心筋梗塞



体力、50歳は死亡率の指標 心筋梗塞などリスク低下

50歳のとき、速足(時速6.4キロ程度)での歩行に相当する身体活動が無理なくできる体力があれば、心筋梗塞などで死亡する危険性が低くなることを、筑波大の研究チームが突き止めた。20日発行の米医師会誌(JAMA)に発表した。同大の児玉暁研究員(内分泌代謝学)は「体力の有無が、将来の心筋梗塞などの発症や死亡の危険性を予測する指標として使えるかもしれない」と話している。研究チームは、日米欧で発表された心筋梗塞など冠動脈疾患の発症のほか、運動や死亡のデータが含まれる論文計1万679本、計10万2980人分のデータを解析。論文での追跡期間は1〜26年で、対象者の体力と、期間中の冠動脈疾患による死亡、それ以外の死亡を調べた。50歳の男性を体力が普通の群(時速6.4〜7.8キロ程度で歩行できる)、低い群(普通群以下)、高い群(時速7.9キロ程度以上で歩行できる)の3つに分けて比較したところ、低い群の冠動脈疾患による死亡率は普通群の1.4倍、高い群の1.47倍になった。すべての死亡率でも、低い群は普通群の1.7倍、高い群の 1.56倍と高くなった。普通群と高い群はほとんど差がなく、少なくとも普通群程度の体力があることが、冠動脈疾患や死亡の危険性を減らす可能性があるとみられる。40歳、60歳で比較しても、体力のある方が死亡や心筋梗塞などの危険性が低かった。女性の場合は、男性の約8割の体力で同様の結果が出た。曽根博仁・筑波大教授は「定期的な運動をすることによって寿命が延びるというデータはないものの、体力の有無が死亡率に影響を与えることが明らかになった」と話している。(平成21年5月21日 毎日新聞)

「せっかち」「怒りっぽい」男性、心臓病リスク低い

自分の性格を「せっかち」「怒りっぽい」などと考えている日本人男性ほど、心筋梗塞になるリスクが低くなる。こんな疫学調査の結果を厚生労働省研究班がまとめた。欧米の研究では、せっかちで怒りっぽい人ほど心筋梗塞リスクが高くなることが知られている。今回の研究はその定説を覆すもので、研究班は「感情の表し方が文化によって異なることが影響しているのではないか」と分析している。大阪大学の磯博康教授が、40―69歳の男女8万6000人を対象に平均で11年半、追跡した。アンケートをもとに行動パターンで4グループに分け、心筋梗塞リスクとの関連を調べた。期間中に669人が心筋梗塞など虚血性心疾患を発症した。(平成20年7月18日 日本経済新聞)

心筋梗塞、15年で2倍 都市部の中高年男性

都市部の働き盛りの男性で、心筋梗塞の発生率が80年代末からの約15年間で、2倍以上に増えたことが、大阪府立健康科学センターの疫学調査で分かった。都市部の女性や農村部の男女に増加傾向はなかった。心筋梗塞はストレスのかかる管理職に多い病気とされるが、都市部で広く中高年男性に増えている実態が浮き彫りになった。性別や居住地に応じた健康対策が求められそうだ。人口や産業形態などから都市部の代表に大阪府八尾市の一地区、農村部の代表に秋田県井川町を選び、64〜03年の40年間の住民延べ約16万人の健診データを解析した。その結果、都市部の中高年(40〜69歳)の男性で心筋梗塞を発症したのは、88〜95年の8年間で人口10万人当たり56人だったのに対し、96〜03年の8年間では2.3倍の同127人だった。この間に、心筋梗塞の危険因子の喫煙率は地域や性別などに関係なく横ばいまたは減少している。しかし、都市部の中高年男性では、別の危険因子である総コレステロール値や肥満度の目安の体格指数(BMI)が5〜7%悪化し、発症の危険性が高くなっていた。センターの北村明彦医師(循環器疫学)は「外食を取る機会の多い都市部の中高年男性は食環境の欧米化に伴い、脂肪分や高カロリーの食材を取りやすい。労働環境が厳しくなり、ストレスも高まっている」と話す。(平成20年7月6日 毎日新聞)

血栓、防ぐ抗体を開発

血液を固まりにくくして、脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓ができるのを防ぎ、一方で内出血などはあまり起こさずに済む抗体を、滋賀県立大の高山博史教授らが開発した。臨床で使えれば、副作用の少ない理想的な血栓予防薬になる可能性があるという。血栓は、血液中の血小板にコラーゲン繊維がからまり、固まりを作ってできる。しかし高山教授らは、固まりができない女性を発見。血液中から、血小板とコラーゲンの結合を妨げる抗体を見つけ、この抗体を人工的に作ることに成功した。抗体には、血小板の表面に存在しコラーゲンと結びつく「コラーゲン受容体」を、血小板の内部に引っ込めさせる働きがあった。さらに、マウスの体内に人為的に血栓を作る実験を行い、普通のマウスには血栓ができるが、同様の抗体を前もって注射したマウスにはできないことを確かめた。血小板の機能を部分的に低下させて血栓を防ぐ薬は既にあるが、副作用で脳出血など体内の出血が起きやすくなる。しかし今回の抗体を持つ患者は、脳出血などを起こさず20年間過ごしている。高山教授は「抗体を実用化すれば、脳出血などの副作用なく血栓を防ぐ薬ができるのではないか」と話している。(平成20年4月2日 毎日新聞)

心筋こうそく患者に再生医療、幹細胞注射で血流改善

大阪大学の澤芳樹教授らは来年初めにも、心筋こうそくや狭心症など重い心臓病患者の治療に再生医療の新しい手法を応用する。詰まった血管の代わりにバイパスをつなぐ手術に合わせて、血流を改善する効果のある幹細胞を心臓に注射する。心臓病が重症化するのを防ぐ治療法として、有効性や安全性を検証する。厚生労働省のヒト幹細胞の臨床研究指針に基づき実施する。心筋こうそくや狭心症の患者は冠動脈バイパス手術を受けるケースが多いが、細い血管部分など血流の改善が難しい個所もあり、機能を十分回復できない場合もある。(平成19年12月21日 日本経済新聞)

心筋梗塞、お酒に効果

お酒を飲むと顔がすぐ赤くなる人でも、適度な飲酒は急性心筋梗塞を予防する効果がある。厚労省研究班が発表した。アルコールには血液を固まりにくくするなどの作用があり、適度な飲酒が心筋梗塞のリスクを減らすことは欧米の研究で知られていた。だが、日本人に多くみられる飲酒で顔が赤くなる人は、逆に飲酒で心筋梗塞になりやすいという報告もあるため、調べていた。調査は40〜69歳の男性2万3千人に、飲酒習慣や顔が赤くなるかなどを尋ね、発症率を9年間追跡した。急性心筋梗塞になったのは170人。うち39人が亡くなった。酒を飲まないグループの心筋梗塞のリスクを1とすると、1日に飲む量が「1合未満」「1〜2合」のグループのリスクは、顔が赤くなるかどうかに関係なく0.5前後だった。(平成19年4月7日 朝日新聞)

急性心筋梗塞に衝撃波

東北大病院は急性心筋梗塞の患者に体外から衝撃波を当て、心臓に新たな血管をつくり慢性心不全への悪化を防ぐ治療の臨床試験を2月から始めると発表した。急性心筋梗塞は、心筋に栄養を送る血管が急に詰まって一部の心筋が傷む疾患。詰まった血管を広げるカテーテル治療などで救命しても、やがて傷みが広がり慢性心不全になる。悪化を抑えるには飲み薬しかない。循環器内科の下川宏明教授らは、尿路結石破砕用の約10分の1の出力の衝撃波が、血管内皮を刺激して新たな血管づくりを促すことを確認。この治療は既に重症狭心症患者に対する臨床試験が順調に進んでおり、急性心筋梗塞患者にも適用する。成功すれば痛みや副作用がない治療が可能になる。(平成19年1月25日中国新聞)

紅茶で心臓病の予防

紅茶には心臓病を防ぐ効果があるとされているが、その効果もミルクを入れて飲むとなくなることが、ベルリン医科大付属病院(ドイツ)の研究で分かった。 欧州心臓学会の専門誌(電子版)に9日、掲載される。 研究チームは、更年期を過ぎた健康な女性16人を対象に、何も加えない紅茶と、脱脂乳のミルクを10%加えた紅茶とを500ミリ・リットル飲んでもらう実験を行った。 飲む前と2時間後に、腕の動脈を超音波で調べ、血管の弾力性を示す指標「FMD」を計測した。 FMDは、血管内皮の機能を反映し、低い数値は心臓病の兆候につながる。 実験の結果、ミルクなしの紅茶を飲んだ後は約4・3%向上したが、ミルク入りだとほとんど変化がなかった。 ネズミの細胞を使った実験でその原因を分析したところ、ミルクに含まれる様々なたんぱく質の中でも特にカゼインが、紅茶の有効成分と結合してしまうことがわかった。(平成19年1月9日 読売新聞)

心臓病治療に「心筋シート」 

重い心臓病の治療で、患者自身の筋肉の細胞から「心筋シート」を作り心臓に張って心筋再生を図るという、世界でも例のない臨床研究を、大阪大や東京女子医大のグループが実施する。対象には、補助人工心臓を着けて心臓移植を待っている患者6人を予定。重い副作用がなく人工心臓を外せるようになるなど安全性と効果が確認できれば、より多くの患者に広げるという。大阪大病院未来医療センター長の澤芳樹教授(心臓血管・呼吸器外科学)らが計画。医学部の倫理委員会と、同センターの審査評価委員会の承認をすでに得ている。対象は、拡張型心筋症の70歳以下の患者。同症は心筋が弱って薄く伸び、心臓内の空間が広がって血液がうまく送り出せなくなる。重症になると心臓移植しか治療法はなく、患者は補助人工心臓を着けながらドナーからの提供を待つ。具体的には、まず患者の太ももから5〜10グラムの筋肉を摘出。筋芽細胞という、筋肉が損傷を受けた時に分裂、分化して損傷を補う細胞を探し出す。その細胞を特殊な培養液で24時間培養して増やし、直径3〜4センチ、厚さ50マイクロメートルのシートを10枚ほど作る。これを3枚重ねにして、左心室の表面に張る。 イヌなどの動物を使った実験では、心筋が再生され、心臓のポンプ機能が回復することが確認されている。 筋芽細胞を培養し、そのまま心筋内に注入する臨床研究は、欧米ですでに実施され、大阪大も取り組んでいる。一定の効果も報告されているが、欧米では注入した細胞の一部しか機能しないうえ、重い不整脈などの副作用も指摘されている。澤教授は「シートは、弱った心臓を覆うように張れるので効果も広く期待できる。シートを作る技術も確立している。慎重に研究を進めて結果を分析し、ほかの心臓病にも広げたい」と話す。(平成19年1月2日 朝日新聞)

喫煙で女性の心筋梗塞の危険性8倍

日本人女性が心筋梗塞になる危険要因のトップは喫煙で、たばこを吸う人は吸わない人より8倍も危険性が増すことが、熊本大などの研究グループによる調査で明らかになった。男性でもたばこを吸う人の方が危険性が4倍高く喫煙は高血圧に次ぐ要因だった。 02年に急性心筋梗塞を初めて発症した全国の患者1925人(平均67.7歳、男性1353人、女性572人)と、年齢と性別の割合を患者に合わせた健康な2279人のデータを解析。高血圧や喫煙などの危険要因が、それぞれ単独でどのくらい大きいかを調べた。男性では、高血圧の人はそうではない人と比べて4.80倍発症し、続いて喫煙が4.00倍、糖尿病が2.90倍。女性では喫煙が8.22倍で、糖尿病が6.12倍、高血圧が5.04倍だった。喫煙リスクが女性の方が男性より高い理由について、河野宏明・同大助教授は「はっきりしないが、体質的なものに加え、女性の方が体が小さく影響が大きいのかもしれない」という。欧米では、喫煙と、高コレステロール血症などの脂質代謝異常が2大危険要因とされる。今回の研究では、高コレステロール血症は、日本人男性で1.52倍と他の要因に比べて低く、女性では1.10倍だが統計上の明確な差は出なかった。(平成19年1月1日 朝日新聞)

高齢で3センチ以上身長縮むと危険、心臓病など死亡率増

20年間で身長が3センチ以上縮んだ高齢者は、それ未満だった人に比べ、心臓病などで死亡する恐れが高いことが英国ロンドン大学などの研究でわかった。身長の縮みと死亡率との具体的な因果関係は明らかにされていないが、研究チームは「身長の低下は、骨密度に関係する。生活習慣などで骨が弱くなり、それが病気につながった可能性はある」としている。研究チームが調査対象としたのは、1978〜80年に、身長や生活習慣、疾病の有無などをチェックした40〜59歳の男性4213人。年齢が60〜79歳になった20年後にも同様の項目を調べた上で、その健康状態をさらに2005年まで追跡した。04年までに確認された死者計760人について、「3センチ以上」「1センチ以下」といった具合に身長の縮み具合でグループ分けして、それぞれの死亡率を分析したところ、3センチ以上縮んだ人は、1センチ以下だった人に比べ、がん以外の心疾患、呼吸器疾患などで亡くなる割合が64%も高かったという。なお、一般に加齢とともに身長は縮むとされているが、20年間にわたる今回の調査でも、平均1・67センチ縮んだことが確認された。(平成18年12月12日 読売新聞)

卵と心筋梗塞

卵を食べる頻度と心筋梗塞にかかる割合は特に関係がないとの結果が、厚生労働省研究班の9万人規模の追跡調査で出た。コレステロールが高い人は、心筋梗塞予防の一環として卵の摂取を避けるよう指導されることが多いが、研究班は「心筋梗塞予防のために卵を制限する根拠は得られなかった」と結論づけた。調査は全国の40〜69歳の男女に卵を食べる頻度を尋ね、計9万735人から回答を得た。そのうち約3万3000人は血中の総コレステロールの値も調べた。卵を食べる日が「週に1日未満」と答えた人が心筋梗塞を起こした率は、「ほぼ毎日食べる」人の約1.2倍で統計的には同等の範囲だった。総コレステロールの値が「220」以上と高い人の割合は、「ほとんど毎日食べる」が27.5%で、「週1日未満」は33.5%とやや多かった。 (平成18年11月28日 毎日新聞)

心臓ペースメーカー、X線撮影でも誤作動の恐れ

胸部X線撮影など比較的被曝線量が少ない場合でも心臓ペースメーカーに不要な電流が流れ、誤作動を起こす恐れがあると、大阪市であった12日の日本医科器械学会で発表された。 被曝線量の多いCT(コンピューター断層撮影)では特定のペースメーカーが誤作動を起こすため、厚生労働省が昨年から指導を始めていた。広瀬稔・北里大助教授(臨床工学)らが、3機種のペースメーカーに胸部撮影などに使っているX線を当てて影響を調べた。 その結果、内部回路にX線が当たると、不要な電流が発生。 それが心臓からの信号と誤認され、誤作動になる場合があると分かったという。 X線を当てる方向や強さによって誤作動は、起きたり起きなかったりした。 実験に使った3機種のうち、1機種は誤作動を起こさなかった。 広瀬さんは「医療現場や健康診断でも、鉛でペースメーカーを守ったり、深刻な誤作動に備えたりすることを考えてほしい」とリスクを減らす努力が必要だとしている。 ペースメーカー使用者は国内に約30万人いるとされる。製造会社などでつくるペースメーカ協議会は「通常のX線撮影で影響が出た実例は聞いていないが、必要があれば業界として対応したい」と話している。 厚労省は昨年5月、CTでX線を当てないように製品に表示するようにメーカーを指導。 その後、医療機関には、ペースメーカーを使う患者にCTで5秒以上のX線照射をしないように呼びかけていた。(平成18年5月13日 朝日新聞)

心臓病予防、やはり魚に効果 

魚を多く食べる人はあまり食べない人に比べて心筋梗塞になるリスクが6割前後低いことが、約4万人を対象にした厚生労働省研究班の調査で分かった。魚の心臓病予防効果は欧米の研究などで指摘されてきたが、日本人で大きな効果があることが大規模調査によって初めて裏付けられた。17日付の米医学誌サーキュレーションに発表される。研究をまとめたのは磯博康・大阪大教授(公衆衛生学)ら。岩手、秋田、長野、沖縄の4県で成人住民約4万人の協力を得て、食事アンケートをし、90年以降11年間の発症を追跡調査した。 心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患になるリスクは、魚を食べる量が最も少ない人たち(1日20グラム程度)に比べて、最も多い人たち(1日180グラム程度)は37%低かった。 診断確実な心筋梗塞に限れば、56%も下回った。 魚に心臓病予防効果があるのは、油成分のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が血栓を作りにくくし、動脈硬化を防ぐ働きがあるためとされている。 EPAやDHAはイワシやサバなどの青魚に多い。たとえば、マイワシ100グラムに含まれるEPAとDHAは計2.5グラム程度だ。 食べた魚の種類からEPAとDHAの合計摂取量を計算したところ、摂取量が最も少ない人たち(1日0.3グラム程度)に比べ、最も多い人たち(1日2.1グラム程度)は虚血性心疾患のリスクが42%、診断確実な心筋梗塞で65%低く、効果がはっきり出た。 磯教授は「日本人でも魚をよく食べる人のリスク低下がはっきりした」と話している。(平成18年1月17日 朝日新聞)

心臓マッサージ「強く、速く」

心臓発作などで突然倒れた人を救うための初歩的な蘇生(そせい)法について、米国心臓協会(AHA)は3日までに、心臓マッサージの有効性を強調した2005年版ガイドラインを発表した。5年前の旧ガイドラインでは、人工呼吸2回の後に心臓マッサージ15回のセットを繰り返すとされていたが、今回の改訂で、人工呼吸2回に対しマッサージを倍の30回に増やした。同協会によると、最近の研究で、間隔を置かずにマッサージを続けた方が血流が回復しやすいことが分かったといい、胸を「強く、速く」押すよう推奨している。 この蘇生法は「CPR」と呼ばれ、たまたま現場に居合わせた人でも簡単に行えるよう工夫されたもの。同協会は国際的なガイドライン作成の中心的な存在で、日本でも新ガイドラインが普及するとみられる。(平成17年12月3日 日本経済新聞)

大動脈瘤、原因たんぱく質の異常究明

破裂すると大出血して多くの患者が死亡する大動脈瘤(りゅう)の原因となる細胞内のたんぱく質の異常を、山口大学医学部の松崎益徳教授、青木浩樹助教授らのグループが突き止めた。動物実験でこのたんぱく質の働きを抑える薬を与えると大動脈瘤が縮小したといい、同グループは「薬剤による治療の道が開けた」としている。成果は米医学誌「ネイチャー・メディシン」12月号に発表される。腹、胸部などにできる大動脈瘤は、血管の壁が弱くなり、血圧に押されて風船のように膨らむ病気。コラーゲンなど血管壁をつくる材料が分解されやすくなったり、材料を合成する能力が落ちることが血管壁を弱くすると考えられている。病気の進行を遅らせる薬は登場しているが、根本治療には患部を人工血管に置き換える手術が必要で、患者の負担も大きい。 松崎教授らは、患部で血管壁の材料を分解する酵素が増え、逆に材料を合成する酵素が減少することを確認。その原因が「JNK」というたんぱく質の働きが異常に高まることにあると考えた。大動脈瘤を持ったマウスにJNKの働きを抑える薬を与えたところ、血管壁をつくり直す能力が回復し、大動脈瘤が小さくなったという。研究グループは臨床応用に向け、さらに効果的な薬や投与法を開発中。松崎教授は「手術しか方法がなかった動脈瘤を薬で小さくできれば、治療の選択肢が広がる」と話している。(平成17年11月28日 毎日新聞)

高脂血症薬に心臓病防ぐ効果 日本で8千人臨床試験

コレステロール値を下げる高脂血症薬を使うと、日本人で心臓病の発生を減らす効果があることが、約8000人の患者が参加した臨床試験で分かった。日本人を対象にこの薬を使う人と使わない人を比べた大規模臨床試験は初めて。中村治雄・防衛医科大名誉教授らが16日、米テキサス州ダラスで開かれた米国心臓協会学術集会で発表した。中村さんらは総コレステロール値が220〜270ミリグラム(血清1デシリットル当たり)の男女7832人(平均年齢58歳)の協力を得て、全員に食事療法をしたうえで、半分の人にはコレステロールを下げる薬を飲んでもらった。5年以上経過を追った結果、心筋梗塞(こうそく)や狭心症などの心臓病を起こす発症率は、薬を飲んだ場合が飲まない場合に比べて33%少なかった。これに脳梗塞を加えた動脈硬化性の病気全体の発症率でみても30%減った。今回の臨床試験で使われたのはメバロチンという高脂血症治療薬で、日本では89年、三共が発売し、医師が処方する薬として広く使われている。欧州で実施された大規模臨床試験では心臓病を予防する効果が確かめられてきた。欧米に比べて日本では心筋梗塞などによる死亡率が低く、食生活も違うため、日本人にも病気を防ぐ効果があるのかを厳密な臨床試験で確かめる必要があるとされてきた。(平成17年11月17日 朝日新聞)

魚の油、心臓病予防に効果 2万人規模の研究で確認

イワシやサバなどの青魚に多く含まれる油の成分をとると心臓病になるのを減らす効果があることが、日本人約2万人を対象にした大規模臨床試験で確かめられた。横山光宏・神戸大教授(循環器病学)らが、米テキサス州ダラスで開催中の米国心臓協会学術集会で14日、発表した。横山さんらは総コレステロール値が250ミリグラム(血清1デシリットル当たり)以上の男女1万8645人を対象にした。全員にコレステロールを下げる薬を処方した上で、半数の人には魚の油成分、イコサペンタエン酸(EPA、エイコサペンタエン酸ともいう)を抽出した高純度のカプセル薬も毎日飲んでもらった。約5年間の追跡期間中に心臓突然死や心筋梗塞(こうそく)などの心臓病が起きた人の割合は、EPA薬を飲まなかった人では3.5%、飲んだ人では2.8%。EPA薬の服用には、こうした心臓病のリスクを19%減らす効果があったという。 日本では欧米に比べて心筋梗塞などの死亡率が低い。魚を多く食べる食生活が一因と指摘されていたが、大規模な臨床試験で確かめられたのは初めて。今回の臨床試験に使われた薬はすでに、高脂血症などの治療薬として医療現場で医師が処方している。(平成17年11月16日 朝日新聞)

本人の骨髄から幹細胞移植

信州大医学部付属病院は12日、重い狭心症のため心臓を取り巻く血管の流れが悪くなった男性患者(61)の心筋に、本人の骨髄から採った幹細胞を移植した結果、心機能の改善に成功したと発表した。患者はこの治療から1カ月後の今月2日、退院した。重い心筋梗塞(こうそく)の患者が骨髄の細胞移植で回復した例は、8月に埼玉医大から報告されたが、心筋梗塞に至る前段階の狭心症患者での回復例は、国内では今回が初めての報告だという。 治療したのは、信大病院循環器内科の池田宇一、心臓血管外科の天野純両教授らのチーム。 男性は4年前から狭心症を患っていた。今年7月に胸の不快感を訴えたため検査すると、心筋に栄養を送る「冠動脈」3本が詰まっていた。9月1日にうち2本について、人工血管を使ったバイパス手術をした。詰まりのひどい残る1本がカバーする心筋部分には、同時並行で幹細胞を直接注射して移植する治療を採用した。 実際には、本人の骨髄液550ミリリットルを採取し、再生になんらかの働きをする幹細胞を集めて、計5ミリリットルを注射。手術後、付近の血流が改善したのを画像検査で確認した。 患者は退院後、以前と同じ日常生活を送っており、今のところ副作用も認められていないという。治療にあたっては、事前に患者の同意と、院内の倫理委員会の承認を得た。池田教授は「将来はカテーテルを使って心筋に直接、幹細胞を注入できるようにして、患者の負担を減らしたい」と話している。(平成17年10月12日 朝日新聞)

体になじみやすい血管・心臓弁

国立循環器病センター研究所と京都府立医科大学、ブリヂストンは共同で、体になじみやすい心臓弁や血管を作ることに成功した。これらを移植すれば、特別な薬を飲み続ける必要がなくなり、血が止まりにくくなる危険などを回避できるとみている。動物実験で性能の検証を進めており、動脈硬化による心臓病などの治療向けに3年以内に実用化する。研究チームは体内に異物が埋め込まれると、周囲の組織が異物をくるんで無害化しようとすることに注目。ブリヂストンを中心に高分子製の特殊な鋳型を開発し、この鋳型をウサギなどの体内に約1カ月埋め込んでから取り出して、管や弁の形をした特殊な組織を作ることに成功した。 できたこの管を使って同じウサギの血管をつないだところ、拒絶反応を起こさずに定着した。一方、弁は心臓の中と同等以上の圧力を加えても壊れないことを確認したという。(平成17年8月29日 日本経済新聞)

総コレステロール値と心筋梗塞の発症とは無関係

血液中の総コレステロールの値は心筋梗塞(こうそく)を発症する危険性とほとんど関係がないとの調査結果を、青森県立保健大の嵯峨井勝教授(環境保健学)らが15日、東京都内で開かれた日本動脈硬化学会で発表した。関係するのは血圧や「善玉」と言われるHDLコレステロールの値だった。嵯峨井教授は「総コレステロールより血圧に注意し禁煙と運動で善玉コレステロールを増やすべきだ」と訴えている。同学会は、血液1デシリットル中の総コレステロールが220ミリグラム以上を「高コレステロール血症」と定め、心筋梗塞の可能性が高まるとして、喫煙者や45歳以上の男性、55歳以上の女性は220未満に抑えるべきだとの指針を発表している。220以上は全国で2300万人と推定されるが、今回の調査は指針に疑問を呈する形となった。嵯峨井教授らは、04年度に青森県内で健康診断を受けた40歳以上の男女1491人について、総コレステロール値やHDL、血圧、年齢、性別、喫煙の有無を調査。全国の男女5万人を6年間追跡して心筋梗塞の発症率を調べた別の調査と比較した。総コレステロールが260程度でも、大半の人の発症率は1%未満にとどまった。180程度でも、喫煙などの影響で同約5%に達する人もおり、総コレステロール値と心筋梗塞の発症率にはほとんど関係がなかった。(平成17年16日 毎日新聞)

ぽっくり病、食物の脂肪「燃えかす」が関与 

働き盛りの人が就寝中に突然、心不全で死亡する「ぽっくり病」の発症に、食物中の脂肪の「燃えかす」が関与していることが九州大と東海大などの共同研究で明らかになった。血液中にたまった「燃えかす」に、心臓の冠状動脈を激しくけいれんさせ血流を妨げる作用があることを、動物実験で確かめた。 ぽっくり病の予防につながる成果で、論文は米心臓病学会誌に掲載された。ぽっくり病は動脈硬化などの兆候のない20〜40代の人が、睡眠中に突然苦しみ出して死亡する病気で、アジア人の男性に多い。原因不明の奇病とされ、心臓が原因の突然死の1割前後を占めるといわれる。

東海大医学部の武市早苗教授(法医学)は、ぽっくり病の疑いのある約300人の解剖例を分析し、心臓の冠状動脈が激しく収縮したため心筋に血液が流れなくなったことが原因と推測した。死者は血中の「レムナントリポたんぱく(RLP)」値が高い傾向があった。RLPは脂肪やたんぱく質の固まりで、食物中の脂肪が分解される過程で生じる。 続いて、九州大の下川宏明助教授(循環器内科学)らは、ぽっくり病の死者の血液から抽出したRLPを含む成分と含まない成分をガーゼにしみこませ、ブタ6頭の心臓の冠状動脈の別々の部位に巻きつけた。1週間後、冠状動脈に軽い収縮刺激を与えたところ、6頭すべてでRLPを含む成分を作用させた部位だけが激しくけいれんして収縮し、心筋への血流が妨げられた。RLPの働きが生体内で確認されたのは世界で初めて。また、培養したヒトの血管細胞にRLPを加えたところ、筋肉を収縮させる働きのある酵素が増加することも確認した。研究グループは「血中の中性脂肪値の高い人は、この燃えかすが多い傾向があり、ぽっくり病予備軍と言えそうだ。暴飲暴食は控えた方がいい」と注意を促している。(平成16年5月5日 毎日新聞)

心筋梗塞・狭心症治療用溶出性ステント承認

心臓の血管にステント(金網状の筒)を置く心筋梗塞(こうそく)・狭心症治療では、再び血管が狭くなる再狭窄(きょうさく)が大きな課題だが、それを防ぐ薬剤溶出性ステントがこのほど薬事承認された。ステントに塗られた免疫抑制剤・シロリムスが血管壁に溶け出し、血管内の炎症を抑えることで再狭窄を防ぐ。半年以内の再狭窄率は、従来のステントが20〜40%なのに比べて、シロリムス溶出性ステントは、わずか0〜5%。 海外での評判を知り、バイパス血管を作る外科手術を控えて、新ステントの承認を待ってきた患者もいる。この治療に詳しい帝京大循環器科助手の上妻謙さんは「治療後の血管造影検査の回数が減り、患者さんの負担が少なくなる。保険適応される見通しの今年7月以降、一気に普及するだろう」と話している。(平成16年4月12日 読売新聞)

適度な飲酒は急性心筋梗塞にも有効

適度に飲む飲酒者は全く酒を飲まない人に比べて死亡リスクなどが少ないことが知られているが、急性心筋梗塞の予後についても同様のことが言えそうだ。欧州7カ国で心筋梗塞の発症者に対して行われた調査研究で、週に1〜7杯の適度な飲酒者は、非飲酒者に比べ、総死亡と心血管疾患死亡の相対リスクが25%前後低いことが判明した。 飲酒者にとっては朗報で、医師は大病したら禁酒・禁煙という常識的な指示を考え直した方がよいかもしれない。3月9日のポスターセッション「ケア成功における患者と医師の要因」で、ノルウェーRogaland中央病院のT. Brugger-Andersen氏らが報告した。

Brugger-Andersen氏らの研究は、急性心筋梗塞後に心不全、または左心室機能障害を有する欧州7カ国の患者5477人に対して実施されたロサルタンとカプトプリルの臨床試験OPTIMAALの一部として行われた。試験期間中、5477人のうち946人が死亡した。患者を開始時点の飲酒習慣によって、非飲酒者2160人、適度(週1〜7杯)飲酒者2753人、多量飲酒者(週に7杯を超える)545人に分類し、非飲酒者に対する総死亡、および心血管死亡の相対リスクを求めた。その結果、喫煙と年齢で調整した総死亡の相対リスクは、週1〜7杯の適度飲酒者で0.76(0.66〜0.88)で24%有意に低く、同じく喫煙と年齢で調整した心血管死亡の相対リスクも0.74(0.64〜0.87)で26%有意に低かった。 一方、7杯以上の多量飲酒者では、総死亡で1.01(0.79〜1.29)、心血管死亡では0.97(0.74〜1.28)で、非飲酒者と有意な差が見られず、アルコールの多量摂取が総死亡と心血管死亡に関する限り、対象患者ではリスク増大要因にならないことが分かった。適度飲酒による約25%の死亡リスク低下は心血管疾患のハイリスク群の予後においては無視できない結果と言えそうだ。今後、日本を含む他地域での研究が期待される。(平成16年4月3日medwave)

急性心筋梗塞の新治療法

京都府立医科大学の松原弘明教授らは14日、急性心筋梗塞の患者の大腿から採った血液中の細胞を心臓の動脈に注入し、心臓血管をよみがえらせる新しい治療法の臨床試験を始めたと発表した。骨髄の細胞を採る従来法に比べ、患者の肉体的負担を軽くできるという。

急性心筋梗塞で倒れた京都府在住の男性(46)の大腿から採った血液から「血管内皮幹細胞」という細胞を10億個取り出し、この患者の心臓の冠動脈にカテーテルで注入した。この細胞が患部で新たな血管を作り、心筋梗塞を治療できるという。骨髄から幹細胞を取り出して心臓の血管をよみがえらせる治療が国内外で始まっているが、患者に負担がかかる。大腿なら採血時の負担が軽く、国内で推定年間約10万人が発症する急性心筋梗塞の約1割に適用できるとみている。(平成16年2月15日日本経済新聞)

心筋梗塞治療、血管内でレーザー照射

慶応義塾大学の荒井恒憲教授と医療機器輸入商社の日本ライフラインは、血管内でレーザーを照射して心筋梗塞などを治療する新たな技術を開発した。照射によってごくわずかな時間発生した気泡が消滅する時の音の力で心筋こうそくの原因となる血管の狭さくを防ぐ。既に動物実験で効果を確かめており、2―3年後の実用化を目指す。 レーザー治療で一般に使うレーザーをカテーテル(細管)の先に取り付け、血管内で照射し、1000分の1秒だけ水蒸気の気泡を発生させる。気泡が壊れる際に出る音響波が血管内の細胞を傷つけ、細胞増殖を抑える結果、再狭さくが起こりにくくなる事実をつかんだ。照射は1カ所当たり20秒程度。(平成16年1月5日 日本経済新聞)

骨髄の幹細胞で心筋再生

心筋梗塞など重症の心不全患者を対象に、患者の骨髄から取り出した「間葉系幹細胞」と呼ばれる細胞を使って心筋を再生させる新しい治療法を、国立循環器病センター(大阪府吹田市)が始める。心筋の再生に骨髄の幹細胞を使うのは初めて。同センターの倫理委員会で承認された。

治療チームは、患者の骨盤から骨髄を採取、間葉系幹細胞を培養し、心臓の壊死(えし)した部分の周囲に直接、管を使って移植する。患者自身の細胞を使うので拒絶反応の心配はない。ブタを使った実験では心筋だけでなく血管もでき、心機能が1―2割改善した。

まず20人を治療し、効果を確かめる。 骨、神経など様々な細胞になる可能性がある間葉系幹細胞は再生医療に応用できるとして注目を集めている。同様の可能性を持つ胚性幹細胞(ES細胞)が受精卵を壊して作るのに比べ、倫理面の問題も少ない。だが、骨など心筋以外の細胞になる可能性もあり、永谷室長らは、患者へのインフォームドコンセント(十分な説明と同意)を徹底し、治療を慎重に進める。(平成15l年11月25日 読売新聞)

重度の狭心症、注射で血管再生

手術が難しい重度の狭心症患者に対して、血管の細胞に変化できる骨髄中の「幹細胞」を増やす薬物を注射し、心臓の血管を再生させることに、岐阜大大学院再生医科学循環器内科の藤原久義教授、荒井正純講師、鈴木幸二医師らの研究グループが成功した。同グループは12日、米国・オーランドで開かれている米国心臓協会の年次学会でこれらの成果を発表した。

狭心症は日本人の心臓病の中で最も多く、年間十数万人が、カテーテル(細い管)を入れて風船のようなもので血管を広げたり、バイパス手術をしたりする治療を受けているという。 研究グループの藤原教授は「薬物投与は注射だけで済み負担が小さい。手術などの治療が困難な患者さんに対する新たな治療法として期待できる」と話している。

「幹細胞」は旺盛な増殖能力があり、いろいろな細胞に変化することができる。これまでの研究では、血管などが壊れると、血液中に流れ出た幹細胞が血管細胞に変化して再生することがわかっている。 藤原教授らのグループは、心臓の血管が狭まり血流が悪くなる狭心症の治療に、この仕組みが応用できるのではないかと着目。 

「G−CSF」(顆粒(かりゅう)球コロニー刺激因子)という薬を使って再生を促進し、狭まった血管の周辺にある毛細血管を増やして血流を改善することを考えた。 昨年から岐阜大付属病院で臨床試験を実施し、手術が難しい重度の狭心症患者15人にG−CSFを注射したところ、ほとんどの患者で血流が回復し、症状の改善が確認されたとしている。 再生医療に詳しい関西医科大学再生医学難病治療センターの池原進センター長は「幹細胞を薬で増やす方法は、患者の負担が少ない。 今後、効果を見極めていく必要がある」と話している。(平成15年11月13日 朝日新聞)


拡張型心筋症、自己免疫疾患の可能性

京都大大学院医学研究科分子生物学教室の岡崎拓助手と本庶佑(ほんじょたすく)教授らの研究グループが、心筋細胞でたんぱく質の抗体が作られてしまう免疫異常が拡張型心筋症を引き起こすことを、マウス実験で突き止めた。ヒトの拡張型心筋症は原因不明で、根治法は心臓移植しかないのが現状。同症が、自分の体を免疫機能が攻撃してしまう「自己免疫疾患」である可能性を示す研究成果で、発症の仕組みの解明や治療法開発につながると期待される。3日、米医学誌「ネイチャー・メディスン」で発表される。

同症は、心室が拡大し、血液を送り出す心臓の収縮力が低下する難病。動悸(どうき)呼吸困難、不整脈などを起こす。ウイルス感染などの関与も指摘されている。国内の患者は数万人いると言われる。研究グループは01年、免疫反応を抑制するたんぱく質「PD―1」を作れないマウスが、同症を起こすことを発見した。今回、マウスの心筋の表面に付着していた抗体を詳しく調べたところ、心細胞にある「心臓型トロポニンI」というたんぱく質に対する抗体と判明。この抗体を同症でないマウス与えると、心臓が通常の約3倍に肥大し、やはり同症を起こすことが分かった。

さらに、抗体を心筋細胞に加えると、筋肉を収縮させる電気信号の異常が発生することが確かめられた。研究グループは、免疫機能が過剰に作用して抗体が作られ、心筋が収縮異常を起こし、心臓の力が弱まると推測している。本庶教授は「拡張型心筋症の原因は、免疫だけでなく多くあると考えられるうえ、あくまでマウスでの結果だが、ヒトでも同じ抗体が原因とすれば診断や治療の可能性が開ける」と話している。(平成15年11月3日 毎日新聞)

心筋梗塞後も禁煙で冠動脈改善

心筋梗塞(こうそく)になった人でも、禁煙することにより、心臓に栄養などを送る冠動脈の機能が、比較的短期間に改善することが、徳島赤十字病院循環器科の細川忍副部長らの研究で明らかになり、このほど開かれた日本心臓病学会で発表された。動脈硬化が進んだ人でも、禁煙が効果的であることが示された。 たばこを吸うと、ニコチンや一酸化炭素の影響で動脈硬化が進み、心筋梗塞などの危険が高まることが知られる。だが、禁煙によって冠動脈の機能がどう変化するか調べた研究はこれまでほとんどなかった。 細川副部長らは、急性心筋梗塞で病院に運ばれ、手術が成功した53人(平均年齢63歳、うち男性38人)について、手術1か月後と6か月後の冠動脈内皮の機能を調べた。 血管の収縮具合を調べる検査では、発症まで喫煙し、その後に禁煙した35人は、1か月後では、喫煙したことのない18人に比べ機能が明らかに劣っていたが、6か月後にはその差が縮まった。 細川副部長は「退院後、再び喫煙し始める人も多い。今回のデータなどを基に禁煙の重要性を訴えていきたい」と話している。(平成15年9月16日 読売新聞)

シンバスタチンが慢性心不全に有効と発表

佐賀医科大の野出孝一教授(内科学循環器部門)は19日、万有製薬主催のセミナーで、高脂血症治療薬シンバスタチン(製品名「リポバス」)が慢性心不全に有効であることを示す試験結果を発表した。慢性心不全は、ACE阻害薬やβ遮断薬などで治療されているが、十分に治療しきれていない現状がある。野出教授は、ACE阻害薬などとシンバスタチンを併用することで、症状を改善できると説明した。(平成15年8月21日日刊薬業)

人工遺伝子で血管のつまり防止治療

東京医科歯科大学の磯部光章教授らは9日、心筋梗塞(こうそく)の患者の心臓の血管に人工の遺伝子を入れて、血管のつまりを防ぐ治療を6日に実施したと発表した。人工遺伝子を使った心臓病の治療は世界でも初めてという。患者は40歳代の男性。心筋梗塞で過去6年間に心臓の血管を広げる手術を二回受けたが、冠動脈が狭くなる再狭さくを繰り返していた。今のところ患者に副作用はなく数日中に退院できる見通し。磯部教授らは血管を狭くする働きを持つたんぱく質「NFκB」に付着して作用を止める人工のDNA(デオキシリボ核酸)を、血管の拡張手術後に患者の右手首から管を通して心臓の血管壁に注入した。血管の再狭さくは血管拡張手術の際に生じた傷が原因で起こる。同教授は「注入した遺伝子が約1カ月間働けば再狭さくは防げる」とみている。心筋梗塞や狭心症がもとで血管を膨らます手術を受けている患者は国内で約12万人。約20%が再狭さくで再手術を繰り返すが有効な治療法がない。(平成14年12月9日 日本経済新聞)

「増えぬ」心筋、増殖に成功

心臓にある心筋細胞はなぜ増殖しないのか、その仕組みの一端を突き止め、遺伝子に手を加えて増殖させることに、東京医科歯科大の安達三美(みみ)助手、池田正明・助教授が動物実験で成功した。29日、米医学誌サーキュレーション・リサーチのオンライン版で発表する。心筋梗塞(こうそく)などで死滅した患部を再生させる治療に役立ちそうだ。 安達さんらによると、ほとんどの細胞にある増殖を促すたんぱく質「サイクリンD1」は、心筋細胞でも見つかった。ところが、このたんぱく質は細胞核の中に入らないと機能を発揮しない。心筋細胞では核外にしかなく、機能しないことがわかった。 そこで、心筋細胞の遺伝子を改変し、ある種のたんぱく質が持っている核の中に入る「カギ」物質をサイクリンD1に付け加えた。ネズミの心筋細胞にこの改変を加え、試験管内の培養液中に5日間置いたところ、約3倍まで増やすことができた。また、改変遺伝子を心臓に入れ、心筋が増えることも確認した。 胚(はい)性幹(ES)細胞や骨髄の細胞をもとに心筋細胞をつくり出す研究も進んでいる。こうした細胞の増殖能力を高めるときにも、今回の手法が使えそうだ。 池田さんは「心筋が増えない仕組みを完全に解明できれば、その仕組みを解除して心筋を再生させる薬をつくることも可能だ。次は、サイクリンD1が細胞核の中に入るのを邪魔しているのは何か、突き止めたい」と話す。(平成14年11月29日 朝日新聞)

心筋梗塞の発症率高める遺伝子

心筋梗塞(こうそく)の発症の危険を高める遺伝子を、東京大医科学研究所の中村祐輔教授、理化学研究所の田中敏博チームリーダーらが突き止めた。発症にかかわる遺伝子を大規模な研究で明らかにしたのは初めて。 研究チームは、遺伝子の個人差(SNP)を約6万5000か所にわたり、心筋梗塞の患者と一般の人で比較。大阪大の堀正二教授らから提供を受けた1133人の患者サンプルと、1879人の一般集団を対象にした研究で、「リンフォトキシンα」と呼ばれる遺伝子の微妙な違いが、発症の危険を約1・8倍高めることが分かった。 この遺伝子は、血管で起きる炎症にかかわっていると見られ、過度の炎症が動脈硬化を悪化させ、心筋梗塞につながるらしい。(平成14年11月26日 読売新聞)

「心室細動」スポーツ中に突然死、年齢問わず高い危険

高円宮さまがスカッシュ練習中に急逝された原因とされる心臓疾患は、年齢にかかわらず運動中の突然死をもたらす危険性が最も高い。最近の調査では、突然死の前から心臓の機能異常があったと疑われる例が9割に及び、スポーツ熱が中高年層まで広がる中、専門家は日ごろの健康管理などが重要と呼び掛けている。 スカッシュは、テニスコートの4分の1ほどの広さの四角い部屋で2人―4人のプレーヤーが壁に向かって小さなボールを交互に打ち合う。上級者のボールは時速200キロ・メートルに達し、息つく暇もなく室内を駆け回る。運動量はテニスの2倍ともいわれ、選手の心拍数は毎分180を超えるとの研究報告もある。こうした激しい運動による心臓への負担は大きい。しかも発作が起きると深刻だ。 国立循環器病センター(大阪府吹田市)の北村惣一郎総長は、「運動中などに突然、心肺停止を起こした人の蘇生(そせい)率は1割以下に過ぎない」という。患者は、心筋に血液を送り出す左冠動脈が血栓で詰まっていることが多い。左冠動脈が詰まると、心臓が細かくけいれんして血液を送り出せなくなる心室細動へと至る。 高円宮さまの急逝の原因とされる心室細動も、これと同じ経過かどうかは不明だが、激しい運動で大量に汗をかくと血液の粘度が高まり、血栓ができるリスクは大きくなると、北村総長は警告する。高田明和・浜松医大名誉教授(血液生理学)も、「極度の緊張状態が続いたり疲労がたまったりすると血栓ができる原因となる」と話す。 ただ突然死では、もともと心臓に異常を抱えていた例も少なくない。東京都監察医務院が先月公表した調査結果によると、運動中に突然死した約220人(平均35歳)は、約9割に心臓肥大や、心臓に栄養を送る冠状動脈の硬化が見られた。突然死は、ほとんどが心臓の機能低下に気付かず、激しい運動をしたことが原因というわけだ。北村総長も「運良く生還した患者の多くが、心肺停止に陥る前に、胸の不快感など何らかの予兆を感じたと証言している」と話す。 スカッシュだけでなく比較的安全に見えるゴルフでの死亡例も年間200人に及ぶとされるだけに、北村総長は、「心電図でわかる心疾患も多い。特にスポーツに親しむ人は、日ごろから検診を受け、運動中は、血液の粘性を抑えるため水分を多く取るといった予防措置を心がけるべきだ」と呼びかける。高田教授は「仕事などでストレスや疲れがたまっている時に気分転換のつもりで激しい運動をするのが一番危
ない。無理は禁物」とアドバイスする。 一方で、石川恭三・杏林大名誉教授(循環器内科)は、「(高円宮さまは)十分に健康管理をされていただろうから、心臓の持病を見逃して、激しい運動をしていたとは思えない」と心臓の機能低下以外の原因も指摘。「心拍が早く打つ期外収縮という不整脈は珍しくない。心臓は常に興奮と回復を繰り返しているが、十分に回復していないところで、偶然、期外収縮が重なって心室細動を引き起こしたまれなケースということも考えられる」と話した。(平成14年11月22日 朝日新聞)

心筋梗塞の発症率が2倍になる遺伝子発見

心筋梗塞(こうそく)になる危険率が2倍近くに高まる遺伝子のタイプを、理化学研究所と大阪大のグループが見つけた。遺伝子の微妙な個人差であるSNP(1塩基多型)を調べ上げる政府のミレニアムプロジェクト(00年開始)の一環。11日付の米医学誌ネイチャーメディシン(オンライン版)に発表した。 日本人のゲノム(全遺伝情報)解析で洗い出した約9万3000個のSNPの中から見つけた。 心筋梗塞の患者1133人と非患者1006人を比べ、リンホトキシンAというたんぱく質を作る遺伝子の2個のSNPで、明白な差が判明。いずれかの変異を持つと、発症の危険が1.8倍になることがわかった。 培養した血管平滑筋にこの変異があるリンホトキシンAを加えると、炎症反応に影響する細胞接着因子の生産が増えた。田中敏博・同研究所心筋梗塞関連遺伝子研究チームリーダーは「この変異が、冠状動脈内の炎症にかかわっているのではないか」としている。(平成14年11月11日 朝日新聞)

FDAが心室拍動の調整機能を備えた埋め込み式心臓除細動器を承認

米国食品医薬品局(FDA)は5月2日、心室拍動の調整機能を備えた、埋め込み式心臓除細動器「Contak CD CRT-D」 を承認した。除細動器が必要な、重度心不全の患者が対象となる。Contak CD CRT-Dは、従来の除再動器に加え、再同調治療(cardiacresynchronization therapy ;CRT)を行う機能を兼ね備えたもの。除細動器を必要とし、心不全の治療薬を服用しているにもかかわらず、疲れや息切れなどといった症状をする人に効果があるという。708人の患者を対象にした治験では、その半数に除細動器のみを、残りの半数に除細動器とCRT機能の両方を備えた器具を取りつけた。それぞれ6カ月追跡した結果、Contak CD CRT-Dが安全で、効果的に心室拍動を調節することがわかったという。また、CRT機能を備えた器具を用いた群では、対照群に比べ、生活の質(QOL)と運動機能が向上したという。なお、生存期間への影響は明らかではなかった。(平成14年5月9日medwave)

魚食べて心臓病を防ごう 

リスク軽減効果、米で発表魚を食べる回数が多い人ほど、心筋梗塞(こうそく)などの心臓病になりにくいことが、米国の二つの大規模長期調査で確かめられた。ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)など、魚に多い不飽和脂肪酸には動脈硬化を防ぐ効果があるとされているが、それを裏付ける結果だ。ハーバード大のグループは80年から、女性看護師約8万5000人の生活習慣を追跡調査。動脈硬化による心臓病にかかる率は、魚を食べる回数が月に1回未満の人たちが最も高かった。この人たちに比べて、月1〜3回なら21%、週1回なら29%、週2〜4回なら31%、週5回以上なら34%、それぞれリスクが減っていた。生死にかかわるような重い心臓発作の危険率ではさらに差が大きく、週5回以上の人たちでは45%も危険率が低かった。もう一方のボストンの婦人病院グループは82年以来、男性医師約2万2000人を追った。心臓発作で突然死する危険性は、魚を習慣的に食べる医師では81%も低かった。DHAやEPAは、脂がのったマグロやブリなどに多く含まれる。食べる魚介類の種類から、魚特有の不飽和脂肪酸の摂取量を推定すると、摂取量が多いほど、効果が大きかった。米医学会誌10日号とニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン11日号に論文が掲載された。(平成14年4月10日 朝日新聞)