写なども苦手なことが聖徳短期大学の鈴木みゆき助教授らの調査で分かった。睡眠リズムの乱れが、脳の発育に悪影響を与えている可能性がある
。鈴木助教授は、幼稚園や保育所で無表情だったり、急にパニックになったりする子供たちが増えているのに注目。13か所の幼稚園・保育所、計348人の5歳児を対象に、2週間の睡眠日誌を記録してもらい、保育者との面談調査の結果と比較した。寝起きの時間に1時間半以上のばらつきがあり、睡眠リズムが乱れていると思われたのは50人。そのうち38人(76%)は、保育者が「ボーッとして無気力」「自己主張が強く、通らないとパニック」「理由のない攻撃性を示す」などとして、「気になる子」に挙げていた。また、三角形の模写では、18人(36%)が斜線などを上手に描くことができなかった。 一方、睡眠リズムが正常な298人では、「気になる子」と指摘されたのは35人(12%)。三角形の模写ができない子も32人(11%)だけだった。 斜線の知覚や描写は、水平や垂直な線に比べて難しく、能力は4歳半から5歳半ごろに大きく発達する。脳機能の発達を調べる一つの指標になると考えられている。さらに、96人の5歳児を対象に「+」「\」「△」「□」などを模写する認知と運動の統合検査を行ったところ、睡眠リズムが乱れたグループ(14人)は、正常なグループに比べ、平均点(12点満点)で1・3点低かった。研究は科学技術振興機構の「脳科学と教育」プログラムの一環で、研究班の瀬川昌也・瀬川小児神経学クリニック院長は「脳の正しい発達には、睡眠と覚醒(かくせい)のリズム確立が欠かせない。リズムの乱れが、情緒や社会性の発達、認知機能に障害を与えている」と指摘する。(平成16年1月15日 読売新聞)

睡眠時無呼吸症候群、症状の計測容易に

居眠り運転事故などの原因として問題となっている睡眠時無呼吸症候群の診断に有効な簡易計測システムの開発が活発だ。産業技術総合研究所は圧力センサーを備えたベッドを開発、何も装着しないでベッドで眠るだけで観察可能。法政大学や慶応義塾大学も同様のシステムをそれぞれ開発。来年度中にも相次いで実用化されそうだ。 産総研の西田佳史研究員が開発したシステムは、1人用ベッドの下に200個の圧力センサーを敷いたのが特徴。ベッド上で眠る人の体の振動から症状を測定する。健康な人の場合は規則正しく振動するが、無呼吸症候群の患者は呼吸が止まった後に大きく息を吸い込むため、大きな振動が起こる。 40例以上の実験で、ほぼ100%診断できた。(平成15年12月26日 日本経済新聞)

ぐっすり眠れば「記憶」も回復

疲れた時にぐっすり眠れば体力が回復するのと同様、いったん覚えて忘れかけた知識も睡眠によって取り戻すことができる。米シカゴ大のチームが、英科学誌ネイチャーの最新号でこんな研究結果を発表している。

研究チームでは、学生らを2つのグループに分け、人工的に合成した音声を聞き取る練習をさせた。一方のグループでは朝9時に練習して、12時間後に成果をテスト。 もう一方は夜9時に練習し、一晩眠ってから翌朝テストした。その結果、聞き取りの正解率は、最初のテストに比べて、前者が10ポイント、眠った後テストしたグループが19ポイント上がっていたという。チームによれば、人間は起きている間に多くの知識や技術を習得するが、睡眠中には脳がその記憶を整理、分類すると考えられる。細かい事を忘れてしまっても、一般的な法則が身についていれば、眠っている間に脳が自動的に記憶を再構成するのではないかと、チームの研究者は語る。

同誌ではさらに、ハーバード大の研究者らも睡眠と記憶の関連性を指摘している。このチームは、18歳から27歳までの100人を対象に、ピアノ演奏に似た指の動きを覚えてもらう実験を行った。その後、何段階かの時間を置いてテストしたところ、記憶を定着させるには一晩眠るのが有効だとの結論に達したという。ただ、2日目に新たな動きを練習すると、3日目に最初の動きを正しく思い出せる確率は下がってしまうことも判明した。

両チームの研究者らは、これらの成果をさらに深めることにより、記憶力に関わる障害の治療や効率的な学習方法など、さまざまな分野に応用できるとして、今後の研究に意欲を示している。(平成15年10月12日)

「パキシル」がうつ病に伴う睡眠障害などを改善

9月23日にチェコのプラハで開催された第16回欧州神経精神薬理学会において、抗うつ剤「パキシル」(一般名・塩酸パロキセチン水和物)がうつ病に伴う睡眠障害や、通常の社会生活を抑制する身体的および心理的障害といった不安障害による機能障害の治療に対して有用であると報告された。 パキシルを発売するグラクソ・スミスクラインの日本法人が3日に発表した。(平成15年10月17日 日刊薬業)

メラトニン含み寝付きがよくなる乳飲料発売 

大塚製薬は体が睡眠に適した状態になるホルモン「メラトニン」を含む乳飲料「nemu(ネムー)」(180ミリリットル、150円)を9月9日から沖縄を除く全国で発売する。生活習慣の夜型化やストレスで不眠の悩みを持つ人が増えていることに注目し、寝る前に飲む「おやすみ乳飲料」として売り込む。 メラトニンは睡眠時の脳から分泌されるホルモンで、血液中に分泌すると、脈拍や体温、消化機能が低下する。ネムーは昼間の2〜4倍のメラトニンが含まれるといわれる夜間に牛から搾乳した生乳を97%使用。フィンランドのナイトミルク社が「ヨーマイト(ナイトミルク)」として売り出しており、同社との技術提携で商品化した。 同社は「商品に含まれるメラトニンは微量なので昼間に飲んでもすぐに眠くなるわけではない。車の運転前などに飲んでも差し支えない」(広報部)としている。(平成15年8月19日朝日新聞)

睡眠障害:幼少期に暗闇……成長後に影響

幼少期の特定の時期を暗闇の中で過ごすと、睡眠の正常な発達が妨げられることが、理化学研究所の宮本浩行研究員とヘンシュ貴雄グループディレクターらのマウス実験で分かった。 特定の時期に光に当たって視覚経験をすることが、大人になってからの睡眠に大切といえ、不眠症など睡眠障害の原因解明に役立ちそうだ。 19日に米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」(電子版)に発表された。研究グループは、数匹のマウスを、生後1カ月から同2カ月の1カ月間だけ、真っ暗な部屋で過ごさせてみた。 その後、昼夜のある通常の生活に戻っても、睡眠中の眠りの深さに関係する「デルタ波」という脳波の強さが通常に比べて平均30%低下することが分かった。 これに対し、生後1カ月までのマウスと、生後2カ月以降のマウスでは、同じ1カ月間、暗室で育てても脳波の異常は見られなかった。 マウスの生後1〜2カ月は、人間の4〜8歳に相当するという。 脳には、外部からの情報を効率よく吸収する「臨界期」と呼ばれる特定の時期があることが分かっており、今回の研究は、睡眠にも同様の臨界期があることを示す。 宮本さんは「睡眠は記憶力を高める働きをしており、不十分な睡眠の発達は記憶や学習の面にも影響するかもしれない」と話している。(平成15年5月19日毎日新聞)

睡眠指針、「昼寝は午後2時が理想」厚労省が“快眠のこつ”

「8時間睡眠にこだわる必要はない」「昼寝は午後3時前の20〜30分に」「寝酒はいびきを助長する」――。 こんな内容からなる“快眠のこつ”を厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針検討会」がまとめた。 国民健康づくり運動(健康日本21)を推進中の同省は「指針の内容を広く普及させたい」と話している。 検討会のメンバーは医師や薬剤師、精神保健の専門家ら10人。 睡眠指針によると、睡眠時間は個人差があり、高齢になるほど短くなるのが普通。 「無理に長時間眠ろうとすることで、かえって睡眠の質を低下させることがある」と述べ、一般に理想とされている8時間睡眠にこだわる必要はないと指摘している。 また、就寝4時間前にコーヒーやスタミナドリンクなどのカフェイン飲料を飲むと、寝つきが悪くなる。 睡眠薬代わりの寝酒も、眠りを浅くする。特に睡眠薬を飲んでいる人の飲酒は、失禁や記憶障害などの副作用が出ることがあり、避けるよう求めている。 昼寝は人体が眠気を感じる午後2時ぐらいが理想で、長い昼寝や夕方以降の昼寝は「夜の睡眠に悪影響を及ぼすことが多い」。 十分眠っても眠気が強い、激しいいびきなどの症状は「体や心の病気」のサインの可能性があるとして、専門家への相談を呼びかけている。 同省生活習慣病対策室は「最近は生活習慣病の予防に睡眠が重要な役割を持つとの科学的データもある。 指針の中から、自らの生活に取り入れられそうなものを実践してほしい」と話している。(平成15年5月12日毎日新聞)

メラトニンは時差ぼけ解消に有効

脳の松果体から放出されるホルモン、メラトニンには、時差ぼけを解消する効果がある−−。コクラン共同計画の名誉評議員であるAndrew Herxheimer氏らは、BritishMedical Journal(BMJ)誌2月8日号に掲載された論説で、最新のコクラン・レビューで確認されたメラトニンの効果を紹介。医薬品として良質な製剤を提供するためにも、公的機関での治験を行うべきと呼びかけた。コクラン共同計画は、各種の臨床研究を網羅的にレビューし、質の高いエビデンスを発信する非営利団体。約5000人の医療従事者や研究者がボランティアとして参加しており、臨床研究のレビュー結果を「コクラン・レビュー」として取りまとめている。Herxheimer氏らによると、最新のコクラン・レビューで、メラトニンとプラセボとを比較した無作為化試験10件を検討。長距離旅行者の時差ぼけ解消にメラトニンが役立つことが確認された。コクラン・レビューでは、「時差ぼけがひどい人では、到着日の就寝前に2〜5mgのメラトニンを服用する。その後2〜4日間就寝前服用を続けるとよい」と結論したという。ただし、メラトニンはわが国や米国、タイ、シンガポールなどでは「健康食品」(サプリメント)として販売されており、医薬品並みの品質管理が行われていないため、用量の均一性や不純物の有無などの品質面で不安が残る。欧州やオーストラリアでは医薬品扱いだが、「実際には医薬品として承認された商品はなく、インターネットによる(サプリメントの)販売のみ」とHerxheimer氏らは指摘する。Herxheimer氏らは、「メラトニンは(医薬品として商品化しても)独占的な特許では保護されないので、製薬会社は(商品化に必要な)毒性試験などを行うコストをかけたがらない」と現状を分析。一般大衆だけでなく、政府機関や空軍などの公的機関もメラトニンによる時差ぼけ解消の恩恵を受け得る以上、公的な補助金でメラトニンを医薬品として開発するよう提言している。(平成15年2月14日medwave)

重症発作の喘息患者、日中の気温が上がらない日に増加

東京都内では、発作で救急搬送される成人喘息患者の数は増え続け、ここ20年間でおよそ2倍になっているが、季節的には毎年9〜11月までの秋の期間がピークとなる傾向は全く変わらない。そこで、気象や大気汚染などの要因から喘息の発作頻度の予測が可能かどうかについて検討したところ、朝に比べて日中の気温が上がらない、あるいは逆に日中の気温の方が朝より低くなった時に、重症発作で救急搬送される患者の頻度が極めて高くなることが明らかになった。これは、日本気象協会気象情報部の村山貢司氏の調査によるもので、第52回日本アレルギー学会総会の一般演題で報告された。村山氏は、「日中の気温差など、発作に影響を与えるいくつかの要素を利用すれば、予測は可能になるだろう」と話している。調査対象は、過去20年間に都内(小笠原諸島、伊豆諸島を除く)で重症発作を起こし、救急搬送された成人喘息患者。気象因子として気温、湿度、気圧、風速を、また大気汚染物質として窒素酸化物、硫黄酸化物、大気中の浮遊粒子(SPM)などとの関係を検討した。特に秋に患者が多いことから、台風の通過前後に患者が増えるかどうか、その変動について調べた。さらに、秋から冬場にかけてよく起こる逆転層(地上の気温が上空数百メートルの気温より低くなる現象)の出現時と患者数の関係についても検討した。この結果、台風の通過前後と救急搬送される喘息患者数の増加には、特に有意な関係は認められなかった。一方、逆転層の出現時には、重症発作の患者が著しく増えることがわかった。逆転層が起きると、地上付近の気温が大幅に下がるだけでなく、大気汚染物質が滞留することが知られている。そこで、SPMと患者数の関係を見てみたが、両者の間には全く有意な関係は見られず、その他の大気汚染物質に関しても、単一の因子としては、喘息の発作に影響を与えると認められたものは一つもなかった。このことより、むしろ気温の方が関係していると考えられた。実際、気象因子についての検討では、夜間や朝方の気温と日中の気温の差が小さかったり、日中の気温の方が朝よりもむしろ低くなった場合に、発作の頻度が極めて高くなるケースが多く認められた。気圧配置のパターンと発作頻度の検討でも、日中の気温が上がりにくい、北高南低型の天気図で患者の増加が著しかった。これらの結果を基に、村山氏は、気温の日変化や逆転層の出現などの因子を加味して喘息発作頻度の予測値を算出し、実際の患者数と比べてみたところ、「日によっては外れもあるが、全体として傾向をかなりうまく表現することができた」としている。(平成14年12月10日medwave)

4人に一人が睡眠障害を自覚
サノフィ・サンテラボは12月2日、日本を含む10カ国で実施した「SLE-EP(SLEepEPidemiological)」調査の結果を公表した。「全体的にみてよく眠れていると思いますか」との問いには、全体では24.7%が「いいえ」と答え、ほぼ4人に一人が睡眠障害を自覚していた。国別にみると、日本は20.9%で10カ国中6番目に多かった。また、日本人は、不眠解消の対策を他の国の人ほど積極的に行っていないこともわかった。この調査は、同社が世界10カ国の3万5327人を対象に、2002年3月に実施したもの。結果の解析に参加した国立精神・神経センター 精神保健研究所(千葉県市川市)の内山真氏によれば、「同じアンケート内容で同時期に10カ国で行った睡眠に関する調査は、おそらく初めて」。よく眠れていない人に不眠解消対策についてきくと、「睡眠薬の服用」(32.0%)、「お茶やコーヒーを控える」(31.0%)、「医師の診察を受ける」(30.8%)、「ハーブティーを飲む」(22.3%)、「アルコール飲料を飲む」(19.4%)といった対策を取っていることが判明。同時に、半数強の53.4%の人は「何もしていない」こともわかり、睡眠障害や不眠についての知識不足がうかがえた。不眠解消のための対策に関しては、日本人がプラスになると思われることを一番していないとの結果が出た。お茶やコーヒーを控える人は、日本が9.7%と最低で、他の9カ国の28.7%から49.0%と大きな差があった。ハーブティーを飲む人の割合についても、日本は4.2%と少なく、中国を除く8カ国は28.9%から48.0%だった。一方、アルコール飲料を飲む(寝酒を飲む)割合が日本は30.0%と一番高く、中国やスペイン、ブラジル、オーストリアは1割前後と多くない。なお、寝酒については、睡眠の後半で眠りが浅くなりがちで、さらにアルコールに体がすぐに慣れてしまうため、不眠対策としてはよくないという。また、医師の診察を受ける人の割合は、日本は7.8%と最も低かった。ポルトガルなど上位7カ国(55.5%から44.4%)は言うに及ばず、中国(25.6%)やスロバキア(22.2%)よりも明らかに少なかった。睡眠薬の服用率についても、日本は15.2%で、オーストリアに次いで2番目に低かった。内山氏は、こうした結果をみて、「日本人の対処法は他の国と異なる傾向があると思われ、コーヒーやお茶を控える、寝酒はしないといった不眠対策を啓蒙していく必要があるのではないか」と述べた。さらに、受診率の低さをみると、こうした対策を取っても不眠が改善しなければ、医療機関を受診するよう呼びかけることも必要だろう。(平成14年12月3日medwave)

睡眠時無呼吸患者で炎症マーカーCRP値が上昇、重症度と相関

閉塞性の睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者では、代表的な炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)値が上昇していることがわかった。しかも、無呼吸の重症度とCRP値とに、正の相関が認められたという。OSA患者を対象に、CRP値に関する検討が行われたのは初めて。OSA患者では脳卒中や心筋梗塞が多いことが知られているが、その理由として「炎症」も重要な役割を果たしている可能性が出てきた。研究結果はCirculation誌5月28日号に掲載された。研究を行ったのは、米国MayoクリニックのAbu S. M. Shamsuzzaman氏ら。Shamsuzzaman氏らは、冠動脈疾患や脳血管疾患の危険因子として、慢性炎症の関与が示唆されている点に着目。これらの疾患を合併しやすいOSA患者で、炎症が亢進しているかどうかをCRP値を指標に調べた。対象は、新たにOSAと診断され、他の疾患は合併していない患者22人(男性18人、女性4人)。性別と体格指数(BMI)をマッチさせた対照群20人(男性15人、女性5人)とCRP値を比較した。OSA群の平均年齢は48歳、平均BMIは36で、対照群(平均年齢43歳、BMI34)と有意な差はない。喫煙・飲酒状況や血圧、脈拍など主な患者背景にも違いはなかった。OSA群の無呼吸低換気指数(AHI;睡眠1時間あたりの無呼吸や呼吸低下の回数)は平均60。 その結果、OSA群のCRP値の中央値は0.33(0.09〜2.73)mg/dlとなり、対照群のCRP中央値である0.09(0.02〜0.9)mg/dlより有意に高いことが判明(p<0.0003)。多変量解析で、OSAの重症度を反映するAHIに対し、CRP値には「独立した正の相関」があることもわかった。OSA患者でCRP値が高い理由について、研究グループは次の2点を挙げる。一つは、低酸素状態に置かれることで、高山病で報告されているように血中のCRP値が上昇するというもの。もう一つは、夜間の睡眠が阻害されることで、肝臓でのCRP合成の鍵酵素であるインターロイキン6(IL6)の日中濃度が増え、それがCRP値を引き上げるというものだ。高血圧はOSA患者によくみられる合併症で、冠動脈疾患や脳血管疾患の発症率の高さは、これまで高血圧が主な原因だと考えられてきた。今回得られた知見は、こうした脳心疾患の多さにCRP値、つまり炎症もある程度寄与している可能性を示唆するもので、今後注目を集めそうだ。(平成14年5月30日 medwave)